「 (仮称)金沢市におけるコミュニティ空間の保存と 形成に関する条例」の制定に向けての報告書(案) 平成 17 年 9 月 金沢市におけるコミュニティ空間の保存と形成に関する検討懇話会 はじめに 金沢は、これまで自然や歴史、文化等を背景に豊かな人間関係と地 域における連帯感を礎に、福祉、環境、教育、防災などの各分野にわ たり市民と行政が協働する土壌を守り育て、これを活かしながら自主 性とまちの独自性を発揮し、発展してきました。 かつて、寺社の境内は子どもの遊び場であり、用水では洗濯や野菜 を洗い、わき水では水汲みなど近隣の人たちの語らいの場となり、広 見では縁台で涼みながら将棋を指したり、夏には盆踊りをするなど、 地域の人たちが集まり楽しくふれあう場所でした。 しかし、近年は少子・高齢化の進行、生活スタイルの変化や価値観 の多様化により、地域のコミュニティ空間を利用した遊びや行事が減 少し、市民相互の連帯感や地域社会への関心も希薄となるなど、コミ ュニティが失われつつあります。 本検討懇話会では、コミュニティ醸成の場を担ってきた昔ながらの 空間を保存・再生し活用することによってコミュニティの活性化を図 り、この空間を次の世代に継承していくことが、市民の絆、連帯感を 保持していくために必要なことであると考え、コミュニティ空間の保 存と形成を進めるための条例制定を念頭に検討を重ねてきました。 なお、ここでいう「コミュニティ空間」とは、地域の住民が協働し て快適で豊かな暮らしを営むことができる自然的、歴史的及び文化的 生活空間をいい、「広見」とは、藩政期に、火災の延焼を防止するた めに設けられた火よけ地であって、伝統的な景観の保存又は災害の防 止等のため保全する必要があると認められる区域をいいます。 また、公園や緑地はコミュニティを醸成する大切な空間として金沢 市が整備を進めており、前述のとおり、本検討懇話会で議論するコミ ュニティ空間については寺社の境内、広見、袋小路・行き止まり道路、 用水、わき水としました。 目 次 1.寺社の境内、広見、袋小路・行き止まり道路、用水、わき水、 についての現況及び課題と考え方 1頁 (1)寺社の境内 (2)広見 (3)袋小路・行き止まり道路 (4)用水 (5)わき水 (6)総括意見 2.条例(案)に盛り込むべき主な事項 6頁 (1)目的 (2)基本理念 (3)市の責務 (4)市民等の責務 (5)援助等 (6)組織 3.その他 7頁 コミュニティについての市民意識等実態調査の必要性 資料 8頁 1.寺社の境内、広見、袋小路・行き止まり道路、用水、 わき水についての現況及び課題と考え方 (1)寺社の境内 【現況及び課題】 ① 境内が駐車場化し、趣のある佇まいや歴史ある景観が失われ たところが増えてきた。 ② 昔は、 地域の会合や催しがあると信仰に関わりなく寺社へ足 を運んだが、現在は、左義長や夏季のラジオ体操ぐらいしか行 く機会がなくなった。 ③ 近年、 葬儀はセレモニー施設で行われ寺社利用が減少してい ることから、地域とのつながりが疎遠となり、地域の会合等に 貸出しをしていない寺社もある。 ④ 集会場や児童遊園が隣接しているところでは、年間を通じて 地域活動の拠点となっており、清掃活動や盆踊りに子どもたち が参加しているところもある。 ⑤ 以前は、境内への出入りは比較的自由であり、市民のコミュ ニケーションの場であったが、現在は閉鎖的空間となっている。 (例:以前、通学路として利用していたが、現在では通行がで きない。地域の避難所としての機能がない。 ) ⑥ 場をつくってもコミュニティがないという状況になること が危惧される。人が集まる方法が大切で、寺社でのコンサート や落語を開催している事例があるが、開催には地域の力も必要 であり、公民館活動の補完的な場所として活用してもよいので はないか。 【考え方】 ① 憲法の「政教分離の原則」と「公金支出の禁止」に抵触しな いよう、慎重に支援策を検討する必要がある。 ② 金沢は芸事の盛んな土地柄であり、寺社の社務所や本堂等を -1- 芸事の練習場として使用すれば、練習風景を市民が見に行くこ ともでき、芸も磨くことができる。練習により畳が傷めば補助 することも考えられる。また、寺社の歴史の紹介やコンサー ト・落語などの開催の場として活用することもよい。 ③ 境内における有料駐車場の開設については、個々の寺社経営 に関わるものであるから、規制まで考える必要はないのではな いか。 ④ 境内における憩いの場や散策コース等の開放は、寺社と地域 の話し合いによる申出を前提とすべきものである。 ⑤ 新たな支援制度を創設する場合、既存の各種補助制度との整 合性を図る必要がある。(例:保存樹・保存樹林指定奨励金制 度、コミュニティセンター整備費補助制度など) ⑥ 本検討懇話会は、地域の身近で日常的なコミュニティ空間の 利活用等を検討するものであり、近隣商店街の不特定の利用者 までは対象としていない。 ⑦ 商店街が参加しても地域主体で行う活動であれば、支援して いくことを検討すべきである。 (2)広 見 【現況及び課題】 ① 変則的な交差点にあるため見通しが悪く、かつ、交通量が多 く危険である。 ② かつて、町会の盆踊りやバーベキュ―大会が行われていたが、 現在では夏休みにラジオ体操が行われている程度である。 ③ 毎年、にぎわい広場としてイベントに利用されているところ もある。 ④ 利用を促進するには、道路管理者など関係機関における許可 申請手続きの簡素化が必要である。 -2- 【考え方】 ① 年間を通し地域住民のコミュニティ広場として、広見の利活 用を推進していく。(盆踊り、ラジオ体操、茶会の野立て、各 種イベントなど) ② 紙芝居等で、子どもを呼び寄せるなどの工夫が必要である。 (3)袋小路・行き止まり道路 【現況及び課題】 ① 民家が密集している中にある単なる行き止まりでは、道路の 幅も狭いことから催し物等は困難である。 ② 寺社や学校前の大きな行き止まり道路は、子どもの遊び場や フリーマーケット、盆踊りの場として活用でき、ベンチを設置 することにより、憩いの場にもなりうる。 【考え方】 ① 寺社前等の参道(公道を含む)空間で車の通行を止めて、近隣 住民の協働によるイベントの開催、ベンチを置いての井戸端的 空間の創出など地域主体の活動に支援していく。 ② 行き止まり道路よりも、道路と道路の間の街園(ポケットパ ーク)の方が使い勝手がある。 (4)用 水 【現況及び課題】 ① 用水を利用し親しみのある場となっていた洗い場等の施設 が少なくなったが、往時を偲ばせるものも残っている。 また、かつての面影はないが、道路沿いに洗い場として残っ ているところがある。 ② 用水を庭園に取水するなど趣のある活用を図っているとこ ろがある。 ③ 石垣護岸が保持されており、用水沿いの散策道路整備が進め -3- られている。 ④ 堰を設置するなど消防用水利を確保するとともに、散歩や水 遊びを通じて水に親しめる工夫が必要である。 ⑤ 各用水組合等との調整が必要である。 ⑥ 地域の人たち自身で、用水をどう利用するかということを考 えていくことが必要である。さらに、用水の水質保全のために、 ごみ投棄をさせないようにする必要がある。 【考え方】 ① 用水保全条例を根拠に、用水の保存・復元・創出を図り、か つ、市と市民の間で用水愛護協定を締結することにより、用水 保全の各種活動に対して、技術的援助や財政的援助を行うこと が可能であり、制度の周知にさらに努めてほしい。 ② 用水の利用には、危険性が伴うものであることから、まず、 安全性の確保や今後の住民による継続的かつ自主的な管理と 利活用を見極め、地域要望を受けて対応すべきである。 ③ 閑静な空間や散策路のふくらみなどで涼をとったり、ホタル 等を鑑賞したりできるコミュニティの場があれば、用水を利活 用したコミュニティ空間として検討する必要がある。 ④ 用水はポイントとして捉えるのではなく、エリアとして捉え る必要がある。 ⑤ 今後の用水改修にはコンクリートや石積護岸をなるべくや めて出来得る限り昔の土堤を復活し、水生動物の住めるような 用水にすることが必要である。 (5)わき水 【現況及び課題】 ① 人目のつかない所にあるものが多い。 ② 洗い場として整備されているところもあるが、利用者は少な い。 -4- ③ 場所によっては修景工事が行われたところもあるが、湧水に よる流れがほとんどなく、使われていないところがある。 ④ 平野部にあって、昔の生活に深く関わっていた多くの「もっ くり」は、ほとんど消滅してしまった。 【考え方】 ① 清水やわき水は、都市化や宅地開発等により、数・水量が減 少してきている。地域の要望等による技術的支援については、 水質検査など実施可能なものと水量の減少など全市的に取り 組むべき課題を区別して調査・研究していく必要がある。 ② 「もっくり」については、いろいろな形で、伝えていくこと が必要である。 《参考》 「もっくり」とは、自噴井から地下水を噴き出してい る所あるいは地下水をいう。 (6)総括意見 ① 行政が整備を行う際には、今後の住民による継続的かつ自主 的な管理と利活用を見極め、地域からの要望を受けて対応すべ きである。 ② コミュニティ空間の保存と形成を図っていくうえで、各地域 における特色をどのように出せるか、個々の素材をどのように 繋げていくか、市民や市がどのような役割を担い、いかに連携 していくかを、地域の中でも十分に話し合うことが重要である。 ③ 高齢者や身体の不自由な方のために、コミュニティ空間の木 陰等にもベンチを設置すれば、利用者の便を図ることができる のではないか。 -5- 2.条例(案)に盛り込むべき主な事項 (1)目 的 この条例では、金沢の連帯と協調を育んできたコミュニティ空 間のうち、寺社の境内、広見、袋小路・行き止まり道路、用水、 わき水について、市民と事業者及び行政の責務を明らかにする。 さらに、コミュニティ醸成の場を担ってきた昔ながらのコミュ ニティ空間を保存・再生し活用するための事項を定めることによ り、コミュニティの活性化を図り、この空間を次世代に継承して いくことを目的とする。 (2)基本理念 ①金沢の個性と魅力を高めるコミュニティ空間の保存と継承 地域の住民が協働して快適で豊かな暮らしを営むことがで きる自然的、歴史的及び文化的な生活空間であるコミュニティ 空間を保存し、良好なコミュニティを次世代へ継承する。 ②憩いと語らいのあるコミュニティの形成 コミュニティ空間を整えることにより、人々が憩い、語らい の場となるコミュニティを形成する。 ③市民主体による公私協働社会の実現 市民が主体となってコミュニティ空間を活用し、地域におけ る連帯と公私協働により、快適でやすらぎと潤いのある地域社 会を実現する。 (3)市の責務 ① コミュニティ空間の保存と形成を図るための必要な施策を 実施する。 ② 施策の実施にあたって、市民等の意見が反映されるよう努め、 意識の高揚を図るなどの必要な措置を講じる。 -6- ③ 必要があると認めるときは、国、他の地方公共団体等に対し、 協力を要請する。 (4)市民等の責務 コミュニティ空間が市民共通の貴重な財産であることを認識 し、相互に連携及び協力をして、コミュニティ空間の保存と形 成に自ら努めるとともに、市が実施する施策に協力する。 (5)援助等 ①援 助 コミュニティ空間の保存の形成を図るため必要があると認 めるときは、技術的な援助をし、又は予算の範囲内において、 財政的な援助をする。 ②表 彰 コミュニティ空間の保存及びコミュニティの形成の推進に 著しく貢献した者(団体を含む)を表彰する。 ③協 定 コミュニティを醸成することを目的に、市と町会等地域関 係団体との間において締結する。 ④組 織 コミュニティの保存と形成を推進するために市民等で構成 する推進組織を設置する。 3.その他 コミュニティについての市民意識等実態調査の必要性 コミュニティに対する市民の意識調査やコミュニティの実態調 査を行い、施策に反映させることが必要である。 -7- 資 料 1 検討懇話会委員 畦 地 北 川 駒 崎 橘 2 (13 名) 実 辰巳用水土地改良区参事 男 公募委員 稔 金沢市町会連合会副会長 禮 吉 加能民俗の会会長 文 中 川 耕 二 金沢市まちづくり専門員 西 川 和 宏 ㈱都市環境マネジメント研究所研究員 能木場 由紀子 金沢市校下婦人会連絡協議会副会長 橋 本 和 幸 金沢大学文学部教授 平 石 辰 男 金沢市公民館連合会副会長 不 破 幸 夫 金沢市消防団連合会会長 益 成 孝 子 金沢観光ボランティアガイドの会「まいどさん」 宮 田 あかね 公募委員 屋 敷 道 金沢市立玉川図書館近世史料館文化政策調査員 明 検討経過等 (1) 第1回検討懇話会(平成 17 年8月5日開催) ・ 座長、副座長の選任 ・ 検討懇話会設置の趣旨など説明 ・ 現地視察(天徳院前道路、笠舞の大清水、六斗の広見) (2) 第2回検討懇話会(平成 17 年9月2日開催) ・ コミュニティ空間の現状と課題に対する検討懇話会としての考え方を整理 ・ 報告書(案)の検討 (3) 報告書作成に向けて随時、委員との調整(平成 17 年 9 月から) (4) パブリックコメント手続の実施(平成 17 年 9 月 27 日から 10 月 14 日まで) (5) 第3回検討懇話会(平成 17 年 11 月 11 日開催予定) (6) 報告書提出(平成 17 年 11 月下旬予定) 8 金沢市におけるコミュニティ空間の保存と形成に関する検討懇話会設置要綱を 次のように定める。 平成17年6月14日 金沢市長 山 出 保 金沢市におけるコミュニティ空間の保存と形成に関する検討懇話会設置要綱 (設置) 第1条 本市は、地域コミュニティの更なる活性化に向けて、コミュニティ空間の保 存及び活用について現状の調査、研究並びに分析を行うとともに、(仮称)金沢市 におけるコミュニティ空間の保存と形成に関する条例(以下「コミュニティ空間条 例」という。)について検討するため、金沢市におけるコミュニティ空間の保存と 形成に関する検討懇話会(以下「懇話会」という。)を設置する。 (検討事項) 第2条 懇話会は、次に掲げる事項について検討する。 (1) コミュニティ空間条例の目的及び基本理念に関する事項 (2) コミュニティ空間の保存及び形成に係る現状の調査並びにコミュニティ空間 の具体的活用のあり方に関する事項 (3) コミュニティ空間の保存及び形成に係る市民等の役割に関する事項 (4) コミュニティ空間の保存及び形成のための市民等に対する支援に関する事項 (5) 前各号に掲げるもののほか、前条の目的を達成するために必要な事項 (組織) 第3条 懇話会は、委員13人以内で組織する。 2 委員は、次に掲げる者のうちから、市長が委嘱する。 (1) 地域関係団体その他市民団体の関係者 (2) 知識経験を有する者 (3) 公募による市民 (4) その他市長が必要があると認める者 3 委員の任期は、委嘱した日から平成18年3月31日までとする。 (座長等) 第4条 懇話会に座長及び副座長を置き、委員の互選によりこれらを選任する。 2 座長は、会務を総理し、懇話会を代表する。 3 副座長は、座長を補佐し、座長に事故があるときは、その職務を代理する。 (会議) 第5条 懇話会の会議は、座長が必要に応じて招集し、座長が議長となる。 (事務局) 第6条 懇話会の庶務は、市民局市民参画課において処理する。 (雑則) 第7条 この要綱に定めるもののほか、懇話会の運営に関し必要な事項は、座長が 懇話会に諮って定める。 附 則 こ の 要 綱 は 、 平 成 18年 3 月 31日 限 り 、 そ の 効 力 を 失 う 。 9
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