和泉 真澄准教授

工学部
世の中では…
コンピュータ制御で加工を行う
「NCマシン」
は、
モノ作りになくてはならない存在。
そしてNCマシンが正確
な加工を行えるかどうかは、素材を実際に削ったり穴を開けたりする刃物
(エンドミル)
の精度にかかってい
る。
このエンドミルが、
もっと手軽に、
かつ正確に測定できないか…。
そこから和泉先生の研究が始まった。
知能機械工学科
和泉 真澄 准教授
I Z U M I
M A S U M I
高速回転中のドリルを、
僅か0.1mmのワイヤで測る?
「測る」
ことは
「作る」
こと。
どちらも重要だ!
設計図通りに板を切り、組み
立て、さあ本箱のできあがり…
あれ? 板と板の間がビミョーに
空いている。「寸法を1ミリ間違
えた!」。ま、いいかと使っている
と、たいていその「間違えた」
箇所が壊れる。「測る」というこ
とは物を「作る」上で、とても
大事なのだ。 和泉先生は、そ
の「 測る」 の専 門 家。 でも、
測るといってもいろいろあるけど
…。
「私が測るのは刃物。と言っ
ても包丁やナイフではありませ
ん。 超硬度鋼で作られた、機
械部品などの加工に使う、ドリ
ルみたいな形の刃物です」。
自主開発の測定器で
特許まで取得
例えば、ボルトは最初からあ
んな形ではない。鉄などの素材
を必要な形に削って、初めてボ
ルトになる。 素材加工はNC機
という工作機械が行う。NC機
は刃物を持っており、それを回
転させて素材を削り、穴を開け
る。この刃物(エンドミル)が
エンドミルを測定するシーン。 測定装
置が離れてはくっつき、離れてはくっつ
きを繰り返して形状を測定する。この
大きさのエンドミルなら、測定にかかる
時間は10分くらいですむ。
先生のひとりごと
国内だけでなく、
海外の
メーカーからも問い合わせが
これが和泉先生の開発した
「エンドミル輪郭測定装置」。
ご覧のように思ったよりも小さく、
手でも持ち運べる。画面中央の円上にやや突起している箇所が測定部になる。
「一番苦
労したのは、
ガイドの部分の作製ですね。0.1mmの極細のワイヤを通すためだから、
ガイド
も0.1mmに対応しないといけない。でもこんなに細い穴や溝は加工が難しいんですよ」。
「糸巻き状にしたワイヤを片方
の筒状ガイドから引き出し、円
の溝に巻き付けて、もう片 方
のガイドへ引き込みます。この
ワイヤを回転する刃物に押しつ
け、AEセンサに検知させること
で、刃物の輪郭を測定するんで
す」。
え? 回転中の刃物にワイヤ
をあてたら、切れちゃって測定
不能…なんてことにならないんで
すか?
「切れますよ。切れたら新しい
ワイヤを引き出せばいい。 細長
いワイヤを糸巻き状にしたのは、
そのためです」。
先生はこの装置で特許まで
取得している。しかしその作りは
…割と簡素だ。
「単純ですよ。アイデアさえあ
れば、高校生にも作れます」。
特許を取った装置が高校生
に作れる? それはスバラしい!
先生の測定対象だ。
「エンドミルが不正確だと、素
材が設計図通りに削れません。
最近はミクロン単位の部品加工
も増え、誤差が許されない。エ
ンドミルを正確に測ることは、例
えば携帯電話などを正確に作
ることに直結するんです」。エン
ドミル測定機器には、測定物
の影を投影させるタイプやレー
ザー光を利用するタイプがすで
にある。しかし、投影機タイプ
は100分の1mm が限界。レー
ザータイプは高価だし、NC機を
停止させた状態でしか測定でき
ない。そこで先生は測定機器を
開発した。
「私のは1000分の1mm ま
で対応できるし、エンドミルを回
転させた状態で測れます。 太さ
0.1mm という超極細のタングス
テン製ワイヤを利用するんです
よ」。
ワイヤを? どうやるんですか?
和泉先生の測定装置は国内
にとどまらず、韓国など海外の
メーカーからも問い合わせが来
ているらしい。
「自分のアイデアで一つのモ
ノを作り上げるというのは、まさ
にベンチャーですよね。 私は学
生に、こうしたベンチャー精神を
持って欲しいんです」。
ワイヤを使ったエンドミルの形
状測定は成果を挙げた。さて次
の狙いは?
「高速回転で素材を削るエン
ドミルには、膨大な力がかかっ
ています。 次はこの『力』の
測定に挑戦してみたいですね」。
和泉先生は『こんな測定装
置を作りたい』
という話をする時、
目がキラキラしている。発明家っ
てきっと、みんなこんな感じなの
だろうなあ。
重要用語解説
【ミクロン】
長さを表す単位。
1ミクロンは1000分
の1mm。マイクロメーターとも言う。
【タングステン】
金などと同じ純金属。炭素と結合する
とダイヤモンドに次ぐ硬さを持つため、
耐久性を要求される場合に使用され
る。
【AEセンサ】
アコースティック・エミッション・センサ。
いわゆる超音波センサで音を感じとる。
フレームの強度調査などに使われる。
NC機は部品加工も行うが、
それ以上に精度を要求されるのが「金型」加工。金型とは簡単に言うとたい焼き機のようなもので、
部品を大量に生産するた
めのおおもとだ。精密加工分野では、金型にミクロンの精度が要求される。
それだけに、
エンドミルの正確性が大事だ。
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