算数だより No.43 問題解決学習とコミュニケーション−その2−

平成18年8月16日
算数だより
No.43
北区立赤羽小学校
少人数指導担当 田中 一男
問題解決学習とコミュニケーション−その2−
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自力解決の段階における指導
多様な考え方を引き出す課題を提示して,「いろいろ
な考えを書きましょう。」と指示し,その書き方を指導
していくと,子どもたちはだんだん書けるようになって
きます。すると,学年や問題によっては自力解決の時間
が7分間では少なくなってきます。
研究授業などで,20∼25分間も自力解決の時間がある
場合がありますが,これでは話し合いの時間が不足して
しまいます。子どもたちに問題解決学習力が身に付いて
も,基礎・基本の内容が身に付かないのでは本末転倒で
す。しかしながら,最終的には,10∼15分間くらいは必
要でしょう。もちろん,学年や問題によって決まります。
いずれにせよ,算数の場合,自分でやってみなければ分
からないのです。
自力解決の時間に,教師がどのようなことをしたらよ
いかについては,算数部だよりNo.32などを参考にして
いただければ幸いです。教師が児童とどのようにコミュ
ニケーションを図るかをまとめてあります。
さて,日本に問題解決学習が登場した時には,ヒント
カードを用意して個に応じていたのですが,現在はほと
んど行われておりません。苦手な子は,ヒントカードを
読み取れないのです。それに,教師が何種類も用意しな
ければならず,手間のわりには実にならないことが多か
ったからです。少人数指導が導入されて,ますますヒン
トカードの存在が薄くなりました。
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発表の段階における指導
発表の段階は,発表児童と聞く児童・教師とのマス・コミュ
ニケーションが必要です。いわゆる認め合いが成立しなければ
なりません。
発表の段階の指導で困難なのは,(1)どのような考え
をいくつ取り上げたらよいか,(2)どのような順番で取
り上げたらよいか,(3)個の考えをどのように大きく掲
示するか,(4)どのように認め合いを行うか,という4
点です。
(1) どのような考えをいくつ取り上げたらよいか
子どもたちが多様な考え方を書けるようになると,今
度は,どのような考えを取り上げたらよいかということ
が問題になります。すべての考え方を発表させても,そ
の時間だけで終わってしまったら何ら実にならないこと
になりかねません。そうは言っても,発表させないので
は,「
『いろいろな考え方を書け』と言われたから書いた
のにどうして取り上げてくれないの。」と思われてしま
います。
そこで,数としては3,4の考えを取り上げることがベ
ストです。5つ以上では,高め合いの段階で比較するこ
とが困難になってしまうからです。「多様な考えの代表
的な考え」ということを打ち出して,子どもたちに説明
しておくことが大切です。また,多様な考え方をすると,
間違いが少なくなったり,今までの学習の復習になった
り,頭がよくなったりすることを話しておくことも大切
です。
どのような考えを取り上げるかについては,教材研究
によります。詳しくは,「7 高め合いの段階の指導」
で述べます。
(2) どのような順番で取り上げたらよいか
「発表してくれる人はいませんか。」と無計画に進め
ていくのでは,目標を達成することができません。児童
の考えを計画的に取り上げる必要があります。取り上げ
る考えが決まっていたとしても,児童の考えを陳列して,
品評会をやってしまうのも困ります。
まず,Aの考えから始めて,よりよいBの考え,さら
によりよいCの考えへと,考えの道筋が分かるようにし
ていくのが一般的です。この場合,誤答や程度の低い考
えをAとして取り上げる場合があります。注意したいこ
とは,その児童が自力解決の時間によりよい方法で解決
してある場合だけ取り上げるということです。そうでな
ければ,他の児童の前で恥をかかせることになりかねま
せん。「Aさんは,始めはこの考えをしたけれども,あ
とでもっといい考えに気がついたのです。」と教師が補
足してやることで,児童の考えを尊重するのです。
始めに,中心となる考え方を取り上げる方法もありま
す。特に,発表の1番目は注目され,聞く児童の集中力
が高まる時です。多くの児童が考えた考えを始めに取り
上げて,多くの児童が考えの共有化を図れるようにする
のです。
(3) 個の考えをどのように大きく掲示するか
研究授業や授業参観でも問題になるのが,児童の考え
をどのように大きく掲示するかということです。これま
での研究では,次のような方法があります。
① 大きな画用紙に考えを写させる。
代表児に,ノートに書いた考えをサインペン等を用い
て大きな画用紙に書かせる方法です。自力解決の時間に
行うので,時間が不足することが難点です。
② 大きな画用紙に書かせて,そのまま掲示する。
始めから全員に,大きな画用紙に考えを書かせて,そ
のまま掲示するという方法です。児童の手元に考えが残
らないことと予算がかかることが難点です。
③ プロジェクターあるいは電子黒板に映す
実物を映し出すので,分かりやすいのですが,1つし
か提示できないので,比べることができず,用意するの
に時間がかかるのが難点です。
④ 黒板に書かせる。
最も一般的な方法ですが,他の児童が見やすい大きさ
で書くことも比べることもできます。ただ,発表前にす
べて書き上げるので,時間がかかることと他の考えが同
時に見えて分かってしまうことが難点です。
(次号に続く)