悪性リンパ腫・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・鈴宮 淳司 369

目次
巻頭
悪性リンパ腫
検査値
アプローチ
症候
[要 旨] 悪性リンパ腫は病型(組織分類)も多く,“多様な”稀少腫瘍の集まりであり,治療戦略が異なる。
一般
そのため大切なことは正確な病理診断であり,さらに病期,患者の状態を把握したうえに,層別化を行い,こ
れらを総合して治療戦略をたて,標準治療があれば実施する。治療後の経過観察も,病型の特徴をよく理解し
症候
循環器
て実施すべきである。また病型診断をつけるための努力を惜しんではいけない。血液病理専門医へのコンサル
ト,フローサイトメトリ(FCM)
,染色体検査,遺伝子診断などできることはすべて実施すべきである。治療方
症候
針としてインドレントリンパ腫は化学療法だけで治癒は困難であるため病気のコントロールを目指すことが多
呼吸器
く,アグレッシブリンパ腫の多くは治癒をめざす。急速に進行し予後不良な一部のリンパ腫は可能であれば造
症候
血幹細胞移植を考慮する。
消化器
[キーワード] 多様,アグレッシブリンパ腫,インドレントリンパ腫,サザンブロット法
症候
血液
病型分類の理解のために
因子と考えられる。免疫力の低下をきたすことがあり,
様々な病原菌による感染症を合併する危険がある。また
悪性リンパ腫はリンパ球系腫瘍の総称であり,白血病
血球貪食症候群を伴うことがあるため,発熱,黄疸,出
も含むためその病型(組織分類)は多く,表 1 に主要
血傾向がみられることがある。成人に生じる血球貪食症
なものを中心に示す。さらに約 40%が節外(リンパ節
候群の約 70%はリンパ腫によるものであり,成人の血
以外)に発生するために症状は多彩である。リンパ腫は
球貪食症候群を見た場合は,リンパ腫の存在を念頭にお
B 細胞性,T または NK(T/NK)細胞性とホジキンリン
いて検査をする。他には自己免疫性溶血性貧血が免疫血
パ腫に分けられる。B 細胞,T/NK 細胞は分化度の違い
管芽球性 T 細胞リンパ腫(AITL)や慢性リンパ性白血
として前駆細胞型と成熟細胞型に分けられるが,多くは
病などに合併することが知られている。
成熟細胞型である。成熟細胞型は臨床像により白血病,
検査異常としてはリンパ節腫脹やリンパ節外腫瘤がみ
節外性(リンパ節以外のもの),節性(リンパ節中心の
られ,LDH 高値,可溶性インターロイキン(IL-2)レ
もの)に分けられる。さらに進行のスピードにより低悪
セプター(sIL-2R)高値(これだけではリンパ腫とは言
性(年単位の進行,インドレント indolent),中悪性(月
えない,後述)などがみられることが多い。また AILT
単位の進行,アグレッシブ aggressive),高悪性(週単
ではアレルギーの既往や多クローン性高  グロブリン血
位の進行,ハイリーアグレッシブ highly aggressive)に
症などがみられる。
類した(表 2)。ホジキンリンパ腫は古典的ホジキンリ
疼痛
疾患
神経
疾患
呼吸器
疾患
循環器
疾患
消化器
腎臓・尿路
確定診断に要する検査
疾患
ンパ腫と結節性リンパ球優勢型ホジキンリンパ腫に分け
リンパ腫を確定する検査は病理検査である。そのため
られる。
生検が必要であり,さらに図 1 に示すような検査が必
須のために,検体の提出には注意が必要である。
疑うべき臨床症状
症候
疾患
分かれる。WHO 分類のテキストでは分けられていない
が,頻度の多いリンパ腫を進行のスピードで恣意的に分
症候
腎臓・尿路
内分泌
疾患
代謝・栄養
リンパ節生検の適応やタイミングとしてはリンパ腫が
疑われ,これ以上治療開始を遅らせるのは好ましくない
疾患
乳腺・
女性生殖器
初発症状として最も多いのは表在リンパ節の腫脹であ
と考えられる場合は実施すべきで,とくに増大スピード
る。無痛性のことが多く,硬さは弾性硬で固形癌の転移
が速く,中・高悪性度リンパ腫が疑われる場合は画像検
疾患
のように石様に硬くはない。ホジキンリンパ腫では頸部
査に時間をかけず速やかに行う。
リンパ節吸引細胞診は,
リンパ節から始まり隣接するリンパ節へ進展することが
菊池病などの反応性病変を疑う場合や固形がんの転移が
血液・
造血器
多いが,非ホジキンリンパ腫では頸部,腋窩,鼠径部な
示唆される場合には有用であるが,リンパ腫を強く疑う
どあらゆる部位に非連続性にリンパ節腫脹を生じる。肝
場合は診断に必要な細胞や組織の量が採取不能のため,
臓や脾臓の腫大,皮膚病変が見られることもある。また,
生検が必須である。Core needle による生検は,後腹膜
発熱,寝汗,体重減少などの全身症状を伴うことがあり,
腫瘍や縦隔腫瘍だけの場合は止むをえず実施されること
これらの症状は B 症状(臨床病期)と呼ばれ予後不良
があるが,濾胞性リンパ腫のようなインドレントリンパ
疾患
免疫・
結合織
付録
- 369 -
疾患
血液・
造血器
JSLM 2012
悪性リンパ腫
表 1 病型分類(WHO 分類 2008 年改訂)
前駆リンパ系腫瘍 Precursor lymphoid neoplasms
─前駆 B 細胞リンパ芽球性白血病/リンパ腫(B lymphoblastic leukemia/lymphoma)
─前駆 T 細胞リンパ芽球性白血病/リンパ腫(T lymphoblastic leukemia/lymphoma)
成熟 B 細胞腫瘍 Mature B-cell neoplasms
─慢性リンパ性白血病/小リンパ球性リンパ腫
(Chronic lymphocytic leukemia/small lymphocytic lymphoma)
─ B 細胞前リンパ球性白血病(B-cell prolymphocytic leukemia)
─脾辺縁帯リンパ腫(Splenic marginal zone lymphoma)
─有毛細胞性白血病(Hairy cell leukemia)
─リンパ形質細胞性リンパ腫(Lymphoplasmacytic lymphoma)
─重鎖病(Heavy chain disease)
─形質細胞腫瘍(Plasma cell neoplasma)
─粘膜関連リンパ組織型辺縁帯 B 細胞リンパ腫
(Marginal zone B-cell lymphoma of mucosa-associated lymphoid tissue)
─節性辺縁帯 B 細胞リンパ腫(Nodal marginal zone B-cell lymphoma)
─ろ胞性リンパ腫(Follicular lymphoma)
─マントル細胞リンパ腫(Mantle cell lymphoma)
─びまん性大細胞型 B 細胞リンパ腫(Diffuse large B-cell lymphoma)
─バーキットリンパ腫(Burkitt lymphoma)
成熟 T 細胞および NK 細胞腫瘍 Mature T-cell and NK-cell neoplasms
─ T 細胞前リンパ球性白血病(T-cell prolymphocytic leukemia)
─ T 細胞大顆粒リンパ球性白血病(T-cell large granular lymphocytic leukemia)
─アグレッシブ NK 細胞白血病(Aggressive NK-cell leukemia)
─成人 T 細胞性白血病/リンパ腫(Adult T-cell leukemia/lymphoma)
─節外性鼻型 NK/T 細胞リンパ腫(Extra nodal NK/T-cell lymphoma, nasal type)
─腸管症型 T 細胞リンパ腫(Enteropathy-type T-cell lymphoma)
─肝脾 T 細胞リンパ腫(Hepatosplenic T-cell lymphoma)
─皮下脂肪組織炎様 T 細胞リンパ腫
(Subcutaneous panniculitis-like T-cell lymphoma)
─菌状息肉症(Mycosis fungoides)
─セザリー症候群(Sezary syndrome)
─原発性皮膚 CD30 陽性 T 細胞リンパ増殖異常症
(Primary cutaneous CD30 positive T-cell lymphoproliferative disorders)
─原発性皮膚 gd T 細胞リンパ腫(Primary cutaneous gamma-delta T-cell lymphoma)
─末梢性 T 細胞リンパ腫 , 非特定(Peripheral T-cell lymphoma, NOS)
─血管免疫芽球性 T 細胞リンパ腫(Angioimmunoblastic T-cell lymphoma)
─未分化大細胞リンパ腫(Anaplastic large cell lymphoma)
ホジキンリンパ腫 Hodgkin Lymphoma
(HL)
─結節性リンパ球優位型ホジキンリンパ腫
(Nodular lymphocyte predominant Hodgkin lymphoma)
─古典的ホジキンリンパ腫 Classical Hodgkin lymphoma)
結節性硬化型(Nodular sclerosis)
混合細胞型(Mixed cellularity)
リンパ球豊富型(Lymphocyte-rich)
リンパ球減少型(Lymphocyte depletion)
免疫不全関連リンパ球増殖疾患
Immunodeficiency-associated lymphoproliferative disorders
─先天性免疫異常症関連リンパ増殖性疾患
Lymphoproliferative diseases with primary immune disorders
─ HIV 感染症関連リンパ腫 Lymphomas associated with HIV infection
─移植後リンパ増殖性疾患 Post-transplant lymphoproliferative disorders
(PT-LPD)
─他の医原性免疫不全症関連リンパ増殖性疾患
Other iatrogenic immunodeficiency-associated lymphoproliferative disorders
- 370 -
表 2 代表的な B 細胞および T/NK 細胞リンパ腫
悪性度分類
B 細胞リンパ腫
T/NK 細胞リンパ腫
低悪性度リンパ腫
indolent lymphoma
(進行が年単位)
濾胞性リンパ腫
粘膜関連リンパ組織(MALT)リンパ腫
中悪性度リンパ腫
aggressive lymphoma
(進行が月単位)
びまん性大細胞型 B 細胞リンパ腫
マントル細胞リンパ腫
Burkitt リンパ腫
リンパ芽球リンパ腫
高悪性度リンパ腫
highly aggressive lymphoma
(進行が週単位)
リンパ腫の疑い
病期診断
FCM
FISH
染色体検査
遺伝子検査
・診察
・CT(造影 CT が望ましい)
・(MRI,内視鏡,超音波検査)
・骨髄検査
・PET(PET/CT)
全身状態,合併症の評価
・肝・腎・心・糖尿病
・肝炎ウイルス
リスク因子・予後予測
病理診断報告
末梢 T 細胞性 T 細胞リンパ腫・非特定
血管免疫芽球性 T 細胞リンパ腫
ALK 陽性未分化大細胞型 T 細胞リンパ腫
ALK 陰性未分化大細胞型 T 細胞リンパ腫
節外性 NK/T 細胞リンパ腫
リンパ芽球性リンパ腫
成人 T 細胞白血病・リンパ腫
(急性型,リンパ腫型)
検査値
アプローチ
症候
一般
症候
循環器
症候
呼吸器
症候
病理診断と合わせて実施する
生検/手術
病理診断
菌状息肉種
成人 T 細胞白血病・リンパ腫
(くすぶり型・慢性型)
目次
巻頭
消化器
入院治療が外来治療かの判断
病型・病期にもとづく治療戦略,患者の状態および生
症候
血液
活環境,各病院施設の状況による。急性型成人 T 細胞
白血病・リンパ腫(ATL),リンパ芽球リンパ腫,バーキッ
トリンパ腫のような高悪性度リンパ腫は一般的には外
来治療は困難である。それ以外のリンパ腫であれば first
line の治療は,一回目の治療以外は,在宅での生活状況
症候
腎臓・尿路
症候
疼痛
や通院時間を考慮して,発熱性好中球減少症などに対応
治療方針の決定
図 1 診断から治療まで
できる状況であれば外来治療が可能である。とくにイン
ドレントリンパ腫は,再発を繰り返して治療を継続する
ので,患者の QOL を考慮した治療方法を考慮すべきで
ある。再発後の second line 以降の治療に関しては選択
疾患
神経
疾患
呼吸器
腫は診断が困難な場合もあるため,できるだけリンパ節
するレジメンにもよるが,シスプラチンなど大量補液が
生検が望ましい。リンパ節生検のときの方法や注意点は
必須の薬剤であったり,また治療日数が複数日になるよ
図 2 に示した。
うなレジメン治療の場合は外来治療が困難になる。いず
確定診断は病理組織学的になされるが,フローサイト
れにしても治癒をめざす治療戦略なのか,そうでないの
疾患
メトリ(FCM)による表面形質の検査,染色体検査は
かという治療戦略にもとづき,選択した薬剤を考慮した
消化器
通常の分染法と FISH 検査を実施し,免疫染色の結果を
うえで,患者の状況を把握して,よく相談をして決定す
合わせて診断する。リンパ系腫瘍に認められる主な染色
べきである。
体異常を表 3 に示す。B 細胞リンパ腫であれば免疫グ
ロブリン(Ig)遺伝子,T 細胞リンパ腫は T 細胞受容体
(TCR)遺伝子のサザンブロット法を用いてクロナリティ
疾患によって特徴的な検査があれば記載
疾患
循環器
疾患
腎臓・尿路
疾患
内分泌
をみることも必要である。また Epstein-Barr ウイルス
① HTLV-1 プロウイルス:成人 T 細胞白血病・リンパ
(EBV)の Terminal repeat(TR)遺伝子はウイルスごと
腫(ATL)は HTLV-1 が原因で生じる末梢性 T 細胞
に数が決まっていることから,EBV-TR のサザンブロッ
腫瘍であり,確定診断には血中の HTLV-1 抗体価の
ト法で,EBV が感染しているリンパ腫ではクロナリティ
上昇だけでなく,厳密には確定診断のためプロウイ
が証明でき,診断に役立つ。パラフィン標本の試料から
ルスのサザンブロット法によるモノクロナリティの
も Ig 重鎖遺伝子や TCR 遺伝子の再構成の検索が可能な
確認が必要である。しかしこの検査は保険未承認で
疾患
ため polymerase chain reaction(PCR)法は診断に有用
ある。また inverse PCR 法ではクローンの検出がで
ではあるが,偽陽性になることもあり注意が必要である。
きるが,通常の PCR 法ではウイルス量を定量する
血液・
造血器
確定診断はひとつの検査結果で行うのではなく,HE 標
ことは可能であるが,クロナリティの検索はできな
本の病理所見を基本として,その他の様々な結果を総合
い。(保険未承認)
的に判断して,診断を確定する。
疾患
代謝・栄養
疾患
乳腺・
女性生殖器
疾患
免疫・
結合織
② 血中 EBV-DNA 量:EBV ウイルス量を反映すると
いうより EB 関連リンパ腫の腫瘍量を反映している
付録
ため,病態把握や治療効果の判定や予後因子として
- 371 -
疾患
血液・
造血器
JSLM 2012
ホルマリン固定後
病理標本
悪性リンパ腫
表在リンパ節腫脹
ある場合
頚部リンパ節生検を
捺印細胞診
そけい部はできるだけ避ける
ない場合
診断がつく可能性が高い
侵襲が少ない場所を選ぶ
組織を凍結保存
細胞浮遊液
遺伝子解析など
細胞マーカー
染色体検査
凍結保存
・乾燥させない
・生理食塩水に どぼん はいけません
・可能な限り無菌処理を
・滅菌生食で湿らした滅菌ガーゼにくるみ,滅菌シャーレで
図 2 リンパ節生検の方法と生検リンパ節の処理
表 3 リンパ系腫瘍に認められる主な蛋白生産型と脱制御型染色体転座
融合蛋白産生型:異常蛋白(キメラ蛋白)生産型
(11;
t
18)
(q21; q21.1)
API2/MALT1
MALT リンパ腫
(2;
t
5)
(p23; q35)
ALK/NPM1
未分化大細胞リンパ腫
など
脱制御型:正常蛋白生産型
(3;
t
14)
(q27; q32)
BCL6/IGH
*
びまん性大細胞型 B 細胞リンパ腫
*
Burkitt リンパ腫
(8;
t
14)
(q24; q32)
c-MYC/IGH
(9;
t
14)
(q13; q32)
PAX5/IGH
リンパ形質細胞性リンパ腫
(11;
t
14)
(q13; q32)
CCND1/IGH
マントル細胞リンパ腫
(14;
t
18)
(q32; q21.1)
IGH/MALT1
MALT リンパ腫
(14;
t
18)
(q32; q21.3)
*
IGH /BCL2
濾胞性リンパ腫
など
*:BCL2, c-MYC の variant translocation では IG κ,IG λを,BCL6 では IG 以外の遺伝子を転座相手とする
実施されるが,保険未承認である。
表 4 濾胞性リンパ腫の層別のための FILIPI
FLIPI1
FLIPI2
可溶化した IL-2R を ELISA 法などで測定したもの
60 歳以上
60 歳以上
病期Ⅲ,Ⅳ期
骨髄浸潤
である。T リンパ球の活性化によりは高値を示すの
Hb < 12 g/dL
Hb < 12 g/dL
で,各種のウイルス感染症,結核,サルコイドーシ
血清 LDH > N
血清  2MG > N
ス,膠原病また腎機能障害でも高値になる。また一
節性病変の数> 4
最大病変長径≧ 6 cm
③ sIL-2R:膜型の蛋白の一部が切断され血中に出現し,
部の固形がんでも高値を示し,これは癌に対する細
胞傷害性 T リンパ球の活性化だけでなく,がん細
- 372 -
胞自体に IL-2R の発現がみられる。一般的に 2,000
④ 予後を推定する場合に必要な検査として,濾胞性リ
U/mL 以上ではリンパ腫の可能性が高いといわれる
ンパ腫では FLIPI2(表 4)が使われるが,この場
が,逆にリンパ腫でも初診時にしばしば正常値を示
合には  2 ミクログロビンが必要であり,またホジ
す。他の腫瘍マーカーと同様に治療経過をみるには
キンリンパ腫の予後予測システムでは限局期では赤
大変よいマーカーであるが,特異性に欠けリンパ腫
沈,進行期では血算に加えてアルブミン,リンパ球
以外の多くの疾患でも高値を示す。
数が必要である。
治療後の経過観察(フォローアップ)に必要な標
準的検査
1) 治療の効果判定は,
「NHL の効果判定規準の標準化
は未確立である。治療開始前の心電図検査,心臓超音波
検査を実施し,とくに中年以降の患者には治療中および
治療終了後の心電図検査と心臓超音波検査によるチェッ
目次
巻頭
検査値
アプローチ
クをすることが望ましい。初回治療時に巨大腫瘤を有す
症候
国際ワークショップレポート」
(1999)が用いられ,
るなど腫瘍量が大きい場合,またバーキットリンパ腫や
その効果判定には通常は CT が用いられる。しか
リンパ芽球性リンパ腫のように腫瘍の増大スピードが速
し,2007 年に FDG-PET が効果判定に導入された
く腫瘍崩壊症候群が生じる可能性が考える場合は LDH,
症候
「改訂版 NHL の効果判定規準の標準化国際ワーク
AST や ALT 以外に,BUN,Cr,eGFR などの腎機能の
循環器
ショップレポート」が出された。これらの効果判定
チェックと血清 K,Ca,P,尿酸のチェックが必要であ
規準は臨床試験の評価を国際的に統一する目的のた
る。ホジキンリンパ腫の AVBD 療法などブレオマイシ
めであるが,日常診療における治療の効果判定にも
ンを使用する場合は,使用量に相関して肺障害が生じる
有用である。FDG-PET はホジキンリンパ腫やびま
ため呼吸機能,血液ガスなどのチェックが必要である。
症候
ん性大細胞型 B 細胞リンパ腫での治療効果におい
またリツキシマブのような B リンパ球をターゲットと
消化器
て必須とされ,化学療法の場合は最終治療から少な
した抗体薬だけでなく,プリンアナログなども特異的に
くとも 3 週あけ,可能であれば 6 ∼ 8 週あけて行う
リンパ球を減らすため白血球総数や好中球数だけでなく
こと,放射線療法の場合は終了から 8 ∼ 12 週開け
リンパ球数にも注意する。また治療前には必ず HBV 検
ておこなうことが推奨されている。ホジキンリンパ
査(HBs 抗原,HBs 抗体,HBc 抗体)を行い,いずれ
症候
腫やびまん性大細胞型 B 細胞リンパ腫以外の病型
かが陽性の場合は HBV-DNA 測定を実施し,陽性の場合
腎臓・尿路
で FDG-PET の有効性が証明されたわけではない。
は厚生労働省 B 型慢性肝炎の治療ガイドラインに基づ
2)治療後の追跡・評価の方法は,
病型などにより異なる。
きエンテカビルの使用が推奨される。HBs 抗体もしく
通常は注意深く診察を実施し,血球算定,生化学検
は HBc 抗体が陽性の患者では,化学療法終了後少なく
査(総タンパク,アルブミン,総ビリルビン,ALT,
とも 1 年間は月 1 回の HBV-DNA 測定が推奨される。
尿酸など)や画像検査を適切に実施する。経過観察の
症候
呼吸器
症候
血液
症候
疼痛
疾患
神経
AST,LDH,ALP,Na,Cl,Ca,BUN,Cr,血糖値,
間隔は ESMO などのガイドラインによればアグレッ
一般
専門医にコンサルテーションするポイント
疾患
呼吸器
シブリンパ腫では,完全奏効が得られた場合は治療後
リンパ腫に関しては二つの点に注意をしてコンサル
の 1 ∼ 2 年間は 2 ∼ 3 ヶ月毎,その後は 6 ヶ月毎の追
テーションが必要である。① 診断に関しては血液病理
跡を 3 年間は行う事が推奨される。インドレントリン
専門医に診てもらうことである。診てもらうに際しては,
パ腫では,治療後の 2 年間は 3 ヶ月毎,その後は 4 ∼
十分な臨床情報(染色体やフローサイトメトリの結果を
6 ヶ月毎の経過観察が推奨される。
疾患
含む)を提供することであり,また追加の免疫染色など
消化器
疾患
循環器
3)再発の 8 割以上は,定期的な画像検査で発見される
が必要になるので,施設の病理医とは密に連絡をとるこ
のではなく,臨床症状の出現により発見されると欧米
とが必要である。② 治療方針の決定の際に,標準治療
から報告されている。定期的に CT など画像検査を実
が確立されている病型の方が少ないので,標準治療が未
施することで,
症状発現前に再発がみつかることある。
確立のものに関しては専門医に相談することが推奨され
疾患
しかし,CT などの定期的な検査による早期の再発の
る。決して進行形の臨床試験と同じ治療を未登録で実施
内分泌
発見が予後改善に関与するかどうかは不明である。そ
すべきではないし,また造血幹細胞移植も標準治療とし
のため,定期的な CT による経過観察は,コストを含
て実施されるもの以外は日常診療として安易な実施は推
めた患者利益を考慮して実施される事が望ましい。定
奨されないため,専門医への相談が必要である。
ない。
保険診療上の注意
乳腺・
女性生殖器
疾患
TCR や Ig 遺伝子のサザンブロット法,染色体検査,
治療による副作用チェックのための検査
疾患
代謝・栄養
疾患
期的な FDG-PET 検査の有用性は,偽陽性の問題も報
告されているので,安易に実施されることは推奨され
疾患
腎臓・尿路
FISH 法は保険適応であるが,FISH 法で提出できるの
は一つの遺伝子しか一回の検査では保険診療で認められ
治療に用いた薬剤にもよるが,多くの治療レジメンで
ない。HTLV-1 プロウイルスの検索,EBV-TR のサザン
は,血球減少を生じるために CBC のチェックが必要で
ブロット法,EBV-DNA 定量は保険未承認である。血中
ある。最も汎用されている CHOP 療法では,ドキソル
sIL-2R 測定は保険適応があるが,非ホジキンリンパ腫,
ビシンの副作用として心毒性があるが,早期の検出方法
ATL にだけに認められ,月 1 回が限度である。
血液・
造血器
疾患
免疫・
結合織
付録
- 373 -
疾患
血液・
造血器
JSLM 2012
悪性リンパ腫
参考文献
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5)ESMO Clinical Practice Guideline.
http://www.esmo.org/education-research/esmo-clinicalpractice-guidelines.html#c3343
Tumours of Hematopoietic and Lymphoid Tissues. 4th ed.
Lyon: IARC; 2008.
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略 語
内系学会編.2010 年 3 月(第 1 版).東京 : 金原出版 ;
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2010.
AITL:免疫血管芽球性 T 細胞リンパ腫
3)Hodgkin disease/lymphoma. NCCN clinical practice
CHOP 療法:シクロホスファミド+ドキソルビシン+ビ
guideline V. 2, 2012
ンクリスチン+プレドニソロン併用療法
http://www.nccn.org/professionals/physician_gls/pdf/
ABVD 療法:ドキソルビシン+ブレオマイシン+ビンブ
hodgkins.pdf
ラスチン+ダカルバジン併用療法
4)Non-Hodgkin lymphoma. NCCN clinical practice guideline
V. 2, 2012.
sIL-2R:可溶性インターロイキンレセプター
EBV:Epstein-Barr ウイルス
http://www.nccn.org/professionals/physician_gls/pdf/nhl.
pdf
- 374 -
(鈴宮淳司)