インターセクション - タテ書き小説ネット

インターセクション
usk
タテ書き小説ネット Byヒナプロジェクト
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︻小説タイトル︼
インターセクション
︻Nコード︼
N6770BE
︻作者名︼
usk
︻あらすじ︼
生まれながらにして類まれなる美貌を持つ祥子。
生来の不運で事件を呼び寄せてしまう啓一。
夜の闇に祈りを口ずさむ士郎。
別々の場所でそれぞれ違う人生を生きる三人。本来交わることのな
い三人の人生が連続殺人をきっかけに交差する。その時に見える真
実とは?
1
メデューサの瞳
﹁その目で睨むなよ⋮⋮怒ってんのか?﹂
体を硬直させて顔を青くする三年来の友人は吸い込まれる様に祥
子の目を見つめていた。
知らず知らずのうちに目に力が入っていた事に気付き、祥子は目
線をはずした。時折この力が面倒くさくなる。
祥子が自分の持つ不思議な視線に気づいたのは五歳の頃だった。
初恋の男の子を見つめていた時に﹃目つきが怖い﹄と泣かれた事が
きっかけだった。それ以来初恋の男の子に避けられ、自分には恋が
出来ないのだと、若干五歳にして達観するに至った。
相手の眼を見つめると、それが誰であれ恐怖させることのできる
視線。なぜ自分がこの力を持って生まれたのかは分からないが、望
んで得た力ではない為、便利な半面、煩わしくもあった。
﹁そんなに怒る事無いだろ。俺はお前の事心配して言ってるんだぞ﹂
と口をとがらせる岩崎拓実はグラスの中で氷の解けたウイスキーが
泣いている事も忘れている。
﹁別に怒ってはいないけど⋮⋮まぁ、あたしを怒らせそうな事をと
うとうと喋るお前が悪い﹂
岩崎を横目でちらりと流して、吉田祥子は不敵に笑う。
住み慣れた我が家のように落ち着く狭いバーは、いつものように
常連の岩崎と祥子の独壇場だった。このやかましい男は店内を心地
よく流れるジャズのメロディーを遮る事に必死なのかと思うほどに、
喋っている。時折カウンターの奥に居るマスターを巻き込みながら、
その内容は恐ろしく空っぽだった。
2
﹁最近全然やってねぇンだろ? このままじゃお前、老けて行く一
方だぞ、タイムリミットだよ、タイムリミット。カウントダウンは
じまってるんだよ。もっと焦ったりしろよ﹂
﹁失礼な奴め﹂祥子は苦笑する。
﹁岩崎君、女性にその発言は良くないよ﹂
マスターは顔に似合わない落ち着いた声で岩崎をたしなめた。
﹁こいつに失礼もクソもあるかよ。マスターだって知ってるだろ?
こいつ今年三十三になるんだぞ。いつまでも彼氏の一人も作らな
いで、このままじゃせっかく美人に生まれたって宝の持ち腐れだ﹂
﹁あんたに言われたくないね。お前だってつい最近じゃないか、彼
女作ったの。それまで散々遊んだくせに﹂
﹁自分が美人だってことは、さりげなく認めるんだなお前ってやつ
は。﹃自分は恋愛に興味無い﹄なんて言って、そんな言い訳通用す
る歳じゃねぇンだぞ﹂
﹁あんた⋮⋮殴られたいの?﹂歯に衣着せぬ物言いに祥子は頭を抱
えた。
﹁おお?﹂殴られると勘違いした岩崎は一瞬身構えると﹁ホントの
ことだろうよ﹂とほんの少しだけ小声になった。
﹁そう言えば、知ってる?﹂祥子の空になったグラスを回収し、マ
スターが新しいカクテルを差し出す。何も言わなくても、こうして
マスターは気を効かせてくれる。しっかりと料金は取られるが。
﹁最近この辺で変死体が相次いで見つかってるんだ。祥子ちゃんも
気をつけた方がいいかもね﹂
﹁ああ、最近週刊誌で散々騒いでるやつな﹂岩崎が思いだしたよう
に、もう五人くらい被害にあってるらしいな、と顔を歪めた。
﹁ここ三カ月くらいだよな、その事件が起き始めたのって﹂
﹁そうなんだよ。頻繁に発生してるのに、まだ犯人の手掛かりすら
見つかってないらしいんだ﹂
﹁まぁ、あたしには関係の無い話だな﹂
3
世間を騒がせている事件など祥子には全く興味がなかった。被害
にあった者たちに同情はするが、﹁だから何?﹂と思うだけだ。こ
の広い街で、自分が殺人犯に遭遇する確立なんて、皆無に等しい。
﹁気をつけろって言ってんだよ。お前だって一応女なんだからな﹂
﹁御心配痛み入るわ。その気持ちだけはありがたく頂いておくよ﹂
祥子が軽く岩崎を睨む。すると途端に岩崎の動きが止まる。
﹁その目をやめろよな⋮⋮﹂
体を硬直させて、かろうじて岩崎が声を出すのを見て、祥子は口
元にかすかな笑みを浮かべた。この力のおかげで、大抵の事は何と
かできる自信が祥子にはあった。
﹁祥子ちゃんは不思議な眼差しを持ってるよね。俺も経験あるけど、
その目で睨まれると体がすくんじゃうんだよな。その目があれば大
丈夫だと思うけど、用心に越したことはないからさ﹂
苦笑しながらマスターは祥子ちゃんが来なくなったら、うちは店
をたたむしかないからね、と厳つい顔に似合わないウインクをした。
﹁ありがとう、気をつけるよ﹂
﹁なんなんだよ、その目。お前は﹃メデューサ﹄かってんだ﹂深く
息を吐きながら、苦々しげに岩崎は祥子を見つめた。
﹁それはほめ言葉かしら? ﹃メデューサ﹄は海神﹃ポセイドーン﹄
と交わる前は絶世の美女だったのよ﹂
﹁言ってろ、バカ﹂
﹁三浦にでも護衛してもらえよ﹂すっかり氷の解けたウイスキーを
煽りながら岩崎はつまらなそうに言った。﹁あいつは正義感の塊み
てぇなもんだろ﹂
岩崎がウイスキーのお代わりを頼むのと同時に、入口のドアベル
が鳴った。すかさずマスターが挨拶をする。
﹁いらっしゃいませ﹂
﹁ほら、噂をすればなんとやらだ﹂
﹁正義感の塊さんのお出ましか﹂
4
入口には鳩が豆鉄砲を食らったような顔で三浦が立っていた。
﹁あの、何の話ですか?﹂
﹁得意の空手で大事な先輩を守ってやれって話だ﹂
訳がわからない、といった困惑の表情を浮かべながら三浦は祥子
の隣に座る。
﹁今話題の連続殺人の話だよ﹂マスターがグラスを寄越しながら言
った。グラスにはすでに三浦の好きな酒が入っている。
﹁ああ、無差別に殺されてるってやつですよね。知ってます、知っ
てます。それと吉田さんと、どういう関係があるんですか?﹂
﹁あたしとお前で捕まえるってことさ﹂
祥子は冗談のつもりで言ったが、予想に反して、三浦が﹁なるほ
ど、僕と吉田さんならやれそうですね﹂と同意した。この反応には
さすがの祥子も驚きを隠せなかった。
﹁あんた、本気で言ってる? 一度死にかけたやつのセリフとは思
えないな﹂
﹁そんな昔の事蒸し返さないでくださいよ。もうあんなミスしませ
んよ。やりましょうよ。これ以上犠牲者を出さない為にも﹂
﹁出たよ。正義感の塊発言﹂岩崎が茶化す。﹁バカな事言ってんじ
ゃねぇよ。そういう事は警察に任せてろって﹂
﹁君子危うきに近寄らず、だよ三浦。わざわざ危険を冒してまであ
たし達がすることじゃない﹂
放っておいたら本気でやりかねない三浦をたしなめる。三浦は意
地を張る子供のように﹁やれると思いますけど﹂と少しだけごねて
いたが、時間が経つにつれ、仕事の愚痴や、三浦の恋人の話に、こ
の話題は埋もれて行った。
自分の眼に宿る不思議な能力を使うはめになったのは、三浦の正義
感を久しぶりに目の当たりにした晩から、三日後の事だった。
この時、まさか自分が冗談で言った事が現実になるとは、祥子は
5
もちろん、三浦でさえ思ってもいなかった。
6
道端の草
﹁高橋君はさ、焦らないのが良いよね﹂
頭の中で以前黒田に言われた言葉が響いた。あれは確か黒田が恋
人と別れた直後の会話だっただろうか。
﹁俺なんかはさ、一か月彼女がいないだけでもう不安になっちゃう
んだよな。いつも誰かがそばに居ないとさ、こう、なんていうかな、
居心地が悪いんだよ。そんな俺から見たら十年以上も彼女を作ろう
としない高橋君はさ、すごいなぁと思うわけよ。全然焦ってないも
んね﹂
焦らない? この状況を前にして焦らない人間がいるのだろうか?
こんなことなら寄り道せずにそのまま店に帰っていればよかった、
と高橋啓一は後悔した。昼下がりのコンビニ店内で、啓一を含めた
数人の客達は戦々恐々としていた。
個人経営の喫茶店に務める啓一は、オーナーに買い出しを頼まれ
たついでに、少し立ち読みでもしようかと、軽い気持ちでこのコン
ビニに立ちよった。まさか強盗に遭遇するとは思いもしなかったか
らだ。
啓一と共にたまたま居合わせた運の悪い、中年の男性やら、キャ
リアウーマン風の女性やらの客が突然やってきた二人組の強盗に店
の奥へと押し込まれている。強盗の一人に見張られながら、弁当の
並ぶ棚の前で嵐が去るのを待つように他の客と肩を寄せていた。
いつもこうだ、と自分の境遇を恨んだ。
啓一の不運は今に始まった事ではなく、運に才能と言うモノがあ
るならば、啓一はその才能に恵まれていなかった。二十八年の生涯
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において、とにかくついていたためしがない。今まで大きな怪我な
どが無いのが不思議なくらい、啓一の周りには事件、事故が存在し
ている。自分の周りに事件が起きるのか、自分が事件を引き寄せて
いるのか、啓一自身にも時々解らなくなる事がある。
﹁これは、どういうことなんでしょうねぇ﹂事態を飲み込めていな
いのか、中年の男性が間延びした声を出す。
﹁ご、強盗みたいですよ﹂
言いながら啓一は自分の声が震えている事に気付いた。コンビニ
で強盗に遭遇する、という非現実的な出来事に、頭とは関係なく体
が恐怖していた。
強盗の一人が店員にナイフを突き付け﹁金を出せ﹂と喚きちらす。
恐怖のあまり動作が遅れる店員にイライラしているのか、せわしな
くナイフを動かしている。強盗たちの動作は、どんな些細な動きで
あっても、恐怖を感じた。
﹁参っちゃいましたね。休憩時間も限られてるってのに﹂キャリア
ウーマン風の女性の脇で、若いサラリーマンが緊張感のない声を出
した。
﹁まったく⋮⋮こんな昼間から強盗とは、非常識な奴らだ﹂キャリ
アウーマン風の女性が吐き捨てるように言う。
すると、見張り役の強盗が﹁おい﹂と二人に向かって恫喝した。
﹁何しゃべってんだ!﹂
﹁いや、別に﹂と、若いサラリーマンは両手を小さく上げた。この
状況にもまったく恐怖していない様子だった。
﹁声が聞こえたんだよ。携帯なんかいじってねぇだろうな﹂
﹁まさか、何も持ってないでしょ?﹂若いサラリーマンが両手をひ
らひらと動かす。﹁僕達は恐くて小さくなっているだけです。何も
しませんから、どうぞ続けてください﹂
﹁てめぇ、おちょくってんのか﹂
顔を隠した強盗の顔がみるみる赤くなるのが、わずかに空いた目
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の隙間からでも分かった。
彼が口を開くと事態がドンドン悪くなっていくような気がして、
頼むからこれ以上刺激しないでくれ、と啓一は祈るような気持ちで
若いサラリーマンを見つめた。
だが、啓一の祈りも空しく、わざと煽っているとしか思えない口
ぶりで、若いサラリーマンは﹁僕達は早く帰りたいだけです。あな
た達が早く終わらせてくれれば、何も文句はありませんよ﹂と軽い
口調で言った。
決定的だった。
明らかに激昂した強盗は、右手に持ったサバイバルナイフを前に
つきだしながら近づいてくる。見張り役の異変に気付いたもう一人
の強盗が、制止するのを振り切って、今にも手にしたナイフを振り
かざす勢いだった。
必要以上に強盗を刺激した若いサラリーマンを恨みがましく睨ん
で、啓一はこの後に起こる惨劇に身をかがめた。もしかしたら自分
の人生はここで終わりなのではないか、と本気で考えた。
﹁まったく⋮⋮﹂
軽くため息をつくと、キャリアウーマン風の女性が若いサラリー
マンの前に立った。強盗がナイフを振り上げる。危ない! と反射
的に啓一は目を閉じた。
血まみれの女性の姿を想像して恐る恐る目を開ける。すると不思
議な事に、強盗はナイフを振り上げた姿のまま制止していた。今の
今まで怒りに満ちていた目がキャリアウーマン風の女性を見た途端
に恐怖の色に変っている。
そこからは一瞬の出来事だった。強盗の動きが止まった瞬間、若
いサラリーマンは、動きづらい背広姿にも関わらず、素早く足を振
り、軽々しく強盗を蹴り飛ばすと、ネコ科の動物さながらの俊敏さ
でもう一人の強盗に近づき、右手を小さく動かした。
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啓一には何が起きたのか理解できなかった。さっきまでこの場を
支配していた強盗は、一人は床にだらしなく横たわり、もう一人は
若いサラリーマンに身を預けるようにして、気を失っている。
﹁吉田さん、危ないですよ。あの場面で僕の前に立つなんて﹂
若いサラリーマンがコチラを向くと、彼に体を預けていた強盗は
ズルズルと崩れ落ちた。
﹁危ない? それはこのあたしに言うセリフか? 三浦﹂
﹁いくら吉田さんでも、危ないです。僕に任せてくれればよかった
のに﹂
﹁一度死にかけた奴のセリフじゃないな﹂
﹁またそれだ。見たでしょ? こんな素人がナイフを持ったところ
で、こんなもんですよ﹂
﹁あのぅ⋮⋮﹂
何事も無かったかのような二人の会話を遮って、店員が恐る恐る
声を出す。
﹁あ、もう片付きましたよ﹂白い歯を見せて、若いサラリーマンは
店員に大丈夫だった? と声をかけた。
﹁警察に連絡をしなさい。こいつらは紐か何かで縛っておいた方が
いいわ﹂
店員に簡潔な指示を出して、キャリアウーマン風の女性は、三浦
と呼んだ若いサラリーマンを連れて、コンビニを出ようとする。思
わず啓一は﹁あの!﹂と呼びかけた。
啓一が呼びかけると、二人は入り口の手前で足を止め、コチラを
振り返った。恐怖から解放されて、初めてまともに見るその女性は、
息をのむほど美しかった。
﹁なにかしら?﹂
どうして呼びとめたのか、啓一自身にも分からなかった。頭の中
でまた黒田の言葉が繰り返される﹃焦らないのが良いよね﹄この状
況で焦らない人間なんていないと思っていたが、この二人は全く焦
った様子も無く、いとも簡単に強盗を阻止してしまった。
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﹁あ、あなた達は、何者なんですか?﹂
二人は一瞬顔を見合わせて、同時に微笑むと﹁ただの会社員です﹂
と言い残し、颯爽とコンビニを出て行った。
二人がいなくなった店内は、まるで何もなかったかのように静ま
り返っていた。床に寝そべる強盗たちが、かろうじて現実として残
っている。
もう一度入口を見る。そこにはもう誰の姿も無いが、啓一の目に
はあの二人の姿がはっきりと焼きついていた。あの二人はヒーロー
か何かなんだろうか、と本気で思った。
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心の月
浮浪児たちのねぐらとなっている廃屋で男を見下ろしながら、士
郎は﹃アヴェマリア﹄を口ずさんでいた。歌詞はうろ覚えだが、幼
い頃によく聞かされていた為、馴染みのある﹃祈り﹄だった。その
せいか、仕事をする際は常に﹃アヴェマリア﹄が頭の中で鳴り響き、
どうしても口ずさんでしまう。
﹁た、頼む⋮⋮助けてくれぇ﹂
足元で小動物のように震えていた男が、縋るようにかすれ声を出
す。死を目前にして士郎の口ずさむ﹃祈り﹄が自分の死をよりリア
ルに感じさせるらしい。無視する。殺す相手の話をいちいち聞いて
いたらきりがない。
﹁私が何をしたと言うんだ⋮⋮なぜ私が殺されなければならないん
だ﹂
男はまるで自覚がないようだった。自分が今までどれほど弱者を
犠牲にして今の地位に座っているのかを、忘れているのか、それと
も気にしたことすらないのか。
ゆっくりとしゃがみ込んで、目を充血させてぶつぶつと命乞いを
する男に顔を近づける。士郎は人差し指を口に当て、シー、と息を
吐いた。これ以上うるさくなると子供たちが起きてしまう恐れがあ
る。
﹁なぜお前が殺されるのか、理解する必要はない。⋮⋮そうだな、
天災だとでも思ってくれ﹂
男に小声で囁いて、士郎は男の腹にナイフを当てた。自分の最後
を目前に男が何かを叫んだが、頭の中の﹃アヴェマリア﹄が一層大
音量で鳴り響き、士郎の耳には届かなかった。ナイフの先端が腹の
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皮を突き破り、すんなりとめり込んでいく感触が右手に伝わる。男
が目を見開く。丘に打ち上げられた魚のように口をパクパクと動か
し、必死に肺に空気を取り込もうとするが、うまくいかず苦悶の表
情を浮かべた。
素早くナイフを引き抜き、躊躇することなく、今度は胸に突き刺
す。男の口が丁度﹃お﹄の形で止まり、ヒュっと小さく息を吐いた
のがわかる。心臓の痙攣がナイフを伝って士郎の右手をほんの少し
揺らした。
目を閉じる。早く逝け、と祈る。
右手に伝わる心臓の痙攣が止まったのを確認して、士郎はナイフ
を引き抜いた。男の充血した目が一点に士郎を見つめていた。もう
どこを見ることも無い瞳は自分に起こった災難が信じられないのか、
これ以上ないくらいに見開かれている。それとも自分の命を奪った
士郎を非難しているのだろうか。
士郎は﹃アヴェマリア﹄を口ずさむ。せめて迷わずに逝け、と祈
りを込めて。
﹁御苦労さん﹂
仕事を終えた士郎が狭い事務所に戻ると、机の上に乱雑に積まれ
た書類なのかゴミなのか、区別のつかない紙の束の奥で居眠りをし
ていた日野が薄眼を開けて声をかけた。
﹁ココに住んでいるっていう話は本当なんだな﹂
飲み散らかしたビールの瓶やら、食べ散らかした缶詰が部屋のあ
ちらこちらに散らばっている。この事務所に出入りしている業者か
ら、ここの主である日野は家にも帰らず、ここで寝泊まりしている
と聴いていたが、この散らかりようを見ると、どうやら本当の事ら
しいと容易に察しがついた。
それにしても、と思う。どうしたらここまできたなくできるんだ、
と。
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﹁お前がいつ仕事を終えて帰ってきてもいいように、ここで待って
てやってるんだよ﹂
あくび交じりに言いながら日野は、灰皿に手を伸ばし、吸いかけ
のたばこの中から長い物を選び、マッチに火をつけた。
﹁少しは片付けたらどうなんだ? 虫が湧くぞ﹂
﹁そのうちな。それより首尾はどうだ? まぁ、お前の事だから心
配はしていないが﹂
煙をプカっと吐き出し、日野は机に肘をついて身を乗り出した。
士郎は無言で内ポケットから封筒を取り出し、日野の前に投げつ
ける。日野のぐうたらぶりにはうんざりしたが、金をもらっている
身としては、それほど強くも言えない。
﹁ん、確かに。さすがに仕事が早いな﹂
封筒の中には今回仕事に使ったナイフと、殺した男から切り取っ
た髪の毛が入っていた。ナイフには使用した証拠に血痕が残ってお
り、それだけで仕事をした証明にはなるのだが、息の根を止めた証
拠に髪を切り取るのは士郎のこだわりだった。
﹁そう言えば、知ってるか? 最近じゃ強盗が幅を利かせてるらし
いぞ﹂
日野はナイフを封筒に戻し、無造作に机の上に放り投げた。明日
にでも事務所の下にある鉄工所で溶かされ、消滅するナイフだ。
﹁強盗ね、興味ないな。俺とは業種が違う﹂
﹁まぁそう言うなよ。そいつらを退治してくれって言う依頼が来る
かもしれないだろ?﹂
﹁その時は、いつものように仕事をするだけさ﹂
士郎が事もなげに言うと、日野はそれもそうだ、と豪快に笑った。
﹁じゃあ、いつも通り金は一週間後だ。一週間経ったらまた来い。
新聞の確認は忘れるなよ﹂
士郎の仕事は前金制ではなく成功報酬なので、仕事を終えてもす
ぐには完了と言うわけにはいかない。依頼者から仕事を受け、依頼
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者が対象の死を確認した後、日野に金が支払われる仕組みだ。その
為、警察が遺体を発見し、事件と断定した上で新聞に載って初めて
依頼完了となる。士郎に金が入るのはなんだかんだで大体一週間く
らい先と決まっていた。
﹁お前今日寝る所あるのか? なんだったらここに泊まってくか﹂
ホレ、丁度一人寝るのに丁度いいソファもあるしな、とゴミに埋
もれたソファを指差しニヤリと笑う日野に、士郎は真顔で﹁冗談だ
ろ﹂と答えたが、﹁何がだ?﹂と真顔で返されたので、これ以上指
摘する気も失せ、苛立ち任せに士郎は事務所のドアを思い切り閉め
た。
事務所を出ると白み始めた空に淡い光を受けた雲が金色に輝いて
いた。ポケットから懐中時計を取りだし、時間を確認する。時計の
針は五時二十分を指していた。間もなく顔を出すであろう太陽の方
角を見て、軽くため息が漏れた。懐中時計の蓋を閉め、ポケットに
突っ込む。太陽とは反対の方角へ士郎は足を進めた。
﹁殺し屋さん﹂と声をかけられたのは、歩き始めて間もなくのこと
だった。
思わず振り返って、士郎は﹁おや?﹂と思った。声をかけてきた
のはキレイにそろえた前髪に幼さが滲む、見た事もない若い女だっ
た。
どこかで会った事があるのか、記憶を探りながら訝しげに見つめ
ていると、女は﹁殺し屋さんでしょ? 違うの?﹂と屈託のない顔
で訊ねた。
﹁いや﹂慌てるわけでもなく否定する。やはり見覚えがない。どう
やら﹃殺し屋﹄と呼んだのも当てずっぽうらしい。
﹁嘘だよね﹂
﹁なぜそう思う﹂
﹁だって﹂女はそういうと顔を近づけて士郎を下から見上げた。﹁
いかにも﹃殺し屋﹄って感じだもん﹂
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﹁心外だな、俺は殺し屋なんかじゃない﹂表情を変えず女の顔を見
下ろす。よく見ると大きい瞳の下にうっすらとそばかすが浮いてい
た。
﹁嘘つきだね、お兄さん﹂
そう言うと、女はウサギのようにぴょんと一歩後ろへ飛んだ。に
こやかにほほ笑えみ﹁またね、殺し屋さん﹂と手を振り、黒い髪を
なびかせて路地へと消えて行く。
一体何なのだ? と士郎は狐につままれたような感覚で立ちすく
んだまま、女の消えた方をじっと眺めた。
16
メデューサの瞳2
新聞は隅から隅まで読むもんだ、とは常日頃父が言っていた言葉
だった。
大学の教授という仕事柄なのか、それとも単に父の性格なのか、
あらゆる情報に飢えていた父は常に主要三紙の新聞を長い時間をか
けて熟読していた事を思い出す。
その父の影響なのか、祥子も気がつけば新聞を隅から隅まで読ん
でいる。自分でも気付かないほどの自然な癖となっていた。だから
こそこの小さな記事にもすぐに気付いた。
コンビニ強盗の記事は注意して探さないと見落としてしまうほど
の小さな記事で、事件の当事者でないと分からないほど、雑な内容
だった。未遂に終わった間抜けな強盗の記事など誰も気にしないと
担当の記者が判断したのか、とも思ったが、それも仕方のない事か
もしれない、と思い直した。紙面を一面に戻す。
﹃路上に男性の遺体。連続殺人の可能性。また新たな被害者か?﹄
今世間を恐怖に陥れている連続殺人の新たな被害者が出たらしい。
どうやら殺されたのは証券会社の重役のようだった。﹃真夜中の犯
行﹄﹃体に複数の刺し傷﹄などの文字が躍っている。中でも祥子の
気を引いたのは﹃無差別﹄の文字だった。
ナイフを使い、めった刺しにするという手口は同じらしいが、被
害者に共通点は無く、年齢、性別、さらには犯行の時間帯、犯行現
場までがバラバラで、それが捜査を難航させているようだった。
新聞をたたみ、カップに残ったコーヒーを飲み干す。カップを流
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しに置き、バッグを手にした所で、もう一度新聞をちらりと、見た。
﹃連続殺人の可能性﹄だから何? と玄関に向かう。連続殺人犯に
また誰かが殺されたらしい、だから何? さしあたって、今祥子が
関心のある事と言えば、遅刻しないように電車に乗ることと、今日
の晩はいつものバーに行くかどうか、という事だけだった。
毎日の事とは言え、通勤時の満員電車は祥子にとって苦痛だった。
狭い車内に人が密集している事もそうだが、何よりも痴漢遭遇率が
祥子は異常に高いのだ。毎度、電車に乗るたびに、祥子は身構えて
しまう。ドア付近で背中をなるべく外に向けて乗る癖がいつの間に
かついていた。大抵の事には動じることのない祥子も、痴漢だけは
何度遭遇しても慣れることはなかった。
幸いにして、今日は痴漢に合うことはなく、目的の駅に滑り込ん
だ電車から吐き出される様にホームへ降りると、すぐに声がかけら
れた。
﹁吉田さん。おはようございます﹂
聴き慣れた声は振り返らなくてもすぐに分かった。三浦だ。そし
て祥子の頭の中でグノ︱の﹃アヴェマリア﹄が流れる。三浦の清潔
感のある凛とした声は、なぜかグノ︱の﹃アヴェマリア﹄を思い起
こさせる。
﹁ああ、おはよう、三浦﹂
祥子が歩き出すと、三浦も続く。外を回る時などはいつもこのス
タイルになる。自分で自覚するほどのマイペースな祥子に三浦がい
つも会わせる形だ。
﹁車内で吉田さんを見かけたんですけど、中で声をかけるのもどう
かと思いまして﹂
﹁へぇ、気を使ってくれたの?﹂
祥子の電車嫌いは親しい人間なら周知の事実だ。
﹁吉田さん、ドアの前で目を瞑ってましたよね。一瞬誰かに何かを
されてるのかと思いました﹂
18
﹁あたしが痴漢にでもあってたら、お前は助けに来てくれそうだな﹂
﹁当たり前じゃないですか! 吉田さんに痴漢をするなんて許せま
せん﹂
断言口調で言い切る三浦に優しく微笑みながら、こいつなら当然
そうするだろうな、と思った。なにせ三浦は自他共に認める﹃正義
の味方﹄なのだ。
﹁そう言えば、あのコンビニ強盗、結局ニュースにもなりませんで
したね﹂
駅から会社に向かう途中、無言で歩く事に飽きたのか、三浦が口
を開いた。
﹁まぁ、当然と言えば当然ですよね。あんな間抜けな強盗、ニュー
スにする価値なんてこれっぽっちも無いですもんね﹂
人差し指と親指で小さな隙間を作り、三浦は嬉しそうに白い歯を
見せた。﹃これっぽっち﹄と言う言葉が気に入ったようだった。
﹁三浦、新聞は隅まで読むもんだよ﹂祥子がそう言うと、三浦はキ
ョトンとした顔で﹁え? どういう意味ですか﹂と首をかしげた。
その姿に苦笑する。三浦の素直な仕草はいちいち祥子のつぼだ。
会社が近くなるにつれ、顔見知りに合う確率もあがり、必然的に
挨拶する回数も上がっていく。繰り返される﹁おはようございます﹂
に少しうんざりしながら返事を返していると、前方から若い女性社
員が駆け寄ってきた。
﹁おはようございます、三浦さん﹂と祥子には目もくれず三浦に挨
拶をする。その後で取ってつけたように﹁吉田さんも﹂と付け加え
る所にまだ若さを感じる。
﹁おはよう、金子さん﹂
笑顔で挨拶を返す三浦に、金子と呼ばれた女性社員は満面の笑み
を浮かべた。放っておくと今にも腕にじゃれつきかねない様子だ。
﹁三浦さん、昨日コンビニ強盗捕まえたんですよね﹂と上目づかい
で三浦の顔を覗き込みながら、金子は結局三浦の腕にじゃれついた。
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狙いが見え透いていて、祥子は目を覆いたくなる。︱︱もう少し別
のやり方は出来ないのか?
﹁え? どうして知ってるの?﹂
﹁同じ部署の友達が教えてくれたんです。お昼を買いにコンビニに
入ろうとしたら、中から大きな声が聴こえて、恐る恐る覗いたら、
三浦さんが強盗を退治してたって﹂
まるで恥ずかしい場面を見られた、といった面持ちで、三浦は﹁
まいったな﹂と頭を掻いた。
﹁あの、三浦さん?﹂と金子が本題に入ろうと口を開いたところで、
祥子はわざと口を挟んだ。
﹁金子さん、時間は大丈夫? あんまり遅れると、課長に怒られる
わよ﹂と腕時計を指差す。
金子の所属する部署の課長は時間にうるさい事で有名で、遅れよ
うものならねちねちとしつこく責められる。それは金子にとっても
分かっていた事の様で、﹁あ、﹂と声を上げて慌てて三浦の腕から
離れた。
﹁三浦さん、また後で﹂とはじけるような笑顔を三浦に向け、一瞬
恨みがましく祥子を睨んで、走って行った。
﹁あの子は分かりやすいな﹂自分に向けられた恨みの視線を、猫に
撫でられたかのように軽くいなして、祥子はため息をついた。
﹁え? 何の事ですか?﹂
﹁金子さんは、お前に気があるって話だ﹂
﹁まさか﹂三浦は笑いながらありえないですよ、と否定した。
﹁今の態度はあからさまだっただろう﹂
﹁無いですって、だって金子さん、ちゃんと彼氏いるんだから﹂
人を信じきったような三浦の真面目さに、祥子は軽いめまいを覚
えた。こいつの真面目さは天然記念物級だな︱︱悪い意味で。と出
来の悪い弟を見るように、眉を下げる。
﹁女を甘く見てると痛い目を見るぞ。気をつけろ﹂
一応助言しておく。三浦には祥子から見ても可愛いと思える彼女
20
がいたが、うかうかしてると関係がこじれるぞ、と。
三浦は言葉の意味をちゃんと理解したのか曖昧なまま、曖昧な返
事をしたが、それ以上は祥子も口を挟まなかった。三浦が鈍いせい
で彼女との関係が壊れたとしても、だから何? と思うだけだ。
結果として三浦と彼女の関係がこじれるような事にはならなかっ
た。しばらくして、祥子の心配は杞憂に終わる事となったのだ。
それを知ったのは、毎日の日課である朝刊を広げた時だった。
﹃連続殺人、新たな被害者か?﹄
まるでデジャヴだな、と思った。ついこないだ見た一面とほとん
ど同じような文字がでかでかと踊っている。しかし被害者の名前を
見て、さすがの祥子も目を丸くした。
﹃近所の住人の通報で警察が駆けつけると、自宅で金子詩織︵24︶
の遺体を発見。現場の状況や、体に複数の刺し傷があることから、
連続殺人の可能性もあるとみて捜査している﹄
金子、ってあの金子? たまたま同じ名字の人間が殺されたのか
とも考えられる。実際祥子は金子の下の名前までは知らなかった。
だが、慌てた様子で三浦からかかってきた電話は、それが人違いで
はないと確信させるものだった。
﹁吉田さん! 新聞見ました?﹂
﹁今見てるよ﹂
﹁金子さんです! ほらこないだ朝会った﹂
﹁落ち着け、分かってる﹂
﹁どうして金子さんが⋮⋮﹂
慌てふためいて言葉をまくしたて、全て言葉を使い尽くしたかの
ように絶句する三浦の様子を携帯から感じて、この記事は隅まで見
21
なくても分かるな、と祥子は思った。
金子が死んだ。だから何? ⋮⋮とは言えない状況になりそうだ。
22
道端の草2
﹁人を殺すのに必要なものって何だと思う?﹂
コーヒーカップに口を近づけ、息で冷ましながら黒田はそんな事
を言いだした。平日の午後、世間一般では今を盛りに皆それぞれの
仕事に励んでいる時間だと言うのに、暇そうに店に来るなりいきな
り何を言いだすのだ? と啓一は訝った顔をした。
﹁そんな顔するなよ﹂黒田はコーヒーを啜り、﹁あちっ﹂と舌を出
した。
﹁最近流行りの連続殺人の事をさ、考えてみたんだ。俺なりに﹂
重大事件である連続殺人を﹁流行り﹂と言ってしまうのはどうか
と思ったが、口には出さず、啓一は黙って話を聞いた。
﹁犯人がなんの目的で人を殺してるのかは分からないけどさ、人を
殺すのに必要なものって何なのかなって、高橋君は何だと思う?﹂
﹁さぁ⋮⋮﹂首をかしげ、考えてみる。﹁やっぱり、凶器ですかね。
ナイフとか拳銃とか﹂
適当に思いついた事を口にしてみる。当たり前のようだが、言っ
てみてやはり凶器が一番重要ではないか、と思えた。
黒田は凶器と聞いて﹁あ、﹂と一瞬表情を明るくしたが、すぐに
﹁あ︱、惜しい﹂と片眉を下げた。
﹁言葉は同じなんだけどなぁ﹂と、黒田はまるで自分が殺しに必要
なモノを持っているといった口ぶりだった。
﹁道具としての﹃凶器﹄じゃなくて、俺が思うに人を殺すのに必要
なものは﹃狂気﹄だと思うんだよ﹂
﹁狂気?﹂
﹁そう﹂黒田はカウンターに肘をつき、身を乗り出した。﹁だって
23
さ、人を殺すってかなりリスキーなわけでしょ。捕まれば一生を棒
に振るかもしれないし、もしかするとその時点で一巻の終わりって
こともあるわけだし。それでも人を殺すって事はさ、きっとどこか
で常人とは別の思考を持ってるってことだと思わない?﹂
最後を質問口調で絞められて、啓一は返答に困った。﹁そうです
ね﹂とは言いづらい質問だ。代わりに﹁どうして人を殺したりする
んだろう?﹂と思わず口から洩れた。
﹁どうして、ってどういう事?﹂
﹁例えば、黒田さんは誰かにものすごくムカついたとして、その人
を殺そうと思います? もし思ったとして、実際に実行します?﹂
﹁するわけないよ。だって俺まともだもん﹂
黒田は、まともをアピールする為か、両手を広げ、ウインクをし
た。三十過ぎとは思えないほどの気取った態度に思わず笑いが込み
上げたが、必死に堪える。
﹁でしょ? もちろん俺だってムカつく事はあるけど、殺そうとは
思いません。⋮⋮人を殺すのに必要なモノって、﹃動機﹄なんじゃ
ないですかね﹂
﹁なるほど﹂と黒田は腕を組んで考えるポーズを取る。
﹁なぁに? 恐い話、してるわね﹂
カウンターの奥から長閑な声を出したのは、啓一の雇い主でこの
喫茶店のオーナーでもある、村井由香里だ。裏で食材の在庫管理を
していたはずだが、どうやら話声が聴こえて戻ってきたようだった。
人と話すのが何より好きなオーナーらしい。
﹁あら、黒田君。相変わらず暇そうね﹂
﹁俺の仕事は暇な方が良いんですよ﹂
オーナーの村井は人の言いにくい事を悪びれも無くずけずけ言っ
てしまうが、それ自体に悪意がない事も親しい人間には周知の事実
であり、大して気にすることも無く黒田は答えた。
﹁人を殺すとか、殺さないとか、ずいぶん物騒な話をしてたじゃな
い。何の話なの?﹂
24
﹁それは﹂啓一が先ほどの話を説明しようとすると、それを遮る形
で黒田が口を開いた。
﹁あ︱、由香里さん。今日はいつにもまして美しい。由香里さんは
俺の心をそんなにがっちり掴んでどうするつもりですか。我慢でき
なくなっちゃいますよ﹂
﹁あらぁ﹂黒田の歯の浮くような見え透いたお世辞に、村井は表情
を明るくした。
﹁こんなおばさん捕まえてよく言うわね黒田君も。わたし、本気に
しちゃうわよ?﹂
﹁俺はいつでも本気ですよ。由香里さんと付き合えるなら、今付き
合ってる女の子達全員と別れてもいい﹂
全員、て⋮⋮一体何人と付き合ってるんだ、と啓一は眉根を寄せ
た。黒田は悪い人間ではないが、軽薄な所は尊敬できない。
うふふ、と上品に笑って、村井は﹁悪い子ね﹂と黒田を叩くふり
をした。
入口に取り付けられたドアベルが澄んだ音で来客を告げる。啓一
は音に反応し、即座に﹁いらっしゃいませ﹂と声をかけた。コーヒ
ーを淹れている最中でも、たとえ料理中であっても、条件反射的に、
いらっしゃいませ、と言ってしまう自分が内心少し恥ずかしくもあ
った。
入ってきたのは男だった。啓一の知る限り、この店に来た事はな
い。新顔だ。男はゆっくりと店内を見渡し、丁度入口の正面の席に
腰かけた。席に座ったのを確認して、村井が水を持っていく。
背もたれに寄りかかるように座った男は眼光鋭く、グレーのスー
ツには遠目からでも分かるほどに皺が目立っている。ネクタイをし
てないところを見ると、ただのサラリーマンと言うわけではないよ
うに思えた。どっしりとした落ち着いた雰囲気は相応の歳を連想さ
せるが、つやのある肌、皺のない顔はどう見ても二十代、若干高く
見積もっても三十代だろうか。年齢と雰囲気のアンバランスがなん
25
とも不気味だった。
黒田も男を不審に思ったのか、男を横目で覗きながら
﹁⋮⋮なんか、堅気っぽくないよね﹂と小声で囁いた。
﹁やくざの方ですかね?﹂
﹁まぁ、来てもおかしくは無いけどさ⋮⋮﹂
男に聴かれないように小声でやり取りしていると、不意に男がコ
チラを睨んだので、慌てて目線をそらす。聴こえてたかな? と啓
一は身を縮めた。黒田に至ってはまるっきり男に背を向け、顔を手
で隠していた。いや、それは分かり過ぎだろ、と内心で苦笑する。
実際には恐くて顔には出せないが。
注文を取り、戻ってくる村井を待って、啓一は挙動不審にならな
いように気をつけながら村井の傍に行き、小声で訊ねた。
﹁オーナー、あの人知ってます?﹂
﹁え? ⋮⋮さぁ、初めてのお客さんじゃないかしら﹂
﹁なんか、恐くないですか? どう見ても堅気じゃないって言うか
⋮⋮﹂
啓一がそう言うと、村井はいつものように長閑な声で﹁こぉら﹂
と頬を膨らませた。
﹁人を見かけで判断しちゃだめよ。外見が恐そうでも良い人かもし
れないじゃない﹂
﹁でも⋮⋮﹂と今度は黒田が口を開く。
﹁今、ホラ、あの事件があるじゃないですか。不審者は一応警戒し
ておいた方が良いですって﹂
不審者、の言葉に全員が示し合わせたように男を見た。男は相変
わらずコチラを睨むように見ている。啓一の背筋に冷たいモノが走
った。
もし連続殺人の犯人があの男だったら? そう思わせるだけの風
貌を男は兼ねそろえていた。
先ほどの黒田の話が頭に浮かぶ。
26
﹃人を殺すのに必要なモノは?﹄
もしかしたらその答えはあの男が持ってるかもしれませんよ、と
黒田に教えてやりたかったが、黒田はわざとらしく﹁そろそろ仕事
に戻ろうかな﹂と、そそくさと席を立ち、コーヒー代を置いて出て
行ってしまった。
男は店を出て行く黒田をなめる様に睨みつけ、黒田が出て行くの
を見届けてから、視線をコチラに寄越し、おもむろに口を開いた。
﹁コーヒー、まだかな﹂
27
心の月2
事務所に入ると異臭が鼻についた。思わず顔をしかめる。そこか
しこに散らばった空き缶詰が臭いを発している事は明白だった。気
温の上昇に比例してこの事務所の不快指数も上がっていく。ゴミは
減るどころか増える一方で、今の時点でひざ下くらいまでゴミがつ
もっている。豪雪ならぬ豪ゴミだ、と士郎は思った。
﹁お前に前から訊きたかったんだけどさ﹂
異常な臭いにも何の頓着も無く日野は平然と訊ねた。その神経が
士郎には信じられない。
﹁お前、仕事する時一体何を考えてるんだ?﹂
﹁部屋を片付けろ。気分が悪い﹂
﹁ここ最近立て続けに仕事が入っただろ? 次々と人を殺していく
感覚ってどんなだよ﹂
﹁缶詰、腐ってるぞ。よく平気でいられるな﹂
﹁お前が殺した人間は腐る前に発見されるけどな﹂
日野は洒落にもならないダジャレを口にして豪快に笑った。
頭の中で﹃アヴェマリア﹄が流れる。この状況に耐えかねた自分
の体が不快感をシャットアウトする為に緊急措置を取っているのか、
と考えた。それとも俺はこの男を殺したいのかもしれない、とも思
う。
﹁なんだよ、変な顔しやがって。笑えって﹂
机の上に無造作に広げた札束を数えながら日野は、でっぷりとし
た腹を上に向けて、椅子の背もたれに寄りかかった。
﹁⋮⋮いいからさっさと金を寄越せ﹂
仕事の仲介と金の受け取り以外に用のないこの事務所には一秒た
りとも長居はしたくなかった。異臭を放つゴミのあり様もそうだが、
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この男の顔を見ていると苛々した。無神経が服を着ているような日
野は、士郎にとって最も嫌うべき人種だが、仕事上付き合わねばな
らない。なら、せめて自分の我慢が限界を超える前にこの男の前か
ら立ち去りたかった。
﹁相変わらず愛想がねぇな。そんなんじゃ女にもてねぇぞ﹂
日野は不満をもらしながらも、机の上に置かれた札束を三束掴む
と、投げつけ気味に士郎に手渡した。
﹁お前はさぞかしもてるんだろうな﹂
皮肉を言いながら受け取る。日野は﹁もちろんだろ﹂と歯を見せ
たが、この男が女にもてるとは思えなかった。
事務所を出ると、途端に空腹が襲ってきた。そう言えば起きてか
ら何も食べてない事を思い出す。事務所内では感じなかったのだが、
不快感でそれどころではなかったのかもしれない。
札束を無造作に上着のポケットに突っ込み、士郎は近くの喫茶店
に向かう事にした。昼間の人の多い街を歩くのは少し億劫に感じた
が、最近見つけた喫茶店はナポリタンがうまい。その味を想像する
と、足取りはいくらか軽くなるのだった。
喫茶店に向かう途中で、また声をかけられた。つい先日士郎を﹃
殺し屋﹄と呼んだ、あの女だった。士郎は得体のしれない女を訝っ
たが、女は構わずに、話しかけてくる。
﹁最近多い殺人事件は殺し屋さんの仕業なんでしょ?﹂
﹁俺は殺し屋じゃない﹂女の顔は見ずに、前を見たまま答える。
﹁ねぇ、殺し屋さんの名前はなんて言うの?﹂
女は小走りに士郎の前に回り、後ろ歩きで士郎の顔を覗いた。
目的も解らず付きまとわれるのは正直鬱陶しかった。女の質問に
は無言で答え、士郎は足を速めた。このまま喫茶店にまで付きまと
われたらたまったものではない。
﹁教えてくれないんだ? 殺し屋さんだもんね。あのね、あたしは
29
エリって言うの。よろしくね﹂
勝手に自己紹介をした女は、ご丁寧に、エリのエは絵のエで︱︱
と漢字の説明をつけて、士郎の腕に抱きついた。
﹁あのな﹂堪え切れず口を開く﹁もし俺が殺し屋だったとする﹂
﹁もし、じゃなくて殺し屋さんだよね﹂
無視する。﹁もし俺が殺し屋だとして、お前のような得体のしれ
ない女に白昼堂々﹃殺し屋﹄と呼ばれて、黙っていると思うか? 俺が殺し屋だったら自分の身を守るために、まずお前を殺すと思う
がな﹂
﹁殺し屋さんはあたしを殺さないよ﹂
﹁なぜだ?﹂苛々して思わず声が大きくなった。この女の言動はい
ちいち癇に障る。
﹁だって、殺し屋さんは優しいもん﹂
﹁殺し屋は優しくない﹂
そう言って腕から女を引きはがす。士郎は苛立ちを露わにしたが、
エリと名乗った女は士郎のそんな様子すら楽しんでいるようでもあ
った。
こいつはもう何を言っても無駄だ、と思った。女は相変わらず色
々と話しかけてくるが、全て無視して、早足で歩く。﹃アヴェマリ
ア﹄が頭の中で鳴りだした。
鬱陶しい。いっそのことホントに殺してしまおうか、とも考えた
が、突然女は足を止め、通りを挟んだ向かい側をじっと見つめた。
一体何に気を取られたのか気になったが、これ幸いと、先に進む事
にした。
喫茶店にたどり着いたところで後ろを振り返る。すでに女の姿は
見当たらなかった。ようやく解放され、士郎は深いため息と共にド
アを開けた。入口に取り付けられたドアベルが澄んだ音を立て、店
員の景気の良い﹁いらっしゃいませ﹂が店内に響いた。
昼も近いと言うのに、店内は一人しか客がおらず、ガランとして
30
いた。常連なのだろう、店員と親しげに話をする男の脇を通り、奥
のテーブル席へと腰掛ける。注文を取りに来た店員に迷わずナポリ
タンを注文し、士郎は何とはなしに男達の会話に耳を立てた。
女がどうの、と下らない話をとうとう男は喋っている。それに店
員の男が相槌を打つ。男の話が長いせいか、辟易しているようだっ
た。
﹁そう言えばさ、﹂男が思い出したように唐突に話題を変える﹁昨
日、また死体が見つかったらしいな﹂
﹁あの噂ってホントなんですかね?﹂
﹁ああ、化け物の話だろ? どうなんだろうね。俺は信じられない
が⋮⋮﹂
化け物、と言う言葉に引っ掛かった。死体に関しては、この界隈
で仕事をしているのは士郎ただ一人なので、心当たりはあったが、
化け物の仕業にでもなっているのだろうか?
男達の会話に夢中になっていた為か、いつの間にか目の前に人が
いた事に、士郎は気付かなかった。しかもいるのはあの女だ。
﹁殺し屋さん、歩くの早いんだもん。見失っちゃったよ﹂
テーブルに身を乗り出して、女は笑みを浮かべた。いつの間に来
たのだ? と士郎はドアを眺めた。いつあのドアが開いたのかさえ
分からなかった。いつの間にか、いたのだ。まるで地面から生えて
きたかのように。
﹁それ、おいしいの?﹂とテーブルに置かれた皿を指差す。
テーブルの上には注文したナポリタンが置いてあった。いつの間
に、と士郎は首をかしげた。それほど長い時間会話に集中していた
のだろうか? それにしても人の気配にも気付かないほど集中する
ことなどあるのだろうか?
﹁ねぇ、殺し屋さん﹂
女の声は店内に良く通った。その為、客の男も、適当に相槌を打
っていた店員も、﹃殺し屋﹄と呼ばれた士郎を怪訝な顔で見ていた。
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もううんざりだ、と士郎はめまいを覚えた。
﹁俺は殺し屋じゃない﹂と、少し大きめの声で否定し、男達ににら
みを利かせる。
﹁見てるんじゃない﹂と鋭く言い放つと、男たちは慌てて顔をそら
した。
﹁だってお兄さん名前教えてくれないんだもん。なんて呼べばいい
のか解らないよ﹂
﹁呼ばなくていい。俺に付きまとわなくていい。頼むから放ってお
いてくれ。迷惑だ﹂
最後は懇願するように女に言い聞かせる。だが、女は頓着なく﹁
ねぇ﹂と言った。
﹁ねぇ、これなんて言う歌?﹂
女がキレイな声で歌いだした歌は、まさしく﹃アヴェマリア﹄だ
った。歌詞がわからないのかメロディーだけの鼻歌だが、その声は
祈りにふさわしい美しい声だった。
すると途端に女の後ろに光が広がるのが見えた。一体何事だと目
を丸くする。その間にもみるみる広がって行く光は瞬く間に周囲に
広がった。女はまるで天の祝福を受けた天使のように、神々しい光
に包まれ、女の口から発せられる祈りはいつの間にか大合唱になっ
ていた。天使達の﹃アヴェマリア﹄の大合唱だ。
眩しさに目をくらませながらようやく目を開けると、まばゆい光
の向こうに多くの人影が見えた。逆光の為黒い塊にしか見えないが、
背の高い者や低い者、太った者や、痩せた者など、様々な人間が皆
一様に士郎に指を向けていた。
耳をつんざくほどの大合唱は苦痛を伴った。いつも自分が口ずさ
む歌で、今は自分が苦しめられている。まるで自分の行いを咎めて
いるようだ、と思った。
﹁これ、なんて言う歌なの?﹂
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女が歌うのをやめると、今までの大合唱が嘘のように店内は静ま
り返っていた。幻覚だ、と気付くまでに少し時間を要した。心臓が
早鐘を打っている。迫りくる天使達の大合唱の幻覚に士郎は恐怖し
ていた。
﹁⋮⋮その歌をどこで覚えた?﹂
士郎が訊ねると、女は首をかしげて﹁何言ってるの﹂と笑った。
﹁殺し屋さんが歌ってたんじゃない。あたし見てたんだ﹂
愚問だったな、と苦笑する。この女が自分を殺し屋と呼ぶのも、
当てずっぽうじゃなかったらしい。
さて、どうするか、と士郎は腕を組み熟考した。
33
メデューサの瞳3
次の日は金子が殺された、という話題で社内はもちきりだった。
新聞の一面もそうだが、朝の情報番組でも大きく取り上げられてい
た事が大きな要因だった。
明らかに社内の人間ではない人物が、ちらほらと社内をうろつい
ている。警察関係と思われるその人物達は、金子に関する情報を聞
いて回っていた。
同じ会社の人間が殺されたという大事件に、噂は瞬く間に広がり、
別段関心のない祥子の耳にもその噂はそこはかとなく伝わった。
曰く、借金があった。であるとか、恋人が堅気の人間ではない。
であるとか、普段から男癖が悪く、痴情のもつれがあった。である
とか。
祥子には全てが眉唾くさく聞こえていたが、まるでそれが真実で
あるかのように噂は社内を駆け巡っていた。
﹁お前は金子さんと親しかったのか?﹂
就業時間を終え、いい加減聴こえ来る噂に嫌気のさした祥子は、
苛立ち気味に三浦に訊ねた。
﹁親しいって程じゃなかったです。ただ、顔を合わせれば挨拶をす
る、くらいの﹂
﹁だが、金子さんは明らかにお前に好意を寄せていたな。あれはな
ぜだ?﹂
﹁それは⋮⋮﹂
三浦は顔をしかめて、言いにくそうに頭を掻いた。
﹁あの、以前金子さんが男の人ともめてるのを見かけて、それで僕、
34
悪い男に捕まってるのかと思って、間に割って入った事があるんで
す。後から聞いた話だと、彼氏ともめてただけだったみたいなんで
すけど。今考えると、あの一件以降、金子さんの態度が変ったって
言うか、あれから積極的に挨拶してくれるようにはなりましたね﹂
ふん、と鼻を鳴らして腕を組み、考えるポーズになった祥子を、
三浦は黙って見つめた。こうした時うかつに口を開くと祥子の怒り
を買ってしまうという事を、三浦は身をもって知っていた。
しばらく沈黙が続いたのち、しびれを切らした三浦は﹁なぜ﹂と
呟いた。
﹁なぜ金子さんが殺されなければいけなかったんですかね﹂
﹁そんな事あたしが知るもんか。知りたかったら連続殺人犯に直接
訊くんだな。もっとも、噂の連続殺人犯が犯人だとしたら、の話だ
がな﹂
﹁なんか、知り合いが殺されるっていうのは、やりきれないですね。
⋮⋮悔しいですよ﹂
口を真一文字に結んで、三浦は強い憤りを露わにした。
﹁吉田さん、僕、犯人捕まえたいです﹂
﹁金子の仇打ちか? 止めておけ。警察に任せるのが一番だ﹂
﹁でも犠牲者は増える一方じゃないですか。今こうしてる間にも連
続殺人犯は我が物顔で次の獲物を狙ってるかもしれないのに、何も
できないなんて、僕は我慢できません﹂
三浦は、知り合いが殺されたことで、持ち前の正義感が暴走して
いるようだった。強い意志のこもった視線が祥子の眼に注がれてい
る。暗に助けを求めているように思えた。
﹁で? 我慢できないお前は一人でも殺人犯を追うって言い出すん
だろうな﹂
からかうようにそう言うと、三浦はまっすぐに顎を引く。一度決
めた腹は何があっても曲げない頑固さは、嫌いではないが、こうい
う時はその頑固さが仇となる。
祥子は一つ大きなため息を吐き、しかたないな、と呟いた。
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﹁手伝ってやるよ。どうせお前一人じゃ何もできないだろう﹂
どうしますか? あちこち走りまわりますか? と息巻く三浦を
宥めつつ、祥子はいつものバーに向かった。
黒の重厚なドアを前に、三浦が﹁何でここなんですか﹂と少しだ
け苛立ったが、答えるのも面倒なので、軽く睨んで動きを止め、祥
子はドアを開けた。
﹁いらっしゃい﹂マスターの柔和な声が狭い店内に響いた。
﹁やぁ、マスター﹂
祥子がマスターに挨拶をすると、カウンターの奥でグラスを傾け
ていた岩崎が、祥子を見るなり立ちあがった。
﹁おい、今日のニュースのあれ、お前のとこの社員じゃねえか?﹂
﹁ああ﹂と祥子は少しだけ顔をしかめた。
﹁今日はその話をしに来た。ここならそれなりの情報もあるかと思
ってね﹂
祥子がマスターに目を向けると、マスターはいつもの柔和な表情
を改めて、祥子に向き直る。その様子を三浦はキョトンとした顔で
見ていた。
﹁連続殺人犯の情報なら、少し前から色々あるよ﹂
﹁聴かせてくれ﹂
祥子はいつもの席に腰掛けると、いつものようにドライマティー
ニを注文した。いつもと一つだけ違うのは、祥子も、マスターも、
岩崎すらも普段見せないような真面目な顔をしている事だった。
慌てて祥子の横に座った三浦は、普段と違う雰囲気に、知らずの
うちに喉を鳴らした。
﹁まず、犯人像だけど、今まで起きた6件の現場で似たような服装
の男が目撃されてるよ。黒のパーカーに穴のあいたジーンズ、パー
カーには白いドクロのプリントが入っていて、それが目撃者の印象
に強く残ってる﹂
﹁同じ服装? 犯人はナイフを使うんだよね。めった刺しにするん
36
だから結構な量の返り血が着くはずだけど﹂
﹁そうだね。それについては目撃情報が様々だけど、人によっては
ドクロのプリントがしみだらけだったって言う人もいる﹂
マスターは注文通りドライマティーニを差し出し、三浦に向かっ
て﹁ご注文は?﹂と訊ねた。その時ばかりはいつもの柔和な顔で、
穏やかな声だった。
マスターにビールを注文し、三浦はついでに気になった事を訊ね
た。それはもちろん、今のこの状況だった。
﹁なんでマスターは一般公開されてないような情報を持ってるんで
すか? っていうか吉田さんはそれを知っててここに来たんですか
?﹂
﹁マスターは情報通なんだよ﹂祥子は三浦に笑顔を見せて一気にグ
ラスを煽った。
﹁いやぁ、こういう仕事をしてるから、人よりちょこっと情報が早
いだけですよ﹂
﹁あちこちに黒い繋がりがあるんだ、このおっさんは﹂
からかうように言った岩崎の顔が普段と違い真顔だった事が、い
かにも真実味があり、三浦は顔を青くした。
﹁それで、犯人の特徴は?﹂
空いたグラスを渡しながら祥子が訊ねる。
﹁はっきりとは分からないけど、身長は160から170くらい、
痩せ型で、髪は長め、って言うのが有力かな。あと曖昧な情報とし
ては、足が悪いのか、歩き方がおかしかったとか、左利きだとか⋮
⋮色々あるけど、どれも信憑性は低いね﹂
﹁なるほど﹂
一言そう言って祥子は腕を組み、黙り込んだ。その様子を見て、
岩崎が三浦に話しかける。
﹁おい、まさかお前ら首突っ込む訳じゃねぇよな? こないだの話
はただの冗談だったんだろ﹂
﹁あの時は、そうかも知れませんが、事情が変わりました﹂
37
﹁お前らの所の社員が殺されたからか?﹂
﹁そうですよ。知り合いが殺されたんです。顔も知らない社員もい
る中、僕達の知り合いが、殺されたんですよ。これが黙っていられ
ますか?﹂
三浦は怒りを露わに強い口調で岩崎に詰め寄った。
三浦の真剣な表情に岩崎は事態を危惧した。三浦の正義感が人の
二倍も三倍も強い事をこの場の誰もが知っていた。
﹁おいおい、ちょっと冷静になれって。あいては殺人犯だぞ、警察
ならまだしも、素人のお前ら二人で何とかなるとでも思ってるのか
?﹂
﹁なると思ってるさ﹂
岩崎の言葉には三浦よりも早く祥子が答えた。
﹁あたしと三浦。それにマスターとなんだか分からない男が一人。
これだけいれば大抵の事は何とかなる﹂
﹁俺を勝手に人数に数えるな﹂
﹁私は情報くらいしか協力できないけどね﹂
慄く岩崎と対象的にマスターは楽しげに口の端を持ち上げた。
﹁マスターの情報は大いに助かるよ。この口だけ男の方が扱いに困
る﹂
﹁ひどい言われようだな⋮⋮俺は協力しないからな﹂
わぁわぁと喚く岩崎に、祥子は顎を手に乗せ、ゆったりとした動
きで流し眼を送った。その視線に岩崎は一瞬動きを止める。いつも
の恐怖の視線かと三浦は思ったが、見つめられた岩崎は青くなるど
ころか、ほんの少し頬を赤く染めていた。
﹁手伝ってくれるわよね﹂
﹁⋮⋮お前って、こういう時ずるいよな。自分の武器を最大限に利
用しやがる﹂
じゃぁ、と店を出ようとした祥子達にマスターは﹁これだけ知っ
ておいてくれ﹂と最後の情報をくれた。
38
﹁奴さん﹃黄龍会﹄に追われてるらしいよ。どうも被害者の一人が
奴らの女だったらしい。﹃黄龍会﹄の連中も血眼になって捜してる
から、奴を追うんなら気をつけて﹂
それはまた、面倒な連中に追われてるな、と祥子は思った。﹃黄
龍会﹄と言えば、最近じゃ珍しい武闘派の集団だけに、目をつけら
れると厄介な事になる。
﹁わかったよ。ありがとう﹂
祥子はマスターにウインクを投げて、ドアを開けた。
﹁さて、まずは聞きこみかしら?﹂
39
道端の草3
喫茶店の朝は遅い。と言っても、この店しか知らない啓一には他
の店がどうなっているのかは分からない。啓一の務める﹃カフェ・
ソノ﹄の朝は遅いのだ。
十時半に出勤して、開店準備に三十分をかける。店内の掃除やら、
食材のチェックやら、遅いとは言え、朝の仕事は意外と多い。
カウンターの掃除を終え、啓一は窓にかかった薄手のカーテンを
開けた。南向きの窓からは、直接ではないがとてもよく光が入った。
チラリと時計を確認する。壁にかかったアンティークの時計は古
めかしい音を立ててゆっくりと針を動かしている。時刻は十一時五
分前だった。
開店を間近に迎え、啓一は店内を見渡し、最終確認をした。床に
モップをかけた。食材のチェックをした。テーブルを拭いた。カウ
ンターの掃除もした。コーヒー豆の焙煎は、後でいいとして、後は、
と入口わきにしまった立て置き看板を取り出す。
入口の鍵を開け、閉店時に店内にしまう立て置き看板を外に出す。
これで開店準備は完了だ。
店内に戻る際に、ふと目の前の通りに目をやると、片側一車線の
道を挟んで向かいの歩道に人の姿が見えた。コチラを伺うようにし
て経っている人影は、まさしく先日店に来た﹃あきらかに堅気では
ない人﹄だった。
店を覗きこむようにして鋭く睨む視線と一瞬目があった啓一は、
慌てて目を伏せ、隠れる様にして店内に戻った。
﹁どうしたの?﹂
40
怯える様に肩をすくめた啓一を不審に思ったのか、オーナーの村
井由香里が訊ねた。
﹁いや、あの⋮⋮オーナー覚えてます? こないだ来た堅気じゃな
さそうな男の人﹂
﹁ああ、あの人ね。悪い人じゃなさそうだったけど﹂
﹁あの人が開店前からこっちを伺っていたみたいで、今、目が合っ
ちゃいました﹂
そう言った途端に、先ほどの鋭い視線を思いだし、啓一は小さく
身震いした。
生来の不運により、事件や事故に巻き込まれる事の多い啓一は、
その不運の副産物として、危険を察知する能力に長けていた。危険
な人物は、ある程度体の内側から来る震えとして教えてくれる。そ
の震えを感じる相手には、なるべく近寄らないのが一番だった。
﹁人は見た目で判断しちゃダメって言ったじゃない。話してみれば
悪い人じゃないことだって多いんだから﹂
困ったような顔でそう言い聞かせる村井に啓一もまた困った顔を
した。この感覚は伝えようとしても、伝えられるものじゃない。
﹁すいません﹂と後ろから声がして、啓一は文字通り飛び上がるほ
ど驚いた。
振り返るとそこには、あの﹃堅気じゃない人﹄が立っていて、見
下ろす形で啓一を睨んでいた。
いつ入ってきたのかも解らなかった。入口にはドアベルが取り付
けてある為、開けば必ず分かるようになっているのだが、ドアが開
いた事も、ドアベルが鳴った事も分からなかった。あるいは壁をす
り抜けてきたんじゃないかと疑いたくなるほど、声がかけられるま
で男の気配には気がつかなかった。
﹁いらっしゃいませ。何にします?﹂
何事も無かったかのように村井は笑顔を作り、男を席へと誘導し
た。それに続いて男も足を動かす。
啓一の横をするりと通り抜けた。啓一よりも頭一つ大きく、肩幅
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も広い。存在感は大きいのに、その存在は幽霊のように曖昧で、横
を通る際も、まるで風が吹き抜けたのかと勘違いしてしまうほど、
男の動きは緩やかだった。
﹁コーヒーを﹂と注文して、椅子に腰かける。そしてぐるりと店内
を見回し﹁あの、﹂と言った。
﹁あの、いつも来る男は、常連ですか?﹂
その質問には啓一だけではなく、カウンターに戻りかけた村井に
も怪訝な顔をさせた。と言っても客商売が身についた村井が見せた
怪訝さと啓一が見せた怪訝さでは天と地ほどの開きはあったが。
男が口にした﹃いつも来る男﹄が誰を指すのかは、啓一にも分か
った。
この店の常連と言える人物は限りなく少なく、その中で男と言え
ば、それはもう黒田しかいないからだ。
﹁いつも来るって言うのは、黒田君の事かしら?﹂と村井は、男に
ではなく啓一に確かめた。啓一も、黙ってうなずく。
﹁そうですか、黒田⋮⋮さんと仰るのですね﹂
男は眉間にしわを寄せ、小さく頷いた。黒田、ともう一度呟く。
低く、ひどく澄んだ声だった。
﹁なぜ、そんな事をお尋ねになるのかしら?﹂
笑顔を装い、村井が訊ねる。人を見かけで判断しない村井も、そ
の質問にはさすがに怪しんだようだった。
﹁いえ、申し訳ありません。個人的な事ですので﹂
そう言って男は座ったままテーブルに額をぶつけるくらいの勢い
で頭を下げ、それ以降一切口を開かなかった。
﹁やっぱり怪しいですよ﹂
閉店後、汚れた食器を洗いながら、啓一は村井に話しかけた。
﹁あの人ね? うん、確かにちょっと変よね﹂
42
レジを閉め、売上を計算していた村井も、啓一の言葉に手を止め、
手を顎にやり、考えるポーズをとる。
﹁なんで黒田君の事を訊いたのかしら? 個人的な事って言ってた
けど、個人的なら黒田君の名前くらい知っていてもおかしくないの
にね﹂
﹁黒田さん、何かあったんですかね? ⋮⋮借金とか? あ、でも
借金取りなら名前は知ってるか⋮⋮﹂
啓一はあの男が一度だけ口にした質問の意味を考えた。
考えに集中するあまり、皿を取り損ねて、危うく割ってしまう所
だった。しかしいくら考えてもあの男の質問の意味は分からず、頭
をひねる。
なぜ黒田の事を訊ねたのだろう? 名前も知らない黒田の事をな
ぜあの男は気にしていたのだろう?
﹁まさかとは思いますけど、もしかしてホントに連続殺人犯だった
りして﹂
冗談めかして言ってみる。しかし言った途端、啓一はそれこそが
正解のように思えて余計に恐くなる。
﹁まさか、いくらなんでもそれは無いわよ。そもそも連続殺人犯が
どうして黒田君の事を訊くの?﹂
﹁それは、次のターゲットに選んだ、とか?﹂
﹁縁起でもない事言わないでよ﹂村井は顔をしかめた。
﹁確かに、ちょっと様子は変だったけど、そんなに悪い人じゃない
わよ。少なくとも連続殺人犯なんかじゃ、絶対無いから。わたしの
人を見る目は結構確かなのよ﹂
村井は左手に現金を持ったまま、ニヤリと笑った。その顔だけみ
るとまるで金を奪いに来た強盗のように見えるから不思議だ、と啓
一は思った。柔らかな笑顔の長閑な村井でさえ、そんな風に見える
のだから、あの男も雰囲気が怪しいからと言って、それだけで悪人
と決めるのは早計なのかもしれない。そう思う事にする。考えすぎ
43
だ、と。
不意に襲ってきた一抹の不安を拭い、啓一は残りの皿を手早く洗
った。
﹁テレビでもつけようか?﹂
閉店作業後、店舗の二階にある村井の自室で夕食を御馳走になっ
ていると、音がない事に飽きたのか、村井はテレビをつけた。
リモコンの信号を受けた薄型テレビは、画面を明るくすると同時
に、驚くべきニュースを伝えた。
﹃昨日未明、××区のアパートで女性の遺体が発見されました。被
害に遭われたのは、金子詩織さん二十四歳で、自宅のアパートに居
たところを何者かに襲われ、殺害された模様。警察は連続殺人の可
能性もあるとみて、犯人の行方を追っています﹄
このニュースには、村井の作った絶品料理に舌鼓を打っていた啓
一も思わず箸を止めた。画面を食い入るように見つめる。映像に映
る被害者のアパートには見覚えがあった。
﹁これって、すぐ近くじゃないですか?﹂
画面を凝視したまま村井に訊ねる。
﹁そう? 違うんじゃない?﹂
のんきに箸を動かす村井と対象的に啓一は確信していた。カメラ
が移動し、見覚えのある建物が映る。現場は﹃カフェ・ソノ﹄があ
る通りの一本裏で、啓一が毎日通う道だった。
﹁ホラ、すぐ裏の通りですよ!﹂
﹁あら、ホントねぇ。全然気付かなかったわ﹂
﹁俺も、今日通った時は気にもしてませんでした。まさかこんな近
くで⋮⋮﹂
その瞬間、もしかするとこれは自分の不運がもたらした事件なの
ではないかと、頭をよぎった。とうとうこの不運が周りにまで影響
44
を及ぼすようになってしまったのではないか、と。
啓一は箸を置き、慌てて窓へと駆け寄った。西側の窓からなら、
現場が見えるかもしれない。カーテンを引き開け、勢いよく窓を開
け放ち、身を乗り出す。
通りには所々街路灯が灯って入るが、隣のビルが邪魔で良く見え
ない。ニュース画像は今日の昼間のようだが、今現在は静まり返っ
ていた。
﹁どう? 見える?﹂
村井はテレビを見ながら啓一に訊ねた。窓を閉め、首を振る。
﹁見えません。でも今は静かですね﹂
﹁ねぇ、このアパートって黒田君の家と同じよね﹂
村井は眉をひそめてテレビを指差した。
その通りだった。だからこそ啓一は慌てた。
昼間、黒田の事を訊ねた男、そして昨日起きた事件。この二つが
繋がっているような気がしてならない。その瞬間、啓一の頭に一つ
の仮説が閃いた。
もしかしてこの被害者は間違えて殺されたんじゃないか?
﹁俺、ちょっと黒田さんの所行ってきます﹂
そう言い残して啓一は部屋を飛び出した。とにかく黒田の安否が
心配だった。
店を出ると、すぐ脇に細い路地がある。飲食店や商店が立ち並ぶ
通りだけに、路地にはゴミバケツや不要物で溢れていて、普段なら
通らないのだが、この道を行くのが最短だ。
迷うことなく路地を進み、裏の通りへ出る。路地から出る際にゴ
ミバケツを一つ倒してしまったが、幸いあまりゴミは入っていなか
った。
薄暗い街路灯をいくつか挟んで、黒田の、事件の現場となったア
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パートがある。
今はひっそりと静まり返っているが、警察が来た形跡があった。
二階の一室に黄色いテープが張られている。黒田の部屋は、その隣
だった。
玄関側からは黒田が部屋に居るのかどうかが分からず、所在を確
認する為、啓一は階段を上った。
錆の浮いた階段は一歩足を置くたびに、カンカンと音を響かせる。
静まり返ったアパートに啓一の足音だけが響いていた。
黄色いテープの貼られた玄関を慎重に通り過ぎ、隣の部屋の前に
立つ。呼び鈴を鳴らそうと手を伸ばすと同時に背後から声がして啓
一は肩をすぼめた。
﹁こんな時間に、何の用ですか?﹂
低く、ひどく澄んだ声の主は、あの﹃堅気じゃない男﹄だった。
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心の月3
女は、いつだったか士郎が仕事場所に選んだ浮浪児たちのねぐら
となっている廃屋に住んでいるようだった。二、三日しか張り付い
ていないが、毎日この廃屋に帰ってくるのだから間違いはない。
浮浪児にしては身なりが綺麗だが、おおかた人には言えない仕事
をしているのだろう。それなりの器量はあるのだから買い手も多い
はずだ。
朝、夜明けと共に浮浪児たちが一斉に廃屋から出て来る。彼らの
仕事はゴミ拾いだ。夜の内に盛り場に溜まったゴミを拾い、わずか
ばかりの報酬を得る。昔も今も彼らの暮らしは変わらない。ゴミを
集めて得る一握りの金が彼らの生命線だった。
女が子供達を見送っていた。真っ赤なワンピースが手を振るたび
にひらひらと揺れている。まるで血の色だ。真っ黒に塗りつぶした
はずの過去が、彼らを見ているとどうしても過ってしまう。それは
士郎にとって思い出したくもない過去だった。
士郎が初めて人を殺したのは言わば正当防衛だった。自分の身を
守るため、実の親のように慕っていた神父を士郎はその手にかけた。
産まれたばかりで教会に捨てられていた士郎を神父は実の子供の
ように育ててくれた。優しく慈愛に満ちた神父と暖かな人達の集ま
る神聖な教会で、士郎は疑う事など知らずにまっすぐに育った。幼
少時代の士郎は間違いなく幸せだった。
線の細かった士郎は近所でも評判の美少年だった。士郎目当てに
教会には人が集まり、士郎が檀上に立てば歓声が上がった。大人し
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い性格だった幼少時の士郎は周りにちやほやされるのは苦手だった
が、神父の役に立ちたい一心で客寄せピエロを懸命に演じた。だが、
その容姿のおかげで士郎は信頼していた神父と幸せな生活の両方を
失う事になる。今にして思えば随分と滑稽な幼少期だった。
幸せに満ちた士郎の記憶にノイズが入るのは十二歳の誕生日から
だ。
その日は協会に集まった近所の人々が、士郎の誕生日を盛大に祝
ってくれた。たくさんの人に祝福されたこの日は間違いなく士郎の
人生で最良の日になるはずだった。
その夜、神父の自室に呼ばれた士郎は、大好きな神父からお祝い
の言葉でももらえるのかと、意気揚々と部屋に入った。しかし待っ
ていたのは信頼していた神父とは程遠い獣のような男だった。あろ
うことか、昼間は神父として人々に神の教えを説いている男が、そ
の実夜な夜な男子を食い物にしていたのだ。その日から毎日のよう
に神父から辱めを受ける事になる。
まっすぐに育った士郎は何事も受け止めるのが早かった。そして
まっすぐゆえに、善悪の区別がはっきりしていた。親同然に慕って
いた神父の裏の顔を知った士郎は、心の一部を闇に沈めた。
世界は光に満たされ、悪の栄えることはない。そう教えたのは誰
あろう神父だ。ならば悪は駆逐しなければいけない。目の前でのた
うちまわる神父を見下ろしていた士郎の手には血まみれの包丁が握
られていた。あの誕生日の夜から丁度二カ月後の事だった。
その日も神父は士郎の体を弄ぶ為に呼びだした。まさか殺される
とは思いもしなかったに違いない。だが、士郎は初めから殺すつも
りだった。否、悪を駆逐するつもりだった。
いつものように自ら服を脱ぎ、抱きついてきたところを一突きし
た。意外とあっけなく包丁は神父の腹にめり込み、耳元で今まで聞
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いたこともない声を出して神父は呻いた。
足元で芋虫のようにのたうつ神父を見ても、士郎の心は動かなか
った。一つ世の中から悪が消えるだけだ。臭い液体を垂れ流し蠢く
物体を見下ろし、聖堂から聴こえるアヴェマリアに合わせて口ずさ
む。
あの歌を唄っていたのは誰だったのだろう? あれ以来いつも頭
の中にアヴェマリアが繰り返されていた。それほど強烈な印象を受
ける歌声だった。
教会をでた士郎は浮浪児達の仲間入りをした。古い廃屋に子供ば
かり十五、六人で住みつき、狭い部屋で重なり合うようにして生活
をした。なんの力も持たない子供たちは、もれなく同じ運命を辿る
事になる。朝起きてゴミ拾いに出かけ、はした金を貰い、帰ってく
る。もちろんそんなもので飢えをしのげるはずもなく、ある者は飢
えて死に、ある者は耐えきれず自殺し、またある者は罪に手を染め
権力に殺された。
極限の世界で生きるためには何でもするしかなかった。真っ白だ
った士郎の心は、黒く、黒く塗りつぶされ、やがてわずかな隙間も
ないほど真っ黒に塗りつぶされた。
そんな生活を二年もつづけた頃に出会ったのが日野だった。
﹁お前、いい目をしているな﹂
初めて会った士郎に、日野は一言目にそう言った。この汚らしい
大人がどういう目的で自分に近づいてきたのか、そんなことはどう
でもよかった。士郎にとって重要なのはコイツが金を持っているの
かどうかだ。
ポケットに忍ばせたナイフに手を伸ばすと、日野は士郎の腕を掴
んで豪快に笑った。
﹁そいつを使うのは今じゃねぇな﹂
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そしてそのまま士郎の腕を引っ張り、歩きだした。
﹁俺んとこに来いや、仕事をくれてやるよ。金が欲しいんだろ?﹂
﹁仕事は? 殺し屋さん﹂
女の声で士郎は薄暗い過去から現実に戻った。目の前には前髪を
綺麗に切りそろえた少女が立っている。真っ赤なワンピースが嫌に
眩しかった。
﹁お前は俺を知っているな?﹂
まっすぐ見つめる大きい瞳に訊ねると、大きい瞳を細くして﹁う
ん﹂と答えた。
﹁あの後掃除が大変だったんだから。床は真っ赤っかだし、警察の
人いっぱい来るし、子供たちの居場所は無くなっちゃうし﹂
﹁それは悪い事をしたな﹂
やはり見られていたか、と士郎は腕を組んだ。見られていた以上、
早めに何とかしなくてはならない。
﹁ううん、いいの﹂
そう言って女はその場でくるりと回った。
﹁あのおじさん嫌いだったから、殺してくれて感謝してるの。だっ
てあのおじさんうちの子供に悪いことしたんだよ﹂
悪い事、と聞いて﹁ああ、なるほど﹂と思わず漏れた。
﹁世の中にはいるんだ。どうしようもない人間ってやつが﹂
﹁それを掃除するのが殺し屋さんの仕事なんでしょ?﹂
﹁いくら掃除しても湧いてくる。奴らはゴキブリみたいなもんだ﹂
吐き捨てるようにそう言うと、女は頑張ってねと士郎の手を取っ
た。
﹁お前、自分が言ってる事分かってるのか?﹂
お前が言ってるのはもっと人を殺してくれと言っているようなも
のだぞ、と言外に訊ねる。意味が通じたのかどうかは定かではない
が、女は﹁わかってるよ﹂と笑った。
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﹁殺し屋さんがいてくれれば、うちの子たちも少しは安心して暮ら
せるようになるかもしれないから﹂
ふん、と鼻を鳴らして士郎は﹁もういい﹂とため息交じりに言っ
た。
﹁士郎だ。俺を殺し屋と呼ぶんじゃない﹂
﹁シロ? 犬みたいだね。わかった、これからはシロくんって呼ぶ
ね﹂
じゃあね、シロくんと手を振って女は特徴的な長い髪を揺らしな
がら去って行った。シロか、と呟く。名前を訂正するのも面倒だっ
た。
女の消えた路地を士郎はじっと眺めた。まばたきをすると、軽快
に揺れる長い黒髪がまだそこにいる様な気がする。あの長い黒髪を
血でドロドロにしなくてはならないのかと思うと、少しだけ気が重
くなった。
﹁もしもし﹂と声をかけられたのは、それから間もなくのことだっ
た。
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メデューサの瞳4
声をかけてきたのは頭を金色に染めた若い男だった。
マスターから得た情報をもとに、仕事帰りに少しずつ聞きこみを
始めた矢先のことだ。仕事が終わるのが日が落ちてからの為、必然
的に聞きこみも夜になってしまい、あまりはかどってはいなかった。
その為、三浦はともかく、祥子は少なからず苛立っていた。そんな
中、若い男は外見に違わぬ不遜な態度で﹁おい﹂と言った。
﹁お前らなにを嗅ぎまわってんだ?﹂
思わず祥子と三浦は目を合わせた。若い男の登場に驚いた訳でも、
気が退けたわけでもなく、ただ自分たちに対して高圧的な態度にで
る目の前の若者が可笑しくて、思わず笑ってしまう。
﹁なにって、ねぇ?﹂三浦が目配せをする。
﹁ふむ。大したことではないわ﹂祥子は頷いた。
二人の反応があまりに薄かった為、若者は立ちくらみでもしたよ
うにふらっとよろめいた。あわてて目に力を入る。睨んでいるのだ
ろうが、よく見ると幼さの残る顔立ちをしていてあまり迫力は感じ
なかった。一重のまぶたは頑張って大きく見開いているのだろうが
どう見ても眠たそうだし、ほおの内側に何かを詰め込んでいるんじ
ゃないかと思うほど膨らんだ頬のせいで輪郭が丸い顔は、髪を金色
に染めていなければ某有名子供向けアニメの顔がパンでできたキャ
ラクターにそっくりだった。
仕方ない、この金髪をからかってほんの少し憂さ晴らしをしよう、
と心に決める。この目の前に現れた金髪が憎たらしい訳では決して
ない、むしろ幼さの残る顔立ちは好印象にも見て取れたが、いかん
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せん祥子は機嫌が悪かった。
﹁お前ら、バカなのか? 普通ビビるだろ﹂
﹁なぜ?﹂
﹁なぜって、よく見ろよ! どう見てもオレ、カタギじゃねぇだろ﹂
若い男は苛立ちのあまり立ったまま貧乏ゆすりを始めた。その仕
草がまた可笑しくて祥子は思わず口元に笑みを浮かべた。
﹁頑張ってチンピラ止まりかな﹂
﹁んー、僕から見ればヤンキーくらいですかね﹂
﹁チンピラとヤンキーは何か違うのか?﹂
ふと思い立った疑問を三浦にぶつけてみる。三浦は﹁さぁ?﹂と
首を振った。
﹁響きの違いですかね、やってる事は大して変わらないでしょうし、
チンピラとヤンキーでは何となくヤンキーの方が格下な感じがしま
せんか?﹂
﹁そんなものか。キミはどう思う?﹂
﹁おまえらおちょくってんのか!﹂
思わずその通りだと言いそうになるのをぐっと堪えて、祥子は﹁
何か用があるのかしら?﹂と訊ねた。金髪はからかい甲斐があった
が、今にも堪忍袋の緒が切れてしまいそうな雰囲気に、キレられた
ら面倒だな、と思った。まぁ、三浦がいる限り大事に至る事は無い
だろうが。
﹁お前らヤクザなめんなよ。俺らを見かけたら目をそらす、因縁つ
けられたら謝る、殴られたら泣きねいる。それがお前ら一般人の正
しい行動だろうが﹂
﹁そんな事誰が決めたのかしら? お前はそれほど偉いのか?﹂
﹁世間一般がそうなってんだよ。殴られたくなかったらお前らもそ
うしろよ﹂
﹁確かに、それがお前の仕事なのかもしれないけど、あたし達がそ
れに従わなければいけないという法律は無いわ。それに︱︱﹂
祥子は金髪の後方、少し離れた場所でガードレールに腰をおろし
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てコチラを伺っている男に目をやった。
﹁あたし達に用があるのはお前じゃなくて、あっちの男よね?﹂
そうよね、と遠巻きに見ていたスーツの男に声をかける。すると
男はゆっくりと目を動かして二人を見回した。
﹁まったく、素人さん相手になにをやってるんだか。そんなんじゃ
お前ぇ出世できねぇぞ﹂
ひょろりと背の高い男は気だるそうにゆっくりと足を動かし近づ
くと、若い男の金髪に手を置いてぐしゃぐしゃと掻き回した。
﹁すんません、若村さん﹂
﹁ねぇさんもねぇさんだ。ちょっと顔が良いからって、あんまり世
の中を舐めてもらっちゃ困る。世間は美人に優しい人間ばかりじゃ
あ、ねぇんだよ﹂
男の眼光は鋭く、目を合わせると背筋に寒いモノが走った。三浦
の体に緊張が走るのが分かる。なるほど、これが本物のヤクザか、
と初めて接触した人種を見定める。初めからこの男が声をかけてき
たら、あるいは対応も違ったものになっていたかもしれない。そう
考えて自分が後ずさりしそうになっている事に気付いた。
﹁あたし達に何の用かしら?﹂
一呼吸おいて、男をまっすぐに見据える。
﹁ほぅ︱︱﹂
自分を前にして表情を変えない祥子を見て男は小さく声を上げた。
﹁なるほど。失礼をしたのはこっちのようだ。すまないね、あんた
の相手はこいつじゃあ無理だ﹂
そう言って若い男を後ろへ突き飛ばし、男はじっと祥子の顔を覗
きこんだ。
﹁いい眼をしてる。ねぇさん、あんた何者だい?﹂
男に睨まれながらも祥子はまっすぐに立ち、怯むことなくじっと
男の目を見返した。
﹁変に買いかぶられても困るわね。あたしはただのOLよ﹂
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刃物の切っ先を突きつけられているようなただならぬ緊張感に三
浦は体を震わせていた。男はひょろりと背が高いだけでガタイがい
いわけでもなく、例えば、空手の先生から教わって以来二十年近く
毎日練習を重ねた突きを一つ入れれば簡単に崩れてしまいそうなの
に、そうできない自分がいる事に驚いていた。男の持つ雰囲気が言
い知れぬ迫力を備えていた。頭で考える事とは別に体が必死に警告
を発しているようだった。まともにやり合えば危険だと。
﹁OLね⋮⋮﹂
男はスローモーションのようにゆっくりと口の端を持ち上げると、
突然高らかに笑い声を上げた。
突然の出来事に唖然とする。そんなに爆笑するような事言ったか
? と祥子が目で訊くと、三浦は無言で首を振った。
﹁いや、すまない。部下の手前ちょろっと格好つけてみたんだけど、
やっぱり駄目だ。思わず笑っちまった﹂
あー肩凝った。と呟いた男の目からはすでに鋭さは消えていた。
大きい口を真横に広げてにこやかに笑っている。
﹁しかし、あんたも度胸があるね。俺も必死に眼力を入れてみたん
だけど全く怯まない。ねぇさん、あんたカタギにしとくのはもった
わかむらこうへい
いないよ﹂
俺は若村公平だ、とポケットから手を出し握手を求める。祥子も
名前を名乗って握手に応じた。
﹁あなた達は黄龍会の人間ね?﹂
単刀直入の質問に若村は気軽に﹁そうだよ﹂と答えた。
﹁どうやらねぇさんには初めからばれてたみたいだな。じゃあ、俺
たちが奴を追ってる事も知ってるな?﹂
﹁ええ、聞き伝だけどね。あたし達に用っていうのはその事なんで
しょ?﹂
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若村は大きく首肯すると、話が早いねと祥子の肩を叩いた。
﹁奴はうちの人間に手を出しちまった。俺たちはまがりなりにも暴
力で食ってるからな、けじめは取らなきゃいけねぇんだ。あんたら
がどんな理由で奴を探してるのかは知らねぇけど、手を出さないで
くれや﹂
にこやかに話しながらも、肩に置いた手には徐々に力が込められ
る。
﹁ねぇさんにも腕の立つ護衛がいるみたいだけど﹂と三浦を横目で
ちらりと窺った。祥子の肩に置かれた手を離そうと三浦が動こうと
した矢先だった。
軽く見られただけで躊躇が生まれる。まるで祥子の持つ力と同じ
ような感覚を三浦は覚えた。もっとも祥子の眼のように動けなくな
るほどではないが。
﹁さて、そういうわけにもいかないわ﹂
静かに祥子が口を開く。腕を組み、あくまで態度を変える気はな
かった。
﹁あたし達も知り合いを殺されていてね。可愛い後輩がどうしても
自分の手で捕まえたいと訴えているのよ。なら、手伝ってあげるの
が筋でしょ? あなた達の事情はそこには全く関係ないわ﹂
﹁あんたならそう言うと思ったよ。だがねぇ、俺たちも、はいそう
ですかと引き下がれねぇんだわ。これ以上首を突っ込むつもりなら、
少し痛い目を見てもらうしかないんだけどね﹂
若村の後ろで金髪の若い男がナイフを取り出した。反射的に先手
を打とうとする三浦を手で制して、祥子はより一層背筋を伸ばした。
﹁残念だけど、この男はナイフくらいでは驚きはしないわ。今すぐ
引っ込めなさい﹂
祥子の毅然とした言葉に金髪は明らかに動揺し、恐怖の表情を浮
かべた。この程度ならやりやすいのに、と若村のポーカーフェイス
を睨む。さすがにこの男に子供だましの言葉や仕草は通用しないだ
56
ろう。
﹁あたし達としても、黄龍会さんと揉めたくは無いわ。若村さんで
したわね、この場はあなたの言う通りにしましょう﹂
そう言って軽く頭を下げる。すると若村は祥子の肩から手を離し
て、うむ、と頷いた。
﹁理解が早くて助かるよ、俺もあんたみたいな綺麗なねぇさんを殴
りたくはないからね﹂
満足げな若村の声を頭上に聞きながら、祥子は﹁でも﹂と言った。
﹁あたし達とあなた達の目的は一緒よね? あたし達はまだ捜索を
始めたばかりで、まだなにも情報が無いのと同じなのよ﹂
顔を上げると若村は目を丸くしていた。一体祥子が何を言いたい
のか全く分かっていないようだった。回りくどすぎたかな、と祥子
は苦笑する。そう言えば前に、三浦にも分かりにくいと言われた事
があったな、などと考えてしまう。
﹁見ての通り、あたし達は二人。でもあなた達は全国に支部を構え
る大きな組織よね? その黄龍会さんが、あたし達と同じ場所にい
るって事は、まだあなた達もロクな情報を掴んでいない証拠よね﹂
そこまで言ってようやく理解したのか、若村の顔から余裕が消え
た。後ろで金髪がてめぇ、と声を荒げているが祥子は構わず続けた。
﹁あたしの言いたい事、あなたなら分かるでしょ? 若村さん。あ
たし達は協力できるんじゃないかって事なんだけど﹂
それは一種の賭けだった。マスターから黄龍会が犯人を追ってい
ると聞いた時から、いずれは黄龍会とかち合う事は避けられないだ
ろうと思っていた。思っていたよりも早くその時が訪れたが、考え
ようによってはこの方が都合がいい。
まともに衝突すれば間違いなくただではすまない。下手をすれば
殺されてしまうかもしれない。人をたった二人くらいなら抹消出る
くらいの事は黄龍会ならば造作もない事なのだ。衝突しないために
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はどうするか? 利用すればいい。その為にはお互いの立場はでき
るだけイーブンの方が交渉しやすかった。もちろん黄龍会よりも多
くの情報を持っているのが理想的ではあるが、情報量が同じなら言
い含める自信が祥子にはあった。あとは、この話に若村が乗ってく
れれば良し、だ。
﹁ねぇさん、あんた何者だい?﹂
﹁言ったでしょ。あたしは、ただのOLよ﹂
この男なら乗ってくるはずだ。損得や利益だけじゃなく、興味と
余興に楽しみを覚えるタイプだと、祥子は確信していた。
はたして、若村は﹁面白いねぇ﹂と呟き、にんまりと口を広げた。
﹁素人が本職を使おうってか。いいねぇ、気に入ったよ﹂
﹁誤解されては困りますわ。あたしは協力しましょうって言ってる
のよ﹂
﹁あんた、大したタマだよ﹂
何か分かったら教えてくれや、と連絡先を渡して若村は踵を返し
た。金髪がおろおろと後を追いながら﹁いいんですか?﹂と若村の
顔を伺ったが、若村は﹁いいんだよ﹂と一喝した。
少し歩いてから、はたと立ち止り、祥子達の方を振り返ると、負
け惜しみと言う事もないだろうが、若村は﹁ねぇさん達も掴んでる
かもしれねぇけど﹂と前置きをして、祥子が初めて聞く情報を口に
した。
﹁奴さん、この界隈の年寄り連中からこう呼ばれてるらしいぜ。﹃
夜行の再来﹄ってな﹂
夜行? と聞き返した時にはすでに若村達は遠くに停めてある車
に向かって歩き出していた。
黒塗りの車が走り去るのを見送ってから、三浦は不満げに口を開
いた。
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﹁なんで協力するんですか。あいつらヤクザですよ?﹂
﹁正義の味方には耐えられないかもしれないけど、海に沈められる
よりはマシでしょ?﹂
そりゃあ、死にたくは無いですけど。と納得のいかない顔で目を
そらす。それ以上強く言わないのは自分でも事態が飲みこめている
証拠だ。
﹁なんでいつものようにあの力を使わなかったんですか?﹂
納得できない三浦の最後の抵抗は、祥子の胸に小さく穴を開けた。
﹁⋮⋮使ったさ﹂と小さく呟く。
﹁何か言いました?﹂
最初から最後までいつものように睨み続けたにも関わらず、若村
には一切祥子の不思議な力は通じなかった。こんなことは祥子にと
っても初めてだった。
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PDF小説ネット発足にあたって
http://ncode.syosetu.com/n6770be/
インターセクション
2013年10月1日03時13分発行
ット発の縦書き小説を思う存分、堪能してください。
たんのう
公開できるようにしたのがこのPDF小説ネットです。インターネ
うとしています。そんな中、誰もが簡単にPDF形式の小説を作成、
など一部を除きインターネット関連=横書きという考えが定着しよ
行し、最近では横書きの書籍も誕生しており、既存書籍の電子出版
小説家になろうの子サイトとして誕生しました。ケータイ小説が流
ビ対応の縦書き小説をインターネット上で配布するという目的の基、
PDF小説ネット︵現、タテ書き小説ネット︶は2007年、ル
この小説の詳細については以下のURLをご覧ください。
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