超音波併用乳がん検診 -対策型検診と任意型検診-

超音波併用乳がん検診
-対策型検診と任意型検診-
財団法人筑波メディカルセンター
つくば総合検診センター
東野 英利子
対策型検診と任意型検診の対比
対策型検診
任意型検診
Population-based screening
Individual-based screening
(Organized screening)
(Opportunistic screening)
形態
市町村の行うがん集団検診
人間ドック
目的
対象者全体の死亡率を下げる
個人の死亡リスクを下げる
検診方法
有効性の確立した検診方法に
限る
費用負担
無料~安価(公費負担が主)
有効性の確立していない新
しい検診方法を含めて考え
る
全額自己負担
利益と不利益のバ
ランス
対象者のほとんどの人におい
て、利益が不利益を上回ると
判断できる場合に限る
個人において、利益と不利
益のバランスを判断する
検診間隔
対象者全体が均等に受診でき
るように配慮
個人のリスクを考慮(比較
的頻回)
任意型検診の提供者は、死亡率減少効果の明らかになった検査方法を選択することが望ましい。
形態
対策型検診
老人保健事業による
による市町
老人保健事業
による
市町
村の住民検診(
住民検診(集団・
集団・個別)
個別)
労働安全衛生法による法
廷健診に付加して行われる
がん検診(職域検診)
任意型検診
検診機関や
医療機関で
検診機関
や医療機関
で行
う人間ドック
人間ドックや
ドックや総合健診
慢性疾患等で通院中の患
者に、かかりつけ医の勧め
で実施するがんのスクリー
ニング検査
http://www.jcancer.jp/about_cancer/handbook/2syurui.html
日本対がん協会ホームページ
「がん検診の適切な方法とその評価法の確立に関する研究」班より
日本のがん検診の問題点
受診率が低い
集団に対する効果は受診率が高くな
いとあらわれない
受診率が把握できない
職域検診、人間ドックの検診受診率
が把握できない
がん検診の受診状況
(対策型検診)
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/c-hoken/07/r8.html
平成15年度 16年度
受診者数(人)
受診率 (%)
受診者数(人)
肺がん
受診率 (%)
受診者数(人)
大腸がん
受診率 (%)
受診者数(人)
子宮がん
受診率 (%)
受診者数(人)
乳がん
受診率 (%)
胃がん
( '03)
4 508 041 4
13.3
7 841 092 7
23.7
6 403 659 6
18.1
4 087 444 3
15.3
3 488 074 2
12.9
17年度
( '04)
376 699 4
12.9
769 635 7
23.2
430 450 6
17.9
995 021 3
13.6
698 947 2
11.3
18年度
( '05)
344 918 4
12.4
537 013 7
22.3
630 503 6
18.1
439 094 3
18.9
267 189 1
17.6
19年度
( '06)
227 730 4
12.1
387 430 7
22.4
824 088 7
18.6
320 265 3
18.6
631 811 1
12.9
( '07)
262 048
11.8
506 113
21.6
176 312
18.8
538 132
18.8
892 834
14.2
国民健康基礎調査
性・年齢階級別にみた健診や人間ドックを受け
た者の割合
健診や人間ドックを受けた者はどのような機会に受けたのかをみると、男は「職場
における健診」が55.1%と最も多く、次いで「市区町村で行う健診」が22.6%、「人間
ドック」が 9.1%となっており、女は「市区町村で行う健診」が43.5%で最も多く、次い
で「職場における健診」が34.1%、「人間ドック」が6.9%となっている
検診目的と検診方法
対策型検診
対象者全体の死亡率を下
げる
有効性の確立した検診方
法に限る
任意型検診
個人の死亡リスクを下げる
有効性の確立していない新
しい検診方法を含めて考え
る
日本における対策型乳がん検診
1983年(S58年)
老人保健法施行(がん検診体制
の発足)
1987年(S62年) 乳がんが検診対象となる(視触
診)
1998年(H10年) 「がん検診の有効性評価に関する
研究班(久道班)」報告書
現行の視触診法による乳がん検診の有効性を示す根拠
は必ずしも十分でない。欧米に於いて有効性が認められ
ているマンモグラフィを導入すべきである。
1998年(H10年)老健法検診費の一般財源化
マンモグラフィ検診の有効性評価
RCTs of women aged 40-49
Relative risk
1
●
HIP
.5
●
●
2
RCTs of women aged 50+
Relative risk
1
2
●
HIP (50-64)
.5
●
Edinburgh)
●
Kopparberg
●
Kopparberg (50-74)
●
Ostergotland
●
Stockholm
●
Gothenburg)
●
RR=0.82 (0.71-0.95)
●
●
RR=0.71 (0.57-0.89)
Ostergotland (50-74)
●
Malmo
●
Edinburgh (50-64)
Malmo (50-69)
●
Stockholm (50-64)
●
Gothenburg (50-59)
●
CNBSS-1
All trials combined
RR=0.76 (0.67-0.87)
●
All 5 Swedish RCTs
●
RR=0.74 (0.64-0.86)
CNBSS-2 (50-59)
All trials combined
All 5 Swedish RCTs
日本でもマンモグラフィ検診による生存率の向上はある
Kawai, et al. Cancer Sci. 2008
日本における対策型乳がん検診
2000年(H12年)第4次老人保健事業(老健第65号)
50歳以上へのマンモグラフィ検診導入(2年に1回)
30・40歳代は視触診(1年に1回)
2004年(H16年)第5次老人保健事業(老老発第04270001
号)
40歳代へのマンモグラフィ検診導入(2年に1回)
乳がん検診の基本はマンモグラフィ
なぜ初めは50歳以上?
日本における体制が整わなかった
50歳以上の方が乳がんは見つけやすい
30歳代の視触診は続けるの?
乳がんの見つかりにくい乳房
乳がんの見つかりやすい乳房
年齢は乳腺濃度を推定する指標であるが、そうとも限らない
対策型検診ではテーラーメード型の検診は難しい
部位別・年令別罹患率(2005年)
乳がんは40歳代後半から50歳代に多い
若い年代に多いのは乳がんのみ
罹患率:人口10万対
茨城県における乳がん検診実施指針
平成13年3月
超音波検診を独自に導入した
対象年齢
検診項目
30歳以上39歳まで 視触診(年1回)+超音波検診
(年1回)
40歳以上56歳まで 視触診(年1回)+超音波検診
(年1回)+マンモグラフィ(2年
に1回)
57歳以上65歳まで マンモグラフィ(2年に1回)
H17年度からは40歳代のマンモグラフィを2方向に
乳がん検診の結果
茨城県総合健診協会平成19年度
陽性反応
受診者数 要精検率 癌発見率
的中率
視触診
10191
1.50%
0.04%
3.25%
マンモグラフィ
27692
4.30%
0.22%
5.41%
超音波
24345
3.70%
0.18%
5.34%
超音波検診には30歳代が約1万人含まれている
併用検診
視触診+
視触診+X線
視触診+
視触診+超音波
0
(0)
0
(0)
7
(6)
0
(0)
1
(0)
8
(6)
X線+超音波
視触診+
視触診+X線+超音波
0
(0)
4
(4)
6
(6)
8
(8)
0
(0)
1
(1)
マンモグラフィと超音波の併用により
もっとも多くの乳がんが検出される
1
0 (0)
(0)
3
2
(3)
(2)
それではマンモグラフィと超音波の
併用検診がよいのでしょうか?
乳がん検診の目的は?
対策型検診
対象者全体の死亡率を下
げる
任意型検診
個人の死亡リスクを下げる
乳がん超音波検診の死亡率減少効果は
証明されていない
Japan Strategic Anti-cancer
Randomized Trial
厚生労働省 第3次対がん総合戦略研究事業
(がん対策のための戦略研究)課題1
乳がん検診における超音波検査の
有効性を検証するための比較試験
(J-START)
がん対策のための戦略研究・課題1
平成18年度 平成19年度 平成20年度 平成21年度 平成22年度 平成23年度 平成24年度
がん戦略研究(5年間)
・
比
較
試
験
登
録
開
始
(
/9
)3
2年間隔で二回受診
プライマリ・エンドポイント:感度・特異
度(感度71%→86%)の検証
→ 各群4万人、計8万人
セカンダリ・エンドポイント:累積進行乳
がん罹患率30%→10%(死亡率
36%減少)の検証
→ 各群5.5万人、計11万人
実質研究期間(3.5年間)
H19年度
8千人
H21年度
8千人
H20年度
2.9万人
H22年度
2.9万人
H21年度
3万人
H23年度
3万人
H22年度
9千人
H24年度
9千人
総計 7万6千人が参加
乳がん検診の目的は?
対策型検診
対象者全体の死亡率を下
げる
有効性の確立した検診方
法に限る
任意型検診
個人の死亡リスクを下げる
有効性の確立していない新
しい検診方法を含めて考え
る
今のところ超音波検診は任意型検診主体
将来的には日本全国の対策型検診への導入を目指す
つくば市の乳がん検診
検査項目
対象年齢
自己負担金(70
歳以上は無料)
超音波
30~56歳
1,000円
前年度マンモグラフィ
を受けていない
2,000円
超音波
+マンモグラフィ
40~56歳
マンモグラフィ
前年度マンモグラフィ
を受診していない
57~69歳
1,000円
つくば総合健診センター
レディースドック
検査項目
料金
乳がん自己検診法指導
乳房視触診
乳がん
検診
自己検診法以
外は選択性。た
だし、視触診の
みは承っており
ません。
2,625円(税込)
1方向
3,150円(税込)
2方向
6,300円(税込)
乳房超音波検査(エコー)
3,150円(税込)
マンモグラフィ検
査
利益と不利益のバランス
対策型検診
対象者のほとんどの人にお
いて、利益が不利益を上回
ると判断できる場合に限る
任意型検診
個人において、利益と不利
益のバランスを判断する
テーラーメード型
の検診は難しい
年齢による分類を
個人にあった検診
方法の選択が可
能
検診間隔
対策型検診
対象者全体が均等に受診
できるように配慮
マンモグラフィ検診は
1回/2年
任意型検診
個人のリスクを考慮(比較
的頻回)
超音波検診の
検診間隔は?
JABTSの超音波検診における要精査基準は超音波検診を隔年と仮定し
特異度を上げるために、小さな病変に関しては要精査としない
つくば総合健診センターの
乳がん検診
2010 年7月
582 名が超音波による乳がん検診を受診
異常なし
268 (46%)
単純性のう胞 128 (22%)
単純性のう胞以外の所見有
186(32%)
JABTS基準による
前回と変化なし
要精査
26 (4.5%)
超音波検診の問題点
病変の検出が検査者の能力による
特異度が低い
教育と精度管理が重要である
茨城県の乳がん検診実施機関の登録に関
する基準
マンモグラフィ
撮影者は、マンモグラフィ
検診精度管理中央委員会
の講習会を受講し、できれ
ばC判定以上をもっている
こと
読影医のうち1名は精中委
の認定をもっていること
超音波検診
実施者は日本超音波医学会
の認定超音波専門医あるい
は超音波検査士、あるいは乳
がん部会が指定した講習会も
しくは研修会を終了したもの
判定者は乳がん部会が指定
した講習会もしくは研修会を
終了した医師
(JABTS:日本乳腺甲状腺超音波
診断会議主催あるいは共催
の講習会を指定)
精中委講習会受講者の現状
2011年 3月31日 現在
評 価
A
B
技術部門 5,672 5,434
C
2,708
読影部門 2,086 9,307 2,460
D
合 計
1,630 15,444
1,112
14,965
JABTS超音波講習会開催実績
平成15年から平成22年度末までに
計83回開催
受講者数
医師
1749
技師
2037
2011年 3月31日 現在
検診結果の把握:検診の精度管理に重要
1.要精検率
2.精検受診率
– 未受診者には受診推奨を行う
3.がん発見率
– 精密検査結果及び治療の結果報告を受ける
4.早期がん割合
– 非浸潤がんを区別する
5.陽性反応的中度
1,3,4,5、は年齢階級別、受診歴別、検診方法別に集計す
る
今後の我が国におけるがん検診事業評価の在り方について
報告書 (平成20年3月)
がん検診事業の評価に関する委員会
各がん検診に関する事業評価指標とそれぞれの許容値及び目標値 「乳がん」
精検受診率
未把握率
精検未受診率
精検未受診・未把握率
要精検率
がん発見率
陽性反応的中度
許容値
許容値
許容値
許容値
許容値
許容値
許容値
80%以上
10%以下
10%以下
20%以下
11.0%以下(※)
0.23%以上(※)
2.5%以上(※)
目標値
目標値
目標値
目標値
90%以上
5%以下
5%以下
10%以下
(※)乳がん検診の要精検率、がん発見率及び陽性反応的中度については、参
考値とする(算出対象の平成17年度データはマンモグラフィ検診が本格実施さ
れた最初の年のものであり、初回受診者の割合が著しく高いことに影響され、
過大評価されている可能性が高いため)。
どうやって検診の質を確かめるか
要精査となったときに、精密検査機関
向けの紹介状を発行しているか
精密検査機関からの返信用紙が同封
されているか
乳がん検診の利益・不利益
利益
乳がんで死なないこと
乳房が温存される
リンパ節を廓清しなくてもよ
い
化学療法が不要?
不利益
偽陽性
精密検査に費用がかかる
不要な生検
心配
偽陰性
本来見つけなくても良いが
んを検出している?
対策型検診でも任意型検診でも
精度の高い検診が日本全国で行われ
受診者の利益になること