No.117 2007年12月6日 原油レポート <ドル安と原油高の関係について> 1 .原 油 市 況 ∼ 90 ド ル 割 れ に 下 落 原 油 相 場( W T I 、期 近 物 )は 下 落 し て い る 。11 月 20 日 の 時 間 外 取 引 で は 1 バ レ ル = 99.29 ド ル の 最 高 値 を つ け 100 ド ル に 迫 っ て い た が 、 11 月 の 最 終 週 に 大 幅 に 下 落 し 、 足 元 で は 90 ド ル を 下 回 っ て き て い る 。 11 月 か ら 実 施 さ れ た O P E C の 増 産 は 小 幅 で あ り 、 足 元 の 原 油 需 給 は 引 き 締 ま る 方 向 に あ る 。 こ う し た 中 、 12 月 5 日 の O P E C 総 会 で は 追 加 増 産 が 見 送 ら れ た た め 、 原 油在庫は減りやすい状況が続き、一時的に相場を押し上げる可能性がある。しかし、 原油在庫の水準は過去の平均に比べて低いわけではなく、石油製品高による景気や石 油需要への悪影響も懸念される。来年はじめにかけて、これまで原油相場を押し上げ たとみられる投機的な動きは弱まり、相場は軟調に推移するだろう。来年後半にかけ て米国経済の持ち直しや新興国の高成長によって、世界景気が再加速するのに伴い、 原 油 相 場 は 再 度 、 上 昇 に 向 か う と み ら れ る が 、 当 面 、 1 バ レ ル = 100 ド ル を 上 回 る 可 能 性は小さくなりつつあると考えられる。 2.トピック∼ドル安と原油高の関係について 2007 年 に 入 っ て 、ド ル 安 と 原 油 高 の 連 動 性 が 高 ま っ て い た 。ド ル 相 場 が 下 落 し て も 、 他国通貨建ての原油価格に影響を及ぼすことがなきとすると、ドル建ての原油価格は 上 昇す ること にな る。一 方、米ドル はカ ナダ・ドル とユー ロに 対して 大き く下落 した 。 カナダでは、サウジアラビアの原油埋蔵量に匹敵するとされるオイルサンドの開発が 進んでおり、原油高により経済がメリットを受ける産油国の性格が強まっている。ま た、ユーロ圏には大きな油田はないが、省石油エネルギーで米国よりも優位にある。 もっとも、こうしたドル安・原油高は、米国景気が減速しても新興国を中心に世界 景気は拡大を続け、石油需要は増加を続けるという観測、つまり米国景気と世界の景 気や石油需要とがデカップリングするとの思惑に基づいていたと考えられる。 しかし、足元では、米国の景気減速が石油需要の減退をもたらすとの観測が強まり やすくなっている。行き過ぎた投機のゆり戻しも、原油相場の下押し圧力になるだろ う。 調査部 【お問合せ先】 芥田([email protected]) 次回公表日:2007 年 12 月 20 日(木)頃 ※本レポートは情報提供を唯一の目的としており、何らかの金融商品の取引勧誘を目的としたものではありません。 また、掲載された意見・予測等は資料作成時点での判断であり、今後予告なしに変更されることがあります。 ※「原油レポート」のメール配信サービスを提供しています。ご希望される方は、 「原油レポート配信希望」と記して上記 E-mail アドレスに送信して下さい。また、配信停止をご希望される方は、「原油レポート配信停止」と記して上記 E-mail アドレスに 送信して下さい。 1. 原油市況;90 ドル割れに下落 原油相場(WTI、期近物)は下落している。11 月 20 日の時間外取引では 1 バレル=99.29 ドルの最高値をつけ 100 ドルに迫っていたが、11 月の最終週に大幅に下落し足元では 90 ドル を下回ってきている。 27∼28 日の 2 日間で原油相場が7ドル以上下落した要因には、要人発言などを受けて産油国 による増産観測が強まったこと、米国の週次石油統計で石油在庫の減少幅が予想よりも小さか ったこと、ドル相場の下落に歯止めがかかったことなどが指摘されている。 もっとも、この間、28 日にサウジアラビアがテロ組織関連の 208 人の身柄を拘束したとの報 道で石油施設へのテロへの警戒感が強まったこと、12 月 3 日に米ミネソタ州でパイプラインの 事故が起こったこと、5 日のOPEC総会で増産が見送られたこと、など相場の押し上げ要因 とみられる材料もあった。 原油相場の先物カーブを見ると、期近物をピークに、期先になるほど価格が安くなるバック ワーデションが 7 月後半から続いているが、期近高・期先安の度合いは 11 月最終週から急速に 弱まってきている(図表 6)。先物市場における投機筋のポジションをみると、原油の買い超幅 は足元ではやや拡大しているが、7 月後半に比べれば小幅にとどまっている(図表 7)。暖房油 の買い超幅は 11 月に入って縮小が続いている(図表 8)。 11 月から実施されたOPECの増産は小幅であり、足元の原油需給は引き締まる方向にある。 12 月 5 日のOPEC総会では追加増産が見送られたため、原油在庫は減りやすい状況が続き、 一時的に相場を押し上げる可能性がある。もっとも、原油在庫の水準は過去の平均に比べ低い わけではなく、石油製品高による景気や石油需要への悪影響も懸念される。来年はじめにかけ て、原油相場を押し上げたとみられる投機的な動きは弱まり、相場は軟調に推移するだろう。 来年後半にかけて米国経済の持ち直しや新興国の高成長によって、世界景気が再加速するのに 伴い、原油相場は再度、上昇に向かうとみられるが、当面、1 バレル=100 ドルを上回る可能性 は小さくなりつつあると考えられる。 (図表 1)原油市況の推移 (ドル/バレル) 105 100 WTI原油 95 ブレント原油 90 ドバイ原油 85 80 75 70 65 60 55 50 45 40 35 30 05 06 (図表 2)石油製品市況の推移 (セント/ガロン) 280 260 240 220 200 180 160 140 暖房油No.2 120 ガソリン(期近) 100 05 07 06 (注)NYMEX、直近は12月5日。 (月、日次) (注)直近は12月5日。 1 07 (年、日次) (図表 3)油種間スプレッドの推移 (図表 4)米国天然ガス市況の推移 (ドル/バレル) (ドル/バレル) (ドル/百万Btu) 15 105 100 95 90 85 80 75 70 65 60 55 50 45 40 35 30 25 16 15 14 10 WTI原油価格(右目盛) 13 12 5 11 10 9 0 8 -5 スプレッド(ブレント−ドバイ) 7 スプレッド(WTI−ドバイ) 6 スプレッド(WTI−ブレント) 5 -10 天然ガス価格(Henry Hub) (左目盛) 4 05 06 04 07 (注)WTI、ドバイ、ブレントの直近は12月5日。 05 (図表 5)WTI原油先物価格の限月推移 100 (ドル/バレル) 06 07 (注1)天然ガスの単位BtuはBritish thermal unitsの略 (注2)直近は12月5日。 (年、日次) (年、日次) (図表 6)WTI原油の先物カーブ 期先(12月5日時点) 2007年5月 2007年7月 2007年9月 2007年11月 (ドル/バレル) 100 90 95 2007年6月 2007年8月 2007年10月 直近(2007年12月5日) 80 90 70 85 60 80 50 75 40 70 30 65 20 60 03 04 05 06 07 08 (注)限月は26ヵ月先まで、2007年12月5日時点 (出所)ニューヨーク商業取引所(NYMEX) 09 1 (年、月次) 300 買い(Long) 200 0 50 -100 30 -150 20 -200 17 19 投機筋(非当業者+非報告者) のネットポジション(右目盛) 21 23 25 (限月) (千枚) 100 暖房油価格(期近物) 80 250 60 200 40 買い(Long) 20 150 0 100 -20 売り(Short) -40 50 -250 06 15 -50 売り(Short) 05 13 (セント/ガロン) 300 50 04 11 150 100 60 0 9 250 70 10 7 (図表 8)投機筋のポジション(暖房油) (千枚) 350 80 40 5 (注)各時点における各限月(26ヵ月先まで)のWTI原油先物価格 (出所)ニューヨーク商業取引所(NYMEX) (図表 7)投機筋のポジション(原油) (ドル/バレル) 100 WTI原油価格(期近物) 90 3 投機筋(非当業者+非報告者) のネットポジション(右目盛) -300 0 -350 04 07 05 06 07 -60 -80 (週次) (注1)直近は11月27日時点 (注2)非当業者は報告義務のある取引参加者のうち、エンドユーザ− 以外の主に投機を目的とする者。非報告者は報告義務のない取引 参加者で、ほとんどが投機を目的としていると推察される。 (出所)CFTC (年、週次) (注1)直近は11月27日時点 (注2)非当業者は報告義務のある取引参加者のうち、エンドユーザ− 以外の主に投機を目的とする者。非報告者は報告義務のない取引 参加者で、ほとんどが投機を目的としていると推察される。 (出所)CFTC 2 2.品目別需給動向 (1)米国原油需給;原油在庫は大幅減少 米国の製油所の稼働率は前年と同程度の水準にとどまり、低迷している(図表 9)。原油需要 が伸び悩む中で、輸入を中心に原油供給は減少しており、11 月 30 日終わる週の原油在庫は前 週比−793 万バレルと大幅に減少した(図表 10)。 (図表 9)米国の製油所の稼働率 (図表 10)米国の各年の原油在庫 (百万バレル) 380 (%) 100 360 95 340 90 320 85 300 80 2007∼08年 280 2006∼07年 75 2005∼06年 260 2004∼05年 70 240 2003∼04年 2007∼08年 2006∼07年 2004∼05年 2003∼04年 2005∼06年 220 65 7 8 9 10 11 12 1 2 3 4 5 (注)直近値は11月30日 7 6 8 9 10 11 12 1 2 3 4 5 6 (注)SPRを除く原油在庫、直近値は11月30日 (月、週次) (月、週次) (出所)米国エネルギー情報局(EIA) (出所)米国エネルギー情報局(EIA) (2)米国石油製品;ガソリン在庫が増加 ガソリン小売価格(全米平均)は、11 月に入って 1 ガロンあたり 3 ドル台での推移が続いて いる。そうした中、ガソリン需要が伸び悩んでおり、11 月 30 日に終わる週のガソリン在庫は 大幅に上昇した。冬場に需要期を迎える暖房油在庫の減少は続いているが、石油製品全体の在 庫水準は増加に転じた(図表 12)。 (図表 11)ガソリン在庫の推移 (図表 12)石油製品在庫の推移 (百万バレル) (百万バレル) 780 230 2007∼08年 2006∼07年 2005∼06年 2004∼05年 2003∼04年 225 220 2007∼08年 2005∼06年 2003∼04年 760 740 215 720 210 700 205 680 200 660 195 640 190 620 2006∼07年 2004∼05年 600 185 7 8 9 10 11 12 (注)直近値は11月30日 1 2 3 4 5 7 6 8 9 10 11 12 (注)直近値は11月30日 (月、週次) (出所)米国エネルギー情報局(EIA) (出所)米国エネルギー情報局(EIA) 3 1 2 3 4 5 6 (月、週次) (3)ナフサ;原油に比べやや底固い値動き 日本の 10 月の輸入ナフサ価格(通関)は、1 リットルあたり 56.7 円に小幅上昇した(図表 13)。 10 月の原油輸入価格は下落したが、ナフサと原油との価格差が拡大した。その後、原油相場が 一段高する際にはナフサ価格は出遅れたが、足元では、原油相場の下落に比べナフサの下落は 小幅にとどまっている(図表 14)。ナフサ価格の底堅さの背景には、アジアでの需要の強さが 指摘されており、アジアと欧州の価格差が拡大した 11 月後半以降は、欧州産ナフサをアジアに 運ぶ動きも出ている。もっとも、ナフサ相場の大勢としては、原油相場に連動して下落傾向で 推移している(図表 15)。 (図表 13)日本の原油輸入価格とナフサ輸入価格 (円/リットル) 70 ナフサと原油の価格差(右目盛) 60 輸入ナフサ(左目盛) 輸入原油(左目盛) 50 (図表 14)ナフサの日欧格差とナフサ・原油価格差 (ドル/バレル) (円/リットル) (ドル/バレル) 30 15 25 10 20 5 10 40 15 0 5 30 10 -5 0 20 5 -10 -5 10 0 -15 -10 0 -5 03 04 05 06 07 (ドル/バレル) 100 ナフサ(シンガポール) ナフサ(欧州) ナフサ(日本) 70 60 50 40 06 (出所)Bloomberg 07 (年、日次) 4 15 -15 06 (図表 15)日本・欧州・シンガポールのナフサ価格 80 ナフサ−原油格差(欧州、右目盛) -20 (年、月次) (出所)財務省「貿易統計」 90 20 ナフサ日欧格差(日本−欧州、左目盛) (出所)Bloomberg 07 (年、日次) 3.OPEC動向等 11 月のOPEC12 ヶ国の原油生産(日量)は、前月比−12.5 万バレル減少した。生産枠が 適用される 10 カ国(アンゴラとイラクを除く)では同−15.0 万バレルであった(図表 16、 Bloomberg による推計値)。サウジアラビアやイランが増産したものの、アラブ首長国の油田が 定期補修により減産したため、全体では減産となった。 12 月 5 日のOPEC総会では、生産枠の引き上げが見送られた。100 ドルに迫っていた原油 相場が 90 ドル割れに下落する中で、カタール、アルジェリア、ベネズエラなどから増産見送り の主張が出ていた。 イラン核開発問題では、米国が 10 月 25 日に独自の制裁強化策を発表し、国連安全保障理事 会の常任理事国とドイツの 6 カ国は 12 月 1 日に追加制裁決議案の起草を始めることで一致した。 しかし、12 月 3 日に米国の国家情報会議(National Intelligence Council)は、イランが 2003 年以降、核兵器の開発を停止したとの報告を公表した。 イラクでは治安情勢が改善し、各国ではイラク撤退に関する議論が進展しつつある。一方、 12 月 1 日にトルコがイラク領内のクルド人武装勢力への越境攻撃を行ったが、その規模は限定 的であった。なお、11 月 27 日に米国のアナポリスで開催された中東和平国際会議では、イス ラエルとパレスチナ自治政府が「パレスチナ国家の創設へ向けた和平交渉を再開し、2008 年末 までに交渉を決着させる」との共同声明を発表した。 他方、12 月 3 日にベネズエラで行われた国民投票では、大統領の再選制限の撤廃などを内容 とする憲法改正案が僅差で否決された。資源ナショナリズムを主導してきたチャベス大統領の 権限拡大に歯止めをかける動きがベネズエラ国内で出てきた。 (図表 16)OPECの生産動向 サウジアラビア イラン クウェート UAE カタ-ル ベネズエラ ナイジェリア インドネシア リビア アルジェリア OPEC10カ国 生産量 (11月) 898.0 400.0 249.0 219.0 83.0 244.0 218.0 82.5 174.0 141.0 2,708.5 生産量 (10月) 885.0 394.0 245.0 259.0 83.0 244.0 218.0 82.5 173.0 140.0 2,723.5 イラク アンゴラ OPEC12カ国 226.0 179.0 3,113.5 227.5 175.0 3,126.0 国名 超過量 生産枠 産油能力 (07年11月∼) (11月) 3.7 894.3 1,080.0 18.3 381.7 400.0 -4.1 253.1 255.0 -37.7 256.7 265.0 0.2 82.8 85.0 -3.0 247.0 255.0 1.7 216.3 250.0 -4.0 86.5 85.0 2.8 171.2 173.0 5.3 135.7 145.0 -16.8 2,725.3 2,993.0 − − − − 240.0 180.0 3,413.0 (注1)超過量(11月)=生産量(11月)−生産枠(07年11月∼)。 (注2)国別生産枠は一時的にOPEC事務局が公表していたもの(その後、撤回された)。 (注3)産油能力は、30日以内に生産可能で、かつ90日以上持続可能であることが条件。 (注4)サウジアラビアとクウェ−トの生産量には中立地帯の生産量が1/2ずつ含まれる。 (注5)稼働率(%)=生産量(11月)/産油能力*100 (注6)生産余力=産油能力−生産量(11月) (資料)Bloomberg 5 (万バレル/日) 83.1% 100.0% 97.6% 82.6% 97.6% 95.7% 87.2% 97.1% 100.6% 97.2% 90.5% 生産余力 (11月) 182.0 0.0 6.0 46.0 2.0 11.0 32.0 2.5 -1.0 4.0 284.5 94.2% 99.4% 91.2% 14.0 1.0 299.5 稼働率 4.トピック;ドル安と原油高の関係について 2007 年に入って、ドル安と原油高の連動性が高まっていた。本稿では、ドル安と原油高の関 連について考えてみたい。 (1)ドル安による原油高 まず、ドル安が原油高をもたらす関係を考えてみよう。原油相場はドル建てで表される。し かし、ドル相場が下落しても、他国通貨建ての原油価格には影響を及ぼすことがないとすると、 ドル建ての原油価格は上昇することになる。 実際、原油の需要量は、米国が世界の 4 分の 1 を占めるが、残りの 4 分の 3 は他の先進国や 新興国である。ドル相場の変動に関わらず、米国以外の国からみた原油の価値が変わらなけれ ば、ドル相場の下落によって、ドル建ての原油相場は押し上げられやすい。 (2)原油高によるドル安 次に原油高がドル安につながる関係についてみてみよう。ドル安かドル高かは、個別の為替 相場を加重平均した実効為替レートで判断される。実効為替レートには各種の指標があるが、 ここではインターコンチネンタル取引所(ICE)に上場されるドル・インデックスをみてみ よう。これは、ユーロ、円、ポンド、カナダドル、スウェーデンクローネ、スイスフランの対 ドル相場を加重平均したものであり、年初に比べて 1 割以上下落している。特に加ドルとユー ロに対して下落率が大きい(図表 17)。 カナダは、原油高により経済がメリットを受ける産油国の性格が強まっている。カナダでは、 サウジアラビアの原油埋蔵量に匹敵するとされるオイルサンドの開発が進んでおり、産油量は 増加を続ける見通しである。原油高は、加ドル高要因であり、相対的に米ドルの価格を押し下 げるといえる。 一方、ユーロ圏には大きな油田はないが、省石油エネルギーで米国よりも優位にある。もち ろん、ユーロが強くなっている最大の理由は、発足前後にはそれほどなかったユーロという通 貨への信頼感が増してきていることであろう。そして、ユーロ高は原油の輸入コスト上昇を抑 制し、さらにユーロ圏経済が評価される素地をつくったといえよう。年初からのドル建て原油 価格の上昇率が約9割強に達したのに対して、ユーロ建ての原油相場の上昇率は7割弱と小さ い。 米国の原油自給率が高かった時代には、原油高は相対的にドル高要因であったと考えられ、 第1次・第2次石油危機のときには対円を中心にドル高が進んだ。しかし米国の原油自給率は 3 分の 1 にまで低下し、当時とは構造が変化した。原油高はカナダや欧州と比べて相対的に米 国経済へのマイナス影響が大きく、ドル安につながりやすくなっていると考えられる。 6 (図表 17)原油相場とドル相場の推移 (2003年1月1日=100) 70 110 原油相場(WTI、左目盛) 100 ドル相場(ドルインデックス、右目盛) 75 ↑ (ドル/バレル) 120 ド ル 安 90 80 80 70 60 85 50 40 90 30 95 2006 2007 ↓ 20 2005 ド ル 高 (年、日次) (注)ドル相場は、対ユーロ、円、ポンド、カナダドル、スウェーデンクローネ、スイスフランの加重平均値 (出所)Bloomberg (3)ドル安・原油高の相乗効果 以上のように、原油市場においてはドル安が原油高の理由とされ、為替市場においては原油 高によるドル安効果が注目され、双方が相乗効果をもたらす状況が生じていたと考えられる。 このため、特にドル建て投資家には原油向けの投資が有望に映り、原油が投機的な人気を集め た可能性がある。 また、米国景気が減速しても新興国を中心に世界景気は拡大を続け、石油需要は増加を続け るという観測、つまり米国景気と世界の景気や石油需要とがデカップリングするとの思惑も窺 える。 (4)米国に影響されやすい石油需要 もっとも、デカップリングはあくまで米国景気の減速の程度が軽い場合の話であろう。2007 年の米国経済の成長率はすでに 2%前後に鈍化したとみられる中で、米国景気の減速観測が一 段と強まると、世界景気全体の先行きが懸念されてくるであろう。 また、米国の及ぼす影響度は、世界の景気よりも石油需要の方が大きい可能性がある。実際、 世界の石油需要に占める米国のシェアは 24%と世界経済に占める米国のシェア(購買力平価ベ ースのGDPにより計算)の 19%よりも大きい。米国景気が減速しても新興国経済の成長によ り世界経済の成長率はかさ上げされるとしても、世界の石油需要は引き続き米国の影響を受け やすいとみられる(図表 18)。 7 (図表 18)世界の石油需要と実質経済成長率 (前年比、%) 6.0 (前年比、%) 6.0 5.0 世界の石油需要 5.0 4.0 米国の石油需要 4.0 3.0 3.0 2.0 2.0 1.0 1.0 0.0 0.0 -1.0 -1.0 世界の実質GDP -2.0 -2.0 米国の実質GDP -3.0 -3.0 1990 1995 (注)2007年は見込み値 (出所)BP"Statistical Review" 2000 2005 1990 1995 2000 (注)2007年は見込み値 (出所)IMF"World Ecpnomic Outlook" (年) 2005 (年) 以上みてきたように、今後も原油高とドル安が持続する可能性は低くなってきている。当面 の原油相場については、行き過ぎた投機のゆり戻し、石油製品高による需要減退観測により、 相場は、一旦、80 ドル程度まで下落する可能性が高まってきているように思われる。 8
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