デジモノファーム ~7人の英雄の話~ - 小説家になろう

デジモノファーム ~7人の英雄の話~
石川夏帆
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~7人の英雄の話~
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︻小説タイトル︼
デジモノファーム
︻Nコード︼
N4952CB
︻作者名︼
石川夏帆
︻あらすじ︼
ネット社会が発達する中。
現実と幻想との境目が、
分からなくなり⋮
もし、こんな世界がネットに現れたら
誰かを傷つけることも、
罪悪感も忘れてしまうのかなと思い。
それが怖くて
1
書いてみました
だから、よく考えて、よく知って
人を見つめてほしいのです。
ネタバレありのあらすじ
←←←←←←←←←←←←←←←←←←←←←←
デジモノファームで
︵[注]※ネタバレあり︶
ここは、疑似空間
巻き起こる出来事と、デジモノファームの救世主に選ばれた7人の
話ー。
ゴッド
デジモノファームの守護神である
オブ
“神”の暴走により
コード
通称
神が所有する、削除プログラムが
無差別に人々に襲い掛かる。
削除プログラムを受けたら一貫の終わり
精神リンクをしているアバターが消滅し
二度と現実世界に戻れない!
人々は、削除プログラムを無差別プログラムと呼び恐れた。
2
そして、デジモノファームの創設者である二人の若者
安藤ゆうと牛嶋隼人
二人の対立!!
ーお前が正義なら、俺は悪になるー
隼人がゆうに言った、言葉の意図するのもとは⋮?
俺は、間違っていない
“彼”の歪んだ心の行く末はー。
そしてその頃、後にデジモノファーム全体の救世主になりえる
一人が、神との対決へと巻き込まれていく⋮
3
デジモノファーム︵前書き︶
﹃デジモノファーム﹄
この仮想空間は、
安藤ゆうと牛嶋隼人の10代後半の
少年らで創られた。
たくさんの人々が暮らす世界。
4
デジモノファーム
−ネット社会
−仮想空間
その世界は、ある日突然、ネット上に
現れた訳ではない。
その世界は、二人の若者が創り出した。
3次元の疑似空間に
大勢の人々が、リンクし存在している。
装置を介して、コード、暗号化された意識は
その空間の物質と一体化して
知覚、聴覚、触覚、
ありとあらゆる五感との繋がりを持ち⋮
そこに存在するものすべてが
“実体を成す”︱。
そこにいる人々は、本当は生身の人間︱。
その意識体が、集まっていることになる。
たくさんの人々が暮らす中。
まずは、二人の人間と
それに巻き込まれていく人々を巡る
切ない話をしよう。
5
デジモノファーム︵後書き︶
自分も相手も、愛してあげてください。
6
デジモノファーム
この仮想空間−デジモノファーム−は、ある年の春。
安藤ゆうと牛嶋隼人の10代後半の
少年らで創られた。
たった二人で⋮
人々は、その仮想空間の”創造主を認知して”利用し
自分の精神と一体化したアバターで暮らしていた。
アバターは、ヘアスタイルや服、体型、容姿︱。
自分を思い通りに、作り替えることが出来、そこで仕事もアルバイ
トも出来るし、ネットマネー︵ネットの世界だけで使えるお金︶だ
が、
労働条件に似合った報酬も貰える。
いつもと違う自分になれる、それが人気になり
アトラクションとしては信頼されていた。
﹃デジモノファーム﹄
デジタル化された世界で人々が集う。
まるで、ファームだ。
牛嶋隼人は、そう自嘲を込めて呟いたのを
訪れた人々に、創り上げた仮想空間を現実と
勘違いさせないための戒めに
その名をあてた。
デジモノファームは、
最初は、ただのコミュニケーションツールとして生まれた。
7
鳥だの、犬など、猫など、動物たちをかたどったものや美少女、美
少年、自分で描いたアバター等を用いて
冗談を言い合ったり愚痴ったりを
アバターを通して、画面上で行うものだけだった。
ネットの中に
自分自身が、正確には、自分の意識体が
入れるなんて夢に思っていても
幻想だった。
だが、精神と一体化する装置が開発された頃に
その世界は、現実の人々と大きく関わることになった。
幻想、都合のよい夢だと
思っていたことが、目の前に現れたのだ。
そして、其処には重大な落とし穴も存在していた⋮
精神と一体化したアバターは
精神リンクと呼ばれ
その状態のままで、何らかの理由で
アバターに修復不可能なエラーが起きたとき
それが原因で、昏睡状態になったり
ひどい場合は、死亡したり⋮するのだ。
だから、
だけでは
デジタルな世界での、軽い気持ちの
スイッチのONとOFF
説明がつかない話になったのだ。
8
データは、指一つで消える
だが、それを安易にやれば
デジモノファームは崩壊する︱。
それを分かっていたのに⋮
9
安藤ゆう︵前書き︶
︵フィクション︶安藤ゆうの話から、始まります。
つらい描写があるかもしれません。
見るのがつらい方は
そのままページをお閉じください。
10
安藤ゆう
現実とビジョンのリンクを確認。
︱精神結合、開始します。
認証︱。
プログラムへのログインを行いました。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
ダウンタウンの一角に、一際目立つとある施設があった。
﹁いらっしゃいませ﹂﹁どうぞ、お立ち寄りください﹂
たくさんのお店が並び。
服を手に取る人。食べ物屋さんに並ぶ人。
食べ物を食べ歩く人。
いろんな人とお店がある。
鉄の柱を組み合わせた骨組みに、黒塗りの階段・・・
コツ、コツ
足音を鳴らしながら、一人の男が歩いている。
その表情には生気が宿っておらず、蒼白で
前を見つめる眼だけが、爛々と輝きを不気味に湛えている。
たくさんの人が行きかい、みんな友人、家族、恋人といった、
人々を連れてこの施設を訪れている。
食べ物屋や洋服屋等々、いろいろ充実した設備で
みんな、施設内を楽しんでいる。
11
その中で、多分一人だろう・・・不釣り合いな心の持ち主がいた。
12
安藤ゆう︵後書き︶
自分を見失わず、相手も愛してあげてください。
13
安藤ゆう︵前書き︶
︵フィクション︶安藤ゆうの話から、始めます。
見るのがつらい方は、そのままページをお閉じください。
14
安藤ゆう
男﹁・・・﹂
俺は今、軽い陶酔状態だ。
現実なのか夢なのかよく分からない・・・
手術した後麻酔から目が覚めた直後は、朦朧としていると︱。
昔聞いたことがある。
子供の頃だから、確証はないが・・・まあどうでもいい・・・
ここは、仮想空間の年月で数えて二年前に出来た。商業施設
この世界だけじゃなく、現実世界でも有名な建築家の自信作かなん
かで、
デザインが特殊で真新しい
若者やお年寄りまで、あらゆる年代にも人気のスポットだ。
彼は、浮遊霊のように
自分と擦れ違う人を見やり
ふいに、普通の人間では、考えられない
常軌を逸した考えが、思い浮かんだ。
それにしても、うじゃうじゃと⋮
ここにいる連中を一掃出来たら、最高だな︱
彼の中で、言いようのない感情が溢れて来た。
15
それは、蜜のように甘く。ふぐの肝のように猛毒だ。
猛毒が回って思考が痺れていくのを、ぼんやりと心の奥で感じて
頭が、抵抗できなくなっていく
︱痺れていく︱
彼は、密かにほくそ笑むと
あるプログラムを発動した。
バタ、ドッサ、ドサッ・・・
男﹁・・・?﹂
気が付くと、俺以外の全員が地面に転がっていた。
施設の通路に累々と人が横たわっている。
うめき声一つ聞こえない。
皆眠るように目を閉じている。
???????????
俺は、その意味がしばらく理解できなかった・・・
俺﹁ふっ・・・﹂
そのうちに何が起きたのか分かって、自分がしてしまったことの重
大性に気が付き
息を呑んだ。
16
俺﹁俺・・・﹂
その場で頭を抱える。
焦燥感と恐怖心でどんどん、思考が低下して空回りばかりする。
俺﹁うっ・・・何か考えないと︱﹂
焦りが募るばかりで、考えは一向にまとまらない。
そして、ふと心に湧き上がったのは、俺自身の身の保身だった。
このまま、考えがまとまらないまま立ち止まっていると警備隊が着
てしまう。
連中に見付かれば、俺は一巻の終わりだ。
連行され、裁き受ける。
裁判の判断によれば、俺はこの世界から追放される。
要するに、死刑だ。
データ破棄されるにきまっている・・・
心は、その思いでいっぱいになり
一瞬にして打ち砕かれた。
ブルリッ!
身震いを繰り返すと、崩れるように倒れ込んだ。
俺﹁イヤダ・・・﹂
口からこぼれたのは、その言葉だった。
俺もみんなと一緒に寝転がったほうが、バレないだろうか?
いいや、そんなことをしていたら足が付くとか、
訳の分からないことを巡らせていたら、
17
また鈍い感情が、﹃どうでもいい﹄を運んで来て
俺を取り囲んで、別の意思を植えつけた。
抱えていた頭を離すと
放心したまま、立ち上がった。
俺はまた、一瞬にして
陶酔の奈落へと墜落して行った。
不意に、彼の傍で倒れていた人から、
金色の光が手の先から現れ始め
やがて、体全体を包み込んでゆく
その光につつみこまれた人は、
まるで丸い洗浄剤を水に溶かすかのように
じわじわと、消えていくのだ。
同じように、次々と倒れた人から金色の光が現れてゆく。
それでも、彼は助けなかった。
いや、人がどんな状態になっているのかが、見えていなかったのだ。
俺﹁・・・﹂
口元に、不可解な薄笑いを湛えると
踵を返し、家路へと歩いていく。
まあ、いいや・・・
早く帰ろう・・・
本能は、助けなきゃと焦燥感があるのに
18
その感情すら、忘却の彼方へと霧散していく。
そう言えば、ここに来る前。
“妹”と夕飯について話してたけ⋮?
天ぷらそばにするか? それとも盛りそばにするか?とか・・・
もう彼の頭の中は、夕飯のことになっていた。
自分がした大それた罪の意識も、
それに巻き込んだ人への救護義務を怠って
彼は、現実から目を背けたのだ。
19
安藤ゆう︵後書き︶
自分を見失わず、相手を愛してあげてください。
20
安藤ゆうの話︵前書き︶
︵フィクション︶安藤ゆうの話から始めます。
つらい描写があると思います。
見るのがつらい方は、そのままページをお閉じください。
21
安藤ゆうの話
そして、ぶつぶつと何かを言いながら
外に出ると
何気なく、建物を振り返った。
振り返ると、建物全体がその光に包まれていた。
施設全体を淡い黄色い光が包み、
その光の粉が上へ上へと登って消えていく。
何と無く、その光を見詰めていると
その施設に居た、人々の悲鳴が心の奥に響く気がした。
だた、彼には罪悪はなかった。
建物全体を神々しいまで、黄金のオーラが包み込んで
内部の何処からか現れた濃い金色の粒子を、上へと舞わせる。
俺はそれを、何の感情もないまま見つめていた。
感情を一切なくした心は、とても静かで茫然としていて
まるで放心状態だった。
ふいに、彼の意思とは関係がなく言葉が漏れた。
男﹁⋮気持ちいい⋮﹂
22
安藤ゆうの話︵後書き︶
自分を見失わず、相手を愛してあげてください。
23
安藤ゆうの話
俺、安藤ゆう!
性別、男性。
身長、176?。体重は、平均男性よりやや痩せぎみかな?
まあ、正確に体重計乗っていないから
本当の体重は、知らないんだ。
骨格とかで、何となく理解している。
髪型は、少し長めの黒髪のショートヘアー。
女性寄りの顔立ちで
卵形の離隔に、目鼻立ちが均等についている。
目は、ぱっちりの二重だ。
おとは
よく、乙覇︵妹︶と歩いていると
姉妹と、若干の人に思われる。
そこは、微妙かな⋮?
まあ、強いて言えば、ルクスはまあまあと思う⋮。
現実世界の今年で、17歳だ。
そんな自己紹介を始めながら
24
俺は、一つ、大きなあくびをした。
安藤ゆう﹁ふぁあああ⋮﹂
あくびをしながら、両腕を伸ばした。
安藤ゆう﹁ふうぅぅぅう!﹂
伸びをしているところに、声が掛かる。
﹁お兄ちゃん!だらしない!!﹂
﹁ふぅ、う?﹂
伸びをしながら固まって、首だけを
そっちに向ける。
振り返ると、そこには
腰に手を当てて
ぷーと膨れる
乙覇がいた。
﹁朝なんだからって︱。しゃっきとしてよ!!﹂﹁もう、1
安藤ゆう﹁いきなりなんだよ!乙覇!!﹂
乙覇
1時だよ!﹂
なんだか知らないが、いつになく
“プンプン”に張り切っている⋮
いつものことなんたが
これが、とてもとてもしつこい⋮
25
﹁朝起きて、何時間建っていると思う?﹂
低い威圧した声で、詰問する。
﹁うぇ?4時間くらっ﹂そういいかけた瞬かに、頭をこずかれた。
﹁いってーな!おい!!﹂
今度は、暴力かよ⋮
暴力反対!!
頭叩くな!!バカになるだろ!!
怒りたかったが、逆ギレだと思われると
ヒートアップしそうだ。
これは、大人しくしていないと、まずい。
頭をさすりながら、
見上げると
乙覇は、
﹁⋮やっぱり、忘れているだねっ!﹂
26
安藤ゆうの話︵前書き︶
これは、疑似空間、デジモノファームの民間人
安藤ゆうの話
27
安藤ゆうの話
ギロリと睨み付けられて
俺は、ようやく。乙覇の怒りの理由を悟った。
ゆう﹁ああ⋮﹂
声をあげた瞬間、乙覇がその先を言う。
乙覇﹁今日は、バスターズの集まりでしょ?﹂
﹁召集したのお兄ちゃんなのに、何で部外者の私が覚えているのか
しらね!?﹂
うあー。今それ、俺が言おうとしたこと⋮
何で、先に言われないといけないんだ!?
でもまあ、寝惚けて忘れていた俺が悪いけど⋮
しょぼんとしていると
さらに乙覇が言う。
﹁⋮ここから、いつものカフェまで何時掛かるかしら?﹂
うん?何だ!?
今度は何が言いたい!
段々、我慢の限界になっていると
おもむろに、乙覇は、
時計を見詰める。
28
ゆう﹁うん?﹂
俺も、それにならって
壁にかかっている時計を見詰める。
そして⋮
﹁うっああああ!!﹂
29
安藤ゆうの話
白い壁にかかっている時計は、11時半を指していた。
それと、同時に乙覇に言われたことを思い出した。
−もう、11時だよ!−
ゆう﹁うああああ!!﹂﹁遅刻だぁーー!!!﹂
ようやく、気付いた。
ゆう﹁うっ?ふぅ?﹂
俺は、一人用のソファーから飛び上がるように立ち上がる。
何処に置いたんだ!?
左右を激しく振り返り
探し回る。
ーあった
棚の傍らに、立て掛けてあったショルダーバッグを
肩に掛ける。
慌てて、バタバタガチャガチャと動き出した俺を
乙覇は、
冷淡すぎるくらいに
腰に手を当てたまま見詰めていた。
30
暫く無言で見詰めていた乙覇が
俺に向かって、追い討ちをかけてきた。
乙覇﹁ゴリラみたい﹂
ボソッと言い捨てた。
﹁~~~~~~﹂
ついそれに反応してしまいねめつける。
ゆう﹁仮にもお前の兄だぞ!!﹂﹁ゴリラ扱いするな!!﹂
﹁だって、今の動き凄くゴリラなんだから、ゴリラっていただけで
しょっ!!﹂﹁正直に言って何が悪い!?﹂
はいっ!出ましたよ!!
この負けん気の強さ。
﹁ぐぅ⋮﹂
俺は喉をならすと
ゆう﹁ハァー。その負けん気の強さ。﹂﹁バスターズのヤツ等にも、
少しだけ別けてやりたいよ⋮﹂
乙覇﹁な、何よー。︵そんなこと言ったら︶バスターズの子達可哀
想よ﹂
ゆう﹁勇気はあるが、度胸は足りないな⋮﹂
31
﹁なんだかんだ言いながら、行動はするけど。﹂﹁何か起きたとき
の、対処の仕方が甘いかな⋮﹂
﹁行動を起こしたら、何かの責任が生じるのに、それをわかって半
分分かっていない⋮。出来ていてもそれは自分を納得させるいいわ
けにしかならない場合が多い﹂﹁何事にも動じない強さって、冷静
に物事が出来るってことなんだ﹂﹁俺はそう思っている⋮﹂
少しの間、沈黙があり
微動だにしないが、目ががっつり
俺を捉えたまま⋮
乙覇﹁⋮何、歯の浮くような寒いこと言っているの!?﹂
本当に気持ち悪がって肩を擦ると
乙覇﹁中二病ゴリラって呼ぶよ!﹂
確かに、寒いかもしれないけど
これは、真面目と胸を張ると
余計に寒いが
それをすっぱり、忘れろと言うのも
可笑しくはないか!?
欠けているものがあれば、おぎうものだろう!!
ゆう﹁あのなぁ!!!﹂﹁俺は、本当のこと言っているだけだぞ!
!﹂
乙覇﹁そんなの理想論じゃん!!﹂﹁じゃあ、しっかりこの世界を
守ってよね!﹂
32
要するに、口だけじゃなく
行動で示せとのことだな⋮
ゆう﹁あー!!守るさ!!﹂
吐き捨てるように、叫び返すと
不意に乙覇の態度が変わった。
明らかに声のトーンが落ちて
静かになった。
乙覇﹁私ね。友達がドリーム︵大型商業施設︶で働いているから、
心配なの⋮﹂﹁もし、何かあったら⋮﹂
明らかに、涙目になっている⋮。
乙覇﹁これ以上、あの事件が起きたら︱。私⋮﹂﹁絶対に、真相究
明をしてね⋮﹂
そう言って俯く、乙覇に
俺は
−丸くなりなりやがって⋮
少々、呆れながら
近寄って、肩をそっと手を置くと
ゆう﹁大丈夫だ。俺が解決して見せる⋮﹂
そう言った。
33
いつのときも、どんなときも
俺は、この疑似空間、デジモノファームを守ると決めている。
ここは、俺の夢
繋がり、愛情。
みんなの夢を乗せている。
乙覇は、顔を上げると
涙目になった目の涙を瞬きして、両手で拭くと
まっすぐ、こっちを見て
乙覇﹁信じているよ﹂﹁行ってらっしゃい!お兄ちゃん﹂
俺は、自然と表情を引き締めて
ゆう﹁ああ、行ってくる!﹂
そう強く言った。
34
安藤ゆうの話︵前書き︶
ここは、疑似空間、デジモノファームで起きた出来事。
35
安藤ゆうの話
乙覇に、見送られて
俺は、家を出た。
ここは、~デジモノファーム~内なのに
ちっとも、電脳空間にいるという感じがしないのだ。
風の匂いや、街の喧騒など
あらゆる周りがリアルで
俺を安心させた。
触れるもの全部が、現実世界と変わらない。
これが、より現実世界に合わせた
結果なのだと
つくづく、思うのと同時に
ここで暮らしているものは、この世界を現実と
勘違いしていないかと
心配になる。
実際に俺もそうだ。
この世界逃げ込んだ。
現実が嫌いで、ネットにリアルを求めた。
それが、創設者の俺の心の正体だ。
俺は、少しだけ
36
短い溜め息を吐いた。
乙覇は、
あの後、機嫌が良くなったが
また、何かにつけて、怒られると思うと荷が重かった。
閑静な住宅街を抜けると、
時間短縮のため走り出した。
突き当たりの道路沿いの建ち並ぶ店先を、
流し見て
ひたすら走り抜けると
地下鉄の入り口が見えてくる。
こっちの世界に存在する、地下鉄︱。
俺は、その地下鉄に乗り込んだ。
電車に乗ろうとしていた俺は、
駅での待ち時間中に、電子画面を呼び出すために頭の中に電子画面
を想像する。
−立ち上がれ−
すると、目の前に立体的に電子画面が表示された。
ここでは、アトラクションを楽しむため
コード化された意識体にあらかじめ与えられた機能がある。
37
俺は今、その機能の一部を使ってみたんだ。
−電子画面を呼び出し、情報を手にする権利だ⋮
誰に言っているのか、一人そう思う。
表示された電子画面を手に取ると
パソコンの画面と同じく、端にあるアイコンで
縮小モードで
手に収まるサイズにして
アイコンの一覧を、スクロールしていき
報道局のロゴが入ったアイコンを指で押し
ニュース一覧から
あの事件についての、題名ボタンをタップした。
開いた画面上に
女性アナウンサーが、ニュース内容を読み上げる。
今日未明、大型商業施設“ギャラクシー”︵フィクション︶で
深刻なエラーが発生し、その場に居合わせた500人近くのアバタ
ーの意識が
一時戻らなくなるという事態がおきました。
エラーは、すぐに正常の状態に回復しましたが、
現在も約300人近くの意識が戻っておらず。
警備情報調査特捜室は
事故と事件の両面での
38
調査をつづけております。
俺は、茫然とそれを見詰めていた。
それと同時に、電車も駅に到着する。
髪が風に舞う。
髪を風になびかせながら
はやと
あいつのことを思い出した⋮。
﹁隼人やっぱり、お前なのか⋮?﹂
電車の音にかきけされるほど
小さく呟いた声は
そのまま、自分自身にかえってきて
不安にさせたのだ。
39
カフェテラス。チームアンチバスターズ
安藤ゆうの話。
彼がこのチームを作り
︵実にセンスない名前だ。︶︵前書き
民間機としてボランティアとしてやっている。
よは、夜回りみたいなものということだ。
40
カフェテラス。チームアンチバスターズ
数時間後⋮
︵実にセンスない名前だ。︶
13時半過ぎに、ようやくいつものカフェがある
駅に着いた。
ーみんな、待ちくたびれて怒っているかな?
バスターズの仲間は、
みんな遠い場所から、遥々いつものカフェに来るのだ。
でも⋮カフェがある場所は
遠出しているとはいえ
俺より、仲間たちの方が近い気がするな⋮
だって、数時間掛けるの俺だけだぜ?
みんな遅くても30分くらいさ
そんなことをぼやきながら
俺は、遅刻しそうになっているのを
走ることで、なんとか間に合いをつめようとしていた。
別に、仲間に当たってはいない
悪いのは、寝惚けてのんびりしていた俺!
そこはよくわかっている。
41
駅から出た俺は、
息を切らしながら
高層ビルや、真新しい施設などを流れるように見て
その一角に存在する、大型スーパーに入っていった。
そこは、大型商業施設と比較すれば
やや小さめの施設だが
しっかりとした設備で
1階が、食料品売り場
2階が、洋服や雑貨など
3階が、本屋と靴や子供用のおもちゃ
そして、3階の一角と4階が食べ物屋とかが、軒を連ねていた。
俺は、そのスーパーの4階の何軒か先、
角地の場所にある、カフェに入っていった。
ハァーハァーと、焼ききれそうな息をしながら
肩で息をして
笑顔で、﹁いらっしゃいませ﹂と挨拶をして
接客をしようと近づいてきた店員に、
やんわりと手を挙げて、制止すると
店内を見回す。
入り口近くの一番端にかたまる
7人を見つけた。
そして、その7人の一人が声をあげる。
42
﹁おーい。何やってんだよ!こいよー!!﹂
一人が声をあげると
7人全員が、振り返る。
俺は、喉をさすりながら
慌てて、そっちに向かった。
そうコイツらが
チームアンチバスターズ。︵名付けセンスゼロの俺がつけたから、
寒いしちょっとキモくなってしまった︶だ。
43
カフェテラス。チームアンチバスターズ。︵実にセンスない名前だ︶
仲間に呼ばれ、テーブルに着いた俺。
何だか、みんな顔にシワを寄せて
中心に置いてあるこの世界で使える
ノートパソコンのようなものの画面を覗き込んでいた。
最初に気付いて声をかけきた
青年に近い歳の少年の、タカユキが
苦笑いしながら
タカユキ﹁30分前集合って、お前よくいってたじゃん!﹂
怒っているってよりも、
冗談めかして呆れているような、態度と口調で
俺を迎え入れる。
時計は、14時を指していた。
召集の集合時間は、14時10分︱。
これでは10分前、集合になってしまった。
確かに、よくいっていた⋮。
俺は、頭をガシガシと掻く。
それは遅刻が目立ち、しかも、なんの連絡もしてこないで、一時間
近く遅れるという
ルーズすぎる奴が、現れたため
44
その処置をとったんだ。
﹁う、うん⋮﹂
気まずそうに喉をならすと
まだハァーハァーと、肩で息をしながら
難しい顔をする奴等に、謝る。
ゆう﹁すまない⋮遅くなって⋮﹂
謝ると一人の少年、レイゲンが、振り返り俺に聞いた。
レイゲン﹁なあ、このニュースどう思う?﹂
そう言って、みんなが、閲覧していた画面を
俺の目の前に向けた。
レイゲンが声をあげると
全員が、俺に注目する。
45
神の暴走⋮。最悪のシナリオへのカウントダウン︵前書き︶
これは、神の暴走かもしれない⋮。
そう思えば、心が恐怖で震えるけど
ここの繋がりを壊させてたまるか・・・
46
神の暴走⋮。最悪のシナリオへのカウントダウン
みんなが見ていたレイゲンが差し出した画面は
俺が、さっき自分で閲覧していた
大型商業施設で、
起きた出来事のニュース記事だった。
それを食い入るように見つめる。
自然と両手がテーブルの上で、握り込まれていく。
アバターが何らかの干渉を受け、人の意識が戻らなくなる︱
そんな現象。
このデジモノファームでは、自然に起こることはまずない。
断言できる。
デジモノファームでは
不測の事態に備えて、防衛システムの中で
点検の係りが存在する。
それが、警備情報調査特捜室。
通称 警備特捜室だ。
彼らは常に、ここの空間を見回り
不安定な場所の補修、削除などを行っている。
もし、人が入れないほど、エラーが発生していたり、
空間が壊れてしまっていたら
事前に、立ち入り禁止令が出るか、ただちに避難誘導
別の安全な場所に移送され
47
そこは、封鎖される。
だから、安全面では保証されている。
それなのに、不測の事態が起きると云うことは
あいつしか考えられない。
指で、その記事をスクロールしていると
コメント欄が、滅茶苦茶に荒れていることに気が付いた。
その中で、頻繁に出てくるキーワードが目にとまった。
︱“神”︱
−コード
オブ
ゴッド−
このデジモノファームの最高管理者︱。
正式名
本来の役目は、警備情報調査特捜室よりも上の権限︱。
防衛システム中で最高位のプログラムー。
削除プログラムを行使し
警備情報調査特捜室が許可の必要な重大な大きなエラーの削除︵す
ぐに行使しなくては、手をくれになる場合︶。アンチソフトやあら
ゆる脅威への対応だった。
正体は、不明で誰かのか、
はたまたソフトなのか、分からない。
殆ど、表舞台に出ない。
謎の多い存在︱。
そう世間では、云われていた。
48
ニュースへの
コメントを引用すると
その神が、邪神化して暴走していると云う噂だ。
−神が所有する削除プログラムは、あらゆる権限を無視して
狙った対象物を無効化、破棄できるのだー。
それを信じた人から、徐々に
助けて、消えたくないと悲痛な叫び、悲鳴とも取れる書き込みが目
立っていった。
繰り返される悲鳴に近い声を我慢して、スクロールを続けていくと
いくつか、名前がコメント欄に書かれている
牛嶋隼人が現れた︱
牛嶋が神だ︱。
牛嶋の恐怖到来!!悪魔の心を持つ者
などなど、ひどい書き込みが増えていた。
俺は、その異質さと、確信をつかれた気がして
息を呑んだ。
ゆう﹁ぐ⋮﹂
49
サラエ﹁おい。大丈夫か?﹂
急に顔色が悪くなった俺の横顔を、
心配したサラエが、覗き込んできた。
ゆう﹁ああ⋮大丈夫だ⋮﹂
俺は気持ち悪さをぬぐうために、真正面を見詰めた。
タカユキ﹁どうかしたのか?﹂
ゆう﹁⋮した⋮﹂﹁⋮これは、牛嶋の仕業かもしれない⋮﹂
俺はゆっくり、自分が思っている考えを伝えた。
これは決して憶測ではない気がする⋮。
ゆう以外のバスターズ全員﹁え!?﹂
それを聞いたバスターズの面々が声を上げる。
レイゲン﹁あの悪魔の心を持つと呼ばれている、あの牛嶋隼人か!
?﹂
その言葉に耳を疑うかのように
身を乗り出して聞く。
ゆう﹁ああ⋮﹂﹁そうに違いない⋮﹂
俺は、あまりの異質さに息を詰まらせながら
50
絞り出した声で言った。
マサヤ、ルリ、ユキコは、あまりの衝撃的な言葉に
茫然とし、言葉を発せないでいる。
マサヤ、ユキコ、レイゲンと同じ歳のエリオが呟く。
エリオ﹁牛嶋隼人が、コードオブゴッド︱。神だなんて︱﹂
タカユキ﹁だけど⋮、ゆう﹂﹁それはいくら、悪魔の心を持つと云
われていても、人間にできることなのか?﹂
俺は、その言葉を機械的に咀嚼すると、ゆっくりと肯定する。
ゆう﹁ああ⋮できる。“神”は人だ﹂﹁権限を有していれば出来る
︱﹂
﹁俺は、全権限を、警備特捜室に譲渡しているから、牛嶋しか考え
られないんだ⋮﹂
ゆう以外のバスターズ全員 ﹁はっ︱﹂
息を呑んで、驚愕するのがよく分かった。
言葉を失ったバスターズの仲間たち。
俺は今、とても重大で最悪な事を、
告げたのをひしひしと悟り、その恐怖から手が小刻みに震えた。
神の暴走⋮。それはまさしく。最悪のシナリオへと突き進む、カウ
ントダウンであった。
デジモノファームの防衛システムの
51
あらゆる権限を無視して
それを破壊できるプログラム⋮
削除プログラムの暴走⋮
そして、人の精神︱。意識そのものまでも、
削除してしまう。
削除プログラムを受けたら一貫の終わり⋮。
意識を無くし、二度と現実世界に戻れない!
俺は、震えていたが
くっと強く。歯を食いしばり震えを止めると
俺が止めてやる!! みんなの繋がりを、壊させてたまるか!!
絶対に守る。
そう心に誓った。
52
−お前が正義なら、俺は悪になるー。︵前書き︶
お前が正義なら、俺は悪になるー。
あいつが言った言葉。
俺は今でも、忘れない⋮。
53
−お前が正義なら、俺は悪になるー。
お前が正義なら、俺は悪になるー。
うじまはやと
あの日、牛嶋隼人は、
燃え盛る町を背景に、揺れる連獄の色
をその頬に映して
不気味に不敵に、笑った。
デジモノファームのあの空間は、あれ以来
修復されず、パージされ
バグの一部として、ネットのどこかに漂うはめになった。
俺は、ひそかに拳を握り
黙りこんでしまったバスターズの仲間たちに
あの日の出来事を、話し始めた。
本当は、この話を引き合いに出したくない。
このチームに加わっている仲間のなかには、
あの時のことで、深い傷を負ったものいるー。
その為に、このチームに入り
同じような悲劇を繰り返さないと、誓ったものもいるー。
54
まだ、傷が癒えていないのに
こんな話をするのは、不謹慎だし
余計に困惑させるだけだと、思ったが
今回のことが、これに端を発して牛嶋隼人が関わっているのなら
これ以上、大人の事情とかで
黙っているわけにはいかない。
話さなくてはならなかった。
俺は、意を決して
口を開く。
ゆう﹁⋮みんな、聞いてくれ、あの時のことを話さなくてはならな
い⋮﹂
55
−お前が正義なら、俺は悪になるー。︵前書き︶
なんだ、なんだ隼人⋮!
お前は、正義を貫く気が無かったのか!?
56
−お前が正義なら、俺は悪になるー。
俺は、一回息を飲むと
手のひらにかいた汗を握り、ゆっくり話始める。
ゆう﹁まだ日が浅い話で、心苦しいが、ことの発端が、牛嶋隼人な
ら、これを避けるわけには行かないんだ⋮﹂
ゆう﹁⋮前に、テロ紛いの事件が起きたのを覚えているか?﹂
バスターズの仲間たちは
次々と顔をあげ、こっちを見てから
また、俯く。
すると、黙っていた面々の一人が
口を開いた。
レイゲン﹁ああ⋮覚えている。忘れないよ⋮あの事はー。﹂
レイゲンは、声を震わしながら
そう答える。
俺は、それを聞き
胸が、グッと鷲掴みにされる思いがしたが
話をやめるわけにいかず
続ける。
ゆう﹁あの⋮地区⋮が、破壊されたあのとき、あいつが俺にこう言
57
ったんだ⋮﹂
﹁−お前が正義なら、俺は悪になるーとー﹂
あの日、俺らが青春を謳歌していた
あの地区で、平穏無事が失われ、
テロリズムの戦火に包まれた⋮。
その炎から、大勢の人間を救出し避難させたとき
唐突に、あいつが俺に言い放った⋮。
−お前が、こんなことをしたのか?
聞くと、あいつはせせら笑い。
さあーと言わんばかりに、肩をすくめ
それから、姿を消したー。
58
HB
地区ー。俺は、鉛筆みたいな名前で、好きだった。︵前書き︶
ずっと、家族ぐるみの親友同士だったじゃないか!?
隼人⋮!
乙覇のことも、実の妹のような
暖かい接し方をしてたくせに!!
どうしちゃったんだ!!
あのHB地区で、
お前と俺は、夢を語り合い
友情を確かめあったのに⋮
今じゃ敵⋮。
デジモノファームの繋がりを
消そうとする悪魔になってしまった⋮。
59
HB
地区ー。俺は、鉛筆みたいな名前で、好きだった。
地区と呼ばれていた、住居区だった。
バグ化して、パージされたそこは、
HB
なんで、鉛筆みたいな名前になったのかは、
創設者の俺ですら知らない。
俺は、そのHBが小学校の時に
使っていた鉛筆の響きに似ていて
小学校時代を思い出して、朗らかになれたから
好きだった。
俺が一番嬉しかった時期が、
小学校時代だった。
⋮まだ、10代の男の楽しかった時代が、
たった6年間の小学生の時だなんて
何だか、切ないが⋮
そう思いながら、俺は、
みんなと同じように頼んだドリンクバーの
コーラを飲みながら
一人一人の顔を見ながら
話始めた。
地区が、俺らの第2の家でもあった。
ゆう﹁俺と隼人は、親友同士だった⋮﹂
﹁あのHB
60
⋮そこで、夢を語り合い、日々を過ごしてたー﹂
地区の空き地で
隼人と俺は、
あのHB
夢を語り合ったり、デジモノファームの将来に
ついてもたくさん語り合った︱。
61
俺の身の上話から始める。︵前書き︶
地区へと繋がるんだ⋮。
俺の身の上話から始める。
俺の身の上話から、HB
そして、このデジモノファーム全体の話になるー。
62
俺の身の上話から始める。
俺が、隼人と親友同士だったのは、
みんな周知の事実だったが⋮
改めて、俺の口から聞くと
みんな、驚愕した顔をして
俺を振り返る。
俺は、ぎょっとした顔を見ながら⋮。
それでも、話を続けた。
それは、バスターズの仲間たちが
ぎょっとはしていたが、その先を聞くことを
望んでいた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ちょうど、俺が、中学に入ってから、
両親を失い、たった二人だった、俺ら、兄妹は、世間から嫌われ、
疎まれ、蔑まれて、生きていくしかなかった。
それでも
中学に入っても、
隼人も、隼人の両親だけは、
優しくて
近所中の鼻つまみものの
俺ら、兄妹を気にかけてくれていた︱。
63
︱父親は、犯罪者だった。
父親は、医療関係の仕事をしていて
脳内電脳化計画を、推奨する一人だった。
それは、脳の一部を電子機器で補うことで
人の意識をネットワーク化して、
より情報の円滑、明確にして、
スピーディーにことを運ぶという理想の元で、
行われていた。
脳内電脳化計画は、
まずは、あらゆる健康診断や試験をパスした適格者の脳を使った。
電脳化された人の脳は
すぐに適応性を発揮し
うまくネットワークを作り上げた。
そう、うまくいったと
思われたが⋮。
そんななか、
電脳化されたある一人の少女が、死亡した。
それから、次々と
意識不明で倒れる人や、亡くなる人の例が度々、報告されるように
64
なった。
原因は、不明で
理由も答えも見つからないまま
医療ミスと判断され
父親は、業務上過失致死で捕まり、裁かれた。
それから、
程なくして、電脳化計画は、
実用化にほど遠い計画だったと結論付けられて、廃止された。
元々、母は父の仕事をあまりいいと思っていなくて、
しかもそのせいで軽い鬱を患ってたのが、
その事件を境にそれが悪化。
俺の目の前でー⋮死んだ。
それ以来、
俺は、乙覇以外の女性を受け付けなくなり、
心を開けなくなった。
人付き合いも苦手になり、
すっかり根暗になってしまった。
65
俺の身の上話から始める。︵前書き︶
デジモノファームの原点
そして、あいつがおかしくなった
地区で、
瞬間でもある⋮
あのHB
本当の兄弟ように暮らしたのにな⋮
66
俺の身の上話から始める。
そんななか、俺は、
ようやく起動にのり始めた、
ソーシャルコミュニケーションツール、
デジモノファームの運営に力を入れ始めた。
顔を見合わせない、見ず知らずの人同士の会話
それを、ただの二次元世界として
俺は、受け入れていたため
根暗とはいえ、楽で楽で、楽しかった。
俺は、それを受け入れ、
楽しんでいると、暫くしてふとあることを思った。
父の名誉を、
少しでも回復させてあげたいと︱。
ただ、人を助けたかった、
守りたかっただけだった父︱。
家庭をかえりみず
仕事ばかりにかまけて⋮。
ひどい父親だったが⋮。
仲間や、開発をした人間は
父にすべてを擦り付け
67
まるで、とかげの尻尾切りのように
父だけを刑務所に送った挙げ句、病死させた。
病死は、10歩譲って
誰も悪くないとしても、脳内電脳化計画を父だけのせいにするのは、
おかしいと思う。
俺も実のところ、父はあまり好きじゃない。
めったに家に帰ってこない癖に
まるで、﹃俺はなんでも判っている﹄
かのような、口ぶりで
頭ごなしにものを言うし、
理屈をこねるやつだから⋮
でも、そんな父でも世間から言われていた
マッドサイエンティストは違うと、信じられた。
それに、その親を持っていただけで
文句を言われる
俺ら、兄妹の居場所も、確保でき保証できると、
考え。
同じ創設者であり、
運営パートナーの隼人に、
ある理論を見せて、相談した。
ウイング
それが、wing理論だった。
68
俺の身の上話から始める。wing理論の話︵前書き︶
あのときは、夢や希望がいっぱいで
いつも、一緒にいられるって思っていたー。
69
ウイング
俺の身の上話から始める。wing理論の話
まだ、開発の途中で
理論だけの段階だった、wing理論︱。
飛ぶ。空を飛ぶための左右ある器官。
羽根=wingという意味が、
意識を、催眠状態にし
完全に休眠しない、眼球運動をするレム睡眠状態で
人の意識体を、装置で読み取り
コード化して、ネットに飛ばすー。
空を飛ぶための、翼を手にいれるような、
ネットを自由に行き来できる
翼を手にいれる−。という意味合いで
wing理論と名付けられた。
人工的に眠らせて
ネットと、いうなの疑似世界に飛び込む
夢のなかに、ダイブさせるのだ。
実は、ノンレム睡眠でも、夢は見るのだが、
ノンレム睡眠で見た夢は、
記憶が蓄積されないほど
眠るため、夢の内容は、
殆ど覚えていない。
見ている夢を覚えていられるくらい︱。
70
記憶が蓄積されるほど、
その機能が、休眠しないレム睡眠のほうが
安全面でも、ネットワーク化、
コード化しやすく、読み取りやすい︱。
それは、脳の方に記憶が残る方が、
装置を通したときに
バックアップデータを取っているのと同じ仕組みになるからだ。
それは、多少の影響から、
コード化した意識体を守ることができ、
ネットワークの世界での迷い込みや、
意識の断裂で現実世界と完全にリンクが切れて
現実世界に戻れなくなるのを、
防ぎやすくすることが出来るため
脳により記憶が残る、レム睡眠が、
より安全で、wing理論との
相性がよいと言われていた。
71
俺の身の上話から始める。︵前書き︶
wing理論︱。
それは、夢のような理想だった。
72
俺の身の上話から始める。
牛嶋隼人に、その理論を見せると
彼は、ほくそ笑むように、口を曲げ
すると、その表情からは意外なことを
言った。
かたき
牛嶋隼人﹁これを、お前の父親のための敵に使うな⋮﹂
俺は、wing理論を使って、
ネットを自由化したいとは思っていたが
別に、それを世間への復讐に使うつもりはなかったので
つい、侵害と言わんばかりにあいつを怒鳴った。
ゆう﹁お前なぁ!!俺が、そんな酷いことをする人間に見えるのか
!?﹂
﹁⋮俺は、ただ⋮。父が残した理論で、世界を⋮。よりネットワー
クを広げて、密接な関係にしたいだけだ!!﹂
それは、本心だった⋮。
俺のいきなりの剣幕に、
隼人は、面喰らった顔をすると
73
すぐに、申し訳なさそうに
切ない表情を作ると
隼人﹁⋮すまなかったよ。ゆう⋮﹂
そう謝ってきた。
俺も、なんで
いきなり、隼人を怒鳴り付けたのか、
自分でも、驚愕だった。
そして、俺も謝った。
ゆう﹁⋮怒鳴って悪かった⋮﹂
74
俺の身の上話から始める。wing理論の話
そんな、些細な言い争いをした俺らだったが
隼人は、それ以上言わず。
俺もそれ以上言わなかった。
それからして、
その理論を元に、開発が始まり
たくさんの時と、試行錯誤を繰り返し
ウイング
というなの装置として、
やがて、wing理論は、
wing
世に出るこことなった。
ヘッドフォンのような形で、頭に装着する︱。
脱却式、装置。
それが、ウイングだ。
そのウイングは、
75
まずは、デジモノファームへと繋げるゲートの役割として
実用化されるこことなった。
俺は、ネットを画面上で閲覧し、
たまにコメントや、文章を投稿しているときに
目に留まった意見があった。
ネットなかに入りたい−
自分が二次元なれたら−とか、そういった内容文面だ。
だが、この理論を実用化し、運営するにあたって
いくつか、強くいっておかなくてはならない。
二次元の世界で、描かれたアバターを動かすのなら、
いきなり、スイッチが切れ、
コンピューターが動かなくなったら
抱えていたデータが消えるだけで、自分自身がなくなるわけではな
いが⋮
まあ、考えはデータが消えて悔しくなるが⋮。
76
やがて、新しく作ってまたやればいいやと、思うだろう。
だが、
ウイングを返して
データ化されたものは、自分そのものだ。
何かの弾みで、
間違って消したとなれば、実情自分自身がなくなることとなる。
だから、また新しくやればいいなんて出来ない
取り返しがつかない⋮
よわ、“死”ということとなる⋮
それをわかった上で、自分を愛し、相手のことも考えないといけな
い。
現実世界と何ら変わりがない社会があるー。
人間関係も、日々の日常も、すべてが意味をなす︱。
それが、ウイングを返して
ダイブ、いや、俺からすれば、飛ぶ。
ウイングするー。世界なのだ。
77
俺の身の上話から始める。︵前書き︶
学校に馴染めなかった俺
そんな俺に、いつだって
牛嶋隼人は、ついてきた⋮。
78
俺の身の上話から始める。
それから、運営が始まった
ある2年後のことだ。
その頃、俺は、やっぱり
中学校のクラスメートはおろか、学年全員とも
うまくやれず⋮。
フリースクールに通うようになっていた。
乙覇は、乙覇で
学校のクラスメートとは、仲良くやっていたが
どうしてか、俺だけは
うまくやれなかった。
そんなときでも、
牛嶋隼人は、いつも俺の傍から離れなれず、
いつも一緒にいた。
おまけに、フリースクールの時までも
一緒にくっいてきた。
俺は俺で、嬉しい半分、ウザイ半分が、せめいで
内心複雑だったが
特に、面と向かって言うってことはしなかった。
79
隼人は、外見、冷たそうに見えて
案外、ひょうきんな性格だ。
根暗、無口の俺とは正反対で、
明るくて、暖かみがある人柄で、
クラスメートからも、別のクラスメートからも、
先輩にまで好かれていた。
それなのに、俺ばかりに目をかけてきた。
いつもの帰り道
二人は影を並べながら、夕日に向かって
歩いている。
ゆう﹁⋮なあ、隼人﹂
隼人﹁⋮どうした?﹂
ゆう﹁お前は、苛立ったり、辛かったり、苦しくなるときってある
のか?﹂
﹁もし、あるのなら、どう還元していくのか、教えてほしい⋮﹂
俺は、いつにやり場のない
痛む心の内を、吐露した。
こんな言い方、友達に対して
失礼な発言だったが
どうにも我慢ならなかった。
80
俺の身の上話から始める。︵前書き︶
隼人に、俺のやり場のない感情をぶつけたら
あいつは、あいつらしい言葉で返してくれた⋮
81
俺の身の上話から始める。
すると、隼人は
一瞬表情を、強張らせると
考えるようにうつ向いた。
隼人﹁⋮俺だってあるよ⋮。苛立ったり、辛かったりすることは⋮﹂
﹁シビアなことを言うと、人は、みんな辛いものを持っていてそれ
を隠して生きている︱。なんて、言うけど、そんなの分かりきった
ことだよな⋮﹂
﹁⋮俺のそんな痛みを、還元できたことはないよ⋮いつも、夜を怯
える子供のように、泣きそうになるときだってある⋮﹂
﹁⋮だから、俺。がむしゃだけどここで生きて、ここにいて、お前
という友人と共に、景色を見て、最後まで、アホでいたいんだ⋮﹂
俺は、唖然として
呆然としたが、あいつらしい回答だった。
ゆう﹁⋮﹂
隼人は、確かにアホみたいなことをして
笑わせてきたり、冗談を言ったりしてきたが
俺は、心の中で言う。
82
﹁⋮そうか、今の俺を俺自身が受け入れて、全力で生きてみよう⋮﹂
それで、救われた訳じゃないが
何だか、その言葉が俺を俺自身にしてくれた気がした。
それから、ほどなくして
俺の拠点は、もっぱらデジモノファームになった。
そこが一番、俺らしくさせてくれる場所で
何よりも一番、誇らしかったからだ。
そして、あの嬉しく暖かかく
辛い思い出があるバグ化したHB地区へと繋がるのだ。
隼人と俺は、あの地区で住居を構えて
二人だけの秘密基地みたいな使い方をしていた。
まあ、俺は、本当に住んでいたけど⋮
隼人は、そこに遊びに来る形だった⋮
あいつは、何度か
現実世界で、ここと同じような日々を作らないか?
と提案し誘ってきたが
現実世界に嫌気が差していた俺には、
無理と答えるしかなかった。
だって、それ以上あの世界いると
83
自分を苦しめるだけだから
少しでも、希望が見える場所があるなら
そこでいいと思う。
だって、自分は一人しかいないから、
大切にできる場所で、生きていたい。
隼人に、それをそのまま言ったら
あいつは、それ以上言わなかった。
そして、そっと応援してくれた。
隼人﹁俺も、できる限り力を尽くすよ﹂
そう言ってくれたのに⋮。
84
HB
地区ー。俺は、鉛筆みたいな名前で、好きだった。2︵前書き︶
俺らの青春のすべてが詰まった
HB地区︱。
あいつは、どうして⋮。
85
HB
HB
地区ー。俺は、鉛筆みたいな名前で、好きだった。2
地区での俺の生活はこうだ。
朝から晩までそこにいて買い物したり、勉強したりして
ネット上の中学に編入して
そこで、学生生活をも始めていた。
俺がいう、現実世界の連中、
つまり、リアルなやつらにしてみれば
決して誉められたことじゃないけど⋮
それでも、俺は、精一杯に頑張っていた。
そうこれからが、俺の物語の始まりと
思いながら⋮
夕方、あいつが、ログインしてきて
俺ん家を訪ねてきた。
ピンポーン!
玄関を開けると、あいつはなぜかスケートボードを持っていて
隼人﹁よっ!﹂
オチャメみたいな顔で、手を上げる。
86
こんな、日常なんだ⋮。
その頃の俺は、隼人が会いに来てくれるのが
嬉しくて、性格も少しずつ
明るくなってきた。
まあ、本当に少しだけだが⋮
それから、俺らは外に出て
隼人と交互に、スケートボードを乗る
⋮みたいなことをしながら
あの空き地にいった。
あの太い三本の土管の、
一番天辺に登り
日が暮れていくのを見詰めていた。
多少は明るくなってきた俺でも
まだ、心の中の根底は変わっておらず
ずっと、苦しく⋮
消えたいと思っていた節もあった。
あの人は、夢を叶え
俺が手に出来ていない、あの夢を叶えたとか⋮。
87
ひがみ根性丸出しで⋮。
よく、隼人に愚痴りまくっていた
ブツブツ、呟きながら⋮。
ゆう﹁俺、何も持っていないよ⋮﹂
隼人﹁なに言っているんだよ⋮お前にはこの世界があるだろ?﹂
ゆう﹁⋮希望ってあるのかな?﹂
隼人﹁あるよ⋮なかったら、お前はこの世界に来なかったはずだ⋮﹂
ゆう﹁⋮﹂
隼人﹁頼む⋮俺の前からいなくならないでくれ⋮﹂
急に、隼人は、俺を振り向くと
泣きそうな顔で、懇願するように言う。
隼人﹁お前は、ここにしかいないんだ。安藤ゆうという名の俺の親
友は、ここにいるたった一人だけだ⋮﹂
隼人は、俺を説得しているようだ。
もう一度やり直したいとか、
言っているからきっと、
それを引き留めたいんだと感じた。
88
まだ、俺には、そんな意思はないから
慌てて
ゆう﹁⋮まあ、漠然とした、思いならある⋮﹂﹁こことの繋がりが
俺とお前との繋がりになるのなら、俺は、この世界を守る⋮﹂
そう告げた。
そう初めて、俺は、誓ったんだ⋮。
89
HB
地区ー。俺は、鉛筆みたいな名前で、好きだった。2︵前書き︶
その時の、パアーと晴れたお前の顔を
今でも、忘れない。
なんで、変わっちゃったんだよ!隼人!!
90
HB
地区ー。俺は、鉛筆みたいな名前で、好きだった。2
俺が、心の底からそれを誓うと
隼人は、嬉しそうに微笑んでくれた。
俺らは、友情を改めて確かめあいながら
俺は、初めて誓った。
この世界を守り、同じような繋がりを
持っている人たちを救うとー。
だけど、HB地区はあの凄惨なテロのせいで
跡形もなく、バグ化し
対処が出来なくなった空間は、パージされた。
悔しくて、悔しくて、今でも、辛い俺の楔︱。
そして、隼人の変わりよう︱。
許せなくて、許せない︱。
俺は、あの時に
チームを作り、あいつを捕まえると、心に決めた。
俺は、すべてを仲間たちに話ながら
涙と鼻水を垂らしていることに気づき
手で拭って、
91
紙のお手拭きで、拭き取り
また、話始めた。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
デジモノファームでは、
犯罪や殺人といった凶悪、
重犯罪はおろか軽犯罪すらなかった。
最高管理者、コードオブゴッド
守護神︱。
“神”が、その人たちを排除するからだ。
デジモノファームで、
悪いことをすれば、決定的な物的証拠が残る。
それをもとに神が、警備に知らせるため
犯罪を犯したものは、
その世界から強制退会させられる︱。
でも、
あの時から、おなかしな兆候が見えていたのかもな⋮。
俺を説得したり、随分まともなこと言うあいつが、
急に、変な考えを持って︱。
92
HB
地区ー。俺は、鉛筆みたいな名前で、好きだった。︵前書き︶
これが、テロリズム始まりか⋮
“神”は何をしていたんだ!!
93
HB
地区ー。俺は、鉛筆みたいな名前で、好きだった。
胸騒ぎととに、眠りついた俺に
ある朝、突然の爆音が轟いた。
ドッカーン∼∼!!
ズッシン⋮ビリビリビリ⋮
俺は、飛び起き。家が揺れるを感じた。
鼓動が跳ね上がり、息苦しくなった。
ハァーハァーハァーハァーハァーハァー
俺は、ベッドの布団をめくり起き上がると、
素早くベッドの下に潜り込んだ。
それだけ、すごい揺れで
とにかく、身を隠さないとと思ったからだ。
ゆう﹁うっ⋮﹂
俺が、次に目を覚ますと
けたたましいサイレンの音と、避難誘導のアナウンスが聞こえた。
う∼∼う∼∼う∼∼う∼∼
94
−緊急事態発生−。一般市民の皆さん、指定の避難場所に避難して
ください!−
目を白黒させながら、
ベッドの下から這い出ると
何が起きたのか、必死に頭を整理し始めた。
恐怖からか、全身が小刻みに震えている。
こんなことは、起きるはずがない⋮。
ギクシャクしながら、立ち上がると
ドアを開けた。
95
HB
地区ー。俺は、鉛筆みたいな名前で、好きだった。2︵前書き︶
爆音とともに、
目が覚めた朝の事だ︱。
96
HB
地区ー。俺は、鉛筆みたいな名前で、好きだった。2
何事が起きたのか⋮
俺は、ただただ恐怖で震えていた。
ガチャ⋮
外へと出ると
目の前が、また真っ白になる⋮
ゆう﹁ゴホゴホ⋮﹂
俺は、目の前の煙を思いきり吸い込んで
むせ返し、膝をついた。
視界が真っ白でなにも見えない⋮
白い煙が立ち込め、何やら炎の気配も感じる。
人の悲鳴
叫び声︱。
駆けずり回る音が響いた。
これは、異常事態だ⋮。
97
人としてどうかしているくらいの遅さで
気が付き
自覚したとたんに
その場で腰が抜けた。
ゆう﹁はぁぁぁ⋮﹂
俺は、バカみたいな声を出して
尻餅をつくと
尻が地面についたまま
後退りをする。
とにかく、逃げないと
頭では、分かっていても
体が動かなかった。
98
HB
地区ー。俺は、鉛筆みたいな名前で、好きだった。2︵前書き︶
隼人の言動の意味が理解できなかった俺
あのときの止めるべきだった⋮。
99
HB
地区ー。俺は、鉛筆みたいな名前で、好きだった。2
﹁⋮ゆ﹂﹁⋮ゆう﹂
﹁おい、ゆう!確りしろ!﹂
暗闇のなかで、俺を必死に呼ぶ声がした⋮
俺⋮。
頭のなかで、何度も、言葉をはするが
中々、声がでなかった。
闇のかなで、もがいているうちに
声がはっきりしてくる。
﹁おいっ!ゆう。俺だ、隼人だよ﹂
ゆう﹁はや⋮と⋮﹂
俺はようやく声が出て、
ぱっちと目を開いた。
すると、目の前の視界に
泣きそうな隼人の顔が映った。
隼人﹁ゆう⋮﹂
100
隼人は、鼻をすすっている。
ゆう﹁⋮お前、泣いているのか⋮﹂
よくわからないが、隼人は、泣いているようだ。
何となく、周りを見渡すと
ひび割れた白い壁と、
ゴツゴツと歪になった地面を感じた。
どうやら、何処かの場所で倒れているようだ。
俺⋮。
慌てて、起き上がろうとしたが
一瞬、体が痛んだ。
ゆう﹁うっ⋮﹂
隼人﹁無理して動くな。痛んだろう?﹂
隼人が手を差し伸べてくれる。
ゆう﹁⋮何が、起きたんだ⋮﹂
疼く後頭部を、ゆっくり擦りながら
起き上がって聞いたが⋮
101
隼人は、目を伏せて
下唇を噛み締めて、言いにくそうにする⋮。
ゆう﹁⋮何が、起きたのか⋮教えてくれ⋮﹂
強く聞くと
隼人は、意を決して
俺を見詰め
隼人﹁⋮ゆう、落ち着いて聞いてくれ⋮﹂﹁⋮これは、クーデター
かテロだ⋮。﹂
﹁⋮何処かの、頭の狂ったやつが、破壊ソフトウェアを侵入させた
⋮﹂
﹁⋮どういうわけか、“神”は、それを止めなかった⋮目をつむっ
た、と、思うんだ⋮﹂
ゆう﹁⋮馬鹿な!﹂
俺は思わず、叫ぶ。
何故なら、“神”は、
俺か隼人しか、考えられなかったからだ。
その当事者が、
そんなことを言うのだ。
絶対おかしいに決まっている。
102
HB
地区ー。俺は、鉛筆みたいな名前で、好きだった。2︵前書き︶
隼人は、裏切り者なのか!?
103
HB
地区ー。俺は、鉛筆みたいな名前で、好きだった。2
叫んだ瞬間、ギクリと痛みが走ったが
思わず、隼人を睨み付けた。
隼人﹁~~~~~~~﹂
気まずそうに、短い髪の毛をガシガシ掻く。
どうやら、隼人も気づいているようだ。
ゆう﹁俺とお前だけだぞ⋮﹂
隼人﹁⋮ああ﹂
こっちを見ないで、濁す。
ゆう﹁まさか!﹂
俺が叫ぶと同時に、
ドッカーンーー!!!!!
激しい衝撃とともに
大きな揺れが来る。
ゆう﹁うあ!﹂
俺はひっくり返る。
104
隼人は、俺に覆い被さった。
破片が飛び散るのを、隼人の影から見て
俺は、
ゆう﹁~隼人!お前!﹂
105
HB
地区ー。俺は、鉛筆みたいな名前で、好きだった。2︵前書き︶
お前が壊したのか?
あの世界を、傷つけたのか?
106
HB
地区ー。俺は、鉛筆みたいな名前で、好きだった。2
隼人は、爆発から俺をかばってくれたのに
つい苛立って、
あいつを怒鳴ってしまった。
ゆう﹁お前なのか!?テロを起こしたのは!﹂
隼人は、顔をしかめながら起き上がると
隼人﹁~~~俺⋮じゃない⋮﹂
呻くように言うと
隼人﹁立て!逃げるぞ!!!﹂
そう言うと走り出した。
ゆう﹁待て!﹂
後を追うように、立ち上がり
走る。
背後からは、爆発音が続き
俺たちに迫るかのように、音が追い掛けてくる。
俺は、頭の中が
こんがらがっていた。
107
何で、あいつははっきり否定しないんだ⋮。
何で、逃げるように⋮俺から逃げるように⋮
そんな接し方をするんだ!!?
頭の中で、気がおかしくなりそうだ⋮
俺は、錯乱しそうになりながら
足を必死に動かした。
108
HB
地区ー。俺は、鉛筆みたいな名前で、好きだった。2︵前書き︶
鼓動が、ドクドクと響く⋮
109
HB
地区ー。俺は、鉛筆みたいな名前で、好きだった。2
俺は、足をもつれさせながら
必死に、隼人の後ろを追いかけた。
ここの道は、どうやら、
大広場へと向かっているようだ⋮
花壇や森林が周囲に生い茂り
みんなの憩いの広場⋮
あそこに何が⋮!
背後から、爆発音が続き
大きな爆発音が響く。
どうやら、追いかけられているようだ⋮。
冷たい汗が、こめかみから流れ
やがて、掌にもかいてきた。
すると、背後の音とは別に
機械音や、爆発音が
広場に、近づくにつれて
どんどん大きくなる。
ゆう﹁お前!本当に何も知らないのか!?﹂
我慢ならずに叫ぶが⋮
110
隼人﹁⋮分からない﹂
短く答える。
隼人もよく、分かっていないようだ。
ゆう﹁何なんだよ!!﹂
思わず、怒りをぶちまけるが⋮
隼人は、答えなかった。
意味が分からない⋮。
111
HB
地区ー。俺は、鉛筆みたいな名前で、好きだった。2︵前書き︶
この世界があいつらによって壊されていく⋮。
それは、苦しくて辛いものだ。
112
HB
地区ー。俺は、鉛筆みたいな名前で、好きだった。2
角を曲がり、背後の敵を意識しながら
広場へと向かうと隼人が俺を呼び止めた︱。
隼人﹁危ない!ゆう−!!﹂
俺は、
誘われるように、隼人の後ろを追いかけ
やがて、大広場の入り口へと
差し掛かった。
そのまま、広場に近づいていくと
入ろうとした俺に
いつのまにか、背後にいた隼人に
肩を捕まれ
引きずられるように、
物影に突っ込まれた。
俺が怒鳴ると分かったらしく
口を塞がれた。
モゴモゴ、暴れ
手をほどくと
ゆう﹁何だよ!﹂
軽く言って隼人を振り返った瞬間︱。
113
ミシ⋮
急に、俺らの前が影になった。
隼人が硬直したのが分かり
嫌な予感が駆け巡り
鼓動が早くなった。
恐る恐る、目の前を見ると
そこには⋮。
俺は、恐ろしすぎて
絶句した。
目の前には、
新幹線の前のような頭にギザギザしたワニの口、手足がつき
二足歩行のやつがいた。
そいつは、ウィーンと電子音を鳴らしながら
頭の近くについた手をくるりと回し
機関銃の銃口を俺らに向けた。
俺ら⋮。
そう思って、目をつぶった瞬間ー。
ズドーンー!!
114
HB
地区ー。俺は、鉛筆みたいな名前で、好きだった。2︵前書き︶
俺は、その状況を⋮
苦しかった⋮
115
HB
地区ー。俺は、鉛筆みたいな名前で、好きだった。2
そう、俺らと鉢合わせした
目の前にいる、機械は
侵入してきた破壊ソフトの一匹だったー。
俺は、あいつが銃口を構えた瞬間。
終わったと思った。
だから、来るべき衝撃や痛みを覚悟したが
目をつぶった今でも、
それは、来なかった。
代わりに、激しい爆発音と
暖かい風が、吹き付けてきた。
﹁何をしている⋮。早く避難場所へ行きなさい!﹂
不意に、男性の声が聞こえた。
俺が、目を開くと
そこには、ワイシャツ、ネクタイを締め
その上には、クリーム色で襟の縁が黒の
ジャケットをきて
肩には、★の階級がついて、
お巡りさんのような帽子を被った
若い男性が立っていた。
116
彼は、険しい顔をして
俺らを振り返って
そう言ったのだ。
彼の手には、銃が握られ
その銃口から、煙が立っていた。
ああ⋮。何らかの権限を放ったんだと
俺は、その状況を冷静にいや、
頭の一部が麻痺しているが、判断する⋮。
その人は、警備情報調査特捜室。−警備特捜室−のソフトのようだ。
彼は、叫ぶ。
﹁早く、ここは危険です!逃げて下さい!!﹂
117
HB
地区ー。俺は、鉛筆みたいな名前で、好きだった。2︵前書き︶
ますます、分からなかったが
気持ちは同じだった。
118
HB
地区ー。俺は、鉛筆みたいな名前で、好きだった。2
俺は、わなわなして
何も話せなくなっていたが
隼人は、頷くと
隼人﹁走れ!﹂
俺を引っ張り走らせた。
警備情報調査特捜室のソフトは
俺らを見送ると、さっと
その場からいなくなった。
ゆう﹁どういうつもりだ!!﹂
﹁何で、何も答えないんだ!!﹂
俺は、混乱して滅茶苦茶に騒いだ。
隼人﹁⋮頼むから、黙っててくれないか⋮。今は⋮﹂
﹁俺らの、今やれることをするんだ⋮﹂
﹁⋮お前もそれを望んでいるんじゃないのか?﹂
ゆう﹁えっ!え!?﹂
119
隼人﹁人命救助ー。救うんだろ?この世界︱。﹂
120
HB
地区ー。俺は、鉛筆みたいな名前で、好きだった。2︵前書き︶
意味がわからないまま
引っ張られたが、
ようやく、わかり始めた。
121
HB
地区ー。俺は、鉛筆みたいな名前で、好きだった。2
俺は、一瞬
隼人の言葉の意味をとりかねて
聞き返したが
俺らの使命みたいのを感じていた。
俺らは、ここの創設者だ。
だから︱。
破壊者たちの好き勝手に
させるわけにいかなかった。
みんなを守らないと、そう思ったのだ。
でも、どうやって守るんだ?
自分達ですら今は、危ういというのに
どうやって?
隼人﹁⋮今、外に出られなくて、シェルター内に閉じ込められた人
たちがいるんだ﹂
﹁その人たちを、別の避難場所に避難させないといけないんだ。﹂
﹁警備の人たちは、破壊ソフトの殲滅に着手していて、その人たち
に手が回っていないんだ⋮だから、助けないと行けないんだ⋮﹂
122
隼人は、必死に俺をつかみ
走りながら、訴えるように言う。
俺もようやく、わかり始めた。
隼人がしたいこと︱。
俺がしたいこと︱。
123
HB
地区ー。俺は、鉛筆みたいな名前で、好きだった。2︵前書き︶
俺なんて、最低だったんだろう⋮
あいつの気持ちをくんでやれなかった⋮
124
HB
地区ー。俺は、鉛筆みたいな名前で、好きだった。2
敵の襲撃をかい潜り
しばらく、走ると
いつの間にか、広場の中に入っていた︱。
みんなの癒しの場所、憩いの広場が
今は、戦炎に包まれていた。
木々が燃え上がり
土を固めた地面は、地割れし
バグ化するように
黒くノイズがはしり
爆発が、あっちこっちに発生していた!
侵入してきた破壊ソフトが、すべてを凪ぎ払い
壊しているのだ。
幸いにも、俺ら以外の人はいない⋮。
ゆう﹁ああ⋮﹂
俺は、隼人に肩を掴まれたまま
心が今にも、崩れそうになった。
125
ゆう﹁俺らの、世界が⋮﹂
泣きそうになり、思わず声を漏らすと
黙っていた隼人が、こう言った。
隼人﹁土地や建物は、俺たちじゃどうすることも出来ないが、人は
救えるだろ?﹂
﹁俺は、今消えそうになっている、命を救いたいんだ﹂
隼人の言葉に激しく首をふると
ゆう﹁でも⋮帰る場所がないと意味がない⋮﹂
隼人﹁人がいれば、帰る場所を作れる⋮﹂
俺は、隼人を仰ぎ見ると
ゆう﹁おかしい⋮だろう⋮。この世界はたった一つだ⋮。みんなこ
こに帰りたいんだよ⋮﹂
﹁まさか!!!﹂
目を見開いて、息を呑むと
ゆう﹁⋮お前、それが目的で、こんなひどいことを?﹂
そう聞くと
126
隼人は露骨に嫌な顔をすると
隼人﹁⋮俺は、決して望んでいない!俺の知らない何者かの目論み
だろう⋮な﹂
憤りが隠せない声で、吐き捨てる。
そして、
隼人﹁頼むよ。ゆう﹂﹁ここに住んでいる人を助けてくれ⋮﹂﹁ま
だ、半数が逃げ遅れているんだ﹂
﹁しかも、この広場のちょうど地下の場所がシェルターなんだ。だ
から、破壊ソフトがここを重点的に狙っている⋮﹂
﹁人の命が消えてしまったら、帰る場所も何も残らなくなる⋮﹂
﹁人を帰る場所に戻したいなら、救わないと、誰も守れない、救え
なかったら、帰る場所がなくなちゃうんだぞ!?﹂﹁この世界を救
うのは、土地や建物じゃなく、人だろう?﹂
﹁みんなの命を救ってくれ!﹂
俺は、はっとして
立ち上がると
ゆう﹁隼人!ここの入り口を教えてくれ!﹂
そうあいつに詰め寄った。
127
HB
地区ー。俺は、鉛筆みたいな名前で、好きだった。2
俺は、まだ、混乱していた
こんなことをしたのは、
隼人じゃないのかという疑念もあるし
人を助けたいという、
隼人の気持ちに答えたい自分もいる⋮
ただ、ほんの一時、いや一瞬だけでも
よかった!
俺が︵隼人︶やったってことを、俺の問いかけを
否定してほしかったんだ。
俺は、とにかく
人命救助だと感じて、
隼人にシェルターの入り口はどこだと、詰問した。
詰め寄られた隼人は、目を白黒させ
隼人﹁⋮案内してもいいが⋮﹂﹁ただ⋮﹂
歯切れの悪い返事をすると俯く。
人が、逃げ遅れているのなら
安全な場所に避難させないといけない−
一刻も争うというのに⋮
この期に及んで⋮
128
俺は、隼人を責めるように
睨み付け
ジリジリして、その先を待つ
隼人﹁⋮案内はできるのだが⋮その入り口には破壊ソフトが無数に
いて、入り口には近付けないんだ⋮﹂
俺は、遂に怒鳴る!
オブ
ゴッドに、
ゆう﹁どうして、お前はそんなことをはじめから、言わないんだよ
!!﹂
一体、隼人は何を考えているんだ!?
なにも、考えていないで
俺らは広場に来ていたのか⋮!?
少しの間、黙っていた隼人は
オブ
意を決したような表情で、その先の言葉を伝える。
隼人﹁⋮この場合、本来は⋮“神”に−、コード
力を借りないと、出来ないからだ⋮﹂
﹁俺は、⋮。破壊ソフトを侵入させたのは、守護神。コード
ゴッドだと推測しているし、正直、力を借りるとなると、かなり
のリスクだからだ⋮﹂
﹁だから、ゆう−﹂
129
そう言って、隼人は俺をまっすぐ見詰めると
隼人﹁お前の、意見をあおぎたい−﹂
130
HB
地区ー。俺は、鉛筆みたいな名前で、好きだった。2︵前書き︶
俺は、勘違いをしていたんだ
隼人は、隼人だ⋮
131
HB
地区ー。俺は、鉛筆みたいな名前で、好きだった。2
真剣で、真っ直ぐな眼差しを
向けられ
俺は一瞬、たじろいだ。
隼人は、俺よりもまともな考えの持ち主だと感じたからだ。
目の前に居る友達を疑うよりも先に
やるべき事があった。
俺は、そんなあいつの姿を見て
申し訳ないという気持ちと同時に、まるで犯人扱いをして
勝手に苛立って
子供のように、喚き散らしたことが情けなくなった。
ゆう﹁すまなかった⋮。勝手なことばかり言って﹂
俺は、心から反省し、隼人に頭を下げると
﹁俺らのどちらかが“神”ならば、一緒に権限を発動しよう⋮﹂
﹁これは、俺の推測であってほしいが、“神”の権限が壊れていて、
もし、飲み込まれてしまったら危険な存在になってしまう⋮﹂
﹁⋮だから、二人で行うんだ。いつも俺ら、コンビでやってきただ
ろう?﹂
132
﹁その方が、きっといい⋮﹂
隼人は、俺の顔をしばらく
考える様に、まじまじと見つめると
隼人﹁⋮わかった、そうしよう。俺たちコンビだものな⋮﹂
そうにっと、笑ってくれた。
そう俺たちは、コンビだ。
デジモノファームの創設者であり、運営の共同、コンビ。
俺らはいつも二人だ。
隼人﹁さあ⋮﹂
俺に、手を差し伸べる隼人。
ゆう﹁ああ⋮﹂
俺は、その手を取った。
そして、隼人が言った。
隼人﹁行こう、ゆう。シェルターの入口は、この広場を抜けた西側
の外れだ﹂
133
HB地区。俺は鉛筆みたいな名前で好きだった。それが、戦炎に燃えている。︵
俺らは、こうして友情を確かめあったのに⋮
隼人、あの時、何があったんだ?
134
HB地区。俺は鉛筆みたいな名前で好きだった。それが、戦炎に燃えている。
ゆう﹁行こう!隼人﹂
俺らは、男としては恥ずかしいが手を繋いで
シェルターの入り口へと向かおうとした瞬間︱。
ウーイン⋮
不吉な、電子の骨格を動かす音がして
そっちに振り返ると
破壊ソフトが、目の前にいた。
やつは、カクカクしたキューブをたくさん集めた
二足歩行のロボットの出で立ちで
俺らの目の前を、伺い見るようにすると
腕を回して、銃の形に変えた。
ゆう﹁くっ﹂
明らかにさっき、入り口付近で出くわしたやつとは
違うと、本能が悟った。
135
銃口は、まっすぐ俺らに向いている。
心の中の俺が言った。
−あれに頼るしかない。隼人に伝えて、あれをやれ⋮。
でも、俺は、首を振る。
まだ、決心がつかない。この世界を守りたい、だけど
この世界を壊す役にはなりたくない⋮
本当に、あれをやるのか⋮
俺は、心の中に何度も問い掛ける。
隼人がいる、俺がいるからといって
安全性が保証されているわけではない⋮。
もし、間違いが起きれば
今、目の前にいる破壊ソフトよりも、厄介で危険なものなる⋮。
その可能性だってある⋮。
俺、持てないよ⋮。俺らが謝って、命に変えて、戻そうとしても、
戻せないかもしれないんだぞ⋮
怖じ気づく、自分。馬鹿だと思うけど⋮
136
それだけの命が、乗っているんだよ⋮
銃口にやがて、光が点り
光が集まっていく。
ああ、ビームだ。あいつらの得意技だ。
俺がたじろいでいると
隼人が、不意に手を握り返してきた。
俺が振り返ると
隼人﹁お前は、一人じゃない。俺らは今、リンクしているんだ﹂
﹁一人じゃ出来ないことも、二人なら出来る︱。お前そう言ったじ
ゃないか⋮﹂
隼人の言葉にはっとすると
何、怖じ気づいているんだと、心の中で自分を蹴ると
俺は、告げた。
ゆう﹁隼人、任せる。頼んだ⋮﹂
隼人﹁分かった。任せろ!﹂
そう強く頷いた。
137
HB
オブ
ゴッドの権限なのか−
地区ー。俺は、鉛筆みたいな名前で、好きだった。2︵前書き︶
これが、“神”の力、コード
俺は、ただ怖かった。
138
HB
地区ー。俺は、鉛筆みたいな名前で、好きだった。2
俺は、隼人の手を握り返すと
目を閉じる。
すると、目の前に電気の回路が現れた
細いコードが無数に張り巡らされて
そのコードを行き来するように、
光が走っていく。
俺は、自らの意識体を
奥深く、入り込ませていく。
すると、真っ暗な空間に、
白い網目上の細かい
線がたくさん描かれた。ホールが現れ
俺は、そのホールの中に入り、泳いでいく。
しばらく、その空間を泳いでいくと
やがて、視界が開け、目の前が真っ白になった。
俺が、次に目を開くと
139
いつの間にか、隼人が俺の一歩前に出て、
空いている左手を、破壊ソフトに向けていた。
隼人﹁⋮削除する−﹂
隼人の声とともに、掌から白い光線が
出て、真っ直ぐに破壊ソフトを貫いた。
しかも、貫いたのに、音もなく
とても静かだった。
背中に、なぜか冷や汗が滲んだ。
目の前で、ビームを放とうとしていた
破壊ソフトは、貫かれると、
一瞬後ろに体勢を崩し、音もなく消えた。
140
HB
地区ー。俺は、鉛筆みたいな名前で、好きだった。2︵前書き︶
なあ、隼人。俺のあの時の感覚は
間違いじゃないだろう?
141
HB
コード
オブ
ゴッドの力なのか
地区ー。俺は、鉛筆みたいな名前で、好きだった。2
ゆう﹁はぁあっ⋮﹂
俺は、腰を抜かしてしまった。
隼人が怖いんじゃなく。
いや、守護神
⋮力が怖かった。
あれが、“神”
今さらになって、俺は、怖くなった。
大きな力、これだけの力が怖かった。
初めて気がついたのだ。
俺らは、こんな力を有しているだとー。
力の重み。ふるう痛み
ようやく、分かった。
ゆう﹁⋮﹂
俺が腰を抜かし、震え上がると
おもむろに、隼人がすまなそうな顔して
142
近づき
隼人﹁ごめんな⋮。こんな力に頼ることになってしまって⋮﹂
﹁命に変えてでも、絶対にこの力で人を傷つけない⋮﹂
俺に強く、そう言った。
ゆう﹁おっ、おぅ、おおう﹂
震え上がりながら、隼人の思いに応えるため
声を振り絞った。
そして、俺らは、
また、走り始めた。
完全に俺は、隼人に引っ張られる形で
シェルターに向かい始めた。
143
HB
地区ー。俺は、鉛筆みたいな名前で、好きだった。2︵前書き︶
なあ、あの時とお前は、一緒か?
それとも、完全に悪の道に進んだのか?
144
HB
地区ー。俺は、鉛筆みたいな名前で、好きだった。2
みんなが、閉じ込められているという
シェルターへと向かう中。
たくさんの破壊ソフトに襲われる度に、
俺らは、幾度となく神の権限をふるった。
﹁︱︱︱﹂
力は、ただプログラムを開き、右手をあげれば
そのまま相手を討つ
射たれた相手は、
音もなく、消える。
悲鳴も、身動きさえもなく。
凄く、静かで
穏やかに⋮
力を行使するほど、俺は、何かを失っていく気がしたが
これは、正義のためと
そんな感情を誤魔化した。
ドッカーーーン!
破壊ソフトは、ミサイルや機関銃を
手当たり次第に、ぶちまけて壊していく⋮。
145
青い空にも、無数のノイズが走り
くすんでいる⋮
大きな広場、木々が植わり
華やいだ、花壇も
今にも、破壊尽くされそうになっている。
俺は、それが悔しくて
何よりも、苦しくて辛かった⋮。
みんなの幸せな場所が、壊されていくのが
我慢ならなかった。
はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、︱。
力を使うからなのか
息切れが、激しいだけど
破壊ソフトに破壊さていく
すべてを見ているよりは、うんとましだ。
痛みは、守れない悲しみより、ましなんだ。
俺は、息を切らしながら
隼人の手を握り返す。
隼人は、俺より体力を消耗しているようだ。
146
大粒の汗を流しながら
それでも、強く手を握り返してきた。
隼人も同じ思いなのか⋮
俺らは、今は同じ思い、同じ感情で動いているんだ。
147
HB
地区ー。俺は、鉛筆みたいな名前で、好きだった。2︵前書き︶
その敵は、今まで見たことがなかった⋮
まあ⋮破壊ソフトも実物を見るのが初めてだったが⋮
148
HB
地区ー。俺は、鉛筆みたいな名前で、好きだった。2
同じ時、同じ思いで
俺らは、走っている。
不安がる心を誤魔化して︱。
はっ、はっ、はっ、はっ、はっ、はぁー
俺らは、息を切らしながら
走る。
しばらく、走ると隼人が
道のない花壇の近くに、寄っていくのを感じた。
ゆう﹁⋮お前なにやっているんだ!?﹂
隼人﹁⋮ここを横切って、シェルターに向かう﹂﹁それに、背後の
敵を倒さないと︱﹂
ゆう﹁あぁ?﹂
俺は、気付いていなかったが
背後には、敵の気配がして
149
ガシャン、ウィーンとか
そんな、ロボットチックな音ではない。
何か、低く唸る声と、
睨み付けられているかのような気配。
俺は、悪寒が走り
思わず目を見開いた。
ゆう﹁︱!﹂
どうやら、敵は俺らを諦めていないようだ。
敵たちは、俺らをロックオンして
仕留めるまでは、お掛け続ける⋮
俺は、ようやくそれに気づき
自分の愚かさに、思わず舌打ちをする。
ゆう﹁⋮今さら、気付くなんて、情けない⋮﹂
俯く俺に、隼人は、手を引っ張ると
隼人﹁⋮後悔は後にしてくれ。とにかく、花壇を横切るぞ﹂
そう言って、手を引いて
花壇の中に入った。
150
とにかく、走ろう!
隼人が俺に、言うと
俺らは、走る。
俺は、背後の敵を意識し
どういったやつなのか、気配を探った。
獣みたいな声で、唸り
体は、どうやら、俊敏なやつではなさそうだ。
試しに、俺らが
左右に動けば、振り回される音かする⋮
ときどき、どこかに幹当たる音もする。
破壊ソフトって、こんな動物?いや、獣か?
とにかく、そんなやついたか?と俺は、思った。
俺の頭は、以外と冷静だった。
太陽の強い光が差し込み
拓けた場所に俺らは出た。
振り返る俺ら⋮
目の前に晒された敵の姿に仰天した。
151
HB
地区ー。俺は、鉛筆みたいな名前で、好きだった。∼俺は、正義じゃない
俺は、ずっとためらっていた力を
このときはじめて使った。
怖かった⋮
辛かった⋮
152
HB
地区ー。俺は、鉛筆みたいな名前で、好きだった。∼俺は、正義じゃない
そいつは、猪のような体をして
頭には、崩れたアバターたちの顔が、無数について
まるで、ゾンビ動物みたいだった。
俺の本能が、悟ったのか
思わず、呟いた。
ゆう﹁⋮アバターを喰って、自分の顔にしているか?﹂
俺は、左側の手を握り
阻止できず
こんなやつを入れてしまい
そのせいで
アバターたちが犠牲なったことを知り
不甲斐なくて、悔しくて
仕方がなかった。
俺は、ついに決心した。
ゆう﹁隼人!俺にやらせろ!﹂
涙を堪えながら
歯を食い縛ると、くっと顔をあげて
153
相手を睨み付けた。
猪のような敵は、興奮しているか
威嚇する犬のように
前のめりに、牙をむき出しにし
今にも、襲いかかろうとしていた。
俺は、
犠牲になったアバターたちを思い
ゆう﹁すまない⋮。俺らのせいで犠牲になって︱﹂
﹁切るけど、俺は、お前たちの顔を忘れないよ﹂
そう言って
俺は、
﹁削除する︱﹂
154
HB
地区ー。俺は、鉛筆みたいな名前で、好きだった。2
ほんの少し力を使っただけで
こんなに、息が上がるなんて
思わなかった。
戦いの声を聞いた
155
HB
地区ー。俺は、鉛筆みたいな名前で、好きだった。2
ゆう﹁−削除する︱﹂
俺が左手を挙げると
大きな体をした動物は、何も声をあげず
横倒しなり、スッと消えた。
俺らは、それを見届ける。
力を使うと何故か疲れる、どうしてなのか⋮
俺は、肩で息をすると
必死に乱れた息を整えようとしたが、それでも⋮
ゆう﹁うっ、﹂
疲れがピークに達してしまい、
思わず崩れ倒れた。
膝をつく俺の体に
隼人は、肩を入れると
隼人﹁大丈夫かい?﹂
隼人を見つめると、
息を整えながら
首を降る。
戦いの声を聞いた
156
隼人﹁無茶をする−﹂
隼人は、少しだけ笑ったが
次の瞬間、顔をこわばらせて
前を見つめた。
俺も、その反応に習うように前を見つめた。
さっき追手を誘うために
通った道と草むらの場所に、
大小の赤と黄色と緑の目が光っていた。
そんな奇妙な、大群を見た俺は、
苦笑いをへなっとした。
ああ⋮集まっているぜ⋮
隼人は、険しい顔をすると
隼人﹁俺に任せろっ﹂
俺の肩を軽く叩くと
目の前を睨み付けて、立ち上がった。
157
HB
地区ー。俺は、鉛筆みたいな名前で、好きだった。2︵前書き︶
隼人。俺は、お前が変わらないと信じていた⋮。
158
HB
地区ー。俺は、鉛筆みたいな名前で、好きだった。2
俺らは、幾度なく力ー。神の権限。削除プログラムを使う︱。
その度に、体も別のコードに組み換えられて
オブ
ゴッドにー。近づいていく思考と身体︱。
換わっていってしまったのかもしれない。
神、コード
体も、換わっていくから
心さえも、鈍くなって⋮。
そんなことにも気づきもせずに
俺らは、ただがむしゃらで
必死だった。
それだけ、人のために俺はなりたくて
隼人も人を助けたくて
俺らは、互いに力を貸し合ったのだ。
正義は歪まない!
ずっと信じていたのだ。
159
正義は正義で、悪は悪︱。
その隔たりは越えない⋮
俺らは、越えない⋮
馬鹿みたく信じていた⋮。
俺は、本当にバカだった⋮。
もっと、考えて頭を使えば良かったんだ⋮
160
HB
地区ー。俺は、鉛筆みたいな名前で、好きだった。2︵前書き︶
俺は、大親友を疑いたくなかった⋮
信じてやりたかった⋮
161
HB
地区ー。俺は、鉛筆みたいな名前で、好きだった。2
俺らは、幾度なく襲ってくる敵を
交互に撃ち落としていく。
初めて、力ー。
削除プログラムを使ったときは
こんなにも負荷が激しいのかと
染々感じるほど、息が上がったが、
ふと気がつくと
息もさほど上がらずに、すんなりと行えるようになった⋮。
まだ、俺らは
敵を誘った崖のような場所から
身動きがとれなかった。
どうやら、今度は俺らが
さっきの敵のように、追い詰められたようだ。
俺は、一人、歯噛みする。
162
ウジャウジャと現れたものたちは、
どうやら、破壊ソフトが壊し
弱った防壁から侵入してきた
本来なら、防ぐことができるウイルスのようだ⋮。
こいつらも、電脳の空間で見える姿は
小さなロボットような形に手が機関銃
そして、その身体からは想像がつかない威力をもつ
ミサイルを背中に背負っている姿だ。
それが一斉に、俺らに攻撃を仕掛け
飛び交うミサイルや機関銃の玉などを
すべて処理して
そいつらごと、削除プログラムを使って
削除するのだから
骨がおれる。
体長が、20?∼30?位のロボットの大群を
163
凪ぎ払いながら
すると、
隼人﹁うあっ!﹂
短い悲鳴をあげたのが聞こえ
俺は、隼人を振り返って
目を見開いた。
隼人は、たくさんのロボットに
身体中を、取り付かれ
もがいていた⋮!
ゆう﹁⋮は、や⋮と⋮!?﹂
隼人がたまりかねたように崩れ落ちる。
ゆう﹁隼人ーー!!!﹂
俺が手を伸ばすと
その手にも、ロボットがとりつく
ゆう﹁っ⋮はや、っと⋮﹂
164
そんな痛みよりも、隼人を救い出さないと⋮
俺ももがいて、ロボットを掻き分けるが
隼人が見えない!
ゆう﹁隼人!﹂
手探りで、必死に掻き分ける。
俺、隼人が
犠牲になるのは、辛いよ⋮
隼人、俺⋮
子供のように泣きそうになった⋮
その瞬間︱。
ピカーンーーーーー!!!!!!!!!
ゆう﹁わああああ!!﹂
いきなり、稲妻が落ちてきたように
フラッシュが目の前を照らし
取り付いていたロボットたちが
165
すべて振り払われた。
ゆう﹁うぅ⋮﹂
俺が目を開くと、目の前には
ロボットたちの残骸が散らばっていて
やがて、消えていった。
よく、目を凝らすと
まだ、少し光の粒子が残る中︱。
一人の女性が、降り立っていた。
白いスカートのスーツに、青い縁取りがある襟︱。
黒いストッキングを履き。
頭には、警察官のような帽子をかぶり
緑の髪の毛を赤いゴムで、一本に結わいている︱。
彼女は、膝まづくようにそこにいたが
立ち上がり⋮
特殊警棒を、通常の長さにすると
166
目の前に向けた。
そして、警棒を持っていない方の手を挙げると、
こう高らかに告げた。
﹁権限を、発動致します!﹂
すると、俺らを八方塞がりにしていた崖に
二つの分かれ道が、出来た。
167
HB
地区ー。俺は、鉛筆みたいな名前で、好きだった。2
目の前に、現れた一人の若い女性︱。
俺はなんだか、不思議な縁を、感じた。
リューキ・ドレ
168
HB
地区ー。俺は、鉛筆みたいな名前で、好きだった。2
俺は、突然の出来事に茫然自失していたが
隼人﹁うぅ⋮うう⋮﹂
隼人が、呻きながら起き上がる気配を感じて
はっと気がついて
その体を支える。
隼人を支えながら、降り立った彼女を見つめた。
彼女は、後ろ姿からでも
分かるくらい。
鋭い視線を、目の前を取り囲む
ロボットたちに向け。
俺らに、話しかけてきた。
リューキ・ドレ
﹁私は、警備情報調査特捜室のリューキ・ドレインと、申します﹂
﹁避難所への道を作りました⋮﹂
﹁あなたたちは、直ちに避難してください﹂
169
と、左側の道を示した。
だが、俺らが向かっている場所とは
反対側だ。
隼人を、見つめる。
隼人は、うつむき長い息を吐きながら
まだ、苦しそうに呼吸していた。
無理して戦うことは、できない⋮
俺はまた、彼女、リューキを見つめる。
⋮やっぱり、この人に俺らがやろうとしていることを伝えて
俺らは、避難所へ行くべきなのか?
ごくりと、息を飲んだ。
170
HB
地区ー。俺は、鉛筆みたいな名前で、好きだった。2
俺らは、誰になんと言おうと
人を守りたかった。
リューキ・ドレイ
171
HB
地区ー。俺は、鉛筆みたいな名前で、好きだった。2
何か、言おうと口を開いた瞬間。
隣で、支えられていた隼人が、
何度も、何度も、長い息を吐きながら
リューキに言った。
リューキ・ドレイ
隼人﹁俺たち⋮は、広場の地下のシェルターに、閉じ込められた人
を、助けに行きます⋮﹂
肩で荒い息をしながら、
息も絶え絶えなのに、視線だけは強い色を湛えながら
リューキの背中を見つめた。
俺は、何かをいいかけて
その言葉を聞いて、一旦口を閉ざすとその先を待った。
リューキは、聞く態度はとってくれたが、
さっきの姿勢を崩さず
強い口調で言った。
リューキ﹁⋮とにかく、避難しなさい⋮。シェルターのことは私た
ちに任せて下さい﹂
172
その言葉を、聞いて
隼人は、身動ぎした。
⋮まるで、分かってくれと言わんばかりに⋮
リューキ﹁あなたたち、一般市民が危険な地域をうろうろするとは、
自殺行為です⋮。早く避難してください⋮﹂
俺は、ためらいためらい
モゴモゴしていた口を開いた。
ゆう﹁俺たちは、ここの創設者だ。住民を守るのは、当然の義務な
んだ⋮﹂
俺らが、懇願すると
リューキは、顔色を変えて振り返った。
リューキ﹁あなたたちのことは、知っています⋮。知らない人はい
ませんから⋮。それでも、あなたたちは、ここの市民であることに
は代わりがありません⋮。﹂﹁市民である以上。避難指示に従って
ください!﹂
そう言った瞬間。
前を取り囲んでいたロボットの一匹が
いきなり、姿勢を低くして
飛びかかってきた。
リューキ﹁あぁぁ!!﹂
173
HB
地区ー。俺は、鉛筆みたいな名前で、好きだった。2
俺らは、まだ戦うんだ。
︵前書き︶
174
HB
地区ー。俺は、鉛筆みたいな名前で、好きだった。2
リューキは、特殊警棒でロボットを払い落とすと
俺らに、いいかけるが⋮
また、別のロボットが襲いかかり
体に取りつく。
リューキ﹁あっ!﹂
ロボットに次々と取り付かれ
振り払おうともがくが、取れない⋮
リューキが暴れると
どんどん、ロボットがとりつく。
俺は、そんな姿を見て
胸を捕まれる思いがした。
頭の中が、ズーンと重くなり
得たいの知れない感情が支配してきた。
あの時の隼人と同じじゃないか⋮
俺は、我知らず
目を細める。
175
まるで、肉食獣が餌を狙う時の
あの慎重な姿勢と、瞳孔が開き、脈が早くなる
興奮した状態が重なる。
隼人は、はっとして
俺を見つめてきたが
俺は、気が付いていなかった。
そして、俺は、嬉々として
右手を挙げた。
ゆう﹁削除するー﹂
へぇっ?
一瞬の深い沈黙があり
リューキ﹁えっ?﹂
取り付いたロボットが
一瞬にして消え。
体が急に楽になった
リューキが、キョトンとして
俺らを振り返った。
リューキ﹁あなた⋮何を?﹂
176
聞いてきたが、俺は、はっとして
ゆう﹁何もしていない⋮﹂
思わず隠す。
その態度に、リューキが険しい顔をすると
リューキ﹁もし、強い権限を所有なさっているのなら、情報調査特
捜室に譲渡してください。個人での3︵スリー︶ランク以上の権限
の所有は、大変危険です!﹂
俺は、蛇ににらまれたカエルみたく
首を縮め
困惑して、頭をかく。
すると、黙っていた隼人が
隼人﹁権限のことは、創設者の俺たちにとりあえずは、任せてくれ。
﹂﹁今だけは⋮必要なんだ﹂
真剣な眼差し⋮
俺は、何となくだが
隼人の気持ちが分かった。
隼人には、守りたい
誰よりも、守りたい相手がいるようだ。
しかも、今、俺らが所有している
177
権限、神の力を使わないといけないくらいの︱。
俺は、今、権限を渡したら
その人を助けられないかもしれないと、感じ
俯く。
リューキは、まだ険しい表情のまま
睨み付け
さらに、何か、言おうとした瞬間。
ガッシャンーーーー!!!!!!
ウィーンッー!!
大きなロボットの着陸して
立ち上がる音がした。
リューキ﹁くっ!﹂
険しい顔をさらに険しくすると
振り返る。
リューキ﹁また、あなた⋮﹂
目の前に、現れたロボットは
とても大きく
まるで、空母のように
小さなロボットを放出する。
178
リューキは、構える。
ロボットと、リューキが
睨み合っている中
不意に、俺は、隼人を手を掴むと
リューキが示した道とは
反対側の右側の道へと、一目散に走っていった。
リューキ﹁あなたたち、待ちなさいっ!﹂﹁そっちは、避難場所で
はありません!!﹂
リューキの声が聞こえたが
気にせずに、走った。
179
HB
地区ー。俺は、鉛筆みたいな名前で、好きだった。2
隼人は、見抜いていたのかな⋮
︵前書き︶
180
HB
地区ー。俺は、鉛筆みたいな名前で、好きだった。2
隼人﹁ゆう!待つんだ﹂﹁おい!ゆう!﹂
隼人は、俺の手を振り
立ち止まるように言ったが
俺は、聞こえていなかった。
体が意見を受け付けず
遠くの彼方に、心を置き去りにする。
ぶつぶつと、うわ言を言いながら
隼人を引っ張る。
その異常に、隼人は、何事かを悟り
隼人﹁おい!﹂
突然、無理に立ち止まらされて
思いっきり、顔を叩かれた。
赤く腫れ上がった頬を押さえながら
ようやく、止まった俺は、
隼人に、叩かれたショックから
泣きながら、
ゆう﹁なんで⋮ぶつんだよ⋮﹂
181
子供のように、泣いてしまった。
隼人は、俺を見つめ
眩しきものでも、見るような顔をすると、
隼人﹁今、お前。”神”に意識を奪われそうになっただろう?﹂
俺は、頬を押さえながら
泣き止んで、はっとすると
ゆう﹁⋮﹂
押し黙った。
隼人は、やっぱりなと言わんばかりに
ため息をはくと
隼人﹁⋮権限をすべて俺に預けろ。今、そうした方がお前のためだ﹂
厳しい声で、俺に言う。
その言葉を聞いて
隼人こそ、正気の沙汰じゃないと
激しく首を振り
ゆう﹁そんなことをしたら、お前の体の方が持たない!﹂
隼人﹁⋮一時的にだ!神に囚われたら、おしまいだぞ﹂
ゆう﹁⋮でも、隼人の方が、危なくなるよ!﹂﹁お前、耐えられる
182
のかよ!﹂
隼人は、一瞬顔を曇らせると
隼人﹁その時は、そうなる前に、情報調査特捜室に、譲渡する⋮﹂
隼人は、低く強く答えた。
俺は、押し黙ると
しばらくして、
ゆう﹁分かった。信じるよ⋮﹂
183
HB
地区ー。俺は、鉛筆みたいな名前で、好きだった。2
俺らは、卑怯なのかなぁ⋮
︵前書き︶
184
HB
地区ー。俺は、鉛筆みたいな名前で、好きだった。2
俺は、隼人を信じたが
隼人が何を考えていたのかは、理解できなかった。
俺は、バスターズの仲間に
H.B地区での出来事を話しつつ
もう、氷が溶けてしまい
薄く温くなった、ドリンクバーの紅茶を一口飲むと
みんなの顔を、それぞれ見つめた。
みんな、沈黙して
俯き、それでも俺の話を聞いている。
ーみんな、辛くても俺の話を聞こうとしている⋮
身心に受け止めると
また、続きを話始めた。
隼人との友情と、それが裏切られ
なぜ、敵にまわってしまったのか⋮
185
自分自身や仲間たちに問い掛けるように
淡々とまた、話の中へ入っていく
186
HB
地区ー。俺は、鉛筆みたいな名前で、好きだった。2︵前書き︶
隼人、信じている⋮
187
HB
地区ー。俺は、鉛筆みたいな名前で、好きだった。2
隼人は、俺から目を背けて
そう強く言った。
俺は、躊躇ったが、今は隼人を信じるしか他ないと感じ⋮
ゆう﹁分かった。お前に預ける﹂
そう言って、隼人の手を握り返し、リンクを開いた。
白い螺旋徐のトンネルを抜け
たくさんの暗号のような文字か並ぶ場所へと
俺の意識体はいくと
降り立ち、
自分が持っていた権限を、その場所に置いた。
俺は、何度も願った。
信じているとー
すると、リンクをしていた隼人が手を握り返し
大丈夫だと、応えた。
188
そのときに、俺は、素直に微笑むと
一瞬よかったと思った。
俺は、隼人の意識に権限を置くと
すぐにリンクを返して、戻った。
目を開くと、俺らは、また歩き始めた。
189
HB
地区ー。俺は、鉛筆みたいな名前で、好きだった。2
隼人は、今
神の権限を一人で持っているー。
それなのに、顔色一つ変えず
俺の手を離し、スタスタと歩き始めた。
俺は、一瞬気後れして
隼人の背中を見つめたが、慌てて追いかけた。
俺がしっかりしていないと、あいつが間違えば
世界が終わるー。
密かに拳を握りしめると
隼人に並んで歩いた。
隼人は、俺が隣に並んでもなにも言わなかった。
俺は、隼人をうかがい見ると
口を開いた。
ゆう﹁⋮気分、どうだ?﹂﹁おかしな感じがするなら、素直にいっ
190
てくれ﹂
そう言うと
隼人は、表情を変えず
隼人﹁特に、今はないよ﹂﹁何かあったら、伝える﹂
いつになく、機械的な感じがして
俺を不安にされたが
隼人を信じたいと思い、ぐっと気持ちを押さえつけると
ゆう﹁分かった。隼人、信じている⋮﹂
そういうのが、やっとだ。
だって、今は、信じるだけ信じるしかない⋮
親友だから、託したんだから
預け始めて、不安がるのは
いけないと感じた。
191
HB
地区ー。俺は、鉛筆みたいな名前で、好きだった。2
隼人の意図が見えない⋮
︵前書き︶
192
HB
地区ー。俺は、鉛筆みたいな名前で、好きだった。2
何か思い詰めたように、隼人は、黙々とシェルターに向かう。
訳を聞きたかったが、もしそのせいで隼人が隼人じゃなくなったらと
そう思うだけで怖くてできなかった。
それだけ、今
オブ
ゴッドは、
隼人が得たいの知れない気配に包まれていた。
神の権限。コード
人工知能に近い。
だから、狡猾な知恵があれば
俺ら、創設者ですら簡単に操ってしまう⋮
オブ
ゴッドの中に、出来上がっていたら
そんな、知恵がすでに
コード
神に精神を乗っ取られる。
俺は、渡してしまったが
まだ、迷っていた。
簡単に渡してしまったが
それは、隼人を信じたかったからだ。
193
でも、たった一人で抱えるのは無理だ。
一人で、色々と考えていたら
不意に隼人が、告げた。
隼人﹁実はな、そのシェルターに乙覇がいるんだ﹂
ゆう﹁へっ!?﹂
目を見開くと、隼人を見つめる。
隼人﹁⋮だから、焦っているんだ﹂
心配させて、すまないという顔をしたが、
今度は、俺が動揺した。
ゆう﹁どうして、早く言ってくれなかったんだよ!﹂
隼人﹁⋮お前に、下手なことを言えば、暴走すると思ったからだ﹂
ゆう﹁ふざけるな!﹂
一瞬、その場がフリーズした。
隼人は、俺をじっと見つめ
すーっと、眩しいものでも見るような顔で
194
隼人﹁そういうところが、いけないんだ⋮﹂﹁もっと冷静になれ⋮﹂
ゆう﹁∼∼∼∼∼﹂
俺は、納得がいかなかった。
隼人を睨み付ける。
隼人は、軽くため息をはくと
隼人﹁今のお前と俺なら、俺の方がまだましなくらいだよ﹂
﹁⋮沸騰寸前の頭を冷やしてから、考えるといい⋮﹂
そう言って、スタスタとまた、歩き始めた。
俺は、腹が立ったが
考え直すと、確かにそうだな⋮と思い
肩を落とした。
俺は、乙覇や大切な身近な人の話になると
頭に血が登るところがある。
それを、見透かされていたようだ。
195
HB
地区ー。俺は、鉛筆みたいな名前で、好きだった。2
その頃、乙覇は本当にシェルターの中にいた。
薄暗く、コンクリートの打ちっぱなしで
たくさんのダクトが通り、ポツポツと水音がした。
通路のところには、たくさん人々が寄り添い、
息を潜めている。
乙覇は、通路をちょうど入った、
開けたY字路のYの場所にちょうどいて
頭上を見上げていた。
ポツポツ⋮
ポツ、ポツ、ポツポツと水音が響く
見上げる天井が、微振動を繰り返しているのを
感じた。
乙覇が、見上げていると、
不意に声が上がった。
196
HB地区。俺は鉛筆みたいな名前で好きだった。安藤乙覇︵前書き︶
乙覇は、待ってろ!
今、助けるー。
197
HB地区。俺は鉛筆みたいな名前で好きだった。安藤乙覇
男﹁なあ!本当に大丈夫なんだろうな!俺たち⋮﹂
いきなりの大声に、乙覇は振り返る。
彼は、Y字路から少し入った
通路の入り口付近で
もう一人と寄り添い
薄いベージュ色の毛布にくるまり、うずくまっている。
声をあげた覇気とは違い、
その表情は小刻みに震え
怯えていた。
それをもう一人が、宥め
肩を擦る。
その不安の声を聞いた
人々は、顔をあげて
同じく、怯えた顔をしていた。
乙覇は、彼らを見渡すと
自信がある声で、言った。
乙覇﹁大丈夫よ!私たちには、正義の味方がついているんだから⋮﹂
﹁きっと、助けに来てくれる!﹂
198
そう言って、胸にかけたペンダントを強く握った。
彼は、小刻みに震えながら
男﹁本当にそうなのか!?﹂﹁信じられるかよ!﹂
叫んだが、乙覇がさらに強い声で、
乙覇﹁信じるしかないでしょ!﹂
199
HB
地区ー。俺は、鉛筆みたいな名前で、好きだった。︵前書き︶
私は、乙覇!
絶対に信じてる。
200
HB
地区ー。俺は、鉛筆みたいな名前で、好きだった。
彼は、乙覇の瞳を天秤にかけるように目を細めると、ハァーと溜め
息をはいて下を向いた。
どうやら、乙覇の意思がとても強いことに気がつき
これ以上言うのは、体力の無駄遣いになると
感じたようだ。
乙覇は、また天井を見上げる。
すると、乙覇のすぐ近くにいた
老人が聞いてきた。
老人﹁その⋮正義の味方ってのは、何者なんだ?﹂
乙覇は、天井を見上げながら
答えた。
乙覇﹁⋮私のお兄ちゃんよ﹂
老人は、目を見開き
驚愕して、腰を浮かした。
すると、老人の隣でうずくまっていた
別の男性が静かに声をあげた。
男性﹁⋮君は、お兄さんを信じているだね?﹂
201
その問いに、首を縦に振る。
別の誰かが、鼻を鳴らすと呆れた声あげる。
誰か﹁家族なら、そりゃあ∼、信じるよなぁ!﹂
﹁⋮身内だけなら、いくらでもー﹂﹁お前だけなら、守ってくれそ
うだな!﹂
そういった瞬間、乙覇は、
静かに語気を強め
乙覇﹁私の兄は、ここの創設者よ!﹂﹁悪を本当に嫌う⋮﹂
そう言うと、声をあげた人の方に
振り返ると
乙覇﹁助けを求めている人を救い、助ける!﹂
﹁決して、逃げずに悪と戦う人なのー﹂
﹁誰も見捨てない。誰も一人にしない!﹂
﹁そのために、この世界を創ったの!﹂
﹁この世界を壊そうとするものを許さない!﹂
﹁だから、絶対に守ってくれる!﹂
乙覇の強い覇気に
その場にいた人々は黙り込んだ。
202
HB
地区ー。俺は、鉛筆みたいな名前で、好きだった。︵前書き︶
乙覇や、住人たちがいるシェルター
203
HB
地区ー。俺は、鉛筆みたいな名前で、好きだった。
まだ、乙覇の傍にいる人々は大人しく
冷静な者達ばかりなんだろう⋮
乙覇の言葉を信じているのか、いないのか
その意見に、それ以上は反論せずに
みんな、大人しく体を寄せ合い丸めている。
ただ、みんな震え
、デジモノファームでは、
いつ襲撃されるか、不安をぬぐえない顔をしていた。
確かに、ここの世界
創設者は絶大な権限を持っていて、
しかも、ここの住人をとても大事にしていると、
ここの人々は何となく肌では感じていた。
その創設者たちが、
ここの住人を見捨てるとは、
思えなかったが、助けが来る保証はない。
だから、にっちもさっちもいかない
不安感が、胸を締め付けるのだ。
ここに妹が居るのなら、
ついでに、助けてもらえるかも⋮
それでも、いいから助けてほしい⋮
たくさんの感情が渦巻いていた。
204
乙覇は、それを感じ
一人、強く願っていた。
どうか、これ以上傷つかないうちに
助けてほしい⋮
205
HB
地区ー。俺は、鉛筆みたいな名前で、好きだった2。安藤乙覇︵前書き︶
何か、嫌な予感がする⋮
この予感が外れることを願う⋮
206
HB
地区ー。俺は、鉛筆みたいな名前で、好きだった2。安藤乙覇
みんな、何も知らないままで
本当に心細く、不安だろう⋮
それなのに、じっと耐えている⋮
でも、もう限界かもしれない⋮
ー⋮これで、いいんだよね⋮
胸のペンダントを握り締め、何度も自分に言い聞かせる。
ここまで、導いたのは、
私⋮
乙覇が、願う中ー。
一人、シェルターに向かう前のことを思い出した。
ここの︵シェルターの中にいる︶人たちの恐怖は、
本当に痛いほど、理解している。
あの無機質な連中が
なの落ち度もなく、力もない人を必要以上に襲い。
傷つけ、餌にしていたのは
悔しく、苦しく、そして、恐かった⋮
ロボットのような形をした
207
機械的な、恐竜に似た破壊者たち⋮
目があった瞬間一目散に、襲いかかってきて
私を片腕で凪ぎ払った。
幸い、当たり所がよく
無傷ですんだが、
近づいてきて、銃口を突き付けらたときは
流石に、覚悟した。
警備特捜︵警備情報調査特捜室︶のソフトに助けられ
ここに来るまでに
助け合った数十人の人々と、
シェルターに入った。
まだ混乱しているため、襲撃者たちの情報は
入っていきていないが⋮
あれは、破壊ソフトだー。
確信できる⋮
⋮でも、いったい何で?
そんな脅威が侵入でいたのだろうか?
デジモノファームの防壁は、
今、現代のものの中で一番鉄壁だ。
それなのに⋮なぜ⋮?
乙覇は、考え込み
やがて、嫌な予感を感じた。
208
まさか、と、思うけど⋮
テー⋮
心の中で、感じたことを心の中で
呟こうとした瞬間。
また、誰かが
叫ぶ。
男﹁テロだ!!﹂
209
HB
地区ー。俺は、鉛筆みたいな名前で、好きだった2。安藤乙覇︵前書き︶
テロかもしれない。そう感じるー。
だが、まだ、疑惑程度だー
210
HB
地区ー。俺は、鉛筆みたいな名前で、好きだった2。安藤乙覇
男﹁テロだ!!﹂
乙覇は、はっとして声のした方を振り返る。
男﹁そうに決まっている!!!﹂
中年に差し掛かるくらいの歳の男は
無精髭をはやし、よれよれのワイシャツを着て
青ざめた顔で、何かにとりつかれたように
発狂し、立ち上がる。
乙覇は、何か言おうと
ペンダントを握ったまま、口を開きかけた
その瞬間。
女性陣﹁いやあああ!!﹂
男性陣﹁うああああ!!!﹂
天井に衝撃が走った!
ミシミシミシ!!!!!
ガッチャーン!
ドッカン!!
大きな衝撃と、激しい揺れが襲い
天井から、大量の土埃が落ちてきた。
211
乙覇﹁きゃぁ!﹂
揺れに耐えきれず、尻餅をつく
その上に、砂埃、土埃が降り注ぐ。
乙覇﹁⋮﹂
衝撃的な状況に
思わず、放心してしまう。
一人の中年くらいの女性が
その男に怒鳴る。
女性﹁あんたが、変なこと言うから、こんなことにっ!!﹂
頭の上に落ちた土を手で塞ぎながら
泣きそうな顔をして
理不尽に、まるで彼がやったかのように
睨み付ける。
女性﹁いやっ!﹂
通路の入り口側の壁の前に
毛布にくるまっていた女性に土埃が降り注ぎそうになり、軽く悲鳴
をあげる。
寄り添っていた男性が、土埃から庇う。
砂ぼこりが、止むと
最初に叫んだ男が
212
自分に怒鳴った女性を睨み付け
男﹁俺やってねぇーぞ!!﹂
そう怒鳴り返す。
そして、ぶつぶつと
やってないを繰り返す。
砂埃から、女性を守った
若い男性は、やってないを繰り返す男がまるで
自分勝手に思えてきて、
腹立たしく感じ
拳を握りしめて、
若くて端整な顔立ちに
怒りをみなぎらせて
最初に叫んだ、男を鋭く睨み付け
立ち上がると
若い男﹁ふざけんなお前!滅多なこと言いやがって!﹂
﹁こっちは、必死に冷静になろうとしているのに!!﹂
前に言った男﹁これで、冷静なれって方が可笑しいだろ!﹂
若い男﹁冷静じゃなきゃ、何も始まらないんだよ!﹂
怒り出した男性の服の裾を女性は
無言で引っ張る。
男性が振り返ると
213
重々しく、首を振り
止めるように訴えていた。
男性は、彼女の無言の思いを受け止め
瞑目して、力を緩めると
肩を落として
座り込む。
前に言った男は、反省せずに
ふんと鼻を鳴らすと
イライラと歩き回り
わめき散らす。
214
HB
地区ー。俺は、鉛筆みたいな名前で、好きだった2。安藤乙覇
中年のサラリーマン風の男は、イライラと歩き回りながら、
こっちを、不安そうな、
不愉快そうな、不審そうな、憎むかのような、
いろんな表情で見ている
人たちの顔を一人一人、見て
また、喚き散らす。
男﹁なあ!?おかしいじゃないか!!!﹂﹁外では、戦いが起きて
いるは!!助けは来ないはで!﹂
﹁⋮もう、滅茶苦茶じゃないか!?﹂
﹁⋮助けに来る保証もないのに、待っているのか!!?﹂
﹁俺は!﹂﹁このまま、何もしないで死ぬのはごめんだからな!﹂
指を突き立てると
男﹁お前たちは、ここでじっとして黙って死ぬのを待ってろ!﹂﹁
俺は、なんとしてでもここを出るぞ!﹂
周囲に怒鳴り散らす男に
静かな声が響く。
215
﹁じゃあ、あなたは何か、良い案でもあるのか?﹂
﹁この場を切り抜けられる⋮誰も傷付かないような、確かな考えが
あるのか?﹂
216
HB
地区ー。俺は、鉛筆みたいな名前で、好きだった2。安藤乙覇︵前書き︶
お兄ちゃん、助けて!
217
HB
地区ー。俺は、鉛筆みたいな名前で、好きだった2。安藤乙覇
声のした方を見詰めると
そこには、初老の男性が真剣な面持ちで
わめく男を見詰めていた。
少しの間、沈黙が包んだ。
すると、さっきわめいていた男は
口元を歪ませて
笑うと
男﹁⋮そんなこと知ったことか、俺は自分さえ
助かればそれでいいんだ⋮﹂
﹁人なんてどうでもいい⋮﹂
悪魔のような言葉が、今度は周囲を包み込んで
みんな驚愕して、ざわつく
﹁この人でなし!﹂
﹁人間の屑め!﹂
﹁お前みたいな自分勝手、とっとと破壊者の餌食になれ!!!﹂
激しい罵りあいがはじまった。
218
乙覇ようやく、正気を取り戻し
目の前に起きた出来事を見て
はっとする。
取っ組み合いなり、殴りあったり
蹴りあったり
汚い言葉を、浴びせたり
悲惨な喧嘩が勃発していた。
乙覇﹁みんな、止めて!﹂
慌てて、立ち上がり叫んだが
喧騒に紛れて声は聞こえないのか
はたまた、頭に血が昇っているからなのか
いっこうに止める気配がしなかった。
何度も叫んで
乙覇は、
肩を落とす。
ー私じゃ、みんなを導けないのかな⋮
219
HB
地区ー。俺は、鉛筆みたいな名前で、好きだった2。安藤乙覇
乙覇が、懸命に声を張り上げて
みんなを止めようと必死なっていたが
みんなから、罵声と石や砂を投げられた
叫んだ男は
及び腰になり、変な笑みを浮かべると
男﹁⋮やってられない!﹂﹁全く⋮﹂
そう言うと、石や砂を投げられながら
逃げるように
暗い奥へと走っていった。
どうやら、威勢はいいが
そんなに強い奴ではなかったようだ。
半ば、腰を抜かしながら
踵を返して
さっさと走り逃げていく。
男が行った後、石や砂を投げるのを止めて
その場にいた人々から
歓声と喜びの声が上がる。
乙覇は、無意識に手を祈るように握ると
220
異様な光景に、茫然と見回す。
人々は、
若い男﹁全く、神経をさかなでるふざけたやつだ!﹂
爽快な声で言い捨てると
彼より歳を取った男性がそれに同意するように
男﹁あんなやつ、居なくなってほっとする!﹂﹁チームワークを乱
す、ムカつく野郎なんだからさ!﹂
彼の声にも、清々しさを感じる。
女﹁アハハハハ!ホント!ホント!﹂
喜びながら、笑い声をあげた。
乙覇は、そんな異様な、いや、異常な光景に
殺伐とした獣じみたものを感じて
ヒヤリとした。
そして、人々が異常な喝采をしあって
やがて、静かになった
その一瞬の隙に、こう言った。
乙覇﹁すみませんでした!!﹂
221
HB
地区ー。俺は、鉛筆みたいな名前で、好きだった2。安藤乙覇
﹁すみませんでしたっ!!﹂
大きな声を張り上げ、深々と
大袈裟に頭を下げる。
人々は唖然とした風な感じで
上げていた両手を下げると
驚愕した顔をして
見詰めた。
何故、謝るんだ?
そんな風な、顔をしていた。
乙覇は、それを感じとり
お辞儀をしたまま
顔の表情を曇らせる。
乙覇﹁私のせいで、みんなが混乱して⋮﹂﹁争いになってしまって
⋮﹂
つまり、こうだ。
自分の正義感のせいで
みんなを無理矢理我慢させていて
そのせいで、誰かに当たらずには
いられなくなったんじゃないかと⋮
222
頭を下げていると
あっけにとられ
状況が掴めなかった人々の
数人が、それを察して
乙覇に、意外な言葉をかけた。
男﹁君は、なにも気にしなくていいんだよ﹂﹁よくやってくれたよ。
助かった⋮﹂
若い彼が、そう乙覇に、
言葉を投げ掛けると
その傍の老人が
一歩、出て
優しい口調で話す。
老人﹁俺たちをシェルターまで、案内してくれたじゃないか⋮﹂﹁
⋮だから、今、やられずにいるんだよ﹂
そんな言葉を掛けられ
泣きそうな顔を上げると
みんな気にするなという顔をしていた。
ー意外とみんな冷静なのね⋮
でも、限界そうな顔をしている人もいる。
223
数人は、それに賛同しているが
その他のちらほらと見える人の中には
押し黙り
グッと我慢をしているものもいた。
そんな感じだった。
224
HB
地区ー。俺は、鉛筆みたいな名前で、好きだった2。安藤乙覇
それを見て、
まだ、乙覇は困惑していた。
一人佇み
困った顔をして周囲を見回すと
一人の男性が歩み寄ってきて
肩を軽く叩くと
みんなのところに行こうと
肩に触れながら、一緒に歩いてくれた。
乙覇は、肩に触れられ
歩きながら
ぐっと、堪えていた人たちを
思った。
これじゃ、ダメなんだ。
確かに、十数人の方は、
私を信じてくれて
よくやったと言ってくれるけど
我慢をしている人たちは
違う。
もっと、考えないと
225
全員が、助かる方法を考えないと
みんなのところに
戻り、見回したその瞬間ー。
突然、突き抜けるような
衝撃が、シェルター内を貫いた。
ミシミシミシミシミシミシミシミシミシミシ!!!
今まで感じたことがない
立っていられない力と
大きな音。
砂ぼこりが
降り注いだ。
砂煙が舞い
周囲が霧に包まれ⋮
乙覇は、引き倒された。
そして、しばらくしてから
若い男性の張り詰めた
悲鳴に近い叫び声がした。
﹁みんなっ!!奥に入れ!﹂
226
HB
地区ー。俺は、鉛筆みたいな名前で、好きだった2。安藤乙覇
砂煙が織り成す、濃い霧の中
多くの人々の悲鳴がこだました!
乙覇は、倒れ込みながら、その光景を見詰めた。
悲鳴を上げる人々の間から
見えたものは
⋮ヴィーン
二足歩行の体に
大きな機関銃が両手につき
顔が恐竜の形をした
メカニカルなモンスター
⋮そう、破壊ソフトが目の前に現れたのだ。
人々は、血相を変え
悲鳴を上げ
腰を抜かしながら
シェルターの奥へと進んでいく。
シェルターの奥は、小さなドームになっていて
そこには、今の人数分くらいなら
収容できるくらいの
227
スペースがあった。
みんなそこへ逃げていくのだ。
乙覇は、茫然とそれを見詰め
やがて、
人々が、ドームへと
入りきると、
誰かが、ドームへと続く
入り口に、シャッターを下ろし始めた。
乙覇が、まだ取り残されているのに
誰もてをさしのべなかった。
228
HB
地区ー。俺は、鉛筆みたいな名前で、好きだった2。安藤乙覇
乙覇は、目を見開き
震えながら後退りをする。
恐怖が体を支配し、思うような判断が出来ず
体が地面についたまま、
ずるずると壁づたいに、後ろに下がる。
破壊ソフトは、まだ
乙覇に、気づききれていないらしく
ウィン、ウィン、と短い機械音を鳴らしながら
周囲を見回していた。
ただ、人の気配には気づいているようだった。
はっはっはは⋮。
歯の根が合わないのを
なんとか堪え、息に変えているために
変な息が洩れる。
もう⋮気づいているかもしれない⋮
こんなに、息が洩れて
その音が聞こえないわけがない。
しかも、霧がさっきよりも
晴れてきている。
229
完全に晴れてしまったら
わたしがいることがばれてしまう⋮
ーどうしよう⋮
恐怖しながら周りを見る。
奥へと続く、通路はシャッターが
ぴったり下りていて
通れない⋮
逃げられないのだ。
乙覇は、それでも
覚悟なんて決めないと、震える心で
何度も何度も言い聞かせた。
ー助けてお兄ちゃん。
お兄ちゃんは、ここの管理者なんでしょ!
とても、凄くて強いんでしょ!
ぐっと、胸のペンダントを握り込むと
幼い頃に、同級生に
何のいわれもないのに突き飛ばされたとき
強く抱き締めてくれて、何度も慰めてくれた
日のことを思い出した。
230
ーあいつらが何かしてきたら
今度は、俺が相手になる。
あいつらになんて言われようと、俺を呼ぶんだ。
女に手を出すやつらは最低だ!
ー俺は、俺の力より弱い相手に手を出さない!
ー力振りかざす、やつらの目を覚まさしてやる!
⋮
破壊ソフトはどうやら、複数いるらしく
ウィン、ウィン、という音が
何処からともなく
何重にも聞こえる。
機械がたてる足音も
複数の音が響く。
乙覇は、それでも目を開き
しっかり前を見詰める。
怖くてたまらない。
やられてしまうかもしれない。
息は、もっと酷くなるばかりで
231
治まる気配がしない。
激しい緊張の発作が
胸を締め付けていた。
ー助けて、助けて、助けて!!
232
HB
地区ー。俺は、鉛筆みたいな名前で、好きだった2。安藤乙覇
砂埃と土が織り成した
煙幕に隠れながら
一人、恐怖と戦っていた。
ウィーン、ウィーンと機械音を鳴らしながら
歩き回る
破壊ソフトの足が、煙幕の隙間から垣間見える⋮
彼らが見回しているのは、通路の真ん中から
やや斜め上の空間ー
距離はわずか1メートル
ちょっと顔を下に向ければ、
見かってしまう
場所にいた。
乙覇は、ただじっと通路の壁に
背中をぴったりとつけて
横に寝そべるような形で
震え上がりながら、必死にペンダントを掴み
祈っていた。
歯の根が合わず
たぶん音は、やつらにも届いているはず⋮
子どもの頃に、戻ったように
233
恐怖に支配され
必死に、兄を呼んだ。
助けて、お兄ちゃん!
助けて、お兄ちゃん!
だんだんと土埃がやみ
やがて、乙覇と破壊ソフトの間の隔たりがなくなり
ウィーン、ガッチャン⋮
そのうちの一匹が、乙覇に気がついた。
タスケテ⋮
目があった瞬間、その場で凍り付く
背筋を不可視の剣が深く切り裂き
冷たい鋼を頭のてっぺんから足の先まで
感じさせた。
もう、震えさも出来ないほど
硬直し、恐怖が貫いた。
乙覇に、気がついたソフトは
首を一瞬傾げると
何かを処理したのか
234
こっちに近づいてくる。
タスケテ⋮
体は、動かず。
目を見開いたまま
破壊ソフトを見詰めるだけだった。
破壊ソフトは、何も感じていないのか
いるのか、機械的な恐竜の顔で
全く表情を変えないので
読めない⋮
ただ、分かることは
こいつらは、人を人として認識ておらず
さらには、生命としても認識していない⋮
ただ、駆逐するために
ただ、破壊するために存在するものー。
乙覇に、近づきながら
両手をくるりと回し
機関銃のような、キャノンの銃口を向けた。
殺られる⋮
そう思いながらも、それでも、
235
兄を信じ
助けを待った。
お願い⋮
カッチと小さい音がして
ロックオンを完了した
助けてー!!﹂
破壊ソフトは、キャノンに力を溜め始めた。
お願いします!
乙覇﹁お兄ちゃん!
光が集まり、今に放たれそうになった
その瞬間ー。
乙覇は、目をつむった。
そして、
ーどんなときも、俺が乙覇を守る!
今、兄のゆうがここにいるかのように
声が響き。
はっと目を開いた瞬間ー。
ズッドーーーン!!!
236
凄まじい衝撃波と熱波、暴風が襲い。
飛ばされた。
乙覇﹁あっ!﹂
237
HB
地区ー。俺は、鉛筆みたいな名前で、好きだった2。安藤乙覇
目の前が爆発した衝撃で
乙覇は、飛ばされたが、
シャボン玉のような電子膜に覆われて
それがクッションになり
怪我はなかった。
乙覇﹁あっ、あ゛ああ⋮﹂
コロコロと、二三回、通路を転がり
軽く呻き声を上げながら、砂埃を被る。
衝撃がおさまると
ノロノロとまだめまいがするが
起き上がり、
ブルブルと震えて、頭から砂を払い
起きた出来事を、理解しようと
さっきいた場所を
首を伸ばして見つめた。
さっきまで、狙っていた破壊ソフトは跡形もなく
残骸さえもなくなって消えていた。
その代わりに、
大小合わせて、
十数体は、集まっているだろうと
推測できる
中心に、一人⋮
238
人影があるのか見えた。
もしかして、お兄ちゃんが来てくれたの!
期待して、胸を踊らせて見つめた。
人影は、堂々とした立ち振舞いで
何処からか特殊警棒を手にすると
それをもとの長さにする。
ーえ?
その姿に、兄ではない予感がして
顔を曇らせる。
そして、破壊ソフト目掛けて
一気に振り回した。
強い光が集まり
大きく弾ける。
乙覇﹁はぅ!﹂
眩しさに、目を細めて
手をかざしながら
見つめる。
それが、数秒のことー。
光が止むと
239
そこには、
緑色の髪を赤いゴムで一本に束ね
白いスカートスーツを着て
お巡りさんのような帽子を被った
女性が立っていた。
乙覇﹁お兄ちゃんじゃない⋮﹂
ストンと肩を落とし
ガッカリと、呆然とする。
240
HB
地区ー。俺は、鉛筆みたいな名前で、好きだった2。安藤乙覇
さっきまで、恐怖に支配されていからなのか
思考が定まっていない気がして
感情がバラバラと、
散らばっている感覚を覚えた。
棒を飲んだように、
その場に立ち尽くしている。
乙覇﹁⋮﹂
呆然と見つめていると
その女性は、特殊警棒をしまって
スタスタとこっちに近づいてくる。
一瞬、身を引くと
その手を取られ
握られる。
彼女が、口を開く。
女﹁お怪我は、ありませんか?﹂
一瞬なんのことかと、彼女を見つめたが
すぐにはっとすると
乙覇﹁⋮ないわ⋮﹂
241
力なく答えた。
彼女は微笑む。
乙覇﹁⋮あなた、誰?﹂
警備情報調査特捜室のリュー
乙覇の問いかけに、今度は彼女の方が
はっとすると、姿勢を軽く正して
﹂
女﹁⋮申し遅れました、わたくし、
キ・ドレインと申します
乙覇﹁リューキ⋮ドレイン⋮﹂
彼女の名前を復唱するように
口のなかで、転がす。
リューキは、微笑んだまま
頷くと
リューキ﹁ここは、危険ですから避難してください﹂
穏やかな口調で、避難するように、うながした。
乙覇﹁⋮でも、通路が⋮﹂
さっきシャッターを閉められて
自分だけ取り残されたのだ。
乙覇が助けた人々は
242
そそくさと、自分達だけで逃げた。
それでも、乙覇は
彼らを責めてはいなかった。
ただ一人だけ
取り残されたのが
心細く思ったのだ。
塞がれていると伝えたかったが
リューキは、手を握り直し
ぎゅっとすると
リューキ﹁大丈夫です﹂﹁道は、開きました﹂
はっきりと伝えた。
うん?と思い、振り返ると
そこには、シャッターが降りていた
奥へと繋がる通路が開かれていた。
ーシャッターの開く音すらしなかったのに?
驚愕したが、彼女もなんらかの
権限を持っているんだろうなと
心の中で思った。
リューキ﹁さぁ、早く。破壊ソフトたちに嗅ぎ付けられないうちに
ー﹂
243
軽く押した。
乙覇は、少しためらい
そして、
わずかな期待をして
リューキに聞く。
乙覇﹁あの、あなたは誰かに、連絡を受けたから、ここに来たんで
すか?﹂
聞かれたリューキは、
一瞬だけ、疑問符を顔に浮かべると
それでも、すぐに笑みに戻し
首を振り、諭すような声で言った。
リューキ﹁いいえ、私たちが独自に調べてここに来ました⋮﹂
﹁なぜ、そのようなことを?﹂
そう聞いてきたが
乙覇は、うつ向くと
乙覇﹁何でもない⋮﹂﹁ありがとう−﹂
笑顔を返して、駆け出した。
244
245
HB
地区ー。俺は、鉛筆みたいな名前で、好きだった2。安藤乙覇
結局、お兄ちゃんは来てくれなかったのだ⋮
乙覇は、通路の入り口に
笑んだまま、見送る
リューキを見つめながら
ちょっぴり、切なくて酸っぱい思いが
溢れてくるを感じた。
ーなに考えているかな、私
小さい子供でもあるまいし
ただ、兄に頼りきり
自分の力で何とかしようとも思っていなかっただなんて⋮
私とお兄ちゃんの違いは
自分で何とかしようと行動できるか
そうでないかだ。
私は、ただ、怖くて
怖くて
一人で助けを求めるしかない
弱い人間なだ⋮
お兄ちゃんみたいに
強くなりたかったのに
私は、まだ
246
子供で、ちっとも前に進めていない。
泣きそうになったが
辛うじて
涙はこらえ
シェルターの奥へと向かう。
弱さは、必要だと
思うが、これじゃ⋮
負担ばかりかけてごめんね⋮
少しだけでもいいから
強くなりたいよ⋮
でも、不安で怖い
自分に自信が持てないの⋮
247
HB
地区ー。俺は、鉛筆みたいな名前で、好きだった2。安藤乙覇
リューキは、乙覇が逃げたのを見届けると、
開いたシャッターをもとに戻す。
左手を挙げて
翳すと、消失しいたシャッターが
一瞬にして閉まる。
特殊警棒を、ぶんと一回払うと
鋭い視線で見つめた。
頑丈な天井は、大きな穴が開き
ノイズ混じりの空が見えていた。
そして、穴の縁には
蜘蛛の巣状のヒビが幾重にも伸びていた。
神経を研ぎ澄ましていると
何やら、ゾロゾロと
たくさんの機械的な音が近付いて
来た。
ー来た!
身構えると、
ヒビの入った穴の縁に
爪がかかり、
たくさんの破壊ソフトたちが
顔を覗かせてきた。
248
相手が一人だと分かるとニヤニヤしたように
表情を嬉々とした雰囲気に変えて
ケラケラと、機械音を鳴らした。
うるさく鳴り響く
機械音にリューキは、全く表情を
変えず
睨み見据えていた。
しばらくその音を
見回しながら
聞いていると
ケラケラケラケラよりも
ゲラゲラゲラゲラに近くなっていた。
リューキは、
大きいもので30?から
小さいもので5?くらいの
手強そうな相手に、
くっと奥歯を噛み締めて
特殊警棒を握り直す。
それが、合図だったのか
奴等は、それを見届けると
一気に襲いかかって来たー!!!!!
249
HB地区ー。俺は鉛筆みたいな名前で好きだった2。リューキ・ドレイン
リューキは、目の前に飛んできた蝶のような
破壊ソフト数台を警棒で凪ぎ払う。
ギャヤヤヤヤ∼!
破壊ソフトは、悲鳴をあげながら
飛んでいき、更に飛び込んできた
ソフトたちを巻き込んで
粉砕されていく。
不意に、左側に気をとられていると
右側から
近付いてくる無数の破壊ソフトたち
瞬時に反応して
払い落とし
さらに食いすがるものを、
打ち飛ばし、次に来るものにぶち当てる。
250
ギアア!
イ゛ギギギ!!
アガガガ!!
何度も振り回す。
︵このままでは、きりがないわ⋮︶
小さな破壊ソフトは、
数も多く、たちが悪い⋮
戦っているのはリューキだけ⋮
彼女は、一般人がいないことを確認すると
彼らの隙をつき
くっと更に視線を険しくすると
特殊警棒を横にして
その真ん中辺りを持つ
すると、特殊警棒に特殊なコードの溝が現れ
虹色の光が一瞬、それを駆け巡る。
251
それをねじると
ガッシュッと短い音がして
真っ二つになった。
切り口より少し奥に突起が現れて
そこを手に取ると
何の気兼ねもなく、それを腰の辺りに構える。
ちょうど、肘を曲げた前ならえ状態で
肘の辺りにも取ってみたいなのが現れ
腕輪のように固定される。
そして、破壊ソフトに対峙し
それを向けた。
252
HB地区ー。俺は鉛筆みたいな名前で好きだった2。リューキ・ドレイン
次から次へと向かってくる
破壊ソフトを
一気に払い除けると
その隙をついて
警棒の権限の解除をした。
両手、両腕につけたそれは、
マシンガンだー。
警棒がマシンガンに換わったのだ。
リューキは、構えると
鋭く睨み見据え、その銃口を破壊ソフトに向けた。
ソフトたちは、一瞬
何をしているのか?と首をかしげ
動きを停止させたが
また、ゲラゲラ笑いだした。
253
リューキは、その耳障りな声を聞きながら
奥歯を噛み締めて
︵笑っているのも、今のうちよ⋮︶
そして、引き金を引いた。
2つの銃口から、光の玉が
物凄い速さで
ソフトたちに向かっていった。
254
HB地区ー。俺は鉛筆みたいな名前で好きだった2。乙覇の決意。
シャッターの先のドーム状のシェルターー。
何か着弾する音が何度も響き
天井が、
微振動を繰り返している。
一般の災害用のシェルターなので、
破壊ソフトの襲撃から人々を
守れるほどの強度があるのかは
不明だ。
みんなそれを知っているから、不安で不安で仕方がなく
そわそわと上を見上げ
落ち着かないようだった。
すると、突然ひときわ大きな揺れが天井を揺らした。
そこで、すし詰になった人々は、
悲鳴をあげ
255
身を屈め、頭を抱えて
震え竦み上がった。
その中で、乙覇は
呆然と立ち
俯いたまま、暗い影を落としていた。
256
HB地区ー。俺は鉛筆みたいな名前で好きだった2。乙覇の決意。
シャッターを開けてもらい
入ってきた乙覇に対して
一足先にそそくさと逃げた人々は
ざわざわと驚愕した声をあげ
動揺したが
乙覇は、何も気にせず
構うこともせずに、呆然と中に入り込むと
俯いたまま、黙り込んでいた。
人々は、乙覇を見捨てて無視して
自分達で逃げたことに負い目を少なからず感じていたのか
最初、ざわつき困惑していたが
誰も話しかけることなく
目を伏せて
罰が悪そうに、身を縮めるので
257
やはり、そうなのだろうと察しがついた。
今は、なにも考えたくない
気持ちが心を覆い隠していて
正直かまわないでほしいので
特に言葉を発することもなく。
虚ろのまま、呆然とみんなの中心の場所で
嫌がらせのように
どんよりとそこにいた。
しまいに、あまりにも物凄い暗い雰囲気なため
その空気に耐えられなくなってきた
一番近くにいた数人は、
気まずそうに、目配せをして
物言いたげにしている。
その視線を感じていたが、
まだ、自分の中で思いが渦巻き
258
うまく消化しきれずに
鬼畜な思いと向き合っていた。
259
HB地区
俺は鉛筆みたいな名前で好きだった。
私は、何のためにここまで来たんだろう⋮
一人じゃ何もできないのに⋮
誰かに助けを求めないと何もできないくせに⋮
ドーーンという衝撃が走り
ドーム内が、揺れ
天井から砂ぼこりが落ちるたびに人々は
どよめき悲鳴をあげ
頭を抱えて
身を縮めた。
虚ろな悲惨な目を、周囲に向けると
ー⋮そうだ。この人たち同じで私も震えながら
助けを待つしかないのだ。
タスケテクレルノカワカラナイママデ⋮
平然としてないとダメんだ。
乙覇の決意。
260
本当は、自分達で何とかしないといけないほどの
状態なのに⋮
誰かを出し抜いてまでも
守りたい命なのに?
でも⋮
また、うつ向くと
イライラとした感情が込み上げてきた。
結局、無力さを身に染みて感じただけだった。
弱いくせに、
勝手な思い込みをしていだけなんだ⋮
創設者の妹としての悦にひたり
自分の言葉なら
誰も彼も信じてくれると思っていたんだ。
そうだ、私はただ
頼られたかったんだ⋮
頼られることで、自分を鼓舞できて
261
怖くなくなると⋮
ただ、そう思っていただけなんだと⋮
弱いから強いふりが出来て
お兄ちゃんみたくなれると⋮
ーそれじゃぁ、自分の保身ためだけだったんだ⋮
だから、誰もちゃんと信じてくれなかったんだ⋮
密かに拳を握り
必死に込み上げる怒りを押さえつけた。
ー私は、弱いし誰かに助けを求めないと何もできない人なんだ!
乙覇は、おもむろにどこかへ歩いていくと
壁の向こうを覗いた。
そこには、人が一人通り抜けそうな
通路が続いていた。
時おり、その向こうからも
爆発音が響き渡る。
私が今出来ることは⋮
今、したいことは⋮
262
HB地区 俺は鉛筆みたいな名前で好きだった。乙覇の決意
ヒューーーーーウウン!!!
ドッカーン!!
一際多くな音が響き、ドーム内を揺らした
﹁うわあああああああ!!!﹂
﹁きゃああああああああ!!!﹂
流石に人々も耐えきれず、腰を抜かし
その場にへたり込んだ。
泣きだす人や大声を上げ意味不明なヒステリーを起こすものやで
地獄絵図の様な有様になった。
それでも乙覇は、人々にかまうこと無く
自分の世界に入り込んでいる。
︱私が今やりたいことは⋮
この場から逃げて、生き延びることだ。
でもそれは一人でやれる自信がない。
さっきの葛藤でもそうだ。
私は弱い人間で、誰かに頼らないと
にも出来ない臆病もの。
263
お兄ちゃんに頼ってばかりで
何も出来ないただの弱虫女。
そう開き直ると⋮
ふいに、さっきから
乙覇を気にしていた一人が近づいてくると
話しかけてきた。
﹁⋮どうしたんだ⋮﹂
おどおどと遠慮気味に聞いてきて
目を泳がせる彼を
無視して
通路に目を向ける。
どうしたもこうしたものないんだ。ただこうして
指をくわえて待っている状況ではなくなったんだ。
一刻も早くここから抜け出して
生き残らなければ⋮
このままでは、きっとやられてしまう⋮
いや、やられる前に
みんなコンクリートの下敷きになってしまう⋮
生き残るためにはと、猛然と通路を見つめ
264
考えている乙覇に対して
彼は、罪悪感があったのか
はたまた、恨みが深いと思ったのか
彼は首を縮めて
瞑目すると
頭を下げた。
﹁お前を置いて逃げて、ごめんよ⋮﹂﹁俺はただ助かりたかったん
だよ⋮﹂
﹁妻がいる、子供がいる身なんだ⋮。どうしても生き残りたかった
んだ⋮﹂
彼がそう告げた瞬間。
乙覇の中に凝り固まっていたものが
弾けた。
﹁⋮でも、ずっとこのままこうしていたら、みんな終わるわよ﹂
自分の声だとは思えないほど
冷酷な口調で
相手に言葉を突き立てる。
﹁えっ!?﹂
顔を上げて
265
息を呑んでからの驚愕した声が
返ってきたが
それに心が響くことはなく
淡々と言葉を吐いて行く。
﹁⋮言葉通りよ。じっと助けを求めても意味がないのよ﹂
ぶっきらぼうに言うと
冷めた目を向けた。
﹁ああ⋮﹂
彼が震えるのを見届けると
強く熱いものを視線に込める。
﹁もうお兄ちゃんばかりに頼らない⋮。私は私自身でこの場を乗り
越える!!﹂
﹁大人しく、あいつらに殺されてたまるか!!﹂
誰にともなく言い放つ。
面食らった彼は
一瞬茫然としたが
言葉の意味をしっかりとらえると
乙覇の意見に賛同する様な
視線を向けた。
266
乙覇は、そう言った後
強くこぶしを握ったまま
目を見据えた。
大人しくしていればなんとかなる状態ではない。
じっと助けを求めるときはもう終わったのだ。
自分たちで何とかしないと
後は生き残れない。
私は生きていたいから⋮
その時が来てしまったんだ。
警備特捜部の者たちは
破壊ソフトの鎮圧で手一杯で、救命に手は回らない
防壁が壊れてしまったのだから、
破壊ソフトが居なくなることはない⋮
私たちは、一刻、刻一刻と増えていく
破壊ソフト、いやコンピュータウルスの中で
自分たちの身の安全を確保しつつ
一か所にまとまって、助けをひたすら待つなんて⋮
﹁無理だ⋮﹂
そう告げた時。
267
見守っていた彼が
今度は、はっきりした声で
聞いてきた。
﹁俺に出来ることがあったら、何でも言ってくれ﹂
おもむろに彼を見詰めると
彼は、聡明な目をして
しっかりとした顔つきをして
こっちを見詰めていた。
その目の奥を真意を問うように見るめる。
今度は、その目がぶれないのを確認すると
同じ思いなのだと分かり
咀嚼すように頷くと
︱あなたも生き残りたいのね。
﹁じゃあ、あなたと同じ思いの人をあの中から探してきて⋮﹂
後ろを指す。
彼は指されたほうを振り返ると
そこには、半狂乱の人々が
個人個人で言いたいことを言い続けて
騒いでいた。
268
一瞬、ぞっとしたが
続いての乙覇の言葉に
はっとする。
﹁この場を乗り切るためには、仲間が必要なの﹂
﹁それこそ、力を合わせて生き残ろうと思える強い思いが必要なの
よ﹂
そう言われると
彼は、決意をしたように
一回だけ重々しく首を縦に振ると
人々の所へと
向かい。
大声で叫んだ。
﹁誰か、生き残る気はあるか!?﹂﹁ある奴は一緒にこい!!﹂
﹁一緒に行動できない奴は、生き残れないぞ!!﹂
﹁無だ死にしたいのか!?﹂
︱わずかな望みをかけて、この場を切り抜け生き残る⋮
︱そのためには、たくさんの知恵と同じ同士が必要なんだ
︱助け合う力。守り合える力⋮
︱どれか一つでもかければ、きっとすべて無だ死にしてしまう。
269
︱同じ同士たちなら、生き残れるはず。
同じ目標のもとで歩んでけば必ず
見えない壁をこじ開けられる。
光を見出せる。
乙覇は、祈るようにそれを見詰めていた。
270
PDF小説ネット発足にあたって
http://ncode.syosetu.com/n4952cb/
デジモノファーム ~7人の英雄の話~
2014年10月29日00時41分発行
ット発の縦書き小説を思う存分、堪能してください。
たんのう
公開できるようにしたのがこのPDF小説ネットです。インターネ
うとしています。そんな中、誰もが簡単にPDF形式の小説を作成、
など一部を除きインターネット関連=横書きという考えが定着しよ
行し、最近では横書きの書籍も誕生しており、既存書籍の電子出版
小説家になろうの子サイトとして誕生しました。ケータイ小説が流
ビ対応の縦書き小説をインターネット上で配布するという目的の基、
PDF小説ネット︵現、タテ書き小説ネット︶は2007年、ル
この小説の詳細については以下のURLをご覧ください。
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