Market みずほマーケットインサイト みずほ総合研究所 経済調査部 シニアエコノミスト 吉田 健一郎 (03-3201-0505) [email protected] ○ ○ ○ ○ 2007/4/4 緩やかに上昇する原油相場の行方 ~価格の再高騰はあるのか?~ 米ガソリン需給逼迫とイラン地政学的リスクの高まりが原油価格上昇の材料に 事故等無ければガソリン需給が逼迫する状況には至らず、投機資金も慎重姿勢を持続 但し、地政学的リスクは解消せず長期化、原油価格の潜在的上昇材料に 当面のWTI価格は、1 バレル=60 ドルを挟んだ推移を予想 WTIは一時 66 ドル台まで 国際的な原油価格の指標銘柄となるウエスト・テキサス・インターメディエイト (以下WTI)最期近物相場は、2007 年入りして以降じりじりと上昇を続け、引け値 上昇 ベースでは一時 1 バレル=66 ドル台まで上昇した(図表 1)。原油価格上昇の背景 としては、①米ガソリン需要拡大・在庫減少によるガソリン価格上昇、②イランの 英兵拘束問題や国連での追加制裁決議案可決、あるいはナイジェリアでの政情不安 といった地政学的リスク要因などが挙げられる。地政学的リスク拡大と米製品需給 逼迫が同時に起きて原油価格が上昇するという状況は、史上最高値を更新した昨年 に似ているようにもみえる。 ドライブシーズンの米ガソ 米国の製品需給に関しては、米国のガソリン需要の行方が注目されている。一般 に米国では 5 月後半のメモリアルデーから 9 月初旬のレーバーデーまでがドライブ リン需要動向に注目 シーズンと言われている。製油所の定期補修が一段落する 4 月から 9 月頃までの米 ガソリン需要や在庫動向は例年材料視され易い。足元の米ガソリン在庫の状況をみ ると、昨年と比較して早いペースで在庫が減少している(図表 2)。ニューヨーク商 品取引所(以下 NYMEX)でも、予想以上に減少する製品在庫が材料視されて、原油 価格の上昇に結びつく局面が何度かみられた。もっとも、ガソリン在庫は減少して いるといっても、2000 年以降のレンジから大きく外れてはいない。今後のガソリン 価格は、夏場の米経済動向などによるところが大きいガソリン需要とそれを映じた 在庫動向に左右されることとなろう。しかし、ハリケーンによる大規模定期補修の 影響などから在庫が減少した昨年とは状況が異なり、徐々に在庫減少のペースは緩 やかなものになると予想している。 【 図表 1 原油価格の推移 】 (ドル/バレル) (百万バレル) 80 75 WTI先物(最期近物) 70 65 60 北海ブレント 55 50 【 図表 2 米ガソリン在庫動向 】 ドバイ 45 06/1 06/2 06/4 06/6 06/8 06/10 06/12 07/1 07/3 (資料)Bloomberg 230 225 220 215 210 205 200 195 190 185 180 2007年 2006年 2000年~2005年のガソリン在庫レンジ 1 2 3 4 5 6 (資料)米エネルギー省 7 8 9 10 11 12 (月) 当レポートは情報提供のみを目的として作成されたものであり、商品の勧誘を目的としたものではありません。本資料 は、当社が信頼できると判断した各種データに基づき作成されておりますが、その正確性、確実性を保証するものでは ありません。また、本資料に記載された内容は予告なしに変更されることもあります。 米経済は昨年ほど強い状況 一般に、ガソリン需要は、価格動向やその時々の個人消費動向など経済状況の影 ではなく、ガソリン需要も伸 響を受ける。過去の米国のガソリン需要の伸びは、計量的には概ね個人消費の伸び びづらい展開を予想 や原油価格動向によって説明することが出来る(図表 3)。気温の影響を受けやすい 暖房油などと異なり、今後の米国のガソリン需要動向は、消費を中心とした米経済 動向の先行きをどのように判断するのかが重要だ。 現在の米経済は昨年ほどには強いものではない。前回 FOMC 声明文(3/21)にお いても経済状況は「まだら模様」とされ、住宅市場悪化の懸念などが燻る中で、経 済状況に対する判断は下方修正されている。また、3 月の耐久財新規受注は市場予 想を下回る小幅な伸びに留まり、同製造業ISM指数にしても景気判断の節目とな る 50 近辺での推移が続くなど、好転しているとは言えない状況だ(図表 4)。 企業部門の調整圧力が強まる中にあっては雇用所得環境の大幅な改善は困難で、 総雇用者報酬は底堅いながらも大きくは拡大しづらい。足元で、非農業部門雇用者 数の増加幅は前月比+15 万人程度に留まっており、同時に新規失業保険の申請件数 は増加傾向にある。従って、昨年前半のように、住宅市場や個人消費が好調ななか でガソリン需要が拡大し、在庫が予想以上に減少して価格に上昇圧力がかかるとい う構図は見込みづらい。むしろ、今後更にガソリン価格が上昇するような局面にな れば需要は抑制され、市場の価格安定化機能が作用し、ガソリン・原油価格は上昇 しづらいものとなる可能性の方が高いのではないかとみている。 リスクファクターは米製品 米ガソリン需給を考える上でリスクファクターとなるのは、製品のボトルネック ボトルネック顕在化のリス 顕在化のリスクである。今年も精製能力不足が解消したとは言えず、高稼働率下で ク 供給途絶のリスクは残る。従って、これからドライブシーズン入りするなかで、再 び製品の需給逼迫を予想したヘッジファンドなど投機筋の資金が NYMEX に流入する 可能性もある。これは、現時点で最も蓋然性の高い価格高騰リスクであるとみてい る。しかし、昨年は結局「ハリケーン期待」のロングポジションが全く機能せずに、 大型ハリケーンのメキシコ湾直撃を免れたことで価格は大きく下落、その過程では 大手ヘッジファンドの破綻にまで繋がった。こうした経験を踏まえ、ヘッジファン ド勢にしても過度なロング保有に対して慎重になっている可能性はあるだろう。商 品先物取引委員会に報告されている非商業部門ネット買い持ち高も足元ではそれ 【 図表 3 米ガソリン需要の推計 】 (前年比%) 4 【 図表 4 米国の経済指標 】 米個人消費と原油価格による推計値 06年4月時点 07年4月時点 実質GDP(1~3月期) 5.6% 2.3% (注) うち個人消費 4.8% 3.4% (注) 24万9千人 14万人 (注) 3 2 1 非農業部門雇用者数(3月) 0 製造業ISM指数(3月) 55.3 50.9 非製造業ISM指数(3月) 60.5 55.0 ( 注) ▲1 米ガソリン消費 ▲2 85 87 89 91 93 95 97 99 01 03 05 米ガソリン消費(前年比)=-0.02*WTI(前年比)+0.51*米個人消費(前年比) (-2.50) (7.79) R2=0.752 推計期間:1985~2006年 ()内はt値 (資料)みずほ総研 2 (注)1~3月期実質GDP、個人消費、3月非農業部門雇用者数、非製造業ISM指数は当社予測 (資料)みずほ総研 ほど積みあがってはいない(図表 5) 。ハリケーンや需給逼迫への期待感だけで昨年 のように投機資金の買い持ちが積みあがるような状況にはならないとみている。 イラン問題は依然として緊 迫感あり 一方で懸念されるのは、イラン問題を中心とした地政学的リスク要因だ。本稿執 筆段階では、英兵 15 名がイラン革命防衛隊に拿捕された問題については、ラリジ ャニ・イラン最高安全保障委員会事務局長が英政府との協議開始に言及(4/3)し たことで、事態打開の可能性も出始めている。しかし、ブレア英首相は「外交手段 による解決を模索する」としつつも、「より強硬な手段」の可能性にも言及してい る。また、イランが要請していると見られる米国に拘束されたイラン人の解放につ いてブッシュ米大統領は「あらゆる取引には応じない」と拒否の姿勢を示しており、 事態解決までは予断を許さない。なお、事件発生後にWTI価格は 1 バレル=60 ドルから 65 ドル近辺まで上昇している。仮に事態が解決した場合でも 60 ドル近辺 では価格は下支えされるのではないかと予想している。 地政学的なリスクは 07 年も 残存 また、国連安全保障理事会によるイラン核開発関連の制裁決議については、追加 制裁決議案が全会一致で可決された(3/24)。イランの武器輸出を禁止したほか、 付属文書の中で金融資産凍結の対象にイラン革命防衛隊を加えた。また、イランへ の新規資金援助を見合わせることなども要請している。今後は、60 日以内にウラン 濃縮活動が停止されなければ、新たな制裁決議が議論される見込みだ。すぐに軍事 力行使に繋がるものではないが、イランがウラン濃縮放棄に応じる可能性は少なく とも現政権下では低く、潜在的な地政学的リスクとして燻り続ける。 なお、ナイジェリアでも政治的な動揺が続いている。同国ではオバサンジョ大統 領の任期満了に伴って、4 月 21 日に大統領選挙が実施される予定である。AFP通 信によれば、現在候補者は 24 人で混戦模様となっている。ナイジェリアの武装勢 力である「ニジェールデルタ解放運動(MEND)」はナイジェリア・ガーディアン紙 に対し、選挙を混乱させることは意図していないとの声明を寄せている。しかし、 石油関連施設への攻撃は予定通り行うとも述べており予断は許さない状況だ。 原油価格は当面 60 ドルを挟 んだもみ合いを予想 イラク情勢など地政学的リスク要因は、現時点ではあくまでリスクシナリオの位 置づけだ。しかし、万が一にも軍事衝突などが起きた場合、 「原油価格は 3 桁に上 昇する(ヤマニ・サウジアラビア前石油相、3/21)」状況であることは忘れてはな らない。当面のWTI価格については、製油所事故などの供給途絶が起こらないと いう前提で、1 バレル=60 ドルを挟んだもみ合いを予想している。 【 図表 5 投機筋の原油先物持ち高 】 (千枚) 300 200 売り持ち 買い持ち ネット 期 近 物 価 格 (右 ) (ドル/バレル) 75 65 100 55 0 45 ▲ 100 35 ▲ 200 25 15 ▲ 300 02/1 02/7 03/2 03/9 04/4 04/11 05/6 06/1 06/8 07/3 ( 注 ) NYMEXで 取 引 さ れ る 先 物 の トレーダー建 て 玉 の う ち 、 非当業者について集計。 ( 資 料 ) CFTC 3 以上 当レポートは情報提供のみを目的として作成されたものであり、商品の勧誘を目的としたものではありません。 本資料は、当社が信頼できると判断した各種データに基づき作成されておりますが、その正確性、確実性を保 証するものではありません。また、本資料に記載された内容は予告なしに変更されることもあります。
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