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日消外会誌 38(2)
:202∼207,2005年
症例報告
Recombinant interleukin-2 療法が有効であった脾原発血管肉腫の 1 例
福井大学医学部第 2 外科,同
土居 幸司
打波
大
吉田
誠
田中 國義
附属病院病理部*
中村 誠昌
今村 好章*
松村光誉司
脾原発血管肉腫はまれな疾患で極めて予後不良である.今回,われわれは脾原発血管肉腫の
切除後に転移巣に対し recombinant interleukin-2(rIL-2)を投与したところ,肝転移巣および転
移リンパ節において奏功を認めることができ,rIL-2 の有用性が伺われた.症例は 52 歳の女性
で,2002 年 9 月,巨大な脾腫瘍に対し脾摘術を行い血管肉腫の診断を得た.術中多発肝転移を
認めたため,これに対し rIL-2 の肝動注を行ったところ転移巣は著明に縮小した.2003 年 3 月,
肝十二指腸間膜リンパ節に転移を認め,rIL-2 の持続静注療法を行ったところ転移巣は著明に縮
小した.2003 年 5 月,脳転移と思われる病巣が出現し脳外科にて摘出手術を行ったが切除標本
からは血管肉腫の所見は得られず転移とは断定できなかった.術後,肝転移巣と副腎転移巣が
増大したが,副作用のため rIL-2 療法が続けられず,2003 年 9 月死亡した.
はじめに
CRP 上昇などの炎症所見を認めた.
脾原発の血管肉腫はまれな疾患で,急速に増大
腹部 CT 所見:脾臓に巨大な!胞状の病変を認
転移するため極めて予後不良である.今回,われ
めた.また,肝臓にも周囲のみに造影効果を伴う
われは脾原発の血管肉腫の切除後に,転移巣に対
多発性の低吸収域を認めた(Fig. 1)
.
し recombinant interleukin-2(rIL-2)を連日投与し
有効性を認めたことから,約 1 年の生存を得た症
例を経験したので報告する.
症
例
患者:52 歳,女性
主訴:体重減少,腰痛
9 月 18 日,診断および治療の目的で脾摘術を施
行した.
手術所見:腹腔内に癒着や,腹水を認めなかっ
た.脾臓に巨大な!胞状の腫瘤が存在し,肝臓に
は複数の硬結を触れた.
切除標本:脾臓は 2,530g で,腫瘤は巨大な!
既往歴,家族歴:特記すべきことなし.
胞状の血腫であったが,!胞壁の一部に充実性の
現病歴:平成 14 年 7 月ごろより全身倦怠感を
病変を認めた(Fig. 2)
.
生じ,8 月 20 日体重減少,腰痛を主訴に近医受診.
病理組織所見:充実性の病変部に,異型性を示
CT 上脾臓に巨大な腫瘤を認め,悪性リンパ腫疑
す細胞による異常な管腔形成が認められた.免疫
いで 9 月 9 日当院紹介入院となった.
染色では血管内皮マーカーである第 VIII 因子関
入院時現症:体温 36.0℃,血圧 110!
70mmHg ,
連抗原,CD31,
および CD34 が陽性で,間葉系マー
脈拍 70!
分.貧血,黄疸所見なし.左上腹部に巨大
カーのビメンチンも陽性であったことから,血管
な腫瘤を触れた.表在リンパ節の腫大を認めな
肉腫と診断された(Fig. 3)
.
かった.
入院時検査所見:軽度の貧血と白血球増多,
<2004年 9 月 22 日受理>別刷請求先:土居 幸司
〒910―1193 福井県吉田郡松岡町下合月23―3 福井
大学医学部第 2 外科
肝の病変は血管肉腫の転移と診断し,平成 14
年 11 月 5 日より rIL-2(テセロイキン)70 万単位!
日の肝動注を 1 か月間行った.12 月の CT では肝
転移巣は 50% 以下に縮小していたため有効と判
断し(Fig. 4)
,その後さらに 1 か月肝動注を継続し
2005年 2 月
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ンパ節に転移を認めた.このため 3 月 28 日再入院
し,rIL-2 持続静注を再開したが白血球増多や全身
倦怠感など rIL-2 の副作用と思われる症状を伴い
度々の中断を余儀なくされた.5 月ごろより左半
身麻痺が出現し,MRI 上脳転移と思われる病巣を
認めた(Fig. 5a)
.腹部 CT では肝十二指腸間膜リ
ンパ節は著明に縮小し(Fig. 6)
,肝転移も増大傾
向がないため,5 月 29 日開頭による腫瘍摘出を
行った.腫瘍は被膜に覆われた血腫で脳実質に癒
着していた.可及的に切除されたが,摘出材料か
ら血管肉腫の病理所見が得られず,転移と診断し
えなかった(Fig. 5b)
.術後,神経症状は著明に改
た.平成 15 年 1 月,腰椎転移を認めたため 1 月 14
善したが,開頭手術に伴い rIL-2 が 1 か月以上休
日から rIL-2 の持続静注療法に切り替え,腰椎へ
薬したこともあり,6 月の CT では肝転移巣の増
の放射線治療も行った.2 月 15 日いったん退院
大と副腎転移を認めた.rIL-2 を再開したが,治療
し,外来にて経過観察していたが,3 月 26 日の CT
抵抗性の全身倦怠感,白血球増加,嘔吐などの副
で肝転移巣は増大しないものの肝十二指腸間膜リ
作用が強く,投薬の継続が不可能となり,平成 15
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Recombinant interleukin-2 療法が有効であった脾原発血管肉腫
日消外会誌
38巻
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年 9 月 2 日死亡した.
考
い た 37 例 に つ い て 調 べ た と こ ろ,男 女 比 は
察
1:1.2,
平均年齢は 52.6 歳(20∼80 歳)であった.
脾原発の血管肉腫はまれな疾患で,本邦での報
主訴は腹痛,腹部膨満,全身倦怠感などで,多く
告はわれわれが 2003 年までの医学中央雑誌で検
が著明な脾腫を呈していた.なお,脾臓の平均重
索しえた限りでは自験例を含め 71 例であった(重
量は 932g で,本症例の 2,530g は今回調べた中で
複例と思われるものを除く)
.そのうち会議録を除
は最大であった.血液検査では貧血や白血球増加,
2005年 2 月
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DIC を示すことが多かった.経過中転移が認めら
していたため均一な!胞状の腫瘍を呈しており術
れたものは 31 例で(83.8%)
,肝 が 最 も 多 く 29
前に診断を得ることは困難であった.
例(78.4%)
,以下,骨 17 例,肺 11 例となってい
病理診断には免疫染色が有用で,血管内皮マー
1)
∼36)
.高率に転移をきたすため予後は
た(Table 1)
カーである第 VIII 因子関連抗原,CD31,CD34,
極めて悪く,予後が記述された症例での平均生存
および間葉系マーカーのビメンチンなどが陽性と
期間は 9.5 か月であった.特に,脾破裂をきたした
なり,上皮系や神経系のマーカーは陰性とされ
場合は予後不良と言われている.今回の集計でも
る23)35).本例も 3 種類の血管内皮マーカーがすべて
脾破裂後に脾摘を行った場合の術後平均生存期間
陽性で,血管肉腫と確定診断できた.一方,分化
は 4.5 か月で,破裂前に脾摘ができた場合の平均
の程度や異型度により種々のマーカーが発現する
生存期間 22.9 か月に比べ予後不良であった.この
可能性も指摘されている35).本例も cytokeratin
ため速やかな脾摘術が望まれる.また,転移が診
が陽性であった.
断時から認められた場合は平均生存期間が 4.5 か
転移巣に対する治療として化学療法が試みられ
月で,認められなかった場合の 14.2 か月に比べ予
ることが多いが,ほとんど効果は認められていな
後不良であった(Table 2)
.
い13)17)18)22)31).唯一効果の期待できる薬物として
本疾患の特徴的な画像所見としては,超音波検
7)
8)
25)
rIL-2 があるが,脾原発の血管肉腫に対して rIL-2
,CT では不均一に
療法が行われた例はまだ少なく奏功例もなかっ
造影される low density area などが報告されてい
た31)33).一方,皮膚科領域では rIL-2 療法は手術や
るが7)12)25)27)32)34),今回の症例では巨大な血腫を形成
放射線療法と併せて局注・動注・静注が行われ,
査における微小な管腔構造
72
(206)
Recombinant interleukin-2 療法が有効であった脾原発血管肉腫
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集学的治療による奏功率は 63.2% とも報告され
37)
∼40)
ており標準的な治療法となっている
.今回の
症例は rIL-2 の動注および静注の連日持続投与が
奏功し,また他の抗癌剤を一切使用していないこ
とから,rIL-2 が生存期間の延長に寄与したと考え
ている.しかし,副作用により投与の中断を余儀
なくされた.rIL-2 の副作用として発熱,全身倦怠
感,悪心,嘔吐,体液貯留,血液障害,精神障害
などがあり,これらの予防法を含めた効果的な
rIL-2 の投与法の確立は本疾患の予後を改善する
可能性があると思われた.
文
献
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1967
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12:53―56, 1968
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1564, 1981
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肉腫の 1 例.臨放線 27:839―842, 1982
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管肉腫の 1 例.癌の臨 28:1290―1294, 1982
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仙台病医誌 16:63―66, 1996
30)大野 毅,池田陽一,江崎卓弘ほか:脾臓自然破
裂,腹腔内出血にて発見された脾臓原発血管肉腫
の 1 例.日消外会誌 30:1952―1956, 1997
31)吉龍正雄,中尾量保,仲原正明ほか:著明な貧血,
血小板減少をきたした脾原発血管肉腫の 1 例.
日臨外会誌 59:1109―1113, 1998
32)池田真浩,渡辺 透,佐々木正寿ほか:脾血管肉
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33)中井啓輔,立山健一郎,尾関 豊:脾血管肉腫の
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の 1 例.臨外 53:387―390, 1998
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肉 腫 破 裂 の 1 例.日 臨 外 会 誌 64:194―197,
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管肉腫 12 例(1985∼2001 年)の臨床的検討.臨皮
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40)池田重雄,井上 靖:皮膚血管肉腫に対する IL2 を組み込んだ集学的治療―イムネース研究会 3
年 間 の ま と め―.Skin Cancer 10:415―419,
1995
A Case of the Primary Splenic Angiosarcoma Effectively Treated
with Recombinant Interleukin-2
Koji Doi, Makoto Yoshida, Tomoaki Nakamura, Mitsuyoshi Matsumura,
Masaru Uchinami, Kuniyoshi Tanaka and Yoshiaki Imamura*
Second Department of Surgery, Faculty of Medical Sciences, University of Fukui
Department of Surgical Pathology, University of Fukui Hospital*
Primary splenic angiosarcoma is a rare neoplasm with a dismal prognosis. We report a case of primary splenic
angiosarcoma effectively treated with recombinant interleukin-2( rIL-2 ) after splenectomy. A 52-year-old
woman with a huge splenic tumor underwent splenectomy in September 2002. The resected tumor was diagnosed pathologically as angiosarcoma. For simultaneous multiple liver metastases, we initiated continuous hepatic arterial injection with rIL-2. After 1 month of treatment, liver metastases had decreased markedly in
size. In March 2003, lymph node metastases were detected developing in the hepatoduodenal ligament. Continuous intravenous injection of rIL-2 gradually decreased lesion size. In May 2003, MRI showed a brain tumor.
The tumor was resected, but the specimen had no pathological finding of angiosarcoma. After neurosurgical
treatment, she had to discontinue rIL-2 therapy due to adverse side effect, dying 4 months later in September
2003.
Key words:splenic angiosarcoma, recombinant interleukin-2
〔Jpn J Gastroenterol Surg 38:202―207, 2005〕
Reprint requests:Koji Doi Second Department of Surgery, Faculty of Medical Sciences, University of Fukui
23―3 Shimoaizuki, Matsuoka-cho, Yoshida-gun, Fukui, 910―1193 JAPAN
Accepted:September 22, 2004
!2005 The Japanese Society of Gastroenterological Surgery
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