2. 分子標的治療薬:各論 (12)抗 RANKL 抗体 淀川キリスト教病院腫瘍内科 須藤 洋崇 Hirotaka Suto 重要であり,骨芽細胞で産生され はじめに る RANKL とその拮抗分子である B.治療効果に関する臨床試験 の結果 固形癌および多発性骨髄腫の患 OPG(osteoprotegerin) が 大 き デノスマブの有効性と安全性を 者では,一定の割合で骨転移を認 く関与している。腫瘍細胞が,骨 みるため,まず骨転移を有する進行 める(表 1)1)2)。骨転移の進行に の微小環境へ転移すると,骨芽細 乳癌患者を対象とした第Ⅲ相二重 よる疼痛や病的骨折,脊髄圧迫, 胞における RANKL の産生を誘導 盲検比較試験が行われた。対象患 高カルシウム血症などの骨関連事 し,破骨細胞の分化と活性化を促 者をデ ノスマブ(120mg/4weeks) 象 (skeletal-related event;SRE) は, 進すると同時に,OPG の発現を 療法+プラセボ群または,ゾレドロ 患者の QOL(quality of life)を著 抑制する。この破骨細胞の活性化 ン酸(4mg/4weeks)療法+プラセ しく低下させるため,適切な治療 により,骨基質の破壊と,それに ボ群(ただし,ゾレドロン酸はクレ が必要とされる。この骨転移の進 伴って放出された増殖因子が腫瘍 アチニン・クリアランスに応じて用 行に,重要な役割を果たしている 細胞のさらなる増殖を促すという 量調節)の2群に無作為に割り付け, 蛋白の 1 つに,RANKL(receptor 悪循環が繰り返される(図 1) 。 初回 SRE(病的骨折,骨への放射 線治療,骨に対する外科的処置,脊 activator of nuclear factor kappa-β ligand)があげられる。本稿では, 骨転移による骨代謝の変化と抗 RANKL 抗体について概説する。 骨代謝 デノスマブ 抗 RANKL 抗体であるデノスマ 骨転移の頻度 (進行例での割合;%) 乳癌 65〜75 前立腺癌 65〜75 肺癌 30〜40 膀胱癌 40 腎癌 20〜25 甲状腺癌 60 悪性黒色腫 14〜45 骨髄腫 95〜100 〔文献 1)2)より引用〕 ロン酸群と比較し,有意に延長(ハ ザード比 0.82,95% CI 0.71〜0.95, 抗体であり,RANKL に特異的に p=0.0101)した(図2)3)。 分化と活性化を阻害する。 このほか,上述の臨床試験と同 様,デノスマブ群とゾレドロン酸 群に割り付けた第Ⅲ相二重盲検比 破骨細胞と骨芽細胞のバランスが 表 1 骨転移の頻度 ところ,デノスマブ群では,ゾレド ブ(ランマーク ®)は完全ヒト型 結合することにより,破骨細胞の 骨代謝が正常に保たれるには, 髄圧迫)発現までの期間を比較した A.投与法 較試験として,骨転移を有する前 デノスマブ 120mg/1.7ml を 4 週 立腺癌患者を対象とした試験と, 間に 1 回,皮下投与する。投与部 乳癌と前立腺癌を除く固形癌およ 位としては上腕,大腿または腹部 び多発性骨髄腫を対象とした試験 に皮下投与を行う。また,本剤に が存在する。前立腺癌患者を対象 よる重篤な低カルシウム血症の発 とした比較試験では,乳癌患者と 現を防ぐため,高カルシウム血症 同様,初回SRE発現までの期間が, がない限り,カルシウム(500mg/ デノスマブ群で有意に延長(ハ day) および天然型ビタミン D (400 ザード比 0.82,95% CI 0.71〜0.95, IU/day)の経口補充を行うこと p = 0.0085)したことが示され(図 が推奨されている。 2)4),乳癌と前立腺癌を除く固形 169 特集 ■ 分子標的治療薬の使用手引き 2013 1 2 骨内の腫瘍は RANKL 発現を促す因子を 産生する 骨芽細胞などの RANKL 発現が促進される RANKL 骨芽細胞 破骨細胞 腫瘍 4 骨吸収の際に腫瘍の増殖あるいは生存を促す 因子が分泌される 3 RANKL の発現増加は,破骨細胞の形成,機能, 生存を促進し,過剰な骨吸収につながる 図 1 骨の微小環境 SREを発現していない患者の割合 その他固形癌または 多発性骨髄腫(n=1,776)5) 4) 前立腺癌(n=1,901) 3) 乳癌(n=2,046) 1.0 ランマーク群 ゾレドロン酸群 0.8 0.6 0.4 0.2 HR 0.82(95% CI:0.71∼0.95) <0.0001(非劣性) =0.0101(優越性) 0.0 0 6 12 18 24 投与期間(月) 30 HR 0.82(95% CI:0.71∼0.95) =0.0002(非劣性) =0.0085(優越性) 0 6 12 18 24 投与期間(月) 30 HR 0.84(95% CI:0.71∼0.98) =0.0007(非劣性) =0.0619(優越性) 0 6 12 18 24 投与期間(月) 30 図 2 各臨床試験における初回 SRE 発現までの期間 3)〜5) 癌および多発性骨髄腫を対象とし (図 3)6),全生存期間および病勢 至っていない。そのため,多発性 た試験では,初回 SRE 発現まで 進行までの期間においては,両群 骨髄腫の患者のみを対象とした臨 の期間を遅らせる効果において, 間に統計学的有意差は認められな 床試験が,現在計画されている。 デノスマブ群の非劣性(ハザード かった。 比 0.84,95% CI 0.71〜0.98,p = 0.0007)が示された(図 2) 。 5) グループ解析を行ったところ,多 C.使用上の注意点と副作用対策 デノスマブの有害事象 (表2) は, 発性骨髄腫の患者集団において, ゾレドロン酸に類似している。顎 も行われており,初回 SRE 発現 ゾレドロン酸群に対するデノスマ 骨壊死の発症率は 1〜2%と同等の までの期間の中央値は,ゾレドロ ブ群のハザード比は 2.26(95% CI ため,ゾレドロン酸と同様に,デ ン酸群の 19.5 カ月に対して,デノ 1.13〜4.50)であったが,症例数が ノスマブによる治療開始前には, ス マ ブ 群 が 27.7 カ 月 で あ っ た が 限られていることから,結論には 歯科や口腔外科の診察を受けるこ 上述した 3 つの試験の統合解析 170 また,全生存期間についてサブ コンセンサス癌治療 VOL.12 NO.3 SRE を発 現 し て い な い 患 者 の 割 合 初回 SRE 発現までの期間 1.0 HR 0.83(95% CI:0.76∼0.90) <0.0001(非劣性) <0.0001(優越性) 0.8 0.6 0.4 ゾレドロン酸 ランマーク 0.2 0 0 Patients at risk: 2,861 ゾレドロン酸 2,862 ランマーク群 6 初回 SRE 発現まで の期間の中央値 19.5 カ月 27.7 カ月 12 18 投与期間(月) 1,596 1,666 991 1,077 522 570 24 30 178 197 26 22 〔文献 6)より引用〕 図 3 3 つの臨床試験の合同解析結果 表 2 デノスマブによる主な副作用 副作用 全副作用 第Ⅲ相臨床試験 合計 デノスマブ投与 2,841 例中 主な副作用 低カルシウム血症 疲労 悪心 関節痛 顎骨壊死 無力症 下痢 発症例数 827 162 78 75 74 52 48 45 compared with zoledronic acid 発症率 29.1% 5.7% 2.7% 2.6% 2.6% 1.8% 1.7% 1.6% for the treatment of bone metastases in patients with advanced breast cancer : A randomized, double-blind study. J Clin Oncol 28 : 5132〜9, 2010. 4) Fizazi K, et al : Denosumab versus zoledronic acid for the treatment of bone metastases in men with castration-resistant prostate cancer : A randomized, double-blind study. とが推奨される。低カルシウム血 かかわるため,適切な治療が必要 症はデノスマブ投与群で多くみら とされる。骨転移の治療薬は,ゾ れることから,治療中はカルシウ レドロン酸をはじめとするビスホ ムやビタミン D を併用しつつ,血 スホネート剤が中心となってきた denosumab versus zoledronic 清カルシウム,リンなどの電解質 が,抗 RANKL 抗体という,まっ acid in the treatment of bone 濃度を定期的に測定していく。ク たく異なる機序の薬剤の登場によ metastases in patients with レアチニン・クリアランス 30ml/ り, SRE の抑制および QOL の維持・ min 未満の患者および透析の必要 向上が期待される。 な末期腎不全患者は臨床試験の対 象から除外されているため,重篤 ●文献 な低カルシウム血症が発症する可 1) Coleman RE, et al : Skeletal 能性を考慮し,重度の腎機能障害 患者ではデノスマブの適応を慎重 に判断する必要がある。 complications of malignancy. Cancer 80 : 1588〜94, 1997. 2) Coleman RE, et al : Metastatic bone disease : Clinical features, pathophysiology and おわりに 骨転移は,患者の QOL に大きく treatment strategies. Cancer Lancet 377 : 813〜22, 2011. 5) Henry DH, et al : Randomized, double-blind study of advanced cancer (excluding breast and prostate cancer) or multiple myeloma. J Clin Oncol 29 : 1125〜32, 2011. 6) Lipton A, et al : Superiority of denosumab to zoledronic acid for prevention of skeletal-related events : A combined analysis of 3 pivotal, randomized, phase 3 trials. Eur J Cancer 48 : 3082〜92, 2012. Treat Rev 27 : 165〜76, 2001. 3) Stopeck AT, et al : Denosumab 171
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