2005 年石炭灰有効利用シンポジウム 【講演Ⅴ】 石炭灰の溶融化技術に関する研究 石川 嘉崇 電源開発㈱ 技術開発センター 茅ヶ崎研究所 リサイクル研究室 課長 1. は じ め に 石 炭 は ,燃 焼 の 際 の 二 酸 化 炭 素 の 排 出 量 が 大 き い こ と が 懸 念 さ れ る が ,豊 富 な 埋 蔵 量 を も ち ,安 定 供 給 が 見 込 め ,か つ 経 済 性 に 優 れ て い る た め ,現 在 も エ ネ ル ギ ー の 重 要 な 柱 と な っ て お り ,電 力 業 界 を 中 心 に 使 用 量 が 増 加 し て い る 。現 在 日 本 で は , 石 炭 火 力 発 電 所 の 副 産 物 で あ る 石 炭 灰 の 年 間 発 生 量 は , 約 1000万 tに 達 す る と 推 定 さ れ て お り ,今 後 の 石 炭 火 力 発 電 所 の 新 設・増 設 に よ り そ の 発 生 量 は さらに増大することが見込まれている。 こ の う ち の 約 80% は セ メ ン ト 関 係 を 中 心 に 再 利 用 さ れ て い る も の の , 残 り の 2 0% に あ た る 約 150万 ト ン の 石 炭 灰 が 管 理 型 産 業 廃 棄 物 と し て 埋 め 立 て 処 理 さ れ ている。 一 方 ,1991 年 に 施 行 さ れ た「 再 生 資 源 の 利 用 の 促 進 に 関 す る 法 律( 通 称:再 生 資 源 利 用 促 進 法 )」に よ り ,石 炭 灰 は 再 生 資 源 と し て 利 用 で き る よ う に 品 質 な ど を 工 夫 す べ き 副 産 物( 指 定 副 産 物 )と し て 政 令 で 指 定 さ れ た 。更 に ,2000 年 6 月 に 「循環型社会形成推進基本法」が施行され,廃棄物の排出抑制,資源の循環に関 する社会的風潮が高まっている。 石炭灰を有効利用していく上では,処理コストの低減及び微量重金属溶出等の 環境問題の解決が必須条件である。また,石炭灰処分場は環境面から建設の制約 を受け,現状瀬戸内地域をはじめとして石炭灰処分場の新設,増設が認められな いところが多くなってきており,既設処分場の延命が求められている。 本報告で述べる「石炭灰の溶融化技術に関する研究」は,石炭灰を溶融するこ とで減容化,無害化し,環境上安全に石炭灰利用拡大を図ろうとする技術研究開 発であり,燃料として安価な石炭の使用,石炭灰を溶融する際の排ガスを再利用 することによる省エネルギー化も目指している。具体的には,石炭灰の溶融化技 術は,石炭灰を高温溶融させ水砕してスラグ化する技術と,石炭灰の高温溶融物 を遠心力や圧縮空気により吹き飛ばし無機繊維化する技術であり,灰捨て場に廃 棄する石炭灰までを溶融し利用することを可能とするものである。 2. 石 炭 灰 ( 石 炭 ) 溶 融 発 電 シ ス テ ム に つ い て 表-1 に石炭灰(石炭)溶融発電システムの比較を示す。微粉炭ボイラに灰溶 融炉を設置するケース,サイクロンボイラを導入するケース,スラグタップボイ 講-V-1 2005 年石炭灰有効利用シンポジウム ラ を 導 入 す る ケ ー ス ,IGCC(石 炭 ガ ス 化 複 合 発 電 )を 導 入 す る ケ ー ス の 4 方 式 が 考 えられる。 微粉炭ボイラに灰溶融炉を設置するケースでは,微粉炭ボイラの脇に灰溶融炉を 設置し,微粉炭ボイラの排ガス処理系の集塵器で回収した石炭灰を投入し,溶融 スラグ化する。また灰溶融炉の排ガス処理に,既設ボイラの排ガス処理系統を使 用する。サイクロンボイラを使用するケースは,燃料となる石炭をサイクロンフ ァーネスに投入して灰の大部分を溶融し,ボイラで熱回収するものである。スラ グタップボイラを使用するケースは,ドイツ等では実績があり,スラグタップフ ァ ー ネ ス と ボ イ ラ を U字 型 に 接 続 す る こ と が 特 徴 で あ る 。 燃 料 と な る 石 炭 を ス ラ グタップファーネスに投入して灰の大部分を溶融し,この底部にて溶融スラグを 回 収 す る 。IGCCは ,石 炭 ガ ス 化 炉 に お い て 石 炭 を 部 分 燃 焼 さ せ て COや H 2 と い っ た 可 燃 ガ ス を 回 収 し ,こ れ と 同 時 に 石 炭 中 の 灰 分 を 溶 融 ス ラ グ 化 す る も の で あ る 。 さ ら に 回 収 し た COや H 2 を 燃 料 と し て , ガ ス タ ー ビ ン と 蒸 気 タ ー ビ ン を 駆 動 さ せ ることで複合発電する。 表-1 石炭灰(石炭)溶融発電システムの概要 日 本 に お い て は ,ご み 発 電 等 で は 溶 融 炉 が 用 い ら れ て は い る が ,石 炭 火 力 に つ い て は 微 粉 炭 ボ イ ラ( 乾 式 ボ イ ラ )が 主 流 で あ る 。今 後 は ,増 大 す る 石 炭 灰 の 処 理 に 対 応 す る た め ,こ れ ら の 石 炭 灰( 石 炭 )溶 融 発 電 シ ス テ ム を 積 極 的 に 取 り 入 れ て い く こ と も 一 方 策 と 考 え ら れ る 。た だ し ,溶 融 化 に 用 い る 石 炭 灰( 石 炭 )の 成 分 お よ び 炉 の 溶 融 条 件 に よ り ,製 造 さ れ る 石 炭 灰( 石 炭 )溶 融 ス ラ グ と 石 炭 灰 溶 融 繊 維 の 性 状 は 変 化 す る た め 、こ れ ら の 条 件 を 適 切 に 制 御 し て ゆ く こ と が 重 要 な課題となる。 以 下 に 、本 研 究 で 得 ら れ た 石 炭 灰( 石 炭 )溶 融 ス ラ グ と 石 炭 灰 溶 融 繊 維 に つ い てその概要を報告する。 講-V-2 2005 年石炭灰有効利用シンポジウム 3. 石 炭 灰 ( 石 炭 ) 溶 融 ス ラ グ に つ い て 本報告ではスラグタップボイラおよび灰溶融炉方式の2種類の方法で製造され た灰溶融スラグを用いた。スラグはガラス質でやや粗く,形状も角張っているの で,磨砕整粒を行い,粒度分布を整えた上でコンクリート用骨材への適用性を検 討した。 3.1 コンクリート用骨材としての性能 図-1 に磨砕前後のスラグの状況を示す。コンクリート用骨材への適用性を検 討するために密度,吸水率,粒度,微粒分量,粒形判定実積率,安定性,アルカ リ シ リ カ 反 応 性 , お よ び 40t 破 砕 値 等 の コ ン ク リ ー ト 骨 材 と し て の 物 性 試 験 及 び 有害物質の溶出,成分分析等の化学試験を行った。表-2 に試験結果を示す。磨 砕整粒後の灰溶融スラグの物性値はコンクリート用骨材に関する各種規格を満足 しており,有害物質の溶出がないことなどからコンクリート用細骨材として十分 な品質を有していることが確認された。 磨砕前 図-1 磨砕後 石炭灰溶融スラグ(スラグタップボイラ) 講-V-3 2005 年石炭灰有効利用シンポジウム 表-2 コンクリート用骨材に関する試験結果 ス ラ グ ST 磨 砕 磨 砕 整 粒 前 整 粒 後 試 験 項 目 絶 乾 密 度 ( g / c m 3) 吸 水 率 (%) 微 粒 分 量 (%) 安 定 性 (%) 粒 形 判 定 実 積 率 (%) ア ル カ リ シ リ カ 反 応 性 (化 学 法 ) 40t 規 格 値 (JISA5005) 2.53 2.63 2.45 2.63 2.5以 上 1.25 0.11 1.15 0.3 3.0以 下 0.53 0.99 0.45 5.2 7.0以 下 3.5 2.1 2.2 1.8 10以 下 52 58 55 60 53以 上 害 - - 28.4 - - 無 破 砕 値 (% ) ス ラ グ YB 磨 砕 磨 砕 整 粒 前 整 粒 後 害 - 25.8 - 無 注 ) ス ラ グ ST:ス ラ グ タ ッ プ ボ イ ラ に よ る ス ラ グ ス ラ グ YB:灰 溶 融 炉 方 式 に よ る ス ラ グ 3.2 灰溶融スラグを用いたコンクリートの性能 磨砕整粒し粒度調整を行った石炭灰溶融化スラグを細骨材(砂)の一部に用い た数種類のコンクリートについて,フレッシュコンクリート試験及び硬化コンク リート試験を行い,その適用性について検討した。 コンクリート打設時のブリーディング量(コンクリート表面の浮き水量)はス ラグ置換率が高いほど大きくなる傾向を示したものの,コンクリートの品質目標 を満足する結果であった。また,硬化コンクリートの圧縮強度と細骨材中のスラ グ置換率との関係は,いずれのケースにおいてもスラグ置換率が大きいほど強度 が若干高くなる傾向が見られた。 60 W/C=40%,SL=18cm 圧縮強度(N/mm 2 ) 55 50 W/C=50%,SL=8cm 45 W/C=50%,SL=18cm 40 W/C=60%,SL=18cm 35 30 -20 0 図-2 20 40 60 80 スラグ置換率(%) スラグ置換率と圧縮強度の関係 講-V-4 100 120 2005 年石炭灰有効利用シンポジウム 3.3 コンクリート二次製品への実応用 実 際 の コ ン ク リ ー ト 二 次 製 品 工 場 で ,灰 溶 融 ス ラ グ を 用 い て 二 次 製 品 を 製 作 し , コ ン ク リ ー ト 打 設 の 作 業 性 お よ び そ の 品 質 を 確 認 し た 。JIS A 5372:2000「 プ レ キャスト鉄筋コンクリート製品」に規定された「道路用上ぶた式U字形側溝」を 試 作 し た 。試 作 ケ ー ス と し て は ,細 骨 材 の 50% を 灰 溶 融 ス ラ グ 細 骨 材 で 置 換 し た 。 コンクリート製造工程上は,通常のものと差がなく,また出来上がった製品は, JIS規格値を充分満足しコンクリート 2 次製品材料として十分適用可能である ことが確認できた。 図-3 脱型後の二次製品の外観 4. 石 炭 灰 溶 融 繊 維 に つ い て CaCO 3 を , CaO に 換 算 し て 石 炭 灰 と CaOの 合 計 重 量 の 約 30% 添 加 し て , 試 作 し た 石 炭 灰 溶 融 繊 維( 図 - 4)に つ い て ,そ の 基 本 的 な 特 徴 お よ び 他 の 繊 維 と の 比 較検討をした試験結果について述べる。 4.1 石 炭 灰 溶 融 繊 維 の 特 徴 石炭灰溶融繊維は,全体に白色の繊維である。手触りおよび外観はロックウー ル に よ く 似 て い る 。繊 維 長 は 比 較 的 短 い 。シ ョ ッ ト( 繊 維 化 さ れ な か っ た 固 形 分 ) は 石 炭 灰 の 性 状 に よ り 異 な る が 数 % 程 度 確 認 さ れ る 。( 図 - 4 参 照 ) 講-V-5 2005 年石炭灰有効利用シンポジウム 図-4 試作した石炭灰溶融繊維 表-3 に,石炭灰溶融繊維の基礎的な特徴を示す。 表-3 項 石炭灰溶融繊維の特徴 目 数 繊 維 の 平 均 直 径 ( μ m) 3.4 シ ョ ッ ト( 固 形 分 )の 含 有 率 2.1 (%) か さ 密 度 ( ton/m 3 ) 4.2 値 0.14 石炭灰溶融繊維の化学分析結果 表 - 4 に , 試 作 し た 石 炭 灰 溶 融 繊 維 の 化 学 分 析 結 果 を 示 す 。 SiO 2 が 約 45% , Al 2 O 3 が 約 20% を し め る 。 CaOが , 約 30% を し め る の は 融 点 降 下 材 と し て , Ca 分を添加しているためと考えられる。 表-4 石炭灰溶融繊維の化学分析結果 項 4.3 目 数 値 ( wt% ) Ig. Loss 0.2 SiO 2 46.0 Al 2 O 3 21.3 Fe 2 O 3 2.7 CaO 27.2 MgO 0.8 熱的性質 石炭灰溶融繊維をガスバーナー内で赤熱状態まで加熱し,それを水中に投入し 講-V-6 2005 年石炭灰有効利用シンポジウム ても粉々になったり溜色したり,柔らかさが無くなることはなかった。熱分析装 置 を 用 い ,空 気 中 で 1300℃ ま で 加 熱 し た が ,熱 重 量 曲 線 に は 重 量 の 増 減 は 見 ら れ なかった。 ま た ,示 差 熱 分 析 で は ,1000℃ 以 下 に は 明 確 な 吸 熱 ,発 熱 ピ ー ク は な か っ た が , 1050℃ 付 近 に 発 熱 ピ ー ク , 1240℃ 付 近 に 吸 熱 ピ ー ク が そ れ ぞ れ 見 ら れ た 。 熱 間 収 縮 温 度 は , 約 790℃ で ロ ッ ク ウ ー ル の 熱 間 収 縮 温 度 よ り 高 い 値 を 示 す ( JIS A 9504 規 格 で は 650℃ 以 上 )。同 様 に 熱 伝 導 率 は ,0.4350( W/mk)で あ り , ロックウールとほぼ同等であるが,若干値が大きいのはショットの影響と考えら れる。 4.4 耐薬品性 石 炭 灰 溶 融 繊 維 を 水 酸 化 ナ ト リ ウ ム 40% 水 溶 液 に 浸 し ,20℃ で 24 時 間 経 過 後 , 内 容 物 を 取 り 出 し 充 分 に 水 洗 し た 後 , 乾 燥 器 ( 105℃ ) 中 で 乾 燥 さ せ 重 量 を も と めた。その結果から溶解率(繊維重量の減少率)を求めると,ロックウール溶解 率 が 5% に 対 し て ,石 炭 灰 溶 融 繊 維 の 溶 解 率 は 4.5% と な り ロ ッ ク ウ ー ル 以 上 の 耐 アルカリ性を示すことがわかる。 これは,小島らが中国製の石炭灰溶融繊維を用いて実験した実験結果とも一致 し,ロックウールに比較して耐アルカリ性があることがわかった。繊維の用途と してセメント・コンクリート分野にも利用することが可能と考えられる。 5. お わ り に 石 炭 灰( 石 炭 )溶 融 ス ラ グ は ,今 回 の 一 連 の 実 験 で は コ ン ク リ ー ト 用 骨 材 と し て 充 分 な 性 能( 物 性 値 )を 有 し て お り ,良 質 な コ ン ク リ ー ト 用 細 骨 材( 砂 )の 確 保 が 近 年 難 し く な っ て い る 状 況 を 鑑 み る と ,そ の 代 替 品 と し て 有 望 な も の と し て 位 置 づ け る こ と が で き る と 考 え ら れ る 。ま た ,石 炭 灰 溶 融 繊 維 は ,ロ ッ ク ウ ー ル な ど の 現 状 の 無 機 繊 維 と 比 較 し て ,優 れ た 耐 熱 性 と 耐 薬 品 性 を 有 し て い る 。従 っ て 石 炭 灰 溶 融 繊 維 は ,断 熱 材 ,耐 火 材 ,不 燃 材 ,コ ン ク リ ー ト 補 強 材 と し て 有 効 利用が見込まれるものである。 今 後 は ,単 に 石 炭 灰( 石 炭 )溶 融 化 に 関 す る 技 術 開 発 だ け で な く ,製 造 さ れ た 製品の市場での流通検討を重点的に進めて行くことが必要と考えている。 ( 本 報 告 の う ち ,石 炭 灰 溶 融 繊 維 化 に 関 す る 技 術 開 発 に つ い て は ,H14~ H17 年 度 の 経 済 産 業 省 の 石 炭 生 産・利 用 技 術 振 興 費 補 助 金 研 究 と し て 実 施 さ れ て い る ものであり,研究にご協力いただいた方々に謝意を表します。) 講-V-7 2005 年石炭灰有効利用シンポジウム 参考文献 (1)Ishiga,T.,Ishikawa,Y.,Morihara,A.,Kawano,K.,Horiuchi,S.,and Shimizu,K.: Coal Ash Fusing System for Pulverized Coal Power Plant and Application of Coal Ach Slag for Concrete Aggregates,ACAA Symposium,2003.01, pp.19-1- 19-10 (2)Ishikawa, Y.: Application of Coal Ash Slag for Concrete Aggregates, Advances in Waste Management & Recycling, 2003.10, pp. 611 – 620 (3)Ishikawa, Y.: A Study on a Technology to Produce Inorganic Fibers by Melting Coal Ash,World of Coal Ash, 2005.04 講-V-8 2005 年石炭灰有効利用シンポジウム いしかわ 氏 名 石川 よしたか 嘉崇 電源開発株式会社技術開発センター 茅ヶ崎研究所 1979 年 リサイクル研究室 東京工業大学大学院 修士課程終了 工学博士 主要経歴 1979 年 電源開発(株)入社 コンクリート材料特にフライアッシュを中心とした技術研究開発を一貫して担 当。 経 済 産 業 省 、( 社 ) エ ネ ル ギ ー 総 合 工 学 研 究 所 、( 社 ) エ ン ジ ニ ア リ ン グ 振 興 協 会 、( 社 ) 日 本 建 築 学 会 、( 社 ) 日 本 コ ン ク リ ー ト 工 学 協 会 等 に お い て 石 炭 灰 関 連委員会の委員として活動。 現 在 、( 社 ) 日 本 建 築 学 会 ・ 材 料 施 工 委 員 会 に お い て 、「 フ ラ イ ア ッ シ ュ を 使 用するコンクリートの調合設計・施工指針(案)同解説」改訂委員会の幹事と して活動中。 講-V-9
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