2014 年 9 月 介護保険優先原則による利用者への影響 調査の結果 き ょ う さ れ ん 理事長 西村 直 1.調 査 の背 景 と目 的 2000 年 度 の 介 護 保 険 法 施 行 を 皮 切 り に 、 2006 年 度 の 障 害 者 自 立 支 援 法 の 施 行 及 び 2013 年 の 障 害 者 総 合 支 援 法( 以 下 、総 合 支 援 法 )に 名 称 が 変 更 さ れ て 以 降 に お い て も 、 一 貫 し て 65 歳 以 上 の 障 害 の あ る 人 と 、 介 護 保 険 法 に よ っ て 指 定 さ れ て い る 40 歳 以 上 の「特定疾病」該当者は、介護保険制度と重複する自立支援給付については原則とし て 介 護 保 険 を 優 先 す る こ と が 、総 合 支 援 法 第 7 条 に 定 め ら れ て い る( 以 下 、「 介 護 保 険 優 先 原 則 」 と す る )。 そのため対象となる障害のある人は、本人の意思や選択権が考慮されることなく、 要介護認定を受けることが強いられ、認定された要介護度ごとに定められた介護保険 サービスが優先され、障害福祉の支援が制約されてしまう。 た だ し 厚 生 労 働 省 は 、 2007 年 3 月 に 「 障 害 者 自 立 支 援 法 に 基 づ く 自 立 支 援 給 付 と 介 護 保 険 制 度 と の 適 用 関 係 等 に つ い て 」 を 通 知 し て い る ( 以 下 、「 適 用 関 係 等 の 通 知 」)。 そ の 内 容 は 、「 介 護 保 険 優 先 原 則 」 を 基 本 と し な が ら も 、 障 害 の あ る 人 の 「 心 身 の 状 況 や サ ー ビ ス 利 用 を 必 要 と す る 理 由 は 多 様 で あ り 、介 護 保 険 サ ー ビ ス を 一 律 に 優 先 さ せ 、 これにより必要な支援を受けることができるか否かを一概に判断することは困難であ ることから、障害福祉サービスの種類や利用者の状況に応じて当該サービスに相当す る介護保険サービスを特定し、一律に当該介護保険サービスを優先的に利用するもの と は し な い こ と と す る 」 と 定 め て い る ( 以 下 、「 障 害 配 慮 事 項 」 と す る )。 つまり、介護保険制度の優先を原則としつつも、障害福祉の支給が適切な場合は自 立 支 援 給 付 を 適 用 す る 、も し く は 両 制 度 を 併 用 す る こ と が 可 能 に な る( 本 通 知 は 、2014 年 3 月 に 法 律 名 称 の 変 更 等 に 伴 っ て 一 部 改 正 さ れ た )。 と こ ろ が 、こ の「 適 用 関 係 等 の 通 知 」の「 障 害 配 慮 事 項 」は 、す べ て の 市 区 町 村( 以 下、市町村)において共通に解釈され、制度や支援が同水準に実施されているとは言 い難い。市町村によって解釈・実施に差異があり、そのため同じ障害や生活・所得状 況にあったとしても、暮らしている市町村が異なることによって福祉や介護の選択・ 利用に格差が生じている。 そ こ で き ょ う さ れ ん で は 、こ れ ら の 実 情 を 浮 き 彫 り に す る こ と を 目 的 に 、「 介 護 保 険 優先原則」による影響についての調査を実施した。 なお、総合支援法第 7 条の「介護保険優先原則」の適用は、介護給付と訓練等給付 の自立支援給付に特定されているにもかかわらず、市町村によっては、移動支援など の地域生活支援事業の支給抑制に影響を及ぼしているところもあるため、ここでは、 自立支援給付に地域生活支援事業を含めて、障害福祉とする。 2.調 査 対 象 と概 要 (1)調 査 対 象 ・方 法 及 び解 析 対 象 2014 年 5 月 、 全 国 1,833 ヵ 所 の き ょ う さ れ ん に 加 盟 し て い る 就 労 継 続 支 援 、 就 労 移 行支援、生活介護等の自立支援事業ならびに地域活動支援センター等(以下、会員施 設 ) を 対 象 に 、 利 用 者 総 数 、「 介 護 保 険 優 先 原 則 」 対 象 利 用 者 数 、 そ の 影 響 に つ い て の 調査を行なった。 調 査 票 は 、同 年 7 月 ま で に FAX・郵 送 に よ っ て 直 接 回 収 し た 。な お 、回 答 内 容 は す べ て 2014 年 4 月 1 日 現 在 の 実 態 と し た 。 (2)回 答 数 ・率 1,833 ヵ 所 の う ち 、回 答 の あ っ た 会 員 施 設 数 は 、714 ヵ 所 (回 答 率 39.0% )で 、そ の 利 用 者 総 数 は 21,760 人 で あ っ た 。 そ の う ち 、「 介 護 保 険 優 先 原 則 」 の 対 象 と な る 利 用 者 数 は 1,638 人 で 約 7.5% で あ っ た 。 「 介 護 保 険 優 先 原 則 」対 象 者 の 内 訳 は 、65 歳 以 上 の 利 用 者 が 1,183 人( 72.2% )で 、 40 歳 以 上 の 特 定 疾 病 者 が 455 人 ( 27. 8% ) と な っ て い た 。 ●「介護保険優先原則」対象者の内訳 65 歳 以 上 特定疾病 有効回答数 1,183 人 455 人 1,638 人 72.2% 27.8% 100.0% 3.介 護 保 険 優 先 原 則 による影 響 (1)訪 問 支 援 分 野 での影 響 家事援助・身体介護の居宅介護や重度訪問介護事業等の 訪問支援において、障害福 祉 の 支 給 が 打 ち 切 ら れ た 人 は 62 人 ( 21.5% ) で あ っ た 。 一 方 、 介 護 保 険 サ ー ビ ス を 優 先 と し つ つ 障 害 福 祉 の 訪 問 支 援 を 併 用 し て い る 人 は 202 人 ( 69.9% ) だ っ た 。 と こ ろ が「介護保険優先原則」 対象者であっても、障害福祉の支援の単独利用を認められて い る 人 が 25 人 ( 8.6% ) い た 。 障 害 福 祉 の 支 給 が 打 ち 切 ら れ た 62 人 の う ち 、 介 護 保 険 制 度 の 訪 問 介 護 を 利 用 し て い る 人 は 47 人 、訪 問 支 援 を 利 用 し て い な い 人 は 5 人 、不 明 は 10 人 だ っ た 。 ま た 、「 介 護 保 険 優 先 原 則 」 対 象 者 の う ち 、 7 割 の 人 が 介 護 保 険 と 障 害 福 祉 と の 併 用 が 認 め ら れ 、 1 割 弱 の 人 が 障 害 福 祉 の 単 独 利 用 と な っ て い た 点 で は 、「 障 害 配 慮 事 項 」 を定めた「適用関係等の通知」がある程度反映したといえる。しかし、介護保険制度 との併用によって必要十分な支援の量を保障されている かどうかは定かではない。 とくに、障害福祉の支援を打ち切られてしまった人が 2 割を占めていたことは、大 き な 問 題 で あ る 。「 適 用 関 係 等 の 通 知 」 の 解 釈 と そ の 実 施 は 、 市 町 村 に よ っ て 相 当 な 差 異 が み ら れ た 。「 知 的 障 害 や 脳 性 マ ヒ 等 の 生 ま れ な が ら の 障 害 等 は 『 障 害 配 慮 事 項 』の 対 象 と す る が 、交 通 事 故 や 特 定 疾 病 等 に よ る 中 途 障 害 の あ る 人 は 『 介 護 保 険 優 先 原 則 』 を 徹 底 す る 」 と い う 市 町 村 も あ れ ば 、「 要 介 護 度 が 4 か 5 で あ り 、 障 害 程 度 区 分 が 5 か 6 の 人 で な け れ ば『 障 害 配 慮 事 項 』の 対 象 に し な い 」と い う 市 町 村 も あ っ た 。さ ら に「 介 護保険優先原則」を拡大解釈し、自立支援給付だけでなく、地域生活支援事業に位置 付 け ら れ て い る 移 動 支 援 ま で 、 65 歳 を 訪問支援分野 迎えた途端に支給を打ち切った市町村 もあった。 障害福祉 単独利用 8 .6 % 他方、障害のある人やその家族に対 介護保険 併用者 69.9% して、 「 適 用 関 係 等 の 通 知 」の 周 知 を 徹 底していないのではないかと思われる 障害福祉 打切者 2 1 .5 % 市 町 村 も み ら れ た 。「 通 知 を 送 付 し た 。 ホームページで公表した」と説明して いる市町村もあるが、そもそもそうし た情報提供では、障害のある人とその 家族にとって、ていねいな説明を行な ったとは言い難く、合理的配慮に欠ける 行為といわざるを得ない。 ●訪問支援における介護保険優先原則の影響 ①障 害 福 祉 打 切 者 数 ②介 護 保 険 併 用 者 数 ③障 害 福 祉 単 独 利 用 有効回答数 62 人 202 人 25 人 289 人 21.5% 69.9% 8.6% 100.0% (2)日 中 活 動 支 援 分 野 での影 響 就労継続支援や就労移行支援、生活介護事業等の日中活動支援において、障害福祉 の 支 給 が 打 ち 切 ら れ た 人 は 22 人 ( 1.7% ) だ っ た 。 ま た 、 障 害 福 祉 の 日 中 活 動 支 援 と 介 護 保 険 制 度 の 高 齢 者 デ イ サ ー ビ ス を 併 用 し て い る 人 は 296 人 ( 22.3% ) だ っ た 。 そ れ に 対 し て 、 障 害 福 祉 の 日 中 活 動 支 援 を 継 続 し て 単 独 利 用 し て い る 人 は 1,008 人 ( 76.0% ) と も っ と も 多 か っ た 。 障害福祉の日中活動支援を打ち切られた人たちのうち、私的利用契約によって継続 し て 障 害 福 祉 を 利 用 し て い る 人 は 12 人 、 介 護 保 険 の 高 齢 者 デ イ サ ー ビ ス 単 独 利 用 は 7 人 、 在 宅 者 は 1 人 、 不 明 ・ 未 回 答 は 2 人 だ っ た 。 障 害 福 祉 が 打 ち 切 ら れ た 22 人 の 半 数 を 占 め る 人 た ち が 、 私 的 利 用 契 約 で あ っ て も 障 害 福 祉 を 利 用 し て い る 実 態 は 、 65 歳 や 特定疾病という基準のみで、 障害のある人のニーズを選別する「介護保険優先原則」 が大きな問題を孕んでいることを実証している。それは本人本位の選択の保障の視点 からみても誤りである。 また日中活動支援においても、 日中活動支援分野 障害福祉 打切者 1 .7 % 訪問支援と同様に市町村によって 「適用関係等の通知」の解釈とそ の具体化に差異がみられた。たと え ば「『 介 護 保 険 優 先 原 則 』の 対 象 年 齢 に 達 し た 場 合 、『 働 き た い 人 』 の就労継続支援の利用は認めるが、 生活介護は認めない」とする市町 村もあれば、 「就労継続支援の利用 も認めない」という市町村もあっ 介護保険 併用者 2 2 .3 % 障害福祉 単独利用 76.0% た。 さ ら に 、従 前 か ら 障 害 福 祉 を 利 用 し て い る 人 で 65 歳 を 超 え た 人 の 継 続 利 用 は 認 め る が 、 65 歳 を 超 え る な ど 「 介 護 保 険 優 先 原 則 」 の 対 象 者 に な っ た 人 が 、 新 た に 障 害 福 祉 の利用を希望しても認めないという市町村もあり、従前から障害福祉を利用している 人と、新規の利用希望者の間にも格差が生み出されている。 ●日中活動支援における介護保険優先原則の影響 ①障 害 福 祉 打 切 者 数 ②介 護 保 険 併 用 者 数 ③障 害 福 祉 単 独 利 用 有効回答数 22 人 296 人 1,008 人 1,326 人 1.7% 22.3% 76.0% 100.0% (3)居 住 支 援 分 野 での影 響 グループホーム利用の居住支援については、障害福祉の支給打ち切りの人はいなか っ た 。530 人 の 回 答 者 す べ て の 人 が 、引 き 続 き 障 害 福 祉 の 利 用 継 続 が 可 能 と い う 回 答 だ っ た 。こ れ は 、介 護 保 険 制 度 の 高 齢 者 グ ル ー プ ホ ー ム は 、認 知 症 対 象 に 限 ら れ て お り 、 障 害 の あ る 人 が 65 歳 を 迎 え た か ら と い っ て 認 知 症 を 発 症 し て い な け れ ば 利 用 で き な い 制限があり、機械的に「介護保険優先原則」を適用できないためである。 た だ し 自 由 記 述 で は 、「 グ ル ー プ ホ ー ム を 継 続 し て 利 用 で き る の だ ろ う か 」と 不 安 を 抱えている人は少なくないことも読みとることができた。 ●居 住 支 援 における介 護 保 険 優 先 原 則 の影 響 ①障 害 福 祉 打 切 者 数 ②障 害 福 祉 支 援 継 続 者 数 有効回答数 0人 530 人 530 人 0.0% 100.0% 100.0% (4)応 益 負 担 の発 生 とその矛 盾 2010 年 1 月 に 障 害 者 自 立 支 援 法 違 憲 訴 訟 団 と 厚 生 労 働 大 臣 が 交 わ し た 「 基 本 合 意 」 で は 、 自 立 支 援 法 と と も に 「 応 益 負 担 の 廃 止 」 が 明 記 さ れ 、 2011 年 度 か ら 障 害 福 祉 の 利用にあたって、非課税世帯の応益負担は上限 0 円となった。その結果、多くの障害 のある人の応益負担を軽減することができた。 ところが本人の選択や希望で 介護保険の応益負担の有無 は な く 、「 介 護 保 険 優 先 原 則 」に よって一方的に介護保険サービ スが優先されてしまった障害の ある人たちは、非課税世帯であ っても介護保険の応益負担が発 生してしまった。訪問支援では 86.2 % も の 人 が 、 ま た 日 中 活 動 支 援 に お い て も 22.9% の 人 が 応 益負担を課せられてしまったこ とになる。 障害のある人のための支援・ 100 訪問支援 日中支援 80 60 40 86.2% 77.1% 22.9% 20 13.8% 0 応益負担あり 応益負担なし 介護は、法律・制度が障害福祉であるか介護保険であるか に関係なく、障害のある人 が 障 害 の な い 人 と 同 等 に 生 き る た め に 必 要 な 支 援 な の で あ る 。「 基 本 合 意 」 は 、 あ く ま で も 自 立 支 援 法 を め ぐ る 訴 訟 和 解 の 合 意 事 項 で あ る が 、そ の 趣 旨 を 尊 重 す る た め に は 、 「介護保険優先原則」の撤廃が求められる。 ●訪問支援における介護保険の応益負担 介 護 保 険 の応 益 負 担 あり 介 護 保 険 の応 益 負 担 なし ①障 害 福 祉 打 切 者 数 のうち介 護 保 険 ②介 護 保 険 の訪 問 支 援 ・介 護 を利 用 している人 併用者数※ 47 人 202 人 ③障 害 福 祉 ④制 度 利 用 有効 単独利用 なし、不 明 回答数 ※ 等 25 人 15 人 249 人 40 人 86.2% 13.8% 289 人 100.0% ●日中活動支援における介護保険の応益負担 介 護 保 険 の応 益 負 担 あり 介 護 保 険 の応 益 負 担 なし ①障 害 福 祉 打 切 者 のうち、高 齢 者 デイ ②介 護 保 険 サービスを利 用 している人 併用者数※ 7人 296 人 ③障 害 福 祉 ④私 的 利 用 有効 単独利用 契 約 、在 回答数 ※ 宅 、不 明 等 1,008 人 15 人 303 人 1,023 人 22.9% 77.1% 1,326 人 100.0% ※ 障 害 福 祉 利 用 者 のうち生 活 保 護 ・非 課 税 世 帯 は負 担 上 限 が 0 円 となるが、介 護 保 険 制 度 は 軽 減 されない。なお介 護 保 険 併 用 者 ならびに障 害 福 祉 単 独 利 用 者 のうち、配 偶 者 の収 入 が認 定 さ れている人 は、障 害 福 祉 の応 益 負 担 も発 生 している。 4.調 査 結 果 のまとめ (1)「介 護 保 険 優 先 原 則 」についての厚 労 省 告 示 の変 化 と矛 盾 「介護保険優先原則」は、自立支援法施行以前から指示されており、その発端は介 護保険法の制定だったが、自立支援法の施行によってその内容は大きく変更された。 障 害 福 祉 が 支 援 費 制 度 に よ っ て 実 施 さ れ て い た 2000 年 3 月 、介 護 保 険 法 の 施 行 に 伴 って厚生省が告示した「介護保険制度と障害者施策との適用関係等について 」の事務 連 絡 (以 下 、「 適 用 関 係 等 の 事 務 連 絡 」 )で は 、 介 護 保 険 制 度 と 障 害 福 祉 で 共 通 す る 在 宅 介護サービスに限って介護保険の優先原則を定めていた。 ただしこの「適用関係等の事務連絡」では、在宅介護サービスのうちガイドヘルプ サービスと各種の社会参加促進事業は障害福祉を優先していた。また 障害者施設の利 用 に つ い て も 、「 介 護 保 険 と 障 害 者 施 設 と で は 、 そ れ ぞ れ 目 的 、 機 能 が 異 な っ て お り 、 こ れ ら に 照 ら し て 」、障 害 者 施 設 の 利 用 が 必 要 と 認 め ら れ る 場 合 は 、介 護 保 険 法 の 保 険 給付の対象年齢であっても、障害福祉の優先を認めていた。 と こ ろ が 、 2006 年 の 自 立 支 援 法 の 施 行 に 伴 っ て 告 示 さ れ た 「 適 用 関 係 等 の 通 知 」 に よ っ て 、「 介 護 保 険 優 先 原 則 」 が よ り 強 調 さ れ 、「 一 律 に 優 先 し な い 」 と し な が ら も 、 65 歳 以 上 の 障 害 の あ る 人 と 40 歳 以 上 の 特 定 疾 病 者 は 、「 介 護 保 険 優 先 原 則 」 の 適 用 を 基本とした。 このように自立支援法施行以前には、厚労省自らが介護保険と障害福祉の「目的、 機能」は異なっていると説明していたにもかかわらず、自立支援法の施行によって、 その「目的、機能」が同一のものになったかのような説明の変更には違和感を抱かざ るを得ない。自立支援法施行以前と以降で、 移動介護・支援や障害者施設の「目的、 機能」が変わったとはいえない。変わった点は、給付体系と応益負担の導入である。 このような厚労省の説明矛盾がありながらも、最終的な判断は、支給決定権限を有 する市町村に委ねられている ため、適用関係等の「事務連絡」から「通知」への変更 は、市町村の判断に大きく影響を及ぼしたといえる。 (2)本 調 査 結 果 にみる問 題 点 と今 後 の課 題 本 調 査 で み た よ う に 、「 介 護 保 険 優 先 原 則 」は 、 障 害 の あ る 人 の 地 域 で の 暮 ら し や 働 くこと・活動等に大きく影響を及ぼしている。 とくに大きな問題点の第一は、障害のある人の必要や選択権ではなく、機械的に年 齢や疾病によって制度・施策が変更され、それによって 生活の水準や質を引き下げて しまう点である。 第 二 に は 、 自 立 支 援 法 と 併 せ て 応 益 負 担 の 廃 止 を 約 束 し た 「 基 本 合 意 」 が 、 65 歳 と いう年齢によって反故にされてしまう点である。障害福祉と高齢者 によって法律・制 度が異なるのは国制度の問題であって、障害のある本人に転嫁してはならない。 第三には、 「 介 護 保 険 優 先 原 則 」の 対 象 に な っ た 途 端 に 障 害 福 祉 の 給 付 が 打 ち 切 ら れ 、 その支援が途切れてしまう点である。市町村事業の移動支援さえもが打ち切られてし ま う 事 態 は 、「 適 用 関 係 等 の 通 知 」 を 超 越 し た 行 政 の 機 械 的 判 断 と 言 わ ざ る を 得 な い 。 ま た 65 歳 を 超 え る と 、訪 問 支 援 の 国 庫 負 担 金 の 給 付 額 が 激 減 し て し ま う 給 付 体 系 も「 介 護保険優先原則」を強要する大きな誘導要因になっている。 今回の調査結果から浮き彫りにされた当面する課題は、早急に全国の市町村の実態 を 把 握 し 、 問 題 を 緩 和 す る こ と で あ る 。 こ の 問 題 を 放 置 し た ま ま 、「 2 割 の 応 益 負 担 導 入 」 や「 要 支 援 者 の 介 護 保 険 か ら の 除 外 」を 盛 り 込 ん だ 2015 年 4 月 の 改 定 介 護 保 険 法 の実施を迎える訳にいかない。 最 後 に 、「 介 護 保 険 優 先 原 則 」 の 前 提 と な っ て い る 、介 護 保 険 制 度 へ の 障 害 福 祉 の 統 合問題についてである。現在のところ介護保険制度への統合は、一旦棚上げされたよ うにみえるが、水面下では脈々と本流化しつつあるといえる。しかし この介護保険制 度への統合は、日本政府が批准した国連の障害者権利条約の諸原則 に反すると言わざ る を 得 な い 。詳 細 は 控 え る が 、も っ と も 中 心 的 な 問 題 は 、介 護 保 険 制 度 が 徹 頭 徹 尾「 医 学モデル」で構築されている点である。介護保険制度への統合は、障害の「社会モデ ル」を重視していく世界的な潮流に反することになる。 介護保険制度の財源問題に端 を発した統合政策に固執する限り、この矛盾は解決しないと言わざるを得ない。 障害者権利条約の諸原則にもとづいて障害施策・福祉制度を抜本的に再構築し、そ れを基本に高齢福祉制度の再建に着手するという政策形成の道筋が 求められている。 連 絡 先 :き ょ う さ れ ん (政 策 ・ 調 査 委 員 会 委 員 長 小 野 浩 ) 東 京 都 中 野 区 中 央 5-41-18-5F TEL:03-5385-2223 FAX:03-5358-2299
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