2012年夏学期 数学 I(文系)Q & A∗ 担当: 小林俊行教授 TA: 奥田隆幸,粕谷直彦,田中雄一郎 講義後に学生さん達からの質問に答えている際に、 「ここが理解のネックになっている」 「ここが 分かれば疑問が氷解する」という「分からない箇所」を取り上げ、その理解を深める目的で作って みました。講義に関する質問、演習問題に関する質問、その他の順で書きます. 第1回の講義でお話したように、この講義では、「難しい問題を解く力をつける」のが目的では なく、「将来、数学や数理科学的な考え方や知識が必要になった時に、必要に応じて学ぶ力を若い 間に鍛えておく」というのが目的です。従って、公式を記憶するのではなく、「それはなぜ?」と 自問し、自分で考え、また、勇気を出して質問してみる、ということを積極的に行って、自らの若 い頭脳を鍛えてください。 なお、Q and A はアップデートするたびに、ホームページに最新版を掲載しています。 http://www.ms.u-tokyo.ac.jp/ toshi/lec/2012summer-b.html 第二回 (4/18) の講義の後の質問 Q1. (仮値)−(真値) (真値) と (仮値)−(真値) (仮値) のどちらが誤差なのでしょうか? )−(真値) A. 正しいのは (仮値(真値 の方ですが、分母で真値を用いても仮値を用いても、誤差が小さ ) いときは結果はほとんど変わらないので仮値を用いても構いません。実際、 p = (仮値), q = ( ( ( ) ) (仮値)−(真値) (仮値)−(真値) p−q p−q 真値) として A = q = ,B= p = とおいて、「結果がほと (真値) (仮値) んど変わらない」ことを確認しましょう。まず、簡単な計算で A = B 1−B という関係が成り立 ちます。そこで、例えば分母を仮値で計算したときの誤差が 1 %すなわち B = 0.01 としま す。このとき、A = B 1−B = 0.0101010... となり、分母を真値とした A は B とほぼ等しくな ります。もう一つの例として B = 0.05 で考えてみると、A = B 1−B = 0.05263... となり、や はり A は B に近い値になります。 第三回 (4/25) の講義の後の質問 Q1. 0! = 1 とするのはなぜですか? 0! = 0 なのでは? A. これは約束(定義)です。なぜそのように約束(定義)すれば便利であるかを説明しま す。まず 1 以上の場合の観察として, 1! と 2! の間には 2! = 1! × 2 という関係があり, 2! と 3! の間には 3! = 2! × 3 という関係があります. 一般には (n + 1)! = n! × (n + 1) となります. 上の等式が n = 0 のときにも成り立つように 0! を定義すると, 0! := 1 とするこ とになります. 他にも例えば a0 := 1 であることなどは, 上と同様の考え方で説明されます. ∗ Version 1, 2012/5/3. Version 2, 2012/5/4. Version 3, 2012/5/8. Version 4, 2012/5/9. Version 5, 2012/5/11. Version 6, 2012/5/12. Version 7, 2012/6/6. Version 8, 2012/6/9, Version 9, 2012/6/15, Version 10, 2012/6/26 1 Q2. ex+y = ex ey の証明の二重和の計算を 2 通りに表す証明がわかりません. A. それを理解するための問題を演習問題で取り上げます(第 4 回演習問題問 6)。また、こ の考え方は、6,7 月に多重積分を扱うときに、再度取り上げます。 Q3. ネイピアの数 e や ex というのはなぜ重要なのですか? A.10 進法はおそらく人間の指が 10 本ということに起因すると思われます。その意味で、10x という表記は我々人類にとっては便利なものです。一方、e や ex は我々人類にとって便利、 というより、もっと普遍的な意味があります。 講義でお話したように、ex には多様な側面がありますが、その最も重要な性質は f ′ (x) = f (x) という微分方程式を満たしている ということです。逆に f (x) がその微分に一致しているような関数は ex かその定数倍しかあ りません。この性質が、ex の普遍性の根源となるものと考えて良いでしょう。 ところで変化率が現在の量と一次式の関係にある、という現象は物理現象にも、化学にも、 社会学や心理学のモデルなど、さまざまなところに現れます。こういった現象を解析するの には、10 進法に基づく 10x よりも普遍的な関数 ex の方が便利なことが多いのです。 第四回 (5/2) の講義の後の質問 Q1. 限界効用の式を dU/dq(q) や df /dq(q) もしくは dU/dq などと書くのはどれも同じですか? A. 同じです。高校までの教科書では同じ意味を同じ記法に揃えることにエネルギーを費やし ます。一方、経済学や統計学や物理学では、本質的には同じ概念なのに違う記号が用いられ たり、ときには用語まで異なることがあります。本質的なものを見抜き、将来、記号や用語 に振り回されないように、この講義でもいくつかの記法に慣れてもらうよう、それを同時に 説明したり、その語源を小話として紹介したりします。 Q2. 速度が微分ということはわかるのですが、加速度と 2 階微分の関係がもやもやとしています。 A. いろんな答え方があると思いますが、こういう風に説明してみましょう。速度、加速度と いう言葉は微分という概念がなくとも、なんとなくこういうものだろうという感覚があると 思います。しかし、それを厳密に定義しておかないと、それぞれの人が思い描く概念が、同 じ言葉を持ちていても、人によって微妙に異なるかもしれません。そこで、微分を使って速 度、加速度という言葉を再定義することによって、その概念を普遍的なものとして確定して いるのです。 Q3. limx→0 sin x x = 1 から limx→0 1−cos x x2 = 1 2 を導くことはできますか。 A. 以下のようにして導くことができます。三角関数の半角公式 1 − cos x = 2 sin2 ると、 2 sin2 1 − cos x = lim 2 x→0 x→0 x x2 lim x 2 = x 2 を用い sin2 x 1 sin2 t 1 sin t 2 1 1 lim x 22 = lim 2 = (lim ) = 2 x→0 ( 2 ) 2 t→0 t 2 t→0 t 2 となります。 第五回 (5/9) の講義の後の質問 2 Q1. 下図で,∠PBD が ∠POA(= θ)と等しくなるのが分かりません. B D P Θ O A C A.∠OAP が直角であり、∠BDP もまたほぼ直角であることに注意しましょう.ここで ∠BDP がほぼ直角であるのは,円の半径と接線とがなす角は直角になること及び、∠BOD が小さけ れば直線 BD を点 D における接線と思えることによります.すると、三角形 OAP と三角形 BDP とに注目することで,三角形の相似から ∠PBD≒ ∠POA が分かります. 1 2 Q2. 級数の計算 (1 + + 1 4 + ··· + 1 2m =2− 1 2m など) が追えません. A. 第 4 回演習問題の問 3 を参照してください. (第 1 回問 9(3) と第 3 回問 2(1) の計算は分 かりにくいようでしたので、より詳しく書き直しました. ) 第六回 (5/23) の講義の後の質問 ∂2f ∂x∂y (x, y) Q1. どのようなときに と ∂2f ∂y∂x (x, y) は一致するのでしょうか? A. (質問の意図が分からない人のための説明) まず, ∂2f ∂x∂y (x, y) は f (x, y) を y で偏微分してそのあと x で偏微分した導関数であり, のことです. 一方, であり, 2 ∂ f ∂y∂x (x, y) ∂ ∂f ∂y ( ∂x (x, y)) ∂ ∂f ∂x ( ∂y (x, y)) は f (x, y) を x で偏微分してそのあと y で偏微分した導関数 のことです. 従って, ∂2f ∂x∂y (x, y) と ∂2f ∂y∂x (x, y) の定義は異なります. 質 問の意図は, これらはいつ一致するのかというものです. (質問に対する回答) 普通に表れる関数 f (x, y) については, は, ∂2f ∂x∂y (x, y) と ∂2f ∂y∂x (x, y) ∂2f ∂x∂y (x, y) と ∂2f ∂y∂x (x, y) は一致します. より正確に に関して, 次の定理が成り立ちます: 定理 (詳しくは解析概論 (改訂第三版) 第 2 章 §23 定理 27 を参照): 二階の導関数 ∂2f ∂2f ∂x∂y (x, y), ∂y∂x (x, y) が (x0 , y0 ) の周りでそれぞれ存在していて, しかもそれらが 連続関数であるならば, (x0 , y0 ) において, ∂2f ∂2f (x0 , y0 ) = (x0 , y0 ) ∂x∂y ∂y∂x が成り立つ. 3 (1) 仮定が成り立たない場合には 等式 (1) が成り立たないこともあります. そもそも微分ができ ない場合があり, また微分ができても連続でない場合には, 等式 (1) の意味が確定しないか, あるいは等式 (1) が成り立たないこともあります. しかし, 関数概念を拡張した超関数の理論 (これは数学科の上級生が習う内容です) におい ては, ∂2f ∂2f (x, y) = (x, y) ∂x∂y ∂y∂x が常に成り立ちます. Q2. f (x, y) = xy とおいたとき, ∂2f ∂x∂y (x, y) と ∂2f ∂y∂x (x, y) はどうなりますか? A. 以下では x > 0 とします. 上の質問の回答で紹介した定理を使うと ∂2f ∂2f (x, y) = (x, y) ∂x∂y ∂y∂x が成り立つことが分かります. ∂2f ∂x∂y (x, y) log x ここでは計算の練習のために 確認してみましょう. まず, e ∂2f ∂y∂x (x, y) と を両方計算し, 等式が成り立つことを = x に注意すると, f (x, y) = ey log x と書けます. いま, g(x, y) = y log x とおいて, 合成関数の微分法を用いて f (x, y) = eg(x,y) の偏導関数を計算すれば, ∂f (x, y) = ∂x ∂f (x, y) = ∂y (ここでは d g(t) dt e = ∂g y y (x, y)eg(x,y) = f (x, y) = xy ∂x x x ∂g (x, y)eg(x,y) = (log x)f (x, y) = (log x)xy . ∂x dg t d dt (t)e , dx log x = 1 x などを用いた.) 更に, 二階の偏導関数をそれぞれ 計算すれば, ∂2f (x, y) = ∂x∂y ∂2f (x, y) = ∂y∂x ∂ 1 ∂f 1 y log x y 1 + y log x y ((log x)f (x, y)) = f (x, y) + (log x) (x, y) = xy + x = x ∂x x ∂x x x x ∂ y 1 y ∂f 1 y log x y 1 + y log x y ( f (x, y)) = f (x, y) + (x, y) = xy + x = x ∂y x x x ∂y x x x となります. 特に, ∂2f ∂x∂y (x, y) = ∂2f ∂y∂x (x, y) が成り立っていることが確認できます. Q3. z = f (x, y) のグラフにおいて, グラフ上の点 (x0 , y0 , z0 ) における接平面の方程式は z − z0 = ∂f ∂f (x0 , y0 )(x − x0 ) + (x0 , y0 )(y − y0 ) ∂x ∂y でしたが, この平面の方程式を求めるときに, x = x0 という平面の切り口を考え, 更に y = y0 という平面の切り口を考えた訳ですが, それ以外の方向を考えなくてもよいのでしょうか? A. よい質問です. これを疑問に思ったというのはよく理解できているということです. 講義では次の論理を用いています. 「グラフ上の点 (x0 , y0 , z0 ) において, z = f (x, y) の接平面が存在することを仮定して, その 方程式を求める」 4 従って, 接平面が存在しないようなグラフに対してはこの議論は使えません. ただし, f (x, y) の偏導関数 ∂f ∂x (x, y) と ∂f ∂y (x, y) がそれぞれ存在していてしかも連続関数であるときには, 接 平面は存在します. 従って, 普通に表れる関数 f (x, y) に対しては, 接平面の存在についての 心配はしなくてもよいです. 接平面が存在すると仮定した上で質問に答えましょう. まず, 曲面 α と平面 β が点 P で接しているとしましょう. このとき P を通るどんな平面 γ に対しても α∩γ と β∩γ (2) は P で接しています. 特に β ̸= γ のとき, β ∩ γ は P を通る直線になっているので, つまり 次の命題が分かりました. 命題: 曲面 α と平面 β が点 P で接するなら, P を通る β 以外の任意の平面 γ に 対して, 曲線 α ∩ γ と直線 β ∩ γ は点 P で接する. この命題を z = f (x, y) のグラフとその接平面, 及び平面 x = x0 と y = y0 について適用す れば, 講義で述べた議論から接平面の方程式が z − z0 = ∂f ∂f (x0 , y0 )(x − x0 ) + (x0 , y0 )(y − y0 ) ∂x ∂y となることがわかる. 第八回 (6/6) の講義の後の質問 Q1. 二つの制約条件があるときのラグランジュの未定乗数法を詳しく説明して下さい. A. まず, 図形の性質の準備 (線型代数での直交補空間とその双対定理) をしましょう. (直交補空間) 二次元空間あるいは三次元空間の中で, α を原点 O を通る平面もしくは直線と します. OP が α に直交するような点 P を集めた図形を α⊥ と書くことにします (ただし原 点 O は α⊥ に含める). 線形代数においては, この α⊥ を α の直交補空間と言います. 例 1 xy 平面において, α が x 軸ならば α⊥ は y 軸である. 例 2 xy 平面において, α が y 軸ならば α⊥ は x 軸である. 例 3 xy 平面において, α が原点を通る直線ならば α⊥ も原点を通る直線である. 例 4 xyz 空間において, α が原点を通る直線ならば α⊥ は原点を通る平面である. 例 5 xyz 空間において, α が原点を通る平面ならば α⊥ は原点を通る直線である. 直交補空間の基本的な性質を述べるために, 次のことを復習します: 集合の包含関係 A と B を集合とする. A の任意の要素 x が B にも属しているとき, A⊂B と書くことにする. (高校までの課程では, A ⫅ B と表記することが多い.) ここで, 次の定理が成り立ちます: 定理 (直交補空間の基本的な性質): 5 (1) (α⊥ )⊥ = α. (2) α ⊂ β ならば β ⊥ ⊂ α⊥ が成り立つ. (3) α⊥ ⊂ β ⊥ ならば β ⊂ α が成り立つ. この定理の意味と, それが成り立つ理由を以下で説明します. (1) の意味 α が原点を通る直線あるいは平面であるとき, 直交補空間をとる /o /o /o /o /o /o /o /(α⊥ )⊥ / ⊥ /o 直交補空間をとる α /o o/ o/ /o /o /o /o /o /o o/ α と二度繰り返して得られた図形が元の α に一致するという意味である. 実際, 例えば α が xyz 空間における原点を通る直線ならば, α⊥ は原点を通る平面であり (例 4), 従っ て, (α⊥ )⊥ は再び原点を通る直線になる (例 5). この直線 (α⊥ )⊥ が元の直線 α と一致 していることは, (α⊥ )⊥ , α のいずれも平面 α⊥ と直交していることから分かる. (2) の証明 α⊥ と β ⊥ の定義に戻って考えると, OP が β に直交しているならば OP は α にも直交している (⋆) ということを言えばよい. ところが α ⊂ β なので, (⋆) が成り立っていることが分かる. (3) の証明 (3) は (1), (2) から論理的に導けることを示そう. (2) において, α の替わりに α⊥ , また β の替わりに β ⊥ を用いると, α⊥ ⊂ β ⊥ ならば (β ⊥ )⊥ ⊂ (α⊥ )⊥ (⋆⋆) が成り立つ. ところが (1) より (α⊥ )⊥ = α, (β ⊥ )⊥ = β なので, (⋆⋆) は α⊥ ⊂ β ⊥ ならば β ⊂ α と同等である. すなわち (3) が示された. この準備のもとに, 講義の中で述べた以下の定理を説明しましょう. 定理 制約条件 g1 (x, y, z) = 0, g2 (x, y, z) = 0, の下で関数 f (x, y, z) が点 (x0 , y0 , z0 ) で極大値 (あるいは極小値) をとるならば, (x0 , y0 , z0 ) は次の二つの条件を満たす: 条件 1 g1 (x0 , y0 , z0 ) = 0, g2 (x0 , y0 , z0 ) = 0. 条件 2 ある定数 λ1 , λ2 が存在して, grad f (x0 , y0 , z0 ) = λ1 grad g1 (x0 , y0 , z0 ) + λ2 grad g2 (x0 , y0 , z0 ). 条件 1 は制約条件そのものなので, 条件 2 が成り立つことを以下で説明します. 6 Remark: 以下の説明は変数が増えても制約条件の個数が増えても, 直交補空間の 双対定理に帰着することで一般化することができる. (条件 2 の説明) 制約条件 g1 (x, y, z) = g2 (x, y, z) = 0 の下で関数 f (x, y, z) が点 (x0 , y0 , z0 ) で極大値 (あるいは極小値) をとるとしよう. 以下の説明では − → v := grad f (x0 , y0 , z0 ) − → u := grad g (x , y , z ) 1 1 0 0 0 → − u 2 := grad g2 (x0 , y0 , z0 ) とおく. また以下では点 (x0 , y0 , z0 ) を原点として考えることにする. − → → → u 1, − u 2 と原点を含む平面を α とし, − v と原点を含む直線を β と表すことにする. このとき, β ⊂ α ⇔ 条件 2 であるから, β ⊂ α となることを説明しよう. 制約条件 g1 (x, y, z) = 0 は xyz 空間中の曲面を表していると考えられる. 同様に g2 (x, y, z) = 0 も xyz 空間中の曲面を表していると考えられる. 従って, (x, y, z) が制約条件 g1 (x, y, z) = g2 (x, y, z) = 0 を満たしているということは, この二つの曲面の交わり (これは一般に曲線となる) 上の点 (x, y, z) を考えていることに他ならない. 特に (x0 , y0 , z0 ) はこの曲線上の点である. いま局 → 所的に考えているので, この曲線の (x0 , y0 , z0 ) における接線を考えよう. この接線は − u1 に − → ⊥ も u 2 にも直交しているので, α に他ならない. 一方, 点 (x, y, z) がこの曲線上を動くと → き, 点 (x , y , z ) において f (x, y, z) が極大 (または極小) であるとしているので, 接線は − v 0 0 0 に直交しなくてはならない. すなわち, α⊥ ⊂ β ⊥ が成り立ち, 先に紹介した定理の (3) から β ⊂ α となる. これが条件 2 に他ならない. Q2. 経済学の講義でラグランジュの未定乗数法を F (x, y, λ) := f (x, y) − λg(x, y) (3) とおいて, 連立方程式 ∂F ∂λ (x0 , y0 , λ0 ) = 0 ∂F ∂x (x0 , y0 , λ0 ) = 0 ∂F (x , y , λ ) = 0 ∂x 0 0 (4) 0 を解くものとして教わりました. 今回の講義で教わったものとはどう関係しているのでしょ うか? A. 上の連立方程式 (4) と講義で述べた定理は全く同等であることを以下で示します. その前に, それぞれのやり方の特徴を述べておきます. 連立方程式 (4) を考えるやり方では, 天下り的に F (x, y, λ) という関数を導入するため, なぜ極大極小問題と関係しているのかわ かりにくいという欠点がありますが, 公式として美しいという利点もあります. 一方, 講義で 7 解説したやり方だと, 「なぜ」という考え方が図形を通じてわかりやすいこと, 制約条件が複 数である場合も, 原理から出発して考えやすいという長所があります. 以下で方程式 (4) と講義のやり方との対応を説明しましょう. 講義で述べた条件 1, 条件 2 と の対応としては, ∂F (x0 , y0 , λ) = 0 ⇔ g(x0 , y0 ) = 0 ∂λ ∂F (x , y , λ ) = 0 ∂f (x , y ) = λ ∂g (x , y ) 0 0 0 0 0 0 ∂x 0 0 ∂x ⇔ ∂x ∂F (x , y , λ ) = 0 ∂f (x , y ) = λ ∂g (x , y ) 0 0 0 0 0 0 ∂y 0 0 ∂x ∂y ⇔ (条件 1) ⇔ grad f (x0 , y0 ) = λ0 grad g(x0 , y0 )⇔ (条件 2) となります. これが方程式 (4) と講義で紹介したやり方の対応です. なお (3) において, F (x, y, λ) := f (x, y) − λg(x, y) とおく替わりに, F (x, y, λ) = f (x, y) + λg(x, y) とする流儀もあります (λ と −λ を入れ替えているだけなので同じことです). 参考のために, 制約条件が二つあるときにも二つのやり方の比較をしておきます. F (x, y, z, g1 , g2 ) = f (x, y) − λg1 (x, y) − µg2 (x, y) とおいて, 連立方程式 ∂F (x , y , z , λ , µ ) = 0 0 0 0 0 ∂λ ∂F (x , y , z , λ , µ ) = ∂x 0 0 0 0 0 ∂F ∂µ (x0 , y0 , z0 , λ0 , µ0 ) ∂F ∂y =0 (x0 , y0 , z0 , λ0 , µ0 ) = ∂F ∂z (x0 , y0 , z0 , λ0 , µ0 ) = 0 を解くことになりますが, この場合もやはり ∂F (x , y , z , λ , µ ) = 0 0 0 0 0 0 ∂λ ⇔ g1 (x0 , y0 , z0 ) = g2 (x0 , y0 , z0 ) = 0 ⇔ (条件 1) ∂F (x , y , z , λ , µ ) = 0 0 0 0 0 0 ∂µ ∂F (x , y , z , λ , µ ) = 0 ∂x 0 0 0 0 0 ∂F ⇔ grad f (x0 , y0 , z0 ) = λ0 grad g1 (x0 , y0 , z0 ) + µ0 grad g2 (x0 , y0 , z0 )⇔ (条件 2) ∂y (x0 , y0 , z0 , λ0 , µ0 ) = 0 ∂F (x , y , z , λ , µ ) = 0 0 0 0 0 0 ∂z と対応するので二つのやり方が同等であることが分かります. Q3. ラグランジュの未定乗数法における g1 (x, y, z) = 0 を予算の制約条件とすると, g2 (x, y, z) = 0 は何ですか? A. 制約条件は予算とは限りません. 総時間の制約, 予算の制約, 材料の性質から来る制約, 顧 客の嗜好からくる制約, · · · など, 互いに異なる種類の制約条件に縛られることは様々な状況 で起こります. 第 1 回演習問題への質問 8 Q1. 第 1 回演習問題問 1 の「誤差の割合」とは何でしょうか。 A. 誤差の割合とは、真の値を100%としたときに何%ずれているかということです。社 会に出て、いろんなことを短時間で把握するときに誤差評価を頭の片隅で行うことができる 力を養うトレーニングとして、何度も誤差についての問を出します。 例えば問 1(1) の例で言うと、真の値 210 = 1024 に対し、近似値は 103 = 1000 なので、 1000 103 = = 0.976 · · · 10 2 1024 となり、約2.4%ずれていることが分かります。これが、誤差の割合の意味です。 同様に、(3) については、真の値 510 に対し、近似値は 107 なので、 107 210 1024 = 3 = = 1.024 10 5 10 1000 となり、2.4%ずれています。 (2) については、真の値 2.510 に対し、近似値は 104 なので、 104 104 × 220 220 210 2 1024 2 = = = ( ) =( ) = (1.024)2 = 1.048576 10 10 6 3 2.5 10 10 10 1000 となり、約4.9%ずれていることが分かります。 よって、誤差の割合が一番大きい近似は (2) であることが分かります。 さて、もう少し注意して3つの式を見てみると、 107 103 1024 1000 104 = 10 ÷ 10 = ÷ = 1.024 × 1.024 10 2.5 5 2 1000 1024 となっていることが分かります。1つ目の 1.024 は (3) 由来、2つ目の 1.024 は (1) 由来であ り、(2) の誤差はそれらの掛け算になっていることが分かります。これが「誤差が相乗され る」ということの意味です。このことが分かると、逆に「誤差が相殺される」という状況も イメージがつかめると思います。 Q2. 第 1 回演習問題問 3 にある「有効数字」の定義は何でしょうか。 A. 有効数字1桁というのは上から2桁目を四捨五入して、上から1桁目だけを生かすという 意味です。同様に、有効数字2桁と言ったら、上から3桁目は四捨五入して、上から2桁目 までを生かすという意味です。例えば円周率 π = 3.141 · · · は有効数字3桁ならば 3.14、有 効数字2桁ならば 3.1、有効数字1桁ならば 3 となります。第 3 回演習問題問 14(1) は「約 4.5年」としましたが「約5年」とすべきでした。しかし、それ以外の問題の解答におい てはきちんと指示通りに「有効数字1桁」あるいは「有効数字1−2桁」になっています。 Q3. 演習問題第 1 回の問 9(3) の解答なのですが,これは帰納法を使って証明しているということ ですか?なぜ自然数 k に対し ( )( ) ( ) 1 1 2 k−2 1 ≥ 1− 1− ··· 1 − (k − 1)! (k − 1)! n n n が成立するといきなり言うことができるのでしょうか? A. 質問にある不等式が成り立つ理由を一言で答えれば、「1 より小さい数を掛けると元の数 よりも小さくなるため」です(帰納法を用いる必要はありません)。これで分かった場合は 9 この先を読む必要はありません。これ以降は、今の説明では納得できないという人向けに書 きます。 上の不等式は、 一般に A ≥ 0, 0 < B < 1 のとき A ≥ AB が成り立つ (*) ( )( ) ( ) B = 1 − n1 1 − n2 · · · 1 − k−2 として適用することで得られま n 1 す。まず、(*) は A − AB = A(1 − B) ≥ 0 より従います。続いて (k−1)! ≥ 0 であること ( )( ) ( ) 1 2 k−2 1 と 0 < 1 − n 1 − n ··· 1 − n < 1 であることについてですが、まず (k−1)! ≥ 0は ことを、A = 1 (k−1)! , 明らかです。次に 1 − nj (1 ≤ j ≤ k − 2) は 1 未満の正の数ですから、これらの積である ( )( ) ( ) 1 − n1 1 − n2 · · · 1 − k−2 もやはり 1 未満の正の数であることが分かります。ゆえに、 n ( ) ( ) ( ) 1 1 A = (k−1)! , B = 1 − n 1 − n2 · · · 1 − k−2 に対して (*) を適用することができ、質問 n にある不等式が得られます。 Q4. 第 1 回演習問題問 9(3) において、問題では「第 k + 1 項」とあるのに、解答では「第 k 項」 とありますが? A. 紛らわしくてすみません.これはどちらが間違っているということではないため、自分で 計算する際に k 項と k + 1 項のどちらを考えても問題はありません.問題と解答で書き方の 統一ができておりませんでした. Q5. 第 1 回演習問題問 9(5) で、h → 0 ならば t → ∞ となる論理が分かりません。 A. まず、t と h には eh = 1 + t−1 という関係があり、h > 0 であったことを思い出しましょ う。h → 0 のとき eh → 1 が成り立ちます。すると eh = 1 + t−1 より、1 + t−1 → 1 です。 よって t−1 → 0 です。これは即ち |t| → ∞ を意味します。さらに h > 0 より t > 0 ですから、 結局 t → ∞ となります。 第 2 回演習問題への質問 Q1. 第 2 回演習問題問 3(1) の解答に のですか。 (x+h)2 −x2 h という式がありますが、どうして二乗が出てくる A. 今、目標は x2 の微分を計算することです。関数 f (x) の微分の定義を思い出しておくと、 f ′ (x) = lim h→0 f (x + h) − f (x) h でした。f (x) = x2 とおくと f (x + h) = (x + h)2 ですから、 (x + h)2 − x2 h→0 h f ′ (x) = lim という式になります。 第 3 回演習問題への質問 Q1. 演習問題第 3 回問 2 について、ヒントかないと解けないのですが… A. 汎用性のある考え方を問を通じて身に着けてもらうことを意図しています。ヒントを見て 解ければ十分です。 10 Q2. 演習問題第 3 回問 2(6) なのですが, 1≥ 1 j! (1 ≤ j ≤ k − 1) という不等式はどこから導き出せるのでしょうか?また,何故これを使うと 1 1 1 1 + + ··· + 2n 2n (k − 1)! 2n が 1 1 1 + + ··· + 2n 2n 2n となるのでしょうか? A. まず,j! は自然数であり,自然数は 1 以上ですので,1 ≤ j! が成り立ちます.逆数を取る 1 1 1 となります.これより 2n ≥ j!1 2n ですから, ことで 1 ≥ j! 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 + + + ··· + + ≥ + + + ··· + + 2n 2n 2n 2n 2n 2n 2n 2! 2n (k − 2)! 2n (k − 1)! 2n という不等式が得られます(両辺の項を1つずつ順に見比べてください). ′ g (t) d 1 ′ Q3. 第 3 回演習問題問 5(2) で、 dt g(t) = − g(t)2 の g (t) はどこから来たのですか。 A. 合成関数の微分公式によります。f (x) = のとき (1) より df dx (x) = − x12 1 x 、F (t) = f (g(t)) = 1 g(t) とおきましょう。こ です。これより、 d 1 dF df dg 1 ′ g ′ (t) = (t) = (g(t)) (t) = − g (t) = − 2 dt g(t) dt dx dt g(t) g(t)2 となります。 Q4. 演習問題第 3 回問 7 が分かりません. A. この問題は ex を定義した無限和が収束することを理解してもらうことを意図していま 1 1 す。 100 という数は“ 小さな数の象徴 ”として用いただけで、 100000000 (1 億分の 1)でも 1 1000000000000 (1 兆分の 1)でも、同様の評価式が成り立ちます。以下で、問 7 について具体 的に説明していきます。 問 7 の意図は、無限和 ex = 1 + x2 x3 x + + + ··· 1! 2! 3! が収束することを確かめることにありました。そこで、正の数 x を任意に与えられたとしま しょう。このとき 1 つ目の大事な考え方が ・有限個の足し算が収束するのは明らかだから、初めのいくつかは好きなだけ切り捨ててよ い というものです。 (そのため、問 7 の問題において「任意に与えられた x」に対して「ある n」 を自分で勝手に選び、ex の第 1 項から第 n 項までを全て無視しているのです。)次の大事な 考え方が 11 ・収束することが簡単に判るような別の無限和を持ってきて、上から押さえる というものです。問 7 においては、その「別の無限和」として公比 1 100 の等比級数 1 1 1 + + + ··· 100 1002 1003 を採用しました。実際問 7(1)(2) で示したことは、 「どんな正の数 x に対してもある n を見つ を等比級数の和 1 100 + 1 1002 + 1 1003 +··· = 1 99 xn n! n+1 n+2 x x + (n+1)! + (n+2)! + ··· で上から押さえられること」です。これで、ex けることができ、ex の第 n 項より後にある全ての項からなる和 の(第 n 項より後ろの項からなる)部分和の数列 xn , n! xn + a1 = n! xn a2 = + n! .. . a0 = xn+1 , (n + 1)! xn+1 xn+2 + , (n + 1)! (n + 2)! .. . は有界であることが保証されます。さらに x が正の数であれば、この部分和の数列 {ak }∞ k=0 が単調増加であることは明らかですので、定理 A が使えて「ex は収束する」という結論を 得ます。 注意.x が負の数であるときも ex = 1 e−x から、形式的に ex の収束が納得できるかと思いま すが、この場合部分和の列が単調増加でないことに注意して下さい。 Q5. 第 3 回演習問題問 9 で、なぜ e−ix (cos x + i sin x) を持ち出すのですか? A. 5 月 9 日の講義中にも扱われたことですが、f (x) = g(x) を示すために、 fg(x) (x) = 1 を示そ ix うとしたということです。今の場合で言うと、示したいことは e = cos x + i sin x であって、 sin x sin x そのために示そうとしたのが cos x+i = 1 です。 cos x+i = e−ix (cos x + i sin x) である eix eix ことに注意してください。 Q6. 問 16 について、半減期の近似値を Taylor 展開を用いて求める方法が分かりません。 A. まず (1 − 0.0000656)x = 1 2 の両辺自然対数(底は e)をとって、 log(1 − 0.0000656)x = log 1 ⇐⇒ x log(1 − 0.0000656) = − log 2 2 ⇐⇒ x = − log 2 log(1 − 0.0000656) (5) log 2 = 0.693 · · · は既知とすると、log(1 − 0.0000656) の近似値が分かればよい。そこで a = 0.0000656 とおく。log(1 − t) を t = 0 において Taylor 展開すると、 log(1 − t) = −t − t2 t3 t4 − − − ··· 2 3 4 12 となる。t = a を代入したとき、a は 0 に十分近いから Taylor 展開の二次以降の項は無視で きる。よって、 log(1 − a) ≒ − a (6) である。(1) 式と近似式 (2) と log 2 ≒ 0.693 より、 x≒ 0.693 0.693 = ≒ 10500 a 0.0000656 という近似値が得られる。 あるいは、次のように考えてもよい。a = 0.0000656 は 0 に極めて近い値だから、次のよう な近似式を考えることができる。 1 (1 − a) a ≒ 1 e 両辺 log 2 乗すれば、 (1 − a) log 2 a ≒ 1 1 = elog 2 2 である。これによって、 x≒ log 2 a という近似式を再び得ることができる。 Q7. 第 3 回演習問題問 17 において C 12 の分解を考えないのは何故でしょうか? A. C 12 は炭素全体の約 98.89 %と最も豊富に存在する炭素の安定同位体であり、C 14 は微量 しか存在しない不安定な放射性同位体です。C 14 は崩壊して窒素になろうとするが、C 12 は 安定的な元素なので普通の状態では数億年くらい経っても崩壊することはない、と考えられ ています。従って、この問題では C 12 の分解を考える必要はないのです。そもそも、C 14 は 窒素原子 N 14 に熱中性子が吸収されることによって生成されるものであると考えられてお り、C 12 は C 14 が増加する要因にはなりえないと考えられます。 第 4 回演習問題への質問 m+3 m Q1. 第 4 回演習問題の問 4(5) の解答で, lim m = 0 を使うとどうして lim = 0 が出 m→∞ 2m m→∞ 2 るのか分かりません. m 1 A. より正確には lim m = 0 と lim m = 0 の両方を用いて m→∞ 2 m→∞ 2 lim m→∞ m 1 m+3 = lim m + 3 lim m = 0 m→∞ 2 m→∞ 2 2m のように計算します.] 第 5 回演習問題への質問 Q1. 第 5 回演習問題問 11 の勾配ベクトルを描く問題で、勾配ベクトルの式は求められるのです が、図を自力で描くことができません。 13 ∂ ∂ A.「勾配の図を描く」問題は、始点を (x, y) としたベクトル ( ∂x f (x, y), ∂y f (x, y)) を図に 2 2 描く問題と解釈してください。関数 f (x, y) = x + y を例にとって少し解説をします.この とき勾配は ∂ ∂ f (x, y), f (x, y)) = (2x, 2y) ∂x ∂y と計算できます.つまり、関数 f (x, y) の勾配は点 (x, y) においてベクトル (2x, 2y) で与えら grad f (x, y) = ( れるということです.例えば、点 (1, 1) なら (2, 2) というベクトル、(−1, 2) なら (−2, 4) と いうベクトルになります.この例を図示すると以下のようになります. y 5 x 0 5 5 0 5 この作業をたくさんの点に対して行うと次のような図を得ます. ここで、勾配の完全な図を描くことは不可能であることに注意してください.なぜなら、全 ての点で勾配のベクトルを描けば図は真っ黒になるからです.第 5 回の演習問題においても、 「例示せよ」という問い方をしています。 Q2. 第 5 回演習問題問 15 の解答で lim h→0 f ((t + h)x, (t + h)y) − f ((t + h)x, ty) ∂f = y (tx, ty) h ∂y (7) となるのが分かりません。 A. まず、(7) 式の左辺の分子だけに注目しましょう。f ((t + h)x, (t + h)y) と f ((t + h)x, ty) を見比べると右側の変数しか動いていないので、1 変数関数と見なすことができます。 (左側 の変数は (t + h)x で固定. )1 変数関数に関する平均値の定理によって、 f ((t + h)x, (t + h)y) − f ((t + h)x, ty) = hy ∂f ((t + h)x, ξ) ∂y となるような ξ が (t + h)y と ty の間にあります。よって, f ((t + h)x, (t + h)y) − f ((t + h)x, ty) 1 ∂f = hy ((t + h)x, ξ) h h ∂y ∂f = y ((t + h)x, ξ) ∂y 14 となります。h → 0 のとき (t + h)x → tx かつ ξ → ty であることより, lim h→0 ∂f f ((t + h)x, (t + h)y) − f ((t + h)x, ty) = lim y ((t + h)x, ξ) h→0 h ∂y ∂f = y (tx, ty) ∂y となります。 第 6 回演習問題への質問 Q1. 方程式 ax + by + cz = d で表される図形が平面となるのは何故ですか? A. 講義(5/23)で平面内の直線の表し方を 3 通りの方法で説明しました。その一部は中学・ 高校で習うことですが、別の部分はこの講義で初めて学んだことと思います。平面内の直線 について「当たり前」とか「すべてを知っている」と思わず、無心に 5/23 の講義における 「平面内の直線の 3 通りの表示方法」をゆっくりと理解してください。そのあと、空間内の平 面の方程式の部分をもう一度復習すると、「法線」「内積」の意味がとてもはっきりすると思 います。以下では、講義とは異なる説明を付け加えます。 もし方程式が無ければ、x, y, z は自由に動きます(x, y, z は 3 次元の空間を動く)。方程式 ax + by + cz = d を x, y, z に対する束縛条件と見ると、x, y を自由に選べても z は x, y を選 んだ段階で(c ̸= 0 なら)決まってしまいます。つまり、x, y, z の自由度は 2 次元になると いうことです。一般に、3 次元空間において束縛条件を一つ課すと図形は 2 次元になります (例外有り)。この 2 次元の図形が実際に平面になることを、次のように確認してみましょう (方程式 ax + by + cz = d で表される図形を「図形 C」と呼ぶことにします) : 点 P0 = (x0 , y0 , z0 ) が与えられた方程式を満たす(つまり図形 C 内にある)として、固定す る.以下では点 P0 を始点とするベクトルを考えることとする. P0 を始点とするベクトルであって終点が図形 C 内にあるようなものは全て、(a, b, c) を方向 ベクトルとするベクトルに直交することが分かる(第 6 回演習問題参照).逆に、この (a, b, c) に直交すればそのベクトルの終点は図形 C 内にあることも分かる(クドイようだが、始点は P0 で固定). ここで一般にベクトルの始点を固定すれば、空間内のある固定されたベクトル(今の場合は (a, b, c) のこと)と直交するベクトルの終点の全体がなす図形を頭に描いてみると、それが平 面をなしていることが分かる.ゆえに、図形 C は平面である. Q2. 第6回演習問題の問 20 (2) の解答で “ x = 15 での f (x) = arctan x の近似値を x = 0 にお ける接線から与えよう” と書かれていることの意味が分かりません. A. (似た問題として第4回演習問題の問 7 も参考になります.) 15 まず f (x) = arctan x において, f ( 15 ) の直接計算は難しいということを確認しておきます. arctan 51 を求めるということは, tan θ = 1 5 これは我々がよく知っている角度 (例えば となる角度 θ を求めるということになりますが, π π π 2, 4, 6 など) ではないことはすぐに分かります. このことから, arctan 51 を直接求めるのは難しそうであることが分かると思います. ある関数 f (x) に a を代入した値 f (a) の直接計算が難しい場合に, f (a) 近似的な値を計算 する手法として, 以下の方法が有効である場合があります. 手順 (1) a に近い値 a0 で, f (a0 ) や f ′ (a0 ) などが計算可能であるものを探す. 手順 (2) グラフ y = f (x) において, 点 (a0 , f (a0 )) における接線は, (a0 , f (a0 )) の十分近く では, 元々のグラフ y = f (x) を近似していると考えると, f (x) ≒ f ′ (a0 )(x − a0 ) + f (a0 ) と近似できる (右辺は y = f ′ (a0 )(x − a0 ) + f (a0 ) が接線の方程式であることから来る). この近似から, f ′ (a0 )(a − a0 ) + f (a0 ) を f (a) の近似値として計算する. f (x) = arctan x について, f ( 15 ) の近似値が知りたい場合には, ′ 1 5 の近くに 0 という f (0), f (0) などが計算できる値があるので, それを利用して上記の方法で f ( 15 ) の近似値を計算し ようというのが解答の方針です. より進んだ疑問として, 「このように得られた近似値がどの程度の誤差を含んでいるのか?」 「もっと高い精度の近似をするにはどうすればよいのか?」という疑問を持った人は第7回演 習問題 (5 月 30 日配布分) の 問 9, 問 10, 問 11 を解いてみて下さい. 第 7 回演習問題への質問 Q1. 第7回演習問題 (5 月 30 日配布分) の問 7 (1) の問題の意味が分かりません. A. まず, (⋆) 点 (x0 , y0 ) からある方向に進んで f (x, y) の値を増大させるには, grad f (x0 , y0 ) の方向 に進むのが最も効率がよい. という記述の中で, 「効率がよい」という言葉は数学的に定義されていないことに注意しま しょう. この問題の趣旨は, この場合の「効率がよい」ということを数学的に定式化してくだ さいというものです. こういった問題は、大学入試までの数学では、あまり見かけなかったことと思います。しか し、社会に出たとき、「数理的な判断を避けて、他人にまかせる」、「数理的な定式化を鵜呑 みにする」というのはいずれも危険なことです。 「漠然としたことを、数学的に定式化するの はどうしたら良いか?また、その定式化を後で見直した時に、適切なものかどうかを判断で きるか?」という能力を養うために、講義の題材から、簡単なことでトレーニングしようと いうのが、この問題の狙いです。 解答では三つの定式化を紹介していますが, ポイントは 「何をどういう条件で動かしたとき に何を最大化したいか」ということを明確にするということです. 第 8 回演習問題への質問 16 Q1. 問 15 の計算が追い切れません。 ∫x A. まず、この問は次の問 16 において 0 tm dt を区分求積法で求めるための準備をするとい う目的があります。m = 2 とした場合、問 12 で n ∑ k2 = k=1 という公式を準備し、問 13 で 1 n(n + 1)(2n + 1) 6 ∫ 1 x2 dx 0 を区分求積法で求める際に利用しています。これを一般の自然数 m に対しても、同じことを 考えようというのが、問 15 から問 16 への流れです。ですから、問 16 の解答を注意深く見 れば、問 15 の解答を追うことはそれほど難しくありません。 まずは m = 2 の場合を見ましょう。k 2 を k 2 = k(k − 1) + k と分解しておきます。すると、 n ∑ k(k − 1), k=1 n ∑ k k=1 各々は問 7 で求めていたので、 n ∑ k2 = k=1 n ∑ k(k − 1) + k=1 n ∑ k= k=1 1 1 (n + 1)n(n − 1) + (n + 1)n. 3 2 によって、k 2 の総和の公式を求めることができます。これを n3 で割って、n → ∞ の極限を 求めたい訳ですが、 n 1 (n + 1)n(n − 1) 1 (n + 1)n 1 ∑ 2 k = · + · . n3 3 n3 2 n3 k=1 なので、右辺の第2項は分母が n3 に対し、分子が n の2次式なので、n → ∞ のとき消えま す。結局、第1項の極限だけが残って、 n 1 1 ∑ 2 k = n→∞ n3 3 lim k=1 となります。 次に m = 3 の場合を見ましょう。k 3 を k 3 = k(k − 1)(k − 2) + 3k(k − 1) + k と分解すれば、 n ∑ k3 = k=1 n ∑ k(k − 1)(k − 2) + 3 k=1 = n ∑ k=1 k(k − 1) + n ∑ k k=1 1 1 (n + 1)n(n − 1)(n − 2) + (n + 1)n(n − 1) + (n + 1)n. 4 2 17 によって、k 3 の総和の公式を求めることができます。これを n4 で割って、n → ∞ の極限を 求めたい訳ですが、 n 1 ∑ 3 k n4 = k=1 1 (n + 1)n(n − 1)(n − 2) (n + 1)n(n − 1) 1 (n + 1)n · + + · . 4 n4 n4 2 n4 の右辺の第2項、第3項は分母が n4 に対し、分子が n の3次式、2次式なので、n → ∞ の とき消えます。結局、第1項の極限だけを考えればよく、 n 1 ∑ 3 1 k = n→∞ n4 4 lim k=1 となります。問 15 はこれを一般化したものになっています。 θ Q2. 問 17 について、どうして P0 P2 = 2r sin 2n なのですか。 A. 四角形 OP0 P1 P2 を考えます。2つの対角線 OP1 と P0 P2 の交点を H とおくと、P0 P2 = θ 2P0 H です。よって、P0 H = r sin 2n を示せばよいです。そこで、三角形 OP0 P1 に注目する θ と、P0 H は P0 から辺 OP1 へおろした垂線となっています。OP0 = r, ∠ P0 OP1 = 2n だ θ から、P0 H = r sin 2n となります。 Q3. 問 17 について、弧長はどうして rθ で求められるのでしょうか。 A. 弧度法の定義をきちんと理解していますか。扇形の弧長は中心角に比例します。この性 質を用いて、半径 1 の扇形の弧長を角度の単位(ラジアン)に用いようというのが弧度法の (直角)となります。半 定義です。従って半径 1 の円周の長さ 2π が 360 °であり、 π2 が 90 ° 径が r の扇形ならばを「(弧長) ÷ r」で表そうというのが、ラジアンという単位の考え方で す。例えば、半径 r の円周の長さは 2πr なので、中心角 (=360 °) はラジアンで表すと、 2πr ÷ r = 2π となります。同様に考えれば、半径 r、中心角 θ(ラジアン) の扇形の弧長は rθ となります。 第 9 回演習問題への質問 Q1. 第 9 回演習問題問 3 で、f (θ) が解答にあるような図になるのはなぜでしょうか? A 1(言葉による解説). まず、答えのグラフが一定の周期を持った形になることは分かるで しょうか?言い換えると、原点からの距離が周期的に変化していることには気が付きました でしょうか?問題で与えられた星形には 5 つのコーンがありますが、コーン1つ分図形を回 転させると元の図形に重なることが、周期的になる理由です。 このことに気が付けば、「コーン1つ分」のグラフを描けば良いことになります(周期的な のだから、あとは繰り返しです)。さらに、1つ1つのコーンが(原点を通る直線に対して) 左右対称な形であることに気が付けば、さらに「コーンの半分」だけを考えれば良いことに なります。 それでは xy 平面上に原点を中心とする星形をイメージしましょう。 18 ただし、5 つのコーンの内どれか 1 つは、その頂点(コーンのてっぺん)を x 軸上に持つも のとします。この x 軸上にある頂点から出発して、反時計回りに「コーンの半分」の上を進 んでいくところをイメージします。 このとき、自分が居る位置を x 軸の正の向きから測った角度を θ、原点から測った距離を r = f (θ) としましょう。 すると、コーンのてっぺんから反時計回りに進むにつれて、すなわち角度 θ を大きくするに つれて、原点からの距離 r = f (θ) が単調に減少することが分かるかと思います。 「コーンの半分」の上で r = f (θ) が θ に関して単調に減少することが分かったので、あとは その「減少の仕方」が分かれば概形を描くことができます。相変わらず「コーンの半分」の 上だけで考えることにします。今、コーンのてっぺん(下図の点 A)ともう片方の端(つま り星形のくぼみのところ。下図の点 B)とを、それぞれ原点から線分で結び、三角形を作り ます。原点側の頂角を 8 等分(物足りなければ分割を増やしてください)すると、 「コーンの てっぺんに近い場所」の方が「くぼみに近い場所」よりも原点からの距離 r = f (θ) の減少が 激しいことが見てとれるかと思います。 19 逆に言えば、「くぼみに近い場所」では r = f (θ) の減少の様子が緩やかである、ということ です。 これで減少の様子が大雑把には分かりました。あとは角度 0 のときにコーンのてっぺんにあ る、すなわち原点からの距離 f (0) は r = f (θ) の最大値を与えることに注意しつつ、周期性 を利用すると、答えが解答の図のようになることが分かるかと思います。(f (θ) の最小値は 星形のくぼみのところで達成されます。念のため。) A.2(実際に解を求める). 1(言葉による解説)にある通り、xy 平面上の星が持つ 5 つの コーンの内の 1 つのコーンの、さらにその半分(「コーンの半分」)だけを見ればグラフは描 けることに注意します。 今、てっぺんが x 軸上にあるようなコーンに注目して、そのてっぺんの x 座標を a とおきま す。 ここで、星は正五角形の対角線を引くことで作ることができるので、各コーンのてっぺんの 頂角は π 5 で与えられると分かります(正五角形の外接円に対して円周角の性質を使うと分か りやすいかと)。 20 すると、コーンに沿う直線であって、点 (a, 0) を通り、さらに右下がりであるものの傾きは π 10 で与えられます(頂角の半分)。 ゆえにこの直線の方程式は y = − tan( π )(x − a) 10 (8) で与えられます。ここで、 「コーンの半分」上の点の座標 (x, y) を、x 軸の正の向きから反時 計回りに測った角度 θ と原点からの距離 r = f (θ) を用いて、(x, y) = (f (θ) cos θ, f (θ) sin θ) と表しましょう。 これらを式 (8) に代入することで f (θ) sin θ = − tan( 21 π )(f (θ) cos θ − a) 10 を得ます。この式を用いて、f (θ) を θ に関する式として表しましょう。 π π )f (θ) sin θ = − sin( )(f (θ) cos θ − a) 10 10 π π π f (θ)(cos( ) sin θ + sin( ) cos θ) = a sin( ) 10 10 10 π π f (θ) sin(θ + ) = a sin( ) 10 10 π a sin( 10 ) f (θ) = π sin(θ + 10 ) cos( 両辺 cos( π ) 倍した 10 f (θ) について整理した sin の加法定理を用いた これで「コーンの半分」上での f (θ) の式が求まりました。 Q2. 第 9 回演習問題問 6(1) で、そもそも何を求めればよいのかが分かりません。 A. 何を求めればよいか(答えればよいか)が分からない理由はいろいろあるかと思いますの で、いくつかのパターンに分けて答えます。 • 答えが 1 つに定まる、と受け取った人向け:問題文に「例を挙げよ」とある通り、この 問題の答えはたくさん(無限に)あります。与えられた条件さえ満たしていれば、解答 と違う関数でも正解です。 • 「密度関数」の意味が分からない人向け:物体(問 6(1) では棒)の密度関数 f (x) とは、 物体上のある点の座標 x を代入すると、その点における物体の密度 f (x) を与える関数 です。問 6(1) で言うと、f (−1) は x = −1 という地点における棒の密度を表します (問 6 の真上のまとめ「重心 1」参照)。第 10 回演習問題まとめ「密度関数」に、(物理を未 習の人を対象に)丁寧な説明を試みましたので参照して下さい。 • 3 つの条件 (i),(ii),(iii) のそれぞれが、密度関数を与えるのにどう役立つかが分からな い人向け:条件を 1 つずつ順番に見ていくことにしましょう。 (i) の条件は、棒の中心が最も重い、すなわち密度関数 f (x) が棒の中心で最大値を取ると いうことを意味します。今棒の両端の座標は a = −1, b = 1 で与えられているから、その 中心の座標は x = 0 となります。つまり、f (x) としては x = 0 で −1 ≤ x ≤ 1 における最 大値を取るようなものを挙げればよい、ということになります。例えば f (x) = 2−x2 や、 f (x) = e−x 等がその例になるでしょう。ここで、 「密度」ですから、f (x) は −1 ≤ x ≤ 1 2 上で負の値を取らない関数であることに注意してください。 (ii) の条件は棒の右端、すなわち x = 1 のところが最も重いというものですから、f (1) が f (x) の(−1 ≤ x ≤ 1 上での)最大値を与えるような f (x) を答えればよいことにな ります。例えば、f (x) = ex や、f (x) = 2 − cos πx 等がその例になるでしょう。 (iii) の条件は棒の密度が左右非対称というものです。今、棒の中心の座標は x = 0 です から、x = 0 に関して(y 軸に関して)左右非対称な関数を答えればよいことになりま す。例えば f (x) = 2 + x3 や、f (x) = 1 + sin x 等がその例になるでしょう。 Q3. 第 9 回演習問題問 6(1) の解答では指数関数や三角関数などを取り上げていますが、自分では 思いつきません。 A. 条件さえ満たされていれば関数は何でもよいです。解答では「正解はたくさんある」こと を伝える意味でいろんな種類の関数を取り上げましたが、例えば以下のように 2 次関数のみ を用いて答えることもできます: 22 (i) f (x) = 2 − x2 (ii) f (x) = (x + 2)2 (iii) f (x) = 5 − (x + 1)2 Q4. 第 9 回演習問題問 12(1) の解答にある式の 1 2n の意味が分かりません。 A. まず、各長方形の幅は n1 であることに注意しましょう。k 番目の長方形を考えると、長方 1 1 形の中で回転軸からもっとも遠い点の x 座標は xk + 2n 、もっとも近い点の x 座標は xk − 2n となります。そのため、 1 1 1 1 · 2π(xk − ) ≤(回転体の体積)≤ · 2π(xk + ) nm 2n nm 2n という評価ができます。 第 10 回演習問題への質問 Q1. 問 8 の図が自分では書けません。 A. まずは xz 平面上で、放物線 z = 1 − x2 を描いてください。そのグラフを z 軸中心に回転 してできるものが、z = 1 − x2 − y 2 のグラフです。 Q2. 問 11 の積分計算が追えません。 A. 難しいと思われる3点について解説します。 (∫ ) (∫ ∫ R −x2 −y 2 −x2 ・ e · e dxdy = e dx · −R D ) R e −y 2 dy −R まず、フビニの定理から、 ∫ e−x · e−y dxdy = 2 2 D ∫ R (∫ −R ) R −R であるが、e−x は y に関して定数だから、 ) ∫ (∫ e−x · e−y dy dx 2 2 2 R R −R −R e −x2 −y 2 ·e ∫ R dy dx = e −x2 −R (∫ ) R e −y 2 dy dx −R ∫R 2 と外に出すことができる。すると今度は、 −R e−y dy が x に関して定数だから、外に出すこ とができて ∫ R e−x 2 (∫ −R ) R e−y dy dx = 2 (∫ −R R e−x −R 2 ) (∫ dx · R ) e−y dy 2 −R となる。以上より、 ∫ e −x2 ·e −y 2 (∫ R dxdy = e −R D −x2 ) (∫ dx · e −R である。 ∫ ・2π R [ ] 2 2 R re−r dr = π −e−r 0 0 23 ) R −y 2 dy e−r の r による微分を計算して、−2re−r となることを確かめればよい。そのためには、合 成関数の微分公式を用いればよい。x = −r2 , y = ex とおけば、 2 2 2 dy dy dx = · = ex · (−2r) = −2re−r dr dx dr となります。 ・はさみうちの原理 数列 {an } , {bn } , {cn } が an < bn < cn を満たしていて、さらに、 lim an = lim cn = α n→∞ n→∞ を満たすならば、 lim bn = α n→∞ である。これをはさみうちの原理と呼ぶ。 問 8 では n → ∞ ではなく、R → ∞ であるが、考え方は同じである。つまり、 ∫ e −x2 −y 2 (∫ dxdy < e ∫ lim R→∞ −x2 dx ∫ −x2 −y 2 e e−x dxdy = lim R→∞ を満たすから、真ん中も (∫ −y 2 dxdy 2 −y 2 dxdy = π D2 )2 R lim R→∞ 2 D2 ∫ D1 e−x < −R D1 の両端が )2 R e −x2 dx =π −R となるしかないということである。 FAQ Q1. 底が書かれていない log は何を意味するのですか? A. 常用対数 log10 x を log x と書くことも高校までの課程では行いますが、自然科学や数学 では log x は自然対数を表します。すなわち log x という具合に底を書かない場合、その底は e = 2.71828...(ネイピアの数)です。 Q2. elog x = x となるのは何故ですか? A. log x という数をどのようにして定義したかを思い出すと、ey = x となる y を log x と定 義したのでした。ですから、elog x = x は定義をそのまま書いた式になります。また、ey = x の両辺の log を取ることにより (y =) log ey = log x なので、log ey = y という式も成り立 ちます。このような「逆関数」については第 4 回演習問題に解説があり、その中で「一般に f (g(x)) = x ならば g(f (y)) = y であること」も扱われていますので、そちらも参照してくだ さい。 24 1 n ) = 1 × 1 × · · · × 1 = 1 とならないのは何故ですか? n A. 実際に電卓を用いて計算してみます。 Q3. lim (1 + n→∞ (1 + 11 ) = 2 (1 + 12 )2 = 2.25 n = 1 のとき n = 2 のとき (1 + 15 )5 = 2.48832 1 10 (1 + 10 ) = 2.5937... 1 100 (1 + 100 ) = 2.7048... n = 5 のとき n = 10 のとき n = 100 のとき n = 1000 のとき (1 + 1 1000 1000 ) = 2.71692... というように n をどんどん大きくしていくと lim (1 + n→∞ 1 n ) = 2.71828... n という定数に近づきます。この定数を e = 2.71828... と書き、ネイピアの数と呼ぶのでした。 1 それでは、 lim (1 + )n = 1 × 1 × · · · × 1 = 1 とした計算のどこが間違いなのかをみるため n→∞ n に、次の 3 つの式をゆっくりと比較してみましょう。 1 n ) =∞ 10 1 lim (1 + )10 = 1 n→∞ n 1 lim (1 + )n = 2.71828 · · · n→∞ n lim (1 + (9) n→∞ (9) は 1 より大きい数 1 + に近づく数 1 + 1 n 1 10 (10) (11) = 1.1 を無限個掛け合わせた数なので ∞ になります。(10) は 1 をたった 10 回だけ掛け合わせた数の極限なのに 1 に収束します。質問に あった計算では、(10) と混同しているようですね。(11) は (9) と (10) の中間で、1 + 1 n が1 に近づく一方で、掛け合わせる回数 n は増えていくことになりますので、(9) や (10) と区別 しなければなりません。 Q4. 解答の微分の計算でよく追えなくなることがあります。 A. 引っかかったときには複雑な問題をできるだけ簡単にし、分からないことを抽出すること が大切です。またこの式変形がわからない、と質問を準備しているているうちに、自分自身 の理解が整理されることもありますので、勇気を出して質問をするように努めてください。 微分の計算でよく追えなくなることがあるという方には、やさしい公式を定義に戻って自ら 導出する、というトレーニングが、力をつける上でとても役に立ちます。公式を記憶するこ とよりも、ずっと効率が良いのです。そこで次の問題に取り組んでみるとよいと思います。 問題 関数 f (x) の微分の定義は f (x + h) − f (x) h→0 h f ′ (x) = lim で与えられる.このとき、以下の諸公式を証明せよ. 25 ・定数 a に対し F (x) = af (x) と定めるとき、F ′ (x) = a · f ′ (x) ・F (x) = f (x) + g(x) とおくとき、F ′ (x) = f ′ (x) + g ′ (x) ・定数 a に対し F (x) = f (ax) と定めるとき、F ′ (x) = a · f ′ (ax) また、 積の微分公式(ライプニッツの法則)(f g)′ (x) = f ′ (x)g(x) + f (x)g ′ (x) については第 2 回演習問題問 2、 ( 商の微分公式 f (x) g(x) )′ = f ′ (x)g(x) − f (x)g ′ (x) g(x)2 については第 3 回演習問題問 5 参照のこと. Q5. 「x = a における Taylor 展開」、 「x = a を中心として Taylor 展開」、 「x = a の周りで Taylor 展開」などの言葉はそれぞれ何を意味するのですか。 A. どれも同じ意味です。Taylor 展開は高次元の場合など様々な一般化があり、これに準じ て様々な言い回しがあります、そのため、複数の用語に慣れておくのが良いと思います。こ れらの言葉の意味するところは f (a) + 1 ′ 1 1 f (a)(x − a) + f ′′ (a)(x − a)2 + f ′′′ (a)(x − a)3 + · · · 1! 2! 3! という展開です. Q6. 極座標表示の関数のグラフの描き方が分かりません。 A. 分からない理由はいくつかあると思いますが、それを推測して書いてみます。まずは極座 標表示のときに点をプロットすることを考えましょう。(r, θ) = (2, π6 ) という点を例に取りま す。この点は原点から 2 だけ離れており、かつ x 軸から反時計回りに π6 (= 30 °) だけ回転し たところに位置します(下図)。 2.0 1.5 1.0 0.5 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 3.0 3.5 同様に、(r, θ) = (2, π4 ) で表される点は、π4 = 45 °なのでプロットすると次のようになります。 2.5 2.0 1.5 1.0 0.5 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 それでは点のプロットはできるようになったとして、グラフの描き方について述べます.例 えば f (x) = x2 を区間 0 ≤ x ≤ 1.2 で考えましょう: 26 1.5 1.0 0.5 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 1.2 このとき、極座標表示で r = f (θ) のグラフの描画を試みます。概形がパッと分かる方はそれ で良いですが、すぐには思い浮かばない方はとにかくサンプルとしていくつかの点をプロッ トして、グラフの様子を見るのがよいと思います。例えば θ = 0, 0.2, 0.4, 0.6, 0.8, 1.0, 1.2 の 7 つの角度(弧度法)を標本とすると、対応する r の値は r = 0, 0.04, 0.16, 0.36, 0.64, 1.0, 1.44 となります.これをプロットすると次のようになります。(90°= π2 = 1.57... ≒ 1.6 で 1 あるので、この値から適当に角度を見積もって下さい.例えば「0.2 なら 90°の約 0.2 1.6 = 8 倍」、等。) 1.2 1.0 0.8 0.6 0.4 0.2 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 これを滑らかに結ぶと次のようになることが分かると思います。 27 1.5 1.0 0.5 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 Q7. 重心の公式が成り立つ理由が分かりません。 A. この公式を理解するためには、シーソーを思い浮かべると良いと思います。例えば、シー ソーの左側に体重 60kg の人が中心(重心)からの距離 4m の所に乗ったとして、右側に体重 30kg の人が乗る時、このシーソーが釣り合うためには体重 30kg の人は中心(重心)からの 距離 8m の所に乗れば良いです。同様に、シーソーの左側に体重 60kg の人と 40kg の人が中 心(重心)からそれぞれ 2m と 5m の所に乗ったとします。このとき、シーソーの右側に体 重 30kg の人と 70kg の人が乗って釣り合うためには、例えばそれぞれ中心(重心)から 6m と 2m の所に乗れば良いです。このように、シーソーが釣り合うためには (中心(重心)からの距離)×(重さ)の総和 が左右で一致すればよいことになります。「左右で一致する」は (右側の(中心(重心)からの距離)×(重さ)の総和) −(左側の(中心(重心)からの距離)×(重さ)の総和)= 0 と言い換えることができます。 以上のことに注意して、重心の公式を導出しましょう。まず第 9 回演習問題の設定を思い出 します: 「真っ直ぐな棒が与えられたとき、その両端の位置をそれぞれ x = a, x = b と表すこ ととする.この棒は密度が均一であるとは限らず、点 x(a ≤ x ≤ b)における密度が f (x) で与えられているとする. 」 このとき、棒の重心の座標を x = c とおきます。積分は有限和の極限ですから上の考え方を そのまま用いると ∫ 棒が静止している ⇔ (x − c)f (x)dx = 0 a 28 b となります。この式より、 ∫ ∫ b b xf (x)dx − a ∫ b ∴ cf (x)dx = 0 a ∫ b xf (x)dx − c a f (x)dx = 0 a ∫ ∫ b ∴ xf (x)dx = c a ∴ c= を得ます。2 変数のときも考え方は同じです。 29 b f (x)dx a ∫b xf (x)dx a ∫b f (x)dx a
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