株式会社ブンシジャパン - 一般財団法人 山口経済研究所

report 企業紹介
「困ったときのブンシジャパン」をス
ローガンに、目指すは食品業界の「メ
ーカーベンダー」
◎はじめに
食品関連業界では、人口減少・少子高齢化に
株式会社ブンシジャパン
伴う国内市場の縮小によって、企業間競争はま
すます激化する傾向にある。このところの原料
価格高騰も追い打ちをかけ、業界を取り巻く経
営環境は一層厳しいものとなっている。
さらに、2001年に起きたBSE(牛海綿状脳
症)問題や牛肉偽装事件などを契機として、消
費者の食に対する不安や不信感が増大し、安
全・安心な食品供給への欲求はかつてない高ま
りをみせる。厚生労働省の食中毒統計によると、
食中毒患者数は毎年およそ2万5,000人に上り、
保健所が把握していない患者数は500万人いる
という推定もある。いまやこの業界では、食の
藤村 周介 社長
( ふじむら・しゅうすけ )
●会社概要
安全性を確保することが生き残りの条件となっ
ているが、そのために新たなコストが発生し収
所 在 地:周南市清水二丁目 3-7
益の押し下げ要因となる。
年 商:2,480 百万円(平成 25 年2月期)
そうした業界の課題と積極的に向き合い、そ
設 立:昭和 57 年2月4日
資 本 金:22 百万円
こに商機を見出そうとしているのが本稿で紹介
従 業 員:97 名
する食品容器包装資材卸売業の㈱ブンシジャパ
事業内容:食品容器包装の販売、食品衛生に関
ン(周南市)である。単なる卸売業から脱皮し、
するコンサルティング、害虫駆除、
食品衛生機器の開発・販売、デザイ
食品関連の「メーカーベンダー」へと事業構造
ン全般
の転換を図る同社の挑戦をレポートする。
営 業 所:周南、下関、阿知須、広島、福岡、
東京
U R L:http://www.bunshi.co.jp
同社は昭和32年、現社長の実父が都濃郡南陽
●会社沿革
町(現周南市)で卸を兼ねた文房具店を創業し
昭和32年2月 創業(文具卸売り開始)
昭和38年
◎文房具店から包装資材卸売業へ
包装資材卸売り事業開始
昭和57年2月 ㈱山口文紙設立(資本金10百万円)
昭和62年3月 海外取引開始 台湾
昭和63年6月 中国大連からの輸入を開始
たことに始まる。しかし大手文具メーカーとの
取引は厳しい条件も多く、思うような事業展開
はできなかった。そんな折、東京出張時にたま
たま目にしたスーパーマーケットがヒントに
平成 7 年9月 ㈱ブンシジャパンへ社名変更
なって、昭和38年、食品スーパー向けの買物袋
平成14年4月 ISO9001認証取得
や食品容器の取り扱いを開始する。当時、山口
平成16年2月 中国青島に事務所開設
県でもスーパーが相次いでオープンしており、
平成25年2月 公益財団法人やまぎん地域企業助成基
同社は食品包装資材卸売業として県内全域に営
金の助成企業に選定
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やまぐち経済月報2013.7
業を拡大していった。それ以後は一貫して、食
品包装資材の企画、開発、製造、販売をコアの
◎スローガンは
「困ったときのブンシジャパン」
事業としている。
同社のスローガンは「困ったときのブンシジ
現社長の藤村周介氏は、経理専門学校を卒業
ャパン」である。「困っていること」といっても、
後、大阪で就職するつもりだった。ところが、
その本質はなかなか分かるものではない。顧客
法人化による㈱山口文紙設立の昭和57年、姉の
から直接話を聞いて悩みに耳を傾け、一緒に解
結婚で経理担当が不在になるとの理由により、
決策を考えていかないと、真のニーズはつかめ
父親から半ば強制的に呼び戻され家業に従事す
ない。社員には、ヒヤリングを徹底して「困っ
る。20歳の時だった。下関営業所で営業と配送
ていること」の本質を探り出すことを指導して
を経験した後、本社で経理と在庫管理を担当。
いる。こうした取り組みが、やがて自社製品の
特に、
入社直後から訓練させられた資金繰りは、
企画開発へと繋がっていった。
その後の会社経営を大いに助けることとなる。
同社は、食品事業者に対してより高度な衛生
藤村氏が29歳になった年に、
父親が急逝する。
管理が要求されていることに、いち早く注目し
ちょうどこの時期には、阿知須営業所開設用の
た。食品事業者の間では、衛生管理への対応が
土地代金支払いに多額の自己資金を投入してお
悩みの種になっている。多額の投資を行えばカ
り、運転資金の不足が懸念されていた。新社長
バーできるかもしれないが、利益面などを考え
の若さを危惧して会社の存続を危ぶむ金融機関
ると容易ではない。逆にいえば、リーズナブル
もあったが、資金繰りを熟知していたことが事
な価格で顧客の衛生管理と利益を両立させるこ
業継続の命綱となった。金融機関に対して資金
とが大きなビジネスチャンスとなる。これらの
計画をきちんと説明し、納得してもらったうえ
条件をクリアーして生まれたのが、ベルト除菌
で、すべての顧客に死に物狂いで営業をかけ、
クリーニング装置「アンベル」とLED搭載拡
経常利益を確保していく。そして平成7年、
「ヤ
大ルーペ装置「バイルック」である。
マグチ(山口)
」から「ジャパン」
、即ち全国へ
と打って出るため、
社名を
「株式会社ブンシジャ
パン」に変更した。
▲ベルト除菌クリーニング装置「アンベル」
やまぐち経済月報2013.7
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◎顧客の「困った」から生まれたオリジナル
コンベアでの作業を行いながら清掃できるの
ブランド製品
で品目の切替えロスがなく、生産性向上により
食品工場では、食品搬送用コンベアのベルト
顧客の利益に大きく貢献する。また、当初は1
清掃を行う際、製造品目が替わるごとにライン
時間あたり300円のランニングコストを要して
を一時停止してアルコール除菌をしている。作
いたが、95円にまで改善。価格については、ス
業者により清掃のレベルに個人差が出るうえ、
テンレス加工を国内から韓国にシフトすること
大変な手間と時間がかかり困っている、という
で、当初の半額となる250万円を実現した。大
声を聞いた。このとき、藤村社長はこんな装置
手コンビニの食品加工工場などで採用され、全
を作ったら面白いというイメージがすぐに浮か
国に向けて販売を展開している。
んだという。しかし、マーケットがなければ意
もう一つの有力製品がLED搭載拡大ルーペ
味がない。十分な市場調査を行い、何度も改良
装置「バイルック」である。食品工場では異物
を重ねた末に完成したのが、ベルト除菌クリー
混入発見のために様々な検査機器を使用する
ニング装置「アンベル」である。
が、異物を完全に取り除くことは困難である。
「アンベル」は、ラインを止めることなく自
そのため、最終的には人間の視力に頼る目視検
動でコンベアベルトの残渣・汚れの除去、除菌
査が実施されている。その際に良く見えて使い
を行い、
一般細菌や大腸菌を99.9%除去可能(日
勝手のよい補助器具があれば助かる、という顧
本食品分析センター調べ)
とした画期的な装置。
客の声が開発のきっかけとなった。こちらも改
コンベアに食品類を流したまま、裏側に回って
良を重ねることでリーズナブルな価格を実現し
きたベルト面に向けて、専用開発したアルコー
ている。
ル除菌剤「ベルウオッシュ」を専用噴霧ノズル
直径300mmの大型レンズに国産LED48基
で噴射。スクレーパー1により、残渣・汚れを
を搭載。360度全方向から照らすことにより無
落とし、専用ファイバー不織布
「ベルワイパー」
影状態をつくり、隅々まで良く見える。さらに、
でベルト幅全体を均一に拭き取る。
レンズの周辺がゆがまないよう8角形レンズと
しており、跳ね上げも可能。アームも自由に動
かせる。異物発見の精度を上げることは、すな
わち食の安全の確保に繋がる。また、手元作業
▲FOOMAJAPAN(国際食品工業展)での展示風景
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物質の外面に付着しているものを削ったり、こそげとる
器具のこと。
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▲LED搭載拡大ルーペ装置「バイルック」
全般に使用可能なため、食品の目視検査だけで
強みを真の強みに進化させることである。1つ
なく、精密作業や部品検査、書籍閲覧、手芸な
は、自社製品開発の強化。次に、顧客の商品開
ど様々な用途に適しており、幅広い分野で利用
発にも寄与するデザイン営業の強化。3つ目が、
されている。
フードサニテーション事業(食品の衛生管理)
の強化。共通するのは、エンドユーザーの喜ぶ
◎目指すはメーカーベンダー
製品とサービスを提供していくことである。
本業の食品包装資材については、新規顧客の
獲得に多大なエネルギーをつぎ込んできた。と
◎おわりに
ころが、ユーザーとなる業界の経営環境が厳し
包装資材は、商品の保護だけでなく、購買意
いこともあり、顧客をいくら開拓しても追いつ
欲を高める役割も担っており、様々な商品にと
かない状況が昨年、
一昨年と顕著になってきた。
って必要不可欠な資材として位置付けられてい
人口減少が進む中、この傾向はますます加速す
る。しかしながら、県外資本の流入による競争
ると考えた藤村社長は、人口統計や店舗統計の
激化や市場縮小など、事業環境は大きく変化し
データを駆使したうえで、いまこそ生まれ変わ
ている。企業自身も生まれ変わる時期だと判断
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した同社は、
「メーカーベンダー」への変貌を
る時期に来たと判断。そこで、SWOT分析
を実施し、
今後の事業戦略を明確に打ち出した。
見据える。
同社が目指そうとしているのは、製造、販売
藤村氏の社長歴は既に22年になる。とはいえ、
まですべて自社で手掛ける食品機器メーカーで
まだまだ51歳。バイタリティに溢れた行動力が
ある。顧客の「困っていること」を解決する製
垣間見える。その行動力は、がむしゃらに突き
品を開発し、附属品や消耗品を自社加工するこ
進むのではなく、統計データや各種の調査分析
とで、顧客と近い距離を保ち継続的な取引を維
に裏付けられたものである。
「困ったときのブ
持する。いわば「メーカーベンダー」として生
ンシジャパン」を原点にアイデアを絞り出し、
まれ変わるというのが藤村社長の意図する同社
「困ったこと」を本質的に解決できる新製品が
の将来像である。前向きでポジティブな危機感
これからも登場することを心待ちにしたい。
を持って、自社の製品をハイスピードで強力に
(松本 敏明)
開発、製造、販売していくことを宣言している。
◎3つの強みを真の強みへと進化
藤村社長は、会社の継続的な発展と社員、そ
してその家族の幸せを実現するため、いかなる
時代環境においても利益の出せる仕組みを確立
し、企業価値、市場価値を高めていくことを決
意した。その原点は、「困ったときのブンシジ
ャパン」であり、具体的に掲げたのが、3つの
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企業を内部環境(強み・弱み)と外部環境(機会・脅威)
に分けて評価、分析する手法のこと。
▲㈱ブンシジャパン本社全景
やまぐち経済月報2013.7
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