エンリッチド・ブロイラー生産 Rearing Systems and the Scientific

エンリッチド・ブロイラー生産
Rearing Systems and the Scientific Evaluation
of Animal Welfare Husbandry Improved Broiler Production
小原 愛 東北大学大学院農学研究科 家畜福祉学(イシイ)寄附講座 助手
Ai OHARA Assistant, Laboratory of Animal Welfare (sponsored by Ishii Corp.),
Graduate School of Agricultural Science, Tohoku University
みなさんこんにちは。東北大学大学
院農学研究科家畜福祉学 ( イシイ ) 寄
附講座の小原と申します。本日はよろ
しくお願いいたします。
「国産鶏種た
つのにおけるアニマルウェルフェア畜
産の可能性とこれから」というタイト
ルでエンリッチド養鶏について紹介い
たします。
䇼䉴䊤䉟䊄 㪉䇽
肉の安定供給は危険な状態にあります。また、欧米で育
種改良された鶏種は、欧米人が好むムネ肉が沢山着くよ
うな鶏種で、日本人は比較的味のしっかたりしたもも肉
を好むので、嗜好に相違が生じています。
そこで、日本に合う、日本の鶏を作ろう!といってでき
たのが国産鶏種です。䇼䉴䊤䉟䊄 㪉䇽
䇼䉴䊤䉟䊄 㪈䇽
みなさまはあまり、養鶏や畜産ということになじみが
ないかと思いますので、まず鶏肉がどのように生産され
ているかというところから入りたいと思います。鶏肉の
自給率は約 70%もあり、牛肉・豚肉と比較しても高い
値です。鶏肉になる鶏を実用鶏、といいますが、実用鶏
を生産するためには、その親の代、祖父母代と、4世代
もの鶏が育種改良されています。鶏国生産の大本である
基礎鶏、原原種鶏は世界市場で 3 社が独占して育種改
良していて、日本も約 99%欧米の鶏種を継続的に輸入
䇼䉴䊤䉟䊄 㪊䇽
しています。その後の世代は国内で育成・孵化・生産が
国産鶏種を一言でいうと、
「国内で育種改良が行われ
行われているので、鶏肉の自給率だけみると約 70%で
た鶏種」です。さきほどは欧米から輸入されていた基礎
すが、遺伝資源は海外に依存しているのが現状です。こ
鶏、
原々種鶏も国内の家畜改良センターが鶏の種を保有、
の問題点は今流行の鳥インフルエンザが発生すると、原
管理し、育種改良し、その後の生産過程をすべて国内で
種鶏が輸入できなくなるということです。䇼䉴䊤䉟䊄 㪈䇽
行っています。よってトレーサビリティが可能で、鶏肉
これは動物検疫所のHPの一部ですが、最近ではフラ
がどこでどのように飼われていたか、親は誰なのかを知
ンスからの輸入が停止、ここで一部解除になっています
ることができるのが大きな特徴です。このようにして作
が、以前に原種鶏の輸入が停止し、鶏肉生産が追い付か
られたのが、実用鶏のたつので、親は赤色コーニッシュ
ず鶏肉を緊急輸入したことがありました。このように鶏
と白色プリマスロックです。たつのは、食の安全性の問
Workshop Ⅲ Welfare and Management of Farmed Animals
19
題からの国産嗜好に応え、日本の気候・風土、ニーズに
対応でき、国産鶏種の自給率を上げることでリスクヘッ
ジとなります。これらによって、安全・安心な鶏肉の安
定供給に貢献できると考えられます。䇼䉴䊤䉟䊄 㪊䇽
䇼䉴䊤䉟䊄 㪌䇽
た急に体が重くなると動かなくなって、ずっと座った状
態なので、胸や足の裏などに皮膚炎などを起こす場合も
あり、ウェルフェア上、また生産性にも影響を与えてい
䇼䉴䊤䉟䊄 㪋䇽
ます。では、ウェルフェア上何が問題なのか、そもそも
では、国産鶏種は輸入鶏種や地鶏と何が違うのか比較
ウェルフェアを満たすとはどういうことかというと、こ
してみます。
の 5 つの自由を満たすことで家畜の快適性が保たれる
まず鶏肉市場シェアでは、約 85%は欧米鶏種をもとに
と考えられています。
ほとんどのブロイラー農家では
「餓
して作られたブロイラー、1-2%国産鶏種や地鶏など、
え渇きからの自由」
、
温熱環境などの「不快からの自由」
、
残りの約 15%は、採卵鶏や親鳥で、卵を産まなくなっ
「苦痛、病気、けがからの自由」は生産性に直結するので、
た鶏も最終的にはお肉になります。これをスーパーでは
対策が十分に取られていると思います。
「恐怖苦悩から
親鳥、実用鶏を若鳥と言って売られています。また、比
の自由」は管理者が丁寧に家畜を扱うことで大きく改善
較に戻りますが、ブロイラーは一日当たりの増える体重
されますが、
「正常行動の自由」については他に比べ対
を日増体と言います。3種の比較すると、ブロイラーは
策がほとんど取られていません。よって、ここを強化す
約 58 gも増えます。そして約 50 日で 2.5 3㎏になって
ることでこれら問題が改善できるのではないかと考えま
出荷され、かなり生産性が高く、鶏肉の低価格を実現し
した。鶏に正常行動のひとつが物をつつくことです。そ
ています。国産鶏種たつのは、先程の 2 種が親で、日
れをさせてやることで突くことだけでなく歩き回った
増体は約 44 gで約 60 日飼育して、出荷されます。生
り、活動性が高まります。それにより骨や心肺機能が発
産性はブロイラーには及びませんが、肉質にこだわって
達し、これらの問題抑制になるという研究成果も出され
います。また、地鶏の飼育には厳しい規定があり、在来
ています。
国産鶏種たつの生産でもブロイラーと同様で、
種由来の血統を 50%以上保有してなくてはなりません。
これらの問題も起きています。しかし、ブロイラーに比
在来種とは、明治時代以前に国内で成立し、または導入
べれば日増体も小さいので、ウェルフェア畜産向きなの
されて定着した品種と定義されています。例えば、比内
ではないかと考えられます。䇼䉴䊤䉟䊄 㪌䇽
鶏や大軍鶏等ですが一般に天然記念物なので食べること
ができません。この比内鳥とロード種というのを交配し
て作られたのが比内地鶏です。日増体は約 25 gしかな
いため飼育期間も長く、手間暇かけて美味しい鶏を作っ
ているので高価格になります。このように生産上の特徴
でポイントとなっているのが日増体です。日増体とウェ
ルフェアは深く関係しているといわれています。
䇼䉴䊤䉟䊄 㪋䇽
日増体が大きいと、筋肉の成長と、骨や心肺機能の成
長速度がアンバランスになり、体の大きさを支えられず、
脚弱といって足を引きずる症状が出たり、お中に水がた
まる病気が発生する一つの要因と考えられています。ま
20
ワークショップⅢ 産業動物の福祉と経営
䇼䉴䊤䉟䊄 㪍䇽
䇼䉴䊤䉟䊄 㪐䇽
䇼䉴䊤䉟䊄 㪎䇽
そこで飼育環境に正常行動を誘発するものを置く、環
境エンリッチメント実験を行いました。正常行動とは分
かりやすく言えば習性のことで、鶏ではものをつついた
り、休むときに止まり木に止まる行動などです。このよ
うに給水器・給餌器だけの通常飼育群と突くものとして
乾草と止まり木を設置したエンリッチメント試験群で比
較実験を行いました。その結果生産性では出荷体重や日
増体、淘汰羽数や病気などで死んでしまった羽数におい
て、有意な差は見られませんでした。䇼䉴䊤䉟䊄 㪍 䌾 㪎䇽
䇼䉴䊤䉟䊄 㪈㪇䇽
しかし、
問題とされていた胸部の炎症発生の結果では、
オスにおいて炎症のない羽数が、試験群で低い傾向が分
かりました。また、足裏パッド炎症の結果ではメスにお
いて炎症のない羽数が試験群で多いことがわりました。
まとめと今後の研究予定ですが、ビデオ録画した行動を
分析し、エンリッチメント資材の利用性を検証し、また
生理的なストレス指標の偽好酸球とリンパ球の比率を算
出し、走行的にエンリッチメント試験の考察を行う予定
です。
䇼䉴䊤䉟䊄 㪏䇽
全ての結果から、来年度はエンリッチメント資材の改
良と飼育環境の客観的評価によって日本式の肉用鶏にお
けるアニマルウェルフェア畜産システムの構築を目指し
ます。䇼䉴䊤䉟䊄 㪏 䌾 㪈㪇䇽
Workshop Ⅲ Welfare and Management of Farmed Animals
21