347 福 岡 医 誌94(12):347-350,2003 症 例 大 網 よ り発 生 したGISTの 一例 済生会八幡総合病院外科 九州大学大学院医学研究院消化器 ・総合外科学分野* 大 場 太 郎,濱 真 崎 一 郎,井 島 津 隆 之,黒 上 博 道,木 一 郎,磯 Gasrointestinal 恭 典,馬 Stromal Tumor 田 陽 介,平 戸 晶 孔,舟 田 貴 文, 橋 玲, 場 秀 夫*,前 of the Omentum 原 喜 彦* : Report of a Case Taro OBA, Takayuki HAMATSU,Yousuke KURODA,Takafumi HIRATA, Ichiro MASAKI,Hiromichi INOUE,Akinori KIDO, Satoru FUNAHASHI, Ichiro SHIMA,Yasunori Iso, Hideo BABA* and Yoshihiko MAEHARA* Department of Surgery, Yahata Saiseikai General Hospital Department of Surgery and Science, Graduate School of Medical Sciences, Kyushu University * Abstract A 69-year old man was found a mass becoming larger in abdominal computed tomography. The mass consisted of intermingling solid and cystic component was located below the liver. Abdominal angiography showed tumor staining supplied from right gastroepiploic artery. We considered the mass cystadenoma, lymphangioma, cystic mesothelioma, or gastrointestinal stromal tumor (GIST) preoperatively, and then surgical resection was performed. The tumor was found localized in the greater omentum. Pathological examination showed the tumor composed of proliferation of atypical sort spindle cells and tumor cellswere immunohistochemically positive for C-KIT and CD34, identifying the tumor as a primary GIST of the greater omentum. は じ め に Gastrointestinal stromal tumor(GIST)は 間 介 受 診.平 成11年 よ り指 摘 さ れ て い た 肝 下 方 の 腫 瘤 状 陰 影 がCTに て 増 大 傾 向 の 為,平 月14日 に 精 査 加 療 目 的 に て 当 科 入 院. 葉 系 腫 瘍 で あ り,消 化 管 に 発 生 す る こ と は 良 く知 入 院 時 現 症:腹 ら れ て い る.し た.黄 か し,消 網 原 発 のGISTの 化 管 以 外 の腸 間膜 及 び大 大 網 原 発 のGISTの 疸,腹 部 に 明 ら か な 腫 瘤 は触 知 し な か っ 水,及 び表 在 リンパ 節 の腫 脹 は認 め 回,我 々は な か っ た. 一 例 を 経 験 し た の で,若 干の 入 院 時 検 査 所 見:PLT11.6万/μ1,AST481U/ 報 告 は稀 で あ る.今 d1,ALT401U/dl,ALP6671U/m1,総 文 献 的 考 察 を加 え報 告 す る. 症 症 例:68才 主 訴:特 記事 項 な し 例 男性 ビ リル ビ ン1.3mg/dl,CEA5,6mg/dl,CA19-92U未 と軽 度 の 肝 胆 道 系 の 異 常 とCEAの 満 上 昇 を 認 め た. 入 院 時 画 像 所 見: 腹 部CT:肝 下 方 に 多 房 性 の 充 実 成 分 と嚢 胞 成 分 既 往 歴:肝 硬 変症(ア ル コ ール性) 高 血 圧 の 混 在 す る 腫 瘤 を認 め た.大 家 族 歴:特 記事 項 な し cmで 生 活 歴:飲 酒 日本 酒2.5合/日 成15年1 喫煙5∼6本/日 き さ は約7×6×9 あ り,腫 瘤 の 内 部 に は,液 体 の 貯 留 を 認 め た (Fig.1). 現 病 歴:近 医 にて ア ル コー ル 性肝 障害 及 び高 血 圧 MRI:胆 の フ ォ ロー 中,食 道 静 脈 瘤 の評価 目的 に て 当院 紹 cm大 嚢 床 ∼ 肝 下 方 の 腹 腔 内 に 約6×5×10 の 多 房 性 の 嚢 胞 性 の 腫 瘤 を 認 め た. 大 348 Fig. 場 太 Abdominal computed tomography showed a mass (arrow) in the right side of abdominal cavity. The mass contained the cystic part and solid part. 1 DynamicMRIで はi嚢胞 は変 形1生,可 動 性 を認 め, 郎 ほか11名 Fig. Angiography revealed a tumor stain (arrow) supplied from right gastroepiploic artery. 3 10cm大 の 腫 瘤 を 認 め た(Fig.4).腫 の 連 続 性 は 無 く,周 瘤 は肝 臓 と 囲 と の 癒 着 も認 め ら れ な か っ 各 ス キ ャ ンにて微 妙 な形 状,位 置 の 変化 を認 めた た.右 (Fig.2). り栄 養 枝 と考 え られ る血 管 が2本 血 管 造影:胃 十 二 指腸 動脈 か らの造 影 で 右 胃大 網 ら を 結 紮 切 離 し,腫 瘍 を摘 出 し た.切 動 脈 の 分枝 よ り栄 養 され る腫瘤 を認 め,こ の 腫瘤 腫 瘤 の 大 部 分 を含 め る 嚢 胞 内 部 は 透 明 の 漿 液 性 の は動 脈 相 にて血 管 新 生 を,静 脈 相 に て血 液 貯 留像 液 体 の 貯 留 を認 め,一 を認 めた(Fig.3). 病 理 組 織 化 学 的 所 見:腫 以 上 よ り,嚢 胞 腺 腫,リ ンパ 管 腫,嚢 胞 性 中皮 腫,大 網 を由来 と したGISTな 成15年2月6日 どが 考 え られ,平 に腹腔 内腫 瘤 摘 出術 を施 行 した. 胃大 網 動脈 根 部 及 び右 胃大 網 動脈 の分 枝 よ 認 め ら れ,こ れ 除標 本 にて 部 に充 実 性 の 腫 瘤 を 認 め た. 瘍 は短 い紡 錘 形 細 胞 の束 状 の 増 殖 の エ リア と粘 液 基 質,血 管 壁 の 硝 子 化, お よ び 嚢 胞 状 変 化 とい っ た 非 典 型 的 な類 上 皮 細 胞 の エ リ ア とが 認 め ら れ た(Fig.5).免 疫組 織 学 的 手術 所 見:全 麻 下 に仰 臥位 にて,上 腹 部 正 中切 開 に は,ほ と ん どの 細 胞 に て,C-KIT,CD34,BCL- お よび 右季 肋 部 切 開 にて 開腹 した.腹 腔 内 に は腹 2が 陽 性 で あ っ た.Desmin,actins,S-100は 陰性 水 や 腹膜 播 種 は認 め なか った.肝 下 面 に,表 面 平 滑 で,非 常 に壁 の薄 い嚢 胞 と充 実成 分 の混 在 す る Fig. 2 Abdominal magnetic resonance image showed a mass (arrow) in the right side of abdominal cavity. Fig. 4 Intraoperative findings showed the mass (arrows) localized in the greater omentum. 大 網 よ り発 生 し たGISTの 349 一例 あ る が,再 発 は 認 め られ て い な い(術 考 後9ケ 月). 察 1983年Mazurら はそれ まで 平 滑 筋 腫 や平 滑 筋 肉 腫 と呼 称 さ れ て い た 胃 原 発 の 非 上 皮 性 腫 瘍 の な か に,免 疫 学 的 に平 滑 筋 へ の分 化 が 証 明 で きな い も の が あ る こ と を 報 告 し,gastrlcstromaltumor と呼 称 し た1).以 来,大 腸 や 小 腸 に も 同 様 の もの が 報 告 さ れ,GISTと 呼 称 さ れ る よ う に な り,臨 床 的 に は消 化 管 の 間葉 系 細 胞 由来 の腫 瘍 の総称 とされ て きた2)∼4).ま た,ROSAIら はGISTを,① 平滑 筋 細 胞 へ の 分 化 を 示 す も の(smoothmuscle type),② HEx100 Fig. 5 with alternating epithelioid a myxoid of vascular で あ っ た.核 the tumor is of a proliferation of spindle cells arranged fascicles, atypical 野 中2個 type),③ Microscopically, posed short atypical in short with areas of cells, associated stroma, walls com- and hyalinization cystic changes. 分 裂 指 数 はHPF(×400)に て50視 以 上 よ り大 網 原 発 のGISTと 診 断 し た. 後 の 経 過 は 良 好 で,術 後15日 退 院 と な っ た.現 在,当 いず れ の 分 化 も示 さ な い も の(uncomlttedtype)に た5).最 近 で は,病 分類 し 理 組 織 学 的 にC-KITとCD34 陽 性 の も の か ら な るuncomlttedtypeを GISTと 呼 称 し て い る.GISTは 管 由 来 で あ り,そ 狭義 の ほ とん どが 消 化 の 発 生 頻 度 は,胃(60∼ 70%),小 腸(20∼30%),大 腸(10%以 下),食 道(10%以 下)と 報 告 さ れ て い る6).消 化 管 以 外 で は 少 な い が 腸 間 膜 や 大 網 由 来 のGISTも 報 告 さ れ て い る7). 目に は 科 外 来 にて フ ォロ ー 中で C-KITx400 平 滑 筋,神 経 両 細 胞 へ の 分 化 を 示 す もの (comblnedmuscle-neuraltype),④ は,数 で あ っ た(Flg6). 術 後 経 過:術 神 経 細 胞 へ の 分 化 を 示 す も の(neural 今 回,我 々 の 経 験 し た 症 例 で は,GISTに 型 的 と さ れ る 病 理 組 織 化 学 的 所 見,お CD34x400 Fig.6Mlcroscoplcally,thetumorcellswerelmmunohlstochemlcallyposltlveforC-KITandCD34 典 よ び免 疫 大 350 学 的 に もC-KITとCD34が 場 太 陽 性 で あ り,平 滑 郎 ほか11名 られ なか った 為,腫 瘍 摘 出術 を施 行 した.ま た, 筋 細 胞 や 神 経 細 胞 の マ ー カ ー は 陰 性 で あ る事 腫 瘍 核 分 裂 指 数 が低 く悪 性 度 が比 較 的低 い と考 え か ら狭 義 のGISTと られ,現 在,再 発 は認 め て い ない が,今 後 も注 意 診 断 した.ま た,右 胃 大 網 動脈 に支 配 され て い た事 や 腹 腔 内 の 他 の管 腔 深 い フ ォ ロー が 必 要 と考 え られ る. 臓 器 と の連 続 性 を認 め ず 大 網 に 存 在 し た こ と 参 か ら,そ の 発 生 母 地 を大 網 と した. 新 宮 ら の 報 告 に よ る と,大 網 原 発 のGIST の腫 瘍 径 は6∼15cmと 比 は3:5,平 1) さ ま ざ ま で あ り,男 女 均 年 齢 は60.25才(39∼73才) で あ る7).ま た,JohnD.Reithら 来 す る と考 え ら れ る48例 の大網 に由 2) の 広 義 のGISTの 報 告 に よ る と,ほ ぼ 全 例 でC-KIT陽 性,CD34 は半 分 に陽 性 で あ っ た.ま た,約3分 の1に5 3) 年 以 内 の 腫 瘍 死 を 認 め て い る.腫 瘍 の 大 き さ は,2.1cmか 管GISTと ら32cmと 様 々 で あ り,他 の 消 化 比 較 して 大 き め で あ る が,こ の理 4) 由 として は消化 管 閉塞 な どの症 状 が 発 現 し に くい 事 に よ る発 見 の 遅 れ が 存 在 す る こ と に よ る と考 え られ る.そ の 形 状 は腫 瘤 状 お よ び 腫 瘤 の 多 発 し た もの が 多 い と され て い る.予 後 を規 5) 定 す る因 子 と し て は,他 の 消 化 管 原 発 のGIST と同 様 に 核 分 裂 の 活 動 性 や 壊 死 が 挙 げ られ て い る が,消 化 管 原 発 のGISTで 重 要 とされ て 6) い る腫 瘍 の 大 き さ は 明 らか で は な い8). 今 回 の 症 例 は,核 分 裂 指 数 が 低 く,低 悪 性 度 と考 え られ る が,報 告 例 も少 な く,長 期 予 後 に つ い て の 検 討 も不 十 分 で あ る た め,注 意 深 い フ ォ ロ ー が 必 要 と考 え られ る. GISTの (ICC)が 発 生 に はInterstisialcellofCajal 7) 8) 関 与 し て い る と い わ れ て い る が, Miettinen,Sakuraiら に よ る と,Interstisial cellofCaja1(ICC)が 存 在 し な い とさ れ て い る腸 間 膜 や 大 網 に も未 分 化 間 葉 系 細 胞 の 存 在 が 報 告 さ れ て お り,GISTの 9) 発生 母 地 として成 終 わ り 我 々 は 大 網 原 発 のGISTの に 在,消 化 管 原 発 のGISTの 一 例 を 経 験 し た.現 報 告 も増 加 し て い る. しか し,大 網 原 発 のGISTは の 報 告 も未 だ 少 な い.ま た,そ 非常 に稀 な疾 患 で そ の長 期 予 後 につ い て の 検 討 も行 な わ れ て は い な い.自 験 例 で は,腫 瘍 が 大 網 に 限 局 し て お り,他 臓 器 へ の 浸 潤 も認 め 文 献 Mazur MT and Clark HB : Gastric stromal tumors, Reapprasial of Histogenesis. AM J Surg Pathol 7 : 507-519, 1983. Hjermstad BM, Sobin LH and Helwig EB : Stromal tumors of the gastrointestinal tract : Myogenic or neurogenic ? Am J Surg Pathol 11 : 383-386, 1987. Hurlimann J and Gardiol D : Gastrointestinal stromal tumors ; An immuno-histochemical study of 165 cases, Histopathology 19 : 311-320, 1991. Ma CK, Amin MB and Kintanar : Immunohistologic characterization of gastrointestinal stromal tumors : A study of 82 cases compared with 11 cases of leiomyomas, Mod Pathol 6 : 139-144, 1993. Rosai J : Stromal tumors. In Ackerman's surgical pathology, 8th ed, Mosby-Year Book, Inc, St Lous, Chicago, 1996, pp645647, pp691-693. Miettinem M, Blay JY and Sobin LH : Mesenchymal tumors of the stomach. Pathology and genetics of tumors of the digestive system. IRAC Press, Lyon, pp6265_ 2000 新 宮優 二,寺 崎 正 起 他 :大 網 原 発GISTの1 例:日 臨 外 会 誌 64: 1246-1250, 2003. John D, Reith, John R, Goldblum et al. : Extrogastrointestinal stromal tumors of 48 cases with emphasis on histologic predictors of Outcome, Mod Pathol 13 : 577585, 2000. Sakurai S, Hishima T, Takazawa I et al. : Gastrointestinal stromal tumors and kit positive omentum. 立 し て い る と報 告 して い る9)∼11). 考 mesenchymal cell in the Pathol Int 51 : 524-531, 2001. 10) 桜 井 信 司:消 化 管 外 に 発 生 す るGIST:癌 の 臨 床 VOL.48 NO.8:481-486,2002. 11) Miettinen M, Monihan J, Sarlomo-Rikala M et al.: Gastrrointestinal stromal tumors / smooth muscle primary in the omentum and mesentery, Am J Surg Pathol 23 : 1109-1118, 1999. (受 付2003-8-25)
© Copyright 2024 ExpyDoc