2011年1月15日 養豚技術 人工乳期における フィードバジェットの重要性 協同飼料株式会社 研究所 技術開発室 養豚グループ 篠 原 良 太 図1は、 人工乳期における理想的な “フィー 1.はじめに ドバジェット”の一例を示していますが、餌 人工乳期の発育は生涯成績に大きな影響を 付け飼料(フェーズⅠ)も含めると合計5種 及ぼすため、農場の生産効率を高めるために 類の飼料を、体重 30 ㎏までに切替える体系 は、この時期の発育をいかに高めるかが鍵と となっています。現場では、指定された飼料 なります。その際にネックとなるのは、消化 を所定の量給与し、食べきったら次のステー 生理の変化とアミノ酸を始めとする栄養要求 ジの飼料に切替えるという方式になります。 量の変化にどれだけ合致した栄養供給が行え もちろん、農場によって離乳日齢、体重や給 るかです。そのためには、日齢、体重によっ 餌ラインの数など設備面や衛生環境面の違い て給与ステージを細分化し、数種類の飼料を もあるため、 各農場の実情に即した専用の “フ 給与するフェーズフィーディング(多段階給 ィードバジェットを” 作成する必要があります。 与)の実践と最適なフィードバジェットの設 図1. フィードバジェットの例 (21日齢離乳) 定が必要です。 給与量の目安 本稿では、人工乳期における“フェーズフ ィーディング”と“フィードバジェット”の 重要性について述べたいと思います。 2.フィードバジェットとは まず“フィードバジェット”とは何かにつ いて説明します。フィードは「飼料」 、バジ 3.豚の発育に合わせた栄養供給を ェットは「予算」という意味であり、 “フィー ドバジェット”を直訳すると「飼料の予算」 豚は発育とともに1日に必要な栄養要求量 となります。すなわち、農場における最適な が増加していきます。その一方で、1日あた 給与体系をあらかじめ設定し、それに準じて りの飼料摂取量も直線的に増加していくため、 飼料給与を行うことを “フィードバジェット” 両者を照らし合わせ1日の栄養供給量を決定 と言います。前もって飼料給与量を設定する することが理想的です。図2は、体重と飼料 ため、豚1頭1頭に過不足なく飼料給与する 中の最適栄養レベルの推移を示したグラフで ことが可能となります。 すが、全体的に見ると体重の増加に伴い、飼 23 料中の最適栄養レベル (%) は緩やかな減少を 消化できるようになります。逆にラクターゼ 示します。このため、人工乳期を1∼2種類 の活性は低下しますので、その変化に合わせ の飼料で対応しようと思っても、栄養供給量 て動物性原料主体から植物性原料主体の配合 の過不足が大きくなることがわかります。特 に切替えることになります。 に日齢が若い時期に栄養の不足が大きいと、 図3. 消化酵素の変遷(縦軸:消化酵素活性) 発育に及ぼす影響も大きくなります。最低で も人工乳前期、中期、後期の3種類は必要と 考えられます(人工乳後期を2つに分けると 理想的) 。 図2. 体重と飼料中の最適栄養レベル ①栄養充足 ② 栄養レベル% 栄養レベル% ① ① ①栄養充足 ① 4.前倒し給与・不適切な フィードバジェットによる悪影響 ②栄養不足 ②栄養不足 昨今、飼料コスト低減のために、いわゆる 前倒し給与と呼ばれる不適切な給餌管理を行 ・2段階給与では栄養の過不足が大きい。 ・3段階給与では栄養の過不足が小さい。 っている事例を耳にすることがあります。例 えば、人工乳前期飼料の給与量を極端に少な また“フェーズフィーディング”を行うこ くし、人工乳中期用あるいは後期用を前倒し とは、消化生理の面からも重要です。特に人 で給与したり、別のケースでは人工乳後期か 工乳期の前半では、短期間のうちに消化機能 ら子豚期への切替えを体重 25 ㎏程度に早め が劇的に変化します。豚の体内における消化 るといったものです。これは表面的には飼料 酵素活性の推移を図3に示しましたが、3週 コストが安くなるように見えますが、発育の 齢では乳糖を分解する酵素であるラクターゼ 低下を招き、結局はデメリットの方が大きく の活性が高く、でんぷんや植物性たん白を分 なります。その実証データを図4に示しまし 解する酵素群(アミラーゼ、マルターゼ、プ た。これは 2008 ∼ 09 年度に当社研究所で行 ロテアーゼ)の活性は低くなっています。す った人工乳前期試験の中で、 “フィードバジ なわち、この時期は、人工乳前期飼料のよう ェット”通りに給与を行った区(離乳当日よ な動物性原料(乳製品、魚粉、血漿たん白な り人工乳前期用飼料を給与)と、前倒し給与 ど)を使用した配合が消化機能の面から適し を行った区(離乳当日から即人工乳中期用飼 ていると考えられます。一方、アミラーゼな 料を給与)の発育成績を比較したものです。 どの酵素は、その後徐々に活性が高まり、週 齢に伴って植物性原料主体の配合で問題なく その結果、前倒し給与区では、離乳後1週 24 間の増体は、適正な“フィードバジェット” 料費の内訳を示しました。人工乳の1袋あた で給与を行った場合に比べて大幅に低い値を りの単価は肥育期飼料と比べると高いですが、 示しました。また体重 30kg 到達日齢 (予想値) 人工乳期にかかる飼料費は全体の約3割程度 についても、前倒し給与区では、初期発育の (人工乳前期9%、人工乳中期で6%、人工 停滞が大きく影響し、適正給与区に比べて約 乳後期 18%)にとどまります。一方、子豚期、 1週間遅延する結果となりました。同様の結 肉豚期が占める割合は合計で約7割とその大 果がカンザス州立大学 (KSU)の研究でも報 半を占めていることがわかります。このため、 告(Groesbeck ら、2008)されており、KSU 人工乳期に前倒し給与を行うよりも、例えば の教授陣も、 不適切な “フィードバジェット” 肥育期にフィーダーの調節をこまめに行い餌 では初期発育の低下から大きなデメリットを こぼしなどの無駄を防止するといった対策を 起こすと警鐘を鳴らしています。 行う方が飼料費の低減効果ははるかに大きい と考えられます。やはり真の意味での飼料費 図4. 飼料の前倒し給与が発育成績に 及ぼす影響(研究所) 低減のためには、人工乳期は勿論のこと全ス テージにおいて適正なフィードバジェットに 離乳後 1 週間の ADG 従って給与することが必要と考えられます。 (g/ 日) 図5. 肉豚1頭あたりの生涯飼料費の構成比 30 ㎏到達日齢(予想値) 最後に… 日齢 “フィードバジェット”の設定方法につい てお話します。当社では営業マン全員が専用 の計算ソフトを常備しており、離乳日齢、豚 の発育状態などの各条件を考慮した上で、最 適なフィードバジェットの提案が可能です。 *離乳当日から人工乳前期飼料を給与 **離乳当日から人工乳中期飼料を給与 また“フィードバジェット”の変更により、 飼料コストとしてどの程度のメリットが生じ ※平均開始体重6.47㎏。37反復分のデータを集計したもの るかについても併せて提案させて頂きます。 これを機会に、一度現在の給与体系が最適か 5.真の意味での飼料費低減のために どうか見直してみてはいかがでしょうか。 図5に肉豚1頭あたり出荷までにかかる飼 25
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