術前cN0で縦隔鏡生検により pN2と判明した肺癌に対して術 前導入治療後切除した2症例 (第43回日本癌治療学会総会学術集会、 2005年10月25日、名古屋) 宮崎大学医学部 第2外科 綾部貴典、松崎泰憲、清水哲哉、 原 政樹、富田雅樹、鬼塚敏男 背景: 術前導入療法(IT)の有効性 • IT施行の外科治療は、 – 有効である • Rush VW et al., J Thorac Cardiovasc 105: 97-106, 1993. • Rossel R et al., N.Engl J Med330:153−158, 1994. • Roth JA et al., J Natl Cancer Inst 86: 673-680, 1994. – 無効である • Dautzenberg B et al., Cancer 65: 2435-2441, 1990. • 安光 勉、他、日胸外会誌 40: 106-117, 1992. • Depierre A et al., J Clin Oncol 20: 247-253, 2002. • Nagai K et al., J Thorac Cardiovasc Surg 125: 254-260, 2003 – 2003年度版肺癌診療ガイドラインでは、「臨床試験の域にとどまっ ており、標準治療としては推奨されるだけの根拠が明確でない」 と勧告している。 – 縦隔鏡検査を行い、肺癌のstagingをできる限り正確に評価して、 転移の有無を証明した後、ITを施行して治療効果を正確に判定す ることが重要である。 背景: CEA値に関して A) 腫瘍マーカーの変動は、腫瘍の病期、治療効果と良好に相関した。 i. Salgia R. et al., Brit J Cancer 74, 463-7, 1996. ii. Ebert W. et al., Anticancer Res 17, 2875-8, 1997. iii. Takamochi K. et al., Chest 117, 1577-82, 2000. B) 血清CEA高値は予後不良因子であった。 i. C) Sawabata N et al., Cancer 101, 803-809, 2004. 術後CEA値が正常値しなかった症例は、再発が多く予後不良であった。 i. Okada M, et al., Ann Thorac Surg 75, 973-980, 2003. ii. Tomita M. et al. Thorac Cardiovasc Surg 53, 300-4, 2005. D) 術前CEA値≧10 ng/ml症例は、67%に術後再発が認められた。 i. Buccheri G et al., Ann Thorac Surg 75, 973-980, 2003 当科の肺葉切除前に縦隔鏡を勧める基準 • 術前に肺癌と確定診断されている • 完全切除が可能で、c-stage IA∼IIIA • 年齢75歳以下、PS 0-1 • ハイリスク群:腫瘍マーカー高値 – CEA≧5.0 ng/ml – シフラ≧3.5 ng/ml • 縦隔鏡pN2と確定後、術前導入療法(IT)施行 に同意されている 術前導入療法(IT)を前提とした縦隔鏡 ハイリスク群:高CEA値を示す切除可能なNSCLC(cN2疑い含む) 縦隔鏡 pN2(+) pN2(-) 術前導入療法(IT) 肺葉切除術+ND2a 肺葉切除術+ND2a 術後補助療法 症例1, 2 pN2(+), pN1(+) pN0 術後補助療法 外来経過観察 同一日に施行 はじめに 術前CEA高値を示すcN0(症例1)、cN2(症例2)の 非小細胞肺癌症例に対して、縦隔鏡検査を行い、 pN2と診断され、術前導入療法(IT)を行った。 IT後、肺葉切除術を行い、pN2→pN0へdownstageした2症例を経験したので、報告する。 対象症例 • 期間: 2000年6月∼2005年6月 • 当科で行われた非小細胞肺癌症例に対する 縦隔鏡検査46例中、高CEA値(≧5.0 ng/ml)を 示したのは25例 – 25例中pN2(+)と診断されたのは6例(24%, 6/25) – ITを施行した4例(16%, 4/25)中、 •down-stageした2例 (8%, 2/25)。 症例 1 • 症例:75歳、男性。 • 主訴:胸部違和感、圧迫感、咳嗽。 • 現病歴:2003年11月登山をした際に胸部違和 感、圧迫感を自覚し、近医を受診した。CTに より右S1領域に結節を認め、FDG-PETにより 集積を認め、肺癌が疑われた。同年12月当院 放射線科に入院し、CTガイド下肺生検により、 肺癌(group V, adenocarcinoma)と診断され、 2004年2月4日手術目的に当科に入院した。 検査所見 • 身体所見:異常所見なし。 • 血液生化学所見:異常所見なし。 • 腫瘍マーカー:CEA 72.3 ng/ml。 • 心電図・呼吸機能検査:異常所見なし。 • 骨シンチ:骨転移なし。 • FDG-PET:右上葉の腫瘤にのみ集積した。 • 頭部MRI:転移は認められず。 • 診断:右肺癌(rU,S1,21mm,Ad,T1N0M0,c-stage IA) 治療経過 • 縦隔鏡検査:転移陽性pN2(+)(#3:0/1, #4:3/5), p-stage IIIA • IT:CDDP 80mg/m2 + DOC 60 mg/m2, 2サイクル施行。 – 有害事象: WBC:Grade 1,食欲不振:Grade 2,悪心嘔吐:Grade 2。 • IT後腫瘍マーカー:CEA 18.8 ng/ml ↓ • 手術:右上葉切除 + ND2a • 術 後 病 理 検 査 : adenocarcinoma, papillary type, G2, p-1, br-, pa-, pv-,Ef.1a, pN0 (#3:-(0/3), #4:-(0/1),#7:-(0/8),#11:(0/3),#12: -(0/2)), pT1N0M0, p-stage IAへ, down-stageした。 • 術後腫瘍マーカー:CEA 4.9 ng/ml ↓ • 術後補助療法:DOC 60mg/m2 – 有害事象は認められなかった. • 術後補助療法後腫瘍マーカー:CEA 4.1 ng/ml ↓ • 術後経過:術後18ヶ月経過し,再発なく,CEA 4.1 ng/ml,経過観察中。 画像 右上肺野に2cm大の腫瘤性病変を認めた。 画像 右肺上葉S1に21×18mm大 の腫瘤性病変を認めた。 右肺癌(rU,S1,21mm,Ad,T1N0M0, c-stage IA) 縦隔鏡検査 転移 縦隔鏡検査:#3: 0/1, #4: 3/5, 転移陽性pN2(+), p-stage IIIAと診断された。 切除標本 右上葉切除術 + ND2a 病理所見: adenocarcinoma, papillary type, G2, p-1, br-, pa-, pv-,Ef.1a, pN0 (#3:-(0/3), #4:-(0/1), #7(0/8), #11:-(0/3), #12:-(0/2), pT1N0M0, pStage IAへ, down-stage。 症例 2 • 症例:66歳、男性。 • 主訴:右背部痛。 • 現病歴:2004年1月右背部痛を自覚した。 2004年8月12日近医での気管支鏡検査にて右 B1bからのTBLBにより、肺腺癌と診断された。 2004年9月9日精査および手術目的に当科入院 した。 検査所見 • 身体所見:異常所見なし。 • 血液性化学所見:異常所見なし。 • 腫瘍マーカー:CEA 39.1 ng/ml。 • 心電図、呼吸機能検査:異常所見なし。 • タリウムシンチ:悪性パターン。 • 骨シンチ:骨転移なし。 • 頭部MRI:転移なし。 • 診断:右肺癌(rU,S1,30mm,Ad,T3N2M0,c-stage IIIA) 治療経過 • 縦隔鏡:#3(4/8), #4(1/3), 転移陽性pN2(+)、p-stage IIIA • IT:CDDP 80mg/m2 + DOC 60mg/m2, 2サイクル施行。 – 有害事象: WBC:Grade 2, 食欲不振:Grade 2, 悪心嘔吐:Grade 2 • IT後腫瘍マーカー: CEA 16.7 ng/ml ↓ • 手術:右上葉切除 + ND2a • 術 後 病 理 検 査 : adenicarcinoma, papillay(p3, br-, pa-,pv-), Ef.1a,pN0(#1:-,#3:-(0/4),#4:-(0/6),#7:-(0/6),#10:-(0/2), #11S:(0/3),#12:-(0/7), pT3N0M0, p-stage IIBへ, down-stageした。 • 術後腫瘍マーカー: CEA 6.5 ng/ml ↓ • 術後補助療法:DOC 60mg/m2, 2サイクル施行。 – 有害事象は認められなかった. • 術後補助療法後腫瘍マーカー:CEA 2.6 ng/ml ↓ • 術後経過:術後12ヶ月経過し、再発なく、CEA 2.1ng/ml、経過観察中。 画像 右上肺野に3cm大の淡い陰影を認めた。 画像 右肺上葉S1に30×20mm大の不正形腫瘤を認めた。 一部胸壁浸潤を疑った。 画像 右肺癌(rU,S1,30mm,Ad,T3N2M0,c-stage IIIA) 縦隔鏡検査:#3(4/8),#4(1/3),転移陽性pN2(+), p-stage IIIAと診断された。 切除標本 右上葉切除+ND2a 病 理 所 見 : adenicarcinoma, papillay, p3, br-, pa-, pv-, Ef.1a, pN0(#1:-, #3:-(0/4), #4:-(0/6), #7:-(0/6), #10:-(0/2), #11S:(0/3), #12:-(0/7), pT3N0M0, p-stage IIBへ, down-stage. 症例 1 vs 症例 2 術前CEA値(ng/ml) c-stage 縦隔鏡 p-stage IT IT後CEA値(ng/ml) 手術 術後p-stage 術後CEA値(ng/ml) 症例 1 72.3 ↑ IA, T1N0M0 pN2(+), #4(+) IIIA, T1N2M0 CDDP+DOC 18.8 ↓ RUL+ND2a IA, pN0, ↓ 4.1 ↓ 症例 2 39.1 ↑ IIIA, T3N2M0 pN2(+), #3,#4(+) IIIA, T3N2M0 CDDP+DOC 16.7 ↓ RUL+ND2a IIB, pN0, ↓ 2.6 ↓ 症例1, 2の臨床経過 血清CEA値の推移 ng/ml 80 70 72.3 60 値 50 清 血 A E40 C 縦 隔 鏡 術 前 導 入 療 法 術 後 補 助 療 法 肺 葉 切 除 症例1 症例2 39.1 30 18.8 20 16.7 10 6.5 4.9 0 入院時 術前導入療法後 経 過 手術直後 4.1 2.6 術後補助療法後 まとめ 1. 術前高CEA値を示すcNO、cN2非小細胞肺癌は、 pN2の可能性もありハイリスク群と考え、縦隔鏡を 施行し、pN2を証明した。術前導入療法(IT)後、 pN2→pN0へdown-stageし、IT治療が有効であった 症例を経験した。 2. 高CEA値を示す肺癌は、術前stagingを正確に評 価して、ITの治療効果判定をより的確にするため に、縦隔鏡生検が奨励されるかもしれない。 症例 1 75歳、男性。 CEA72.3ng/ml,rU,S1,21mm,Ad,T1N0M0,IA期。 縦隔鏡で,#3:0/1,4:3/5,pN2,IIIA期と診断。 IT後,RUL+ND2a, リンパ節は#3:0/3,#4:0/1,#7:0/8で,pN0,IA期 にdown-stageした。 • 術後補助療法後,CEA値は5.4ng/mlへ減少した。 • • • • • 症例 2 • 66歳、男性。 • CEA 39.1ng/ml,rU,S1,30mm,Ad,T3N2M0,IIIA期。 • 縦隔鏡で,#3:4/8,#4:1/3,pN2,p-stage IIIAと 診断。 • IT後,RUL+ND2a • リンパ節は#3:0/4,#4:0/6,#7:0/6で,pN0,IIB期 にdown-stage した。 • 術後補助療法後,CEA値は3.7ng/mlへ減少した。
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