ワークショップ 265 W1−1 分解を免れたDNAによる関節炎 O川根公樹,長田重一 (京都大学大学院医学研究科) DNA分解はアポトーシスの大きな特徴の1つであるが,アポトーシス以外のいくつかの局面でも自 己のDNAが積極的に分解されている.赤血球分化の際,脱核によって赤血球前駆細胞から放出された 核はマクロファージによって貧食され,マクロファージの持つDNaseIIが核DNAを分解する. DNase II−/一マウスでは,未分解DNAを蓄積して活性化された胎仔肝臓のマクロファージがIFN一β を構成的に産生する.このIFN一βの作用によって赤血球造血が抑制され,マウスは重篤な貧血を示 し,胎生期で死滅する. 最近私達は,出生後におけるDNase IIの生体内での働きを明らかにする目的で,胎生致死を回避 し,出生後の解析を可能にするDNase II欠損マウスを2種類作製した.これらDNase II欠損マウス は,ともにヒト関節リウマチに類似した慢性関節炎を自然発症した.すなわち,これらマウスでは,四 肢の腫脹,滑膜細胞の過増殖,骨破壊が観察された.腫脹した関節部では,TNF一α,IL−6,IL−1βなど の炎症性サイトカインの遺伝子発現が著しく上昇していた.一方,骨髄や脾臓では,未分解DNAを蓄 積して活性化したマクロファージが多数観察され,TNF一αなどの炎症性サイトカイソを産生していた. TNF一α遺伝子を欠損させた背景では,DNase II欠損マウスの関節炎発症が抑制されたが,Rag2遺伝 子を欠損させた背景では,関節炎は発症した. 以上より,成体において自己DNAの分解が妨げられると,自然免疫が活性化され,関節炎を引き起 こすことが示された.この関節炎では,B細胞,丁細胞の関与は少なく,マクロファージの活性化及 び,サイトカインの恒常的産生が慢性炎症疾患をもたらしていると結論される. W1−2 SLEモデルマウスにおける脾臓マクロファージを含む貧食細胞による自己抗原提示 ○藤尾圭志1,岡本明子1,鶴井博理2,広瀬幸子2,山本一彦1 (1東京大学医学部アレルギーリウマチ内科,2順天堂大学医学部病理学) 全身性エリテマトーデス(SLE)における活性化丁細胞に抗原提示を行っている抗原提示細胞につ いて,NZBIW F1マウスを用いて検討した.自己抗原としてはSLEにおける重要な自己抗原のひとつ であるヌクレオソーム(Nuc)を選択した.脾臓の抗原提示細胞の中で最も豊富なF4/80陽性マクロフ ァージとCDIlc陽性樹状細胞は,腎炎発症前からNuc特異的丁細胞を強く刺激した.一方胸腺と骨髄 由来のF4/80陽性マクロファージはNuc特異的丁細胞を刺激しなかった.生体内でF4/80陽性マクロ ファージを主とした脾臓貧食細胞をクロドロネートリポソームを用いて除去すると,脾臓細胞のNuc 提示能は減弱し,血清自己抗体価・蛋白尿発症率が低下した.クロドロネートリポソーム処置により, 脾臓におけるNuc特異的形質細胞,DNA特異的形質細胞の数は減少した.腎炎発症前マウスに脾臓 F4/80陽性マクロファージを繰り返し移入すると,血清自己抗体価と蛋白尿発症率が有意に上昇した が,脾臓樹状細胞の移入では抗体価・蛋白尿発症率に変化を認めなかった。NZBIWF1に移入したNuc 特異的丁細胞の動態を検討すると,移入早期に脾臓赤脾髄での活性化が確認できた.これらのことか ら脾臓のF4/80陽性マクロファージを含む貧食細胞による核抗原の提示が異常な免疫応答の引き金と なり,自己免疫疾患を惹起する可能性が考えられた.アポトーシス細胞の除去に影響を与えずに脾臓に おける自己抗原提示を抑制できれば,SLEの新たな治療アプローチとなりうると考えられた.
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