集成材はりのねじり剛性評価 佐藤 英二 1.序論 近年,集成材を用いた大スパン構造物が建てられる ようになってきた。このため,従来木構造においてそ れほど問題にはならなかった横座屈現象を木構造の新 たな限界状態として考慮する必要がある。鉄骨造の場 合と同様に,集成材の横座屈耐力もはりの面外曲げ剛 性とねじり剛性に支配されている 1)2)。このうち,面 外曲げ剛性については,各ラミナの曲げヤング率を用 いてはり全体の剛性を容易に評価できる 3)が,ねじり 剛性に関しては各ラミナと集成材の関係を論じた研究 は行われていない。はり部材の設計段階で横座屈耐力 の評価をするためには,積層させる各ラミナの特性か ら接着後の,はりとしてのねじり剛性を評価できるよ うな手法が不可欠である。 本研究では,集成材の横座屈耐力の評価に必要な各 ラミナのねじり剛性と接着後のはりとしてのねじり剛 性との相関関係を明らかにし,各ラミナのねじり剛性 により定式化することを目的とする。 2 . 集成材はりのねじり理論 集成材のように,力学特性の異なる要素を積層させ た部材のねじり問題では,一様材で成り立つねじりの 基礎方程式を各ラミナについて立て,それを各ラミナ が満足すべき境界条件の下で解く必要がある。 いま,各ラミナ内での材料特性は一様であると仮定 すると,積層断面の場合にも,ねじり成分についての み断面の反り(部材軸方向変位)が生じるので,i 層 ラミナにおけるねじりの弾性基礎方程式は一様材の場 合と同様に下式で表される。 2 ∂ φi ∂x 2 2 + ∂ φi ∂y 2 = 0 (1) ∂φ i + y , τ izy = Giθ a1 θ a m/2 a m/2+1 x am y b 図1 m層集成材 ( m −1 ) / 2 a( m +1) / 2 y = − ∑ am − :m= 奇数 2 1 m τ mzy = 0 y = ∑a m / 2 +1 m :m= 偶数 m a( m +1) / 2 y = + am :m= 奇数 ∑ 2 ( m +3) / 2 (3.b) (3.c) が成り立つ。ここに,m:集成材を構成するラミナの 積層数,b:はり幅,ai:i 層ラミナの厚さである。 さらに, 各ラミナの接着面では部材軸方向変位およ び,せん断応力成分が一致することを考慮し τ izy = τ ( i +1) zy (i = 1 ~ m − 1) (4.a) wi = wi +1 (i = 1 ~ m − 1) (4.b) が成り立つ。ここに,wi=θφi(x,y):i 層ラミナの部材軸 方向変位である。 以上のような境界条件を満たすときの(1)式を解 σ ix = σ iy = σ iz = τ ixy = 0 τ izx = Giθ z ∂φ i −x ∂y (2) ∂x ここに,φi:ねじり関数,σix , σiy , σiz:i 層ラミナの 垂直応力,τixy , τizx , τizy:i 層ラミナのせん断応力,Gi: i 層ラミナのせん断弾性係数,θ:ねじり率である。 また,各ラミナの側面でせん断応力成分 τizx が0とな ること,およびはりの上面と下面でもせん断応力成分 τzy が 0 となることから τ izx = 0 ( x = ± b / 2 ) m/2 τ 1 zy = 0 y = − ∑ am :m= 偶数 1 (3.a) くことで集成材のねじり剛性を求めることができる。 この問題については, (3)式の境界条件の取り扱いを 考慮して φi に代えて導入関数を用い,与えられた境界 条件のもとで得られる未定係数に関する 2m 元 1 次方 程式を解く解法が提示されている 4)5)。そして,集成 材に加えられるねじりモーメントTは,各ラミナの断 面についての積分により求められるので, 集成材のね じり剛性 C (=T/θ) は次式のようになる。 C = 1 θ m ( ) ∑ ∫∫A yτ izx − xτ izy dAi (5) i =1 i ところで, 一般に集成材は外層ラミナと内層ラミナ とで,曲げ剛性の異なるラミナを使うことが多い。こ れは外層に,より剛性の高いラミナを配して,効率的 な断面性能向上を目指したものである。そこで,ここ では,こうした実際の剛性配置のされ方を考慮し,集 成材断面を剛性の異なる3層に分割して評価した場合 の理論解を示す。外層材の厚さをa1,せん断弾性係数 をG 1 ,同様に内層材のそれらをa 2 ,G 2 とすると, (5)式は次のようになる。 C = G1b 4 測定用プレート レーザーポインタ 2 R1 ∞ 128t1 G2 R2 ∞ 64( N − t2 ) (6) −∑ 5 + +∑ 5 G1 3 kn n=0 3 n = 0 kn ここで N= T1 (t1 + t2 ) (G 2 試験体 鏡 2 / G1 + t2 T1 ) , kn = (2 n + 1)π , P Ti = tanh( kn Ri ) ,ti = tanh( kn Ri / 2 ) ,Ri = ai / b である。 3 . 集成材はりのねじり実験および有限要素法解析 前章で示した理論解検証のため, 本研究ではラミナ および集成材のねじり実験と,有限要素法(FEM)に よる数値解析を行った。本章では実験および FEM の 概要と結果について述べる。 図2 ねじり実験装置 35 〃 〃 〃 〃 350 〃 〃 〃 〃 〃 35 〃 〃 〃 〃 350 〃 〃 〃 〃 〃 35 〃 〃 〃 〃 350 〃 〃 〃 〃 〃 3-1 ラミナの曲げ・ねじり実験 3-1-1 試験体概要 材種はベイマツで、剛性をパラメータに2種類の試 82 82 82 験体を用意した。断面はせい 35mm、幅 82mm の矩形 Bタイプ Cタイプ Aタイプ 断面で材長は600cmとした。試験体一覧を表1に示す。 なお,各ラミナの含水率は平均 11.3%,標準偏差 1.14 Ey=140 ∼ 150t/cm2(LA) であり,各ラミナの比重は平均 0.49,標準偏差 0.05 で Ey=80 ∼ 90t/cm2 (LB) あった。 3-1-2 ラミナの曲げ・ねじり実験 図3 集成材断面形状 ラミナの曲げ実験は試験体を単純支持し2点集中荷 2 2 重とし、スパン中央の変位から曲げヤング率を求め 剤の塗布量は300g/m 、圧着圧力は8kg/cm とした。圧 た。スパンは面外曲げでは300cmとし、面内曲げでは 着時間は 12 時間とし、加力後 12 時間の養生期間を設 試験体内に生ずるせん断力の影響を見るため、210、 けた。試験体は図 3 のように,剛性の異なるラミナを 300、450cm の 3 点で計測した。ラミナのねじり実験 積層した A,B,C タイプの 3 種類を作成した。 は図2のようにラミナの一端を固定し他端にプレート 3-2-2 集成材の曲げ・ねじり実験 を取り付け、 プレートの端部に荷重を加えねじりモー 集成材の曲げ実験はラミナの曲げ実験同様に行っ メントを生じさせた。変位の測定は、固定端から 10、 た。スパンは面内曲げでは 420,480,540cm とし、 100、200、300、400、490cm の位置に鏡を取り付け、 面外曲げでも 420,480,540cm の各 3 点で計測した。 レーザーポインタから射出された光を反射させ、 試験 集成材のねじり実験もラミナのねじり実験同様に 体上部に設置した目盛り入りプレートに光をあて、 そ 行った。 の変位を測定した。 表1 ラミナ・集成材試験体一覧 3-2 集成材の曲げ・ねじり実験 集成材試験体名 ラミナ試験体名 面外曲げヤング率Ey(t/cm2) 断面形状(mm) 材長(cm) 3-2-1 試験体概要 LA-1-1∼6 140∼150 A-1 ラミナのねじり実験終 LB-1-1∼4 80∼90 LA-2-1∼6 140∼150 了後、ラミナを10層張り合 A-2 LB-2-1∼4 80∼90 わせて、集成材を作成し LA-3-1∼6 140∼150 A-3 LB-3-1∼4 80∼90 た。接着材にはディア 600 35×82 B-1 LA-4-1∼10 ノール 35 号を使用し、硬 B-2 LA-5-1∼10 140∼150 B-3 LA-6-1∼10 化剤, Hot-p-2 号を混ぜ C-1 LB-7-1∼10 C-2 LB-8-1∼10 80∼90 合わせ十分に攪拌した後、 C-3 LB-9-1∼10 ハケ等で塗布した。接着 12.0 8.0 例数 6.0 4.0 2.0 0.0 6.0 7.0 8.0 9.0 2 Gi (t/cm ) 10.0 図5 Gi ヒストグラム 4.0 3.5 Gex (t/cm2) T(t×cm) 3.0 2 G (t/cm ) 例数 平均 7.84 標準偏差 0.75 10.0 Gi (t/cm2) 3-3 実験結果 12.0 ラミナの曲げ・ねじり実験結 10.0 果より得られた Eiy と Gi を図 4 に 8.0 示す。これより,Ey とGに相関が ないことが分かる。また図 5,図 6.0 6はEiy,Gi をそれぞれヒストグラ 4.0 ムで表示したものである。Gi は 2.0 ばらつきが少ないが,外層ラミ ナEiyは平均126.8,標準偏差11.3, 0.0 0.0 40.0 80.0 120.0 160.0 2 内層ラミナ Eiy は平均 73.8,標準 Eiy (t/cm ) 偏差 6.7。さらに,図 7 に A-1 を 図4 Eiy - Gi 散布図 例に,実験で加えたねじりモー 12.0 メント T と各計測点におけるね 10.0 じり角 α との関係を示す。また、 平均 126.8 平均 73.8 標準偏差 11.3 標準偏差 6.7 図 8 に A-1 を例に,T を負荷した 8.0 場合の各計測点でのねじり率 θ 6.0 と各計測点xとの関係を示す。ね 4.0 じり率は各計測点においてほぼ 均等であるので、これらの数値 2.0 を平均することでねじり剛性を 0.0 求めた。 60.0 80.0 100.0 120.0 140.0 160.0 2 Ei y (t/cm ) 3-4 考察 2 章での理論解と実験結果と 図6 Eiy ヒストグラム θ の対応を考察する。 (6)式に ai, T=0.89(t×cm) T=2.71(t×cm) b 及びラミナのねじり実験から 0.00012 T=1.73(t×cm) T=3.14(t×cm) T=2.23(t×cm) T=3.60(t×cm) 得られた Gi.ex を代入し得られる 0.00010 Gth=(C/J) と,集成材ねじり実験 0.00008 から得られた G ex を比較すると 図9のようになる。これをみると 0.00006 多少のばらつきはあるものの, 0.00004 良い対応を示していることが分 0.00002 かる。 0.00000 3-5 FEMによる解析 0 100 200 300 400 500 x (cm) 実験で不足している範囲の 図8 x - θ 関係(A-1) データを補うため,ここでは有 限要素法(FEM)を用いた集成材のねじり解析を行い,前節までに得ら れたGex , Gthとの対応を検討する。解析対象とする梁の形状は,ねじ り実験と同様に幅 b=8.2cm,せい h=35cm,材長 L=500cmとし,材料特 性は3次元異方性を考慮した完全弾性体で定義した。各ラミナの曲げ及 びせん断弾性係数には,実験で得られた Eiy 及び Giex を用いた。使用し た要素は,3D Anisotropic Solid要素であり,節点数は幅方向に3,せい 方向に11,材長方向に51,ポアソン比υ=0.49とした。はりの一端を固定し 他端にねじりモーメントを加えて解析を行い,FEMによる解析値GFEMを 求めた。図10は,外層材の厚さa1=10.5cm,せん断弾性係数G1=0.08∼ 800t/cm2,G2=8.0t/cm2としたとき,G1の変化による集成材のねじり剛性 の変化をみたものである。なお,図中には(6)式の結果から得られる Gthと実験結果も併せてプロットした。 Gthと GFEM は実験値近傍に限ら ず,全般に渡りよい対応を示しており,2章で示した理論解は各ラミナ のせん断剛性比率に関わらずはりのねじり剛性を評価できる。 2.5 2.0 α1(L=10cm) α2(L=100cm) α3(L=200cm) α4(L=300cm) α5(L=400cm) α6(L=500cm) 1.5 1.0 0.5 0.0 0.0 0.010 0.020 0.030 0.040 0.050 α(1/cm) 図7 α -T 関係(A-1) 10.0 9.0 8.0 Aタイプ Bタイプ Cタイプ 7.0 6.0 6.0 7.0 8.0 9.0 Gth (t/cm2) 10.0 図9 Gth-Gex 関係 30.0 20.0 GFEM Gth Gex 10.0 2 G2=8.0 (t/cm ) a1=10.5 (cm) 0.0 0.0 10.0 20.0 2 G1 (t/cm ) 図10 G1 - G 関係 30.0 2.00 Gex/G2(r=0.6) GFEM/G2(r=0.6) G1 a1 G2 a2 G1 a1 1.50 Gth/G2(r=0.4) 12.0 Case.2 10-1 100 r =2a1/(2a1+a2) 101 102 10.0 9.0 8.0 1.00 10-1 Case.1 11.0 2 Gth/G2(r=0.6) Gth/G2(r=0.8) 100 10-2 10-2 ar(r=0.2) ar(r=0.4) Gth/G2(r=0.8) ar(r=0.6) ar(r=0.8) Gth/G2(r=0.6) Gex/G2(r=0.6) 2.50 G (t/cm ) G/G2 101 Gth/G2(r=0.2) Gth/G2(r=0.4) G/G2 102 7.0 Gth/G2(r=0.2) 0.50 0.50 1.00 ρ=G1/G2 1.50 ρ=G1/G2 2.00 2.50 6.0 6.0 m=10の場合 7.0 8.0 9.0 10.0 11.0 GFEM (t/cm2) 12.0 図11 ρ -G/G2 関係 図12 ρ -Gth/G2 関係(0.4<ρ<2.5) 図13 GFEM - G 関係 4.集成材はりのねじり剛性評価 る。そこで,m枚のラミナで構成されたはりのねじり 前章までの実験および解析結果に基づき,本章では 剛性評価式が,より一般的な形で次式のように求め 集成材のねじり剛性評価式の提示を試みる。 られると仮定する。 m t 図11は, G1と G2の比率 ρ と,(6)式から計算さ G = ∑k ⋅G i (11) i i h れるねじりに関わるせん断弾性係数 Gthの関係を,外 1 層材の面積がはりの全断面積に占める割合 r (=2a 1/ ここに ki は i 層ラミナのねじり剛性がはり全体のねじ (2a 1+a 2))をパラメータとして示したものである。な り剛性に与える影響を考慮する係数で,最外層では お,縦軸は Gを内層材の G2で無次元化し,実験値と (10)式の 0.854 に相当する。 (11)式の妥当性を検証する FEM解析値も併せてプロットした。はりのねじり剛性 ため,10層のラミナからなる集成材に対し4.0∼12.0t/ は,内層材と外層材の各Gとその配置で決まるため, cm2 の範囲で発生させた一様乱数に応じたGi を各ラミ ρ が1から離れるに従ってr による影響が大きくなっ ナに与え,(10)式から求められるG と,FEM 解析で求 ている。また, Gthは ρ=1.0付近ではGth はほぼ直線と められるねじり剛性に対応したGFEMの関係を示したも なった。 のが図13である。なお,ここではki はねじり中心から ところで, 日本農林規格に基づき予測されるラミナ の距離に比例するとし,k1=k10=0.854,k5=k6=1.146とし の配置は,樹種 A 郡 1 級のラミナを外層に配し,樹種 各 k i を算出した場合(Case.1)及び全ての k i を 1.0 F郡4級のラミナを内層に配した場合であり,E1=200t/ (Case.2)としたもので計算を行った。Case.1,Case.2 cm2,E2=80t/cm2 となり,E1/E2=2.5 となる。そこで,こ に大きな差は見られなかった。したがって(11)式にお れを現実に起こりうる剛性比率の最大値と見なし, 図 けるki=1.0で各試験体のGを十分な精度で評価できる 11 の結果を考慮して,0.40 < ρ < 2.50 の範囲で ρ と といえる。 G/G2 の関係を示したものが図12である。この範囲で 5. 結論 は ρ と G/G2 はほぼ線形関係にあることから,これら 1)集成材のねじり剛性に関する理論的な展開を行 の直線の傾きを ar(各 r における傾き)とする。そし い,ラミナの剛性を外層と内層に大別できる場合 て ar を r=0.2,0.4,0.6,0.8 の場合について線形回帰 の理論解を提示した。 すると,ar は r の関数として次式のようになる。 2)実験および有限要素法解析を行い,理論解と比較 are = 0.854 r (8) することによりそれらの妥当性を検証した。 この ar を用い,ρ と G/G2 の関係を(1,1)を通る直線で 3)現実的に使用される集成材のねじり剛性の範囲を 表すと 考慮し,ねじり剛性評価のためのせん断弾性係数 G / G2 = are ( ρ − 1.0 ) + 1.0 (9) を各ラミナのせん断弾性係数から評価する式を簡 となる。上式を図 12 中に実線で示した。理論解との 便な形で提示した。 < 参考文献 > 対応は良く, 集成材としての現実的な範囲でのねじり 1)R. F. Hooley,B. Madsen:Lateral Stability of Glued Laminated 剛性は(9)式を用いて近似できる。 Beams, ASCE, Vol. 90, 1964 ところで, (9)式に(8)式及び ρ=G1 /G2 を代入し 2)長谷部 薫,他: 集成木材はりの横座屈解析と実験,構造工学 論文集,1992 整理すると次のようになる。 3)林 知行:確率モデルによる集成加工材料の性能予測(第 1 報) G = 0.854 rG1 + (1.0 − 0.854 r )G2 (10) (10)式は,集成材としてのねじり剛性に関わるせん断 弾性係数Gは,外層と内層の各せん断弾性係数G1 ,G2 を 0.854r:(1-0.854r) の比率で平均することを示してい MOE の分布,木材学会誌,35 巻,1989 4)出羽 宏視:ねじりをうける非対称 3 層ばりのねじり応力およ び剛性に関する数値解析,日本機械学会論文集(C 編),1990 5)出羽 宏視:粘弾性層をもつ五層く形棒のねじり応力および制 振特性,日本機械学会論文集(A 編),1991 6)(株)日本エムエスシー:Nastran(プリポスト一体型汎用構造 解析プログラム),第 4.4 版,1995
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