復興市街地整備事業におけるCM方式の活用

特集 公共事業の新たな事業手法の推進と事業評価
復興市街地整備事業におけるCM方式の活用
なか
みち
けい
た
中 道 啓 太*
URでは東日本大震災復興特別区域法の規定に基づき、被災市町村からの委託により、被災市街地の現
地復興や高台移転等のため、土地区画整理事業、防災集団移転促進事業、津波復興拠点整備事業等を実施
している。本稿では、早期整備に向けてURが試行導入しているCM方式の概要を紹介する。
1.はじめに
事業を進めていくには、次のように多くの課題が
東日本大震災による被災規模は極めて大きく、広
あった。
範囲にわたるものである。また被災市町村では、こ
①工事規模が極めて大きい
れまで経験したことがない大規模な工事が大量かつ
②高台移転地の整備内容を確定するまでには長期
間を要する
同時に発生する一方、まちづくりの技術者が不足し
ている。URでは国や被災市町村からの要請に基づ
③高台移転地は岩盤主体の急峻な地形であり、発
いて、復興市街地整備や災害公営住宅建設の復興ま
注精度をあげるためには綿密な地盤調査や地形
ちづくり支援を行っている(表−1)が、復興市街
測量が必要である
④URの人的資源にも限りがある
地整備事業の現場で従来型の発注・契約方式により
表−1 UR都市機構の復興まちづくり支援地区(平成26年4月1日時点)
県
岩
手
県
市町村
復興市街地整備事業 事業受託地区
宮古市
田老<44ha>、
鍬ヶ崎・光岸地<24ha>
山田町
大沢<22ha>、山田<44ha>、織笠<15ha>
<165戸>
町方<39ha>
大ケ口、屋敷前、大ケ口二丁目、柾内、町方(末広町)、寺野 <206戸>
釜石市
片岸<23ha>、鵜住居<60ha>、花露辺<1ha>
花露辺、東部(大町1号)
< 78戸>
大船渡市
大船渡駅周辺<36ha>
宇津野沢、赤沢、上山、平林、川原、蛸ノ浦 、所通東
<128戸>
下和野、水上、大野、田端
<210戸>
<839戸>
気仙沼市
鹿折<42ha>、南気仙沼<33ha>
南郷、四反田、鹿折、南気仙沼
南三陸町
志津川<116ha>
入谷桜沢、歌津名足、志津川東(第1)
<152戸>
女川町
中心部<221ha>、離半島部<23ha>
女川町民陸上競技場跡地
<200戸>
石巻市
新門脇<24ha>
大街道西二丁目、泉町四丁目、大街道北二丁目、中央一丁目
駅前北通り一丁目、中里一丁目、不動町二丁目
<250戸>
城
東松島市
野蒜北部丘陵<92ha>、東矢本駅北<22ha>
東矢本駅北
<307戸>
伊保石、錦町、浦戸桂島、浦戸野々島
浦戸寒風沢、浦戸朴島
桜木、鶴ケ谷、新田
<114戸>
<482戸>
名取市
下増田
< 50戸>
新地町
愛宕東
< 30戸>
桑折町
桑折駅前
< 47戸>
県
塩竈市
多賀城市
福
島
県
大浦(大浦第1)、大浦(大浦第2)、山田(山田中央)
大槌町
陸前高田市 高田<189ha>、今泉<113ha>
宮
災害公営住宅建設 要請地区(下線は完成地区)
いわき市
22自治体
豊間<56ha>、薄磯<37ha>
計22地区、約1,300ha
計50地区、3,258戸
*独立行政法人都市再生機構(UR)技術・コスト管理部 建設マネジメント技術推進室 主査 045-650-0816
月刊建設14−06
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2.実施体制
資材の高騰や通常の率計算ではカバーしきれない現
復興まちづくりでは、何よりもスピードが重要で
場管理費等が発生する懸念があるなか、不用意な工
あり、一刻も早い復興を実現させるためには、これ
事費の増額を防ぐ必要がある。また、工事費の透明
までの建設調達に対して契約枠組みなどの工夫が求
性を確保しつつ地元経済の復興に寄与する必要があ
められた。そこで、官民が明確な役割分担のもとで
る。上記視点から、本方式ではさまざまな施工確保
連携する体制を整え、URとしては初めてCM(コン
対策を講じている。下記にその一部を紹介する。
ストラクション・マネジメント)方式の導入を図る
⑴ コストプラスフィー方式
資材価格等の高騰や地元企業を含む専門業者への
こととした。
これまでURが担っていた各地区の工事に関連す
適正な契約・支払いのため、業務の実施に要するコ
る調査、測量、設計及び工事施工については、その
スト(業務原価)にマネジメントフィーを加えた額
役割を包括的にCMR(コンストラクション・マネー
を契約金額とするコストプラスフィー契約を導入す
ジャー、CM業務実施者)に委ねることとした。UR
る。コストは調査原価、測量原価、設計原価及び工
はその分、計画・換地・補償など複数地区や複数事
事原価を加えたものである。また、フィー率は『調
業全体を見渡したうえで、事業全般のマネジメント
査・測量・設計』及び『工事施工』のそれぞれに対
や総合調整に尽力することとした。
し設定するものとし、受注者の過去3ヵ年の決算書
CMRには、工事に関連する調査、測量、設計及
び工事を一体的に実施することによる、工期短縮を
等に基づいて算出するものとした。
⑵ オープンブック方式
実現するための施工ノウハウの活用や資機材の早期
コスト及びフィーの透明化のため、受注者が発注
調達、早い段階から施工の工夫によるコスト縮減が
者に対してコストに関するすべての情報を開示する
期待されている。また、CMRは必要な追加調査や
オープンブック方式※を採用する。オープンブック
測量、設計及び工事について、地元企業の優先活用
の実施にあたっては、発注者及び受注者で情報開示
を図りながら専門業者に発注を行う。
のレベル、実施体制の構築、実施プロセス及び情報
開示を定めた確認書を締結する。開示された情報は
3.施工確保対策
第三者機関や発注者がコストとしての妥当性等を監
復興市街地整備事業の実施にあたっては、労務、
査・確認する。
図−1 CM方式を活用した事業実施体制
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月刊建設14−06
⑶ 地元企業の活用
化による契約手続きの簡素化・期間短縮等により、
地元経済の復興・活性化に寄与するため、受注者
最大約1年半の工期短縮が見込まれる(図−2)。
が行う専門業者の選定にあたっては、地元企業を優
表−2 CM方式導入地区一覧表
先的に活用する。一方、大規模土工事等を迅速に進
市町村
める必要があるため、専門業者選定に関する確認書
を締結し、専門性の高い企業と地元企業とを適切に
選定するものとする。
4.コスト管理
契約の透明性や工事費変動に柔軟に対応できるコ
地区名
契約日
女川町
(宮城県)中心市街地,離半島部 平成24年10月19日
東松島市
(宮城県)野蒜
平成24年11月02日
陸前高田市 (岩手県)高田、今泉
平成24年12月10日
山田町
(岩手県)山田、織笠
平成25年04月16日
宮古市
(岩手県)田老
平成25年06月14日
大槌町
(岩手県)町方
平成25年06月21日
気仙沼市
(宮城県)鹿折、南気仙沼
平成25年07月10日
南三陸町
(宮城県)志津川
平成25年07月24日
ストプラスフィー方式の導入と並行して、さまざま
大船渡市
(岩手県)大船渡駅周辺
平成25年10月18日
なコスト抑制方策を講じている。一例を下記に紹介
釜石市
(岩手県)片岸、鵜住居
平成25年10月29日
する。
いわき市
(福島県)薄磯、豊間
平成25年11月12日
山田町
(岩手県)大沢
平成25年11月26日
石巻市
(宮城県)新門脇
平成26年03月27日
⑴ インセンティブ基準価格の導入
インセンティブ基準価格はコスト縮減額を測定す
6.おわりに
るための管理値であり、新たな概念として導入した
ものである。縮減が図られた場合には、CMRに縮
コストプラスフィー契約やオープンブック方式の
減額の50%をインセンティブフィーとして支払う。
導入については、「CMRから赤字のリスクが低減さ
⑵ リスク管理費の導入
れ、受注者としての安心感がある」「無駄づかいを
リスク管理費は発注者及び受注者がリスク要因を
していないことをアピールできる良いシステムであ
共有してコスト抑制に努めることなどを目的として、
る」「透明性を持った事業推進によるゼネコンのイ
新たに試行導入したものである。日常的にリスクの
メージアップにつながる」などの評価が寄せられて
管理を行い、発注者及びCMRが連携してリスクの
いる。
その一方で、短期間で多岐にわたる業務を処理す
発現を回避する、または発現を低減するための努力
ることが必要なことや、発注者、CMRの双方が新
をするものとしている。
たな仕組みに不慣れなこともあり、業務に手間取っ
5.CMを活用した復興市街地整備の状況
ているといった評価もある。このためマネジメント
CM方式を活用した市街地整備事業は表−2のと
を活用した事業推進検討会を立ち上げ、業務の省力
おりであり、各所で工事施工のスピード化が実現さ
化やコスト低減に向けた改善策などのフォローアッ
の びる
プを推進していくこととしている。
れている。東松島市野蒜北部丘陵地区では、大括り
全体調整
基本設計(UR)
H24.4
▼
H24.7
▼
発
先行地区調整
(CM)
基本設計(UR) 注
発
注
発
注
調査
測量
(契約手続きの一括化)
調査
測量
(先行地区を固め全体工事早期発注)
H30.3
▼
▼
▼
(従来)
H25.10
H24.11
H24.4
実施設計
H24.12
実施設計
▼
発
注
工事施工
H28.7
▼
▼
最大1年半の工期短縮
工事施工
▼H29.2
(大規模な工事に民間施工ノウハウ活用)
図−2 工期短縮効果(東松島市野蒜北部丘陵地区をモデルに検討)
【用語解説】
※オープンブック方式
……業務費用を受注者に支払う際、支払金額とその対価の公正さを明らかにするため、受注者が発注者にすべてのコストに関
する情報を開示し、発注者または第三者が監査を行う方式
月刊建設14−06
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