携帯電話フルブラウザを用いた Web ページ閲覧の ユーザビリティ評価

携帯電話フルブラウザを用いた Web ページ閲覧の
ユーザビリティ評価
岡田英彦*1, 和氣早苗*2, 河井悠毅*1, 谷本諒*1, 田中尋子*2, 西村弘絵*2
Usability Evaluation of Browsing Webpages with Mobile Browsers
Hidehiko Okada*1, Sanae H. Wake*2, Yuki Kawai*1, Ryo Tanimoto*1, Hiroko Tanaka*2, Hiroe Nishimura*2
Abstract – By using mobile browsers (so-called full-browsers (FBs)), mobile phone users can browse webpages
designed for browsing with PCs. The users may not, however, find a correct link in the case of FBs as easily as
they can in the case of PC browsers because of the limited UI on mobile phones. To investigate webpage design
recommendations for FBs, we evaluated usability of browsing webpages with FBs. In this evaluation, we focused
on the ease of finding a target link in a page. Data of link selection time and users' subjective ratings were
collected by experiments with 12 university users. The data was analyzed from the viewpoint of comparison
between FB and PC, link positions in a page, etc. From the analyses, we found that in some cases links were easier
to find with FBs than with a PC browser, but links in the bottom area of a long page or links with inappropriate
anchor labels were much more difficult to find with FBs than with a PC browser. From the result, we obtained
design recommendations on page length, link positions, etc.
Keywords: usability, mobile browser, mobile phone, webpage, design recommendation
1.
はじめに
総務省による平成 17 年通信利用動向調査[1]によれば,
リティ評価を行い,FB を用いた閲覧時のユーザビリティ
を向上させるための Web ページ設計時の注意事項を検討
個人のインターネット利用端末について,携帯電話等の
した.本研究では特にリンクの探しやすさにフォーカス
移動端末の利用者数が推計 6923 万人に達し,PC 利用者
し,
数(推計 6601 万人)をはじめて逆転しインターネット利用
・FB の場合と PC の場合とではユーザのリンク探索パフ
におけるモバイル化が更に進展したと報告されている.
ォーマンスにどのような差が生じるか? その差はリン
このような背景の中,PC での閲覧を想定して作成された
クの位置などに応じてどのように変わるか?
Web ページを携帯電話でも閲覧可能にする携帯電話向け
・ユーザはその差を主観的にどのように感じるか?
ブラウザ,いわゆるフルブラウザ(以下,FB と表記)が
・実験結果から,Web ページ設計上どのような点に注意
開発され市場に提供されている.ユーザは FB を利用す
すべきと考えられるか?
ることにより,これまで PC で閲覧していた Web ページ
について分析・考察した.
を,モバイル環境においても PC の場合と同様にレンダ
2.
リングされた画面表示で利用できる.しかし,携帯電話
と PC との画面サイズやポインティングデバイスなどの
差から,FB での閲覧時に PC の場合と同程度に素早くか
つ間違わずに情報を探し出せるとは限らない.したがっ
て,PC に加え FB での閲覧を想定する Web ページを設計
する際には,FB 閲覧時における同ページのユーザビリテ
ィにも注意しなければならない.小画面端末による Web
閲覧に関する研究はこれまでに様々行われてきているが
[2-10]
,FB を対象とした研究は今後さらに進めてゆく必要
があると考えられる.
そこで本研究では,FB を用いた Web 閲覧のユーザビ
2.1
評価方法
実験で用いた端末およびブラウザ
実験で用いた端末とブラウザの情報を表 1に示す.端
末は PC,PDA,携帯電話 4 機種の計 6 種類である.FB
には,端末に内蔵された状態で提供されるものと外部ア
プリとして提供され端末にインストールすることで利用
可能なものがあるが,(b)・(d)では内蔵型,(a)・(c)では外
部型の FB を用いた.これらの FB の中には,横スクロー
ルが不要となるようにページを加工して表示させるモー
ドやその他の表示モードを備えるものがあるが,本実験
ではいずれの FB においても,PC での閲覧時と同様のレ
イアウトで表示するモードを用い,FB 間で条件を統一し
*1: 京都産業大学 工学部 情報通信工学科
*2: 同志社女子大学 学芸学部 情報メディア学科
*1: Dept. of Information Communication Eng., Faculty of Eng.,
Kyoto Sangyo Univ.
*2: Dept. of Information Media, Faculty of Liberal Arts,
Doshisha Women's College
た.
表 1の「デバイス」の行は,リンク選択に用いた入力
デバイスを示している.(d)はペン入力 UI を備えた携帯
電話であり,実験ではペンによってリンクを選択するこ
表1 実験で用いた端末およびブラウザ
Table 1 Devices and Browsers used in the Experiment
端末
ブラウザ
デバイス
画面サイズ
(インチ)
画面
解像度
文字数
文字数比
携帯電話
(a) (b)
(c)
(d)
内蔵 内蔵 外部 内蔵
外部
内蔵
2 次元
マウス ペン
キー
キー
ペン
ポインタ+キー
PC
12.1
PDA
4.0
2.4
2.4
1024 240 240 240
*768 *320 *320 *320
61*39 21*17 19*15 13*18
18.0 2.70 2.15 1.77
2.5
2.9
240 208
*345 *320
14*12 12*11
1.27 1.00
図1 キーワードタスクで用いた Web ページの例
Fig.1 A Screenshot of Webpage used for Keyword Tasks
ととした.(c)は通常の 4 方向キーのほかに画面内のポイ
ンティングカーソルを画面内の任意の方向に操作可能な
た.PC の場合にはページ全体が 1 画面内に収まるが,PDA
ポインタを備えており,実験ではユーザが自らの好みに
および携帯電話の場合には 1 画面内に収まらない.
応じて,このポインタもしくは 4 方向キーのいずれを用
ユーザには単語を 1 つ提示し,その単語のリンクを見
いてもよいこととした.また「文字数」の列は,その端
つけて選択するように指示した.つまり,本タスクでは
末で用いたブラウザの 1 画面内に表示可能な全角文字数
選択対象リンク(以下,ターゲットリンクと表記)のア
を,
「文字数比」の列は(d)を基準とした文字数の比を示し
ンカー文字列は既知であり,その位置のみ未知である.
ている.表 1の 6 端末はこの文字数比でソートして並べ
これにより,視覚的なリンク探索の容易さを,ターゲッ
ており,左列の端末ほど画面内により多くの文字を表示
トリンクの位置の違いや端末の違いから比較評価する.
できる.「画面解像度」と「文字数」はいずれも横*縦の
ターゲットリンクの位置は,ページ全体を縦・横にそれ
値である.
ぞれ 3 等分して 9 つの領域に分け,このうち左上,右上,
2.2
テストタスク
中央,左下,右下の 5 領域のいずれかとした.
本実験ではリンクの探しやすさを評価するために,
実験では,各端末のブラウザにページを表示させた状
Web ページ上で目的のリンクを探して選択することをテ
態で画面にカバーを被せ,ユーザがそのカバーを外して
ストタスクとした.ただし,対象の Web ページとしては,
からターゲットリンクを選択するまでの時間をストップ
実際に Web 上に存在するページに加え,本実験用に作成
ウォッチで計測した.このため,計測した時間には通信
したページを用いた.前者のページを用いたタスクはユ
やページレンダリングの時間は含まれていない.また,
ーザの実際のタスクに基づく評価を目的としており,後
ある 1 つのページについて,初見の状態で(ターゲット
者のページを用いたタスクは,テキストリンク集合の中
リンクの位置が未知な状態で)タスクを行った後,ター
から特定キーワードのリンクを探すことによりリンクの
ゲットリンクの位置が既知の状態で再度同じタスクを行
位置の影響などを統制的に分析することを目的としてい
い,初見時と同様に時間を計測した.つまり,ページ 1
る.以下,後者のタスクを「キーワードタスク」
,前者の
つにつき,ターゲットリンクの位置が未知な/既知な状
タスクを「実タスク」と表記し,それぞれについて説明
態での時間を計測した(以下,それぞれ未知時間および
する.
既知時間と表す).既知時間を計測した理由は,端末間の
比較を未知時間-既知時間で行うためである.既知時間は
キーワードタスク
画面サイズや入力デバイスの差に依存し,画面サイズが
キーワードタスクでは図 1の例のようなページを作成
小さいほど,また移動距離の大きな選択操作を高速に行
して用いた.新聞記事から収集した 360 単語をテキスト
えない入力デバイスを備えた端末ほど大きくなると考え
リンクとし,1 画面内に表示可能な文字数が 2 番目に小
られる.しかし,既知時間が大きくても未知時間-既知時
さい携帯電話(c)(表 1参照)において縦に 3 画面分,横
間が小さければ,未知状態でも既知状態と同程度の早さ
におよそ 3 画面分1となるように行数および 1 行の文字数
を調整しつつ,ランダムな順序でテキストリンクを並べ
でリンクを探し出せることになり,リンク探索が容易と
言える.つまり,未知時間-既知時間で比較すれば,既知
時間の大小によらずリンク探索の容易さを端末間で比較
1
簡単のため,すべての行で完全に横 3 画面分の文字数で同一
とするところまでは調整しておらず,概ね横 3 画面分の文字数
になるように各行にリンクを配置した.
できると考えた.なお,既知時間はユーザが「よく知っ
ているページ」でリンクを探すのにかかる時間と同じ意
味をもつと考えられるため,既知時間での比較により,
た.実験の手順は 2 日とも基本的に同じであり,ユーザ
よく知っているページの場合のリンク探索の容易さを比
ごとに端末の順序を変えた.ただし,主観評価を PC に
較できると考えられる.そこで本研究では,未知時間-
対する比較で行うため,PC を含むグループでは PC を最
既知時間の比較に加え,既知時間の比較も行った.
初とした.また同じ理由から,PC を含まないグループの
ユーザ 1 人につき,表 1の 6 端末のそれぞれを用いて 5
実験でも PC との比較による主観評価を行いやすいよう
箇所のいずれかの領域にターゲットリンクを配置したペ
に,最初の端末での実験を行う前に PC を用いた練習タ
ージでタスクを行ってもらい,(6 端末)*(位置 5 種類)*(未
スクを行わせた.また,キーワードタスクと実タスクは
知・既知の 2 種類)=60 個分の時間データを収集した.な
いずれのユーザもこの順で実施した.キーワードタス
お,ターゲットとは異なるリンクが選択された場合には
ク・実タスクのいずれも端末 1 種類分が終わるごとに,
そのことも記録した.
その端末に対する主観評価をアンケート回答により収集
した.このアンケートでは,「PC で探す場合に比べて,
実タスク
実タスクでは,ユーザの実際のタスクにおけるリンク
探索の容易さを比較することを目的とし,Web 上に実在
するページを用いた.ただし,ユーザの実際のタスクに
も,初見のページで情報を探す場合のほか,日常的に利
用している既知のページで情報を探す場合もある.そこ
で本研究では,実タスクをこの 2 種類に分けた.前者の
タスクでは国内の大学の Web ページ 6 種類を用い,「対
象の大学へ行く方法を調べる」という状況設定のもとで,
ターゲットリンクは示さず,目的の情報のページに遷移
すると思われるリンクを選択するように指示した.した
がって,本タスクではターゲットリンクのわかりやすさ
がリンク探索時間に影響を与える.上記タスクにおける
ターゲットリンクの位置がなるべく異なるような 6 つの
大学のページを探して用いた.時間の計測は,先のキー
ワードタスクの場合と同様に未知時間-既知時間の比較
を行うため,同じタスクを初見の状態およびターゲット
今使った端末で探す場合,どの程度探しやすい/にくい
と感じたか」を 7 段階で評価させるとともにその理由を
記入させた.
実験 1 回当たりの具体的な実施手順を以下に示す.な
お,実験 1 回で用いる 3 種類の端末を端末 1∼3 と表す.
1. 実験概要説明
2. PC を含まないグループの実験の際,ここで PC でのキーワー
ドタスクを数回実施. PC を含むグループの実験では,端
末 1=PC として 3 へ.
3. 端末 1 の操作練習(キーワードタスクの練習用ページを使用)
4. 端末 1 のキーワードタスクを位置 5 種類*2 回=10 回実施
5. 端末 1 の主観評価(PC の場合は省略)
6. 端末 2 で 3-5 を実施
7. 端末 3 で 3-5 を実施
8. 端末 1 の実タスク(既知ページ)を 1 回実施
9. 端末 1 の実タスク(未知ページ)を 2 回実施
10. 端末 1 の主観評価(PC の場合は省略)
11. 端末 2 で 8-10 を実施
12. 端末 3 で 8-10 を実施
リンクが既知な状態で行った.一方,後者のタスクでは
ユーザが所属する大学(テストユーザについては後述)
の Web ページを用い,同ページ上で特定の既知のリンク
を選択するよう指示し,その時間を計測した.
ユーザ 1 人につき,表 1の 6 端末のそれぞれを用いて,
未知ページでのタスクを未知・既知の 2 回ずつ,既知ペ
3.
データの分析
実験によって収集した時間データおよび主観評価デー
タを,以下の 3 つの観点から分析した.
(i) FB と PC との比較
ージでのタスクを 1 回づつ行ってもらい,(6 端末)*(未
PC の場合に比べて FB の場合にどのような傾向が見ら
知・既知の 2 種類)+ (6 端末)*(既知の 1 種類)=18 個分の時
れるかを分析することを目的とし,PC における値を基準
間データを収集した.ターゲットとは異なるリンクが選
として FB の値を分析した.この分析では 4 つの FB 間の
択された場合には,キーワードタスクの場合と同様にそ
違いにはあまり注目せず,4 種類間で共通的な PC との違
のことも記録した.
いの傾向に注目した.
2.3
テストユーザ
本実験に協力を得たユーザは 19∼23 歳(平均 20.5 歳)
(ii) リンクの位置の比較
FB の場合に探しやすい/探しにくいリンクの位置を
の大学生 12 名(著者らが所属する 2 大学よりそれぞれ 6
分析することを目的とし,ターゲットリンクの位置の違
名)である.携帯電話使用歴は 2∼9 年(平均 5.0 年)で
いによる差を分析した.
あり,FB 使用歴は 11 名がなく 1 名が 1 年であった.
2.4
実験の実施方法
疲労の影響が大きくならないように,6 種類の端末を 3
種類ずつ 2 グループに分け,ユーザ 1 人につき 2 日にわ
けて実施することで 1 回の実験を 1∼1.5 時間程度に抑え
(iii) 端末・FB 間の比較
画面内文字数や入力デバイスの端末間の差と時間・主
観評価との関係を調べることを目的とし,端末・FB 間で
時間・主観評価の比較を行った.
紙面の制約より本稿では上記分析の一部について記載
表2 キーワードタスクにおけるリンク選択時間
Table 2 Link Selection Time in Keyword Tasks
PC
KSU
(1)
DWC
(1)
KSU
(2)
DWC
(2)
PDA
9.8
8.2
84.6
15.7
21.3
6.2
4.6
45.5
48.5
44.3
14.0
20.9
27.6
23.3
(a)
23.6
110.0
1.7
2.0
1.6
3.2
2.4
37.2
35.9
34.7
59.1
1.6
5.7
1.7
2.4
2.4
1.9
16.5
96.7
5.9
5.9
12.8
13.5
7.9
20.4
1.6
8.4
54.2
23.8
20.6
6.2
22.6
166.8
12.4
5.2
17.9
10.7
11.6
3.3
14.8
20.3
13.0
59.3
8.4
する.まず,キーワードタスクにおけるリンク選択時間
14.8
6.3
39.6
37.9
8.1
3.7
31.2
14.3
51.3
44.4
5.7
8.6
5.8
54.0
43.1
6.0
2.1
5.9
33.2
36.2
13.3
7.8
7.5
4.2
9.1
1.7
17.3
14.4
22.9
26.3
9.7
16.6
50.8
63.5
69.9
22.8
15.0
(d)
24.4
8.9
15.3
18.8
16.1
11.3
35.6
14.7
7.8
(c)
25.6
70.2
19.3
3.1
2.1
2.3
58.1
27.8
30.8
(b)
34.9
10.4
8.7
12.3
8.4
4.4
10.3
(単位:sec)
・FB では中央や左下の値が大きい傾向が見られる.中央
を表 2に示す.本表は以下のデータを表している.
については,画面のどの端もページの端から離れた状
・(a)∼(d)は表 1の携帯電話(a)∼(d)を表す.
態となり,ページ全体でいま表示されている領域がわ
・(1)は未知時間-既知時間の値,(2)は既知時間の値であ
かりにくいためと考えられる.
る.
・KSU/DWC はそれぞれ,京都産業大学/同志社女子大
学のユーザ 6 人から得たデータのユーザ平均値である.
・KSU(1)∼DWC(2)の各行および PC∼携帯電話(d)の各列
につき,3*3 の行列がある.この行列は,2.2節内の「キ
ーワードタスク」で述べたターゲットリンクの位置の
区分に対応している.例えば,KSU(1)の行,PC の列に
示された 5 つの値のうち,左上の 9.8 は,ページの左
上領域にターゲットリンクを配置した場合の未知時間
-既知時間の平均値が 9.8sec であったことを表してい
る.
表 2から,(i)および(ii)に関して以下のことがわかる.
既知時間
・FB では右下や中央の値が大きい傾向が,また中央に関
しては,左上からの距離が類似する左下や右上よりも
値が大きい傾向が見られる.右下の値が大きい理由は
左上からの距離が最大のためターゲットリンクの位置
が既知であってもページスクロールやカーソル移動に
要する時間がより長くなるためと考えられる.一方,
ターゲットリンクの位置が既知にも関わらず中央の値
が左上・右下の値より大きい理由は,「未知時間-既知
時間」の最後の項目と同様,中央の領域を画面に表示
している時,ページ全体でいま表示されている領域が
わかりにくいためと考えられる.
未知時間-既知時間
次に,実タスク(未知ページ)におけるリンク選択時間
・ページ全体が画面内に収まる PC の場合は概ね左上か
と誤選択回数を表 3に示す.本表は以下のデータを表し
ら距離が大きくなるほど値も大きくなっているのに対
ている.
して,FB の場合はその関係が PC の場合ほど明確には
・KSU,DWC はそれぞれ,京都産業大学/同志社女子大
見られない.例えば,左上における値は小さい場合と
学のユーザ 6 人から得たデータである.
大きい場合に分かれている.これは,FB でターゲット
・P1∼P6 は 6 種類の未知ページを表している.
リンクが左上の場合,最初の画面にターゲットがある
・「PC」と「FB」の列は未知時間-既知時間の値であり,
ことに気づけば時間が短い(PC の場合よりも未知時間
特に「FB」は,4 種類の FB 間での平均値である.
-既知時間が小さい)が,見逃すとページ全体を探し回
・「誤」列の値は,FB でタスクを行った場合に,ターゲ
って左上へ復帰するまで見つからず,非常に遅くなる
ットリンクがわからず,異なるリンクが選択された回
ためである.
数を表している.PC の場合にはこのような誤選択はな
・右下が必ずしも最大値とはなっておらず,FB のほうが
PC よりも値が小さい場合もある.つまり,ターゲット
リンクが右下の場合,FB ではスクロールが必要となる
にも関わらず,PC より探しにくいとは言えない.
かった.
表 3から,(i)に関して以下のことがわかる.まず,誤選
択回数の結果より,PC の場合にはターゲットリンクが発
見されたページでも FB の場合には発見できず誤ったリ
ンクが選択されることがあったとわかる.次に,未知時
間-既知時間が KSU,DWC ともに PC より FB のほうが
大きいのは,ページ P3∼P6 である.P3 ではターゲット
リンクがページの中央付近にあり,前述のキーワードタ
スクの分析で示したのと同様の理由と考えられる.また
P5/P6 では,誤選択もそれぞれ 1 回/2 回発生している.
この理由は,これらのページが縦に長く,ターゲットリ
ンクが下端付近にあったためと考えられる.一方,P4 で
値が大きい原因としては,P4 におけるターゲットリンク
のアンカー文字列が本タスクにおいてはわかりにくいこ
とが考えられる.ユーザがターゲットリンクを発見して
もそのアンカー文字列がタスクに十分に合致していない
表3 実タスク(未知ページ)におけるリンク選択時間と
誤選択回数
Table 3 Link Selection Time and Selection Error Count in
Real and First-time Tasks
KSU
DWC
PC
FB 誤
PC
FB 誤
P1 17.4 5.3 0
4.0 5.4 0
P2 23.0 29.0 0 157.7 30.8 1
P3
4.4 26.7 0
11.3 20.4 0
P4 22.3 54.4 0
22.8 62.5 1
P5
6.7 12.9 1
14.9 51.3 0
P6
6.4 18.4 2
37.5 51.1 0
(単位:「PC」列と「FB」列は sec,「誤」列は回数)
場合,まだ閲覧していない他の領域により合致したリン
クが存在する可能性があると考え,全体を見渡すことに
なる.この問題は FB に限らず PC にも共通であるが,
PC に比べて FB では全体を見渡すのが容易でないため,
より長く時間がかかったものと考えられた.
最後に,4 種類の FB の順位表を表 4に示す.本表は以
下のデータを表している.
・(a)∼(d)は表 1の携帯電話(a)∼(d)を表す.
・(1)∼(7)はそれぞれ,
(1) キーワードタスク,未知時間-既知時間
(2) キーワードタスク,既知時間
(3) 実タスク,既知ページ
(4) 実タスク,未知ページ,未知時間-既知時間
(5) 実タスク,未知ページ,既知時間
(6) 主観評価,キーワードタスク
(7) 主観評価,実タスク
における順位である.ただし,(1)∼(7)のいずれにおい
ても端末ごとに求めた平均値に基づいて順位付けした.
表4 携帯電話フルブラウザ 4 種類の順位表
Table 4 Ranking of the Four Mobile Browsers
(a) (b) (c) (d)
(1)
3
2
1
3
(2)
4
3
1
2
4
1
3
2
K (3)
S (4)
1
2
4
3
U (5)
2
2
4
1
(6)
4
2
1
2
(7)
2
4
1
3
(1)
4
3
1
2
(2)
4
3
2
1
3
1
4
2
D (3)
W (4)
1
3
4
1
C (5)
3
1
2
3
(6)
4
3
2
1
(7)
3
2
4
1
平 均 3.0 2.3 2.4 1.9
(順位の値は 1 が最上位,4 が最下位)
・上側/下側の(1)∼(7)はそれぞれ,京都産業大学/同志
社女子大学のユーザ 6 人から得たデータに基づく順位
である.
PC の場合には発見できても FB の場合には発見できない
ことがあった.このことから,FB での閲覧を期待するペ
表 4から(iii)に関して以下のことがわかる.(a)∼(d)で用
ージは特に,ページ長を抑えること,および,リンク表
いた FB の画面内に表示可能な文字数は,(a)∼(d)の並び
現のタスクとの合致度(わかりやすさ)を十分に評価す
で降順となっている(表 1参照).したがって,仮に当該
ることが重要と考えられる.また,本実験における 3*3
文字数が大きいほど有利であれば,表 4において,より
分割の中央領域のようにどの画面端もページ端から離れ
左/右の端末の FB ほど順位が高く/低くなるはずであ
る領域は,リンクを探しにくいことがわかった.これに
る.しかし実際には,順位平均で(d)が最上位,(a)が最下
対しては,ページのレイアウトや背景色などのデザイン
位となっている.したがって,画面内に表示可能な文字
の工夫により,ページ全体における現在の表示領域がわ
数の大小が必ずしも順位の優劣につながっていないこと
かりやすくなるようにすることが考えられる.次に,本
がわかる.
実験における 3*3 分割の左上領域は,未知時間-既知時間
が小さい場合と大きい場合の両極端に分かれたが,PC よ
4.
考察
りもその値が小さい場合もあった.このことから,ペー
前章の分析結果をもとに,FB による閲覧時のユーザビ
ジの左上端点に近い領域は FB 閲覧時の利用を期待する
リティを向上させるための Web ページ設計時の注意事項
リンクおよび情報の配置場所として適するが,見落とさ
を考える.まず,縦に長いページの下端付近のリンクや
れた場合に備え,ページ先頭へのリンクをページ内に適
タスクに十分に合致しない(わかりにくい)リンクは,
宜配置することが望ましいと考えられる.
5.
まとめ
FB を用いた Web ページ閲覧時のユーザビリティを向
上させるためのページ設計時の注意事項を検討すること
を目的とし,FB におけるリンクの探しやすさをユーザ実
験によって評価した.データ分析の結果,リンクの探し
やすさは FB が PC より常に劣るわけではなく FB のほう
が上回る場合もあるが,長いページにある下端付近のリ
ンクや,表現がタスクに十分に合致しない(わかりにく
い)リンクは PC に比べて FB では特に探しにくく,PC
では発見できても FB では発見できないことがあること
などがわかった.またこれらの結論から,ページの長さ
やレイアウト,リンクの位置などに関して,FB での閲覧
を想定した Web ページを設計する際の注意事項が得られ
た.
今回の実験では 1 ページ内でのリンク探索をタスクと
したが,実際のタスクにおいては,ページ戻り操作を含
めた複数ページ間の遷移や文字列入力などが含まれる.
このような,実際の作業により近いタスクでの評価が課
題の 1 つである.また,今回は Web ページ設計上の注意
事項の考察を目的としたため,小画面上での Web 閲覧支
援のために FB が備える諸機能の有効性評価は行ってい
ない.このような評価も今後の課題である.
参考文献
[1] http://www.soumu.go.jp/s-news/2006/06
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[2] Jones, M., Marsden, G., Mohd-Nasir, N., Boone, K. and
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