健全度評価を目的としたグラウンドアンカーリフトオフ試験事例

全地連「技術フォーラム2012」新潟
【83】
健全度評価を目的としたグラウンドアンカーリフトオフ試験事例
㈱東建ジオテック
㈱東建ジオテック
1. はじめに
長谷川
貴志、犬飼
○伊藤
博信
敏文、藤井
貞男
(2) 使用機材
今回の報告では、リフトオフ試験結果から、調査時の
リフトオフ試験で使用するジャッキには、アンカーヘ
地質情報が設計に反映されていないことが確認された事
ッドの形状や、より線の長さに応じて様々なタイプがあ
例について紹介する。
る。また、計測する変位・荷重の記録装置においても、
調査の対象としたのり面には、施工延長約200m、施工
段数5段、アンカー本数212本が施工されていた。
自動で荷重を制御するものや、自動で変位を測定するも
の等、様々な試験器具が考案されている。
当該のり面では、
道路建設時に121本のアンカーが施工
され、完成後の豪雨によりアンカー未施工の上方斜面が
崩壊したため、91本のアンカーが追加施工されている。
2. 対象アンカーの選定
リフトオフ試験の対象とするアンカーの選定は、地す
べりブロックの中心断面のアンカーに加え、調査・設計
時の資料や目視点検により選定した1)。
選定時の主な着目点を以下に示す。
・調査・設計・施工資料
・アンカーの状態(アンカーの飛び出しの有無等)
・アンカー頭部の状態(頭部キャップや支圧板の状態等)
・受圧板・構造物の状態(亀裂・変形・沈下等)
これらの変状の評価としては、変状の程度に応じて、下
図-1 リフトオフ試験模式図
4. 試験結果の解析評価
リフトオフ試験は、緊張治具のなじみや、より線と地
記Ⅰ~Ⅲの3つの評価に区分した。
中の拘束等の影響を取り除く目的で予備載荷実施後に本
Ⅰ:アンカーの健全性に問題があると推測される。
載荷を実施した。
Ⅱ:アンカーの健全性に問題がある可能性が大きいと推
測される。
Ⅲ:アンカーの健全性に影響があると推測される。
評価において、Ⅰが1つ以上、Ⅱが2つ以上、Ⅲが3つ以
上あるアンカーを抽出した。
上記の評価により抽出されたアンカーの中から、変状
内容と配置バランスを考慮し試験対象アンカーを決定し
た。試験数量は、アンカー全数の5%以上または5本以上を
目安とし、
当該のり面では建設時のアンカー7本と追加施
予備載荷時の最大試験荷重は、設計荷重の120%とし
た。設計アンカー力が不明なアンカーについてはアンカ
ー降伏引張り力の90%を最大荷重として採用した。
本載荷
の最大荷重は、原則として予備載荷で確認したリフトオ
フ荷重の110%とした。
試験は初期荷重から試験最大荷重
まで荷重を上げた後、初期荷重まで除荷することを原則
とした。
試験結果は、図-2に示すように荷重-変位の関係をグ
ラフで示した。
工アンカー6本を対象とした。
3. リフトオフ試験
(1) 試験方法
アンカーのリフトオフ試験は「グラウンドアンカーの
試験方法124-2010」2)に従って実施した。
リフトオフ試験の実施箇所においては、現場目視調査
以外に防錆油の充填・変状状況、定着具の腐食状況、再
緊張余長の確認(頭部詳細調査)を事前に実施した。
リフトオフ試験の模式図を図-1に示す。アンカーリフト
オフ試験で計測する項目は、アンカーヘッド部分での変
位及びその時の荷重であり、ダイヤルゲージ及び油圧ユ
ニットのブルドン管にて変位・荷重を計測した。試験終
了後は、試験前と同様に防錆処理を行い復旧した。
図-2 リフトオフ試験結果例 (荷重-変位図)
全地連「技術フォーラム2012」新潟
リフトオフ荷重の算出は、図-2に示すように変位-荷
面では、
切土後のり面の地質状況図面が作成されており、
重グラフを作成した後、荷重載荷初期の傾きが大きい範
残存緊張力の低いアンカーが位置している箇所は、強風
囲の回帰直線と、その後に表れる傾きが緩い範囲の回帰
化の砂岩により構成され、風化の進行により砂岩は砂状
直線の交点の荷重を読み取った。
を呈するとされていた。また、断層破砕帯も確認され、
本来は、地中のアンカー力と引張り力が等しくなった
亀裂の多い状態であったとされることから、のり面が非
瞬間(アンカーヘッドが浮きだす瞬間)の荷重がリフト
常に緩んだ状態であったと推測される。設計アンカー力
オフ荷重である。ところが、管理上この荷重-変位図か
を受圧面積で除し必要な地盤支持力を算出すると、軟岩
ら算出した回帰直線の交点の荷重値をリフトオフ荷重す
の許容支持力に近い地盤支持力が必要である結果となっ
なわち、残存緊張力とした。この残存緊張力と定着時緊
た。当該アンカーは、受圧板背面の支持地盤が断層破砕
張力あるいは設計アンカー力と比較して健全性の判断を
帯の影響や砂岩の風化の進行により支持力が不足し、残
行った。残存緊張力の健全度の目安としては、定着時緊
存緊張力が低下したと判断された。
張力に対して80%以上、かつ設計アンカー力以下であれ
2)アンカー体部グラウト材の付着切れアンカー
ば、健全な状態にあると判断される。また、リフトオフ
追加施工されたアンカーでは、見かけの自由長が設計
荷重以上の荷重-変位量曲線から、
アンカーの見かけの自
自由長より長いものも確認された。健全度の評価上は、
由長や、アンカーの異常の有無を確認するためのデータ
設計自由長の110%内におさまり問題がないと判断され
を得ることができる。見かけの自由長の健全度判定とし
た。ところが、調査時の資料である地質断面図上に見か
ては、設計自由長に対し、80%~110%の長さであれば健全
けの自由長をプロットすると、断層破砕帯の深度と一致
であると判断される。この場合、設計自由長に対し80%
する結果となり、断層破砕帯の影響によりグラウト材の
以下である場合には、自由長部が拘束されていると判断
逸脱や亀裂等が発生し、アンカー体長のグラウト材と地
され、設計自由長に対して110%を超える場合には、アン
盤の間で、付着切れを生じたと推測された。
カー体部のグラウト材の付着切れ等が疑われる。
また、既設のアンカーでは、アンカー体長は断層破砕
5. 現時点での問題点
帯より深い深度に定着されていることが確認された。
(1) 既存資料の不足
6. 調査結果からの今後の対応
1)定着時緊張力が不明
定着時緊張力が不明なアンカーに対しては、再度リフ
試験により確認された残存緊張力は、定着時緊張力も
トオフ試験を実施し、残存緊張力の経年推移を把握する
しくは設計荷重と比較する事によって健全性の判断を行
ことにより、再評価することを提案した。また、残存緊
う。ところが、今回試験を実施した全てのアンカーは、
張力が極端に低いアンカーと、付着切れの懸念されたア
定着時緊張力が不明であり、設計荷重と比較することと
ンカーについては、今後、アンカー頭部や受圧構造物の
なった。このことは、残存緊張力が設計荷重を上回るオ
ほか周辺地盤も合わせて観測を実施することを提案し
ーバーロードとなっている場合には評価できるが、残存
た。
緊張力が設計アンカー力を下回るものについては、評価
7. おわりに
ができない結果となった。
2)地質の状況が不明
当該のり面以外の調査では、調査時の資料が紛失して
おり、のり面の地質状況が不明なものもあった。
「5.現時点での問題点」で紹介した問題点のうち、既存
資料の不足や劣化については、電子納品の導入により、
資料の紛失や図面が不明瞭なことによる問題は解消され
ると言える。一方、地質情報が設計に反映されていない
このことは、残存緊張力の低下が確認されたアンカー
問題については、調査時に得られた地質情報が正しく伝
で、受圧板背面の支持力が推定できないこととなった。
わらず、本来必要であった、初期建設費であるイニシャ
また、みかけの自由長の判定において、自由長部の拘束
ルコストが低く見積もられ、結果としてライフサイクル
が周辺地盤の地質に起因するものなのか否かを判定する
コストが増加してしまった例と考えられる。
ことができない等の問題が生じた。
3)既存資料の劣化
このことは、調査時の報告書内で地質状況や地質の構
造を記載するだけでなく、もう一歩、設計に踏み込んだ
既存資料の不足ではないが、試験を行ったアンカーの
コメントを記載したり、設計者が理解しやすい報告書を
既存資料のなかには、手書きの資料も多く、縮尺が不明
作成することにより、地質情報がライフサイクルコスト
なものや、コピー等によって数字がつぶれ、読み取りに
の低減に活かされると考える。
くいものが多数見受けられた。
《引用・参考文献》
(2) 設計に反映されていない地質情報
1) (独)土木研究所,(社)日本アンカー協会 共編:グラウ
1)残存緊張力の低下したアンカー
追加施工されたアンカーの中に残存緊張力が設計荷重
に対し20%以下の極端に低い値が確認された。当該のり
ンドアンカー維持管理マニュアル,pp.42~43,2008.7.
2)東日本高速道路株式会社:NEXCO 試験方法 第1編土質
関係試験方法,pp.64~67,2010.07.