平成 21 年度 日本大学文理学部個人研究費研究実績報告書 物理学科・教授・久保 康則 研 究 課 題 量子臨界点近傍の電子状態の研究 研究目的 および 報 研究概要 告 の 概 研 究 要 の 結 果 研 究 の 考 察 ・ 反 省 フェルミ準位近傍に位置する局在寸前の 4f 電子と伝導電子が混成し,4f 電子間の 電子相関が強くても,f 電子はこの伝導電子との混成を介して遍歴することが出 来,金属に止まる。一方,f 電子の大部分はフェルミ準位に位置し,重い電子を 発現する。その基本的なシナリオは周期的アンダーソンモデル等の視点で説明 され,RKKY 相互作用と近藤効果の拮抗が鍵になっている。代表的な物質群とし て Ce 化合物系が多く研究され,その重い電子の起源は基本的なシナリオにより 理解されている。一連の化合物 YbT2Zn20(T=Fe,Co,Ru,Rh,Os,Ir)は,比熱係数γ が 500(mJ/mol/K2)以上で,T=Co の場合はγ=7900 (mJ/mol/K2)と非常に大きく注 目を集めていて,T=Co,Ir については低温でのド・ファ-スファン・アルフェン 効果(dHvA)の磁場依存,低温での磁化測定,磁気抵抗の測定から量子臨界性 を示す電子系として注目を集めている。これらの物質の電子状態を第一原理計 算により求め,実験で得られた結果との対応を探る。 重い電子系 YbT2Zn20(T=Fe,Co,Ru,Rh,Os,Ir)の価電子として f-電子を含まない Y, f-電子が完全に局在している Lu で置き換えた電子系を第一原理計算により評価 し,f-電子状態の生成には T 原子に依存した参照系の電子状態の特徴が重要であ る事が明らかになった。すなわち,T=Fe, Ru, Os の系では,T-原子に起因する d電子状態の密な領域に f-電子状態を形成し,d-電子状態を排除し,一方,T=Co, Rh, Ir の系では,T-原子に起因する d-電子状態の粗な領域に f-電子状態を形成し,d電子状態が引き込まれる。このことが,T=Fe, Ru, Os の系に比べて T=Co, Rh, Ir の系の f-電子状態がフェルミエネルギ-準位に接近して存在できる主要な原因で あることが明らかにされた。この結果により,上述した低温の実験で見いだされ た帯磁率,電気抵抗,比熱の振る舞いの T 原子に依存した振る舞いが理解される。 量子臨界性を示す電子系 YbT2Zn20(T=Fe,Co,Ru,Rh,Os,Ir)の第一原理計算から, この系の f-電子状態の特徴を洗い出すことができ,f-電子がどのような形で遍歴的 な顔をのぞかせるのかを指摘することができた。この方向をさらに進め多体効果 の中(例えばアンダーソンモデル)で,どのような展開が見られるか探る。 ※この欄は,本報告書提出時点で判明している事項についてご記入ください。 研究発表 学会名 発表テーマ 年月日/場所 研究成果物 テーマ 誌名 巻・号 発行年月日 発行所・者 日本物理学会 2009 年 秋季大会 9 月 25 日 / 熊本大学 “CeRu2Si2 における近藤温度前後での電子占有数密度の比較” “重い電子系 YbT2Zn20(T=Fe,Co,Ru,Rh,Os,Ir)の電子状態 II” 日本物理学会 2010 年 年次大会 3 月 21 日,23 日 / 岡山大学 “RT2Zn20,(R=Y,Yb,Lu),(T=Fe,Co,Ru,Rh,Os,Ir)の電子状態の研究” “YbIr2Zn20 とその関連物質のドハース・ファンアルフェン効果” “Heavy Fermion State in YbIr2Zn20”, Journal Physical Society of Japan, Vol.78, No.12, December (2009) pp.123711-123714
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