日消外会誌 30(7):1776∼ 1779,1997年 術前動注化学療法 が有効 で切除 しえた右心房内進展腫瘍栓 と 対側葉肝 内転移 を有 す る高度進展肝細胞癌 の 1例 東京女子医科大学消化器外科 丸山 千 文 山 桂川 秀 雄 竹 一 本 雅 並 和 之 次 田 正 高 崎 健 大坪 毅 人 症例 は62歳男性 .腹 部膨 満,下 肢浮腫 を主訴 に当科受診.腹 部 computed tomography scanにて肝 右葉 に直径 10cmの 肝細胞癌 を認 め,右 肝静脈 か ら右心房 へ 進展 す る静脈腫瘍 栓,右 門脈本幹腫瘍栓, 左葉 に肝 内転移 を認 めた。CDDP 100mgの 動注化学療法 を施行後,右 心房 へ進展す る静脈腫瘍栓 は下 大静脈境界部 まで退縮 し,左 葉 の肝 内転移 は消失 した。切 除可能 と考 え,肝 細胞癌 に対 し,右 葉切 除, Bio‐ pump下 大静脈 内腫瘍栓摘 出術,横 隔膜 合併切 除,同 時 に併存 した盲腸 癌 に対 し,回 盲部切 除 を施 行 した。大腸癌腹膜播種再発 にて19か月 めに死亡 す るまで,肝 細胞 癌 の 明 らか な再発 は認 めなか った。 Key words: hepatocellularcarcinoma, intraatrial tumor thrombus, intraarterial neo-adjuvantchemo therapy は じbに 部 i膨 隆,腹 水著 明,肝 陣触知 せ ず (腹水 のた め),腹 高度進展肝細胞癌 とされ る因子 としては,門 脈本幹 へ の進 展,下 大静脈 へ の進 展,右 心房 へ の進展 ,肝 内 壁静脈 の怒脹 著明.上 肢 ;手 掌紅斑 な し,浮 腫 な し. 転移 (対側肝葉 にわた る)な どが あげ られ るが ,い ず 入院時血液生化学検 査 :TP 6.8g/dl,ALB 2 6g/ 下肢 :浮 腫著 明. れの因子 を有 していて も,根 治術 は困難 で,他 の治療 dl,T‐ Bll l.2mg/dl,D‐ Bl1 0.7mg/dl,GOT 551U/′ 法 で も著効 は期待 で きない。今 回,我 々 は肝静脈腫瘍 GPT 241U/′ , LDH 6821U/′ , ALP 2561U/′ , BUN 栓 が 右心房 まで進 展 し下大 静脈 閉塞 を伴 い,さ らに, 23,Omg/dl,Cr l.2mg/dl,Na 142mEq/′ 主病巣 の対側肝葉 に肝 内転移 を有 した,高 度進展肝細 ′ ,Cl107mEq/′ 胞癌症例 に対 し,動 注化学療法 をす る こ とによって腫 Hb 12.Og/dl,Ht 39 8%,P比 10,4× 104/mm,腫 マ ー カ ー ;AFP 260ng/ml,CEA 4,9ng/ml,CA 19- 瘍 の退縮 を認 め,根 治術 を施行 しえた。示唆 に富 む 1 , ,K3.7mEq/ ,CRP2,3mg/dl,WBC7,430/mm3, 瘍 例 と考 え られ た ので多 少 の文 献 的考 察 を加 え報 告 す 993U/ml,出 る。 86.1%,HPT 62.6%,NH3 36″ g/dl,ICG 15分 停滞 ー ー マ カ HbsAg(一 ),HCV(十 ) 率 48%,肝 炎 ウイル ス 症 例 忠者 :62歳,男 性 主訴 :腹 部膨 満,下 肢浮腫 既往歴 :特 記 す べ き ことな し. 現病歴 :1992年10月よ り下肢浮腫 ,腹 部膨 満,全 身 血 時間 2分 30秒 ,凝 固時間 10分30秒 ,TT 腹部 computed tomography(CT)像 :肝 右葉 の直 径 10cmの low density massが 認 め られ,contrast encancementに て 中心部 を除 いて増 強 された。中央 が 一部壊死 に陥 ってい る肝細胞癌 と診 断 された。左葉外 俗 怠感 が 始 ま り,短 期 間 に症状 が進 行 し来院 した。 家族歴 :特 記 す べ きことな し. 側 区域 に は φ8mm大 入院時現症 :身 長 169cm,体 重85kg,血 圧 148/100 mmHg,脈 拍86/分,意 識清明,顔 色不良.眼 球結膜黄 お り,さ らに,右 本幹 の門脈腫瘍栓,多 量 の腹水 を認 疸 なし。眼験結膜貧血 な し.胸 部 :異 常所見 なし.腹 <1997年 2月 12日受理>別 刷請求先 :丸 山 千 文 〒162 新 宿 区河 田町 8-1 東 京女子 医科大学 消化 器外科 の肝 内転移 を認 めた。右 肝 静 脈 に充満 した腫瘍 栓 は下大静脈 か ら右心房 内 へ進展 して めた (Fig。1,2). 入院後経過 :入 院時 の全身状 態,諸 検査 よ り,1)肝 主病巣 の他 に肝 内転移巣 が左 葉 に も認 め られ る.2)肝 機 有とが ICGR=15:48%, Alb:2.6g/dl, ChE:0.29 zPHと 著明 に低下 してお り,腹 水 も多量 に貯 留,下 肢 1957+.7 E 87(1777) Fig. I Abdominal computed tomography show.ed hepatocellularcarcinoma in the right lobe with tumor thrombus in the inferior vena cava and Fig。3 COmmOn hepatic angiOgraphy shOws tuomr stain of the right iobe intrahepaticmetastasis to the left lobe. Fig. 2 Abdominal computedtomography showed hepatocellularcarcinomawith intracavary car. diac extensionin the right atrium. 260ng/mlか ら動 注 2週 間後 に は99ng/mlま で 低 下 し た。ICGR=15は 21%と 低下 し,腹 水,下 肢浮腫 もみ ら れず,全 身状 態良好 となった。心房 内進展静脈腫 瘍栓 の縮小 と,肝 内転移巣 の消失,肝 機能低下 の改 善,全 身状態 の改善 か ら手術適応 あ りと判 断 し,平 成 5年 1 月 に再度 CDDP loomgの 動 注 を行 い, 2月 9日 開腹 手術 を行 った。 手術所見 :上 腹部逆 T字 切 開 にて開腹.右 葉 は萎縮 し,腫 瘍 は横 隔膜 に直接浸潤 し,そ の周 囲 に2cm大 の 自色結節性病 変 を認 めた。胆裏摘 出術後,肝 門部 にて 右 グ リソン斡 一 括処理 によ り結熱切 離,肝 動脈 を遮 断 し,右 葉切 除,横 隔膜 合併切除 を施 行 した。(この際門 脈 ・大 腿 静 脈 → 腋 衛 静脈 に Blo、 pumpを 用 い て 能 動 シ ャ ン トを形 成 した)51続 き心 婁切 開後,右 房下縁 の 浮腫著明で あ る.3)肝 静脈腫瘍 栓 が右心房 内 に達 して い る。以上 の病態 よ り根 治術不能 と判 断 した。 1992年 11月,腹 部血管造 影下 の CDDP loomg選 択 的肝 動脈 注入 を行 った (Fig。3). 動注後経過 :CDDP loomg動 注後,3日 日頃 よ り, 腹水 の減少,下 肢浮腫 の緩和 な ど,下 大静脈 閉塞症状 の急速 な軽 快 が み られた.自 覚症状 が軽快 したため, 加療後 12日目に退院 とな った。30日後 の効果判定 の腹 部 CT検 査 で,左 葉 に認 め られた転移巣 は消失 し,心 房内 に認 め られた腫瘍栓 も縮小 し認 め られ な くなった (Fig。4,5)。 著明 に上 昇 していた AFP値 も加療 前 の 下大静脈 と肝下部下大静脈 とをそれ ぞれ Clumpし ,腫 瘍栓 を摘 出 した。肝部下大静脈 には血 栓 を形 成 してお り,こ の血 栓 を摘 出 したのちに下大静脈 を縫 合 した。 術 中検 索 で,回 盲部 に結腸癌 が認 め られ たため,回 盲 部切 除 十D2リ ンパ 節郭清 を施行 した。手術時間 は 9時 間50分,術 中出血量 は13,800mlで あ った, 病理組織所見 :切 除肝重量 518g,大 きさ 20cm× 8cm.割 面 で は腫 瘍径 は6 2cm,被 膜 を有 し,右 門脈右 肝静脈 内 に腫瘍栓 を認 めた (Fig。6).組 織学 的検 索 で は肝細胞癌 お よび肝静脈腫瘍栓 は凝 固壊死 に陥 ってお り,生 存細胞 は認 めなか った (Fig.7).肝 細胞癌 の 肉 眼的進行度 は Fc(十 ),Fclnf(十 ),BO,Vp3,Vv3, 88(1778) 右心房内進展腫瘍栓 と対側葉肝内転移 を有する高度進展肝細胞癌 日 消外会誌 30巻 7号 Fig. 4 Abdominal computedtomography showed in tumor thrombuswith hepatocellularcarcinoma the right atrium w.asdisappearedafter chemotherapy. Fig. 6 Macroscopic features of the resectedthe right lobe of liver. Threre was hepatocellularcar. cinoma rvith tumor thrombus in the right hepatic vein. Fig. 5 Fig. 7 Histological findings of the resectedright lobe of liver. Tumor cells were necrosis. Abdominal computed tomography shos'ed hepatocellularcarcinoma intrahepaticmetastasis in the right Iobe, but was disappeared in the left lobe after chemotheraov. 発 で腸 閉塞 とな り,人 工 肛 門 の造設 を行 った。術後 19 か月 め に大腸癌腹膜 播種 に よる癌 性悪液質 に よ り癌死 したが , こ の際 も諸検 査 において肝細胞癌 の残肝再発 な どは認 め られ なか った。音J検は施行 で きなか った。 Im。,で StageIV‐ Aと な り相 対 的 非 治 癒 切 除 で あっ た。非癌肝 は混 合型肝硬変 で あった。 同時 に切 除 した 結腸癌 は管状 乳頭状 腺癌 で あ り漿膜 浸潤 あ り(Se),局 在 リンパ 節 へ の転移 を認 めた (N2(十 )).合 併切 除 し 考 察 へ 自験例 で は右心房 の腫瘍栓進展 と,対 側肝葉肝 内 転移 を有 す る肝細胞癌 に対 して,動 注化学療法 を行 う ことによ り,心 房 内進展 を縮小 させ ,肝 内転 移 を消失 た横 隔膜 の 白色結節性病 変 は結腸癌 か らの播種 性転移 せ しめた。 また,腫 瘍 の減量 と同時 に肝機能 の回復 , 病巣 で あった (P2)。結腸癌 の臨床病期 は stage IVで 全身状 態 の改善 が み られた。 この結果,積 極 的治療不 あ り相対 的非治癒切 除 となった。 能 な高度進展肝細胞癌 と考 え られ ていた本症例 に全身 術後経過 :術 後,2病 日か ら,下 大静脈血栓 が生 じ, 状 態 の耐 え得 る侵襲 の手術 で根治術 を施行 す る ことが 完全閉塞 となったた め,ウ ロキナー ゼ24万単位/day投 で きた。動注化学療法 によって画像 的 には著効 で はな 与 に よる血 栓溶解加療 を行 った。血栓 は約 5日 で縮小 か ったが ,切 除標本 で は主腫 瘍 も腫瘍栓 も生存細胞 が し,腸 管 の浮腫 や下肢 の浮 腫 な ど軽快 し,そ の後経過 み られず著効 に匹敵 す る と考 え られ る. 良好 で あった。術後,15カ 月後 に大腸癌 の腹膜播種再 肝 細 胞 癌 に対 す る動 注化 学 療 法 の 報 告 は 多 くあ る 1997年7月 89(1779) が,貢 野 ら1)によれ ば,門 脈腫瘍塞 栓 に対 し,TAEよ りも動注化学療 法 の ほ うが有効 であ った としてぃ る 。 三 好 ら分の報告 で は血 管造影時 ,Thread and streak dgnが 認 め られ る肝静脈腫瘍 栓 には TAEの 効 が 果 低 い としてい る。 自験例 の場合 ,全 身状 態,肝 機能 とも に悪 か った ことよ り合 併症 が 少 ない方法 として動注化 学療 法 を選 択 したが,結 果 的 に効 果 が あった。腫瘍栓 とい う特異 な腫瘍構築 (例えば Thread and streak Signは 動静脈 シ ャ ン トと考 え られ る。)に 対 して は , TAEよ り動 注化学療 法 の ほ うが 有効 で あ る とすれ ば 興 味深 い。 近 年,高 度進展肝細 胞癌 とされ る,右 心房 内進展例 や,門 脈本幹進展例 な どに対 して積極 的 な手術 が試 み られ てい る。 右心房 内進展例 に対 し,初 期 には,突 然 死 を防 ぐた め の 姑 息 的 手 術 と して 施 行 され て い た が 3),現 在 で は根 治術 を目指 し手術 が施 行 され るよ う になってい る。5と しか し,心 房 内進展711において は , 肝切 除 と開心術 を同時 に行 うため,人 工 心肺 装着時 の 血 栓溶解剤使 用 と肝切 時 の大量 出血 ・ 止血 困難,開 胸 ・ 開心術後 の免疫能 の低下,な ど様 々 な問題点 もあ り, 現状 で はい まだ,安 全 かつ容易 に行 える手 術 とはい え な い。そ こで,自 験例 の よ うに術 前 に化学療法 を行 い , 手術 の縮小化 を図 る ことに よ り手 術 の安 全性 を高 め る ことは高度進展肝 細胞癌 の根治術 を可 能 にす るための 1つ の方法 とな る と考 え られ る.ま た,都 築 ら"に よ り 報 告 された心房進 展肝細胞癌例 の切 除術例 は, 1年 以 内の生存 であった。高度進展肝癌症例 で は,積 極 的手 術 を行 って も,1年 以 内の生存 期 間 に終 る こ とが 多 く, 積 極 的 手 術 に賛 否 両 論 あ る ところで あ る。 自験 例 は残 念 なが ら, 1年 7か 月 め に重 複 癌 で あ った 大腸 癌 再 発 にて死 亡 したが ,こ の 際 も残 肝 再 発 もな く,肝 細 胞 癌 の 再 発 徴 候 は み られ て い な か った 。 動 注 化 学 療 法 が 種 々 の進 展 因 子 に有 効 で あ った 結 果 ,手 術 に よ る根 治 性 も追 求 で きた と考 え る。 高度 進 展 症 例 に根 治術 を考 え る とす れ ば,よ り拡 大 した 手 術 を行 うか ,術 前補 助 療 法 にて 腫 瘍 を縮 小 して か ら侵 襲 の 少 な い手術 を行 うか の どち らか を選 択 せ ざ る を えな い。拡 大 手 術 を追 及 す る一 方 で ,TAEや 動注 療 法 を中心 と した進 展 因子 を縮 小 させ る治 療 の 試 み を な お 一 層 重 ね る こ とに よ って,高 度 進 展肝 細 胞 癌 に対 す る根 治 術 が よ り可 能 に な って ゅ くの で は な い か と考 え られ た 。 文 献 1)貫 野 徹 ,金縞 俊 ,栗岡成人 ほか :腫 場門脈閉塞 をきた した肝細胞癌45例の治療 と予後.日 消病会 誌 82:1360-1368,1985 2)三 好康雄 ,佐 々木洋,今岡真 義 ほか :肝 細胞癌の肝 静脈腫瘍栓 に対す る liplodOl併 用動注 化学療法 の 効果 一肝切除例 2例 の検討 ―.日 消外会誌 23: 1168--1172, 1990 3)COtO H,Kaneko Y,UtOh J et ali Surgery Of hepatOma 、vith intracavary cardiac extensiOn Heart ヽ′ essels 2 : 60--62, 1986 4)Fujisaki M,Kurthama E,Kikuchi K et alt IIepatOcellular carcinoma with tumOr thrOm‐ bus extending into the right atrium:Report of a successful resectiOn with the use Of cardiOpuト monary bypass surgery 109:214-219, 1991 5)都 築俊治 :右 心房 に腫瘍栓 を有 す る肝細胞癌 に対 して体外循環下 に肝切除 と腫場栓除去 を行 った 1 例。 日消外会誌 24:2236-2240,1991 A Successfully Resected Case Of HepatOcellular CarcinOma with TumOr Thrombus Extending intO the Right Atriu■ l and lntrahepatic mletastasis in ApOsit LObe Chifunll Maruyama,Masakazu YamamOtO,MIasashi Tsugita,TakehitO otsubO, Hideo Katsuragawa,Kazuyuki Takenanli and Ken Takasaki lnstitute of Gastroenter010gy,′ ア 「OkyOヽ ヽ Omen's Medical College 淵 ln a 62-year‐ Old man 、vith knOM′ n abdOnlinal distension and 10、 ver extre■lity edema, abdOIninal S tt hepttdMarcattnoma ill llle ttght 10be航 曲 S艦 温 惜 と燃 i晋 絣 継 瑠 品 締 li留 intrahepatic lnetastasis tO the left 10be.we adl■ linis、 緊 岳札 醍尭群毬津腎品署名岳骨曾号辞ti雅│!整虚 :予 監翠 !品 を首 atriunl,but rather in the inferior vena cava The intr !畳 晋苫itil岳:獄 t]!│:: extirpatiOn Of the inferiOr vena cavaltumOr thrOmbu :骨 魯:害 ed of nttOn ditte航 due的 費 curence丁 山 ec∝ 】 :]‖ :::,精 播 督 様 ゼ 結 謎 謄離 1覇縦猟1拙播獄a酎 recurrence,19 months after the Operation. 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