論文誌掲載論文概要 JORSJ Vol. 55, No. 2,TORSJ Vol. 55 ● JORSJ Vol. 55, No. 2 ロジーを予め指定する必要がない.このため,混合整 日本株式市場におけるコントラリアンリター ンに対する格付の影響 佐々木 大輔,宮 浩一(電気通信大学) 数計画問題を解くことで実際にさまざまなテンセグリ ティが得られることを,数値実験により示す. k 次近隣距離の近似と立地分析への応用 宮川 雅至(山梨大学) 本研究では,日本株式市場を対象として,格付と短 期コントラリアンリターンとの関係について分析し, 本研究では平面上の任意の地点から k 番目に近い点 主に次の 4 つの分析結果を得た.第一に,短期コント までの距離(k 次近隣距離)に対する単純な近似式を ラリアンリターンは主に敗者ポートフォリオから生成 与える.距離の計測には,連続平面上の直線距離と直 される.高格付では不況時において短期コントラリア 交距離を用いる.そして,k 次近隣距離が k の平方根 ンリターンが大きく,低格付では好況時にモメンタム に比例し,点の密度の平方根に逆比例することを示す. リターンが確認される.このことは,自己相関係数, また,近似の精度を規則的およびランダムな点分布パ ボラティリティ,相互自己共分散によって裏付けるこ ターンを用いて検証する.さらに,近似式を道路距離 とができる.第二に,格付を説明する各ファクターだ と比較することで,連続平面上の近似式が道路網上の けを用いても短期コントラリアンリターンを説明でき k 次近隣距離を見積もる際に役立つことを確認する. ないが,格付は短期コントラリアンリターンと関係性 最後に,立地分析への応用として,いくつかの施設が が高い.第三に,コントラリアンリターンは,低格付 閉鎖された場合の,利用者から最寄りの開いている施 に関しては主に相互自己共分散によって生成され,高 設への平均距離を求める. 格付では主に自己共分散によって生成される.第四に, 高格付のコントラリアンリターンはマーケットリスク をコントロールしても有意に確認される. 自重を考慮したテンセグリティのトポロジー 最適化 寒野 善博(東京大学) テンセグリティ(tensegrity)は,直線状の圧縮材 (ストラット)と引張材(ケーブル)がピン接合され セミ・マルコフ変調ポアソン過程から生成さ れるランダム・ショックの累積分布評価及び CDO 価格計算への応用 黄 嘉平(アムステルダム自由大学) 住田 潮(筑波大学) 近年,Collateralized Debt Obligation(CDO)と呼ば れる金融派生商品が研究者や実務者の間で注目を集め, その取引高も急速に増加しつつある.しかし,その無裁 てできる構造物の一種である.特に,圧縮材どうしは 定価格を求めるためには,対象となる損失の累積の分布 接続されておらず,引張材に張力を導入することで安 を有限時刻tにおいて評価する必要があり,その困難さに 定な釣合状態となることがテンセグリティの特徴であ より,価格評価法に関する研究は未だ限定的なものであ る.任意の形状がテンセグリティとして実現できるわ る.本論文では,セミ・マルコフ変調ポアソン過程を用 けではないため,これらの条件を厳密に満たす新しい いてCDOの価格評価モデルを構築し,新たなCDO 価格 テンセグリティを設計することは容易ではない.本論 計算法を提案する.著者達の過去の研究で得られた結果 文では,自重に対するテンセグリティの剛性を最大化 及びラゲール変換法を用いて,各時刻における累積損失 するトポロジー(部材の接続関係)を求める最適設計 額分布を数値的に求めるアルゴリズムを開発し,これに 問題を考え,この問題が混合整数計画問題に帰着でき よって対応するCDOの価格評価が可能となる.アルゴリ ることを示す.この手法では,テンセグリティのトポ ズムの効果を示すため,幾つかの数値計算結果を示す. 394(46) オペレーションズ・リサーチ ● TORSJ Vol. 55 標から個別企業のデフォルト確率を推定する統計モデ 2 種類の施設を統合する施設配置問題:幼保 一体化への適用 鈴木 勉(筑波大学) 本論文では,2 種類の機能・需要の異なる施設を両 ルである.デフォルトは固有ファクターだけではなく, すべての企業に共通するマクロファクターの影響も受 ける.推定デフォルト確率(推定 PD)と実績デフォ ルト率(実績 DR)の一致精度を高めるにはマクロ ファクターを説明変数に加えることが望ましいが,デ 方の機能を持つ新しいタイプの施設に統合するときに, フォルトに関する時系列データの蓄積が不十分なため, 統合施設の適切な場所を決定する 2 種類の施設の統合 回帰分析などによって具体的な指標を特定することが 配置モデルを定式化する.さらに,これを幼保一体化 難しいという課題がある.一方で,2007 年頃から始 によるこども園の配置場所の選定に応用する.計算例 まった急速かつ大幅な景気悪化によって,実績 DR が では,幼稚園の定員の余裕分を保育所の不足分に振り 推定 PD を上回る状況が続いており,マクロファク 替えながら,同時に需要点からのアクセシビリティを ターを加味することの必要性が高まっている.そこで, 向上させる案を作成し,施設統合モデルが,利用者の 本研究では日本政策金融公庫国民生活事業本部が保有 アクセシビリティと施設需要の大きさのバランスのと する約 54 万件の豊富なデータを用いて時系列データ れた統合案を決定することに有用であることを示す. の不足を補い,具体的な指標の選択を行った.その結 信用スコアリングモデルにおけるマクロファ クターの導入と推定デフォルト確率の一致精 度の改善効果 枇々木 規雄(慶應義塾大学) 果,マクロファクターとして前月デフォルト率が有効 であり,前月デフォルト率を説明変数に追加した新モ デルを構築すると,推定 PD と実績 DR との乖離が最 大で 0.72%ポイント縮小するなど,推定 PD の一致精 度を改善することができた. 尾木 研三,戸城 正浩(日本政策金融公庫) 小企業向けの信用スコアリングモデルは主に財務指 2012 年 7 月号 (47)395
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