事前評価 - 新エネルギー・産業技術総合開発機構

事前評価書
作成日
平成 17 年 12 月 16 日
1.事業名称
スピントロニクス不揮発性機能技術プロジェクト
2.推進部署名
電子・情報技術開発部
3.事業概要
(1)概要
将来のエレクトロニクスにおける中核的な基盤技術としてのスピ
ントロニクス技術(電子の電荷だけではなく、電子の自転=「スピ
ン」をも利用する全く新しいエレクトロニクス技術)を確立するた
め、強磁性体ナノ構造におけるスピンの制御・利用基盤技術を開発
する。
さらに超ギガビット級の不揮発性メモリであるスピンメモリか
ら、現行ハードディスクを超える新ストレージデバイス、そして、
待機電力がゼロのノーマリーオフコンピュータを可能とするスピン
トランジスタ等の新機能デバイスの実現に向けたデバイス技術の研
究開発を行い、将来の中核的エレクトロニクス技術における我が国
の優位性の確保に資するものである。
(2)事業規模
平成 18 年度事業費
8.4 億円
(3)事業期間
平成 18 年度~22 年度(5年間)
4.評価の検討状況
(1)事業の位置づけ・必要性
近年、スピントロニクス技術と呼ばれる新技術分野からは、大容量ハードディスクが生
み出されたが、その潜在的な能力はいまだ十分には開拓されていない。中でも、スピント
ロニクス技術の最大の特長である磁気ヒステリシス効果を用いる不揮発性機能には、超ギ
ガビット級の究極の不揮発性メモリであるスピンメモリから、現行のハードディスクの限
界を超える新ストレージデバイス、そして待機電力がオフのノーマリーオフコンピュータ
を可能とするスピントランジスタなど、多種多様な機能を持つデバイスの実現へ大きな期
待がかけられている。
本事業はこれらの技術開発を行うものであり、経済産業省技術戦略マップ(製造産業ナ
ノテク分野及び情報通信分野のストレージ・不揮発性メモリ部分)のスピン注入等に対応
するものである。
(2)研究開発目標の妥当性
経済産業省技術戦略マップに基づき、強磁性体ナノ構造が示す不揮発性機能を用いた新
しいエレクトロニクス基盤技術の確立を目指し、強磁性体ナノ構造の作製技術、スピン制
御技術の研究開発を行う。さらに、これら技術を用いた超ギガビットにスケーラブルな新
しい不揮発性スピンメモリ技術、不揮発性スピントランジスタ技術、新規ストレージ技術
等への応用を研究する。
目標設定については、今後も有識者ヒアリングなどで意見を聴取し、妥当性について検
討を行う。
(3)研究開発マネジメント
公募を行い、最適な実施体制を構築する。また、プロジェクトリーダーを選定し、プロ
ジェクトリーダーと密接な関係を維持しつつ、本研究開発の目的及び目標を踏まえ、予算
配分や事業計画の策定・見直しを行う。さらに、必要に応じて、外部有識者の意見を運営
管理に反映させる。研究開発開始後 3 年目に中間評価を予定しており、その結果も踏まえ、
適切な運営管理に努める。
(4)研究開発成果
本事業の成果により、大容量、高速、不揮発の全ての要素を併せ持つ理想のメモリの実
現が期待され、巨大な新市場が形成される。具体的には、128Mbit 以下の既存 MRAM アーク
テクチャ技術で先行している欧米に対する我が国の優位性が実現できる。また、現行ハー
ドディスクを超える新ストレージデバイス、瞬時起動が可能なインスタントオンコンピュ
ータ及び不揮発性ロジック技術による待機電力がゼロのノーマリーオフコンピュータの実
現により、我が国における電子産業の国際競争力の向上が期待できる。
(5)実用化・事業化の見通し
スピントロニクス不揮発性機能技術の一つの出口である不揮発性メモリだけを見ても、
現在の主流であるフラッシュメモリのみで約1兆円もの市場がある。スピントロニクス技
術により革新的な超ギガビット級の不揮発性スピンメモリが産み出されれば、その市場は
膨大であり、本事業の費用対効果は極めて有効となる。さらに、不揮発性メモリ以外の革
新的なストレージデバイス技術、スピントランジスタ技術などが産み出される可能性もあ
る。この様に、基盤技術としてのスピントロニクス技術が情報化社会に及ぼす影響は極め
て大きい。
(6)その他特記事項
5.総合評価
本事業は、スピントロニクス技術を用いた超ギガビット級の究極の不揮発性メモリであ
るスピンメモリや HDD を超える新ストレージデバイス、待機電力がゼロのノーマリーオフ
コンピュータを可能とするスピントランジスタなど、多種多様な機能デバイスを実現する
技術についてブレークスルーを図るものである。要素技術の確立と実用化までには相当程
度の期間が必要であるとともに、多額の資金を要するため、企業においては、本事業のよ
うな革新的なテーマには大規模に注力できない状況にある。
高度情報通信ネットワークを支える情報通信機器、機能部品に関する革新的な技術の基
盤を確立するものであり、スピントロニクスを用いた新規不揮発性デバイスのための基盤
技術の確立は、我が国エレクトロニクス産業の優位性の確保と情報化社会の推進にとって
大きな意義を持っている。新しい技術であることに加え、その展開が速い段階にあるため、
技術戦略マップに基づき、NEDO の事業として産学官の共同研究体制を構築し、実施するこ
とが適切である。