非行少年と若年犯罪者の将来認知の特徴に関する研究

非行少年と若年犯罪者の将来認知の特徴に関する研究
田中健太郎
1. 研究全体の構成
本研究の構成は、(a) 背景及び問題、(b) 研究 1:時間的展望に関する文献研究、(c) 研究
2:将来認知に関する非行少年への質問紙調査、(d) 研究 3:保護観察の処遇者への質問紙
調査、(e) 研究 4:保護観察の処遇者への半構造化面接、(f) 研究 5:研究 2 の調査対象者
の成行き調査、(g) 研究 6:以前に非行をしていたことのある成人への半構造化面接、そし
て (h) 総合考察とする。
2. 研究 3 について
前回全体研究会に引き続き今回研究 3 を示す。保護観察中の少年の将来認知の特徴を十
分に踏まえた処遇者の関与が、より実効性のある保護観察処遇に必要である。そこで、処
遇者である保護観察官と保護司を対象に、将来に向けた指導の実態などを明らかにするた
め質問紙調査を実施した。対象は A 保護観察所の保護観察官と保護司で、未成年者の担当
経験があり、インフォームドコンセントの得られた人 141 名(男性 100 名、女性 41 名)だ
った。調査は、(a) 保護観察官については 2012 年 4 月から 2015 年 3 月までの調査期間に
個別に実施し、(b) 保護司については 2013 年 5 月から同年 6 月までの保護司への定例研修
の機会に、研修を担当した保護観察官が一斉に実施した。本 調査は、(a) 千葉大学教育学部
生命倫理審査委員会の承認と、(b) A 保護観察所長及び調査対象の保護司が在籍する保護司
会の会長から許可を得たうえで行われた。質問は、将来に向けた指導として「将来のこと
を考えて行動しなさい」と抽象的に言う指導(以下「抽象的指導」という。)と将来のこと
を具体的に考えさせていく指導(以下「具体的指導」という。)の 2 つを想定し、(a) 効果
について「5:かなり効果的だと思う」から「1:まったく効果的ではないと思う」まで、
(b) 各指導を受けた保護観察中の未成年者の気持ちについて「5:とても肯定的な気持ちに
なると思う」から「1:とても否定的な気持ちになると思う」まで、(c) 頻度について「5:
かなり多い」から「1:かなり少ない」まで、いずれもそれぞれ 5 件法で回答を求めた。
調査結果を分析したところ、(a) 指導の効果に関する回答結果に統計的有意差が認めら
れ、具体的指導のほうがより得点が高かった(z = -5.91, p < .001)。また、(b) 指導を受けた
ときの保護観察中の少年の気持ちに関する回答結果に統計的有意差が認められ、具体的指
導のほうがより得点が高いことが示された(z = -5.33, p < .001)。そして、(c) 抽象的指導と
具体的指導の頻度についての回答結果は、前者(M = 3.45)と後者(M = 3.57)との間で統
計的な有意差は見られなかった。
以上から、保護観察の処遇者は、(a) 具体的指導のほうが、抽象的指導よりも効果的だと
考えており、(b) 保護観察中の少年に、より肯定的に受けとめられるのは、具体的指導のほ
うだととらえていることが明らかとなった。そして、(c) 指導の頻度については、尺度上の
中央値より高く、いずれも比較的多く行われていることが示されたと言えよう。
前回の全体研究会時に示した研究 2 の調査結果では、保護観察を受けている男子非行少
年は、その将来認知に、将来の目標指向や希望への意識がより高いものの、将来計画・目
標の具体性がより低いという特徴があることが示されたとした。そして、将来のことを共
に具体的に考えていく姿勢やかかわりを持つ必要性(つまりは具体的指導の必要性)を指
摘した。
研究 2 と研究 3 の調査結果とを合わせて考えると、保護司は、現に、研究 2 でした指摘
と一致する処遇を概ね実践し、その効果を感じているのであろう。
今後は、処遇者が具体的指導と抽象的指導とをどのように使い分けているのかなどを明
らかにする必要がある。
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