籾殻灰のコンクリート材料への再資源化 Application of Rice Husk Ash to Concrete Materials 石黒 覚 Satoru ISHIGURO 1.はじめに 農業副産物である籾殻は,籾質量の約 20%を占め,世界の稲作地域におい ては毎年多量に排出されている。国内では施設園芸などの暖房熱源,暗渠排水の疎水材, 畜舎内の敷材,および,燻炭として土壌改良材など,主に農業分野において利用されてい るほか,野焼きなどの方法で焼却処理されたり,圃場内に廃棄されたりしている。籾殻を 焼却処理した場合,籾殻乾燥質量の約 17%の灰が発生する。この灰は,質量で約 90%の二 酸化けい素( SiO 2 )を含んでおり,この含有率はフライアッシュよりも多く,シリカフュ ームの含有率に匹敵する。その成分組成ならびにポゾラン効果に着目し,1970 年代後半か ら国内外でコンクリート用混和材としての研究が進められてきた 1,2) 。本発表では,コンク リート用混和材としての籾殻灰の再資源化について,既往の文献資料に基づいて報告する。 2.籾殻灰の品質 籾殻灰(Rice Husk Ash:RHA とも記す)は,籾殻を炉などで燃焼させ て製造し,その後,ボールミルなどで粉砕したものである。籾殻灰の品質は産地や製造方 法 ( 燃 焼 方 法 , 燃 焼 温 度 お よ び 時 間 ) な ど の 影 響 を 受 け る た め , 1) 強 熱 減 量 , 2) 化 学 成分,3)物理的性質の各項目について品質の確認をしている事例が多い。Table 1 は 文 献 3) か ら 引 用 し た 品 質 事 例 で あ り , コ ン ク リ ー ト 関 連 の 35 文 献 資 料 に 示 さ れ た 籾 殻 灰 の 品 質( 最 小 ,最 大 ,平 均 値 )を 示 し て い る 。こ れ に よ る と ,平 均 で は 強熱減量が 3.5%,SiO 2 は 92.3%,密度 2.16g/cm 3 ,BET 法の窒素ガス吸着法で求めた比表面積は 43.8m 2 /g,平均 粒径 D50 は 8.3μm,電気伝導率差(ポゾラン活性の目安とされる指標で,この値が 1.2 以 上の場合ポゾラン活性は良好と判定される)の値は 2.92mS/cm となっている。 Table 1 籾 殻 灰 の 特 性 3) Properties of rice husk ash 平均 粒径 (μ m) 電気伝 導率差 (mS/cm) Ig-loss SiO2 CaO Al 2 O 3 Fe 2 O 3 MgO Na 2 O K2O (g/cm3) 比表 面積 (m 2 /g) 最小 0.5 82.5 0.1 0.0 0.0 0.1 0.00 0.01 2.06 1.0 5.2 0.91 最大 9.7 97.7 2.3 2.1 1.2 1.0 1.12 3.68 2.27 122.8 16.4 4.50 平均 3.5 92.3 0.6 0.5 0.3 0.4 0.23 1.67 2.16 43.8 8.3 2.92 密度 化 学 成 分 (%) 3.籾殻灰を用いる場合のコンクリートの配合 籾 殻 灰 を 用 い る 場 合 ,コ ン ク リ ー ト 材 料 と し て 普 通 ポ ル ト ラ ン ド セ メ ン ト お よ び 普 通 骨 材 な ど が 一 般 的 に 用 い ら れ て い る 。ま た , 混 和 剤 と し て 高 性 能 AE 減 水 剤 が 多 く 用 い ら れ て お り , 必 要 な 混 和 剤 量 は 籾 殻 灰 の 混 入 率 の 増 加 に 伴 っ て 増 大 す る 傾 向 に あ る 。文 献 資 料 で は 籾 殻 灰 混 入 率 50% 以 上 の 研 究 報 告 も み ら れ る が ,一 般 的 に は 混 入 率 30% 程 度 ま で の 研 究 事 例 が 多 い 。実 用 的 に 用 い る 場 合 , 品 質 改 善 , 混 入 率 と 混 和 剤 量 の 関 係 な ど か ら 30% 以 下 の 混 入 率 が 適 切 と 考 え ら れ る 。 三 重 大 学 大 学 院 生 物 資 源 学 研 究 科 , Graduate School of Bioresources, Mie University, 農 業 副 産 物 , 籾殻灰,コンクリート用混和材 4.籾殻灰を混入したコンクリートの性状 籾殻灰を混 入 し た コ ン ク リ ー ト の フ レ ッ シ ュ 性 状 と し て ,1)粘 性 が 増 大 す る 傾 向 が あ る ,2)ブ リ ー デ ィ ン グ の 抑 制 効 果 が あ る ,3)凝 結 への影響は実用上少ない,などの結果が報告されている 3) 。一方,硬化後のコンクリー ト の 強 度 特 性 に つ い て , 1)圧 縮 強 度 は 混 入 率 の 増 加 に 伴 っ て 増 加 す る が , ポ ゾ ラ ン 活 性 度によっては初期材齢において低下する場合もある。また,最大強度を示す混入率が存 在 す る 報 告 例 も あ る 。 2)引 張 ・ 曲 げ 強 度 は 無 混 入 コ ン ク リ ー ト と 同 等 以 上 に な る 。 3)弾 性係数は同一強度の場合には少し低下する傾向がある。 圧 縮 強 度 以 外 の 特 性 に つ い て , 1)コ ン ク リ ー ト の 断 熱 温 度 上 昇 量 は 籾 殻 灰 を 混 入 す る こ と に よ り 小 さ く な り ,圧 縮 強 度 も 同 等 以 上 に な る の で 有 効 で あ る と の 報 告 が あ る 。 2) ア ル カ リ 骨 材 反 応 の 抑 制 効 果 は ,他 の 混 和 材 に 比 べ て 同 等 以 上 の 効 果 を 有 し て い る 。Fig. 1 は モ ル タ ル バ ー 法 に よ る 試 験 結 果 の 例 を 示 し て い る 。こ れ に よ る と ,籾 殻 灰 を 10 お よ び 15%混 入 し た 場 合 (RH10F お よ び RH15F), 無 混 入 (BA)に 比 べ て 抑 制 効 果 が 顕 著 に 現 れ て い る 。3)乾 燥 収 縮 は 無 混 入 に 比 較 し て 同 等 以 下 ,あ る い は 増 大 す る と い う 報 告 が あ る 。 これは,使用材料,配合条件の影響によると考えられ,籾殻灰の混入の影響は明確では な い 。 4)中 性 化 は 籾 殻 灰 の 混 入 に よ り 増 大 す る 場 合 と 同 等 で あ る と い う 報 告 が あ る 。 こ れは組織を緻密にして中性化を抑制する作用と水酸化カルシウムを消費して促進させる 作 用 の 各 影 響 の 大 小 が 関 係 す る 。Fig. 2 は 混 入 率 0,10,20,30% の 中 性 化 試 験 結 果 の 例 で あ る 。5)凍 結 融 解 抵 抗 性 に 関 し て は 無 混 入 に 比 べ て 同 等 以 上 と な る 。6)塩 化 物 浸 透 抑 制 ,水 密性および耐酸性に関する報告は少ないが,一般的に籾殻灰の混入によって向上する。 30 0.3 0.2 0.1 :BA :RH 5 F :RH 1 0 F :RH 1 5 F 0 -0.1 0 1 2 Age ( years ) Fig.1 ア ル カ リ 骨 材 反 応 の 膨 張 抑 制 効 果 4) Effect of the added percentage of RHA on expansion caused by reactive andesite 5.おわりに Depth o f carbonation (mm) Exp ansion (%) 0.4 :BA-A :RH10A :RH20A :RH30A 20 W/B :60% 10 0 0 10 20 30 40 50 Elapsed tim e (d ays) 60 Fig. 2 コ ン ク リ ー ト の 中 性 化 特 性 5) Carbonated depth of concrete with different RHA content 籾殻灰の研究はポゾラン活性を期待したコンクリート物性の改善が中心と なっている。籾殻灰の品質は産地や製造条件によって大きく異なるものであり,現時点で は実用化に向けたデータ蓄積や施工実績が十分とは言えない。今後,製 造 設 備 ,安 定 供 給 , 品 質 管 理 お よ び 経 済 性 な ど , 実用化に向けて総 合 的 な 検 討 が 必 要 で あ る 。 参考文献:1) Mehta,P.K.:Properties of blended cements made made from rice husk ash, ACI Journal, 74(9), 440-442 (1976),2) Yamamoto,Y. and Lakho,S.M.:Production and utilization of active rice husk ash as a substitute for cement, Proc. of JSCE, 32,157-166 (1982),3)日本コンクリート工学協会:廃 棄物のコンクリート材料への再資源化研究委員会報告書ー無機系廃棄物等の適用(籾殻灰)ー , 137-151.(2003),4)石黒覚:籾殻灰および天然ゼオライトの混入によるアルカリ骨材反応の膨張 抑制効果,農業土木学会論文集,No.232, 99-103(2004),5)石黒覚:コンクリートの耐久性に及 ぼ す 籾 殻 灰 の 混 入 の 影 響 , 農 業 土 木 学 会 論 文 集 , No.238, 97-105(2005)
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