NAOSITE: Nagasaki University's Academic Output SITE Title 最近のプロペラ鳴音の特徴とその防止法の研究 Author(s) 川添, 強; 中島, 徹; 錦戸, 慎吾; Leong, Lee Kim Citation 長崎大学工学部研究報告 Vol.28(50) p.15-19, 1998 Issue Date 1998-01 URL http://hdl.handle.net/10069/5014 Right This document is downloaded at: 2014-11-01T16:47:34Z http://naosite.lb.nagasaki-u.ac.jp 長 崎 大学 工学 部研 究報 告 第2 8巻 第5 0号 平成1 0年 1月 1 5 最近のプロペ ラ鳴音の特徴 とその防止法の研究 川 錦 添 戸 慎 強 * ・中 島 徹 ** Le eKi mLe o n g** ** 吾 ***・ So meCha r a c t e r i s t i c so fRe c e ntPr o pe l l e rSi ngi ng a ndI t sPr e ve nt i veMe a s ur e s by Ts u y o s h iKAWAZOE*,To u mNAKASHI MA**S h i n g oNI S HI KI DO*** a n dLe eKi nLEONG**** Sof a rac a us eofpr o pe l l e rs l ngi ngc oul dbee xpl ai ne dbyt her es ona nc ebe t we e nKa r ma nvor t e xs t r ee t 55 R∼0. 6 Ra ndt hena t ur a lf r e q ue nc yoft hebl a de.Ther e vi s i o no ft het r a i l i ng f r omt het r a i l i nge dgeo f0. e dgeme nt i one da bo vebygr i ndi ngc o ul da l mos ta 汀e S tt hes i ngl ng. Ho we ve rt he r ea r ema nyc as e swhe r er e c e ntpr o pe l l e rs i ng ingc a nno tbee xt i ngui s he dbyt heus ua l me as ur e. Ⅰ nt hi ss t udy, t hec ha r a c e r i s t i c so fr e c e nts i ngl nga ndi t spr e ve nt i veme as ur e sar ec o ns i de r e dus i ngFFTa na l ys i sofnoi s eoc c ur edi ns o mel a r ges hi ps .I nc o ns e que nc e,wede ve l o pe dane wa nt i S l ngl ng de s i gnwhi c hl e a dst ogoodr e s ul t so ns omea ppl i e ds hi ps . r i nePr o pe l l e r ,Si ngl ng,Ka r manVor t e x,Na t ur a lFr e que nc y,Bl adedes i gn Keyw ord:Ma 1.まえがき と呼ばれ るの もこう した背景 に よる ものである。 この プ ロペ ラがあ る回転数 で作動 して い る とき,"ワ- ため,護衛艦 ・漁船 ・客船 な どの特殊 な船舶の プロペ ン, ワ- ン"または "キー ン,キー ン" とい う金属音 ラを除いては,特 に取 り除 く必要 はない と言われ る。 を発 す る こ とがあ る. この現 象はプロペ ラ鳴音 ( Pr o- しか し,船室 にまで響 く鳴音 は,居住性 を低下 させ る pe l l e r,s i ngi ng)1)と呼ばれてい る。 この音は船尾 か 一因 とな るため除去 す る必要 があ る。 ら聞 こえて くるため,たびたびプ ロペ ラ軸 と軸受の金 鳴音の発生原田は,巽 の後縁 か ら剥離 し流れ出た水 属接触 よる もの と懸念 され る。 鳴音現象 はプロペ ラ巽 Ka r ma nvo r t e xs t r e e t )がで き, 流 にカルマン渦列 ( にキ ャビテー シ ョンが発生 してい る場合 ,キ ャビテー この カルマン渦列の周波数 と翼の固有振動数 とが一致 シ ョン音 に よってか き消 され易い。従 って,喫水が深 す るため とされ る。従 って, いつ も一定の プロペ ラ回 くキ ャビテー シ ョンが発生 しに くい条件下 で,船尾 か 転数 で鳴音 が発 生 す る。 従 来 の 鳴音 は , プ ロペ ラの ら聞 こえて くる周期的 な金属音 は,プ ロペ ラ鳴音 と考 0. 5 5 R∼0. 6 R( 注 :1 . ORが翼の先端 を示 す)の翼後縁 えて よい。 か ら生 じるカルマ ン渦 の発生 周期 と,巽の固有振動 周 一般 に,プ ロペ ラ鳴音は,プ ロペ ラ性能 にほ とん ど 期の同調 に よる共振現 象 と見な され,この対策 として, 影響 を与 えず,む しろキ ャビテー シ ョンが発生 してい この部分 の巽後縁 の補正加工 によ り鳴音 をほぼ打ち消 ない ことを示 す もので, " Noi s e"ではな く " Si ngi ng' ' す こ とが で きた。 ところが ,最 近 の鳴音 は必 ず しも 平 成 8年 1 0月2 8日受理 *機械 システム工学科 ( De pa r t me nto fMe c ha ni c a lSys t e msEng ine e r i ng) ** ( 秩)大 島造船所 ( Os hi maShi pbui l di ngCO. , LTD) ***三菱重工業 ( 秩) ( Mi t s ubi s hiHe a vyI ndus t r i e s,LTD) ****大学院修士課程機械 システム学専 政 ( Gr a dua t eSt ude nt ,De pa r t me nto fMe c ha ni c a lSys t e msEngi ne e r i ng) 1 6 川添 強 ・中島 徹 ・錦 戸 上記の巽後縁位置での発生ではな く,従来の後縁補正 加工では消音で きない例が多 くなって きている。 本研究では実際の大型船舶で発生 した数例のプロペ ラ鳴音 を FFTで解析 し,最近の鳴音 の特徴 とその防 止法 について検討 した。 また,防止法の一つである耐 鳴音設計法 を実船 に適用 し,鳴音 を打ち消す研究成果 慎吾 ・Le eKi mLe o n g I-SK 富 /va 2+ 2打n r 2 fl-Sn hl f2-S n Va 2+ 27 r nr2 h2 ここで, を得たので報告す る。 S n:St r o uh a l数 2.鳴音の一般的な特徴 h: 流体中の物体の厚 さ 図1に示 す ようにプロペ ラ鳴音 は巽後縁 か ら出 るカ U:流入速度 る共振現象である。その一般的な特徴は,次の ように Va:プロペ ラ前進速度 n: プロペ ラ回転数 なる。 r : 巽の任意半径 ( 1 ) プロペ ラ回転数 に対応 した異音で,金属音 に近い hl,h2:巽の後縁部の厚 さ ( 図1 ) ルマン渦の発生周波数 と羽根の固有振動数 の一致 によ 音であるため軸受接触音 と混同 し易い。 ( 2) プロペ ラ回転数 に対応 した うな り音が発生する場 一方,カルマン渦 と共振する側の巽の固有振動数の 推定 については ,Ba ke rの横振動一次 fb の概算式( 4 ) 合が多い。異聞の仕上げ形状 にば らつ きがあ る と, 式があ るが,ハンマ リング法による実測値 との間にま うな りが発生す る と言われ る。2) だ開 きがある。最近では FEM による巽の固有振動数 ( 3) 舵機室等での音が最 も大 き くで,ひ どい時はデ ッ の解析が進歩 して きたが,プロペ ラが水中にあ るため 空気 中に比べ fb が 1 0-2 0%低下す るな ど推定精度 に キ上で も聞 こえる。 ( 4 ) Ba u a s tLo a dでは発生 しに くく,Ful lLo a dで発 生 し易 い。Ba l l a s tLo a dでは巽後進面側 にキ ャビ 問題が残 る。3) テー シ ョンが発生 し, このため巽後縁 か らの カル ^ b 葦 マン渦 の発生 が抑制 され る。 また,鳴音 がキ ャビ ここで, テーシ ョン音 にか き消される。 k :曲げ一次振動数の係数 ( 5 ) 舵 を取 る と異音が消滅する場合がある。 ( 4 ) 原 h。:巽の先端厚 さ E :ヤン グ率 剥 離点 Ⅰ :断面 2次モーメン ト A: 巽断面積 3.従来の鳴音防止法 プロペ ラ鳴音の原因,即ちカルマン渦 と巽の共振現 5 5 Rない し0. 6 Rにおいて生 じる例 象は,従来,葉のO. が多い とされる。 この問題解決の先駆的役割 を果た し 2) 式 お よび( 3) 式 を流用 して後縁 の厚 さ た鬼 東 4)は ,( を次式の ように限定 した。 図 1 プロペ ラ巽後縁のカルマン渦 従 って,軸受接触音 との混同を避け るには,上記の h120・ 0 0 2汀 N i fZ h2<0・ 0 02 wN i Q ( 4) お よび( 5) に注 目する必要がある。 カルマン渦の周波 ここで, 数 fの推定式は( 1 ) 式で示 されるが, これをプロペ ラに hl :図 1の0. 5 5 R∼0. 6 Rにおけ る巽後縁厚 さ ( c m) 適用す る と,渦の剥離点が翼断面上の 2点 と考 え られ h2: 図 1の0. 5 5 R∼0. 6 Rにおけ る巽後縁端厚 さ ( c m) るため翼厚 hl 部 か ら剥離す る渦の周波数 fl( 2) 式 と後 Nl: プロペ ラの最大回転数 3 ) 式 に分 け られ 縁端 h2か ら剥 離 す る渦 の周波 数 f2( N2: プロペ ラの最微速回転数 ( r pm) る。 D: プロペ ラ直径 ( c m) ( r pm) 1 7 最近のプロペ ラ鳴音の特徴 とその防止法の研究 ベ ラの キ ャビテー シ ョン性能 が著 し く改善 され, これ までの巽先端部 におけ るキ ャビテー シ ョンが 深 い喫 水 では特 に発生 しな くな った。 この ため , 巽先端部 において もカルマ ン渦 の規則 的 な発生 を 乱す要因がな くな った。 ( 2 ) 高効率化 を 目指 した最近の低回転大直径 プロペ ラ においては,( 1 ) 式 お よび( 2 ) 式 中の " N・ D" の値 は 従来 とほ とん ど変 わ らないが,後縁端厚 さ h2 が直 径 に比例 して増加す る傾 向にあ るため,後縁端 か ら 図 2 鬼頭 に よる鳴音防止法 発生 す るカルマ ン渦 の周波数 f 2が下 が って くる傾 f l : 巽の最小固有振動数 ( Hz) 向にあ る。 ( 図 4) f 2 : 騒音 と感知 しない最大周波数 ( Hz) ( 3 ) プロペ ラの低回転大直径化 に よ り,展開面積比が また,図 2中の Rは,翼厚 が hlと h2 との間 を, 減少す ることで翼断面 が比較的厚 くな り, このため それ よ り前縁側の背面の形状 とスムーズに接 す るよう 後縁厚 さ hlのポイン トにおいて カルマン渦の発生 選 ばれ る。 しか し,実際は hlの厚 さを大 き くで きな 点 を固定 で きず,後縁端 までのいずれかの厚 さの点 い こ とが多 く, h2 だけ を採用 しなが ら巽後縁 の圧 力 に対応す るカルマン渦が発生す るこ とにな る。 この 面 と背面の形状 をで きるだけ非対称 にす る とい った工 ため,下側 の可聴域 に対 す るカルマ ン渦 周波数 fl 夫 が折 り込 まれてい る。 この鬼頭の方法は, これ まで が上昇す る傾 向にあ る。 ( 図 4) かな りの成果 をあげている。実際のプロペ ラ後縁部の 図 5には,最近発生 した鳴音の例 を示すが, これか 設計 においては,発生 させた くないカルマン渦の周波 ら次の こ と分か る。 致範 囲,すなわち,flか ら f2の範 囲 を人間の可聴域 ( 1 ) 最近の鳴音 は,鬼頭の言 う " 0. 5 5 Rない し0. 6 Rに 外 とす るこ とで,鳴音発生の実害 をな くす よう配慮 し 'だけ とは おけ る hlまたは h2 に対応 す る周波数 ' てい る. なお,可聴域 としては ,3 0 0か ら1 0 00 Hzの範 言 いがたい。f 2で0. 4 R付近 か らの カルマ ン渦 との 囲を考慮 している。 共振 も考 え られる。 図 3には後縁部形状 とカルマン渦強 さの関係 を示す ( 2 ) 渦の剥離点が hlか ら h2 の間 に も存在す る。 r ywe a k の形状 を採用 して が,鳴音防止のため に ve 従 って,その鳴音防止法 としては図 6に示す ように いる。 その他の鳴音防止法 として,巽後縁の後進面側 次の ことが考 え られ る。 にハの字形 の溝 を加工 した り,¢1 0×1 0H程度の 円柱 ( 1 ) ナ ックルポイン トにおけ る剥離角度 ( 巽背面 と傾 を千鳥状 に溶接 して, カルマン渦の規則的 な発生 を乱 斜面 の角度) を従来 よ りも大 き くとって ,El点 で す工夫 が実施 され効果 をあげている。 確実 に流れを剥離 させ るo ( 2 ) 後縁端の丸みを小 さ くす る。 = == 二 Moder a t e \ M。d- t ・ =二二 > WeJk ) st r 。叩 r 「 ) st r 。npr = 二 二ゝ Vtr y VJ Hk S. , 。叩 S t == = ゝ Ver y WH k M。d・r ・ t ・ 二二二> Ve r y Wc▲k 図 3 巽後縁部形状 とカルマン渦強 さの関係 4.最近の鳴音の特徴 とその防止法 最近のプロペ ラにおけ る鳴音の特徴 としては,次の ような点 が挙げ られ る。 0 0 5 _ > > 一、 \ WeJk (Z H ) + 点 繋 軍 胡 猷 雫 ・ < i qrq: 二 _ st r onl コ 0 0 0 1 二二: = 50 100 ( 1 ) スキ ュー ドプ ロペ ラ 5) な どに用 い られて る新 し プロペラ回転数 N (ドpm) い翼断面 ( 例 ;NACA 異型 )の採 用 に よ り, プ ロ 図 4 最近の カルマン渦発生周波数の傾 向 1 8 川添 強 ・中島 慎吾 ・LeeKi m Leo ng 徹 ・錦戸 小さ くする。 ( 3) ナ ックルポイン トか ら後縁端 まで翼縁ゲージで精 000 1 上記( 1 ) , ( 2 ) , ( 3 ) を後縁側0. 4R∼0. 95R まで適用 した 結果,図 7の対策後に示す ように共振点がずれて鳴音 は完全 に消滅 した。 蓑 1 プロペ ラ等主要 目 500 禁・ <i (Z H) +糸 賀 軍制軟 査 しなが らスムーズなス トレー ト仕上げ とする。 q qr 1 0 0 5 0 プロペ ラ直径 72 00 mm プロペ ラ実数 5巽 プロペ ラ没水深度 ( Ful lLoad) 9. 72 m プロペ ラ投水深度 ( Bal l a s tLo ad) 4. 25 m プロペラ回転数 N (r pm) 図 5 最近発生 したプロペ ラ鳴音の例 A 高 レベル 鳴音 一一一一 対策 前 x低 レベル 鳴音 一 -チ -- ( 3 ) ナ ックルポイン トか ら後縁端 までは,直線的にス ムーズに仕上げ る。 6 図 6 ナ ックルボンイ トでの流れの剥離固定法 8 妄…= I - ー義 男 璽 朝 粥 雫 八 L q(只 二二 00 000 0000 2 r l m ■ 1 (N 〓 ) 二 対策後 400 200 5.鳴音防止法の実船適用例 最近,73 000 t onBul kCar r i e rの同型船 3隻 に鳴音が 発生 した。 プロペ ラ等の主要 目を表 1に示す。 この鳴 0 音は,喫水が浅い海上試運転時には検出されなかった が,Ful lLoad での航行時にエンジンルームで金属音 20 40 60 80 一oo プロペラ回転数 N (ドpm) 図7 7 3 kt onバルクキ ャリアの鳴音周波数 のノイズ とな って現われた。図 7には,FFT 解析に よる鳴音の周波数 とプロペ ラ回転数の関係を示す。 こ の図 より鳴音防止対策前 には( 1 ) 鳴音が主機の NOR 回 転数 に近 い73-78r pm で発生 してい るこ と,( 2 ) 高周 6.まとめ 筆者等は鳴音 に対する経験か ら 「その防止法はむず 3R∼0. 35Rの巽後縁端 か ら剥離す るカル 波数域 は0. か しい。」 とする実感を もってい る。実際 に1 -2回の マン渦の発生周波数に一致,( 3 ) 低周波数域は0. 7 R∼0. 巽後縁加工で鳴音が消えず 3回 目の対策によ り消音 し 95Rの後縁 R起点の カルマン渦の発生周波数 に一致 た例 もあ る。本報告では,最近のプロペ ラ鳴音 とその することが認め られる。 防止法 について述べて きたが,防止法のポイン トは巽 この防止法 として下記の対策 を実施 した。 ( 1 ) 現状 100程 度 のナ ックルポ イン トの剥離 角度 を 大 き くする。 5か ら1. 0mm へ ( 2 ) 後縁端の丸みに相 当す る h2を1. か らh2まで鋭 く 後縁端 ( h2) を極力小 さ くして,hl 直線的 に加工 し,流れを hl 部 で確実 に剥離 させて, 発生するカルマン渦を低周波数域 に抑 え込む ことであ る。最近の新たなプロペ ラ鳴音の問題は,推進効率の 1 9 最近 の プ ロペ ラ鳴音の特徴 とその防止法 の研究 向上 を 目指 した翼型 の改善 や低 回転大直径化 に起 因す 参 考 文 献 る ところが大 きい。従 って,鳴音 を 2次的 な問題 とし 1)H. E. Sa nde r s ,SNAMEγol . 2( 1 95 7),1 4 0 て捉 えず,水 中 におけ る巽 の固有振動数 の推定精度 向 . 5 8 2( 1 977), 1 2)鬼頭 , 日本造船学 会誌 ,γol 上 も含 めて問題解決 に取 り組 む こ とが重要 であ る と考 3) 川 添 , 錦 戸 , 長 崎 大 学 工 学 部 研 究 報 告 ,27- える。 4 8( 1 9 97),3 7 -8( 1 97 4),1 4)鬼頭 , 日本舶用機 関学会誌 ,9 5)T. Sas a j i ma,T. Ka wa z oe,Te c hni c a lRe vi e w of MHI ,2 5 -3( 1 98 8),1
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