巨大地震に対する超高層集合住宅の人・生活を守る技術 - 日本女子大学

21599
日本建築学会大会学術講演梗概集
(東海) 2012 年 9 月
巨大地震に対する超高層集合住宅の人・生活を守る技術の開発
その8
正会員
正会員
正会員
高層集合住宅における自宅滞在型避難生活に関する意識調査
超高層集合住宅
避難行動
自宅滞在型避難生活
避難所
50~59階
40~49階
30~39階
20~29階
10~19階
平田
石川
斉藤
京子*1
孝重*2
大樹*3
防災意識
居住者
§1 はじめに
昨年度の報告1)に引き続き、超高層集合住宅居住者の
“避難せず建築内に残留し対応する”という新しい防災
施策を実現するため、高層集合住宅居住者の備蓄と避難
に関する意識調査を行い、居住者啓発のための知見を得
る。本報では 10 階建て以上の集合住宅の居住者を対象
としたアンケート調査結果について報告する。
表1 調査概要
§2 調査方法
調査日時
2012年2月21日~24日
東京 23 区内の 10
調査方法 インターネットによるWEBアンケート
階建て以上の集合住
東京都23区内の高層マン
宅居住者で東日本大 調査対象 ション居住者(建物は10階建
て以上、居住階は8階以上に
震災を経験した人を
限定)
地震と防災に対する意識、備
対象に備蓄状況と避
蓄、避難行動、避難所への
難方法、自宅滞在型 調査内容 避難意識、建物内残留に対
する意識、他
避難生活の条件に関
回答者
年齢20~83歳の男女765名
する web アンケート
男性49%女性51%、建物階
10~58階、居住階8~54階、
調査を実施した。調 属性
持ち家61%、賃貸・社宅38%
査概要を表1に示す。
§3 建物階数および居住階
回答者の自宅がある階(居住階)を図1に示す。自然
回収では低層階居住者の回 500
(人)
答が多くなることから、8 400
階以上の居住者に限定した。 300
20 階以上の 83%が防災セ 200
ンターを有するのに対して 100
0
8~12 階居住者の 73%は
集合住宅内に「防災センタ
ーがない・わからない」と
回答している。
図1 回答者の居住階
§4 備蓄状況からみる自宅滞在型避難生活の可能性
水と食料品の備蓄状況、非常用トイレと家具の耐震固
定の現状について質問した。図2より水の備蓄のない人
は 20%程度おり、逆に 20 階以上の高層階では備蓄量が
多くなる。食料の備蓄も同様の傾向を示した。備えが薄
いのは非常時のトイレであり、半数以上で用意がない
(図3)。家具固定も不十分で、特に高層階が必要ない
と考えられている割合が高くなっていた(図4)。
首都直下地震でライフラインの停止日数予想と備蓄量
の関係をみたのが表2である。停止日数の予測に合わせ
て備蓄する傾向が分かるほか、備蓄のない人はライフラ
8,9階
○
0%
10%
20%
30%
40%
50%
60%
70%
80%
90%
100%
備蓄なし
全体(n=762)
1日分
10.3 6.4 5.1 4.4 19.0 16.2 14.5 21.2 2日分
1‐9階(n=221)
3日分
8.5 6.7 2.7 4.9 20.6 16.1 13.5 23.8 4日分
5日分
10‐19階(n=440)
6.1 3.6 5.7 10.2 17.0 17.0 15.4 21.8 6日分
7日分
20‐階(n=101)
12.9 図2
20%
13.9 1‐9階(n=223)
7日分より多い量
14.9 居住階と各住戸における水の備蓄状況
0%
全体(n=765)
8.9 5.9 6.9 23.8 12.9 12.9 40%
60%
100%
特に用意していないが、ビニール袋
などでの代用方法を考えてある
0.0 63.7 9.9 非常用トイレを用意して ある
0.5 57.4 9.7 18.6 10.8 15.7 80%
10‐19階(n=441)
15.4 18.8 10.4 54.6 0.7 20‐階(n=101)
13.9 23.8 5.9 55.4 1.0 自宅には用意せず、外の仮設トイレ
などを利用するつもりだ
特に用意していない
その他
図3
0%
全体(n=762)
居住階と非常時用トイレの準備状況
20%
12.0 40%
22.1 60%
16.3 80%
35.6 100%
耐震どめする必要はないので、やってい
ない
13.1 耐震どめをする必要は感じているが、特
に対策を急ぐ必要はない
1‐9階(n=221)
12.1 10‐19階(n=440)
10.2 26.9 16.6 32.7 耐震どめする必要は感じているが、予算
の関係で対策はとっていない
10.8 耐震どめする必要があると思い、いくつ
かの家具はとめている
19.5 17.5 37.9 14.1 耐震どめをおおかた設置している
その他
*
20‐階(n=101)
19.8 22.8 10.9 図4
表2
31.7 *:全体%との比率の差
の検定 5%有意
13.9 家具の耐震固定の実施状況
水の備蓄量(列)と水道の地震後停止日数予測(行)
止まらな
い
全体(n=765)
1日分(n=111)
2日分(n=124)
3日分(n=145)
4日分(n=39)
5日分(n=34)
6日分(n=19)
7日分(n=49)
7日分より多い量(n=79)
備蓄なし(n=162)
その他(n=3)
注:
1日
2~3日 4~5日
1週間
2週間
3週間
1ヶ月
1ヶ月を
こえる
その他
18.2
17.1
16.9
17.2
15.4
15.4
14.4
20.2
16.6
23.1
24.1
23.4
27.4
24.1
28.2
9.2
8.1
11.3
11.0
5.1
16.9
16.2
8.9
17.2
12.8
5.4
5.4
4.0
2.8
10.3
2.5
2.7
3.2
4.1
0.0
4.7
6.3
5.6
2.8
5.1
3.7
6.3
2.4
4.1
0.0
0.1
0.0
0.0
0.0
0.0
11.8
21.1
6.1*
21.5
24.7*
0.0
17.6
15.8
10.2
6.3*
14.8
33.3
14.7
15.8
26.5
17.7
25.9
33.3
23.5**
0.0
6.1
7.6
7.4
0.0
17.6
21.1
26.5
30.4**
14.2
0.0
8.8
10.5
14.3**
3.8
4.3
0.0
5.9
5.3
0.0
1.3
1.2
0.0
0.0
5.3
4.1
5.1
4.9
33.3
0.0
5.3
6.1
6.3
1.9
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.6
0.0
* 全体%との比率の差の検定 5%有意
** 全体%との比率の差の検定 1%有意
インが停止しないと考える人が 25%と全体よりも多くお
り、軽度の被害と予測している。防災訓練に参加しよう
と思わない人は水の備蓄が少ないことも分かる(図5)。
東日本大震災を経験してもなお十分な水・食料の備蓄
をもたない回答者が 40%以上おり、備えは十分でない現
Development of Safe and Secure Environment in High-rise Residential Buildings against Large Earthquakes
Part 8 Resident’s Consciousness on Preparedness and Evacuation Life in High-rise Condominiums
HIRATA Kyoko, ISHIKAWA Takashige and SAITO Taiki
― 1197 ―
0%
0%
全体(n=764)
50%
14.5 16.2 19.0 5.1 15.4 16.8 7.0 20%
40%
60%
80%
100%
住まいは無傷
100%
1日分
全体(n=765)
12.5 31.6 1‐9階(n=223)
13.5 28.7 39.0 6.0 8.4 住戸の壁などに少しひび割れなどが生じ
る軽微な被害で、住むことはできる
2日分
10.3 21.1 住戸の壁などにある程度ひび割れなどが
生じるが、住むことはできる
3日分
そう思う(n=143)
17.5 11.2 16.8 4日分
39.0 6.3 9.0 41.3 6.6 9.5 住戸の壁などに、かなりのひび割れなど
が生じて、住むことはできない
5日分
ややそう思う(n=281)
13.2 19.9 19.9 4.3 11.0 17.1 10‐19階(n=441)
6日分
10.9 29.3 住棟が少し傾く、液状化現象等でほとん
どの住宅が住めない
住棟全体が全壊する
7日分
*
どちらともいえない(n=204)
17.6 11.3 21.6 5.4 7.8 21.1 **
20‐階(n=101)
7日分より多い量
17.8 48.5 *
*
28.7 3.0 2.0 わからない
備蓄は特にしていない
あまりそう思わない(n=84)
そう思わない(n=52)
13.1 16.7 20.2 4.8 10.7 *
27.4 その他
**
9.6 11.5 7.7 3.8 13.5 図8
**:全体%との比率の差
の検定 1%有意
*:5%有意
44.2 0%
10%
20%
8.2
30%
40%
50%
29.0
60%
70%
90%
7.7
100%
7.6 0.3
40%
60%
80%
100%
18.2 15.4 16.9 9.2 24.1 5.4 4.7 いったん避難するが、そこで寝泊まりすることはしない
60.0
基本的に避難所には避難しないが、救援物資や情報などが必要なときに避難所に行く
50.0
避難所には避難しない
40.0
わからない
30.0
その他
20.0
17.9 14.8 10‐19階(n=441)
17.9 16.1 20‐階(n=101)
19.8 13.9 6.7 4.5 19.3 8.5 20.2 23.6 17.0 4.1 5.2 9.5 *
34.7 その他
8.9 10.9 7.9 3.0 *:全体%との比率の差
の検定 5%有意
図9 居住階とライフライン停止(水道)日数予測
フラインに対する復旧日数予測も 20 階以上が短い(図9)
。
§6 発災後の自宅避難生活の円滑化に対する意識
事前の備えが不十分な状態でも円滑な自宅滞在型避難
生活を実現するためには、避難する原因をとりのぞく、
あるいは発災後の生活を支え合うための方策が必要であ
る。事後に居住者を支えるソフト面の方策案として有効
なものを選んでもらい、宿泊を伴う避難者が評価する順
に並べたのが図 10 である。回答者全体では救援物資・情
報提供・情報共有の選択比率が高いが、避難所へ宿泊す
る避難者にとっては集合住宅への救援物資配布、生活支
援情報の十分な提供、対策本部設置が評価されている。
全体(n=765)
避難所に避難し、そこに居住す
る(n=59)
いったん避難するが、そこで寝
泊まりすることはしない(n=173)
図7 避難所避難者(図 6 選択肢 1,2)の避難理由
図8は首都直下地震(震度6強程度)の地震発生時の
自宅の被害想定である。20 階以上の居住者は被害を回答
者全体に比べて軽微とみる割合が高くなっている。ライ
*1 日本女子大学住居学科 教授・博士(学術)
*2 日本女子大学住居学科 教授・工学博士
*3 独立行政法人 建築研究所・工学博士
その他
(n=182,MA)
わからない
わからない
その他
町内で避難所に逃げるように
取り決めがある から
自宅の被害が大 きいと思 う か
ら
自分や家族が避難所 での支援
を必要としている から
避難所に逃げなければな らな
いと思っているから
避難所なら寝るところがある
から
自宅のエレベータが止 まって、
階段の昇降がつら いから
余震が怖いので家 にいたくない
から
避難所なら電気 がついている
のではないかと思 うから
一人だと不安なので、他 の人
がいるから
他の人と話せて不安 が減 る か
ら
避難所なら簡単な救護 を受 け
られると思うから
被災地外から集まった支 援物
資が配られるから
避難所ならトイレが使 えるよ
うに思うから
救援物資があるから
情報が得られる から
0.0 どれも、入るのをやめる理由にはなら
ない
10.0 マンション低層部分にある集会室等や
中庭等で一時的に寝泊まりできるよ
うにする
20.0 マンション内で健康管理や医療相談が
できる仕組みを作る
30.0 マンション内で住民が情報を共有する
ためのしくみが作られる
40.0 マンション内で住民同士が話し合える
ようなサポート体制が作られる
50.0 マンション内で不足する物資を住民間
で貸し借りできるようにする
(%)
60.0 マンション管理組合が対策本部を設け
る
70.0 1ヶ月
1ヶ月をこえる
行政からの住民へのお知らせや近隣の
生活再建情報がラジオ・
インターネッ
ト等でくわしく伝えられる
0.0
2週間
3週間
救援物資がマンションにも届けられる
(
ただし十分な量は見込めない)
避難所への避難
2~3日
1週間
1‐9階(n=223)
10.0
図6
止まらない
4~5日
80.0
(%)
70.0
(n=765)
避難所に避難し、そこに居住する
20%
1日
全体(n=765)
80%
47.2
居住階ごとにみた首都直下地震での被害想定
0%
質問:マンション内の防災訓練が行われるとしたら、実際に参加したいと思う
図5 マンションでの防災訓練参加意思と水の備蓄量
状である。そして防災に関心が少なければ備えの薄い状
態が継続している。超高層集合住宅での自宅滞在型生活
の実現に向けた対策では個々の備蓄量を増やす啓発、ま
たは住棟全体での備蓄を徹底する必要があるが、事前対
策だけでは全体を強化するにも限界があると推察される。
§5 避難行動と被害予測
自宅滞在型避難生活を推進するには避難者を減少させ
る必要がある。大地震発生後自宅や家族に被害がなくて
も避難するかを質問したところ、全回答者の 37%が避難
所へ避難する(宿泊と非宿泊)と回答した(図6)。図7は
この問いで避難所への避難者だけを対象に避難所へ行く
理由をみたものである。このうち避難に寝泊まりする 41
人は 20%が自分または家族が避難所での支援を必要とし
ていると回答した。避難所への避難者と全回答者は同傾
向で避難理由の上位は救援物資と情報、トイレであった。
**:全体%との比率の差
の検定 1%有意
*:5%有意
基本的に避難所には避難しない
が、救援物資や情報などが必要
なときに避難所に行く(n=348)
避難所には避難しない(n=69)
わからない(n=109)
その他(n=7)
図 10 避難所に避難しなくてすむ有効な事後方策
§7 おわりに
超高層集合住宅での自宅滞在型避難生活を円滑化する
ために事前の備えを厚くすることの限界と事後対策の重
要性を指摘した。本調査にご協力頂いた皆様に深謝する。
【引用文献】
1)平田京子,久木章江,石川孝重,斉藤大樹:巨大地震に対する超高層集合
住宅の人・生活を守る技術の開発 その7 高層集合住宅居住者の避難方法
に関する意識調査,日本建築学会大会学術講演梗概集(関東)(構造Ⅱ),
pp.957~958,2011 年 8 月.
*1 Prof., Dept. of Housing and Architecture, Japan Women’s Univ., Ph. D.
*2 Prof., Dept. of Housing and Architecture, Japan Women’s Univ., Dr. Eng.
*3 Building Research Institute., Dr. Eng.
― 1198 ―