上級統計学(2006) 積率 E ( X k ) をXのk次積率という。 平均は1次の積率である。 分散は2次積率(原点周りの2次積率)から1次積率の2乗を引いたものに等しいが,X − E ( X ) をXを平均周りに 変換する1次変換とすることで,平均周りの2次積率といえる。 以下,一般に E{ X − E ( X )}k を平均周りのk次積率と呼ぶ。 積率についての重要な性質 平均周り2次の積率は「散らばり」を表すものとして知られている。 その2分の1乗である標準偏差の何倍であるか,で表すと散らばりを標準化できる。 では,3次以後はどうだろうか。 奇数次では平均より小さい側は負で評価されるから,記号には意味がある。また次数が大きいほど,より 平均からの距離が大きいものを重大に評価することになる。 3次では,平均より大きい側,つまりは「およその中心」よりも右の側がより離れたところまで分布が長く 伸びている形かどうかがわかる。プラスの値になるほど中心は左寄り,裾は右伸びである。こういう分布を 右にひずんだ分布という。 4次では「中心付近への集中によって,より離れたところへわずかに分布することを打ち消す力」が2次に 比べると弱く計測される。逆に言えば,この値は,裾の端の方で厚みがあると急速に大きくなる。こういう 分布では全体の形を見るとより中心付近の傾きが急に見えて,とがっているように見える。これを尖り(尖度) で表す。 歪度=平均周りの3次モーメント/(標準偏差の3乗), 尖度=平均周りの4次モーメント/(標準偏差の4乗) ついでに同じように1次2次のモーメントも平均周りに標準化すると,これは定義からそれぞれ0,1となる。 歪度は正負でひずみの向きが,絶対値でひずみの大きさが表される。尖度は正規分布で3であるので,これが 一つの基準になっている。 また,どのような分布に従っているかを確認する上で, 「無限次までの積率が等しいとき,二つの分布は一致する。」 という性質は重要である。 積率母関数 X を確率変数とし,θ を任意の実数とするとき,eθ X の期待値 E (eθ X ) を X の積率母関数といい,M X (θ ) と書く。 期待値の性質を思い出して, 21 上級統計学(2006) 離散型確率変数では, M X (θ ) = E (eθ X ) = ∑ eθ X p ( X ) 連続型確率変数では M X (θ ) = E (eθ X ) = ∫ eθ X f ( x)dx となることを確認しよう。 eθ X を θ x で微分すると eθ X となることに注意して, eθ X をマクローリン展開すると, eθ X = 1 + θ x (θ x) 2 1! + 2! (θ x)3 (θ x) k + .... + + ... 3! k! + 連続型について,積分が存在すれば E (eθ X ) = ∫ f ( x)dx + ∫ θ xf ( x)dx + = 1+ θ E( X ) + ∞ =∑ k =0 θ θ2 2! E( X ) + 2 1 1 1 (θ x) 2 f ( x)dx + ∫ (θ x)3 f ( x)dx + ... + ∫ (θ x) k f ( x) dx + ... ∫ 2! 3! k! θ3 3! E ( X ) + ... + 3 θk k! E ( X k ) + ... k k! E( X k ) ここで各項はk次積率 E ( X ) を含んでいる。 θ で1階微分して θ =0とおくと, k ∂M X (θ ) |θ =0 = E ( X ) ∂θ 同様に, θ でk階微分して θ =0とおくと, ∂M ( k ) X (θ ) |θ =0 = E ( X k ) ∂θ となり,k次積率を得ることができる。 積率母関数には,次の性質がある。 1. 一つの積率母関数からは1つの分布関数が得られる。 2. 一つの積率母関数が第二の積率母関数に近づくならば,分布関数もまた第2の積率母関数に近づく。 練習 2項分布の積率母関数を求め,それを利用して平均と分散を求めよ。 22 上級統計学(2006) 注:マクローリン展開 関数のべき級数展開 多項式 f ( x) = a0 + a1 x + a2 x 2 + ... + an x n を f ( x) = b0 + b1 ( x − a) + b2 ( x − a) 2 + ... + bn ( x − a) n の形に書き直すことができる。これが n 次まで微分可能であるとき,順に微分して, f ( x) = b0 + b1 ( x − a) + b2 ( x − a) 2 + ... + bn ( x − a) n f '( x) = b1 + 2b2 ( x − a) + 3b3 ( x − a) 2 + ... + nbn ( x − a) n −1 f (2) ( x) = 2b2 + 3 ⋅ 2b3 ( x − a ) + ... + n ⋅ (n − 1)bn ( x − a) n − 2 ....... f ( k ) ( x) = k ⋅ (k − 1) ⋅⋅⋅ 3 ⋅ 2 ⋅1bk + ... + n ⋅ (n − 1) ⋅⋅⋅ (n − k + 1)bn ( x − a) n − k ....... f (n) ( x) = n ⋅ (n − 1) ⋅⋅⋅ 3 ⋅ 2 ⋅1bn これらの式で x に a を代入すると f (a) = b0 , f '(a) = b1 , f (2) (a ) = 2b2 ,..., f ( k ) (a) = k !bk ,..., f ( n ) (a) = n !bn となる。すなわち f ( x) = f (a) + f '(a)( x − a ) + f (2) (a ) f ( k ) (a) f ( n ) (a) ( x − a) 2 + ... ( x − a)k + ( x − a)n k! n! 2 テーラーの定理 f ( x) が x = a の近傍で微分可能なら,一般に式 f ( x) = f (a) + f '(a)( x − a ) + f (2) (a ) f ( k ) (a ) f ( n ) (c ) ( x − a )2 + ... + ( x − a) k + ... + ( x − a)n 2 k! n! ただし最後の項は剰余項で,c は x と a の間。 テーラー展開とマクローリン展開 剰余項が n → ∞ の時に 0 に収束すれば, f ( x) = f (a) + f '(a)( x − a ) + f (2) (a) ( x − a) 2 + ... 2 と無限べき級数に展開できる。 特に a = 0 の時, f (2) (0) 2 f ( x) = f (0) + f '(0) x + x + ... 2 となり,マクローリン展開という。 23
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