OS1010 TiNi 形状記憶合金における相変態の EBSD 観察 - 日本機械学会

<M&M2008 材料力学カンファレンス・2008 年 9 月 16 日~18 日>
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OS1010
TiNi 形状記憶合金における相変態の EBSD 観察
EBSD Observation of Phase Transformation in Titanium-Nickel Shape Memory Alloy
○中西崇文・名城大学(院)
來海博央・名城大学
Takafumi NAKANISHI, Graduate school of Meijo University
Hirohisa KIMACHI, Meijo University
白木原香織・鈴鹿高専
岩澤克敏・オークマ(株)
Kaori SHIRAKIHARA, Suzuka National College of Technology
Katsutoshi IWAZAWA, OKUMA Co.
Key Words: TiNi shape memory alloy, EBSD, X-ray measurement, Phase transformation, Austenite, Martensite, B2, B19’
TiNi 形状記憶合金は,オーステナイト相からマルテンサイト相へ相変態することで機能が発現
する機能性材料で,アクチュエータや薄膜として応用されており,その相変態挙動を力学的特性
と結びつけて考えることは非常に重要である.そこで本研究では,TiNi 形状記憶合金を対象と
して,EBSD 法を用いた結晶構造解析を行った.まず第一に,EBSD 観察のための材料調整条件
を確立した.さらに,荷重負荷前のオーステナイト相と負荷後のマルテンサイト相の EBSD 測
定を行い,X 線測定と比較した.特に荷重負荷後に発達するマルテンサイト相が結晶粒内で発達
する様子が観察された.
1. 緒言
TiNi 形状記憶合金は,形状記憶効果や超弾性という特有
の機能だけでなく,耐食性や機械的性質にも優れているため,
幅広い分野で用いられている(1),(2).これら形状記憶合金は,
荷重負荷など外部とエネルギの授受を行う事でオーステナ
イト相[B2]やマルテンサイト相[B19’]へ結晶構造が変化し,
機能が発現する.これまで形状記憶合金の評価には,透過型
電子顕微鏡による原子レベルでの解析(3), (4),X線(5),中性子を
用いた数百ミクロンレベルでの解析 (6) はなされているもの
の,力学的特性と強い関係を持つ結晶レベルでの観察の事例
は少ない(7).
そこで本研究では,TiNi 形状記憶合金を対象として,後
方散乱電子線回折像(EBSD: Electron Backscatter Diffraction
Pattern)法を用いた結晶構造観察を行った.
2. 実験方法
2-1 供試材及び試験片 本研究では,住友金属工業株式会社
製 TiNi 形状記憶合金を使用した.化学組成はカタログ値で
Ti-50.23at%Ni である.
試験片形状を Fig. 1 に示す.試験片加工後,真空加熱処理
炉において直線形状に保持し,真空中にて温度 973K で再結
晶させた後,形状記憶処理を 673K,1h,炉冷にて行った.
2-2 試料調整法 EBSD 法を用いた結晶構造解析を行うため,
試料表面から 30~50nm 領域の結晶性が重要となる.そこで
本研究では,形状記憶処理を施した試験片に#400~#2000 の
耐水研磨紙で研磨した後,アルミナ研濁液を用いて順次研磨
し,仕上げとして電解研磨を行った.電解液の成分は,硝酸
20%,メタノール 80%の混合液で,218~213K 程度に保持し,
t=0.5
Fig. 1. Schematic of the specimen.
電流値 0.08~0.3A の範囲で設定し,電圧を制御して行った.
2-3 引張試験 引張試験には,AUTOGRAPH(島津製作所製
AG-E)を用いて行った.試験条件は,試験温度を 293.2K,ク
ロスヘッド速度(CHS)を 0.1mm/min とした.負荷過程で随時
除荷し,X線測定ならびに EBSD 観察を行った.
2-4 結晶方位解析 結晶方位測定には,サーマル電界放出形
走査電子顕微鏡(日本電子製 JSM7000FS)に取り付けた結晶方
位解析装置(Tex SEM Laboratory 製 OIM 4.6)を用いた.条件
は,加速電圧 15kV,測定間距離 50nm とし,プローブ径は
5nm 程度である.本解析では,負荷前はオーステナイト相
(Cubic (Austenite))の単相,負荷後はオーステナイト相とマル
テンサイト相(Monoclinic (Martensite))の複合相として解析を
行った.
2-5 X 線測定 TiNi 形状記憶合金の負荷過程における X 線測
定を行った.負荷前は,試験片中央から片側に 3mm 間隔で
5 点採り,270MPa (0.05st)負荷後は,試験片中央から両側に
3mm 間隔で 9 点採り,測定を行った.その際の X 線の測定
条件を Table 1 に示す.
Table 1. X-ray condition.
Instrument
Rint 2000
Method
2 θ /θ
Target
Cu
Scanning mode
Continuous Scanning
Beam
Line beam
Filter
Ni
Tube voltage
50 kV
Tube current
200 mA
Irradiated area
2×3=6 mm2
Scanning speed
2 deg/min
Measurement range
20-146 deg
Measurement step
0.01 deg
3. 実験結果及び考察
3-1 X 線測定 X 線回折の結果を Fig. 2 に示す.(a)は負荷前,
(b)が 270MPa(0.05st)負荷後である.負荷前の TiNi 形状記憶合
金は,B2 構造に関係するピークのみが現れており,体心立
方構造のオーステナイト相が支配的である事がわかる.(b)
では,B2 構造のピークが減少し,B19’構造のピークが現れ
ており,体心立方構造から単斜晶構造へとマルテンサイト相
に変態している事が確認できる.本材料の場合,270MPa 以
上作用させた場合,マルテンサイト相が支配的組織となるこ
とが確認された.
3-2 EBSD 観察 負荷前の EBSD 観察結果を Fig. 3 に示す.
(a)は,負荷前のオーステナイト相における菊池パターンで,
(b)は指数付けを行ったものである.これらの菊池パターンか
ら計算される表面性状を表す Image Quality(IQ)値は 156 前後
で,十分な明瞭さが得られた.また,Confidence Index(CI)値
は 0.40,Fit 値は 0.75 と指数付けも正確に行われており,観
察に適した試料調整ができた.この条件での逆極点図方位マ
ップ(IPF map: Inverse Pole Figure)を(c)に示す.(c)はオーステ
ナイト相で解析を行ったものである.負荷前の TiNi 形状記
憶合金は,体心立方構造のオーステナイト相が支配的であり,
X 線回折の結果と対応した結果が得られた.また,(d)は逆極
点図である.[111]面に高い強度分布を示しており,これは圧
延加工によるものと考えられる.次に,460MPa(0.075st)負荷
後の解析結果を Fig. 4 に示す.菊池パターンを(a)に,指数付
けしたものを(b)に示す.IQ 値 210,CI 値 0.171 である.(c)
はオーステナイト相,(d)がマルテンサイト相の IPF マップで
ある.(c)では点でのみ同定されている事から,オーステナイ
ト相はほとんどないことが分かる.一方,(d)の負荷後では,
単斜晶構造であるマルテンサイト相が支配的に同定されて
いる.また一結晶内に異なる結晶方位のマルテンサイトが同
定されており,マルテンサイトの発達様相を確認できる.以
上より,EBSD 法は TiNi 形状記憶合金の結晶構造解析にも有
用であることが分かる.
(a) Kikuchi pattern
(b) Indexing
Titanium Nickel
111
001
(c) IPF map (TiNi austenite)
(d) Inverse pole figure
Fig. 3. EBSD analysis of TiNi shape memory alloy
before loading.
(a) Kikuchi pattern
B2 [110]
101
(b) Indexing
Titanium Nickel
111
B2 [211]
B2 [222]
001
101
(a) Before loading
(c) IPF map (TiNi austenite)
Titanium Nickel martensite
[10 0]
(b) After unloading
Fig. 2. X-ray measurement of TiNi shape memory alloy
in Austenite and Martensite phase.
[0 01]
[10 0]
(d) IPF map (TiNi martensite)
Fig. 4. EBSD analysis of TiNi shape memory alloy
after unloading.