山梨県におけるシズイの現状

[雑草と作物の制御]vol.8
2012 p 9~11
山梨県におけるシズイの現状
山梨県総合農業技術センター
1.シズイの特徴
上野直也
2.山梨県内におけるシズイの発生状況
シズイ(Scirpus nipponicus
Makino) は北海
長野県では既に富士見町を中心にシズイの発生
道から九州まで分布し、東北地域を中心とした寒
が確認されており、問題視されている。山梨県に
冷地の水田において問題となっているカヤツリグ
おいても発生の実態があるのではとの指摘を受け、
サ科ホタルイ属の多年生雑草である。北海道や北
2011 年度県内の発生状況について調査を行った。
陸、中国、九州地域でも水田での発生の報告があ
長野県に隣接する、北杜市管内の高冷地である 4
り、関東地域では茨城県、栃木県、千葉県、長野
県、山梨県で発生が確認されている。
シズイの茎葉は断面が三角形で幅は 5 ㎜前後と
やや狭く直立する。草丈は 40~60 ㎝で、水田で
はイネと競合することにより 90 ㎝以上になる。
花序は仮側生し、花序枝がある。花序枝は2叉状
に分かれ先に小穂を 6 個程度つける(写真-1)。
地下に根茎があり分株し、偏球形をした数㎜~10
㎜程度の小型の塊茎を多産する(写真-2)。この
写真-1 シズイの花序
ため、適正な防除を行わないと侵入から数年で急
速に蔓延する。生育途中の草姿はミズガヤツリに、
発生初期の草姿や花序の形態はホタルイ類に類似
するが、塊茎から発生することや塊茎の形、大き
な株を形成せず分株すること、花序枝があること
等から区別できる(表-1)。
写真-2 シズイの塊茎
表-1 シズイと他のカヤツリグサ科植物の形態的特徴
種名
形態
シズイ
ミズガヤツリ
ホタルイ類
クログワイ
茎
3稜形
3稜形
丸(5~6稜)
丸
株
分げつ少ない
分株多く群生
株を形成
分げつ多く
大きな株を形成
株を形成
花序
上部に仮側生
花序枝は2本
塊茎
数㎜~10㎜
偏球形
先端に散形
上部に仮側生
花序枝は5~7本
花序枝無
20㎜前後
紡錘形で連なる
形成しない
先端に形成
10㎜前後
球形
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2012 p 9~11
旧町村の 13 地域のうち、3 旧町村 7 地域で発生が
ら「違う草種である」という認識はあったようで
確認された。発生圃場率は 9.2%で、地域別に見
ある。以前から多少は見かけたが、ここ 3、4 年
ると 0~33.3%と多発圃場を含む地域で高くなっ
で急激に蔓延し、水稲の減収以外にもコンバイン
た(表2)。多発圃場では場所によって 1,000 株
で収穫できない等、作業効率の低下も問題となっ
/㎡以上の発生が認められ、水稲の減収は明らか
ている。
であった。
発生地域は同一河川の流域というわけではなく、
いずれも未確認ではあるが、県内では富士北麓
の高冷地や、今回聞き取りをした農家が耕作する
標高 600~950mの間に広く点在していた。発生
標高 400mの中間地においても圃場に侵入してい
圃場は同一の耕作者により管理されているかその
るという情報もある。
隣接圃場で多いことから、トラクター等の機械類
や用・排水路を経由して拡散するのではないかと
3.今後の対応策
考えられた。圃場においては馬入れや水口側での
シズイは塊茎による栄養繁殖が主で、水田では
発生が多く、特に休耕地や迂回水路など防除圧が
種子による発生は稀である。また、塊茎の寿命は
低い部分で増殖してから水稲群落内に侵入するパ
1~2年と短く、適正な体系防除を行うことによ
ターンが多く認められた。また、どちらかという
り根絶させることが可能である。当面は SU 剤を
と圃場の北側の畦付近での発生が多く観察された。
中心としたシズイに登録のある一発処理剤+ベン
聞き取りの結果、現地ではシズイを含めホタル
タゾン剤の体系処理による防除を試行するととも
イ類やクログワイ等のカヤツリグサ科雑草を「イ
に、新規剤による防除効果試験を行い、効率的な
ゴ」と呼称しているが、茎葉が三角であることか
防除体系を確立したい。また、本年調査した地域
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を含め、県内の現地圃場におけるシズイの発生状
黒野真伸・斉藤清男・永元良知 1997.大分県に
況と、多発地域における圃場管理や耕種概要の調
おける水田難防除雑草の分布 第 1 報 大分県
査を行い、圃場への侵入や分布の拡散要因につい
中部以北における分布.日作九支報 63,39-42
住吉正・橘雅明・伊藤一幸 1997.ホタルイ属水
て解明する。
田多年生雑草シズイの水田における種子から
引用文献
の発生と種子の休眠・発芽.東北農研報 92,
内野彰 2008.スルホニルウレア系除草剤連用圃
97-104
場で残存したシズイの SU 剤に対する反応.東
北の雑草 8,7-11
高橋眞二 2001.島根県におけるシズイの分布と
数種薬剤の防除効果.日作中支録 42,22-23
木野田憲久 1995.寒冷地水田におけるシズイの
生態と防除.農業技術 50,554-558
工藤聰彦 1987.シズイ.宮原益次監修「図解水
田多年生雑草の生態」,デュポンジャパンリミ
高橋浩明 1995.シズイの防除.植調 29,266-272
吉田修一・久保田紳 2008.宮城県産シズイの数
種除草剤に対する感受性.雑草研究 53(別),
20
テッド農薬事業部,pp.81-86
コラム
綺麗な花には害がある
平成の初めころだったか、港湾の発達した県を訪
へも拡大し、
今では何処にでもはびこる秋の風物詩、
れた時、空き地や道端に黄色の花が一面に咲きほこ
度を越していますが、生き残る知恵の深さを感じま
り、
そこそこ綺麗だなと感じていました。
その当時、
した。
雑草や除草に知識も興味も少ない私は、それが強害
話は変わって、ヤグルマギク。観賞用として家庭
雑草で、農地やその周辺に悪影響を与えているセイ
の庭先に多くみられる青紫などの可憐な花。庭先か
ダカアワダチソウだと聞いても、私の住む埼玉県北
ら、庭畑、周辺耕地へと広がりを見せ、麦の強害雑
部ではまだ見られず(観察力が無かったのだが)
、
”
草になりつつある。大豆におけるアサガオ類も然り
へぇーそうなんだ”程度の感想しかもたない、お寒
であるが、綺麗な花だと眺めていると、あっという
い状況でした。月日は流れ、我が家の庭を見ると、
間に広がりをみせ、手に負えなくなる。その様にな
あろうことか 3 株ほど小さく育っていたのを発見し
る前に、生産者の方のみならず、地域の方と認識を
たのです。まめに庭を管理している祖父によると”
一つにして防止する必要がある。
そこそこ綺麗だから”とのこと。その様にして、5
年とたたないうちに河川敷や空き地、更には農耕地
関口 孝司(埼玉県)