TX テクノロジー・ショーケース in つくば 2009 農林水産 P-50 ニホンナシにおける溶液受粉技術 ■ はじめに ニホンナシの多くの品種は自家不和合性であるた め、人工受粉が不可欠な作業となっています。しかし ながら、人工受粉は一般的に手作業で行われ、作業期 間も開花中という短い期間に集中することから、省力 化が喫緊の課題となっています。溶液受粉は花粉を懸 濁した水溶液を散布する受粉方法で、省力化技術とし て注目されています。既にキウイフルーツでは寒天液 を用いた溶液受粉技術が開発され、産地への導入も行 われています。 そこで、溶液受粉技術をニホンナシに応用すること を目的に研究を行いました。 ■ 研究内容 1. 花粉を懸濁する水溶液の組成の検討 溶液受粉において重要な花粉を懸濁する水溶液「液 体増量剤」の組成について検討しました。 ・糖類 吸水による花粉の破裂を防ぐための浸透圧の調整 には、一般的にショ糖溶液が用いられます。ニホン ナシの溶液受粉では、10%(w/v)のショ糖溶液が 適当と考えられました。 ・増粘剤 単なるショ糖溶液では懸濁した花粉が時間の経過 とともに沈殿するため、液体の粘性を高める目的で 多糖類等の添加が必要です。そこで、キウイフルー ツで用いられている寒天およびその他の食品用増 粘剤について検討した結果、キサンタンガム 0.04% (w/v)が適当と考えられました。 ・花粉の生理活性保持に関わる物質 細胞壁代謝関連酵素のペクチンメチルエステラー ゼ(PME)およびポリガラクツロナーゼ(PG)に ついて液体増量剤への添加効果を検討した結果、そ れぞれを 0.1mg/L の濃度で加えると花粉管伸長が促 進されることが明らかになり、「幸水」の溶液受粉 では結実率の向上効果が認められました。 代表発表者 所 属 問合せ先 ・色素 受粉の有無を識別する目的で液体増量剤に添加す る色素を検討したところ、食用色素の赤色 102 号を 0.01 ∼ 0.02%(w/v)の濃度で添加することにより、 結実率を低下させることなく識別性を確保すること ができました。 2. 花粉の濃度 「幸水」を用いて検討したところ精製花粉を 0.3% (w/v)で用いることにより、通常の人工受粉と同等な 結実率が得られることが確認されました。 3. 受粉作業時間および花粉使用量の比較 梵天等を用いた手作業による人工受粉に対して、今 回使用した電動噴霧器による溶液受粉では作業時間が 約半分になり、花粉使用量も 1/3 程度に抑えられまし た。 写真 溶液受粉の作業風景(左)および受粉後の花(右) ■ おわりに ニホンナシ「幸水」において、溶液受粉は、手作業 の人工受粉に比べて結実率も遜色なく、作業時間や花 粉使用量を大幅に低減できることが明らかになりまし た。ただし、作業性、経済性については、使用する噴 霧器にも依存することから、噴霧器の開発も含めてさ らに検討する必要があります。また、「幸水」以外の 品種においてはまだ充分な結実率が確保されていない ことから、今後、何れのナシ品種でも安定した結実が 得られるよう、更なる技術の改良が望まれます。 阪本 大輔(さかもと だいすけ) (独)農業・食品産業技術総合研究機構 果樹研究所 〒 305-8605 茨城県つくば市藤本 2-1 TEL: 029-838-6416, FAX: 029-838-6437 – 52 – ■キーワード : (1)ニホンナシ (2)溶液受粉 (3)省力化
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