高分解能 CT を用いた末梢肺野の描出力 - 日本放射線技術学会 近畿部会

日本放射線技術学会近畿部会雑誌
平 成 16 年 度
夏季セミナー
第10巻3号
テーマ:知ってるつもり?肺疾患の撮像技術
−画像診断からみたモダリティごとの限界と挑戦−
「高分解能 CT を用いた末梢肺野の描出力」
藤田保健衛生大学病院
放射線部
井田義宏
くく. 高コントラスト分解能 (空間分解能) 重視の領
はじめに
ヘリカルスキャンの実用化にともない CT 検査は高
速・高分解能化に進歩してきた. マルチスライス CT
域となる. 今回は断層面方向と体軸方向の MTF より
肺野の描出力を推測する.
も多列化しており, 現在当院では 0.5mm×32 列収集
の装置が稼動している. この装置では 0.5mm の収集
肺野用再構成関数
で全肺野が一呼吸で収集可能である. 今回, 現状の
再構成関数は, 断層面方向の画像の周波数特性を変
CT の分解能に基づく末梢肺野の描出力を考察してい
更できるパラメータである. 東芝の例では肺野で用い
く. 本稿のデータは当院のマルチスライス CT:東芝
られる関数は軟部組織の関数より高周波数まで表示で
Aquilion16 のものである.
きるものを使用するが, 極端に周波数を強調しすぎた
関数 (FC31, FC81 ) は血管などの辺縁にアンダー
シュートの偽画像を生ずるので好ましくはない. 当院
肺野の描出力の物理特性からのアプローチ
肺野の構造は空気と実質の非常にコントラストの高
い部分である. したがって, 画像ノイズに影響されに
では FC30 を使用しているが, 他に FC50, FC51 な
ども使用可能である (Fig.1).
胸部用関数
高精細関数
Resolution (lp/cm)
Resolution (lp/cm)
耳・骨用関数
Resolution (lp/cm)
(Fig.1)
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(Fig.2)
スライス厚
実際に 0.5mm で収集した画像から, 2mm, 1mm
0.5mm のスライス厚で再構成した画像では, スラ
イス厚が薄くなるほど微細な構造が描出されるものの,
末梢構造の描出にはいまだ不十分である (Fig.2).
スライス厚の均一性
16 列以上に多列化されたマルチスライス CT では,
体軸方向の X 線束の広がり (コーン角) を補正する
(Fig.3)
再構成アルゴリズムが採用されている. このアルゴリ
ズムで再構成すると, FOV 中心部分と FOV の辺縁
MPR の解像特性
部分でのスライス厚の差がほとんどなくなり, 定量や,
CAD などにも有利になると予想される (Fig.3).
X-Y 方向から Z 方向に連続で角度の変化するラダー
ファントムをスキャンし, 各ラダーに直交する MPR
画像を作成した (Fig.4,5).
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結
第10巻3号
果
通常使用している軟部組織用の関数では体軸方向の
解像力が勝っている. 高精細用の関数を使用すると,
ほぼ Isotropic
Resolution となる (Fig.6).
ラダーに直交するように MPR 作成
(Fig.6)
MTF から肺野の描出力を推測する
MTF は空間周波数の最低の部分で1となる. とい
うことは例えば気管をターゲットとした場合内腔は
CT 値−1000HU であり気管壁は数十 HU であるので,
肺の解像力モデルとして, MTF カーブの1の部分を
1000HU と読み代える. すると 0.5mm の内腔を見る
(Fig.4)
場合この例のカーブでは, 0.5mm=1 lp/mm なので
MTF は 0.17 したがって CT 値差は 170 となる. ここ
に画像ノイズが 2SD 以下であれば認識可能と仮定す
ると, 80 程度の CT 値の変動 (画像ノイズ) で抑え
れば, 画像コントラストとして表現される. このよう
0
15
30
45
な考え方で, 実機の断層面方向 (X-Y) と体軸方向の
FC81
60
75
90
0
15
30
45
FC10
60
75
90
(Fig.5)
(Fig.7)
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MTF より理想的な解像特性は推測できる. 現実には
ラスト領域の肺・骨などの描出能を推測するために重
アーチファクトなどによりこの推測されたデータより
要である. 空間分解能以上のものは正確に表現されな
は劣化するとは思われる (Fig.7).
いので撮影条件を決定する際の参考となるであろう.
また, 今後おとずれるMPR 診断においては Isotropic
Resolution になることが重要で, どの方向からも歪
微小物体描出脳に関するシミュレーション
仮想物体に対して再構成関数を変えた場合に変化す
以上のマルチスライス CT であれば容易に達成できる.
る感度プロファイルを計算した.
(資料提供:名古屋市立大学病院
みなく観察できることが要求される. これは, 16 列
ただし, 肺の末梢構造 (Fig.9) は 0.5mm 以下の構
市川勝弘氏)
今回計算に使用した再構成関数4種類の MTF を
造物を再現できることが望ましいが現状の装置ではま
Fig. 8 に 示 す . 仮 想 物 体 は , 0.5mm φ で CT 値
だ不十分である. ハードウエアの改善では一部の装置
では検出器の開口径を小さくし, 空間分解能を向上さ
せる手段をとっているものもある. 今後も装置の開発
により性能がよくなれば描出限界も変化するので,
MTF などの手段で常にチェックをしていくことも重
要と考えている.
(Fig.9)
(Fig.8)
1000HU とした.
解像特性のよい関数 a でも CT 値は 70%程度減少
し, ノイズ特性を重視した関数dでは 90%も CT 値
が低下する. 元来 CT 値差の大きい肺野内の構造では
空間分解能重視の関数が用いられるが, 実際の肺野で
見たい 0.2mm 以下の構造物は, 現在の CT 性能では
困難といえる.
まとめ
使用装置の空間分解能を知っておくことは高コント
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