細胞接着配列を有するDnaKフラグメントに関する研究 東洋紡 敦賀バイオ研究所 曽我部敦・黒板敏弘 京都工芸繊維大学 生体分子工学部門 田中直毅 Development of DnaK Fragment with Cell Adhesion Sequence Tsuruga Institute of Biotechnology, TOYOBO Co., Ltd. Department of Biomolecular Engineering, Kyoto Institute of Technology Naoki TANAKA ●研究の目的と概要 389 再生医療における基本的技術である細胞培養において、 607 基材上に細胞足場を確保することは不可欠である。足場 には接着した細胞に増殖・分化に必要な情報を送る機能 が要求され、従来フィブロネクチン(FN)やコラーゲンな どの細胞外マトリックス蛋白質が用いられている。しか しこれらの蛋白質は高価で取り扱いが困難であるという 問題点がある。そこで、我々は安価で大量生産可能な Fig 1. The 3D structure of DnaK389-607 組換えタンパク質を用いてこれらに代わる足場材料 β-sheets α-helix の開発を試みた。これまでに、大腸菌熱ショック蛋白質 である DnaK の基質結合ドメイン(Fig 1)を断片化した DnaK419-607 (Blocking Peptide Fragment: BPF, Fig.2 が 502 509 607 基質結合ドメイン BPF 419 優れたブロッキング能を有し、表面処理剤として利用で きることが分かっている。本研究では、遺伝子工学によ 384 638 607 RGD BPF-RGD って BPF に細胞接着性配列である RGD 配列を付加した BPF-RGD を作製し、新規細胞足場材料としての利用の 可能性を調査した。 Fig. 2. The structure of substrate binding domain of DnaK, BPF and BPF-RGD ●研究プロセス BPF の C 末端に RGD 配列が付加されるように設計し たプライマーを用いて、PCR 法で遺伝子断片を増幅した。 発現ベクターpQE30(Fig.3)を用いてライゲーションを行 った後、大腸菌 JM109 を宿主として BPF-RGD を発現さ せた。そして、Ni-NTA レジンによるアフィニティー精 製を行った。次に、BPF-RGD、BPF 及び FN をそれぞれ トリス緩衝液に溶解し、ポリスチレン製の未滅箘・未処 理の 96 ウェルプレート上にコーティングした。このプ レートに 5000 cells/well の NIH3T3 細胞を 24 時間培養し た。吸着蛋白質の定量のために、ポリスチレンコートカ バーガラス上に吸着した FITC 修飾蛋白質の像を全反射 蛍光顕微鏡(TIRFM)を用いて直接観察した。 Fig. 3. The recombinant plasmid pQE30 with DnaK419-607(RGD) ●成果 NIH3T3細胞の接着数測定 プレート上で培養したNIH3T3細胞を位相差顕 微鏡で観察した結果、BPF-RGDは何もコート していない場合と比較して多くの細胞が均一 に接着していた。従って、BPF-RGDはNIH3T3 細胞の接着を促進することが分かった。次に、 接着生細胞数を計測するためにMTTアッセイ を行った。FNは2mg/mlにおいて細胞接着能を 20 Relative adhering cell number BPF、 BPF-RGD及びFNをコーティングした 18 BPF-RGD FN 14 12 10 8 6 4 2 0 示したのに対して、BPF-RGDが同じ機能を示 すためにははるかに高い2 mg/mlの濃度が BPF 16 Control Fig. 4. 2 μg/mL 20 μg/mL 200 μg/mL 2 mg/mL Relative adhering cell number by MTT assay 必要であることが判明した(Fig. 4)。 BPF, BPF-RGD及びFNのTIRF観測 吸着蛋白質の濃度あたりの接着量を調べ A B BPF-RGDとFNの細胞接着機能を正確に評価する ために、TIRFMによる観測を行った。Fig. 5に示 すようにBPF-RGDは基盤全体に吸着するととも にいくつか輝度の高いスポットが観察された。一 200 μm 200 μm 方、FNはBPF-RGDの場合とは異なり、輝度の高 い吸着スポットのみが観察された。MTTアッセイ Fig. 5. The micrograph of fluorescent protein coating on the によって求めたNIH3T3細胞の接着数とTIRFMの polystyrene surface by TIRF;(A) 2 mg/ml BPF-RGD;(B) 2 測定結果から求めた蛋白質の吸着量あたりの細 mg/ml FN 胞接着数を算出するとBPF-RGDは基材への吸着 性には優れているが、細胞接着機能はFNより劣 るということが分かった。 A B 基材上に吸着したFNは凝集構造を形成するこ とから、観測結果において輝度の高い点が凝集し たFNを示していると考えられる。そこで、Fig. 5 と同じスケールでNIH3T3細胞図(Fig. 6)を比較す ると、吸着スポットと接着細胞の数が相関するこ 200 μm 200 μm Fig. 6. The micrograph of adherent NIH3T3 cells とがわかった。以上の結果はコート蛋白質の凝集 cultured on protein coating surface ; (A) 2 mg/ml 構造が細胞接着能に大きな影響を与えることを BPF-RGD;(B) 2 mg/ml FN 示している。そのため今後はBPF-RGDをに熱処 理などの様々な前処理を施し、細胞接着機能の向 上させることを試みる。
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