生理検査(血管・腹部超音波検査)

岐臨技 精度管理事業部 平成 24 年度 総括集
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生理検査(血管・腹部超音波検査)
大西
血管超音波検査 設問 1
【症例】 50 歳 男性
【主訴】 下肢静脈瘤
図 1-1 から 1-3 は左大伏在静脈合流部の超音波画
像である。正しい組み合わせはどれか。
a、静脈弁機能不全が疑われる
b、持続性のある逆流を認める
c、異常所見は認められない
d、生理的な逆流を認める
e、心拍に同期した逆流を認める
図 1-1
図 1-2
図 1-3
紀之
回答 : a、b
正解率 : 100%
参加施設 19 施設
解説
左大伏在静脈弁機能不全による静脈瘤の症例であ
る。
図 1-1 は腹圧亢進時の大伏在静脈への逆流血流と
呼気時(腹圧低下時)の順行血流のカラードップラ
ー画像であり、腹圧亢進時に著明な逆流が生じてい
ることが示されている。図 1-2、1-3 は腹圧亢進時と
呼気時の大伏在静脈血流のパルスドップラー画像で、
腹圧亢進時に持続する逆流血流が存在することを示
している。
持続しない逆流は正常でも認められるが、持続す
る逆流は異常所見であり、静脈弁機能不全が疑われ
る。
心拍に同期した逆流ではなく、呼吸(腹圧)に依
存している。
岐臨技 精度管理事業部 平成 24 年度 総括集
-2図 2-4
血管超音波検査 設問 2
【症例】 79 歳 男性
図 2-1 から 2-5 は頸動脈超音波画像である。
誤っている組み合わせはどれか。
a、右頸動脈には異常を認めない
b、右頸動脈に閉塞を認める
c、左頸動脈に狭窄は認めない
d、左頸動脈はステント留置後である
e、左頸動脈に全周性の石灰化を伴うプラークを認
める
図 2-5
回答 : a、e
正解率 : 95%
参加施設 20 施設
図 2-1
図 2-2
図 2-3
解説
右内頚頸動脈閉塞、左総頸動脈ステント留置術後
の症例である。
図 2-1、図 2-2 は右頸動脈分岐部と同部位のカラ
ードップラー画像で右頸動脈に閉塞があることを示
している(この画像のみでは、内頸動脈か外頸動脈
かの判断は出来無い)
。図 2-3 は左総頸動脈から分岐
部に留置された頸動脈ステント画像で、図 2-4 は左
内頸動脈と左外頸動脈、図 2-5 は左内頸動脈のカラ
ードップラー画像でステント部に狭窄のないことを
示している。
左頸動脈のステントは高輝度を呈し、一見すると
石灰化内膜のようにも見えるが、短軸で円状に連続
する点状エコー、長軸では網目状エコーを認め判別
できる。
岐臨技 精度管理事業部 平成 24 年度 総括集
腹部超音波検査 設問 1
【症例】 65 歳 男性
【主訴】 上腹部痛
図 1-1 から 1-2 は初診時の腹部超音波画像である。
誤っている組み合わせはどれか。
a、真菌による微小膿瘍が疑われる
b、bull's eye pattern を認める
c、転移性肝腫瘍が疑われる
d、幅の広い辺縁低エコー帯を認める
e、肝血管腫の多発が疑われる
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腹部超音波検査 設問 2
【症例】 43 歳 男性
【主訴】 上腹部痛
【既往歴】 胆嚢結石
図 2-1 から 2-5 は胆嚢結石精査時の超音波画像で
ある。
誤っている組み合わせはどれか。
a、胆道気腫を認める
b、胆嚢周囲に膿瘍形成を認める
c、胆嚢壁に穿孔を認める
d、胆嚢腺筋腫症が疑われる
e、緊急性は無く、経過観察が可能と考えられる
図 1-1
図 2-1
図 1-2
回答 : a、e
正解率 : 100%
参加施設 16 施設
解説
肺癌の多発肝転移の症例である。
設問画像は bull's eye pattern と呼ばれる幅の広
い辺縁低エコー帯を伴う腫瘍が多発している。中心
部壊死を示唆する中央部に不整形無エコー領域を伴
うものも認め、典型的な転移性肝腫瘍像である。
真菌による微小膿瘍は、低エコー腫瘤が多発する
ことが多いが、辺縁低エコー帯は伴わない。肝血管
腫は多発例も多いが、辺縁低エコー帯を伴うことは
なく、高エコーもしくは低エコー腫瘤として認めら
れる。
図 2-2
図 2-3
岐臨技 精度管理事業部 平成 24 年度 総括集
-4腹部超音波検査 設問 3
【症例】 71 歳 男性
【主訴】 排尿障害
図 3-1 から 3-3 は泌尿器科受診時の超音波画像で
ある。
正しい組み合わせはどれか。
図 2-4
a、腎盂拡張が疑われる
b、腎盂腫瘍が疑われる
c、腎細胞癌が疑われる
d、重複腎盂が疑われる
e、通常、治療の対象にはならない
図 2-5
回答 : d、e
正解率 : 100%
参加施設 16 施設
解説
急性胆嚢炎穿孔の症例である。
図 2-1、2-2 は肝両葉の肝内胆管に高輝度のガス像
を認め、胆道気腫症であることを示している。図 2-3、
2-4、2-5 は胆嚢のエコー像であり、胆嚢は腫大しデ
ブリエコーを伴っている。胆嚢壁は全周性に肥厚し
穿孔を認め、胆嚢内容が漏出し腹腔内型の胆嚢周囲
膿瘍を形成している。炎症波及による大網の集積・
輝度上昇も認めている。
設問画像から胆嚢腺筋腫症を否定は出来ないが、
胆嚢壁内に RAS(Rokitansky Achoff Sinus)像や壁内
結石を示す comet like echo は認めない。
胆嚢穿孔を認める重症急性胆嚢炎症例であり、胆
嚢ドレナージや緊急手術が必要となることが多い。
図 3-1
図 3-2
図 3-3
回答 : d、e
正解率 : 100%
参加施設 16 施設
岐臨技 精度管理事業部 平成 24 年度 総括集
解説
重複腎盂の症例である。
設問画像上、CEC(central echo complex:腎洞内
の動静脈、腎杯、脂肪結合組織よりなる中心部高エ
コー領域)が、腎皮質と等エコーの実質エコーによ
って2分されており、上極側と下極側の CEC に連続
が認められない。尿管が膀胱まで 2 本のまま走行す
る完全型と、途中で合流し 1 本の尿管が膀胱に流入
する不完全型に分類されるが、設問画像では尿管が
描出されておらず鑑別はつかない。重複腎盂尿管症
では腎は通常通りの機能を保つことが多く、異常が
無ければ治療対象とはならない。
腎盂拡張は CEC に拡張腎盂を示す無エコー領域が
認められる。
腎盂腫瘍は CEC に低エコー腫瘤として認められる
ことが多く、腎盂腎杯の拡張を伴うことが多い。
腎細胞癌は低~高エコーと多彩な内部エコーをと
ることがあるが、明瞭な被膜を持つことが多い。
腹部超音波検査 設問 4
【症例】 38 歳 女性
【主訴】 下腹部痛
図 4-1 は消化器科初診時の下腹部超音波画像であ
る。超音波検査後に CT 検査が予定されていた。
正しい組み合わせはどれか。
a、CT 検査が予定されており、主治医への報告が必
要である
b、圧迫走査は控えたほうが良い
c、卵巣腫瘍が疑われる
d、CT・レントゲン等で確認が必要である
e、嚢胞性腫瘍が疑われる
図 4-1
-5回答 : a、b
正解率 : 100%
参加施設 16 施設
解説
妊娠症例である。
設問画像には子宮内の胎児像が認められる。胎児
に対する放射線の影響については、しきい値線量を
越えて被曝しなければ、基本的に胎児への影響は発
生しないと考えられている。しきい値線量は胚死亡
(受精卵の死亡)として影響の出てくる受精後 0~9
日では 50~100mSV、奇形発生の可能性がある器官
形成期(受精後 2~8 週、妊娠 4~10 週)では 100m
SV、精神発達遅滞の可能性がある受精後 8~15 週
(妊
娠 10~17 週)では 120~200mSV とされている。国
際放射線防護委員会(ICRP)および NRPB(イギリス
放射線防護庁)による CT 検査の被曝線量は腹部 8~
19mSV、腰部 2.4~8.6mSV、骨盤部 25~79mSV と
されており、本例で CT 検査が行われても胎児には影
響はないと考えられるが、当然不必要な被曝は避け
るべきである。
下腹部痛を訴える妊娠症例であり、圧迫走査は避
けるべきである。
まとめ
今年度は回答を病名ではなく、画像の所見とそこ
から考えられる経過や対応を選択する設問を多く設
定した。正しい、もしくは誤っている組み合わせを
選ぶ形式で選択肢を作成したために、回答が絞られ
てしまったと思われ、正解率が高いものとなった。
次年度は選択肢の組み合わせなどを工夫し、適切
な難易度としたい。