ナバックレター 養鶏版Vol.55 コマーシャル農場におけるマレック病に関する最新の知見(1) Dr. Francesco Prandini, DVM, Avian Technical Manager, Merial Europe, Middle East and Africa マレック病(MD)はよくみられるリンパ球増殖性疾患で、世界中の鶏の健康に影響しています。通常、末梢神経、 その他の種々の臓器および皮膚などの組織中への単核球浸潤が特徴的です。 かつてMDは農場に大きな打撃を与える深刻な疾患でした。対策措置を講じなければコマーシャル農場に甚大な損 失をもたらす可能性があります。MDは、アルファヘルペスウイルスの1つであるマレック病ウイルス(MDV)によっ て引き起こされます。1968年に初めて分離され、他の鳥類リンパ系腫瘍とは病因学的に鑑別されます。 MDVは細胞随伴性ウイルスで、現在、鳥ヘルペスウイルス2型(血清型1型)、鳥ヘルペスウイルス3型(血清型2型) および七面鳥ヘルペスウイルス1型(血清型3型)の3種類に分類される3種類の血清型を含みます。血清型によって ゲノムばかりでなく、生物学的特徴にも大きな違いがみられます。MDV血清型1型には全ての腫瘍原性ウイルス株 およびその弱毒株が含まれます。血清型2型は鶏から分離された非腫瘍原性ウイルスです。血清型3型は七面鳥から 分離された非腫瘍原性ウイルスで、一般には七面鳥ヘルペスウイルス(HVT)として知られています。 血清型1型株は病原性に基づいて病原型にさらに分類され、しばしば弱毒(m)MDV株、強毒(v)MDV株、超強毒 (vv)MDV株、および超強毒プラス(vv+)MDV株と呼ばれています。これは、1世紀以上前にJosef Marekによっ て報告された弱毒株から、ワクチン未接種の鶏が(vv+)MDVの暴露を受けると死亡率100%近い高病原性化の方 向にウイルスが進化し続けていることを反映しています。 現時点では、世界中の大部分の地域でMDのコントロールは成功しています。流行は今もまだ起こりますがvv+以 上の病原性のMDV分離株は報告されていません。MDVの病原性がさらに高くなっていくかどうかは不明です。 疫学および発症機序 マレック病ウイルスはほとんどどこにでもありますが、それを助長する多くの要因があることから、特に大規模農 場に存在します。MDVは鳥から鳥へきわめて容易に伝播するので、コマーシャル鶏の高密度飼育条件が疾病の伝播 に最適な環境を作り出しています。 鶏は免疫されてもキャリアとなり、一度感染すると保毒鶏となり、その後生涯にわたってMDVを排泄することがあ ります。ワクチンの投与または暴露後早ければ2週間で羽毛の落屑にMDVが排泄され、環境状況によって数ヶ月な いし数年間鶏舎内で感染性を保ち、別の個体へ伝播する可能性があります。鶏舎内におけるウイルスの継続的な排 泄と、ウイルスの安定性によって、ほとんどの鶏舎は感染性ウイルスに汚染されています。したがってコマーシャ ル農場で飼育された鶏は生涯にわたってMDVの暴露を継続的に繰り返し受けるでしょう。程度の差はありますが、 全ての鶏はMDVによる感染症に感受性があります。 MDVの自然感染経路は、感染鶏の羽包から落ちた落屑に存在する細胞遊離型感染性MDVの吸入による肺からの感 染です。MD発症における肺の役割は不明ですが、肺に存在する食細胞がMDウイルスを取り込み、ファブリキウス嚢、 胸腺、膵臓などのリンパ系器官に輸送すると考えられています。MDVは感染後2∼3日以内にリンパ系器官に達し ます。それからすぐにリンパ系器官のリンパ球中で増殖性細胞溶解性感染が成立し、感染後5∼6日間でよくわかる ようになります。細胞溶解性感染の最初の標的細胞はBリンパ球で、その後、多数のマクロファージ、TおよびBリ ンパ球、一部の偽好酸球を活性化します。リンパ系器官内ばかりでなく、末梢血リンパ球で検出されるT細胞でも 感染が潜伏し、おそらくこれによってMDVが鶏の他の組織へ広がると考えられます。 1 ナバックレター 養鶏版Vol.55 細胞溶解性感染を示す第2波は、感染後2週目の終わりまでに上皮を起源とするほとんどの組織で検出されます。羽 包上皮細胞内における細胞遊離型ウイルスの増殖性感染はMDV伝播において特に重要であり、感染鶏の生涯を通じ て継続します。感受性鶏では、ウイルスが潜伏期間から再活性化することによってCD4+ T細胞の形質転換が起こ り、種々の組織浸潤および、神経、脳、皮膚、およびあらゆる臓器に発症する可能性のあるMDV誘発性リンパ腫を 生じます。 MDV癌タンパク質MEQが重要な癌遺伝子であることは明らかですが、発癌にはそれ以外の遺伝子も関与しています。 臨床疾病および病理学 MDには明確に区別できる複数の病理学的症候群がありますが、もっとも頻発し、現実的にもっとも重要なのがリ ンパ増殖性症候群です。この中でもっともよくみられるのはMDリンパ腫で、その他では鶏麻痺症、皮膚白血病、 眼病変など、リンパ増殖性成分とする臨床症状があります。また非腫瘍性脳病変は一過性麻痺の原因となります。 胸腺およびファブリキウス嚢の萎縮など複数の非リンパ腫性症候群では潜伏期間が短いことがあり、感染後6∼8日 以内に発症します。一過性麻痺は、通常、感染後8∼18日に発症します。野外条件下では、重症MDの発症は8∼9 週齢から始まりますが、産卵開始後も時々起こります。晩期発症が、早期または晩期感染に起因するかどうかは不 明です。 MDの症状は各症候群によって様々です。MDリンパ腫または鶏麻痺症候群の鶏は、体重減少、蒼白、食欲不振など の症状を示し、活動性低下、昏睡の後、死に至りますが、ほとんどMDとして特徴的ということではありません。 特に片側性不全麻痺または痙性脚麻痺に特徴的な臨床症状は、一肢を前方に、他肢を後方に伸展している個体です。 MDV感染の影響の1つは免疫抑制で、強毒性MDVではより重症ですが、その機序についてはあまりわかっていま せん。 (次号に続く) これは「International Hatchery Practice Vol.27,No.7」を抄訳したものです。 鶏麻痺症 2
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