始まったステロイド性骨粗鬆症対策 まず診断基準を年内に策定へ

リウマチ
最前線
始まったステロイド性骨粗鬆症対策
まず診断基準を年内に策定へ
近畿大学奈良病院整形外科助教授 宗圓 聰氏
ステロイド剤は、強力な抗炎症作用や
塞性肺疾患(COPD)や炎症性腸疾患など
抗アレルギー作用、免疫抑制作用を持ち、 が含まれています。これらの症例のステ
膠原病や関節リウマチ(RA)
、呼吸器疾
ロイド治療歴、骨折歴、骨密度などにつ
患、炎症性疾患などの治療に広く使われ
いて解析しました。
ています。しかし、ステロイドが適応と
まず、全症例での検討では、骨折例
なる疾患は、長期にわたって投与を必要
(58 例)と非骨折例(241 例)の感度、特
異度が交差する腰椎骨密度の値(カット
とすることが多く、副作用対策は臨床的
オフ値)は、0.752g/cm2 でした。女性の
に重要です。特に、ステロイド性骨粗鬆
症については、米国リウマチ学会(ACR) みの解析では、0.741g/cm2 で、これは原
や英国のUK consensusグループなどが、
発性骨粗鬆症の診断基準の0.708g/cm2 よ
その予防や治療のガイドラインを出して
りやや高値となりました。
おり、その対策の必要性は非常に高いと
次にステロイド使用量による解析を行
考えられます。
いました。通常よく用いられる、1 日量
日本骨代謝学会骨粗鬆症診断基準検討
7.5mg 以下と7.5mgを超す例に分けて検
委員会では、ステロイド性骨粗鬆症の診
討しましたが、カットオフ値は7.5mg 以
断基準あるいは予防および治療ガイドラ
下群が 0 . 7 0 8 g / c m 2 、7 . 5 m g 超群が
インを作成する目的で、2 年ほど前に全
0.819g/cm2 となり、ステロイド投与量が
国 7 施設から299 例の症例を集め、骨粗
少ない方がカットオフ値が低く出まし
鬆症と診断する骨密度のカットオフ値の
た。これは、7.5mg 以下群で骨折 49 例、
解析を行い、2000 年の第 18 回日本骨代
非骨折 139 例、7.5mg 超群で骨折 9 例、
謝学会でその結果を報告しました。
非骨折 102 例と、症例数のアンバランス
も一因と思われます。
RAと膠原病は区別して考慮
さらに、RAとRA 以外の疾患に分け
てカットオフ値を求めたところ、RAで
299 例(女性 256 例、男性 43 例)の原
0.689g/cm2、RA 以外で0.804g/cm2 とな
疾患の内訳は、RA130 例、全身性エリ
り、RA 以外の疾患のカットオフ値が原
テマトーデス(SLE)52 例、進行性汎発
発性骨粗鬆症のカットオフ値を大きく上
性強皮症(PSS)14 例、喘息 14 例などで
回りました(図)
。このことから、ステロ
す(表)
。
「その他の疾患」には、慢性閉
イド性骨粗鬆症の診断基準を策定する際
表 症例の疾患別内訳(宗圓氏による)
には、RAとRA 以外の疾患に分ける必
関節リウマチ(RA)
52例
進行性汎発性強皮症(PSS)
14例
喘息
14例
ネフローゼ
11例
リウマチ性多発筋痛症(PMR)
8例
多発性筋炎/皮膚筋炎(PM/DM)
7例
ベーチェット病
6例
特発性血小板減少性紫斑病(ITP)
6例
混合性結合組織病(MCTD)
計
要があることが分かりました。
1000例のデータから基準作成
以上の検討では、症例数が299 例と少
なく、骨折例と非骨折例の年齢差、骨粗
鬆症治療薬の使用の有無、ステロイド使
用期間・総投与量が不明など、問題点も
あり、これ以上の分析は行いませんでし
た。しかし、それまでわが国には、ステ
ロイド性骨粗鬆症の診断基準は全くなか
ったため、学会でデータをもとにその必
要性と基準策定の方向を示したことで、
大きな反響がありました。
こうした動きを受け、日本骨代謝学会
ステロイド性骨粗鬆症診断基準検討小委
員会では、1000 例の症例を集めること
を目標とし、今年の骨代謝学会で中間報
告を行い、年内に診断基準をまとめる予
定です。RA 以外の疾患については領域
も年齢もステロイド投与量も異なるの
で、詳細な分析はその後に行うこととし、
まずは大まかな指針を示します。
ACRの治療指針では、ステロイドを
1 日 5mg、3カ月以上投与する予定の場
合は、ビスフォスフォネート製剤を投与
するなど、RA 治療の中に骨粗鬆症治療
を組み込んでいます。わが国でも、患者
さんの骨折を予防し、ADLを維持・向
上させるRAの治療体系を構築すること
が求められています。
130例
全身性エリテマトーデス(SLE)
その他
1978 年京都大学医学部卒業。
86 年近畿大学整形外科講師、88 年
Harvard Medical School に日本リウ
マチ財団派遣医として留学。99 年近
畿大学医学部奈良病院整形外科、リ
ウマチ科助教授。
5例
図 疾患別にみた骨粗鬆症のカットオフ値の検討(宗圓氏による)
(%)
RA特異度(n=102)
RA感度(n=28)
RA以外特異度(n=139)
RA以外感度(n=30)
100
80
カットオフ値
関節リウマチ
それ以外の疾患
60
40
20
46例
299例
(女性256例、男性43例)
0
0.4
0.5
0.6
0.7
0.8
0.9
1.0
1.1
1.2(g/cm2)
0.689g/cm2
0.804g/cm2