県下河川水中の環境ホルモン類の状況(第3報) - 三重県の科学技術

三重保環研年報
第4号
(通巻第 47 号),140-147 頁(2002)
ノート
県下河川水中の環境ホルモン類の状況(第3報)
早川修二,佐来栄治,山川雅弘
Survey of Endocrine Disrupters in River Water in Mie Prefecture (3rd)
Shuji HAYAKAWA, Eiji SARAI and Masahiro YAMAKAWA
いわゆる環境ホルモン類(外因性内分泌攪乱物質)の内でフェノール系(ノニルフェノール,ビス
フェノールA他)10 物質について,三重県北部の5河川を対象に,固相抽出−誘導体化−GC/MS
−SIM法で分析を行った.
その結果,ノ ニ ル フ ェ ノ ー ル が ,ND(0.05 μ g/L)∼ 1.1 μ g/L の範囲で,ビスフェノ ール Aが ,ND
(0.01 μ g/L)∼ 2.0 μ g/L の範囲で検出された.
また,人畜尿由来の女性ホルモンである 17 βエストラジオールやエストロン等のエストラジオー
ル類 4 物質について,三重県下の8河川を対象に,固相抽出−誘導体化−GC/MS−SIM法で分
析を行った.
その結果,エストロンが検出されその濃度範囲は,ND(0.001)∼ 0.020 μ g/L であった.
キーワード:環境ホルモン,エストラジオール類,GC/MS,水質
はじめに
人や野生動物の内分泌作用を攪乱し,生殖機能障害,
2.調査対象物質
フ ェ ノ ー ル 系 10物 質 ( ノ ニ ル フ ェ ノ ー ル , 4-n-
悪性腫瘍等を引き起こす可能性のある外因性内分泌攪乱
物質(いわゆる環境ホルモン)による環境汚染は,世代
を越えた深刻な影響をもたらすおそれがあることから注
目されている.
オ ク チ ル フ ェ ノ ー ル ,4-tert-オ ク チ ル フ ェ ノ ー ル ,
4 -n - ヘ プ チ ル フ ェ ノ ー ル , 4- n- ヘ キ シ ル フ ェ ノ ー
ル , 4-tert-ブ チ ル フ ェ ノ ー ル , 4-n-ペ ン チ ル フ ェ
ノ ー ル , 2,4-ジ ク ロ ロ フ ェ ノ ー ル , ペ ン タ ク ロ ロ
環境における環境ホルモン濃度の把握は環境省,国土
フ ェ ノ ー ル , ビ ス フ ェ ノ ー ル A ), エ ス ト ラ ジ オ ー
交通省による全国調査,地方自治体による調査などで行
ル 類 4 物 質 (17α -エ ス ト ラ ジ オ ー ル , 17β -エ ス ト
われており,筆者らもこれまでに県北部の河川水などの
ラジオール,エチニルエストラジオール,エスト
調査を行ってきた
1−4)
ところである.
ロン)を調査対象とした.
本年度はこれまで行ってきたフェノール系物質に加え
て,ヒトや家畜のし尿由来の女性ホルモンである17βエストラジオール等についても調査を行ったので報 告
する.
3.試薬・器具
アルキルフェノール類,ビスフェノールA:関東化学,
東京化成その他市販試薬
17 α,17 β -エストラジオール,エチニルエストラジ
実験方法
1.調査対象河川および調査時期
三 滝 川 , 矢 合 川 , 天 白 川 ( 大 井 の 川 ), 鈴 鹿 川 お
よ び 金 沢 川 に つ い て は フ ェ ノ ー ル 系 10 物 質 を 対 象
と し て 毎 月 一 回 ,三滝川,天白川,金沢川,志登茂川,
外城田川,愛宕川,勢田川および鈴鹿川については,エ
ス ト ラ ジ オ ー ル 等 4 物 質 を 対 象 と し て , 平 成 13 年
10 月 お よ び 平 成 14 年 1 月 に 調 査 を 行 っ た .
オール,エストロン:関東化学,和光純薬その他市販試
薬
硫酸ジエチル,硫酸ジメチル:東京化成製
ビスフェノールA-d16, 17 β -エストラジオール-d4:関
東化学製
内標準(フルオレン -d10,フェナンスレン -d10,クリ
セン-d12):CIL社その他市販試薬
固相抽出カートリッジ:Waters Sep-Pak Plus P S 2 お
よび t C 18(使用前に5 mL の n-ヘキサン,ジクロロメ
通水後, 10mL の精製水で固相カートリッジを洗浄し,
タン,10mL のメタノールおよび 20mL の精製水でコン
カートリッジ内の水分を遠心分離機(3000rpm, 10min)で
ディショニングを行った.)
脱水後,ジクロロメタン 4mL,次いでヘキサン 4mL で
ジクロロメタン,n-ヘキサン,アセトン,メタノール,
溶出する.溶出液は小ロートに少量の石英ウールを詰め,
エタノール,無水硫酸ナトリウム:和光純薬製残留農薬
約 5g の無水硫酸ナトリウムを入れたものを通して脱水
分析用
し, 10mL 容の試験管に受ける。ロート上の無水硫酸ナ
水酸化カリウム,水酸化ナトリウム:和光純薬製特級
トリウムは少量のジクロロメタンで洗浄し,試験管に合
精製水:蒸留水製造装置の蒸留水を全ガラス製蒸留器で
わせる.試験管をヒーティグシート等で軽く加温し,窒
2回蒸留したもの.
素ガスを吹き付け,時々試験管を撹拌しながら溶液がわ
試料採水ビン,コニカルビーカー等ガラス器具:使用
前にアセトン,n-ヘキサンで洗浄後,乾燥機で 180 ℃ 8
時間以上加熱した.
ずかに残るまで濃縮する.
これにジクロロメタン:ヘキサン(1:1) 1mL を加え,
注射筒をつけたフロリジルカートリッジに負荷する.試
BPA-d 16 溶液:ビスフェノールA-d16 10mg を 秤
験管はジクロロメタン:ヘキサン(1:1) 1mL で洗浄しこ
量し,アセトンで 20mL としたものを,さらにアセトン
れもカートリッジに負荷する.カートリッジをジクロロ
で希釈し 25 μ g/mL とした.
メタン:ヘキサン( 1:1) 10mL で洗浄後, 5%アセトン/
エストラジオール -d4 溶液: 17 β -エストラジオール
ヘキサン 6mL で対象物質を溶出し 10mL の試験管に受
-d4 10mg を秤量し,アセトンで 20mL としたものを,さ
ける.なお,汚染の少ない河川水や標準液作成時にはこ
らにアセトンで希釈し 2 μ g/mL とした.
の操作は省略してもよい.
フェノール系標準液:標準品各 20mg を秤り取りアセ
1N-NaOH/MeOH 溶 液 0.5mL を加え 50 ℃に加温しなが
トンで 20mL としたもの(1000 μ g/mL)を適宜混合,希
ら,窒素ガスを吹き付け溶液がわずかに残るまで濃縮す
釈し,ノニルフェノールは 50 μ g/mL,他の物質は 5 μ
る(約 0.03mL 以下).
g/mL の標準液を調整した.
エストラジオール類標準液:標準品各 20mL を秤り取
りアセトンで 20mL としたものを,適宜希釈し1μ g/mL
の標準液を調整する.
以後は環境庁法
6)
により硫酸ジメチルでメチル化,ヘ
キサンで抽出後,窒素ガスを吹き付け 0.2mL 以下に濃縮
し,その 2 μ L をGC/MSに注入し測定する.
なお,エストラジオール類分析法のフローを図1に示
内標準溶液:フルオレン -d10,フェナンスレン -d10,
クリセン-d12 をそれぞれ 10mg 秤量し,アセトンで 20mL
す.また, GC/MS の 分析条件を表1に,測定質量数を
表2に示す.
としたものを1:1:2の割合で混合後アセトンで希釈
し 100 μ g/mL(クリセン-d12 は 200 μ g/mL)としたも
の.
表1
1N-水酸化カリウム/エタノール溶液(1N-KOH/Et-OH)
:水酸化カリウム 56g を 50mL の精製水で溶解後 950mL
のエタノールを加えたもの.
1N-水酸化ナトリウム/メタノール溶液(1N-NaOH/Mt-OH)
:水酸化ナトリウム 2g を 50mL のメタノールで溶解し
たもの.
4.分析法及び分析条件
フ ェ ノ ー ル 系 10 物 質 の 分 析 は , 前 報 と 同 じ く 環
境庁から示された方法
5)
GC/MS分析条件
GC/MS: HP6890 + HP5973
カラム:DB-5 0.25mm × 30m, 0.25 μ m
カラム温度:50 ℃(1min)− 30 ℃ /min −
− 150 ℃− 15 ℃ /min − 280 ℃(3min)
キャリアーガス:He 1.4mL/min ( const. flow)
注入方法:スプリットレス(パージ時間 1min),2 μ L 注入
注入口温度:250 ℃ イオン源温度:230 ℃
インターフェース温度:280 ℃
EM電圧:エストラジオール類は +300V に設定
(固相抽出−誘導体化(エ
チル化)−GC/MS−SIM法)で行った.
エストラジオール類についても環境庁から示され
結果および考察
た方法(固相抽出−誘導体化(メチル化)−GC/
M S − S I M 法 ) を 用 い た が ,固 相 カ ー ト リ ッ ジ ,
1.分析法の検討
溶出条件や誘導体化条件など一部変更やフェノール
1 .1
6)
系物質の同時分析の検討を行った.
誘導体化条件の検討
環境庁の分析法
6)
ではメチル化前の処理として
す な わ ち , 試料水をガラス繊維ろ紙( GF/A+GF/D)
1N-NaOH/MeOH 溶 液 を 加 え た 後 、 50 ℃ で 窒 素 ガ ス
でろ過したもの 1000mL を ビーカーに取り 1N-塩酸で
を吹き付け,溶液を乾固,乾燥することとしてい
pH3.2(± 0.2)に調整後,サロゲート( BPA-d16 溶 液 4
る.しかし,吹き付けしすぎるとエチニルエスト
μ L,エストラジオール-d4 溶液 20 μ L)を添加した後,
固相カートリッジに 10 ∼ 20ml/min の 速度で通水する.
縮 ・ 乾 固 で き な か っ た .) に 硫 酸 ジ メ チ ル 0.5mL を
試料(1000mL)
pH 調整 ,サロゲート添加
固相吸着(tC18)
S で 測 定 し , 各 標 準 と 内 標 準 (ク リ セ ン -d12 )と の 面
15mL/min
積 比 お よ び エ ス ト ラ ジ オ ー ル -d4 と の 面 積 比 求 め
遠心脱水
た.
3000rpm,10min
溶
その結果,図2に示すように,内標準との比較
出
ジクロロメタン,ヘキサン
脱水・濃縮
カラムクロマト
(
で は , 0.2mL ∼ 0.03mL , 乾 固 の 順 に 面 積 比 が 大 き
くなり,濃縮するほど誘導体化がよいことがわか
った.
)
フロリジルカートリッジカラム
誘導体化
一 方 , エ ス ト ラ ジ オ ー ル -d4 と の 比 較 で は , 図 3
に 示 す よ う に , 0.2mL ∼ 0.03mL ま で の 濃 縮 で は 面
1N-NaOH/MeOH
硫酸ジメチル
積比が横這いであるが,乾固したものではエチニ
抽出・脱水・濃縮
ルエストラジオールの面積比が低下していた.
これらの結果から,メチル化前の濃縮は乾固せ
GC/MS-SIM
図 1
加え誘導体化後,分析法と同様に操作しGC/M
ずに溶液が僅かに残る程度に濃縮することとした.
エストラジオール類分析法フロー
なお,フェノール系物質については図4に示す
ように,濃縮の程度に関わらずほぼ一定の反応率
表2
GC/MS−SIM測定質量数
物
質
名
17-α -エストラジオール
17-β -エストラジオール
17-β -エストラジオール-d4
エストロン
エチニルエストラジオール
4-n-ブチルフェノール
2,4-ジクロロフェノール
4-n-ペンチルフェノール
4-n-ヘキシルフェノール
4-tert-オクチルフェノール
4-n-ヘプチルフェノール
ノニルフェノール
4-n-オクチルフェノール
ペンタクロロフェノール
ビスフェノールA
ビスフェノールA-d16
m/z
300,227
300,227
304
284,199
227,324
149,164
176,161
121,178
121,192
149,121
121,206
149,163,121
121,220
280,265
241,256
252
以上はメチル誘導体化物を分析
フルオレン-d8
フェナンスレン-d8
クリセン-d12
176
188
240
であった.
1 .2
検量線の作成
検量線は,エストラジオール類標準液,フェノール系
標準液それぞれを 0 ∼ 0.5ml の範囲で段階的に 10mL の
試験管にとり,エストラジオール -d4 溶液 20 μ L,
BPA-d16 溶液 4 μ L を添加後,分析法と同様に操作し,
メチル化体の標準液を作成する.なお,内標準液の添加
量は 5 μ L とし濃縮後の液量は 1mL とした.メチル化
体標準液の 2 μ L をGC/MSに注入し,エストラジオ
ール類は 17 β -エストラジオール-d4 とのピーク面積比
から検量線を作成した.
なお,フェノール系物質については,エチル化による
分析法と同様に,ビスフェノールAは,ビスフェノール
A-d16 との,その他のフェノール系物質は,n-ブチル∼ nヘプチルフェノールまではフルオレン -d8 との,ノニル
∼ペンタクロロフェノールまではフェナンスレン-d10 と
のピーク面積比から検量線を作成した.
一例としてエストラジオール類の検量線を図5に,そ
ラジオールが揮散するとの注意が記載されている.
実際に、多くの試料を処理する場合には同じ状態
に揃えるのが困難であるので,濃縮乾固の状態に
より誘導体化率がどのように変化するかを検討し
た.
17 α - , 17 β - お よ び エ チ ニ ル エ ス ト ラ ジ オ ー ル
の 標 準 100ng を 円 錐 お よ び 丸 底 試 験 管 に 取 り ,
1N-NaOH/MeOH
0.5ml を 加 え , 50 ℃ に 加 温 し 窒 素
ガ ス を 吹 き 付 け , 約 0.2 , 0.1 , 0.03mL 程 度 に 濃 縮
したものと,乾固したもの(円錐型試験管の場合
は , 窒 素 ガ ス を 吹 き 付 け て も 約 0.03mL 以 下 に は 濃
れらの選択イオンクロマトグラムを図6に,フェノール
系物質のトータルイオンクロマトグラムを図7に示す.
1.3
回収率
本分析法を用いて,精製水及び河川水に標準添加し,
本分析法で測定し回収率を求めた.
その結果,表3に示すように,物質とも良好な結果が
得られた。
また,フェノール系物質についても表4に示すように,
2,3-ジ ク ロ ロ フ ェ ノ ー ル や ペ ン タ ク ロ ロ フ ェ ノ ー ル
(PCP)など一部の物質を除いて良好な結果であった.
1.2
ピー ク 面 積 比
1
0.8
0.6
0.4
0.2
0
0.2m L
0.1m L
0.03m L
0.2m L
0.1m L
0.03m L
D ry
濃縮液量
17α
1 7 β - d4
17β
エチニル
円錐型試験管
図2
丸底試験管
メチル化前の濃縮液量と誘導体化率の変化(対クリセン-d12)
17 α-:17 α-エストラジオール
17 β-:17 β-エストラジオール
17 β-d4:17 β-エストラジオール-d4
エチニル:エチニルエストラジオール
3.5
3
ピー ク 面 積 比
2.5
2
1.5
1
0.5
0
0.2m L
0.1m L
0.03m L
0.2m L
0.1m L
0.03m L
D ry
濃縮液量
1 7 α / 1 7 β - d4
1 7 β / 1 7 β - d4
エ チ ニ ル / 1 7 β - d4
円錐型試験管
図3
丸底試験管
メチル化前の濃縮液量と誘導体化率の変化(対サロゲート)
ピーク面
積比
17 α:17 α-エストラジオール
17 β:17 β-エストラジオール
BPA: ビスフェノールA
17 β-d4:17 β-エストラジオール-d4
エチニル:エチニルエストラジオール
BPA−d16:ビスフェノールA-d1
40
20
0
0 .1 m L
0 .0 3 m L
n-ブ チ ル
n-ヘキ シ ル
ピーク面積比
B P A / B P A - d1 6
濃縮液量
2 ,4 - ジ ク ロ ロ
t- オ ク チ ル
0 .1 m L
0 .0 3 m L
t- ペ ン チ ル
D ry
n-ペン チ ル
40
30
20
10
0
0 .1 m L
NP-1
0 .0 3 m L
NP-2
濃縮液量
NP-3
円錐型試験管
図4
NP-4
0 .1 m L
0 .0 3 m L
NP-5
n-オクチ ル
D ry
PCP
丸底試験管
メチル化前の濃縮液量と誘導体化率の変化(対フルオレン-d8,フェナンスレン-d10)
NP-1 ∼ NP-5:ノニルフェノール
PCP:ペンタクロロフェノール
1 .8
30
1 .6
25
1 .2
ピーク面積比
ピーク面積比
1 .4
1
0 .8
0 .6
20
15
10
0 .4
5
0 .2
0
0
0
200
400
600
800
0
200
400
600
800
濃 度 (n g / m L )
17α -
17β -
図5
エチニル
エストラジオール類の検量線
17 α-:17 α-エストラジオール
17 β-:17 β-エストラジオール
アハ ゙ンダンス
エ ス トロ ン
14
イオ ン
8000
エチニル:エチニルエストラジオール
エストロン:エストロン
304.00 (303.50 ∼ 304.70): S10.D
6000
4000
2000
12.70
12.80
12.90
13.00
13.10
13.20
13.30
13.40
13.50
13.60
13.70
13.80
13.90
13.70
13.80
13.90
Ti me-->
アハ ゙ンダンス
15
700
600
500
400
300
イオ ン
300.00 (299.50 ∼ 300.70): S10.D
13
12.70
12.80
12.90
13.00
13.10
13.20
13.30
13.40
13.50
13.60
Ti me-->
アハ ゙ンダンス
イオ ン
227.00 (226.50 ∼ 227.70): S10.D
2000
17
1500
1000
12.70
12.80
12.90
13.00
13.10
13.20
13.30
13.40
13.50
13.60
13.70
13.80
13.90
13.70
13.80
13.90
Ti me-->
アハ ゙ンダンス
イオ ン
284.00 (283.50 ∼ 284.70): S10.D
3500
3000
2500
2000
1500
1000
16
12.70
12.80
12.90
13.00
13.10
13.20
13.30
13.40
13.50
13.60
Ti me-->
アバンダンス
8
TIC: S500S.D
1800000
1600000
6
1400000
3
1200000
1000000
4
7
5
9
12
1
11
800000
600000
400000
2
10
200000
0
5.00
IS1
5.50
6.00
6.50
7.00
7.50
IS2
8.00
8.50
9.00
9.50
10.00 10.50
Time-->
図5
エストラジオール類、アルキルフェノール類、ビスフェノールAのメチル化体のクロマトグラム
1:4-n-ブチルフェノール
2:2,4-ジクロロフェノール
3:4-tert-ペンチルフェノール
4:4-n-ブチルフェノール
5:4-n-ヘキシルフェノール
6:4-tert-オクチルフェノール
7:4-n-ヘプチルフェノール
8:ノニルフェノール
9:4-n-オクチルフェノール
10:ペンタクロロフェノール
11:ビスフェノールA-d16
12:ビスフェノールA
13:17 α-エストラジオール
14:17 β-エストラジオール-d4
15: 17 β-エストラジオール
16: エストロン
17: エチニルエストラジオール
IS1 フルオレン-d8
IS2: フェナンスレン-d10
IS3: クリセン-d12
表3
エストラジオール類の回収率
物質名
17 α 17 β エストロン
エチニル
回収率(%)
精製水(n=3) 河川水(n=2)
94 (5.5)
80
98 (8.0)
84
109 (3.7)
−
91 (5.6)
81
17 α -: 17 α -エストラジオール
17 β -: 17 β -エストラジオール
エチニル:エチニルエストラジオール
回収率右の()内は CV%
向であるなど全体的にはほぼ横這い状況であった.
2.2
エストラジオール類の調査結果
17 α -、β-エストラジオール,エチニルエストラジオ
ール及びエストロンの調査結果を表7に示す.
17 α -、β-エストラジオール及びエチニルエストラジ
オールについては何れの河川も検出限界未満であった
が,エストロンは ND( 0.001 μ g/L)∼ 0.020 μ g/mL 検
表4
フェノール系物質の回収率
回収率(%)
物質名
t-ブチル
69
2,4-ジクロロ 54
n-ペンチル
95
n-ヘキシル
88
t-オクチル
84
回収率(%)
物質名
n-ヘプチル
81
ノニル
77
n-オクチル
64
ペンタクロロ 63
BPA
99
BPA:ビスフェノールA
出された.
なお,1月 28 日の愛宕川については,試料水に添加
したエストラジオール -d4 のピークも検出されなかった
ため欠測となった.
これは,他の試料に比べ着色が強い(夾雑物が多い)た
めか誘導体化ができなかったものと考えられた.
考
しかしながら,フェノール系物質のエチル化体が自然
環境中にあると言われている
6)
察
ホルモン様作用に関しては,平成 13 年に公表された
ことや,ホルモン様作用
濃度を勘案するとエストラジオール類ほど濃縮する必要
6)
がないことから,別々に分析することとした.
響濃度(0.608 μ g/L)と比較すると,年平均濃度は何れの
,ノニルフェノールのメダカを用いた試験による無影
河川でも越えるものがなかったが,毎月の測定値では,
2.調査結果の概用
2 .1
フェノール系物質について
大井の川で1度,金沢川で2度越えるものがあった.
また,4-t-オクチルフェノールは平成 14 年7月に環境
平 成 13 年 度 の フ ェ ノ ー ル 系 物 質 の 調 査 結 果 は 表
省のメダカを用いた試験等でホルモン用作用が確認され
5 に 示 す よ う に ,ノニルフェノールは,ND( 0.05 μ g/L)
たが,その無影響濃度(0.992 μ g/L)に比べ,最高値でも
∼ 1.1 μ g/L( 39/57)の範囲で検出され,矢合川(三滝川
1/10 以下であった.
上流)や大井の川(天白川下流)の濃度が比較的高かっ
た.
これらの結果,ノニルフェノール,ビスフェノール A
および 4-tert-オクチルフェノールとも現時点ではメダカ
ビスフェノールAは,ND( 0.01 μ g/L)∼ 2.0 μ g/L
に影響を及ぼす濃度を十分に下回っており,魚類等への
( 54/57)の範囲で検出され,大井の川(天白川下流)や
影響はないと考えられるが,ノニルフェノールは予測無
金沢川の濃度が比較的高かった.
影響濃度を越えている測定値があることや,検出頻度が
また, 4-t-オクチルフェノールも大井の川(天白川下
流)や金沢川から微量(ND( 0.01 μ g/L)∼ 0.095 μ g/L)
ながら検出された.
高いことから今後も追跡調査や情報収集などが必要であ
ると考える.
エストラジオール類の分析に関しては,夾雑物の多い
ノニルフェノール, 4-tert-オ クチルフェノールおよび
(着色の強い)試料では誘導体化ができない場合があっ
ビスフェノールAについて平成 10 年度から 13 年度の年
たことから,誘導体化前のカラムクリーンアップ条件を
間平均濃度の推移を表6に示す.(平均値は,調査結果
さらに検討する必要があると考える.なお,今後は誘導
が検出限界未満の場合は,検出限界値の 1/2 として算出
体化の必要がないLC/MSを用いた分析法の検討・適
した.)
応が必要であると考える.
ノニルフェノールは三滝川で 0.078 −>0.11 −>0.18 −
まとめ
>0.040 μ g/L,矢合川で,0.28 −>0.11 −>0.069 −>0.099
μ g/L のようにやや減少傾向の見える河川もあるが,大
井の川(天白川下流)(0.44 −>1.1 −>0.40 −>0.33 μ g/L)
や,金沢川(0.35 −>0.57 −>0.60 −>0.35 μ g/L)のよう
に横這い傾向の河川もあった.
ビスフェノールAも同様で,三滝川(0.18 −>0.19 −>
14α-エストラジオール,14β-エストラジオール,エ
チニルエストラジオールおよびエストロンを対象に,三
滝川,矢合川,大井の川(天白川下流),鈴鹿川,金沢川,
志登茂川,愛宕川,外城田川および勢田川の水質試料を
GC/MSで測定を行った.その結果エストロンが検出
されその濃度範囲は ND( 0.001 μ g/L)∼ 0.020 μ g/L
で
0.080 −>0.075 μ g/L)は減少傾向であるが,大井の川
あった.しかし,その他のエストロジェンは検出限界未
(天白川下流)(0.38 −>0.29 −>0.27 −>0.30 μ g/L)や
満であった.
金沢川(0.15 −>0.13 −>0.19 −>0.14 μ g/L)は横這い傾
また,フェノール系物質については,三滝川,矢合川,
表5
平成13年度河川調査結果
三滝 川
濃度範囲
4-t -ブチ ル フ ェ ノー ル < 0.01 -0 .0 17
2,4-ジ クロ ロ フ ェ ノー ル < 0.02
4-t-ペ ン チ ル フ ェ ノー ル < 0.01
4-n-ペ ン チ ル フ ェ ノー ル < 0.01
4-n-ヘ キ シ ル フ ェ ノー ル < 0.03
4-t-オ クチ ル フ ェ ノー ル < 0.01
4-n-ヘ プチ ル フ ェ ノー ル < 0.01
ノニ ル フ ェ ノー ル
< 0.05 -0 .0 53
4-n-オ クチ ル フ ェ ノー ル < 0.01
ペ ン タ クロ ロ フ ェ ノー ル < 0.01
ビ ス フェ ノ ー ル A
<0 .0 1- 0.28
検出率
平均
1/ 11 < 0.01
< 0.02
< 0.01
< 0.01
< 0.03
< 0.01
< 0.01
4/ 11 < 0.05
< 0.01
< 0.01
9/ 11 0 .0 82
濃度範囲
表6
検出 率 平 均
1/ 12 < 0.01
< 0.02
< 0.01
< 0.01
< 0.03
< 0.01
< 0.01
5/ 12 < 0.05
< 0.01
< 0.01
1 1/ 12 0 .0 44
検出率
0.01 5- 0.33
< 0.02
< 0.01
< 0.01
< 0.03
<0 .0 1- 0.12
< 0.01
<0 .0 5- 0.48
< 0.01
< 0.01
0 .0 39 -2 .0
鈴鹿 川
濃度範 囲
4-t -ブチ ル フ ェ ノー ル < 0.01 -0 .0 24
2,4-ジ クロ ロ フ ェ ノー ル < 0.02
4-t-ペ ン チ ル フ ェ ノー ル < 0.01
4-n-ペ ン チ ル フ ェ ノー ル < 0.01
4-n-ヘ キ シ ル フ ェ ノー ル < 0.03
4-t-オ クチ ル フ ェ ノー ル < 0.01
4-n-ヘ プチ ル フ ェ ノー ル < 0.01
ノニ ル フ ェ ノー ル
< 0.05 -0 .0 86
4-n-オ クチ ル フ ェ ノー ル < 0.01
ペ ン タ クロ ロ フ ェ ノー ル < 0.01
ビ ス フェ ノ ー ル A
<0 .0 1- 0.20
(単位:μ g/L)
矢合 川
大 井の 川
平均
1 0/ 10 0.14 61
< 0.02
< 0.01
< 0.01
< 0.03
1/ 10 < 0.01
< 0.01
6/ 10
0.10
< 0.01
< 0.01
1 0/ 10
0.76
濃度範囲
検出率
<0 .0 1- 0.15
< 0.02 -0 .0 84
< 0.01
< 0.01
< 0.03
< 0.01 -0 .0 95
< 0.01
0.12 -1 .1
< 0.01
< 0.01
0 .0 45 -1 .0
6/ 12
1/ 12
平均
0 .0 46
0 .0 16
< 0.01
< 0.01
< 0.03
1 1/ 12 0 .0 47
< 0.01
1 2/ 12 0.33
< 0.01
< 0.01
1 2/ 12 0.30
金沢 川
濃度範 囲 検出 率 平 均
< 0.01
< 0.01
< 0.02
< 0.02
< 0.01
< 0.01
< 0.01
< 0.01
< 0.03
< 0.03
0 .0 17 -0 .0 46 1 2/ 12 0 .0 26
< 0.01
< 0.01
0.16 -1 .1
1 2/ 12
0.35
< 0.01
< 0.01
< 0.01
< 0.01
0.04 5- 0.68 1 2/ 12
0.14
ノニルフェノール、ビスフェノールAおよび,4-tert-オクチルフェノールの水質の年度別平均値比較
(単位:μ g/L)
ノニ ルフ ェノ ー ル( NP )
ビ ス フ ェ ノー ル A (B PA )
年度
平 成 1 0 平 成 11 平 成 12 平 成 1 3 年 度
平 成 10 平 成 11 平 成 1 2 平 成 13
三滝 川
0 .07 8
0.1 1
0.1 8
0 .04 0 三滝 川
0.1 8
0.1 9
0 .08 0
0 .07 5
矢合 川
0.2 8
0.1 1
0 .06 9
0 .09 9 矢合 川
0.5 6
1 .1
0.4 5
0.7 6
大 井の 川
0.4 4
1 .1
0.4 0
0.3 3 大 井の 川 0.3 8
0.2 9
0.2 7
0.3 0
天白 川
0.2 0
−
0.4 9
−
天白 川
0.1 2
−
0.5 5
−
鈴鹿 川
0 .07 5
0 .07 9
−
< 0.0 5 鈴鹿 川
0 .07 1
0 .07 4
−
0 .04 4
金沢 川
0.3 5
0.5 7
0.6 0
0.3 5 金沢 川
0.1 5
0.1 3
0.1 9
0.1 4
志 登茂 川
−
0.5 1
0.2 4
−
志 登茂 川 −
0 .03 2
0 .04 6
−
愛宕 川
−
0.9 8
1 .1
−
愛宕 川
−
0 .07 6
0.1 4
−
外 城田 川
−
0 .09 3
0.1 1
−
外 城田 川 −
0 .01 1
0 .03 2
−
勢田 川
−
0.2 0
0.1 6
−
勢田 川
−
0 .04 3
0 .04 0
−
4- tert -オ ク チル フ ェ ノー ル
年度
平 成 1 0 平 成 11 平 成 12 平 成 1 3
三滝 川
< 0.0 1
< 0.0 1
< 0.0 1
矢合 川
< 0.0 1
< 0.0 1
< 0.0 1
大 井の 川
0 .06 4
0 .02 6
0 .04 7
天白 川
0 .02 1
鈴鹿 川
< 0.0 1
< 0.0 1
金沢 川
0 .03 5
0 .03 4
0 .02 6
志 登茂 川
−
< 0.0 1
< 0.0 1
−
愛宕 川
−
0 .04 2
0 .03 8
−
外 城田 川
−
0 .01 8
0 .01 2
−
勢田 川
−
< 0.0 1
0 .03 8
−
表7
エストラジオール類の調査結果
20 0 1 .1 0 .16
物質 名
三滝 川 大井の川
17α
<0 .0 07 <0 .0 07
17β
<0 .0 03 <0 .0 03
エ ス ト ロ ン 0 .0 01
0 .0 01
エチニ ル
<0 .0 02 <0 .0 02
2 0 02 .1 .2 8 ,29
物質 名
三滝 川 大井の川
17α
<0 .0 07 <0 .0 07
17β
<0 .0 03 <0 .0 03
エ ス ト ロ ン 0 .0 01
0 .0 11
エチニ ル
<0 .0 02 <0 .0 02
17 α:17 α-エストラジオール
17 β:17 β-エストラジオール
金沢 川 志登茂 川外城田 川
<0 .0 07 <0 .0 07 <0 .0 07
<0 .0 03 <0 .0 03 <0 .0 03
0 .0 06
0 .0 09
0 .0 01
<0 .0 02 <0 .0 02 <0 .0 02
単位:μ g/L
愛宕 川
<0 .0 07
<0 .0 03
0 .0 09
<0 .0 02
勢田 川
<0 .0 07
<0 .0 03
0 .0 04
<0 .0 02
鈴鹿 川 DL
<0 .0 07 0 .0 07
<0 .0 03 0 .0 03
<0 .0 01 0 .0 01
<0 .0 02 0 .0 02
金沢 川 志登茂 川外城田 川 愛宕 川
<0 .0 07 <0 .0 07 <0 .0 07
<0 .0 03 <0 .0 03 <0 .0 03
0 .0 20
0 .0 08
0 .0 02
<0 .0 02 <0 .0 02 <0 .0 02
-
勢田 川
<0 .0 07
<0 .0 03
0 .0 06
<0 .0 02
鈴鹿 川 DL
<0 .0 07 0 .0 07
<0 .0 03 0 .0 03
0 .0 01
0 .0 01
<0 .0 02 0 .0 02
エストロン:エストロン
DL:S/N=5 での検出限界
エチニル:エチニルエストラジオール
大井の川(天白川下流),鈴鹿川及び金沢川で調査を行
い次の結果を得た.
1 .ノ ニ ル フ ェ ノ ー ル は ,ND(0.05 μ g/L)∼ 1.1 μ g/L
( 39/57)の範囲で検出され,矢合川(三滝川上流)や大
井の川(天白川下流)の濃度が比較的高かった.
2 .ビ ス フ ェ ノ ー ル A は ,ND( 0.01 μ g/L)∼ 2.0 μ g/L
( 54/57)の範囲で検出され,大井の川(天白川下流)や
金沢川の濃度が比較的高かった.
3.4-t-オクチルフェノールは,大井の川(天白川下流)
や金沢川から微量(ND( 0.01 μ g/L)∼ 0.095 μ g/L)な
がら検出された.
4.平成 10 年度からの経年変化を見ると検出頻度の高
いノニルフェノールやビスフェノールAはほぼ横這い状
況であった.
5.エストロンは ND( 0.001 μ g/L)∼ 0.020 μ g/mL 検
出され,金沢川,志登茂川,愛宕川の濃度が比較的高か
った.
文
献
1) 佐来栄治,早川修二 他 : 河川水中のノニルフェノー
ルおよびビスフェノールAの分析,三重県環境科学セ
ンター研究報告,19,13-21(1999)
2) 佐来栄治,早川修二 他 : 三 重 県 北 部 河川のアルキ
ルフェノール類とビスフェノールAについて(第2
報 ),三重県保健環境研究所年報(環境部門),1,3751(1999)
3) 早川修二,佐来栄治 他 : 県 下 河川水中の環境ホルモ
ン類の状況,三重県保健環境研究所年報, 2 ,94-104
(2000)
4)早川修二,佐来栄治 他 : 県 下 河川水中の環境ホルモ
ン類の状況(第2報),三重県保健環境研究所年報,3,
94-99(2001)
5) 環 境 庁 水 質 保 全 局 水 質 管 理 課 : 外 因 性 内 分 泌 攪
乱化学物質調査暫定マニュアル(水質,底質,水
生 生 物 ), 平 成 10 年 10 月
6) 環 境 庁 水 質 保 全 局 水 質 管 理 課 : 要 調 査 項 目 等 調
査 マ ニ ュ ア ル ( 水 質 , 底 質 , 水 生 生 物 ), 平 成 11
年 12 月
7) 環 境 省 : ノ ニ ル フ ェ ノ ー ル が 魚 類 に 与 え る 内 分
泌 攪 乱 作 用 の 試 験 結 果 に 関 す る 報 告 ,平 成 13 年 8
月
8 )環 境 省 : 平 成 14 年 度 第 1 回 内 分 泌 攪 乱 化 学 物 質
問 題 検 討 会 資 料 , 平 成 14 年 6 月