デジタル糖度計を用いた乳房炎予察

デジタル糖度計を用いた乳房炎予察
生物生産科3年
1.乳房炎とは
乳房炎は、乳牛の代表的な疾病の一つです。乳頭口から細菌が侵入すると発症します。搾乳時は乳
頭口が開いている状態なので、日頃の搾乳作業で衛生面や搾乳手順などに問題があると発症すること
があります。
搾乳していない牛でも分娩前に乳房炎を発症することがあります。分娩前は、子牛への授乳に向け
て母牛の乳房は張っていきます。乳房が張ると乳頭口が緩んできて、細菌が侵入しやすい状態になり
ます。乾乳時に保菌している場合も、搾乳していなくても乳房炎を発症します。また、分娩の際は血
液中のホルモン濃度が変動し、エネルギー要求量や酸素要求量が増加します。これらの変化で免疫力
が低下し、細菌が増殖しやすい状態になり、乳房炎を発症します。
2.乳房炎による損失
①牛乳の廃棄
乳房炎乳房から出る乳は体細胞が多く排出されます。また、抗生物質を投与していると牛乳にも混
ざっているので、販売には適さず廃棄することになります。乳房炎治療には生産可能になるまで最低
5日間かかります。1日30kg生産できる牛の場合、金額にしてだいたい1万5千円の損失が発生
します。また、廃棄する乳はクウォーターやバケットに搾って、正常なものと分けなければならない
ので手間が掛かります。
②薬剤と診察、治療のコスト
牛乳を廃棄することで生じる損失の他に、治療にあたり獣医師の診察や薬剤投与などの経費も掛か
ります。
3.乳汁検査
乳房炎による損失を防ぐために、分娩前乳汁検査が推奨されています。乳房炎を発症する可能性が
ある牛には軟膏を投与し、分娩後は授乳から搾乳へとスムーズに移行できるようにすると、損失を受
けずに生産へとつなげることができます。
①PLテスト(CMT変法)
この検査は4本の乳頭それぞれの乳汁を搾り、薬液を入れて反応を見ます。
左写真を見ると、一つだけ違う反応が出ています。左後
ろと書かれたところの反応を見ると、他の3つに比べて
黄色く反応しています。この反応を見て乳房炎の判断を
します。この検査を分娩予定日のだいたい1週間前に行
なうことで、乳房炎のリスクが高い牛を発見して早期に
対応することができます。しかし、PLテストでは写真
のように明らかな反応が出ないこともあり、検査する人
の見え方の違いによっては誰が見ても同じ判断になると
は限りません。その判断が統一できるように、私たちは
反応を数値化することを試してみました。
②デジタル糖度計
PLテストと違い数値で判断することができるので、誰でも迷うことなく同じ判断をすることがで
きます。
乳房炎のリスクが高い牛の乳汁の数値はどれくらいなのか、本校の牛で調査しました。
4.調査方法
4つの分乳房からそれぞれ乳汁を採取します。調査対象牛は、9月9日に分娩したハイスクールオ
キノー・アレキサンダー・ラダリア号です。
採取した試験管の乳汁を見ると、色が真っ白ではなく黄色に近いのが特徴ですが、乳汁の色や粘り
の状態で乳房炎にかかるリスクが高いか低いかを見ることができるそうです。
調査は、右前、右後ろ、左前、左後ろとそれぞれ採取した乳汁を糖度計に垂らし、計測します。測
定の度にピペットを変えて、糖度計も脂肪分が残らないようにきれいに拭き取ってから別の乳汁を測
定します。
5.調査結果
PLテストで異常がなかった乳汁の値は22%台であることに対し、乳房炎の反応があった左後の
値は24.3%と他の3か所よりも値が高くなっています。
6.まとめと課題
①乳房炎高リスクの乳汁の値は 24%台
PLテストで陽性反応が出た乳汁は、糖度計で測定しても明らかに値が違い、乳房炎高リスクが判
断できることがわかりました。しかし、調査したのは本校の牛1頭のみなので本当に結果を出すには
データが足りません。
②乳汁採取のタイミング
調査牛はもう1頭いたのですが、乳汁を採取しようとしたらすでに初乳の状態になっていて、乳汁
検査ができませんでした。また、分娩予定日より早く生まれることもあります。このように、個体や
分娩によって状態が違うので、乳汁採取のタイミングを見極めることが非常に重要であることがわか
りました。分娩1週間前よりも早く調査したほうがいいのかもしれません。
③コロジオンの使用
農家によっては、分娩前に乳汁を搾ることはご法度だと考えているところもあります。乳汁採取に
より、乳頭口を広げて細菌が入りやすい環境を作ってしまうことを懸念しているのだと思います。そ
の対策として、乳頭口をふさぐことができるコロジオンという薬品を使うと細菌侵入を防ぐことがで
きると考えます。
④継続研究とデータ収集
本校の乳牛の飼養頭数では、データを集めるのには時間がかかります。今後この研究を継続させて、
確実な結果を出して生産性を維持させていきたいと思います。