実簡約 Lie 群と次数 Hecke 環の表現論のつながり 織田 寛 (拓殖大学)∗ 1. 概要 次数 Hecke 環 H と実簡約 Lie 群 G の表現論は似ている.例えば,Opdam-Cherednik 変 換の理論([Op],H 加群 Cc∞ (A) のスペクトル分解)は,Helgason-Fourier 変換の理論 ([Hel],G 加群 Cc∞ (G/K) のスペクトル分解)に瓜二つであるし,Evens [Ev] による既 約 H 加群の分類は G に対する Langlands 分類と同じ形をしている.また Ciubotaru と Trapa は広いクラスの G に対してその表現を対応する H の表現に写す関手を構成して いる [CT].講演者は 10 年程前からこれらの類似性に興味を持ち,両者の表現論を結び つけるいくつかの結果を得ていたが,最近になって動径対という概念を導入するとそ れらを見通し良く記述できることが分かってきたので([O2]),本講演で報告したい. 2. Chevalley 制限定理と動径成分公式 節題の 2 つの概念が動径対の鍵であるので,これらを一番簡単と思われる例で見ることに {( )} cos θ − sin θ する(実はこの例の G は簡約群ではない).回転群 K := SO(2) = sin θ cos θ {( )} {( )} x r は座標平面 X := R2 = に作用するが, “ x 軸 ”A := は動径方向に y 0 延びた直線で,有限群 W := NormK (A) = {±1} が自然に作用している.まず K 加群 C ∞ (X) と W 加群 C ∞ (A) の間の関係として,K の 1 次元指標に対する相対不変式の 空間 ) ( )) (( ))} { (( x x cos θ − sin θ = e−inθ f , n∈Z C ∞ (X)K,n := f ∈ C ∞ (X); f y y sin θ cos θ が,制限写像 γ0 : C ∞ (X) → C ∞ (A); f (x, y) → f (r, 0) により偶関数や奇関数の空間 C ∞ (A)W,n := {φ(r); φ(−r) = (−1)n φ(r)}, n∈Z の中に単射的に写される.この写像は n = 0 のときは全射的にもなって線形同型 ∼ γ0 : C ∞ (X)K = { 回転不変な f (x, y)} − → C ∞ (A)W = { 偶関数 φ(r)} が得られるが,これが Chevalley 制限定理の原型である.この他に n = ±1 の場合の み全射的になり,Chevalley 制限定理が一般化される([O1] 参照) : ∼ → C ∞ (A)W,n , γ0 : C ∞ (X)K,n − 2010 Mathematics Subject Classification: 22E50 キーワード:graded Hecke algebras, Cherednik operators ∗ 〒 193-0985 東京都八王子市館町 815-1 拓殖大学 工学部 n ∈ {−1, 0, 1}. 従って,次のような K 加群と W 加群の間の線形同型 Γ0 が得られた: ⊕ ⊕ ⊕ ∼ Γ0 = γ0 : C ∞ (X)K,n − → C ∞ (A)W,n . n∈{−1,0,1} n∈{−1,0,1} (1) n∈{−1,0,1} (右辺では奇関数の空間 C ∞ (A)W,+1 = C ∞ (A)W,−1 を重複して直和している. ) 一方古典的な動径成分公式は,制限前の回転不変な関数に対する Laplacian ∆ := 2 ∂ /∂x2 + ∂ 2 /∂y 2 の作用を制限後の微分作用素で記述する次の公式である: ( d2 1 d) γ0 (∆f ) = + γ0 (f ), dr2 r dr f ∈ C ∞ (X)K . ここで γ0 (f ) が偶関数なので見えなくなっているが,実は ∆ の動径成分は差分作用を 含む Dunkl Laplacian([Dun] 参照)と呼ばれる微分差分作用素: d2 1 d 1 − 2 (1 − σr ) (Dr ) = 2 + dr r dr 2r 2 ( ) d 1 Dr = + (1 − σr ) dr 2r (σr は −1 ∈ W の φ ∈ C ∞ (A) への作用 σr (φ)(r) = φ(−r))であると考えると,より一 般の動径成分公式: ⊕ C ∞ (X)K,n Γ0 (∆f ) = (Dr )2 Γ0 (f ), f ∈ n∈{−1,0,1} が成り立つ.この公式は更に一般化できる.すなわち,C ∞ (X) には運動群 G := K ⋉ ∂ ∂ (R ∂x + R ∂y ) が,C ∞ (A) には次数 Hecke 環 H := CW ⋉ C[Dr ] が作用していると見ると, ∂ ∂ K の作用と W の作用の結びつけている (1) は,C[ ∂x , ∂y ] の作用と C[Dr ] の作用も次の 仕方で結びつけている.まず,微分作用素環の“ 制限写像 ” ∂ ∂ γ : C[ ∂x , ∂y ] → C[Dr ]; ∂ ∂ p( ∂x , ∂y ) → p(Dr , 0) を定めると γ(∆) = (Dr )2 である.次に,(1) の両辺を 3 成分を持つ縦ベクトルのように 見做すと,左辺に作用している行列環 2 ¯ ¯ q (∆) q (∆) ∂ q (∆) ∂ −1,−1 −1,0 z −1,1 ( ) z 1 ∂ ∂ ¯ ∂ = ; q (∆) ∈ C[∆] ( − i ) q (∆)∂ q (∆) q (∆) ∂ 0,−1 z m,n z 0,0 0,1 z 2 ∂x ∂y q (∆)∂ 2 q (∆)∂ q1,1 (∆) 1,−1 1,0 z z が γ を通じて右辺にも作用するが,これらの作用と Γ0 が可換になる. この G 加群 C ∞ (X) と H 加群 C ∞ (A) の例のように,両加群の構造を尊重した (1) の ような対応を持つ G 加群と H 加群の対が次節で定義する動径対である. 3. 動径対の定義 前節の例で用いた記号や設定は踏襲しないが,もちろん本節以降で記号が同じものは 前節のものに比喩的に(一部は厳密に)対応している. G は Harish-Chandra 級の実簡約 Lie 群とし K を Cartan 対合 θ に対応する極大コンパ クト群とする.G = N AK を岩澤分解,M = CentK (A),Σ = Σ(g, a) を制限ルート系, Σ+ を n に対応する正ルート系,Π をその基とする(独子文字は英大文字の Lie 環).各 ルート α ∈ Σ のルート空間 gα から Xα を [Xα , θXα ] = −α∨ (α∨ は α の余ルート)とな るように選んで Zα = Xα + θXα と置く. 定義 1 (single-petaled K タイプ [O1]). 用語“ K タイプ ”は K の既約加群の同値類, あるいは既約加群そのものを指す.K を K タイプ全体の集合とする.V ∈ K が“ M spherical ”とは V M ̸= {0} であることとし,M -spherical K タイプ全体を KM とする. V ∈ KM が“ single-petaled ”とは Zα (Zα2 + 4)V M = {0} ∀α ∈ Σ であることとし,その全体を Ksp とする.その他“ quasi-single-petaled ”という概念も あって今回のトピックと深く関わるのだが,本講演では省略する. V ∈ KM のとき,Weyl 群 W := NormK (A)/M が V M に自然に作用する.§2 の K 加群 C ∞ (X)K,n と W 加群 C ∞ (A)W,n の対応は,G = SL(2, R) の場合における M -spherical K 加群 V と W 加群 V M の対応に由来する. 注意 2. (i) G が複素 Lie 群のとき, “ single-petaled ”は Broer [Br] の意味での“ small ” の概念と一致する. (ii) G がスプリット単純型のとき,Barbasch [Ba] の意味で“ petite ”な K タイプは single-petaled である. (iii) 自明表現 Ctriv は single-petaled.また,g = k + s を Cartan 分解とすると,随伴作 用で K が作用する sC の各既約部分加群は single-petaled である.G の実ランクが 1 の場 合は Ksp はこれらで尽くされる [O1].例えば G = SL(2, R) のときは,sC は同型でない 2 つの既約表現 s± に分解され Ksp = {s− , Ctriv , s+ } であるが,これが §2 の n = −1, 0, 1 に対応している.G が一般の場合も Ksp は常に有限集合である. (iv) G = GL(n, C), GL(n, R), U (p, q), O(p, q), Sp(2n, R) のときは各 U ∈ W に対して V M ≃ U となる V ∈ Ksp がある [Br, CT](O(p, q) などの Harish-Chandra 級でない実 簡約 Lie 群についても上の定義は有効).しかし一般の G はこの性質を持たない. α ∈ Σ \ 2Σ に対して m(α) = dim gα + 2 dim g2α と置く.また,sα ∈ EndR (a) は α が定める鏡映とする. 命題 3 (次数 Hecke 環 [Lu]). C 線形空間 H := S(aC ) ⊗ CW に対して以下を満たすよう な C 上の環の構造が一意に入る: (i) 線形写像 S(aC ) → H, f → f ⊗ 1,CW → H, w → 1 ⊗ w は環準同型. (ii) 任意の φ ∈ S(aC ), w ∈ W に対して (φ ⊗ 1) · (1 ⊗ w) = φ ⊗ w. (iii) 任意の α ∈ Π, ξ ∈ aC に対して (1 ⊗ sα ) · (ξ ⊗ 1) = sα (ξ) ⊗ sα − m(α) α(ξ). (i) により S(aC ) と CW を H の部分環と見做す.V ∈ KM に対して PG (V ) = U (gC ) ⊗U (kC ) V, PH (V M ) = H ⊗CW V M と置くと,それぞれ (gC , K) 加群の圏 (gC , K)-Mod と H 加群の圏 H-Mod の中の射影的 対象となっている.これらを次の線形写像で結びつける. γV : PG (V ) = nC U (nC + aC ) ⊗ V ⊕ S(aC ) ⊗ (V M )⊥ ⊕ S(aC ) ⊗ V M 射影 −ρだけ平行移動 −−→ S(aC ) ⊗ V M −−−−−−−−→ S(aC ) ⊗ V M ≃ PH (V M ). ここで,ρ = 12 trace adnC (·) ∈ a∗C とし,S(aC ) を a∗C 上の多項式関数と同一視してい る.また,(V M )⊥ は V M の V 内での K 不変内積に関する直交補空間とする.次に, E, V ∈ KM として Ψ ∈ HomgC ,K (PG (E), PG (V )) とすると, PG (E) γE PH (E M ) / PG (V ) Ψ γV / PH (V M ) ΓE V (Ψ) M M が可換になるような ΓE )) が一意に存在する(易しい). V (Ψ) ∈ HomaC (PH (E ), PH (V ′ 明らかに別の F ∈ KM と Ψ ∈ HomgC ,K (PG (V ), PG (F )) に対して ′ V ′ E ΓE F (Ψ ◦ Ψ) = ΓF (Ψ ) ◦ ΓV (Ψ) (2) が成り立つ. 定理 4 (Harish-Chandra 準同型 [O1, O2]). E, V ∈ Ksp とする. (i) ΓE V は線形写像 M M ΓE )) V : HomgC ,K (PG (E), PG (V )) → HomH (PH (E ), PH (V (3) を定める(像が aC 準同型より強く H 準同型となっていることがポイント). (ii) E = Ctriv または V = Ctriv のとき (3) は線形同型になる.特に E = V = Ctriv のと き (3) は同型だが,これは古典的な Harish-Chandra の完全系列 γ 0 → (U (gC )kC )K → U (gC )K − → S(aC )W → 0 と同内容である(詳細は略). さて,(gC , K) 加群 MG と H 加群 MH の対 M = (MG , MH ) で以下に列挙する公理 系を満たすものを動径対と呼ぶ: (RP1) MG の K タイプはすべて KM に属する. (C ∞ (G/K)K-finite ,PG (Ctriv ) = U (gC )⊗U (kC ) Ctriv ,球主系列などはこの条件を満たす. ) (RP2) 各 V ∈ Ksp に対して線形写像 ΓVM : HomK (V, MG ) → HomW (V M , MH ) と HomK (V, MG ) の部分空間 Hom2→2 K (V, MG ) が与えられていて,線形同型 ∼ ΓVM : Hom2→2 → HomW (V M , MH ) K (V, MG ) − (4) が成り立つ. (Frobenius 相互律より ΓVM は ΓVM : HomgC ,K (PG (V ), MG ) → HomH (PH (V M ), MH ) という写像と同一視できる. ) (RP3) 任意の E, V ∈ Ksp ,Φ ∈ HomgC ,K (PG (V ), MG ) ,Ψ ∈ HomgC ,K (PG (E), PG (V )) に対して V E ΓE M (Φ ◦ Ψ) = ΓM (Φ) ◦ ΓV (Ψ) が成り立つ.また,Φ ∈ Hom2→2 のときは Φ ◦ Ψ ∈ Hom2→2 . (RP4) quasi-single-petaled K タイプに対する (RP2) と (RP3) に相当する条件(本講演 では略). 注意 5. 重要な例(例えば本講演で扱うすべての例)では,V ∈ Ksp に対する部分 空間 Hom2→2 K (V, MG ) ⊂ HomK (V, MG ) は常に HomK (V, MG ) 全体に一致する([O2, Remark 8.8 & Theorem 8.23 (iii)] 参照). 公理 (RP2),(RP3) はそれぞれ §2 の Chevalley 制限定理と動径成分公式を抽象化し たものであるが,以下にそれを確認する.まず Ksp = {V1 , . . . , Vt } とすると,(4) から 線形同型 ΓM = t ⊕ n=1 ΓVMn : t ⊕ Hom2→2 gC ,K (PG (Vn ), MG ) n=1 ∼ − → t ⊕ HomH (PH (VnM ), MH ) (5) n=1 得られ,これが (1) に相当する.(5) の両辺を n 個の成分を持つ 横ベクトル のように見 做すと,(RP3) の第 2 の条件により行列環 Ψ11 Ψ12 · · · Ψ Ψ 22 21 ; Ψnm ∈ HomgC ,K (PG (Vm ), PG (Vn )) .. .. . . } を通じて右辺にも 右から 作 が左辺に 右から 作用する.この環は (2),(3) により {ΓVVm n 用するが,(RP3) の第 1 の条件によりこれらの作用は ΓM と可換になっている. 4. Riemann 対称空間上の関数 C ∞ (G/K)K-finite は G 加群 C ∞ (G/K) の K 有限ベクトル全体からなる (gC , K) 加群と する.C ∞ (A) には W の通常の作用と ξ ∈ aC の Cherednik 作用素 T (ξ) = −∂(ξ) + ∑ α∈Σ+ m(α) α(ξ) (1 − sα ) − ρ(ξ) 1 − e2α (6) による作用により次数 Hecke 環 H = S(aC ) ⊗ CW が作用する [Ch].岩澤分解より G/K ≃ N A であり,A は G/K の部分多様体と見做せるので γ0 : C ∞ (G/K) → C ∞ (A) を制限写像とする.最後に各 V ∈ Ksp に対して線形写像 ΓV0 : HomK (V, C ∞ (G/K)) → HomW (V M , C ∞ (A)) ; Φ → γ0 ◦ Φ|V M (7) を定める.するとこれらのデータにより対 (C ∞ (G/K)K-finite , C ∞ (A)) が動径対にな ∞ る. (注意 5 で述べたように,すべての V ∈ Ksp に対して Hom2→2 K (V, C (G/K)) = HomK (V, C ∞ (G/K)) としている.以下の例でも同様. )この例は動径対の公理系のも とになった基本的なものであるが,公理系が満たされることの証明は難しい.この例 の接ベクトル版で G = SL(2, R) のときが,§2 の場合である. スペクトルパラメータ λ ∈ a∗C に対して,次の C ∞ (G/K),C ∞ (A) の部分空間を考 える: { } A (G/K, λ) = f ∈ C ∞ (G/K) ; r(∆)f = γ(∆)(λ)f ∀∆ ∈ U (gC )K , { } A (A, λ) = f ∈ C ∞ (A) ; T (∆)f = ∆(−λ)f ∀∆ ∈ S(aC )W . 但し,r : U (gC ) → EndC (C ∞ (G)) は右からの乗法による左作用とする.これらはそれ ぞれ Helgason-Fourier 変換,Opdam-Cherednik 変換において G/K 上あるいは A 上の 関数空間を分解する際の構成単位である.さて,各 V ∈ Ksp に対して (7) を A (G/K, λ) に制限すると同型 ∼ ΓV0 : HomK (V, A (G/K, λ)) − → HomW (V M , A (A, λ)) が得られ,(A (G/K, λ)K-finite , A (A, λ)) が動径対になる. 5. 射影加群 対 (PG (Ctriv ), PH (Ctriv )) は動径対である.ここで,(RP2) の線形写像として HarishChandra 準同型 ΓVCtriv を用いる.(RP2) が満たされることは定理 4 (ii) による.(RP3) は (2) により自明. 6. 球主系列 スペクトルパラメータ λ ∈ a∗C を持つ極小球主系列を { } BG (λ) := F ∈ C ∞ (G) ; F (g man) = aλ−ρ F (g) (g, m, a, n) ∈ G × M × A × N , { } BH (λ) := F ∈ H∗ ; F (h t ξ) = −λ(ξ)F (h) (h, ξ) ∈ H × aC と定義する.ここで,t · は H の反環同型で t w = w−1 (∀w ∈ W ), t ξ = −w0 w0 (ξ) w0 (∀ξ ∈ aC ) (w0 は W の最長元)を満たすものとする.BG (λ) への G 作用は通常通り,BH (λ) へ の H の作用は (hF )(·) = F (t h ·) で定める.BH (λ) の元は W での値で完全に決まり BH (λ) ≃ (CW )∗ であるから, “ 制限写像 ” γB(λ) : BG (λ) → BH (λ) ; ( ) F → W = NormK (A)/M ∋ kM → F (k) ∈ C を定義できる.最後に各 V ∈ Ksp に対して線形写像 ΓVB(λ) : HomK (V, BG (λ)) → HomW (V M , BH (λ)) ; Φ → γB(λ) ◦ Φ|V M を定めると,これらのデータにより対 (BG (λ)K-finite , BH (λ)) は動径対になる. 7. 動径対の圏 動径対を対象とする圏 Crad を考える.2 つの動径対 M = (MG , MH ),N = (NG , NH ) の間の射 I : M → N は,(gC , K) 準同型 IG : MG → NG と H 準同型 IH : MH → NH の対 I = (IG , IH ) で,以下の条件を満たすものとする: (M1) 各 V ∈ Ksp に対して次は可換図式: HomK (V, MG ) ΓV M IG ◦· HomW (V M , MH ) / HomK (V, NG ) IH ◦· ΓV N / HomW (V M , NH ) 2→2 (M2) 各 V ∈ Ksp と各 Φ ∈ Hom2→2 K (V, MG ) に対して,IG ◦ Φ ∈ HomK (V, NG ).つま り次の写像が定義できる: Hom2→2 K (V, MG ) IG ◦· / Hom2→2 (V, NG ). K (M3) quasi-single-petaled K タイプに対する (M1) と (M2) に相当する条件(本講演で は略). この定義により Crad は Abel 圏になる. 8. Poisson 変換 λ ∈ a∗C とする.Poisson 変換 PGλ : BG (λ) → A (G/K, λ) は, ∫ −1 λ F (k)e(λ+ρ)A(k x) dk PG F (x) = K で定まる G 準同型である.ここで,g ∈ G に対して A(g) ∈ a は g ∈ N exp A(g) K を満 たす唯一の要素とする.H 版の Poisson 変換の“ 核関数 ”となる関数を導入する. 定理 6 (非対称超幾何関数 [Op]). 次を満たす G(λ, x) ∈ C ∞ (A) が唯一存在する: ) ( ∑ α(ξ) ∂(ξ) + m(α) (1 − sα ) − ρ(ξ) G(λ, x) = λ(ξ) G(λ, x) ∀ξ ∈ aC , 1 − e−2α + α∈Σ G(λ, 1) = 1. 注意 7. 第 1 式の左辺で G(λ, x) に作用しているのは (6) で ξ ⇝ −ξ ,Σ+ ⇝ −Σ+ とした Cherednik 作用素である.(6) は“ 左乗法による作用 ”の意味を持ち,上のものは“ 右 乗法による作用 ”の意味を持つ. 命題 8. 次の写像が定義され,H 準同型になる: λ PH : BH (λ) ∋ F (h) −→ 1 ∑ F (w) G(λ, w−1 x) ∈ A (A, λ). |W | w∈W 定理 9 ([O2]). 2 つの Poisson 変換の対: ( ) ( ) λ P λ = (PGλ , PH ) : BG (λ)K-finite , BH (λ) −→ A (G/K, λ)K-finite , A (A, λ) . は動径対の射をなす.特に各 V ∈ Ksp ,各 Φ ∈ HomK (V, BG (λ)) に対して 2 つの写像 Pλ γ0 G VM →V − → BG (λ) −−→ A (G/K, λ) − → C ∞ (A), Φ γB(λ) Pλ H VM →V − → BG (λ) −−−→ BH (λ) −−→ A (A, λ) → C ∞ (A) Φ は一致する.これはより具体的には ∫ 1 ∑ −1 Φ[v](w) ¯ G(λ, w−1 x) Φ[v](k) e(λ+ρ)(A(k x)) dk = |W | K w∈W と書ける(w ¯ ∈ NormK (A) は w ∈ W の任意の代表). ∀v ∈ V M , ∀x ∈ A 9. 他の例 この他に,G の表現論と H の表現論の中で同じ位置にあると思われるものの対が,自然 に動径対になったり動径対の射になったりする.特に,w ∈ W とジェネリックな λ ∈ a∗C に対して定まる Knapp-Stein 型の繋絡作用素とその H 版の対: ( ) ( ) (A˜G (w, λ), A˜H (w, λ)) : BG (λ)K-finite , BH (λ) −→ BG (wλ)K-finite , BH (wλ) や,Helgason-Fourier 変換と Opdam-Cherednik 変換の対: ( ) ( ) (FG , FH ) : Cc∞ (G/K)K-finite , Cc∞ (A) −→ C ∞ (a∗ × K/M )K-finite , C ∞ (a∗ × W ) は Crad の射になる.ここで Cc∞ はコンパクト台を持つ C ∞ 級関数のなす関数空間を表す. 10. Crad に関わる関手 (gC , K)-ModM を各 K タイプが KM に属するような (gC , K) 加群からなる圏とする.動 径対の概念を仲立ちにすると,H-Mod の対象を (gC , K)-ModM の対象に写す 3 つの自然 な関手 Ξrad ,Ξmin ,Ξ を構成することができる.各 X ∈ H-Mod に対して (Ξrad (X ), X ) などは動径対となり,自然な Crad の全射の列 (Ξrad (X ), X ) ↠ (Ξmin (X ), X ) ↠ (Ξ(X ), X ) (8) ができる.これら 3 関手は,中心指標を持つ H 加群を対応する無限小指標を持つ (gC , K) 加群に写し,有限次元 H 加群を長さ有限の (gC , K) 加群に写す.また,有限次元 H 加 群の不変 Hermite 形式も {ΓV− }V ∈Ksp と両立性を持つ (gC , K) 加群の不変 Hermite 形式に 持ち上げることができ,[Ba] で考案された既約球 H 加群と既約球 (gC , K) 加群のユニ タリ性を比較する手法をより一般の動径対に適用することが可能になる. 定理 10 (Ξrad の普遍性 [O2]). X ∈ H-Mod,(MG , MH ) ∈ Crad とし,IH : X → MH を H 準同型とすると,(gC , K) 準同型 IG : Ξrad (X ) → MG で (IG , IH ) : (Ξrad (X ), X ) → (MG , MH ) が Crad の射となるものが唯一存在する. Ξmin は n ホモロジーに関連する普遍性を持つが詳細は省略する.次は特筆すべき帰結: 定理 11. 長さ有限で各組成因子が適当な球主系列の組成因子であるような (gC , K) 加群からなる (gC , K)-ModM の充満部分圏を (gC , K)-Modsph ,有限次元 H 加群の圏を H-Modfd と表す.すると Ξmin は Ξmin : H-Modfd → (gC , K)-Modsph と制限される. ((8) より Ξ についても同じことがいえる. ) 定理 12 (Ξ の普遍性 [O2]). 各 M = (MG , MH ) ∈ Crad に対して,適当な操作で 被約 ˜ = (M ˜ G, M ˜ H ) を作ることができる.これは,{ΓV } な 動径対 M M V ∈Ksp を通じて MG と MH が直接リンクしている部分以外を削ぎ落とした動径対であり,各 V ∈ Ksp に対して 2→2 ˜ ˜ H) Hom2→2 −−∼ −−→ HomW (V M , MH ) ≃ HomW (V M , M K (V, MG ) ≃ HomK (V, MG ) − V ΓV M =Γ ˜ M ˜ H) = M ˜ G が成り立つ. となっている.この被約化したものに対して,Ξ(M この定理は,MG ∈ (gC , K)-ModM と MH ∈ H-Mod が動径対 (MG , MH ) を作って いるとき,両者のつながりが非常に堅固であることを示している. 11. Ciubotaru-Trapa 関手 G は GL(n, C), GL(n, R), U (p, q), O(p, q), Sp(2n, R) のいずれかとする(O(p, q) は HarishChandra 級でないが §§3–7,10 の内容は一般の実簡約 Lie 群に対して拡張される).K の 有限次元表現 Z に対して / ∑ ( ) PG′ (Z) := U (gC ) ⊗U (kC ) Z U (gC ) 分子の V 等質成分 V ∈K\KM と置くと,これは (gC , K)-ModM 内の射影的対象になっている.Ciubotaru と Trapa は, K の良い有限次元表現 Z と単射環準同型 Hop → EndgC ,K (PG′ (Z)) を見つけて完全関手 (gC , K)-ModM ∋ Y −→ FZ (Y ) := HomK (Z, Y ) = HomgC ,K (PG′ (Z), Y ) ∈ H-Mod を構成した [CT]. 右辺を EndgC ,K (PG′ (Z))op 加群と見ると FZ は森田関手 [M] の不完 「既約な Y は 全版となっていて(PG′ (Z) はコンパクトだがジェネレータでない), HomK (Z, Y ) ̸= {0} のとき HomK (Z, Y ) だけで完全に決まってしまう」という Lepowsky と McCollum の結果 [LM] に関係する.また FZ は,荒川と鈴木の関手 [AS], Etingof と Freund と Ma の関手 [EFM] の実簡約 Lie 群版にもなっている. 定理 13 ([O3]). Ξrad ,Ξmin ,Ξ はいずれも FZ の右逆となる.また,FZ は FZ : (gC , K)-Modsph → H-Modfd と制限され,Ξmin , Ξ : H-Modfd → (gC , K)-Modsph はその右逆を与える. この定理と Ξmin の性質,[LM] の結果を組み合わせて次が導かれる: 定理 14 ([O3]). FZ は (gC , K)-Modsph の既約加群を既約加群か 0 に写す.逆に,任意の 既約な X ∈ H-Modfd に対して FZ (Y ) = X となるような既約な Y ∈ (gC , K)-Modsph が同型を除いて一意に存在する.従って H-Modfd と (gC , K)-Modsph の既約加群の同値 類の集合をそれぞれ H と (gC , K)sph で表すと,自然な埋め込み IZ : H → (gC , K)sph が得られる.更に,それぞれにおいて不変 Hermite 内積を持つものの部分集合を Herm, 不変ユニタリ内積を持つものの部分集合を uni の記号を付けて表すと IZ (HHerm ) = IZ (H) ∩ (gC , K)Herm sph , IZ (Huni ) ⊃ IZ (H) ∩ (gC , K)uni sph . が成り立つ. 参考文献 [AS] [Ba] T. Arakawa and T. Suzuki, Duality between sln (C) and the degenerate affine Hecke algebra, J. Algebra 209 (1998), 288–304. D. Barbasch, Relevant and petite K-types for split groups, In: Functional analysis VIII. Proceedings of the postgraduate school and conference, Dubrovnik, Croatia, June 15–22, 2003, edited by D. Bakic, et al., Various Publ. Ser. 47, University of Aarhus, 2004, 35–71. [Br] A. Broer, The sum of generalized exponents and Chevalley’s restriction theorem for modules of covariants, Indag. Math. (N.S.) 6 (1995), 385–396. [Ch] I. 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