課題名:マイクロ・ナノバブル技術の実証 (AOA 法による食品産業廃液からの汚泥中リン資源化の実証) 協議会 食品産業廃棄物マイクロ・ナノバブル技術実証協議会 実証企業 築野ライスファインケミカルズ株式会社 はじめに 築野ライスファインケミカルズ㈱に訪問し、それぞれの検討課題に 対するサンプリングを行った。 近年、わが国においても資源問題に対する取り組みが 国家規模で行われ、食品廃棄物・下水汚泥を対象にした 有用資源利活用技術の報告が見られている。 築野ライスファインケミカルズ株式会社 わが国の産業廃棄物の57%は生物系廃棄物由来であり、家 ↑ 実証機製作・導入、 畜糞尿,産業・下水汚泥が主たる割合を占め年間約3億 ↑ 存在解明 現場調整・管理 トンが排出されている。なかでも、湖沼や内湾の富栄養化を引 学識グループ 株式会社前川製作所 き起こす一方で、植物の肥料成分として不可欠であり、 その資源枯渇が懸念されるリンについては、資源回収技術なら ・中央大学 ・東京大学 ↑周辺装置製作 びに肥料再生技術が注目されている。 ・北海道大学 株式会社ニクニ リンは生物系廃棄物に62万トン含まれ、これはほぼ我が国のリ ン鉱石輸入量に相当するとの報告もあることから、生物系廃棄 Fig. 1 実施体制 物は新たなリン供給源として資源の少ないわが国において貴重 Table 1 スケジュール な資源になりうると考えられる。 そこで、本事業では築野ライスファインケミカルズ株式会社の工 活動内容 場にパイロットプラントを設置し、米加工製造実廃水を対象に 廃水からの新規栄養塩(窒素・リン)除去手法である嫌気/好 装置設計 気/無酸素(AOA)プロセスを適用することで、汚泥中へのリン含 装置製作 有率を高める手法ならびに実証モデル構築を行った。また、マイ 要素試験 クロ・ナノバブルの存在を明らかにすることを目的に、学識グルー 実証試験 プ(中央大学・東京大学・北海道大学)による検証を行った。 報告 実施体制 本事業は実証事業者である築野ライスファインケミカルズ㈱を H21(2009) 9 10 11 H22(2010) 12 1 2 3 実証の成果と現状の課題 中核として、㈱前川製作所及び㈱ニクニならびに学識グループ 運転方法 AOAプロセスは1サイクル 12 時間(嫌気条件、好気条件、無 で組織された「食品産業廃棄物マイクロ・ナノバブル技術実証 酸素条件あわせ 600 分、汚泥沈降工程 117 分、処理水引抜 協議会」(Fig. 1)により実証活動を円滑かつ き工程 3 分)の運転を行った。AOAタンク内温度は 28.5℃に制 効率的に実施した。また、学識グループ(中央大学・東京大学・ 御した。今回、前処理工程においてマイクロバブル(MB)の運転 北海道大学)では、バブル径及び密度を処理プロセスの過程で を行った後、オゾンマイクロバブル(O 3 +MB)に切り替え、両系の 確認できるよう、測定方法に関する検討を行った。 後工程にあたるAOAプロセスでの栄養塩除去性能ならびに汚 泥中リン含有濃度の検証を行った。 実証活動の取り組み 実施活動は Table 1 の予定で進行した。事業グループのスケ 装置外観および除去能ならびにリン含有濃度 今回の実証装置外観をFig. 2 に示す。反応に関わる主要装 ジュールは、平成 21 年 9-10 月間で AOA プロセス実証機の設 置の構成は貯水タンク、前処理槽(有効容積 25l)、AOA処理 計を㈱前川製作所で行った。その後、㈱ニクニより周辺装置を 槽(有効容積 50l)からなる。マイクロバブル(MB)ならびにオゾン 受け取り後、同年 11 月に実証装置化を行った。12 月に現場導 マイクロバブル(O 3 +MB)を反応させた両系の前処理流入から 入に必要な評価試験を㈱前川製作所守谷工場で行った。翌 AOAプロセス終了後の除去性能ならびにリン含有濃度をTable 年の平成 22 年 1 月に実証事業先である築野ライスファインケミ 2 に、両系のMLSS濃度の経時変化をFig. 3 にそれぞれ示す。 カルズ㈱に搬入、試運転調整後、実証試験を実施した。学識 グループにおいては、平成 21 年 12 月に東京大学が前川製作 所に、平成 22 年 2 月に中央大学、東京大学、北海道大学が -1- 電位は、それぞれ、-17~-20mV(pH=5.7~6.2)および-33~ -45mV であり、酸素バブルの安定性が示された。 また、レーザ ー光の散乱による粒子像を比較したところ、 酸素バブル、空気 バブル共に、比較対象とした平均粒径 0.2μm および 0.35μm のポリスチレン粒子像の間にあった。以上により、ナノバブルの存 在が明らかにされた。 ・実験室で純水系においてマイクロ・ナノバブル水を急速 凍結 し、凍結割断レプリカ像を透過型電子顕微鏡観測で バブル (特にナノバブル)の存在を観察したところ、数百 nm から数十 mm 程度の大きさの気泡の陰影を確認することができたことから、 当該手法が有効であることが確認された。 ・暗視野顕微鏡と高速ビデオカメラを連結し、約 100μm の 深 さを持つ水層にバブル水をゆっくり流し、微細気泡がブラウン運 Fig. 2 装置外観 動をしながら移動する像を確認する方法により、200nm 以下の 超微細気泡の確認を試みた観察では、直径 200nm のメンブレ Table 2 [%] ンフィルターでろ過したマイクロ・ナノバブル水において、約 100nm MB O 3 +MB COD removal 63.8 85.5 Nitrogen removal 38.6 93.9 Phosphorus removal 79.1 79.7 Phosphorus content 2.3 4.5 の粒子として観察された。これらが確実に気泡であるかについて は現在検討中である。 実用化に向けた今後の展望 今回、米加工製造実廃水からの栄養塩除去が確認できた が、今後 AOA プロセスの運転サイクルの最適化を図ることで栄 8000 養塩除去性能ならびに汚泥中リン濃度増加が期待できる。その MLSS [mg l-1] MB O3+MB 6000 Micro Bubble ためには、装置設計や各条件下の水質パラメーターについて今 後更なる検討が必要であると思われる。また、今回廃水へのマ O3+Micro Bubble イクロバブルならびにオゾンマイクロバブル反応時間は、今回の仕 様装置では好気条件下でのエアレーションを常時行うことなく溶 4000 存酸素が維持できた。このことは、従来型エアブロアと比較して 消費電力を削減できると考えられる。しかしながら、装置仕様ご 2000 とで最適条件が異なるため、仕様変更の際ごとに最適条件を予 備試験等で得ることが必要であると考えられた。 0 まとめ Time [Day] 今回、米加工製造実廃水に対して AOA プロセスを稼動する Fig. 3 MLSS 濃度経時変化 ことで、有機物ならびに栄養塩除去性能が確認できた。今後、 今回、AOAプロセスを稼動させることで米加工製造実廃水に 更なる除去性能の向上や本汚泥からのリン回収方法を検討す おいても単一処理槽での有機物ならびに栄養塩除去性能が確 ることで、本産業分野から未利用産物由来の有用資源創出が 認できた。また、汚泥中リン蓄積濃度については初期汚泥 期待される。 (1.7%)と比較してマイクロバブルを反応させた 両系で増加し、 それはオゾンマイクロバブル(O 3 +MB)系で最も高値となった。一 【お問い合わせ】 方、マイクロバブル(MB)系はオゾンマイクロバブル(O 3 +MB)系と ●築野ライスファインケミカルズ株式会社 比較して、MLSSに低下傾向が 見られた。このことは、前処理 〒649-7194 和歌山県伊都郡かつらぎ町丁之町 2283 工程におけるマイクロバブルのみの反応工程は、後に続くAOAプ TEL: 0736-22-0061 担当:加藤(カトウ), 垣内(カキウチ) ロセス内の菌体維持に対し良好に作用しない反応工程であるこ とが推察された。 ●株式会社前川製作所守谷工場技術研究所 〒302-0118 茨城県守谷市立沢 2000 以下に学識グループの結果を示す。 TEL: 0297-48-1364 担当:副島(ソエジマ), 山上(ヤマガミ) ・超純水にバブルを発生させ、空気では 72 時間、酸素では 144 時間にわたりナノサイズと判断される粒子が観察された。ゼータ -2- 課題名:マイクロ・ナノバブル技術の実証 (農畜産加工排水由来のフロス除去、飼料・肥料化技術の実証) 協 議 会 食品産業廃棄物マイクロ・ナノバブル技術実証協議会 実証企業 農事組合法人伊賀の里モクモク手づくりファーム 工工場から排出される排水は油脂分を多量に含んでおり、浄 実証課題の必要性と目的 化処理を阻害する要因にもなっている。また、季節や曜日による 農畜産をはじめとして食品関連事業は油を利用することが多 集客数の変動が大きく、そのため排水負荷も大きく影響を受け く、排水中にも高濃度の油脂分が混入している。排水中に含ま るため、維持管理が大変難しい状況にある。 れる油脂分は浄化処理の阻害要因となり、専門の維持管理技 連携機関は、主に農業関連、畜産関連市場を中心に既に 術者の養成や機器更新費の増加などの原因となっている。一 1,100 台余りのマイクロ・ナノバブル発生装置の販売実績をもつ 般的な排水処理施設では、初段にスクリーンを設けてし渣など 株式会社多自然テクノワークス、水処理及びマイクロ・ナノバブ のSSを除去した後、生物処理を行い、上澄みを消毒後排出 ルについてのエンジニアリング技術を保有するカジマアクアテック株 する。油脂分を多量に含んだ食品排水等の場合、初段に油水 式会社、そして当該施設の維持管理及び水質検査を行ってい 分離設備を設けて、生物処理にかかる負荷を軽減し、油膜等 る株式会社プラントシステムとした。また、水処理及びマイクロ・ナ が生物膜に及ぼす悪影響を防止している。しかし、実際には油 ノバブルに関する技術支援を熊本大学にお願いした。実施体制 水分離設備で十分に油脂分除去できないのが現実であり、施 は Fig.1 実施体制図の通りである。 設の維持・運営に多額の費用と労力を必要としている。 一方、遊園地や行楽地などの集客施設では、比較的集客 モクモク手づくりファーム 実証施設の提供 事業の運営管理 数の少ない平日と比べ、週末や連休は何十倍何百倍の入場 者があり、排水処理施設への流入負荷の急激な変動などのた 委 め処理システム全体が変調をきたす問題を抱えている。 託 (株)多自然テクノワークス カジマアクアテック(株) (株)プラントシステム 附帯装置の製作 水質分析 実証装置の開発・製作 エンジニアリング 施設メンテナンス 以上のような条件をもつ施設では、一年を通して排水処理 施設の不安定な運用・保守管理に頭を痛めており、維持管理 コスト増加の要因となっている。実証企業である農事組合法人 技術 伊賀の里モクモク手づくりファーム(以下、モクモク手づくりファー 試演 熊本大学大学院 ム)においても、来場者参加型の手づくりハム加工工場を運営し 技術助言・指導等 ており、排水処理施設の維持管理に大変苦心してきた経緯が ある。本実証課題では、新技術のマイクロ・ナノバブルを使用し、 Fig.1 実施体制図 以下の利用技術を完成することを目的とした。 実証活動の取り組み ・ マイクロ・ナノバブル技術を利用し排水処理施設に流入す ハム加工工場排水処理施設の計画汚水量は15m3/日で る油脂分を軽減するとともに、油脂分をコンポストなどに利 一部豆腐製造工場からの排水も流入する。処理方式はFig.2 用する。 ・ 1年を通じて安定処理を実現する。 にあるように膜分離活性汚泥法を採用しており、油脂分対策と ・ 水源として地下水を利用しており、環境負荷軽減のため、 して固液分離槽を設けている。排水処理施設の計画水質は table 1 の通りである。 処理水を樹木や野菜への灌水利用す。 実施体制 M・NB O3 M・NB いる。実証現場となったモクモク手づくりファームは、市の北部の である。 M・NB:マイクロ・ナノバブル O3:オゾン モクモク手づくりファームでは様々な農業・畜産加工食品の製 汚泥貯留槽 自然豊かな丘陵地にある農業公園(農業アミューズメント施設) 場外搬出 造を行っており、園内に点在する生産施設からは様々な種類の 食品排水やし尿排水が処理後排出されている。特に、ハム加 Fig.2 現状及び実証処理フローシート -1- 再利用水槽 放 流 槽 消 毒 槽 膜分離槽 ばっ気槽 流量調整槽 民の意識も高く、自然との共生を目指す活動も活発に行われて 固液分離槽 流入 原水ポンプ槽 伊賀市は三重県西部の四方を山に囲まれた上野(伊賀)盆 地に位置している。自然環境に恵まれ、環境保全に対する住 M・NB 放流 時間経過時に上昇した後、減少した。BOD 値の増加は、原水 Table 1 現状計画水質 中の無機物に含まれていた有機物が、マイクロ・ナノバブルによる 分解過程で溶出してきたためと考えられる。2時間経過以降は 単位 流入 放流 pH BOD mg/l 5~8 1500 5.8~8.6 20 SS n-hex mg/l mg/l 400 200 10 30 BOD 値も減少し始めた。以上のことから、マイクロ・ナノバブルは、 無機物及び有機物の分解に有効であることが分かった。 COD COD・BOD(mg/l) 本実証事業では、以下の取り組みを行った。 ・ 原水ポンプ槽にマイクロ・ナノバブル発生装置を設置し、流 入水に含まれている油脂分を効率的に浮上、除去する。 ・ 流量調整槽にマイクロ・ナノバブル発生装置を設置し、加 えてオゾン注入を行いオゾンマイクロ・ナノバブル処理とした。 BOD DO 400 8 350 7 300 6 250 5 200 4 150 3 100 2 50 1 0 0 0 オゾン添加により、後段にある膜分離槽の膜モジュールの DO(mg/l) 項目 1 時間(h) 2 3 Fig.4 簡易テスト水質分析結果 洗浄頻度を少なくし、放流水の色度改善を期待した。 一方、排水量が当初計画より多く、マイクロ・ナノバブルの反 ・ 排水処理施設の隣に新たに有効容量3m3の再利用水 応時間を十分に確保できないことが考えられたため、流量調整 槽(FRP製)を設置し、放流槽から出る処理水を貯留し、 槽に注入しているオゾンの一部を原水ポンプ槽に加え、「O 3 +マ 処理水にマイクロ・ナノバブルを加え、野菜や樹木への灌 イクロ・ナノバブル処理」への改造を行った。 水に利用できるようにし、環境負荷を軽減した(モクモク手 マイクロ・ナノバブルは、効果について様々な発表がなされてい づくりファームは、水源として地下水を利用しており、水源 るが、定量的なデータが不足している。今後、マイクロ・ナノバブ が豊富ではない)。 ルの必要量と排水の負荷量の関係を明確にし、様々な種類の 使用した主要装置の仕様は、以下の通りである。 食品排水に対応できるようにしたいと考えている。 Table 2 主要機器仕様書 今後の展望 オゾン発生装置 マイクロ・ナノバブル発生装置 空気供給量 max 3 l/min O3 ガス発生量 20 g/hr 移動水量 50 l/min O3 ガス濃度 41.7 g/Nm3 と植物性油脂がある。今回の実証事業は動物性油脂を含む 0.05 MPa 排水について実施したが、植物性油脂排水の場合、同様の結 電気容量 電 源 0.25 kW 三相200V 60Hz ※ (株)多自然テクノワークス製 O3 ガス圧力 オゾナイザー 空冷円筒型 無声放電方式 O2 ガス発生部 PAS方式 消費電力 食品工場からの排水中に含まれる油脂分には、動物性油脂 果が出るかは未知である。今後、植物性油脂を含む排水処理に 対する効果の確認を行い、農畜産加工排水、水産加工排水な 1.2 kW どの食品加工排水全般への利用拡大を目指したいと考える。 単相200V 60Hz 電 源 国内には農畜産をはじめ食品加工工場が多数存在する。そ ※ ローヤル電機(株)製 の多くが中小零細企業であり、今後ローコストのコンパクトなシス 実証の成果と現状の課題 テムを完成すれば、大きな市場となることが期待できる。 原水中に含まれる油脂分について、原水ポンプ槽に設置して まとめ いるマイクロ・ナノバブル装置を利用して簡易テストを実施した。 本実証事業は動物性油脂分を含有する排水、なおかつ日 ポリ容器(約 40ℓ)に原水ポンプ槽内の原水を入れたところ、水面 により排水量が大きく変動する施設に対して、マイクロ・ナノバブ に1cm 前後の油脂分の塊が浮遊していた(Fig.3)。マイクロ・ナノ ル技術とオゾンを組み合わせて、安定的効率的な排水処理シ バブル装置稼動後、約1時間経過した段階から油脂分の塊が ステムを実用化する目途が示された。また、処理水を野菜や樹 崩れ始め、容器全面に拡散した。水質分析結果を Fig.4 に示す。 木への灌水として有効利用し、環境保全効果についても一定の COD 値は時間経過とともに徐々に減少しているが、BOD 値は 1 成果があった。 本事業を遂行する上で、検討委員の先生方にご指導ご配 慮を戴きましたことをお礼申し上げます。 【お問い合わせ】 農事組合法人伊賀の里モクモク手づくりファーム 総務・経理部 マネージャー 篠原辰明 テスト開始前 2 時間経過 Fig.3 油脂分解簡易テスト -2- TEL 0595-43-0909 e-mail [email protected]
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