ノーマリーオフ コンピューティングで PCに革命が起きる

NTT COMWARE
Corporate Magazine
Vol.
01
02
07
60
とは
『 TERA(てら)』には 2 つの意味があります。1 つは、数
量単位で「兆=10の12 乗」。これはギガビットの次の
大容量伝送処理能力のことです。もう1 つは、
「地球
・大地」
(ラテン語)。環境にやさしい企業活動を続
けたい、という意味を込めています。
明日につながる基礎知識
フリーミアム
特集
ノーマリーオフコンピューティングでPCに革命が起きる
社長対談[9]
お客さまの熱意に全力で応え、
共にナンバーワンになるために
Dimension Data 最高経営責任者 ブレット・ドーソン 氏
NTTコムウェア 代表取締役社長 海野 忍
11
15
COMWARE'S EYE
ビッグデータを活用したCRMソリューションで
マーケットイン型のビジネスモデルを支援
未来技術予報 vol.2
社会インフラの遠隔監視・保守基盤技術
ホームネットワーク技術の知見を社会インフラ監視・保守技術に活用する
17
特集
ニッポン・ロングセラー考
ノーマリーオフ
コンピューティングで
PCに革命が起きる
テプラ 電子文具の草分け、四半世紀で800万台の実績
明日につながる基 礎 知 識
詳しくは…
コムジン
検索
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フリーミアム Freemium
フリーミアム(freemium)は、フリー(free:無料)とプレミアム(premium:割り増し)を合わせた造語だ。基本的なサービス
を無料で提供する一方、より高機能あるいは特別な追加サービスは有料で提供することによって収益を上げるビジネスモデル
を指す。成功例としては、基本料金は無料だがゲームを行う上で有利となる特殊アイテムに課金する各種ソーシャルゲーム、
利用・登録は無料だが、有料サービスとして人気レシピランキングなどを用意している料理レシピ投稿サイト「COOKPAD(クッ
クパッド)
」などが挙げられるだろう。
興味深いのは、ネットを利用したフリーミアムの波がリアル社会にも押し寄せていることだ。株式会社リクルートライフス
タイル じゃらんリサーチセンターはフリーミアムビジネスとしてスキーエリア再活性化プロジェクト、
「雪マジ!19」を展開。
19歳なら指定スキー場のリフト券代が無料となるサービスに、2013年度は15万人が会員登録した。2014年2∼5月には、21歳
なら都内100店舗以上の飲食店でビールが一杯無料になる「ビアマジ!21」を実施した。どちらの企画も、無料サービスをきっ
かけに、周辺での消費活動が活性化されることを目指している。
1
コンピューターなどの情報機器は、動作する際に多くの電力を消費する。その電力消費をゼロに近
づけられたら、エネルギー問題の解決や低炭素社会が実現できる。コンピューターシステムの内部
で、今まさに稼働している部分以外の電源を積極的に切る技術である「ノーマリーオフコンピュー
ティング」は、情報機器の電力消費を抑える切り札になる。その実現には、新しい素子の開発と、
コンピューターシステムの最適化という両方の側面からの研究成果が求められている。
特集 ノーマリーオフコンピューティングでPCに革命が起きる
「ノーマリーオフコンピューティングでPCに革命が起きる」
処理性能向上と電力消費低減
通常のコンピューター
ノーマリーオフコンピューター
1
(高速)
10
100
は、電源が必要だからだ。電源を切っ
ら計算し、情報を記憶している。万が
一クラウドコンピューティングを支え
るデータセンターのコンピューターの
SRAM
STT-MRAM
DRAM
MRAM
FeRAM
ReRAM
PCM
従来型不揮発性メモリー
10万
フラッシュ
HDD
すべてが常に電源オン
使っている部分だけ電源オン(ほかはオフ)
100万
(低速)
メモリー容量
1MB
(小容量)
演算やメモリーの読み書きに
使っている部分
1GB
不揮発性メモリー
1TB
(大容量)
揮発性メモリー
高速な DRAM(ダイナミック RAM)や
み・読み出しの遅さや、書き換え可能
DRAM や SRAM のように電力を使わ
するならば、10秒以下の停止でアイ
てしまうとすべてを忘れてしまうのが
SRAM(スタティック RAM)が使われ
な回数の少なさを克服しながら、低
ず、フラッシュメモリーよりも読み出
ドリングストップをすると、かえって
コンピューターの性質である。これを
てきた。しかし、これらはいずれも電
消費電力化を実現できる素子である。
し・書き込みが高速だ。これらの次世
燃費が悪くなる。コンピューターシス
源を切ると情報が消えてしまう揮発性
新素子の代表的なものの1つである
代型不揮発性メモリーをコンピュー
テムでも、揮発性メモリーと不揮発性
「揮発性」と呼ぶ。
電源が切れれば、その瞬間に世界中で
一方、電源を切っても情報を保持し
メモリーだ。電源を切るためには、不
「STT-MRAM(Spin Transfer Torque
ターシステムに活用すると、
「使って
メモリーを、どのように組み合わせて
さまざまな情報サービスが途絶える。
ていられる性質を「不揮発性」と呼び、
揮発性のオフチップメモリーにデータ
Magnetoresistive RAM)」は、磁化の
いない場所の電気を消す」という節電
使うかというシステム全体の検討が、
東日本大震災を経験した日本はもち
記憶媒体に用いられている。古くはテ
を移動しなければならない。
向きの違いを使ってデータを記憶する
の基本を体現したコンピューターを作
低消費電力化の鍵を握る。高速な不揮
ろん、増え続けるコンピューターの電
ープやフロッピーディスク、多くのコ
これでは、こまめにコンピューター
MRAM の一種だ。従来型の MRAM は、
ることができる。オンチップメモリー
発性メモリーの開発とともに、この両
力消費を抑えることはグローバルな課
ンピューターが利用しているハードデ
の電源を切ることはできない。計算し
記憶に電力を使わない半面、磁化の反
として不揮発性メモリーを採用できれ
者がそろって初めて性能やコストも含
題だ。電力消費を抑えられれば、電気
ィスク、スマートフォンやデジタルカ
ていない部分やアクセスしていない部
転のため専用配線などが必要で素子が
ば、コンピューターの心臓部で使って
めた最適化が実現する。
料金の節約になるほか、発電の際に排
メラの情報を記録しておくメモリーカ
分の電源を切って、低消費電力化をし
大きくなってしまっていた。大容量化
いない部分の電源を切っても、記憶は
例えばデータベースの処理では、現
出される二酸化炭素を減少させること
ードなどは、不揮発性の記憶媒体だ。
ようとすると、その都度、不揮発性メ
に向かない MRAM の欠点をカバーす
保持されるからだ。
在は遅いハードディスクから情報を読
にもなる。
ノーマリーオフコンピューティング
モリーにデータを退避させることにな
るものとして、電子のスピンを使って
そうした中、 コンピューターは常
は、こうした不揮発性の記憶媒体の使
る。これは時間的なロスが大きく、不
磁化の向きを反転させる STT-MRAM
に電力を消費するもの という既成概
用で実現しそうだが、コンピューター
揮発性メモリーへ情報を書き換える電
が開発されている。
念を打ち破る「ノーマリーオフコンピ
は大量の情報を高速で処理する必要が
力消費もばかにならない。
遷移金属酸化物という物質を用い、
ところが、次世代型の不揮発性メモ
幅に向上するだろう。これまでコンピ
ューティング」という手法が注目され
あるので、ただ置き換えるだけでは要
電気抵抗の変化を利用する「ReRAM
リーを使うだけでノーマリーオフコン
ューターは、オンチップメモリーとオ
ている。計算や記憶したデータの読み
件を満たさない。
(Resistive RAM)
」も注目されている。
ピューティングが実現するかという
フチップメモリーを分けて構成してい
書きに電力を使うものの、それ以外の
コンピューターシステムは、実際に
鍵となる金属酸化物薄膜は、安価で安
と、それほど話は簡単ではない。
たが、オンチップメモリーだけで演算
ときは電力を使わない。通常は電源を
計算をする論理回路と、情報を保持す
現在、次世代型となる新しい不揮発
定した素材の開発が進み、量産にこぎ
コンピューターシステムを構成する
から記憶までをまかなえるようになる
オフにするという意味の「ノーマリー
るメモリーを組み合わせることによっ
性メモリー素子の開発競争が進んでい
着けるところまで到達した。このほか
揮発性メモリーと不揮発性メモリーの
からだ。
オフ」という新しいコンピューティン
て構成されている。論理回路と同じ高
る。従来の不揮発性メモリーの代表で
にも誘電体の性質を使った「FeRAM
関係は、自動車エンジンのアイドリン
ノーマリーオフコンピューティング
グ手法である。
密度集積回路(LSI)の上に搭載したメ
あるフラッシュメモリーの、1000倍
(Ferroelectric RAM)
」
、物質の相変
グストップに似ている。記憶の保持に
は、不揮発性メモリーを最適化して活
モリーを「オンチップメモリー」と呼
以上の高速な書き込み・読み出しが可
化の状態を利用する「P C M(P h a s e
電力が必要な揮発性メモリーは、エン
用することともいえる。コンピュータ
び、さまざまな計算をする際に情報を
能な素子も出始めている。
Change Memory)」など、次世代型
ジンが少量のガソリンを消費している
ーの処理性能向上と、大幅な電力消費
蓄える。一方、論理回路を搭載した
これらの新しい素子は、電荷を蓄え
の不揮発性メモリーの開発、実用化は
アイドリング状態にたとえられる。
低減を同時に実現し、従来型アーキテ
しかし、ノーマリーオフコンピュー
LSI 以外で記憶をつかさどるのが、
「オ
て情報を記憶するフラッシュメモリー
着々と進んでいる。
アイドリング1秒分のガソリン消費
クチャーの常識を大きく変える。近い
ティングの実現は簡単ではない。コン
フチップメモリー」である。
とは異なる方法で情報を蓄える。フラ
いずれの素子も情報の記憶に物
量に対して、アイドリングストップか
将来、コンピューターに大きな革命を
ピューターが利用している記憶素子に
これまで、オンチップメモリーには
ッシュメモリーの弱点である書き込
質の性質の変化を用いているため、
らの再始動が10倍のガソリンを消費
もたらすものとなるだろう。
電源を切ると情報が消えてしまう
揮発性メモリー
3
次世代型不揮発性メモリー
1000
電源がオンの部分
コンピューターは電力を消費しなが
不揮発性メモリーの高速化が
ノーマリーオフコンピューティング
実現の1つの要素
アクセススピード︵ナノ秒︶
不揮発性メモリーの
最適化 がもたらす
使わない部分の電源をオフにして省電力化する
ノーマリーオフコンピューティング
記憶に電力を必要としない
不揮発性素子の開発が後押し
不揮発性素子への置き換えではな
くシステムとしての最適化が必要
み出す必要があるが、大容量の不揮発
性メモリーがオンチップメモリーにあ
れば、高速な読み出しで処理性能は大
4
特集 ノーマリーオフコンピューティングでPCに革命が起きる
Interview
揮発性メモリーと不揮発性メモリーの損益分岐点から
ムダを省くコンピューターの最適解を求める
情報のアクセス頻度が多い場合は、不揮発性メモリー
「A」と「B」をまとめて実行し、その結果を受けた処理「C」
の書き込み・読み出しに要する消費電力が積み重なり、
から「E」は、処理「E」のタイミングにまとめて実行するよ
揮発性メモリーを使う場合よりもトータルの消費電力が
うにアルゴリズムを変更します。こうすることで、処理
「A」
多くなります。逆に情報のアクセス頻度が低くなると消
「B」と処理「C」
「D」
「E」の間に大きな間欠動作の時間が生
費電力が不要で、情報を記憶できる不揮発性メモリーの
まれ、不揮発性メモリーを使う損益分岐点を超えることが
ーマリーオフコンピューティングは、実現すれば
ンは、高精細な動画を再生できる高い性能を備えていま
特性が生かされ、トータルの消費電力が少なくなります。
できます。
現代社会の問題を解決に導く革新的な技術だ。低
すが、使っていないときはできるだけ休止させて電池の
この損益分岐点を時間粒度として評価するのです。
コンピューターの歴史の中で、速さと大容量化はずっ
消費電力のコンピューターを作るための素子開発やシス
消耗を抑えています。ノーマリーオフコンピューティン
利用する素子、実際に演算する情報の種類により、損
と追求されてきましたが、エネルギーをなるべく使わな
テム開発は、大学や企業で精力的に研究が進められてい
グでは、同じように使っていない部分の電源を切って、
益分岐点は大きく変わります。しかし、時間粒度を評価
いようにするという視点は、優先度があまり高くありま
る。東京大学大学院情報理工学系研究科システム情報学
コンピューターの消費電力を抑えることが目標です。
軸にすることで、消費電力を減らすための方向性が素子
せんでした。速くて大容量で省エネという素子は基本的
専攻の中村宏教授は、ノーマリーオフコンピューティン
ノーマリーオフコンピューティングの適用範囲はとても
側の立場からも、コンピューティング側の立場からもす
に存在しませんが、最新のコンピューターにはこれらの
グの第一人者として研究に携わっている。中村教授にノ
広いです。非常に大量の電力を消費するスーパーコンピュ
っきり見え、ノーマリーオフコンピューティング実現に
三拍子がそろった性能が要求されているのです。そうし
ーマリーオフコンピューティングの実現までの課題と、
ーターやデータセンターから、消費電力は少なくても膨
必要な研究が具体化できるようになりました。
た中で、
「素子」と「コンピューティング」を別々に研究し
研究の要点を尋ねた。
大な数に上る各種のセンサーなどにまで適用できます。
ノ
現在、私は独立行政法人 新エネルギー・産業技術総
ていた環境から、時間粒度をモノサシとして
「素子」と
「コ
利用する素子の損益分岐点を見据えて
演算処理のアルゴリズムを調整する
ンピューティング」の両分野が共同で研究できる環境が
中村 ノーマリーオフコンピューティングの基本的な考
合開発機構(NEDO)のノーマリーオフコンピューティン
え方は、少しでもコンピューターの電源を切って消費す
グ基盤技術開発のプロジェクトリーダーを務めています。
具体的には、どのような研究が行われているのだろう
現に大きな力を与えていると考えています。
る電力を抑えようというものです。最近のスマートフォ
このプロジェクトでは、素子開発とコンピューティング
か。さらに対象としている分野、実用化のターゲットは
NEDO のノーマリーオフコンピューティング基盤技術開発
という異分野の研究者が、共同でノーマリーオフコンピ
見えてきているのか。時間粒度を軸にすることで、消費
プロジェクトでは、産学協同で研究を進めています。時間
ューティングの実現に力を注いでいます。素子を開発す
電力を抑えられる処理方法の例を尋ねた。
粒度の概念を使って汎用的なノーマリーオフコンピューテ
整ったことが、ノーマリーオフコンピューティングの実
るだけでも、コンピューティングを追求するだけでもダ
ィング技術の確立へ向かうと共に、携帯情報端末、スマー
メなのです。ノーマリーオフコンピューティング実現の
中村 結論から言うと、コンピューターが間欠(かんけ
トシティー、ヘルスケアといった応用分野で競争力のあるノ
ために、双方から分かりやすい評価軸を設定して研究を
つ)動作する情報処理の間隔を、損益分岐点となる時間
ーマリーオフコンピューティングの実現も目指しています。
進めている段階です。
粒度よりも大きくできれば、消費電力が下げられます。
「何がムダか」をよく考えることが、ノーマリーオフコン
ソフトウエアやハードウエアのアルゴリズムを工夫して、
ピューティングの実現には必要なことだと考えています。
不揮発性メモリーの効果を十分に発揮できるコンピュ
不揮発性メモリーへのアクセス間隔を長くするように調
すでに、消費電力を10分の1程度まで抑える仕組みは実際
ーターを作るための、素子とコンピューティングをつな
整するわけです。
に作成できています。とはいえ、実際のコンピューターシ
ぐ評価軸とはどのようなものだろうか。
例えば、連続する5つの処理があったとします。処理
「A」
ステムに組み込んで実用化されるまでには、まだ数年以上
から処理「E」までが続いていたら、メモリーに頻繁にアク
の時間がかかるでしょう。限られたリソースの中で、最大
セスすることになり、不揮発性メモリーを使う損益分岐点
限に技術の恩恵を受けられる豊かな社会をつくるため、ノ
よりも時間粒度が小さいことになります。そこで、処理
ーマリーオフコンピューティングの研究を続けていきます。
「時間粒度」という概念を持ち込み
消費するエネルギーを最少に
中村 コンピューターは、常にすべての情報にアクセス
しているわけではありません。非常に頻繁にアクセスす
る情報がある一方で、たまにしかアクセスしない情報も
ノーマリーオフコンピューティング実現のための最適化制御の一例
あります。
中村 宏(なかむら・ひろし)氏
東京大学大学院 情報理工学系研究科教授
超低消費電力 VLSI システム、省電力インタラクティブコン
ピューティングなど、高性能・高信頼・低消費電力計算シス
セス頻度が低いほど消費電力を減らせるということです。
テムの研究を行う。2011年にスタートした NEDO の「ノー
ここで、コンピューティング側と素子側をつなぐキー
マリーオフコンピューティング基盤技術開発」のプロジェ
クトリーダーを務める
5
モリーは、アクセスの速度が遅く、さらにアクセス時に
電力消費が大きいという特性があります。つまり、アク
アクセスを制御して
損益分岐点以上の
「オフ」の時間を作る
アクセスが均等間隔で
損益分岐点を下回らず
常時オン
素子側から見ると、記憶に電力を伴わない不揮発性メ
損益分岐点
ON
不揮発性メモリー
OFF
ON
電源はオンのまま(左図)
③ アルゴリズムを改良し、処理のタ
イミングを変更する。処理「B」と「C」
不揮発性メモリー
間のメモリーアクセスのない時間が
ワードが見えてきました。アクセス頻度です。これを、
私たちは
「時間粒度」というパラメーターに設定しました。
② メモリーアクセスのない時間が損
益分岐点を上回らないとメモリーの
損益分岐点
ON
① 連続する処理「A」から「E」がある
損益分岐点より大きくなったので、
処理A
処理B
処理C
処理D
処理E
処理A
処理B
処理C
処理D
処理E
この間は電源オフにできる(右図)
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