KURENAI : Kyoto University Research Information Repository Title Author(s) Citation Issue Date URL 現代ドイツにおける福祉国家の政治 - 統一以降のドイツ 政治経済システムの展開に関する一考察( Abstract_要旨 ) 近藤, 正基 Kyoto University (京都大学) 2008-09-24 http://hdl.handle.net/2433/124133 Right Type Textversion Thesis or Dissertation none Kyoto University 氏 名 近 藤 正 基 (論文内容の要旨) 本論文は、保守主義類型を代表するドイツ福祉国家をとり上げ、その特徴と 変化について詳細に検討している。本論文の基本的な問いは、①統一以降、ド イツ福祉国家が「いかに」変化してきたのか、いかなる方向に向かっているの か、②統一ドイツにおける福祉国家の変化が「なぜ」生じたのか、それを惹起 した要因は何か、というものである。具体的には、福祉国家の主柱といえる賃 金政策、職業訓練・教育政策、社会保障政策という三つの政策分野について、 権力資源動員論を中心に、歴史的制度論や拒否権プレーヤー論を補完的に用い ながら、上記二つの問題を検討している。 本論文の構成は、以下の通りである。第1章では、福祉国家論やコーポラテ ィズム論などの先行研究が検討され、分析視角が設定される。そして第2章で は、統一までのドイツ福祉国家の発展とその政治的特質が概観される。これら 二つの章に続いて、第 3 章では社会保障および労働市場政策の変化と、その政 治(とりわけ政党政治)の特質が明らかにされ、第 4 章では、労使関係と連帯 的賃金政策の変化が分析される。最後の二つの章は事例研究であり、第 5 章で は 、 社 会 保 障 政 策 の 転 換 点 と な っ た 2001 年 年 金 改 革 が 1999 年 年 金 改 革 と 比 較 検 討 さ れ 、第 6 章 で は 、労 使 関 係 の 転 換 点 と な っ た 2 0 0 3 年 金 属 労 使 紛 争 の 意 義 が、それ以前の労使紛争との対比から明らかにされる。 本 論 文 に よ れ ば 、 1 9 9 0 年 統 一 ま で の ド イ ツ 福 祉 国 家 は 、「 保 守 主 義 」 的 性 格 を 基 調 と し な が ら 、こ れ に「 社 会 民 主 主 義 」的 要 素 が 付 加 さ れ た も の で あ っ た 。 すなわち、職域別社会保険制度や男性稼得者モデルなどの「保守主義」的要素 に、寛大な給付や実質的な普遍主義原則の適用ともいえる再分配政策を通じて 「社会民主主義」的要素が付け加えられたものであった。 そのような福祉国家が成立した原因を、本論文は、ドイツにおける福祉政治 の 特 徴 に 求 め る 。 統 一 ま で の ド イ ツ で は 、 キ リ ス ト 教 民 主 主 義 勢 力 ( CDU/CSU 社 会 委 員 会 派 ) と 社 会 民 主 主 義 勢 力 ( SPD、 労 組 ) が 協 同 し 、 福 祉 国 家 を 構 築 してきた。両勢力は、連邦議会の労働・社会政策委員会において協力して立法 に あ た り 、自 由 主 義 勢 力( CDU/CSU 経 済 派 、 FDP、 使 用 者 団 体 )に 対 抗 し つ つ 、 福祉政治を主導してきたのである。 このモデルが、統一後どのように変化したのかという問①について、本論 文 は 、 1990 年 代 以 降 、 と り わ け 2000 年 以 降 、 ド イ ツ 福 祉 国 家 は 「 自 由 主 義 化 」 の傾向を見せるようになったと主張する。ここで「自由主義化」とは、①社会 保 障 政 策 に お け る 脱 商 品 化 の 大 幅 な 低 下 、年 金 の「 準 ビ ス マ ル ク 型 」へ の 傾 斜 、 「 労 働 力 削 減 ル ー ト 」の 制 限 、② 職 業 訓 練 ・ 教 育 政 策 の「 ワ ー ク ・ フ ァ ー ス ト ・ モデル」化、③賃金政策における連帯的賃金に対する企業の生産性インデック ス賃金の優位を意味する。 それではなぜそのような変化が生じたのか(問②)といえば、著者は、統 一 ド イ ツ に お け る 福 祉 国 家 の 「 自 由 主 義 化 」 の 原 因 は 、 2000 年 以 降 に 従 来 と は 異なる勢力、すなわち超党派的自由主義同盟が福祉政治の主導権を握るように 氏 名 近 藤 正 基 な っ た か ら で あ る と 主 張 す る 。 CDU/CSU 経 済 派 、 SPD モ ダ ナ イ ザ ー 、 FDP、 使 用者団体間に超党派的な自由主義同盟が形成され、これが福祉国家政策の主導 権を掌握するようになった。これに対し、従来の決定主体であった親福祉国家 同盟は弱体化し、政策決定過程での影響力を減退させた。その結果、社会保障 および職業訓練・教育政策の方向性が大きく変わることになったのである。 他方、労使団体間でも、その協調形態に変化が見られる。産別労使団体の弱 体化や産別労使交渉制度の空洞化が進み、産業レベルの労使協調が機能不全に 陥った。その結果、ドイツの労使協調の主たる場は産業レベルから企業レベル へと移行したのであり、従来の連帯的賃金政策の効果は弱まった。 以上のように、本論文では、統一ドイツにおける福祉国家の総体的な変化と その政治的ダイナミズムが実証的に明らかにされている。 氏 名 近 藤 正 基 (論文審査の結果の要旨) ドイツ福祉国家は、福祉国家類型論の中では保守主義類型の代表例といわれ るが、近年その変容が大きな注目を集め、論争を惹起している。主な主張は、 ①ハイブリッド化、②自由主義化、③保守主義の維持という三つにまとめられ るが、先行研究では分析対象や説明変数の選択にばらつきがあり、それが論争 を非生産的なものにしてきた。そこで本論文は、分析対象を賃金政策、職業訓 練・教育政策、社会保障政策という福祉国家の主柱ともいえる三つの政策分野 に 定 め 、福 祉 国 家 の 総 体 的 な 社 会 的 保 護 機 能 が い か に 変 化 し た の か を 検 討 す る 。 本論文は、まず比較政治経済学において発展してきた主な理論(権力資源動 員論、歴史的制度論、拒否権プレーヤー論など)を詳細に検討しながら、独自 の分析枠組を設定した後、東西ドイツ統一までの福祉国家発展とその政治を歴 史的に概観する。このような理論的歴史的視座設定を行った上で、著者は統一 以降の社会保障および労働市場政策の変化、労使関係と連帯的賃金政策の変化 を分析し、最後に年金改革と労使紛争の事例研究を行う。 本論文の主張は、以下の通りである。ドイツ福祉国家は、キリスト教民主主 義がその礎を築いたとする通説とは異なり、戦後一貫してキリスト教民主主義 勢力(CDU/CSU社会委員会派)と社会民主主義勢力(SPD、労組)が 協力して構築してきたものである。しかるに統一以降、ドイツ福祉国家は自由 主 義 化 の 傾 向 を 見 せ 始 め 、 2000 年 以 降 に お け る 福 祉 国 家 改 革 の 動 き は 、 そ の 流 れを顕在化するものであった。賃金政策においては連帯的賃金から企業の生産 性 イ ン デ ッ ク ス 賃 金 へ の 移 行 の 動 き 、職 業 訓 練 ・ 教 育 政 策 で は ワ ー ク ・ フ ァ ー ス ト・モデル化、社会保障における脱商品化の大幅な低下がみられた。このよう な変化は、CDUとSPDの協力関係の内容が変わったためである。かつての 親福祉国家同盟に代わって、自由主義同盟(CDU/CSU経済派、SPDモ ダナイザ-、FDP、使用者団体)が主導権を獲得したのである。 本論文は、幅広い比較政治経済学的知見と粘り強い資料収集・分析に裏付け られた優れた内容をもち、上記三つの主要政策分野について政党内政治にまで 分け入って、詳細かつ包括的な検討を行っている。その分析概念の操作や論文 構成においてなお若干改善の余地が認められるが、本論文がこれまでのわが国 のドイツ福祉国家研究を遥かに凌駕する水準の研究であることは間違いなく、 その年金改革や労使関係の変容に関する考察は、ドイツの第一線研究者のそれ と比肩しうるものといえる。 以上の理由により、本論文は博士(法学)の学位を授与するに相応しいもの と認められる。 な お 、 平 成 2 0 年 8 月 11 日 に 調 査 委 員 3 名 が 論 文 内 容 と そ れ に 関 連 し た 試 問 を行った結果、合格と認めた。
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