「まだまだ続く半導体の微細化」 - 新エネルギー・産業技術総合開発機構

NEDO海外レポート
NO.1027,
2008.8.13
【電子・情報通信技術特集】
「まだまだ続く半導体の微細化」
−世界のリソグラフィ技術の最新動向−
NEDO 技術開発機構
電子・情報技術開発部
プログラムマネージャー
古室
昌徳
半導体 LSI の微細化はそろそろ限界との声も聞こえる昨今ではあるが、インテル、サム
スン、東芝などの主要半導体デバイス業界からは、さらなる「More Moore」に向けての
熱い要望が発信されている。LSI チップ製造では数百もの工程を経るが、微細パターンを
形成するリソグラフィ工程は、
先端 LSI チップコストの 5 割程度を占めるといわれており、
微細化の原動力であるとともに、LSI の多機能化、高性能化、大容量化を支えている。こ
のように、リソグラフィ技術は、微細化を追求する中核プロセス技術として、デバイス、
露光装置、材料ベンダーなど多くの研究者、技術者が関係しており、関連国際会議も数多
い。ここでは、2008 年 2 月末に開催された「SPIE Advanced Lithography Symposium」
と、5 月開催の「SEMATECH Litho Forum」の 2 つの国際会議について、会議の趣旨や
内容を紹介し、リソグラフィ技術の世界の動向について紹介したい。
SPIE は 30 年以上も続くリソグラフィ関連で世界最大の会議であり、参加者数約 5000
名、発表件数 700 件程度の規模であり、最新技術成果の発表と同時に、技術展示や、主催
者による各種のスクール、関連企業による独自のセミナーなど様々なイベントが同時開催
されるビジネスの場でもある。一方、Litho Forum は、2 年に 1 回程度の頻度で開催され
る会議であり、発表者はすべて主催者の SEMATECH が各 NGL(Next Generation
Lithography)技術ごとに指名したコーディネータにより選ばれる招待講演者であり、技
術の進捗状況、今後の開発プランなどとともに、その技術に対する発表者の所属する企業
の意思を表明する場でもあり、また SEMATECH 自身の今後の開発計画の参考とするため
の会議でもある。参加者は 250 名程度であり、SPIE より 3 か月後であることから、技術
内容の新規性は乏しいが、2016 年までの NGL 技術に関する参加者によるアンケート集計
結果など、今後の技術動向を見極める上で重要な会議である。
さて、現在、量産で使われている先端リソグラフィ技術は、ArF 液浸露光装置であり、
hp50nm 程度が解像度の限界である。これに対して、さらなる微細化に向けた NGL 技術
の研究開発が精力的に進められている。これらの中には、ArF 液浸露光装置によるダブル
パターニング(DP)、ArF 液浸で用いられるレンズ材料や液体(水)の屈折率をさらに高め
た高屈折率 ArF 液浸(HIL:High Index Lithography)、波長 13.5nm の極端紫外光を用いた
EUVL(Extreme UltraViolet Lithography)、ナノインプリント、多数の電子ビームを用い
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た ML2(MaskLess Lithography)などが候補として検討が進められている。このような技
術の流れを反映して、今回紹介する 2 つの国際会議における参加者の関心は、ArF 液浸が
どこまで延命できるかと、それぞれの NGL 技術の実現可能性や時期についての判断材料
を収集することであるとも言える。
EUVLの開発拠点は、3極に分かれている。欧州はIMECによるクライアント企業にサポ
ートされたプログラムがあり、ASML社のα機が導入されているが、ここ1年程、技術的
な発表が見られず、関係者の話では装置の異常を修復中との情報が漏れてきている。米国
では、ニューヨーク州立大学のオルバニー校のCNSE(College of Nanoscale Science and
Engineering)に、SEMATECHのEUVL開発チームがテキサス州オースチンから移動する
とともに、IBMを中心としたINVENT(International Venture for Nanolithography)プロ
グラムのもとでIMECと同じα機がCNSEに導入され、SPIEの会議においては、AMDと
ともに世界で初めてEUVLを使った45nmルールのロジックデバイスの試作に成功してい
る。未だ、メタル配線1層のみへの適用であり(線幅寸法は90nm)、また、トランジスタ
の電気特性のみしか報告されなかったが、EUVL技術の可能性を示す成果として注目され
た。ただし、300mmウエハに5つのチップをEUVLで露光するのに30分かかっており、実
用化においては、光源を含めた露光装置の完成度はまだまだ低い状況である。国内では、
国内半導体企業中心に出資している (株)Seleteが、NEDO委託事業および自主事業とし
てEUVL用マスク基盤技術やリソグラフィのインテグレーションに関して開発を進めてい
る。
露光装置のトップシェアを持つオランダASML社からは、ArF液浸露光と比較して
EUVLはhp32nm、hp22nmでコスト優位であるとし、EUV-α機ADT(Alpha Demo Tool)
に搭載しているPhilips製のSn-DPP(放電励起プラズマ)光源は、中間集光点出力が4Wであ
るが、熱の問題で出力を0.3Wに下げて使用していることを明かにした。フルフィールド露
光での35nmのL&S(ライン&スペース)と36nmホールの転写結果では寸法均一性が良好
であることを示し、月に60枚程度のウエハを露光しているとの報告であった。また、EUVβ 機 は 既 に 5 セ ッ ト を 受 注 済 み で 2009 年 末 の 出 荷 を 計 画 し 、 量 産 機 は 2010 年 に
NA(Numerical Aperture)0.25、2011年にNA0.32の装置を出荷予定とのこと。これに対し
て、ニコンからは、ほぼ1年程度遅れでのβ機の出荷計画が報告された。
EUV 光源は、2007 年秋の EUVL シンポジウムにおいて、
高出力化と高信頼化を含めて、
実用化に向けての最重要課題として関係者に認識されている。LPP(レーザー励起プラズ
マ)の開発を進める米国 Cymer 社は、昨年初頭に ASML 社のβ機の光源に採択され、高
出力化へ向けて着実にデータ公開を行っているが、集光実験が全く行われておらず、また
集光光学系の寿命やデブリ対策に関しての技術情報も未公開のため、実使用への判断が読
みにくい状況である。これに対して、ウシオ電機、Phillips Extreme UV、Xtreme(独) の
3 社の DPP 陣営は、巻き返しを図るためウシオを中心とする合弁会社設立に向けて合意し、
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レーザーアシスト DPP 方式における各社が持つ利点を活かした共同開発にすでに着手し
ている。
電子線によるウエハへの直描技術は、マスクを必要としないことから、少量多品種のデ
バイス生産用リソグラフィとして低コスト化につながる技術であるが、パターンの微細化
による描画時間の増加あるいはスループットの低下が、その実用化の障害となっている。
この状況を打破するために、ここ数年の間に、欧州、米国において、スループット 10 ウ
エハ/時以上を目指したマルチ電子ビーム方式の描画技術の研究開発が盛んになってきて
いる。欧州では、EC フレームワークの支援の元に、2010 年のα機実証に向けて 2 つの方
式のマルチ電子ビーム方式の開発を進めており、一部は台湾 TSMC 社も支援をしている。
オーストリアの IMS Fabrication 社では、加速電圧 100kV で、10 万本のビームを縮小投
影して偏向する方式を検討しており、テストベンチでは、2000 本の電子ビームを 1/200
に 縮 小投 影し 、 22nmL&S の 描 画検 証 を示 して い る。 一方 、 オラ ンダ の MAPPER
Lithography 社では、加速電圧 5kV で 1300 本のマルチビーム描画を狙っており、現状で
は、110 本のビームにより 40nm 解像を検証している。両方式ともに、ビームの on/off 信
号データ量が膨大になるため複数の光ファイバーデータ転送方式を検討しており、MEMS
技術を活用して、10μm 程度の寸法の多数の開孔や偏向電極、および光信号受光部と電気
信号への変換回路を一体化したシステムを開発している。米国 MultiBeam System 社では、
東京エレクトロンと共同で、直径が 30mm 程度のミニ鏡筒を最大 10 x10 本に配置するマ
ルチ鏡筒方式を開発中である。それぞれのビームを独立に調整できることから、欧州の方
式に比べより現実的であると考えられる。現状では、鏡筒独自の性能あるいは複数配置し
たときのつなぎ精度や相互干渉の問題など公表されておらず、その進捗度合いは不明であ
る。
国際半導体ロードマップ(ITRS)2005 年版より NGL としてナノインプリント技術が記載
されるようになり、この技術の半導体用リソグラフィとしての適応可能性が本格的に注目
されるようになってきた。また、半導体応用と同時に、パターンドメディアによる高密度
HDD の量産装置としても国内外の企業が力を入れている。SPIE および Litho Forum の
両会議においては、東芝および Samsung から hp40~22nm への適用に関する報告があっ
た。東芝では、hp22nm に向けたプロセス開発、及びナノインプリント技術の評価を目的
に装置を導入、評価結果を報告しているが、解像度や均一性、重ね合わせ精度は改善余地
があるが現状では満足、パターン欠陥密度はかなりの改善が必要との評価を出している。
これらの評価に対して、世界で唯一の半導体リソグラフィ用ナノインプリント装置を製造
している米国 MII 社からは、欠陥発生の要因分析結果や精度の改善などに対する技術的対
応とスケジュール等が示されている。これらの問題解決に加えて、スループットの向上を
示すことが、この技術が生産現場で使われるための重要な動機付けとなると考えられる。
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すでに述べたように、Litho Forum では、各 NGL 技術の進捗状況あるいはデバイスメ
ーカーによる技術の評価結果などが報告されると共に、その技術に対してどのような対応
をするかとの公式表明も場合によっては発表される。今回、ニコンからは、高屈折率液浸
技術に対して、一世代にしか対応できない、高屈折率の硝材や液体の開発遅延、液体の安
全性の問題などから、今後積極的な支援は行わないとの声明が発表された。これに対して、
キャノン、ASML は、あと半年程度の進捗を見極めた上で判断をするとの方針であった。
Litho Forum の最終日には、参加者の Web 投票によるアンケートと、エンドユーザー
に対する事前アンケートの集計結果の報告が行われた。アンケートの内容は、2010 年、
2013 年、2016 年におけるゲートまたはメタル層のハーフピッチの期待値、使われるリソ
グラフィ技術、技術課題などに加え、2013 年の hp32nm に対する各 NGL 技術の要素技
術ごとの進捗の期待度など 29 の質問から構成されている。集計結果は、2010 年はロジッ
クで hp45nm、
フラッシュメモリが hp32nm、ArF 液浸とダブルパターニングが支持され、
2013 年は、各デバイスのハーフピッチが 1 世代進み、ダブルパターニングと EUVL が主
流となり、2016 年にはハーフピッチがさらに進み、EUVL のみが支持されるものであり、
関係者の EUVL に対する強い期待が再認識された。
参考サイト:
NEDOプロジェクト:極端紫外線(EUV)露光システムの開発
http://www.nedo.go.jp/activities/portal/gaiyou/p02030/p02030.html
NEDOパンフレット:「未来へ広がる産業技術とエネルギー 成果レポート最前線2007」、
−さらに進む半導体の微細化のキーは光の技術−
http://www.nedo.go.jp/kankobutsu/pamphlets/kouhou/mirai2007/1-1.pdf
NEDOプレスリリース:「次世代半導体微細加工技術が実現可能に」
http://www.nedo.go.jp/informations/press/kaiken/190530/riri-su.pdf
産業技術総合研究所 研究用語検索サイト:
http://www.aist.go.jp/db_j/list/l_news_index_search.html
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