IPTVサービスの市場創出・拡大に向けた NTTの研究開発

放送と通信
IPTV技術の最新動向
IPTV
IP再送信
IPTVサービスの市場創出・拡大に向けた
NTTの研究開発
ほ り い
もとゆき†1
あ く つ
あきひと†1
堀井 統之 /阿久津 明人
おおむら
ひろゆき†1
や ま だ
け ん じ †2
大村 弘之 /山田 賢二
IPTVサービスは,従来の多チャンネル放送,VODサービスに加え,地上
デジタル放送の再送信サービスも提供され,その市場が急速に立ち上がって
かわぞえ
かつひこ†2
川添 雄彦
きています.本稿ではIPTVサービスを実現するNTT研究所での代表的な取
り組みとして,IPTV仕様の標準化活動やIP再送信技術,また,今後のさら
なる市場拡大に向けた研究開発の方向性について解説します.
IPTVの現状
ネットワークの高帯域化(ブロード
説明します.
NTTサイバーソリューション研究所†1
NTT研究企画部門†2
仕様であるため,家電メーカが市販品
IPTV標準化の意味と取り組み
として商品化することはなく,サービ
スの認知度が上がりませんでした.
バンドの普及)
,大容量コンテンツの配
N T T グループでは, 2 0 0 4 年 から
そのような課題を解決するためには
信技術の進歩により,IPによる映像配
IPTVサービスの提供を開始していまし
標準化が必要になります.我々は研究
信サービス,いわゆるIPTVサービスが
た.しかしながら,OCNシアター,オ
開発と並行するかたちでIPTV標準仕
急速に立ち上がり,世の中のIPTVへ
ンデマンドTV,4thMEDIAというそ
様の策定を推進してきました.標準化
の注 目 度 , I P T V に対 する期 待 が高
れぞれのサービスは,図1(a)のように
の進展と歩調を合わせつつ研究開発
まってきています.世界的には数千万
独自の技術方式を用いていたため,同
を進 め, NGN( Next Generation
のオーダのIPTVサービスの契約者がお
じコンテンツを調達するのにも重複し
Network)サービス開始に向けた映像
り,また,日本国内でみても100万に
たコストがかかり,さらにはそれにより
配信トライアルにおいてIPTVサービス
達する勢いで急速に契約者数が増加し
各事業者が調達できるコンテンツの数
に必要な技術の検証を行い,その後の
ています.
も限られてしまうという課題がありま
商用サービスにつなげました(1).また,
IPTVはIPによる伝送という特長を
した.また,STB(セットトップボッ
通信事業者,放送事業者,家電メー
活かして,より魅力的なコンテンツや
クス)等の受信機も事業者ごとの独自
(2)
カなどとともに「IPTVフォーラム」
サービスを提供することができます.日
本ではCATVとCS放送を合わせた多
チャンネル放送の契約者数は1 100万
VODコンテンツ
程度であり,現時点での世帯普及率は
20%を超えた程度に留まっていますが,
B社
IPTVサービス
A社
IPTVサービス
IPTVサービスは既存の有料放送や無
料広告モデルの放送だけでは満足して
重複調達
コンテンツ
CSコンテンツ
いないユーザにも訴求しており,日本
の有料放送市場自体を拡大することが
できるサービスということができます.
本稿では,IPTVサービス商用化ま
でのNTTの研究所の取り組み,そし
て,今後さらなる市場拡大を実現して
いくための研究開発の方向性について
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NTT技術ジャーナル 2009.10
C社
IPTVサービス
地上波コンテンツ
BSコンテンツ
(a) 独自技術方式によるIPTVサービス
(b) 標準技術方式によるIPTVサービス
図1 標準化によるIPTVサービスの変化
特
集
そこで,我々はIP再送信技術の研
た地上波コンテンツも,図1(b)のよ
究開発に取り組みました.IP再送信
うに同じプラットフォームの中で提供
サービスにおいては,電波による放送
することが可能となりました.同様に,
様に基づいた1つのプラットフォーム
と同等のサービスを提供する観点から,
BSコンテンツのIP再送信も可能とす
上でサービスを提供することが可能と
以下の要件を充足する必要があります.
べく,研究開発を進めています.
を設立し,IPTV標準仕様を策定しま
した.
これにより図1(b)のように標準仕
なり,コンテンツ調達および受信機普
①
放送との同一性保持:電波に
IPTV市場拡大に向けて
及の課題が解消されました.特に受信
よる放送に対する,品質(映像,
機に関しては,家電メーカが市販のTV
音声など),サービス内容(デー
にIPTV機能を搭載するようになり,そ
タ放送,字幕,電子番組表など)
準化活動などの長年の努力が商用サー
の道筋をつけたことはIPTVサービス普
の同一性を保持すること.
ビスというかたちで日の目をみるように
及に向けて大きな意味があったと考え
ています.
IPTV標準仕様をベースとして,前
述したNTTグループの3つの映像配
信サービスを統合して2008年3月より
サービス開始したのがNTTぷららの
(3)
「ひかりTV」サービス
です.
IP再送信技術の確立
映像配信サービスにおいて提供され
るコンテンツは,量のみならず質が求
②
これまでのさまざまな研究開発,標
複数チャンネル同時視聴:HD
なりましたが,今後は,ようやく立ち
品質映像でサービス1契約当り2
上がってきたIPTV市場を早期に拡大
チャンネル以上で同時視聴または
していくための施策を実施していく必
録画が可能であること.
要があります.IPTVの普及を加速し
③
放 送 対 象 地 域 に限 定 した配
ていくためには,サービス面,機能面
信:IP再送信サービスの対象地
で適切な対応をしていく必要があると
域を,当該地域で地上デジタル放
考えており,NTTの研究所では,今後
送を行っている地上放送事業者の
の研究開発として図2に示すように,
放送対象地域に限定することが可
①IPTVの付加価値サービス拡充,②
能であること.
モバイルへの展開,③ビジネス市場へ
NTTの研究所で開発したIP再送信
(4)
の展開,という方向性で取り組んでい
められます.その意味で,IPTVにおい
技術
ても放送コンテンツは魅力的です.近
伝送路を効率的に使用可能とする技術
年,映像配信サービス向けコンテンツ
であり,NGNネットワーク機能と連携
の制作も盛んに行われていますが,そ
することにより,上記①∼③の要件を
IPTVを楽しむうえでコンテンツは非
の労力やコストは多大なものです.し
満たしています.本技術は,放送局等
常に重要です.IP再送信技術の確立
たがって,放送コンテンツのIPTV利用
から構成される「地上デジタル放送補
により地上波放送がIPTVで見られる
を可能にすることは,ユーザにとって
(5)
完再送信審査会」 が策定した「地
ようになった今,BS放送のIP再送信
もサービス事業者にとっても喜ばしい
上デジタル放送IP再送信方式審査ガ
の実現は,IPTVサービスの拡充とい
ことです.また,2011年の地上波放
イドライン」に基づく審査をクリアし
う点でかかせないものといえるでしょう.
送完全デジタル化に向けた国家的な取
ており,IP再送信サービスを提供可能
また,今後IPTVのユーザ数やコン
り組みとしても,デジタル放送波を受
な技術方式として認定されています.
テンツが増加していく中で,端末から
信できないような条件不利地域への補
I P 再 送 信 技 術 についてもI P T V
の検索をはじめとするユーザ利便性を
完措置として,IPマルチキャストによ
フォーラムで標準仕様になっており,
維持・向上するためにはメタデータ処
る地上波放送の同時再送信が求めら
IP再送信技術を確立したことにより,
理技術が重要なポイントとなります.
れていました.
図1(a)においてサービス対象外であっ
NTTの 研 究 所 で は TV Anytime
は,IPマルチキャストにおける
きます.
(1) IPTVとしての付加価値サービ
ス拡充
NTT技術ジャーナル 2009.10
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IPTV技術の最新動向
F o r u m の標 準 技 術 に準 拠 したメタ
(2) モバイルへの展開,連携
コンテンツの情報を携帯電話に表示し
データの登録・検索技術を確立してい
IPTVは基本的には自宅のリビング
て検索や視聴の予約をする,さらには
ます.今後も,検索結果レスポンスの
などのTVで視聴するものですが,視聴
外出先でも視聴するなどといったサー
高速化など継続して技術開発を進めて
者の可処分時間を有効に活用するため
ビス展開が考えられます.
いく必要があると考えています.
に他のデバイスと連携するようなサー
ビスの提供も望まれています.例えば,
また,地上アナログ放送終了後の電
波の跡地を用いてモバイルマルチメディ
ア放送サービス(6)が検討されています.
このようなモバイル向けの新サービスに
おいてもIPTVの基盤技術を適用して
いきたいと考えています.
③ビジネス市場に
おけるIPTV活用
ビジネスユーザ
向け市場
(3) ビジネス市 場 におけるI P T V
活用
IPTVは一般のご家庭で楽しむだけ
ではなく,ビジネス市場での利活用も
①IPTVの付加価値
サービス拡充
マスユーザ
向け市場
②モバイルへの
展開,連携
既存IPTV
考えられます.ビジネス市場における
コンテンツ配信には,図3に示すよう
なeラーニングや企業内研修,さらに
はIR向けの情報配信など,BtoBそし
移動
固定
てBtoBtoC市場にてIPTVを適用可能
図2 研究開発の方向性
な領 域 が数 多 くあります. I P T V 標
各地域の教室・自宅など
本部
市販のTV
コンテンツ登録
IP放送 VOD
システム システム
NGN
IP放送(マルチキャスト)
(自宅で)
市販のTV
配信センタ
VOD(ユニキャスト)
標準化された
IPTVプラットフォーム
(教室内で)
図3 ビジネス市場におけるIPTVの活用例
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NTT技術ジャーナル 2009.10
IPTV標準機能を
具備したTV・STBなど
特
集
ITU-T
①国内標準
仕様を提案
②IPTV関連仕様の勧告化
③各国にて展開可能
IPTVフォーラム
通信
事業者
放送
事業者
家電
メーカ
アジアなど
図4 IPTVのグローバル展開
準仕様に基づいた高信頼かつコストパ
我々が現在研究開発を行っている代表
フォーマンスの高いシステムを適用し
的な取り組みとして,「レコメンデー
ていくことでビジネスユーザの期待にも
ションとクロス・デバイス連携を軸と
こたえていきたいと考えています.
したIPTVサービス高度化技術」「BS
そのほかにも,IPTVフォーラムで
デジタル放送のIP再送信技術」
「IPTV
策 定 したI P T V 標 準 仕 様 に基 づいて
技術のモバイルマルチメディア放送へ
ITU-Tへ提案し国際標準として勧告化
の展開」,および「IPTV標準化活動」
する活動を行っており,図4に示すよ
について紹介します.
うに,標準仕様に関する知見と商用運
用に関するノウハウを生かして海外に
おいて現地のパートナーと連携するな
ど,IPTVサービスのグローバル展開を
図ることも可能になると考えています.
このようにNTTグループとして取り
組んでいくべき課題は多種多様である
といえるでしょう.これらの取り組み
を着実に実施していくことで,今後,
標準化されたIPTVプラットフォームを
活用した,さまざまなサービス展開や
他業界などの連携による新たなサービ
スを創出していきたいと考えています.
本特集では,IPTV市場拡大に向けて
■参考文献
(1) 川添・柿沼・羽田・箕浦・皆本・石本:“次
世代ネットワークを利用したプラットフォー
ム・アプリケーション技術,
”NTT技術ジャー
ナル,Vol.19,No.4,pp.44-49,2007.
(2) http://www.iptvforum.jp/
(3) http://www.hikaritv.net/
(4) T. Yamaguchi, T. Kanekiyo, M. Horii, K.
Kawazoe, and F. Kishino:“Highly Efficient
Transmission System for Digital Broadcasting
Redistribution Services over IP Multicast
Networks,”IEEE Transaction on Consumer
Electronics,Vol.54,No.2,pp.920-924,2008.
(5) http://www.nab.or.jp/shinsakai/
(6) 岡村:“マルチメディア放送「ISDB-Tmm」,”
映像情報メディア学会誌,Vol.62,No.5,
pp.692-695,2008.
(上段左から)阿久津 明人/ 大村 弘之/
堀井 統之
(下段左から)川添 雄彦/ 山田 賢二
IPTVの市場拡大に向け,標準化された
IPTVプラットフォームを活用しつつ,IPTV
ならではの特性を活かした魅力的なサービ
スシーンの創出を実現する研究開発を推進
していきます.
◆問い合わせ先
NTTサイバーソリューション研究所
第一推進プロジェクト
TEL 046-859-2513
FAX 046-855-1282
E-mail horii.motoyuki lab.ntt.co.jp
NTT技術ジャーナル 2009.10
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