作用原理入門

特集/方程式と物理学
ニュートン方程式とラグランジュ方程式
古典力学
東 島
清
1. ニュートン方程式
中世を支配したアリストテレスの運動法則はガ
リレオにより否定された.ガリレオは,運動の原
因について問うことをやめ,経験に基づいて運動
働くと,物体の速度が変化する.この速度変化を
あらわすのが第 2 法則である.ニュ−トンは 1687
年にプリンキピアを著し,この 2 法則に作用反作
用の法則を加えて,運動の 3 法則とした.
✓
✏
ニュ−トンの運動 3 法則
学を作り上げた.そのなかで、速度や加速度の概
[第 1 法則] (慣性の法則) 外力が働かない
念が明確になってきた.ガリレオはなお円運動に
限り,すべての物体は静止または等速直線
こだわったが,デカルトに至って今日的な意味に
運動を続ける.
おける慣性の法則が姿を現した.フックなど運動
[第 2 法則] (運動方程式) 質量 m の物体に,
学に飽き足らない人々の間で,力が働くと加速度
力 f が働くと,物体に生じる加速度は
が生じるということが次第に認識され,ニュート
1
dv
= f.
dt
m
ンにより運動3法則の形にまとめあげられた.中
(1)
でも有名な第2法則は,ライプニッツやオイラー
[第 3 法則] (作用・反作用の法則) 2つの物
などによる解析的手法の広まりとともに,ニュー
体間に働く作用と反作用は, 常に大きさが
トン方程式として物理学における不動の地位を確
等しく 逆向きである.
✒
1, 2)
立した.
1.1 ニュートンの運動3法則
✑
一定の速度で走る場合には速度の意味は明らか
力が働かない限り,物体は静止または等速直線
だが,時々刻々,物体の速度が変化する場合には,
運動を続ける,という慣性の法則をご存知だろう.
少し注意が必要となる.時刻 t に位置 x(t) にあっ
これが第 1 法則である.ニュートン方程式を使う
た物体が,時刻 t + ∆t に位置 x(t + ∆t) に移動す
前に,人はこの慣性の法則が成り立つことを確か
ると,その間の平均速度は
めなければならない(慣性系).走り出す時の電
車や,カーブをするときの電車の乗客にとっては,
x(t + ∆t) − x(t)
∆x
=
.
∆t
∆t
床にそっと置いたボールはひとりでに走り出すの
平均する時間間隔 ∆t を次第に短くして,時刻 t に
で,ニュートン方程式を使うことはできない.こ
おける瞬間的な速度を定義する
こでは、慣性の法則が成り立つ慣性系であること
を確かめたとしよう.物体が等速直線運動をしな
かったら,力が働いているということになる.力が
数理科学
NO. 504, JUNE 2005
v(t) = lim
∆t→0
x(t + ∆t) − x(t)
.
∆t
微分記号を用いると,v(t) =
dx(t)
dt
(2)
= x(t)
˙ .同じ
1
く,速度の平均変化率を求めて,平均する間隔を
v
2
短くすれば,瞬間的な加速度を得る
a(t) = lim
∆t→0
v(t + ∆t) − v(t)
.
∆t
微分記号を用いれば a(t) =
dv(t)
dt
=
(3)
d2 x
dt2
1
= v(t)
˙ .
x
この運動 3 法則は天体の運動を非常に正確に予
-1
0
1
2
言するのみならず, 多くの実験によって確かめら
れている.
-1
1.2 運動方程式の解
物体に働く力が分かっているとき, 第 2 法則は物
体の運動の時間的変化を定める微分方程式だ.あ
る時刻 t0 における物体の位置 x(t0 ) = x0 と速度
v(t0 ) = v0 (初期条件) を与えてこの微分方程式を
解けば, それ以後の全ての時刻における物体の位
置と速度を予言することができる∗1).
図を使って運動方程式を解いてみる.簡単にする
ために,力 f (x, v) は時間に依らないとしておく.
1 秒間に 20 枚以上の画像を用いたアニメーション
映画は,人間には十分に滑らかに見える.物体の
速度があまり速くない時には,時間間隔 ∆t で物
体をとびとびに動かしても,∆t が十分に小さけ
れば,物体の運動も滑らかに見えるだろう.時刻
t に物体が位置 x(t) にあって,速度 v(t) で走って
いるとしよう.∆t 秒後の時刻 t + ∆t には,物体
はどこにいてどんな速度を持っているだろうか?
∆t の1次までの精度で考えると,速度の定義と運
動方程式 (1) より
v(x + ∆t)
=
x(t)
v(t)
+ V (x, v)∆t
移動する距離 V (x, v)∆t を矢印で表している∗2).
(x, v) 空間における軌跡 (解曲線) を求めるには,
微少変位ベクトル V ∆t の矢印を次々につないで
ゆけば良い.図 1 に示した実線は,時刻 t = 0 に
それぞれ (1, 0),(0, 1.6) にある点の軌跡を表して
いる.(x, v) 空間の各点におけるベクトル V ∆t の
矢印は一意に定まっているので,(x, v) 空間にお
ける軌跡が交わることはない.従って,(x, v) 空
間の一点を時刻 t0 における初期条件として選べ
ば,その点を通る軌跡が唯一つ定まり,運動方程
式の解は一意であることが分かる.矢印は厳密に
求めた軌跡の接線になっているので,微少矢印を
結んだ数値解は厳密解より少し外側にずれる.時
刻 t = 0 に原点 (x, v) = (0, 0) にある点は永遠に
する.
1 次元の運動で,力が位置だけに依る場合には,
ポテンシャルエネルギーを
ここで
v(t)
1
m f (x(t), v(t))
.
(4)
この式は,時刻 t における (x, v) 平面の点
(x(t), v(t)) が,時刻 t+∆t には,(x(t+∆t), v(t+
∆t)) に移動することを表している.図 1 には
f (x, v) = −mω 2 x の調和振動子の場合に,点の
*1) 場合によっては,初期条件のわずかな差が指数関数的に拡
大され,実際上,長時間の予言ができなくなることもある.
2
図 1 ニュートン方程式の図による解法
原点にとどまる.この点は静止した振動子に対応
x(t + ∆t)
V (x, v) =
-2
U (x) = −
x
f (x)dx
(5)
で定義すれば,力はポテンシャルエネルギーの微
分で表される
f (x) = −
dU (x)
.
dx
(6)
この場合には,全エネルギー
*2) この図では ω = 1 の場合に,∆t = 0.1 にとして矢印を
描いている
E=
1
mv 2 + U (x)
2
(7)
は時間に依らない定数である.第一項は運動エネ
エネルギー保存則より,ω 2 x2 + v 2 = ω 2 x20 + v02 =
ルギーを表す.実際,微分してみれば
dv dU
dE
=v m +
dt
dt
dx
2E/m = 定数 となるので,(x, v) 空間における軌
= 0.
道は楕円である.特に ω = 1 の場合には,図に示
簡単に解ける幾つかの例を挙げておこう.
されているように,円軌道となる.
1.3 3 次元空間における運動
[ 例 1 ] 等速直線運動
力が働かないとき, 即ち f = 0 の時, 運動方程式
dv(t)
dt
v0
sin ωt
ω
v(t) = −x0 ω sin ωt + v0 cos ωt
x(t) = x0 cos ωt +
= 0 を積分して v(t) ≡
dx(t)
dt
= A もう一度
積分すると
ガリレオは地上で石を投げたときの運動を調べ
るときに,水平方向は力が働かない等速直線運動
(8) として扱い,垂直方向は等加速度運動 (9) と
して独立に扱い,放物線軌道を得た.一般的な 3
x(t) = At + B
(8)
積分定数 A, B は初期条件を満たすように定める.
[ 例 2 ] 等加速度運動
分して v(t) =
び力をベクトルとして取り扱い,ベクトルに対す
る運動方程式を解けば良い.r = (x, y, z) を位置
のベクトルとすれば,デカルト座標における速度
一様な力 f = −mg が働くとき
dx(t)
dt
次元の運動の場合にも,位置,速度,加速度およ
dv(t)
dt
= −g を積
= A − gt もう一度積分すると
dx
dt = (A − gt)dt
dt
1
= At − gt2 + B
2
x(t) =
v と,加速度 a は
v=
dx dy dz
, ,
dt dt dt
dr
=
dt
,
a=
dv
dt
で与えられる.3 次元空間における運動方程式は
(9)
積分定数 A, B は初期条件を満たすように定める.
dr
dt
dv
dt
=
v
1
mf
(11)
ここで,f は力のベクトルを表す.図 1 で行った
[ 例 3 ] 調和振動子 (単振動)
バネに繋がれた物体には平衡点からの変位に比例
のと同じように,r と v の6次元空間の各点に右
する力 f (x) = −kx がはたらく.この時,v を消
辺のベクトルの矢印を書き,それをつないでゆけ
去した運動方程式
ω=
k
m
2
m ddt2x
= −kx は, 角振動数を
期条件に応じた解が一意に決まる.速度を消去し
で定義すると
d2 x
= −ω 2 x
dt2
て 2 階の微分方程式に直すと
(10)
d
と書くことができる. dt
cos ωt = −ω sin ωt およ
d
び dt sin ωt = ω cos ωt から直ちにわかるように,
sin ωt, cos ωt は微分方程式 (10) を満足する.2
階微分方程式の一般解は,解くのに 2 回積分する
必要があるので,2 つの任意 (積分) 定数を含む.
A, B を定数として x(t) = A cos ωt + B sin ωt
が, 微分方程式 (10) を満たすことは容易に確かめ
られる.従って, これが一般解である.定数 A, B
は初期条件により定まる (A = x0 , B = v0 /ω).
数理科学
NO. 504, JUNE 2005
ば,各点毎に矢印の向きが決まっているので,初
d2 r
1
= f.
dt2
m
(12)
3 次元の場合,力が場所だけの関数であっても,
必ずしもポテンシャルエネルギーを導入できるわ
けではない.力 f によって物体が dr 移動したと
き,内積 f · dr を力のした仕事という. 力に逆らっ
て点 r まで,物体を運ぶときに必要な仕事
U (r) = −
r
f (r) · dr
が,途中に通る経路によらないときに限り,ポテ
ンシャルエネルギー U (r) は位置だけの関数にな
3
る.この場合の力を保存力という.力が保存力な
線にそった長さを用いた方が便利である.物体の
らば,エネルギーは時間に依らず一定に保たれる.
位置を指定するのに必要な座標 qi (i = 1, · · · , N )
力の方向がいつでも中心方向を向いているとき,
を一般化座標という.N を力学的自由度の数と呼
すなわち,2 つのベクトル f と r が平行であると
ぶ.一般化座標に対する運動方程式の形を求める
き,この力を中心力であるという.力が中心力の
のがこの節の目標である.
場合には,運動方程式 (11) より,角運動量
L = mr × v
∗3)
(13)
も,時間に依らない定数となる.位置ベクトル r
も速度 v も,一定の角運動量 L に垂直なので,は
じめの時刻における r と v の作る平面から決して
そのために次の問題を考えてみよう.
[ 問 ] 時刻 t = t0 に qi (t0 ) = qi0 を出発した
物体が,時刻 t1 に qi (t1 ) = qi1 に到着した.
途中の時刻 t0 ≤ t ≤ t1 ではどんな経路を
通ってゆくか?
はみ出すことはなく,同じ平面内で運動する.角
運動量の大きさは,ケプラーの第 2 法則に現れる
この問に対する答が次の作用原理である.作用原
面積速度に比例する.ニュートンは中心力の場合
理はハミルトンの原理または変分原理と呼ばれる
に,惑星の運動を接線方向と半径方向に分けて解
こともある.
析し,ケプラーの法則から逆 2 乗則に従う万有引
1)
力を発見した.
✓
✏
作用原理
時刻 t = t0 に qi0 を出発し時刻 t1 に qi1 に到
着する物体は,途中,
2. ラグランジュ方程式
S[q(t)] ≡
t1
L(q(t), q(t),
˙
t)dt (14)
t0
ニュートン方程式はベクトルの方程式なので,デ
カルト座標では簡単な形をしている.場合によっ
が停留値をとるような経路を通る.S[q(t)] を
作用(積分)と呼ぶ.
て曲線に沿った長さや,角度などを変数に取った
✒
ほうが見通しが良くなることがある.そのような
ラグランジアン L(q, q,
˙ t) は一般化座標 q1 . · · · , qN ,
場合,ニュートン方程式ではデカルト座標から出
その時間微分 q˙1 , · · · , q˙N (一般化速度),および
発して,複雑な変数変換を行って,加速度を求め
時間 t の関数としておく.その時間積分である作
る必要がある.それに比べると,運動エネルギー
用は物体の経路 C : qi (t) (i = 1, · · · , N ) を定め
やポテンシャルエネルギーなどは,スカラー量な
ると値が定まる.このように関数を定めると値が
ので,変数変換を行うのが楽である.ラグランジュ
決まる量を汎関数という.経路を変えると作用も
はラグランジアンと呼ばれるスカラー量を用いて,
変化するが,作用原理は,物体が実際に通るのは,
運動方程式を書き換えた.このラグランジュ方程
経路を少し変化させても作用が変わらないような
式はどんな変数を用いても形が同じなので,誰で
経路であると主張する.
も簡単に書き下すことができ,非常に実用的であ
る.
∗4)
まず作用原理からラグランジュ方程式を導く.
経路 C :
qi (t) を物体が実際に通る経路だと仮
2.1 作用原理
定しておく.この経路を少し変化させた経路を
物体の位置を指定するには,直線運動ならば直
C : qi (t) とすると,qi (t) は経路 qi (t) とわずか違
角座標が便利であるが,回転運動ならば回転角度
を,滑らかな曲線上に拘束されている場合には曲
*3) a × b はベクトルの外積を表し,a, b に垂直である.
*4) 変分法ではオイラー・ラグランジュ方程式と呼ばれる
4
✑
うだけなので
qi (t) = qi (t) + δqi (t)
(15)
と書くと δqi (t) は微少量である.δqi (t) のように,
となるが,出発点と終着点は固定しているので式
(16) を代入して,次の式を得る
t1
δS =
t0
i
d ∂L
∂L
−
∂qi
dt ∂ q˙i
δqi (t)dt.
作用原理はどんな変化 δqi (t) に対しても作用積分
が停留値をとる,すなわち δS = 0 を要求して
いるので,δqi (t) の係数は零でなければならない.
従って,
✓
図 2 仮想変位
✏
ラグランジュ方程式
作用原理に依れば物体が実際に通る軌道は微
分方程式
同じ時刻で実際の軌道からの仮想的に考えたズレ
d ∂L
∂L
−
=0
dt ∂ q˙i ∂qi
を仮想変位という.2つの経路 C, C とも,同じ
点を出発して同じ点に到着するので,両端では
δqi (t0 ) = 0,
δqi (t1 ) = 0
(16)
二つの経路に沿って積分した作用積分の変化は
δS ≡ S[C ] − S[C]
=
✒
✑
2.2 ラグランジアン
前節において,作用原理から物体が実際に通る軌
{L(q(t) + δq(t), q(t)
˙ + δ q(t),
˙
t)
道はラグランジュの方程式を満たすことを示した
− L(q(t), q(t),
˙
t)} dt
t1
t0
を満たさなければならない.これをラグラン
(17)
t0
=
(20)
ジュ方程式という.
を満たしている.
t1
(i = 1, · · · , N )
i
が,ラグランジアン L(q(t), q(t),
˙
t) を与えていな
かった.この節ではラグランジアンの形を決める.
∂L
∂L
δqi (t) +
δ q˙i (t) dt
∂qi
∂ q˙i
運動方程式が全ての座標系で同じであるために
は,ラグランジアンは座標系に依らない量すなわ
ここで仮想変位 δqi (t) は同じ時刻における2つ
ちスカラー量でなければならない.例えば,ベク
の軌道の差を表しているので,時間微分と順序を
トルの成分は見る座標系に依るが,ベクトルの長
交換することができる,すなわち
さはどんな座標系から見ても変わらないスカラー
δ q˙i (t) = q˙i (t) − q˙i (t)
d
d
(qi (t) + δqi (t)) − qi (t)
=
dt
dt
d
δqi (t).
(18)
=
dt
式 (18) を (17) に代入して部分積分を行えば
δS =
t1
t0
=
i
+
∂L
δqi (t)
∂ q˙i
t1
t0
数理科学
i
∂L
∂L d
δqi dt
δqi +
∂qi
∂ q˙i dt
i
(19)
t0
NO. 504, JUNE 2005
ニュートン方程式の形が簡単になるデカルト座標
系で,ラグランジュ方程式とニュートン方程式が
一致するように,ラグランジアンを定める.物体
の座標をベクトル r = (x, y, z) で表すと,ポテン
シャルエネルギー U (r) の中で運動する質量 m の
粒子に対するニュートンの運動方程式は
m
t1
∂L
d ∂L
−
∂qi
dt ∂ q˙i
量である.ラグランジアンの形を決めるために,
δqi (t)dt
d2 r
= −∇U (r)
dt2
(21)
となる.運動エネルギー
˙ =
T (r)
1
m
2
dr
dt
2
=
1
m x˙ 2 + y˙ 2 + z˙ 2
2
5
を用いると,ニュートンの方程式 (21) は
∂U
d ∂T
=−
dt ∂ x˙
∂x
ができる.er と独立な基本ベクトルを eφ =
(− sin φ, cos φ) とする.r, φ をわずかに変化させた
(22)
ときの位置ベクトル r の変化が dr = drer +rdφeφ
と書き換えることができる.y, z についても同様
となるのは,er 方向の微少線分の長さが dr,eφ
である.一般化座標を q1 = x, q2 = y, q3 = z と
方向の微少な弧の長さが rdφ なることから明らか
すれば,これを
であろう.従って,速度 v =
d
dt
∂T
∂ q˙i
=−
∂U
∂qi
= vr er + vφ eφ の
成分は,vr = r,
˙ vφ = rφ˙ となる.ラグランジュ形
(i = 1, 2, 3) (23)
式では加速度の座標変換は必要ないのでこれで十
分である.ポテンシャルエネルギーを U (r, φ) と
と書くことができる.従って,デカルト座標系に
すると,極座標を用いたときのラグランジアンは
おいてはラグランジアンを
˙ = T (r)
˙ − U (r)
L(r, r)
dr
dt
˙ = m (r˙ 2 + r2 φ˙ 2 ) − U (r, φ)
L(r, φ, r,
˙ φ)
2
(24)
と選べば,ラグランジュ方程式 (20) はニュートン
となるので,ラグランジュ方程式は
の運動方程式 (22) に一致する.運動エネルギー
∂U
m r¨ − rφ˙ 2 = −
∂r
d
∂U
mr2 φ˙ = −
.
dt
∂φ
˙ もポテンシャルエネルギー U (r) も座標系
T (r)
に依らないスカラー量なので,ラグランジアンを
(24) に選んでおけば,ラグランジュ方程式 (20) は
任意の座標系で成り立つ.ラグランジュ形式では,
物体の位置を一意的に表すことができるならば,
一般化座標としてどんな変数を用いても良い.
✓
(26)
(27)
中心力の場合にはポテンシャルエネルギー U (r) が
角度 φ に依らないので,式 (27) の右辺は零になり,
角運動量 pφ ≡ mr2 φ˙ が保存される.r, φ, vr , vφ の
4次元空間における軌道は、一般にはエネルギー
✏
ラグランジアン
一定の3次元部分空間を動くが,中心力の場合に
ラグランジアンはスカラー量なので,ラグラ
は,エネルギーと角運動量が一定という条件で定
ンジアンの中で自由に変数変換を行って良い.
められる2次元部分空間上にある。この場合,pφ
を用いて,(26) から φ˙ を消去すれば,1 次元の問
一般化座標で表した運動エネルギーとポテン
シャルエネルギーを T (qi , q˙i ), U (qi ) とする
題に帰着するので,まず r(t) を求め,次にそれを
用いて φ(t) を求めることができる. 特に,力が逆
と,ラグランジアンは
L(q, q)
˙ = T (q, q)
˙ − U (q)
2乗則に従う引力の場合と,調和振動子の場合に
(25)
は,束縛された状態の軌道は任意の初期条件に対
で与えられる.
✒
デカルト座標では運動エネルギーは qi に依らない
が,極座標などの曲線座標系では一般化座標に依
存する.また,一般に質量やバネ定数などラグラ
ンジアンに入っているパラメーターが時間に依っ
ていても構わない
[ 例 ] 2次元の極座標
平面上の位置ベクトル r = (x, y) = xex + yey を
極座標 r, φ で表すと,x = r cos φ, y = r sin φ
より,r = r(cos φ, sin φ) = rer と書くこと
6
して閉じるが,それ以外の場合には一般に軌道は
✑
閉じない.
参考文献
1) 山本義隆:古典力学の形成 ニュートンからラグラン
ジュへ,日本評論社 (1997).
2) 山本義隆:磁力と重力の発見 3 近代の始まり,みす
ず書房 (2003).
(ひがしじま・きよし,大阪大学大学院理学研究科)